フォートレスフリーダム、TLT日本支部の本部であるそこは首都圏から離れたとある山中のダム湖の湖底に建造されたそこは10年前より対ビースト特殊部隊でありナイトレイダーの本拠地である。そこに大紀は訪れていたのだ。
「ここか。」
ぱっと見は完全にダムであるフォートレスフリーダムを見ている大紀。手土産を片手に入り口を探す。そこにナイトレイダーの制服を着た鈴音が姿を見せた。
「時間通りね。その手のは?」
「粗品、一応奢ってもらった礼。」
大紀はそう言って右手に持っている袋を掲げる。
「それじゃあ、私についてきて。」
鈴音の後を追ってフォートレスフリーダムの内部へと入る大紀。内部は10年の月日を感じさせない程度には管理が行き届いていた。
「あのさ、軽く来たもんだけど大丈夫なの?俺、民間人だし。」
「隊長と副隊長がぜひって言っているのよ。それと他にもあって欲しい人たちがいるみたいよ。」
案内される中で大紀はその人物が誰なのかを考える。
ビキ、ビキ、ビシッ!ビキビキビキビキッ!
「ああ!!あああああああああああ!!」
東京都八王子市にあるボロアパート。そこの一室に居る青年は床に伏せて痛みに悶えていた。さらに、彼の体は常に筋肉があらぬ方向に蠢き、その下にある骨すらも元ある形状が大きく逸脱しようとしていたのだった。部屋中に響き渡る音は肉体がその主の意思を無視して変貌しようとしている音だったのだ。
「グウウウ!ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
痛みによる叫びは人とは思えない獣そのものの咆哮へと変わった。途中からその叫びはプツリと途切れ当たりに静寂が満ちていった。
ナイトレイダーのブリーフィングルームへと案内された大紀。そこには以前に出会った孤門と凪に加えて、イラストレーターこと吉良沢、そして現在はTLT日本支部の管理官になっているナイトレイダーの元隊長の和倉がいた。
「鳳隊員、案内ご苦労。剣崎君と共に座ってくれ。」
和倉がそう言うと鈴音は近くの椅子に座った。大紀もすすめられるままに椅子に座った。
「既に剣崎君はナイトレイダー隊長の孤門と副隊長の西条のことは知っているな。」
「ええ、はい。以前に食事をごちそうしてもらって。」
「そうか。私はTLT日本支部の管理官をしている和倉だ。私自身、かつてはナイトレイダーの隊長をしていた。孤門と西条はかつての部下だ。」
和倉の言葉に大紀はそこではっとした表情となる。
「もしかして、10年前の新宿の時の隊長ですか?その後のビースト襲撃で孤門さんたちと一緒に居た。」
「あの場に居た少年だったか。その様子を見ると平和に過ごしていただろう。」
「最近はそうは言えませんが。あの時は助けてくださってありがとうございます。」
大紀はそこで頭を下げようとするがそれを和倉が止めた。
「いや、頭を下げなくて良い。我々は当然のことをしただけだ。そして、そこにいる彼も我々の仲間だ。」
「ナイトレイダーの作戦参謀をしている吉良沢です。よろしく、剣崎君。」
「ああ、はい。」
吉良沢に会釈する大紀。そこで全員の自己紹介が終わり、和倉が口を開いた。
「剣崎大紀君。新たな適応者である君にこれまでのビーストの動きとTLTの変遷、過去にウルトラマンとなった適応者たちについて話そう。」
その言葉に大紀の求める答えのヒントになり得るものがあることを感じていた。
今から10年前に暗黒破壊神ダーグザキが新宿を襲い、それを銀色の巨人ウルトラマンネクサスが立ち向かった。
「あの時のウルトラマンが孤門さん!?」
「隊長がウルトラマンだったんですか!?」
その話を聞いた大紀と鈴音はひどく驚いた。二人は当時、新宿で起きた事件のことは知っていたがその詳細を初めて知ったのだ。それもかつてのウルトラマンが目の前に居たのだ。大紀にとっては過去に助けてもらった恩人が先代の適応者だったのだ。驚かない方が無理だろう。
「孤門隊長の前、正確にはあの時ダークザギが新宿を襲う直前までは私が適応者だったわ。」
「副隊長もですか!?」
続く凪の言葉に鈴音が大きな声を出して驚く。
