BIO HAZARD -Queen Leech-   作:ちゅーに菌

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 どうもちゅーに菌or病魔です。2話に分けるのもどうかと思ったので多少長くなりました。やはりラクーンシティでB.O.W.に手を出すのならばコレは外せませんでした。

 それとラクーンシティ事件が表面上で本格的に始まったスタジアムでの暴動騒ぎが起きた日は、9月24日にしようかと考えております。








ラクーンシティ
女王ヒルの手記 8


 

 

 

 

1998年8月10日

 

 センチュリオンとジャバウォックをラクーンシティの外にある拠点に休眠状態で長期保存し、リサとプロトタイラントとゴールドタイラントをラクーン大学内に運び込んだ。そのため、ようやく再びこのラクーン大学で研究に取り掛かれるようになったので記録を再開することにする。

 

 センチュリオンとジャバウォックに関しては、ラクーンシティに持ち込んでラクーン大学に長期保存しておくには余りに巨大過ぎたため、ひとまずは断念することにした。まあ、襲撃日の1ヶ月程度前に運び込めればいいであろう。急ぐ必要もないだろう。

 

 また、ゴールドタイラントはタナトスと同様に輸送と保管自体は難しくなく、リサはどこにいても特に問題なく、プロトタイラントはラクーン大学の研究区画にいる分には問題はないからな。アンブレラの裏とは無関係のラクーン大学の関係者に見られても、逆に身内は身内で、プロトタイラントは自身が雇い入れた用務員等として、毅然とした態度を示しておけば何も問題はない。秘匿も管理体制も既に徹底しているため、無いとは思うが、ゴールドタイラントやタナトスを見られたときは私に喰われるか、記憶を抹消されるか選んでもらうことにしよう。

 

 とは言え、このラクーン大学は、幾つか看過しきれない問題点……というよりも制約が大きなモノで2つあるため、アークレイ研究所よりは伸び伸びと研究が出来るような環境ではない。

 

 まず、ひとつ目。私はグレッグ・ミューラーとしてラクーン大学の教員であるため、日中は当たり障りのない研究の傍らで、学生に向けた講義などを行っているため、時間によって行動が制限される。

 

 まあ、講堂は室内のため、締め切れば陽射しを浴びることはない事と、私自身元々はアンブレラ幹部養成所の所長であり、教鞭を取ること自体にはさして抵抗がないのが救いだろう。むしろ、性格的に向いているのか、今さら取るに足らないような稚拙な内容にも関わらず、教示するというだけで中々、楽しいものだ。

 

 次にふたつ目。当然だが、特に量産型のB.O.W.の製造は不可能だということだ。いや、設備自体としてはアークレイ研究所には流石に劣るが、決してそちらの面で不可能というわけではない。量産したところで単純にB.O.W.を隠すスペースが無いのである。休眠状態で置いておくにしても、その管理もあるため、そもそもここでは量産化には手を出さない方が吉であろう。

 

 ウィルス研究は通常通り可能なので、フォーアイズ的には問題ないらしいが、私はどちらかと言えば、B.O.W.開発に熱を入れているので少しだけ残念だな。ちなみにフォーアイズは、ラクーンシティに来てからU.S.S.に再び戻り、グレッグ・ミューラーの元で働くとのことで話を付けに行っており、正式に私の助手としてラクーン大学に配属されることになった。

 

 よくよく考えれば、フォーアイズはアークレイ研究所にはいたが、施設の自爆と共に彼女が居た痕跡は全て吹き飛び、ID類等も使用していなかったため、彼女はアンブレラからすれば1ヶ月と少しの間、消息不明で無断欠勤という状態だったということであろう。ちなみにその期間は全く彼女が使っていない有給扱いだったそうだ。有給とか効くんだなU.S.S.。

 

 そんな奴が、突然フラりと戻ったと思えば、偏屈でタイラントを個人で抱えていることがアンブレラに知れているグレッグ・ミューラーの元へ潜入すると言い始めたのだから、アンブレラとしても好きにしろと言ったところか。これは本人談だが、元々、フォーアイズはU.S.S.でも悪い意味で一目を置かれているらしいからな。何でこんなところは異様に行動的で、抜け目がないんだコイツは。

 

 アンブレラを離反しろとは言ったが、最大限利用し尽くしているため、私としても何か言えることはない。それにしても、Christine Yamata(クリスティーン・ヤマタ)という本名で呼ぶのはなんだか、フォーアイズと呼び過ぎて違和感を感じるものだ。

 

 とまあ、これまでの比較的どうでもいい経緯はこれぐらいにしておこう。まずは真っ先に解決した事柄について述べよう。

 

 それはアンブレラからT-ウィルスの完全適応者――タナトスの引き渡しを要請されていることだ。その上、それを要請した人物はタイラントでお馴染みのアンブレラの大幹部であるセルゲイ大佐だ。

 

