BIO HAZARD -Queen Leech-   作:ちゅーに菌

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 洋館の謎解きを小説にしても全く面白くないくせに複雑怪奇だったので、アンブレラクロニクル並みかそれ以上のダイジェストになりますが、ご了承ください。






洋館事件 前

 

 

 

「ゾンビだらけで本当に嫌な場所ね……ヤになっちゃうわ」

 

 ラクーンシティに近いアークレイ山中に佇む洋館。昼間でも暗い森の中に建つ館内を探索しながらS.T.A.R.S.のアルファチームの隊員の女性――ジル・バレンタインは溜め息混じりにそんなことを呟いた。

 

「ジル、気を緩めるな……ゾンビや犬だけとも限らない」

 

「わかってるわよ。いい加減、シャワーでも浴びたい気分だわ」

 

「さっき、バスタブで入浴していたゾンビならいたな」

 

「止めてよ。思い出して気分悪くなるじゃない……」

 

 そんなジルに返答しつつも、ブラックジョークを飛ばすのは、ジルと同くS.T.A.R.S.のアルファチームの隊員の男性――クリス・レッドフィールドである。

 

 二人は互いに互いをカバーし合いながら、確実な足取りでこのゾンビが溢れる古びた洋館の中を探索していた。

 

 S.T.A.R.S.(スターズ)とは"Special Tactics and Rescue Service"の略であり、ラクーン市警(R.P.D)の管轄下にある特殊戦術及び救助を目的とする特殊部隊である。ラクーンシティそのものを作ったと言っても過言ではない"製薬企業アンブレラ"の援助を受け、ラクーンシティで発足した"明るいラクーン21計画"の一環として、1996年にラクーン市警察内部に創設された精鋭部隊だ。

 

 メンバーは、毎年増加傾向にある都市型テロ、多様化する組織犯罪、数々の緊急事態などに即時対応できるエリート集団として、軍や民間を問わずスカウトで集められたスペシャリストだけで構成されている。

 

 そして、今回のS.T.A.R.S.の任務は、アークレイ山地で頻発していた猟奇殺人事件の捜査にブラヴォーチームが投入された。

 

 S.T.A.R.S.は6人編成で2チームあり、先に投入されたブラヴォーチームは隊長のエンリコ・マリーニ。隊員のケネス・J・サリバン、リチャード・エイケン、フォレスト・スパイヤー、エドワード・デューイ、レベッカ・チェンバースの6人だったが、その捜査中に音信不通となったブラヴォーチームを捜索するために投入された6人編成のチームがアルファチームである。

 

 アルファチームの隊長はアルバート・ウェスカー。そして、隊員はクリス・レッドフィールド、バリー・バートン、ジョセフ・フロスト、ジル・バレンタイン、ブラッド・ヴィッカーズの6名。

 

 しかし、ブラヴォーチームの捜索に来たアルファチームが洋館の近くにヘリコプターで着陸したところ、ゾンビ犬と形容できる存在の襲撃により、隊長のウェスカーの指示で命辛々、洋館に逃げ込んだため、既に部隊としては機能していないであろう。ジルとクリスが2人共館に入ることが出来たのは奇跡と言えるだろう。

 

 S.T.A.R.S.全体で見ると、フォレスト・スパイヤー、ケネス・J・サリバン、ジョセフ・フロストの3名は既に死亡を確認している。また、エンリコ・マリーニ、アルバート・ウェスカー、バリー・バートン、リチャード・エイケン、エドワード・デューイ、レベッカ・チェンバースの6名は行方不明だ。

 

 残るブラッド・ヴィッカーズは今も無線で生存者が居るかどうか定期的に呼び掛けながら上空をヘリコプターでホバリングを続けているが、クリスが唯一持つ無線は壊れており、音声の受信しか出来ないため、ブラッドの焦りと悲痛さが伝わるばかりである。

 

「――――リチャード!」

 

「ジル、クリス! よかった、生きていたのか!」

 

「あなたたちは?」

 

「ああ、アルファチームのクリスだ」

 

 そして、洋館の2階にある図書館にジルとクリスが入ると、そこには行方不明だったリチャード・エイケン、レベッカ・チェンバースの姿があった。

 

 リチャードはカスタムショットガンを持っている青年である。ジルとクリスのようにレベッカとコンビになっていたようだ。

 

「そのだな……」

 

「はい?」

 