「西条副隊長の前は私の幼馴染みの千樹憐がウルトラマンになっていた。コードネーム・イズマエルというビーストを撃破したのは彼だ。」
吉良沢の言葉に最早言葉を失う大紀と鈴音。ここに孤門も新たな情報を出した。
「憐の前の適応者とは僕も親しくて。」
「ああ、いや。はあ、世間って狭いなぁ。ああ、待ってください。俺の前のウルトラマンって何人いるんですか?」
ここまでの話を聞いて大紀が和倉に問い掛ける。
「我々が把握している過去の適応者は姫矢准、千樹憐、副隊長の西条と隊長の孤門の4人だ。そして現在までに確認されたのは剣崎大紀君の5名だ。」
和倉は隠したりせずに大紀に正直に答えた。
「5名って結構いるんですね。」
鈴音のその言葉に大紀も同意する。そう、20年近く間に5人ものウルトラマンが居た。この事実に大紀も鈴音も安心よりもある不安がよぎる。
「俺を含めて5人、それだけずっとビーストたちがいるってことですよね。」
「一概には言えない。だが、それは日本支部上層部も同意見だ。」
20年近くの間、光の巨人が居るということはそれだけ激しい戦いが続ていたということである。そして、20年近くという短い期間に5人の適応者ということはそれだけ激しい戦いが続いていたということを示唆していた。
「僕が初めて出会った適応者、姫矢さんは既にその肉体が限界に近づいていた。」
「姫矢准の次に適応者となった千樹憐は私の古い友人で彼は激しい戦闘に加えて肉体に問題を抱えていた。適応者は変身した後のダメージを負い、それが徐々に蓄積されていく。今の君もその危険性が高い。」
孤門と吉良沢の言葉に大紀は以前の戦いで攻撃を受けた場所を不意に抑える。
「我々、ナイトレイダーもウルトラマンである君に全てを背負わせるつもりはない。君がどうあろうと我々は君を全力でサポートしよう。」
和倉の言葉に大紀は一瞬怪訝そうに表情をしかめたがこの場に居る全員が自分にとっての味方であるということは彼らの話でよく分かった。
「気持は本当にありがたいです。でも、俺自身はそこまで高尚な正義感なんて無いですし。この力の意味も全く分からなくて。」
「それは僕が初めて出会った適応者の姫矢さんも同じだった。でも、それでも彼は戦った。君も同じだろう?」
大紀の言葉に今度は孤門が問い掛けた。その言葉に即座に答えるということはしなかったがここまでの戦いを振り返って大紀はただ頷いた。
「君が最終的に我々の申し出を受けるかはこれから話すことを聞いて決めてくれ。勿論、鳳隊員と相談して良い。鳳隊員も入隊を進めてもいい。だが、君が勧めないなら我々も強引に勧めることは一切しない。」
「はい。」
和倉がそう話すと鈴音も答えた。そして、和倉は深く深呼吸をして話し始めた。
「私がまだナイトレイダーの隊長をしていた頃からだ。それまでの情報隠蔽措置などからTLT全体への非難が高まりだした。その当時には孤門が入隊したころと比べてビーストの出現も穏やかになりだしていた。それもあってかビースト被害者遺族からの訴訟が始まった。当然だが全てのビースト被害者がそれをしたわけではない。一部の利潤を狙った者達が正義とうたって被害者の一部を抱き込んだのだ。TLTは全世界に支部があり、その頃には国連の管理下にあった。国連の管理する組織でそのような訴訟が始まったことで国連からの監査も頻繁に入るようになっていた。さらには各国でもTLTを管理下に置こうという動きもあった。近年でのワイドショーなどの報道はそれが大きな要因の一つだ。ビーストの出現が穏やかになればこれまでに配備されていた様々な装備も廃棄せざるを得なかった。日本支部では活動資金の大幅な減少と装備の破棄で終わったが外国ではTLTから接収した技術を用いて兵器を製造しているという始末になってしまった。