 というのもタナトスを深夜に実際に起動して調べてみれば、黒人男性をベースにしたためなのか、脚力に優れており、セルゲイ大佐を素体にしたタイラントよりも遥かに敏捷性があり、跳躍力に関しては目を疑うレベルである。他にも命令はT-103型と同等程度にはこなすことが可能で、扉を開ける知能も持ち合わせていた。まあ、最高傑作と呼ぶ程ではないにしろ、最初に見て私が酷評したときに思っていたよりは、遥かに高水準に纏まっていたと訂正しておこう。

 

 そして、何故かアンブレラから脱退したにも関わらず、グレッグ・ミューラーはアンブレラにタナトスのデータを渡していたようで、アンブレラにもその完成度と実用性を高く評価され、量産が予定されていた――のだが、それを彼は"傑作はひとつでいい"の一点張りで頑なに拒否したらしい。

 

 ハッキリ言おう。馬鹿なのかコイツは……? 本気でタナトスだけでアンブレラのB.O.W.をどうにか出来ると思っていたのだろうか? 確かにタナトスは高水準のタイラントだが、仮にT-103型を3体同時に相手をする事や、完成したネメシスを相手に出来る程の性能がある訳もない。あくまでもタイラントの域を出ない個体なのだ。幾らなんでも過大評価が過ぎる。

 

 それに仮にしびれを切らしたアンブレラがラクーン大学に私設部隊(U.S.S.)を送り込んでくれば、グレッグ・ミューラーが対処出来る筈もない。人間を暗殺するための部隊の警戒など、それこそタナトスには門外漢だ。

 

 というわけで、私設部隊を今送って来られては流石に面倒になる。というか、ウィリアムに襲撃を掛ける予定の上、セルゲイとラクーンシティ内で殺り合うなど正気の沙汰ではない。ラクーン大学からタナトスを奪って潜伏場所を変えることも考えはしたが、それも今さらのため、私はセルゲイと交渉したのである。セルゲイもなしのつぶてだったグレッグ・ミューラーが、突然交渉に応じたためか、非常に素直かつ紳士的に交渉は進んだ。まあ、電話越しでだがな。

 

 その結果、素体であるタナトスの引き渡しは一旦停止された。そして、こちらからセルゲイへ引き渡すモノは、まずタナトス素体の組織サンプルと血液の提供。そして、40日の猶予期間内に10体のクローンを製造して引き渡すことを条件にした。ラクーン大学でタイラントの量産は幾つかの原料の入手に特に無理があるが、タナトス素体の体細胞を用いたただのクローンならば期間的にもそう難しい話ではない。

 

 まあ、アンブレラに提供するのはとてつもなく癪であるが、アンブレラに対しては兎も角、セルゲイ・ウラジミールという個人に対しては別だ。向こうは全く認知していないであろうが、私が製造したジャバウォックも元を正せばセルゲイへの借りだ。生憎、それを不意にするような神経を私は持ち合わせていない。ただ、それだけの話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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1998年8月13日

 

 ラクーンシティにあるB.O.W.生産工場地帯に近い位置にあるB.O.W.の研究所に2日ほど掛けて潜入した。体を細く伸ばして換気ダクトから施設内に侵入し、目についた職員を喰らって擬態しつつIDを入手すれば、容易く施設中を見て回ることが私にとっては可能であるため、全く難しい話ではない。

 

 尤も、ただの社会科見学と洒落込むつもりは微塵もない。無論、することはとある試作品の窃盗――いや、むしろ盗掘か。何せそれはラクーンシティにあることをデータ上で知っていたモノだが、B.O.W.未満の失敗作のため、半ば封印されるように置かれている存在だからだ。無論、その設計図もセットで奪った。

 

 まず、施設に侵入後、目的の物を奪取する時間を確保するため、施設内で調整されていた1体のT-103型の脳に直接細工をして暴走させた。その程度ならば事故程度で片付き、セキュリティ上の関係で外部からU.S.S.が駆け付けるまではほぼ無人になるためにやりたい放題である。

 

 また、保管室の周囲の監視カメラは破壊したので映っていないが、犯行は全て擬態したまま行ったため、まずは既に肉体ごとこの世に存在しない職員を疑うだろうな。

 

 そして、運搬に用いた経路は下水道だ。ラクーンシティのアンブレラのウィルス及びB.O.W.関連の施設は、基本的に広大な地下施設のため、下水道の中をくり抜くように存在するので、日中でも陽射しを浴びずに私が出入り可能なのである。

 

 その上、下水道というものは人間の生活を支えるために地下にあらねばならず、特に下水道にアンブレラの施設があると言っても過言ではないため、ラクーンシティのそれは地下に張られた蜘蛛の巣の如く極めて広大だ。何かしらの有事の際には下水道から搬入することもあるらしい。構造を覚えた今となっては私の庭のようなものだな。

 