 クリスはやや困惑したような表情でレベッカの装備を見る。

 

 レベッカは18歳という若さで大学を卒業してS.T.A.R.S.に入り、つい2日前までは覚束ない新米という様子だった彼女であったが、何故か大きめのリュックサックを前面に背負っていた。

 

 そして、S.T.A.R.S.では支給されていないサブマシンガンを構え、腰の右にはカスタムハンドガンが収まったホルスターを装備し、左にはマグナムが収まったホルスターを装備している。更に予備か生存者に渡すためか、背中には3丁のサブマシンガンをスタックしており、あえて開けられている様子のリュックサックスの口からは、リュックサックが膨らみ切るほど大量の黒々としたサブマシンガンの弾倉がチラチラと顔を覗かせている。

 

「ああ、これはアンブレラ幹部養成所で拾ったものです。どうぞ」

 

 そう言うとレベッカはサブマシンガンを一丁ずつクリスとジルに渡し、リュックサックから幾つか弾倉も取り出して渡す。

 

「それから、全てをお話します――」

 

 そして、レベッカはクリスとジルにブラヴォーチームが降下してから、自身がこれまで経験した全てのことを話した。

 

 エドワード・デューイは黄道列車で死んだこと。アンブレラ幹部養成所でのこと。ジャクリーン・マーカスという怪物と日記に記載されていたアンブレラの実態のこと。

 

 そして、アルファチームの隊長であるアルバート・ウェスカーが、アンブレラの闇に深く関わる人物だということが何よりもの衝撃であろう。

 

「ウェスカー隊長がそんな……本当にそのジャクリーンっていう怪物が正しいの?」

 

「自分以外が読まない日記に嘘を書く意味もないですよ」

 

 また、この洋館にS.T.A.R.S.が投入される前に、ジャクリーンはB.O.W.の戦闘データの回収をしようとすることをアンブレラが考えていること。その場合、自らの私設部隊よりも外部の別組織を利用してデータを収集出来た方が被害が少ない上、B.O.W.との戦闘経験のない者によるデータが取れると日記に書いており、レベッカ自身も読んだときに非常に驚いたことも伝えた。

 

「S.T.A.R.S.はそもそもがアンブレラの出資で出来た部隊だったな……まさか、最初からこのために……?」

 

「俺たちはモルモットだったってことかよっ!」

 

「ねぇ、何かしらこれ?」

 

 ひとまずの情報共有を終えたところで、ジルが図書室の隅にポツンと置かれていた小さめのジェラルミンケースのようなものを見つけて持ってくる。

 

 これまで武器や弾薬を洋館内での現地調達で済ませていた彼らは、少しだけ警戒しつつもそれを開く。

 

 そして、開けたジェラルミンケースの中には――何故か可愛らしいプラスチックの包装紙に包まれたキャンディが沢山詰まっており、1枚の手紙が折り畳まれて入っている。

 

「この字は……ジャクリーンの字です!」

 

 手紙を見たレベッカが真っ先に声を上げたため、全員は手紙の内容に目を通した。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 やあ、これを読んでいるであろう自覚あるいは無自覚のアンブレラの尖兵諸君。まずは手短に挨拶をしておこう。

 

 固い前口上は抜きにして、この箱を開けることが出来たということは、館の内部まで探索できたということだろう。結構結構、それだけでも優秀なようで何よりだ。

 

 しかし、B級映画からそのまま飛び出してきたようなゾンビ共や、知能の低い二次感染の個体との戦闘も飽きていた頃ではないか?

 

 私が起きたときに父が設計したプレイグクローラーが、あちらの施設とその周辺で大量発生していたため、良かれと思い、少し調整した個体をほんの"80体"ほど、前もってこの屋敷に休眠状態で置いておくことにした。そして、休眠状態のプレイグクローラーの起動スイッチは"この手紙が入っていた箱を開ける"ことだ。故に返品は出来ない。

 

 惰眠を貪り、腹を空かせたプレイグクローラーが新鮮な食事に我先にと殺到し、君らへ新たな刺激を与えることは間違いない。失敗作とはいえ、是非とも少しばかり、B.O.W.の片鱗を味わってくれたまえよ。

 

 それから、話によれば今年は太平洋を挟んだ日本では寅年なるものらしい。それにちなんで虎のようなモノを君らに残しておくことにした。とは言え、流石にラクーンシティ動物園まで行くわけにも行かず、そもそもあそこにいるのはライオンだ。