今から5年前にTLT日本支部への訴訟は終わった。その為に今年まではここ、フォートレスフリーダムを稼働させることも出来なかった。だが、今年から奇妙な動きがみられだした。最初はTLTの北米本部だった。アメリカ合衆国ウィスコンシン州にあるン・ガイの森にこれまでに存在が確認されたことのない新種のビーストが出現した。そのビーストは北米のナイトレイダーが対処したのだが有効なダメージを与えることは出来ずに消失、行方が分からなくなった。その頃から日本にも新種のビーストが出現し始めた。最初は北海道、自衛隊の駐屯地の付近に出現したブルートタイプに分類されたウルズス、四国近辺に出現したクラスシティアンタイプに分類されたカルギニオン、長野県で確認されたアウェスタイプに分類されたエンピードがその時に確認されたビーストたちだ。この3体はナイトレイダーの機能も停止していた時期に出現し、自衛隊が対処したが初動の遅さもあって多数の被害者を出してしまった。その後から、私は関係各所から協力を求めてナイトレイダーの復活をするべきと提言した。当然だが、ここまでの情勢で難色を示す幹部がほとんどだった。だが、私の一存で行うことを条件で機能が凍結していたフォートレスフリーダムと現存していたチェスターシリーズのα機からδ機の再開を決定した。それから私は孤門と凪にナイトレイダーの再結成を任せた。」
和倉の説明通り、この10年の間でTLTは大幅な弱体化をしていた。現在は頻出期に比べるとビーストの出現は穏やかではあるがこれまでのビースト以上の知性と凶暴性、攻撃性を有していることが多くなっている。それ故に以前のTLTに戻る必要があると思われた。だが、
「だが、私は以前のTLTに戻る必要はないと考えている。人命を優先する以上は未然に被害を防ぐことが重要だ。そのために戦力も設備も必要だ。それ以上に善戦で戦う人間も必要だ。この10年の間で本当の意味で職務に専念しようとする者は少なくなってしまっていた。だからこそ、孤門と凪に任せた。そして、二人が受け継いだ光を、それを受け継いだ君が現れた。それはきっと我々の戦いに意味がある問うことなんだ。今すぐにとは言わない、君が決心したときに改めて連絡してくれ。」
そう和倉は言った。その後はそのまま大紀は鈴音に連れられフォートレスフリーダムを後にした。
ブルートタイプビースト ウルズス
クマにビースト細胞が憑依したことで誕生したビースト。北海道にある自衛隊駐屯地付近の山林で確認された。北海道に生息する日本最大級の肉食獣であるヒグマがビースト化したもの。元々のヒグマに備わっていた腕力などが強化され、その体躯も通常のヒグマよりもはるかに大型化している。自衛隊の駐屯地に複数体が襲撃、多数の死傷者を出した。その場に居た一人の自衛官が上官の命令を無視して重火器を使用したことで何とか撃退したと記録に残されている。
クラスシティアンタイプビースト ガルギニオン
ヤドカリなどの海藻や貝殻を甲殻に付着させる甲殻類がビースト化した。人間を捕食する際に自動車や自転車などの乗り物に乗っている人間を優先して捕食する性質がある。そうやって取り込んだ金属を自身の甲殻を生成するために使用している。そのために過去に出現した同タイプのビースト、グランテラ以上の防御力を持つ。こちらは四国の海岸部に出現、多数の被害を出して上陸し、自衛隊がトラックに搭載した爆弾を食わせることで何とか撃退した。
アウェスタイプビースト エンピード
燕がビースト化した存在。超高速で飛行するビーストであり、その飛行能力を生かして捕食を行う。長野県で原因不明の行方不明者が続出した中で警察が捜査をする中で確認された。捜査に関わっていた警察を含めて20人以上を捕食。自衛隊の戦闘機が出動するもののこれらを撃墜させさらに犠牲者を出した。その後、自衛隊からTLT日本支部へ協力が依頼され、まだナイトレイダーを再結成する前の孤門と凪がクロムチェスターδ機で撃墜した。
今回、和倉元隊長の話に出てきたビーストは普段からもやり取りをさせていただいている銀色の怪獣さんからアイデアを頂いたものです。今回登場したガルギニオンとエンピードは銀色の怪獣さんの小説「巨影都市オブ・ジ・エンド」のエピソードで登場しています。そちらの方が詳しい情報を載っていますので是非お読みください。
銀色の怪獣さん、以前に頂いたアイデアを使わせていただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
また、ビーストのアイデアは随時受け付けています。それではよろしくお願いいたします。