 そんなこんなで、アンブレラの研究施設から目的の物を奪い、収用するための特殊なコンテナに入れて持ち出し、下水道を通ってラクーン大学までコンテナを担いで輸送したのである。

 

 流石にここまでアナログな方法で奪われたとは思うまい。何より、自身の施設でタイラントの事故を起こした上に失敗作の試作品を奪われたとなっては、施設長の首は間違いなく飛ぶ。まあ、それ以前にマトモな企業なら兎も角、組織自体がアングラ組織の代表であり、やたら自尊心や地位欲ばかり高いアンブレラの者共が、組織としての正しい対応をするともあまり思えんがな。要するに高確率で施設内で揉み消されるとも踏んでいる。

 

 そして、予めラクーン大学の使われていない地下区画に作った飼育用兼研究室の培養水槽に運び込み、休眠状態で浮かべたそれの見た目は、人間程の大きさで球状の肉々しい赤色を帯びた物体であり、そこから無数の細い触手が覆うように生えているだけの姿という、まるでウィルスをそのまま巨大化させたような奇っ怪な生物であった。

 

 この生物の名は"ニュクス"。アンブレラの試作生物兵器であるが、B.O.W.未満の代物であり、一切の制御が不能のために活動性を極限まで落とされたまま、持て余されていた失敗作だ。

 

 ニュクスは触手から他を喰らい同化することで、同化したあらゆる生命体を自身の肉体のパーツとして取り込み、その都度学習し、常に進化し続けることで、臨機応変な対応を取ることにより、これから新たな時代として来るであろう対B.O.W.性能に特化し、正に"夜の女神"の名に相応しい次世代の神話を築く――――辺りが売り文句のB.O.W.になる予定だったのであろうな。

 

 だが、それはあまりにアンブレラの手に余った。何せ、技術がないにも関わらず、思いばかりが未来を先行し過ぎていたのである。結果、生まれたB.O.W.未満の何かは、誰の指示どころか、制御さえも受け付けず、一度起動すれば貪食かつ無差別にありとあらゆる生命を喰らい続け、計画もなくブクブクと肥大化し続けるばかりのB.O.W.とすら呼べない謎肉だったのだから。

 

 しかし、その理想については資料を拝見した時点で既に、素晴らしいものであると感じていた。私がこれまでアンブレラが開発したB.O.W.の中でも最高のポテンシャルを秘めていると断言しよう。

 

 そもそも現在のアンブレラのB.O.W.は制御面の安定化を図るため、形態まで人型にこだわるからダメなのだよ。それは人間の遺伝子を使うなという話ではない。形態の話だ。そもそも、化け物が最初から人間を模したB.O.W.である必要がどこにあるというのか。

 

 肉体が人間からより大きく掛け離れ、不定形ならばそれを活用すればいい。手足が足りなければ数を増やせばいい、触手や爪が必要ならそれを生やせばいい、あらゆる環境に順応すればいい。自由自在に肉体が変えられるのなら、機能も変わり、今まで出来なかったことも出来るようになる。

 

 他を取り込み、そのリソースで進化、あるいは自己進化をして常に柔軟な取捨選択をして有り様を変え続ける。それは私が思う究極の生命体に最も近いものだ。全てを常に学び続け、遺伝子レベルで知性を追求し続けるモノこそが、仮に神と人間が呼称する全知全能に最も近い存在になれると言えよう。ゼロから造られ、途方もなく積み上がった知識と生命の塔を見上げた人間がそれを神と呼ぶのだよ。

 

 故に発想としては最高のものであり、T-ウィルスをベースによくもまあ、このような出来損ないの粗大な生ゴミを造ってしまったものだ。なまじそれとなくベースは出来ているだけ、開発者は才能がないということは無かったのであろう。実に勿体ない、もう少し予算と時間を回してやるべきだったな。

 

 ならばジャバウォックを製造したときのように私の挑戦心と、自尊心が騒ぐというものだ。アンブレラの手に余るモノを我が父、ジェームス・マーカスの現し身足るこの私が、ラクーンシティにいる間に完成させてやろうと思い立った訳だ。ここでは襲撃までに1年以上猶予がある予定のため、じっくりと研究してやろう。

 

 というわけで早速――ニュクスを解剖して、隅々まで調べることにした。

 

 当然、そんなことをすれば、このニュクスは使い潰される。しかし、元々このニュクスはB.O.W.とすら呼べない失敗作。このまま改良したところで先は知れているため、B.O.W.の発展と、私の好奇心を満たすための致し方ない犠牲という奴だ。

 

 流石に解剖されると、ニュクスは生意気にも私を逆に取り込もうと抵抗してきた。しかし、その程度のことは想定済みで、それを只で受け、取り込まれる私ではない。

 