 

 という訳で別のトラを用意することにした。君らはトラカミキリという昆虫を知っているだろうか? 体長15~25mm。日本全国、中国、朝鮮半島、台湾、ロシアの一部などに棲息しているカミキリムシだ。特徴としては、蜂に擬態した姿だろう。一見するとスズメバチとカミキリムシを合わせたような奇妙な姿に驚く筈だ。

 

 散歩をしていると洋館の木材置き場にあった輸入木材にくっついて密入国しているトラカミキリを見つけたので、アメリカの国家企業たるアンブレラ流のおもてなしを存分にしておいた。"ダンプリングタイガー"と名付けたそれは、知能の欠片もない失敗作だが、戦闘力と生命力だけならば、タイラントに勝るとも劣らず、中々に愛嬌のあるB.O.W.に仕上がったと私は思っている。とっくりと楽しんでくれたまえ。

 

P.S.

 これと同じ機能を持った箱が屋敷の各所に置いてある。ブレイグクローラーの解放は1回目だけのため、最早ただのお菓子箱だ。これはキャンディ入りだが、他の箱にはそれ以外におやつになりそうなものを詰めているので糖分の補給にでも使ってくれ。ただの食べ物なので感染などは気にしなくていい。私の手作りだぞ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「………………なによ、このアンブレラに対する皮肉と悪意に満ちた手紙は?」

 

 ジルは怪訝な表情を浮かべて手紙から顔を上げる。他の面々も何とも言えない表情をしていた。その上、箱に詰まっているキャンディはこれを書いた者の手作りらしい。

 

「やっぱりジャクリーンが書いたものです……」

 

「レベッカが言っていた――アンブレラの創設者のひとりのジェームズ・マーカスの記憶と思考を持ったアンブレラに復讐を誓っている怪物の研究者で、1体で30人の武装したアンブレラの特殊部隊を壊滅させて、喋る人型のヒルのことか……眉唾物過ぎてまだ信じれないな……」

 

 いざ言葉にしてみるとより凄まじいとでも言いたげな様子のリチャードであったが、それ以上なにか言うこともレベッカを疑うこともない。

 

「プレイグクローラーというのは?」

 

「両手が大きな鎌になっている2mぐらいの虫です。マーカス博士が最初期に作った生物兵器だそうですね。燃やすか頭を狙ってください」

 

「そ、そんなものが80体もこの屋敷にいるの!? それにこの箱を開けたことが起動スイッチになるって――」

 

 そこまでジルが言ったところで、洋館全体が少しだけ揺れる。それと共にどこかで激しい爆発音が響き渡り、それをここにいる全員が耳にした。

 

「どうやら……相当アグレッシブな奴みたいだな。ジャクリーンという奴は!」

 

 そして、クリスが叫ぶと共に図書館の入り口の扉が激しく音を立てて破壊され、破片が彼らの足元まで飛ぶ。

 

 そして、扉の前に立っていたのは、すがたかたちが人間とは似ても似つかない異形の怪物であった。

 

「な、なにアレ……?」

 

「特徴からすると……あの化け物が"ダンプリングタイガー"って奴のようだな」

 

 それは3m程の巨体をして2足歩行で歩くスズメバチのような黄色と黒の(まだら)模様をした何かであった。蜂にしては妙に長い触角と、歩行に使う2本の脚以外の4本の腕がカマキリの鎌状になっていることが特徴であろう。

 

 何故か1本の腕の根本に可愛らしいピンク色のリボンが巻かれているが、それでこの凶悪過ぎる見た目の怪物が、可愛く見える訳もなく、むしろ不気味さを際立てていた。

 

 更に怪物は、体に纏わせるように周囲にワスプが張り付くか、飛び回るかしており、蜂のような巨大な怪物に大量の蜂が取り付く様は極めて異様である。

 

『――――――――!!』

 

 怪物――ダンプリングタイガーは金切り声のような人間のそれではない咆哮を上げると、一歩一歩踏み締めて彼らに向かって歩いてくる。

 

 それに真っ先に反応したのはレベッカであった。

 

「やぁっ!」

 

『――――――』

 

 レベッカが投げつけた火炎瓶により火だるまに変わるダンプリングタイガー。明らかに炎が全身に灯っているが、然程ダメージを受けているようには見えず、こちらに向かう足も止まっていない。

 