 結局のところ、T-ウィルスベースの生物兵器が、始祖ウィルスベースの完成した生物兵器を喰らうとどうなるのかということをたっぷりと教えてやった。結果、始祖ウィルスの毒素がニュクスの全身に回り、触手の1本も動かせないほどに弱り切ったのである。並みの始祖ウィルスベースのB.O.W.なら取り込めたであろうが、生憎私は、体内で始祖ウィルスをT-ウィルスへと好きに変異させれる程度に、体内の始祖ウィルスを扱える父の最高傑作のB.O.W.だ。

 

 故にボツリヌス毒素など足元にも及ばぬほどの毒性を秘め、最強クラスの毒素である始祖ウィルスの毒素を体内ならばある程度自由に扱うことが出来る。まあ、自家中毒で死にかねないので用法用量は正しく扱わねばならないがな。そんな私を取り込むなど、出来よう筈もない。こればかりはニュクスにとって相性が悪かったとしか言いようがないな。

 

 そして、既に死に体となったニュクスの中身を全て開き、存分に構成を理解したところでニュクスが死亡し、溶け消えてしまったので、溶けたニュクスの液体はサンプル兼改良個体の製造のために保存しておく。リサにでも飲ませたら能力の向上になるだろうか? まあ、貴重なサンプルのためそれは保留でいい。

 

 既に私の中にある解剖所見のデータと、研究施設から奪ったニュクスの設計図。これらがあれば次なる改良型ニュクスの製作が可能となる。故に何も問題はないのだ。

 

 さて、元は光るものがあるがよい原種を改良することは、古来より人間が行ってきたこと。すなわち、ニュクスの品種改良の始まりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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1998年8月16日

 

 とりあえず、新たに製作したニュクス――ニュクス-α、ニュクス-β、ニュクス-γの製造と評価を終えたため、ここに記録する。無論、既に全ての個体は私が直々に廃棄処分済みだ。

 

 ニュクス-αはそもそも以前のニュクスではコアであり、本体でもある球体部分が余りに巨大過ぎたため、10分の1以下に縮小する改良を施した。サッカーボール程度の大きさだな。

 

 その分、攻撃力や侵食能力は比べ物にならないほど弱体化したが、むしろニュクスの機能を考えれば一切、コアを巨大化させるメリットがないため、これは正解であろう。実験後の処分のしやすさや製造のしやすさを考えても妥当だ。他には特に改良を加えていないため、相変わらずただの謎肉であった。

 

 次にニュクス-β。これから先の実験では以前の改良型――今の場合ならニュクス-αでの改良を加えた状態で新たな改良を加えたものとする。

 

 そして、当分これ以降のニュクスに加える改良は"知能を持たせる"ことだ。

 

 一見、難しくない内容に思えるかも知れないが、この難易度は凄まじく高い。というのもそもそもニュクス自体に脳という器官がまず存在しない生命体であるからだ。ニュクスにあるものは、ひとつの原核細胞のようなコアとそれから生える触手のみというとんでもなく単純な生物である。設計図からも製造コストの削減などの理由で、原核生物辺りを当初は目標にしようとしていたとおぼしき名残が見られる。しかし、ニュクスは歴とした多細胞生物だ。さながら、性質は細菌に近いクラゲのようなものか。説明していても未来を行き過ぎた生命体だな。エイリアンでも作るつもりだったのか。

 

 まあ、理には叶っている。仮に脳がなく知能を持ったニュクスが、相手へと触手を突き刺し、その脳を掌握でき、それを外付けのコンピューターとして知能を使えたのならば、私以上に潜入工作に向いた恐るべきB.O.W.が完成するであろう。いや、記憶ごと即座に入手出来るのなら、尋問の常識すら覆るだろう。

 

 とりあえず、下水道でアンブレラの職員を拉致して、単純に脳髄を摘出した上で処理を施し、それを中心にニュクス-βを製造してみた。成功すればこれが一番手っ取り早く、製造コストも極めて安価で住むであろう。

 

 まあ、ニュクス-γが短期間で既に出来ている辺りから察するであろうが、案の定、実験は失敗した。理由としては、ニュクスは脳髄に定着せずに喰い尽くしてしまったからだ。予想していた結果で、最も濃厚だったため、特に驚きはない。失敗したという事実に意味があるのだからな。

 

 気を取り直して、ニュクス-γ(ガンマ)。期待させるような言い方であるが、最初に言っておくとこちらも失敗している。いい線は行っていたと思うのだがな。

 

 ニュクス-βの結果から直接人間の脳髄が不可能だったため、人間の脳髄や神経系を形成する遺伝情報をニュクスに組み込むことで、それらを人為的に体内で発生させて、それを自然に使わせるという方法である。ニュクスの性能上は何も問題なく使える筈なのだ。

 

 事実として、ニュクスの内部にキチンと脳髄が形成され、中に脳髄が浮かんだ赤いガラス玉のような面白い上に、そこから触手が伸びているため、一昔前のB級映画の火星人のような見た目にはフォーアイズと共に笑ったものである。

 

 しかし、ニュクス-γはあろうことか、形成された脳髄を内部で貪食してしまったのだ。どうやら根本的にニュクスは人間を食い物としか認識していないのであろうか。それならば発生の段階から変える必要があるかもしれないな。次なるニュクス-δに生かすことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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1998年8月24日

 

 うん、これ無理。

 

 あれからニュクス-δ(デルタ)、ニュクス-ε(イプシロン)、ニュクス-ζ(ゼータ)、ニュクス-η(イータ)、ニュクス-θ(シータ)の5体をアプローチを変えて製造してみたが、全く上手く行ける気配がない。あらゆる工夫を凝らし、如何なる改良を施して、取り付けるあるいは発生させた脳髄自体を貪食して吸収してしまうのだ。つぼ焼きにして喰らうぞコイツら、私の苦労をなんだと思ってやがる。

 

 発生の段階で躓いているが、そもそも、脳のない生物が、突き刺すだけで他の生物を外付けコンピューターとして知能を取り込むことも余りにオーパーツ過ぎる。非常に残念だが、私をもってしても現在の設備や技術ではほぼ不可能と言わざるを得ない。もっと大規模な施設と数年の時間があれば可能かも知れないが、ラクーンシティにいる内はそんな猶予も余裕もどこにもないのだ。

 

 故にこのままでは埒が空かないため、妥協と逆転の発想をすることにし、私は前提として量産のしようもない特注生産個体になってしまうため、コスト面から使わないようにしていた"粘菌"に手を出してニュクスを品種改良することにした。

 

 変形菌とは、変形体とも呼ばれ、栄養体が移動しつつ微生物などを摂食する動物的な性質を持ちながら、小型の子実体を形成し、胞子により繁殖するといった植物的な性質を併せ持つ単細胞生物である。要するに特殊なアメーバの仲間のようなものと思ってくれればかまわない。ニュクスに必要なのはその特性のみだ。

 

 例えば粘菌をシャーレで培養し、粘菌を餌場への迷路に入れると、最短経路を探し当て、それに沿って自分の細胞を組織化出来る。要するに粘菌が迷路を解くのだ。このようにときとして、脳を持たない単細胞生物でさえも、ある程度の難しいパズルを解け、知能の代わりとなるのである。

 

 つまり、ニュクスを粘菌そのものに近い形態に変え、人間に類似した情報処理システムに近いコンピュータとして知能を形成すれば、中枢神経などを一切介さずに知能を持たせることがよほど今までの方法よりも現実的なのだ。

 

 そして、粘菌と化して知能を持ったニュクスを生命体へとあらゆる経路で一度投与すれば、それらはニュクスの一部となり、バイオコンピュータかつバイオネットワークの形成を可能にしようという試みである。これで、本来のニュクスからは多少掛け離れたが、ニュクス開発に込められた理想は全てクリア出来る。

 

 生命体の体内に直接的に粘菌という根を張り、全てを取り込みつつ一部にしてしまえばいい。つまりはそういうことである。また、粘菌は元々ニュクスに極めて近いため、取り込まれる確率も極めて低い。

 

 とまあ、このような試みをしようかと語っていると、何故かフォーアイズが異様にやる気を出して、是非やって欲しいと珍しく懇願してきた。そう言えば、コイツはB.O.W.よりもウィルスや細菌の方に興味が強かったことを今更ながら思い出す。まあ、今さらやらないつもりは更々ない。

 

 そして、製造した個体がニュクス-ι(イオタ)。これはニュクスを従来のものから粘菌ベースに変えることにより、単純に粘菌の性質を付与した。性質自体の変更と、菌類との親和性の高さからニュクス-ιは己を貪食してしまうようなことはなかったため、この時点で半分は成功していると言える。

 

 実際に餌を入れた迷路の容器をニュクスの飼育容器に入れ、どのような反応を見せるか実験したところ、ニュクスは触手を使って最短ルートで迷路を解いて見せたではないか。これによって餌を効率的に取るという知能は有していることを意味する。既に活性死者よりは幾分かマシな知能になったな。

 

 しかし、ここに来ると大きな問題点が出てくる。単純に粘菌をひたすらに拡大して人間一人分の知能を獲得しようとした場合、計算上だとラクーンシティの下水道全てに粘菌を張り巡らせてようやく達するという結果が出たことだ。流石にこれでは運用を考えた場合のB.O.W.としては巨大過ぎて用途が極めて限定される。

 

 まあ、戦略兵器や防衛拠点そのものに張り巡らせて使うならば、これで成功したのではないかと言えなくもないが、出来た人間相当の知能が指示を聞き、制御出来るかと問われれば、まず不可能であろう。可能だったのなら、私は今頃アンブレラの狗となりウィリアムと隣で仲良く研究しているだろうな。

 

 使用後に滅菌作戦が前提のB.O.W.では流石に話にならないため、次に改良を加えてニュクス-κ(カッパ)を造った。しかし、これは改良と言うよりも、凝縮という言葉が正しいかもしれない。