 しかし、周囲にいたワスプはほぼ全て燃え尽き、ダンプリングタイガーの剥き出しの外観が露になった。

 

「なら――!」

 

 更にレベッカがダンプリングタイガーに向けてサブマシンガンを放つ。それに続いて、クリスとジルもサブマシンガンを放ち、リチャードもカスタムショットガンで攻撃を仕掛ける。

 

「おいおい……マジかよ!?」

 

 しかし、リチャードは悲鳴に近い声を上げる。何せ、4人全員の銃弾はダンプリングタイガーに命中し、体から体液を所々から溢れさせているが、異常に外骨格が硬いのか余りダメージになっていないように見えたからだ。

 

「これならどう!?」

 

『――――――!?』

 

 するとレベッカはサブマシンガンで攻撃を止め、腰のホルスターからマグナムを抜き出す。それで的確にダンプリングタイガーの頭を撃ち抜いた。

 

 ダンプリングタイガーの風穴の空いた頭部が宙を舞い、床に落ちてべちゃりと濡れた音を響かせる。頭部を失ったダンプリングタイガーは、その場で膝をついた。

 

「やったか!?」

 

 クリスはそう叫んだが、ダンプリングタイガーの千切れた首の断面が、体液で泡立つと共に徐々に新たな頭部が形成されていることに気が付き、目を見開いて驚く。

 

「不死身か……!?」

 

「わかりませんが、今のうちに逃げましょう!」

 

 レベッカの言葉により全員が動き、体の再生のために行動が停止しているダンプリングタイガーの横をすり抜けて、図書室を後にした。

 

 その途中、ジルがレベッカに声を掛ける、

 

「凄いわねレベッカ! こんなに冷静で……見違えたわ」

 

「いえ――」

 

 レベッカはどこか遠くを見るような目になり、小さく溜め息を漏らしてから呟く。

 

「ジャクリーンの方がもっとずっと強くて怖かったので……」

 

 本当にジャクリーンという奴はどういう奴なんだと、3人の中でのジャクリーン像は全く結ばれることはなかった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「サブマシンガンがなかったらマズかったな……」

 

「でも弾も無限ではないから考えて使わなきゃね」

 

 案の定、廊下やホールにいつの間にか沸いていたプレイグクローラーを4人で片付けながら、洋館に仕掛けられた仕掛けの謎解きをしつつ探索している最中、ポツリとそんなことをクリスは呟いた。

 

 如何にB.O.W.と言えど、3人から的確に頭部へのサブマシンガンを受け、近づけばリチャードからカスタムショットガンをお見舞いされて頭を吹き飛ばされるのでは、ただの害虫駆除もいいところであった。ようやくS.T.A.R.S.が部隊として機能し始めたと言ったところだろうか。

 

『――――――!!』

 

「また、虎野郎か!」

 

「相手をするだけ弾の無駄ね! 逃げるわよ!」

 

「またかよ! 邪魔な奴だな!」

 

 すると進行方向から2足歩行する巨大なトラカミキリ――ダンプリングタイガーが現れたことで彼らは一旦撤退する。

 

 このようにダンプリングタイガーは洋館内を徘徊しており、鉢合わせれば襲い掛かってくるため、逃げながら洋館を探索しているのである。

 

「あっ!? 赤い奴よ!」

 

 しかし、不幸なことにダンプリングタイガーの目の前でゾンビの死体が復活し、赤く鋭利な爪を持つクリムゾン・ヘッドへと変貌した。

 

 それにレベッカは声を上げ、こちらに真っ直ぐ走って向かって来るであろうクリムゾン・ヘッドにサブマシンガンを向け――。

 

『――――!』

 

「――――!?」

 

 ダンプリングタイガーがクリムゾン・ヘッドを背中から2本の鎌状の腕で拘束したため、レベッカは驚きつつも攻撃を止めた。

 

 すぐにそのままダンプリングタイガーはクリムゾン・ヘッドを引き寄せて自分側に身体を向けさせると、残り2本の鎌状の腕で脇腹を振り子のようなリズムで交互に連続で突き刺す。

 

「えげつねぇ……」

 

 思わず4人は足を止めて異様な光景を見ていると、胴体を何度も刺し貫かれて動かなくなったクリムゾン・ヘッドをダンプリングタイガーは抱えながら、クリムゾン・ヘッドの腕と顎で肉を抉り、団子状に丸め始めている行動を目にする。

 

団子(ダンプリング)を作る(タイガー)……それでダンプリングタイガーか……」

 

「そう言えばスズメバチは肉団子を作りますからね……」

 

 ジャクリーンの無邪気で小癪なネーミングセンスに一同は顔をひきつらせつつ、ダンプリングタイガーは動きを止めてクリムゾン・ヘッドを肉団子にすることに夢中で、こちらにまるで興味を示さなくなったため、すぐにその場から離れた。

 

「そう言えばなんだが……」

 

 クリスはダンプリングタイガーから逃げている途中で、通路に人と爬虫類を掛け合わせたような外見で、両手が鋭利な鉤爪になっている生物兵器――が何故か何もしていないにも関わらず、死んでいる様子をチラリと見た。

 

「あれはなんなんだ……?」

 

「ハンター……だと思いますけど、ダンプリングタイガーとプレイグクローラーに襲われていますね」

 

「まあ、同士討ちしてくれる分にはいいな! アンブレラの奴らがバカで助かったぜ!」

 

「アンブレラ幹部養成所では、プレイグクローラーがハンターを襲うようなことはなかったんだけどなぁ……」

 

 レベッカはポツリとそう呟いたが、今は考えても仕方がないので、ハンターが全滅するまで、利用できるものは利用することにし、それ以上言及することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだアイツは……?」

 

 洋館の地下――アークレイ研究所内にある監視室で、館内の各地に設置された監視カメラが映すモニターを確認しながら金髪の男性――アルバート・ウェスカーは歯軋りをする。

 

 ウェスカーはアンブレラ社から離反する前に、S.T.A.R.S.を洋館に投入し、ハンターやタイラントのB.O.W.による対B.O.W.用に訓練されていない部隊との戦闘データの回収をする実地試験を行おうとしていた。

 

 あわよくばアークレイ研究所を占拠している者の壊滅や、毎日のようにアンブレラの社内電子掲示板に上げられていたその研究記録のより深いモノも狙っていたのである。

 

 しかし、いざアークレイ研究所に来てみれば、既に施設内はもぬけの殻。それどころかアークレイが研究していた個体はほとんど実験に消費されていたようで、研究所としての機能はほとんど麻痺しきった上に機材も物理的に破壊され、徹底的に証拠の隠滅を図られていた。それに加えて、研究記録もほぼ全て抹消済みで、生存者の研究員の1人すら存在しない有り様だ。

 

 それだけならば始めから期待は余りしていなかったため、ウェスカーとしては問題なかった。しかし、モニターに映り、今現実として行われていることが彼の表情を曇らせている。

 

 

『――――――――!!!』

 

 

 そこには洋館かアークレイ研究所のウェスカーが気付かなかった何処かに隠されていた蜂のような未知のB.O.W.が、彼がS.T.A.R.S.へと仕向けたハンター達が次々と喰い殺される光景であった。

 

 洋館の庭で3体のハンターが蜂のようなB.O.W.に襲い掛かるが、爪で刻まれるダメージは、蜂のようなB.O.W.が全身にワスプを纏っているせいで、ワスプが緩衝材になり全くダメージにならない。

 

 時折、本体に攻撃が届いても、蜂のようなB.O.W.の外骨格が硬過ぎるため、ほとんどダメージにならない。その上、虫がベースのためか、再生能力に長け、与えた側からダメージが回復していく。更に鎌状の腕による攻撃は、殺傷能力が極めて高く、1撃か2撃でハンターは戦闘不能になり、生きていても鎌に仕込まれた毒で確実に死ぬ。

 

 とてもではないが、ハンター程度の量産型B.O.W.に勝てるような相手ではなかった。明らかに蜂のようなB.O.W.の戦闘能力だけはタイラントクラスであろう。

 

 既にその数は10体を軽く超えており、殺したハンター達をどことなく嬉しそうに、わざわざ肉団子へと変えてから自分で食べる様子が繰り返されている。そもそも、巣へと持ち運ぶための習性である筈のため、自身で食べるのならば最初から肉団子にする必要性は一切ないどころか無駄だが、それを理解出来るような知能を蜂のようなB.O.W.は持ち合わせていないと見える。

 

 更に洋館内やアークレイ研究所内に突如として何処からか沸いた開発初期のB.O.W.であるプレイグクローラーなのだが、何故か単純な命令を聞けるように知能の向上がなされているのか、執拗に他のB.O.W.とアンブレラマークを襲うように行動しているため、ハンターと屋外のケルベロスが次々と殺され、館内のアンブレラマークが剥がされて行く。