 

 そもそも父の実験記録等からでも知っての通り、基本的にB.O.W.には人間の遺伝子情報がほほ直接的に使われている。それが最も理に叶い、かつ効率的だからであり、ニュクスもそれは同様である。ならば逆にニュクスから人間由来の性染色体を造り出すこともさして難しい話ではなく、尚且つ粘菌由来の特異菌と呼べるほどのサイズまで機能ごと縮小したのだ。

 

 要するに私はニュクス-ιを使い、ニュクス-ιの性細胞の役割を持つ特異菌のようなものニュクス-κという名を付けた。これによって、ニュクス-κを人間あるいは近似種の卵細胞に受精させることが可能となった。ここまで改良してしまえば、残念だが、不定形にこだわる意味も薄くなってしまったため、こちらも妥協して人間ベースにしてしまったのは私の敗北だな。

 

 ただ、これはある一点が非常に危惧されるため、B.O.W.としては余りに著しい欠陥がある。

 

 というのも次なるニュクス-κを受けた受精卵から発生する――ニュクス-λ(ラムダ)は、当然ながらこれを宿した母体を何よりも真っ先に侵食する。それはニュクス-λと肉体どころか、精神までもが直結するということを意味し、それに耐えうる程の精神抵抗か、ある種の才能と呼べるものがなければ、出産までは漕ぎ着けられないと思われるのだ。

 

 そして、完全に精神がニュクス-λに汚染されれば、母体としての機能不全を起こす上、母体が母ではなく、ただの苗床とニュクス-λに認識されるだろう。そうなれば、ニュクス-λのマトモな発生など望めるわけもなく、最初のニュクスにさえ劣るであろうニュクスもどきが出来上がるだろうな。

 

 故にアークレイ研究所から持ってきたあの母体にはやるだけ無駄であろう。アレは決して精神面が著しく強靭な個体ではない。

 

 この手の話題になった時にたまに書くが、やはり私が母体になり、受精出来ればそれに越したことはないのだ。私ほど強靭で融通の利く肉体と、生物実験向けの人でなしな精神を持ち合わせた存在は私以外に存在しないであろうからな。

 

 まあ、そんな有り様のため、ひとまずはラクーンシティでのニュクスの実験はこの辺りで終了であろう。これ以上の実験は、数百あるいは数千を超える可能性すらある母体を用意して、その中で1~2体完成すればマシという程度のもの。流石に嫌でも足がつくので、ラクーンシティではやろうとは思えない。

 

 

 そんなときにフォーアイズが、"ここで止めるだなんてもったいないわ。それに私、今ちょうど排卵周期よ?"などと言い始めたときは私ですら耳を疑ったものだ。

 

 

 まあ、既に私が製造したT-ウィルスの特効薬――傘は要らなくなるという名の由来は気に入ったので、グレックにあやかってデイライトという名称にしよう。そのデイライトをニュクス-λ用に改良した除菌剤は造ってあることは伝えていたため、万が一失敗した場合にフォーアイズを高確率で回収する手筈は整っている。研究助手としては文句なしに優秀のため、ここで消えられると幾らか痛いからな。

 

 とりあえず、フォーアイズの要望の通り、彼女の卵細胞とニュクス-κとで人工受精を行い、経過を見守ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ニュクス-λとそれを受精した母体の経過記録

 

 

1998年8月24日

ニュクス-λ:

着床を確認。それ以外の変化はない。

母体:

身体及び精神に変化なし。

 

 

1998年8月25日

ニュクス-λ:

超音波検査の結果、既に2~3cm程の胎児の形成が見られる。形状としては、頭と胴の区別がつくようになり、手足が伸び、目・耳・口の原型も現れている。発達上は人間の胎児そのものだが、現在の成長速度が単純に10倍以上あると思われる。

母体:

脳を含む全身にニュクス-λの粘菌由来のアメーバ――変形体を確認。他に目立った身体的変化はない。精神変化なし。

 

 

1998年8月26日

ニュクス-λ:

体長約8cm。手足の指、顔の輪郭、心臓・肝臓・胃腸などを含むの内臓器官が完成。心音も確認済み。完全な人型を形成している。

母体:

前日からの身体変化なし。"見られているような気がする"との訴えはあるが、母体に精神変化なし。

 

 

1998年8月27日

ニュクス-λ:

体長約20cm。胎盤が完成。それに伴い、臍帯を通した栄養が開始される。羊水量の増加に伴い、母体の外見が妊娠4ヶ月相当になり、ニュクス-λの発達もそれに準じている。

母体:

体内の変形体によるものか、胎内のニュクス-λによるものかの由来では後者の方がやや強いと思われるが、母体の食欲が増加。それ以外の身体変化なし。"言葉にならない曖昧な声が頭に聞こえる"と訴え、それ以外に精神変化なし。