 

 特にケルベロスに関しては、既に壊滅したも同然であった。そして、単体の性能自体はプレイグクローラーの倍以上にあるはずのハンターも、洋館という閉所の悪条件でプレイグクローラーの数の暴力の前にほとんど成す術がない。そして、倒れたハンターの死体は、何故か蜂のようなB.O.W.が肉団子にして食べている。

 

 一応、B.O.W.同士の戦闘データという極稀なものは取れたが、初期型B.O.W. VS 最新型B.O.W.の戦闘データという、BどころかC級のモンスターパニック映画でも見せつけられているような余りにも特殊データなぞ一体何に使えるのかという話である。そもそもプレイグクローラーは既に、骨董品を通り越して化石に等しいB.O.W.だ。

 

 例えるならプレイグクローラーはマスケット銃、ハンターはアサルトライフルである。そんな戦闘データなど誰も欲しがらないであろう。

 

 そして、蜂のようなB.O.W.に関しては更に問題だ。何故ならば完全な未知の明らかに制御不能なB.O.W.であり、例えるのならば宇宙人の持つ光線銃のようなもの。こちらはこちらで全くデータにならないのだ。

 

「フッ……!」

 

「………………」

 

 娘のモイラを人質にされ、仕方なくウェスカーに従っているS.T.A.R.S.のアルファチームの隊員――バリー・バートンがウェスカーの居る監視室の壁に寄り掛かりながら小さく鼻で嗤ったことに対し、ウェスカーは彼に見せないように小さく額に青筋を浮かべた。

 

(この陰険なやり口と、虫へのこだわり……まさか、マーカスが?)

 

 ひとりだけウェスカーにはこのようなことを行い兼ねない天才に心当たりがあった。ジェームス・マーカス、10年前に自身が殺し、そもそも洋館事件の発端となったであろうB.O.W.を生み出した存在である。

 

 無論、本人ではなく、マーカスを継いだ女王ヒルによる犯行だが、そうだとしても女王ヒルは、彼の友人のウィリアム・バーキンがこの期に及んで失態を重ねていなければ、既にアンブレラ幹部養成所の自爆で没している筈だ。

 

 ということは、マーカスはウィリアムに2回殺されたのかと、それが少し可笑しく思い、ウェスカーは笑みを浮かべるが、この用意周到過ぎるやり口は、黄道列車を襲ってアンブレラ幹部養成所とアークレイ研究所を同時に占拠していたようには思えなかった。

 

 何よりもアンブレラ幹部養成所の方には研究記録を抹消した形跡がない。その上、研究はされていたが、そこまで目立ったB.O.W.の開発研究が成されていた様子もなかった。ならば蜂のようなB.O.W.や、知能のあるように見えるプレイグクローラーを造ったのは、アークレイ研究所でと見て妥当だろう。

 

(――――!? そうか、マーカスの忘れ形見は2体いたのか……)

 

 つまり、アンブレラ幹部養成所で没した方と、アークレイ研究所から電子掲示板でアンブレラを煽っていた方は別の個体ということだ。

 

 そして、それは既にアークレイ研究所の証拠隠滅を終えて、捕獲されても大きく問題ないB.O.W.を残し、ひたすら時間稼ぎと撹乱を残されたB.O.W.が意図せずに行っているところから、既に逃げ出していると見て間違いないであろう。

 

(………………アンブレラは終わったな)

 

 業腹だが、ウェスカー自身でも手玉に取られているような相手に、アンブレラ幹部養成所の女王ヒルすら自社の部隊だけで収拾をつけることができなかったアンブレラが、それ以上の相手かつ明らかにアンブレラへの執拗な嫌がらせを繰り返している存在とマトモにやり合える訳がないと彼は考える。

 

 そして、どのタイミングで何にタイラントをぶつけるべきかと考え、ウェスカーはモニターを眺めながら再び思考するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……うっ……」

 

「エンリコ隊長!?」

 

「どうしたんですかその怪我は!?」

 

 洋館の敷地内の地下にあった洞窟を移動中、ブラヴォーチームの隊長であるエンリコ・マリーニに遭遇した。しかし、エンリコに駆け寄った同じブラヴォーチームのレベッカとリチャードは銃創を負っていることに気づく。

 

「レベッカ、リチャード……! 生きてい――」

 

 そこまで言ったところで、エンリコはクリスとジルが立つ方に目を向けて、憎悪を浮かべた表情でハンドガンを構える。

 

「アンブレラの裏切者め……!」

 

 その言葉にクリスとジルはレベッカからウェスカーが裏切者かも知れないということを聞かされていたことが脳裏を過る。

 

 そして、この場にいる2人にそれを言っているということは――その更に後ろに何者かが居るのではないかという結論に達し、振り返ってサブマシンガンを構えた。

 

 そこには一瞬だけ銃を持った人影のようなものが見えたが、すぐに何処かへと消えて行った。すがたかたちは見えなかったが、明らかに洋館にいるクリーチャーではない人間らしい動きにクリスは声を荒げる。

 

「ウェスカー……! 本当にアイツが……!」

 

「それよりもエンリコ隊長が酷い怪我だわ。せめて何処かにハーブがあればいいんだけれど……これだと相当数必要ね」

 

「ああ、それなら山ほど見掛けたぜ!」

 

 リチャードがそう言ったため、クリアリングを行いながらひとまず、まだ歩けはするエンリコを連れてハーブがあるという場所へ向かう。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 洞窟を出て直ぐのところにある洋館の庭の一角にそれはあった。

 

「なにこれスゴい……」

 

「アンブレラには園芸が趣味の奴でもいたのか?」

 

 そこにあったのは6×6m程の面積の畑のうち、半分にだけびっしりと綺麗に並んで生えた3色の色鮮やかなハーブ畑である。どうやらもう片方は摘み採ったような形跡が見られるが、半分は残していったらしい。

 

 そして、ハーブ畑の前には簡素な立て札があり、"ご自由にお使いください"とジャクリーンとはまた違った筆跡の綺麗な文字で書かれている。

 

「きっと天使みたいな奴だったんだろう。今ばかりは感謝だ」

 

 リチャードの軽口を聞きながら、ハーブ畑からハーブを摘み取って調合し、4人はエンリコの治療を始めた。

 

 

 

 

 






ジャクリーンの置き手紙
・最期に菓子でも喰って死ねアンブレラ(内容の意訳)



今のレベッカの状態

難易度ハードでバイオハザードゼロの本編をクリアしたままの装備と覚悟と戦闘能力で洋館に来た。後、ジャクリーン戦は実質上の報酬でサブマシンガンをたくさん回収できるのでゲームの仕様を無視して出来る限り持ってきた

今のリチャードの状態

ジャクリーンがヨーンとネプチューンを食肉用に捌いたので死亡フラグを全て強制的にへし折られている

ジル&クリスの状態

ジャクリーンがちょいちょいB.O.W.で実験しているせいでケルベロスの数が少し足りず、片方がはぐれなかった。既にウェスカーへ疑念を強く抱いている

エンリコ隊長の状態

流石にサブマシンガンでフル武装した4人のS.T.A.R.S.に強化前のウェスカーが勝てる訳がないので生存。ついでに親切な誰かさんのハーブ畑で復活



~B.O.W.~

プレイグクローラー
 父のジェームス・マーカスが虫の遺伝子を掛け合わせて設計した開発初期のB.O.W.であり、10年でアンブレラ幹部養成所の付近の森で野生化して繁殖し、生態系に組み込まれていた個体群。それをそのままジャクリーンが回収し、B.O.W.とアンブレラのマークに反応して攻撃するように調整し、知性を持たせるのではなく、特定対象への攻撃性を著しく上げることで逆説的に指示を与えることに成功した。しかし、そのようなことは、解剖をしてもプレイグクローラー自体が、とっくの昔に開発中止になった個体のため、比較サンプルがないせいで全くわからないため、真実はジャクリーンのみぞ知る。
 洋館に仕掛け付きで投入した理由は、無論、探索と戦闘データの回収の妨害という嫌がらせ以外の何物でもない。