 

 

1998年8月28日

ニュクス-λ:

体長約30cm。妊娠6ヶ月相当。骨格の発達により釣り合いの取れた体つきになり始めている。排尿も確認。

母体:

身体変化なし。自身の腹部を撫でながら、彼女らしからぬ空笑に近いほどの笑みから何らかの幻聴のような精神影響が示唆される。それ以外の精神変化なし。

 

 

1998年8月29日

ニュクス-λ:

体長約35cm。妊娠7ヶ月相当。聴覚が発達に伴い、母体の声や音に反応する様子が見られる。

母体:

身体変化なし。明らかな独語が出現。研究助手の仕事を行いつつも、1日中胎内のニュクス-λへと話し掛けている様子が見られる。それ以外の精神変化なし。

 

 

1998年8月30日

ニュクス-λ:

体長約45cm。妊娠9ヶ月相当。性器が完成。女性器であり、雌の個体と断定。

母体:

身体変化なし。母体によるとニュクス-λと話し合ってニュクス-λが自身で女性になったとのこと。前日からの精神変化なし。

 

 

1998年8月31日

ニュクス-λ:

体長約50cm。妊娠10ヶ月相当。骨格、内臓器官、神経などの発育が完成。外見上は同時期の人間の雌個体と差はない。

母体:

身体変化なし。母体によればニュクス-λがまだ胎内に居たいと訴えているらしく、ここから暫く発達を止めて留まるとのこと。前々日からの精神変化なし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「――ええ、そうよラムダ。でもアナタに研究はまだまだ早いわ。まずは私の胎内から出てくれないとね? ウフフ……イヤ? 全く甘えん坊さんなんだから……もう」

 

 現在進行形で私の試作B.O.W.であるニュクス-λを孕んでいるフォーアイズの下腹部は、臨月ほどにまで膨らんでいる。

 

 そして、一人で非常に楽しげな様子をしつつ、私の研究助手を続けており、まるで電話をしているように思えるが、どこにも受話器などは見当たらず、私に対しても言っていないため、端から見れば統合失調症に見られる症状のひとつである独語にしか見えない有り様だ。

 

「――そんなことないわ。外の世界は楽しいわよ。そこにいる私の上司のマーカス博士なんてアナタと同じ素敵なB.O.W.ね。えっ、パパ? うーん……それなら開発者のマーカス博士がアナタのパパかしら? 雌雄同体だし」

 

 何かとても不穏な方向にフォーアイズの話が進んでいる気がするが、私には彼女が聞こえていると思われるものは一切聞こえないため、どうすることも出来ない。正直、無茶苦茶気が散るので、早いところ出産して欲しいものである。

 

 すると、何を思ったのか、話し合ったのか、フォーアイズが私の元に寄ってくると、ホルスターからサプレッサーの付いたハンドガンを取り出してこちらにチラつかせてきた。

 

 無論、そんな豆鉄砲では私にダメージにすらならないことはフォーアイズも承知している筈のため、何か別の用途で使う気なのであろう。

 

「ウフフ、ちょっと見てて? この子がマーカス博士に見せたいって言ってるわ。スゴいわよ」

 

 そう言うとフォーアイズはハンドガンを取り出し、自分の下顎に銃口を押し当てる。言うまでもなく、拳銃自殺をするときの構えである。

 

「おい、待て……何をし――」

 

 流石に止めようと、私が呟こうとした言葉は乾いた銃声によって掻き消された。そして、銃弾がフォーアイズの脳幹を貫いたことで、彼女の体は力なく項垂れると背中から地面に叩き付けられる。

 

「えぇ……」

 

 余りに唐突なフォーアイズの自殺に多少動揺つつも、助手を失ったことより、ラクーン大学内で死体の処理が必要になったことを面倒に思っていつつ、銃弾が頭蓋骨を突き抜けずに脳内にあるようで、天井に当たらなかっただけマシか等と考えていた。

 

 とりあえず、死体袋代わりになりそうな袋を用意してフォーアイズの体に手を掛け――。

 

「おはよう、マーカス博士」

 

 その瞬間、フォーアイズはむくりと起き上がり、悪戯が成功したとばかりに私に抱き着いてきた。当然、彼女の白衣は彼女自身の血液で真っ赤であり、私の白衣にも色が移るので止めていただきたいものだな。

 

 それよりも最早、考えるまでもなく、フォーアイズが甦ったように見えた仕掛けはわかった。 

 

「ニュクス-λの粘菌による再生能力……あるいは君の肉体そのものが変異したのか。少なくとも君の全身に変形体もとい特異菌が広まり過ぎているせいで、既に通常の生物ならば死に至るダメージ程度では死ねなくなったということか」

 

「ウフフ……ご名答、これで私もマーカス博士と同じ化け物ね。もう、この子ったらママのことが好き過ぎて死なせてもくれないのよ? 本当になんて可愛いのかしら……」

 