~ボスクリーチャー~

ダンプリングタイガー
 直訳すると団子虎。ジャクリーンがアンブレラへの嫌がらせのためだけに寅年にちなんで生み出した風流なB.O.W.。ベースは洋館に搬入されていたクワ材についていた主に東アジアが原産のトラカミキリ。それにリサ・トレヴァーの細胞を加え、ブレイグクローラーとワプスの遺伝子を与えつつ、ジャクリーンの始祖ウィルスを直接注入したことで突然変異を起こした個体。3m程で2本足で直立歩行するスズメバチのような見た目で、ブレイグクローラーというよりも後のリーパーの4本の腕が鎌状になり、頭からカミキリムシらしい触角が生えたもの。鎌にはワスプの毒を持つ(要するに蜂のようなものがベースで、身長3m近いリーパーのような外見である)。
 無論、制御など出来るわけもなく、食形態も完全に肉食性へと変化しているため、ただ新鮮な餌を求めて暴れまわるが、その生命力と凶暴性だけはタイラントと比べても遜色ないレベルに達している。また、ワスプを統括する能力があるらしく、常に周囲に大量のワスプを纏っており、倒しても何処からともなく補充される。
 ワスプは元々はミツバチであり、花粉団子を作る特性のせいか、スズメバチと同様かつ名前の由来の通り、新鮮な脊椎動物の死体から筋肉の多い部分を切り取って噛み砕いて肉団子を作ってその場で食べている様子も見られる。というよりも、そのせいで他のB.O.W.等がダンプリングタイガーに襲われる。

○ゲーム内
 イベント戦以外では倒すことが出来ず、普段は館内か研究所内を警察署内にいるT-103型のように徘徊しており、近い場合はプレイヤーの物音に反応してやってくる。しかし、そのときに扉を開ける知能はないため、扉は鎌で引き裂かれて破壊される。セーフエリアには入ってこない。
 また、ゲーム内ではゾンビには見向きもしないが、クリムゾン・ヘッドやハンターなどをプレイヤーよりも近ければそちらを優先的に襲うため、上手く使うと勝手に処理してくれるため、高難易度ほど弾薬の節約に便利。

○攻撃パターン
 体の周囲に纏った大量のワスプにより、先にワスプを剥がさなければ本体にダメージが通らない。それに加えて一定時間経過するとワスプは復活する。また、HPを削り切ると膝をつくが、数十秒後に復活するため、戦う意味自体ほとんどない。一応、一度目に膝をつかせたときのみ"リサがつけたリボン(使い途のない鑑賞用アイテム)"が手に入る。

・ワスプ飛ばし
 体に纏っているワスプを直線に4~5匹を飛ばしてくる。攻撃よりも攻撃後にワプスが当たった周囲に散らばる事が非常に嫌らしく、ワスプに毒があることが厄介な攻撃。ワスプを纏っていないと使用してこないが、他の攻撃の頻度が上がるため、あまり有効ではない。

・切り裂き
 歩いて接近してプレイヤーに近付き、鎌状の腕で斬りつけてくるダンプリングタイガーの主攻撃。高威力の上に確定で毒状態にするが、攻撃前に大きく振りかぶるため、避けること自体は可能で、攻撃後の硬直も長め。

・ジャンプ切り裂き
 広く天井が高い場所でのみ使用。プレイヤーの位置までジャンプして放物線を描きながら引き裂き攻撃をしてくる。振りかぶり動作を空中で済ませる上、どんな距離でもすぐに距離を詰めて高威力の攻撃かつ確定で毒状態し、攻撃後の硬直もほとんどないため、切り裂き攻撃よりも避け難く遥かに危険。

・掴み掛かり
 至近距離でのみ行ってくるリーパーと同じモーションの即死攻撃。真横を通り抜けようとすると超高確率で使用し、プレイヤーひとり分ほどの当たり判定の吸い込みにより掴まるため、常にダンプリングタイガーの位置を確認していないと場合によっては詰む。

・肉団子作り
 エリア内にいるケルベロス、クリムゾン・ヘッド、ハンター等のクリーチャーの死体に対して行う行動。生きていれば倒してからこの行動を行い、基本的にプレイヤーへの攻撃よりも優先して行う行動。1体の死体を1つの肉団子に纏めてから食べるまでの一連の動作に数十秒の時間を要し、この間はエリア移動やプレイヤーの探知も行わなくなる。ちなみにウェブスピナー、キメラ、ブレイグクローラー等の昆虫類は虫のためか、肉が少ないからか、味が気に入らないのか攻撃をせず、死体を肉団子にもしない。
 尚、肉団子作りを行わせた回数が30回以上だと研究所脱出からエンディングまでの展開が変化するが、ゲームの仕様でエリア内にプレイヤーがいないと肉団子作りを行わないため、肉団子作りの稼ぎプレイが必須。



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