 そう言いながら愛おしそうにフォーアイズは自身の膨らんだ腹部を撫でる。それだけなら彼女が美女なことも相まって絵になる筈だが、拳銃自殺による出血のせいで、着ている白衣の前側が前衛的過ぎるデザインのよだれ掛けのように真っ赤に染まっているため、絵面が悪過ぎる。

 

 その上、これまで見てきた血も涙もなく、実験や研究中しか笑わない彼女を知っている身からすると、正直なところこちらの方が不気味で仕方がない。

 

「家族愛、親子愛……それどころか人間の集団を見ても正直、繁殖地ぐらいにしか思わなかったけれど……。今はこの子が愛しくて堪らないわ! 母親になるってこんなに素晴らしいことだったのね!」

 

「私が言えた義理ではないが、それは絶対に母親の感情ではないと思うぞ」

 

「ならマーカス博士のヒルへの愛情と同じかしら?」

 

「立派な家族愛だな」

 

 やったぞ、スペンサー。私の助手が不老不死に到達してしまったかもしれない。ついでに神からは程遠いが、聖母マリアぐらいにはなったかもしれん。

 

 そんなことを考えつつ、私から見ても異様なほど強靭極まりない上にギリギリ理解できないレベルの精神をしているフォーアイズに対し、今更ながらとんでもない奴を拾ってしまったのではないかと思い始めるのであった。

 

 

 

 

 








あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ! "俺はニュクスを改良していたと思ったら、いつのまにかエヴリンになっていた"。な…何を言っているのか、わからねーと思うが、俺も何をしたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…E型被験体だとかごはんですよだとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。

意訳:ニュクスの利点や開発当時のコンセプトを考えているうちに、コイツまさか最終的にはエヴリンのような新型B.O.W.がコンセプトだったのではないのかなという結論に至ったのでこのような内容になりました。実際、エヴリンって制御さえ出来ていれば、対人よりも対B.O.W.性能の方が遥かに優れるほぼ無敵のB.O.W.ですし。




~B.O.W.~

ニュクス-λ(ラムダ)
 改良型ニュクス11号試作B.O.W.。人間としての名前は母親の本名のクリスティーン・ヤマタから苗字を取り、ラムダ・ヤマタ。雌の個体。
 ニュクスをベースに度重なる改良を繰り返した末、ニュクス自体に粘菌に近い性質を付与した上、精細胞へと変えたニュクス-κを、人間の卵細胞へと受精させることで単純した人間ベースの特異菌。また、厳密には純粋なニュクスではなくニュクスと人間のハーフ、あるいは人造人間とも呼べるB.O.W.である。
 その性能は当初ニュクスに想定されていたと思われる理想全てを、極めて高水準でクリアしている。特に対B.O.W.戦における性能は、例えB.O.W.の大群を相手にしようとも、ひとたびニュクスの特異菌が体内に入れば、制御権そのものを奪い取れる。更に副次効果として全身にニュクスの特異菌が広がり、それに適応した個体は不死性を有し、そうでなくとも数段強化された上でニュクス-λの制御下に置かれる。その上、ニュクス本来の戦闘能力も健在であり、他の生命体を取り込むことによって際限なく肥大化する即席の肉体を形成することも可能。故に並みのB.O.W.はニュクス-λに触れることさえ事実上の死を意味する。考える限り、最高の性能を実現した次世代のB.O.W.であり、その様は"夜の女神(ニュクス)"の名に一切恥じぬであろう。
 致命的な欠陥としては、製造方法よりも過程が母体そのものに依存するためにニュクス-λに適応した母体が必要であり、培養では製造できず、製造に失敗した場合は、無差別にあらゆる生命体を喰らい尽くすだけのニュクスもどきになるため、コストや危険性が極めてが高い上に量産性が皆無なこと。
 また、完全に制御自体が母親や父親と認識している存在に依存しているため、主にニュクス-λの製造をした母体以外は制御出来ないことから、適用した母体自体が運用する組織に忠実なことが求められ、母体の選出上の問題が絡む点により、個人ではなく組織での運用は極めて難しい点が余りにも致命的と言える。
 更に製造過程で、方法は不明だが母体による教育で知能を獲得させる必要があり、これの出来によってニュクス-λの性能自体が大きく左右されるため、これだけの欠点を抱えて尚、完成品の性能が全く安定しない。
 故に母体は、ニュクス-λの肉体及び精神侵食を常に受け続けながらも、ニュクス-λに対して一切の恐れや生理的嫌悪を抱かないどころか、心の底から愛した上で知能の向上をさせなければならず、最高性能のニュクス-λを生み出せる母体は、一種の異常者を除けば、T-ウィルスの完全適応者に準じる確率並みに少ないと思われる。故に所詮、試作品止まりで、製品としては売り出せる筈もない失敗作である。

※戦略兵器として別アプローチで完成したニュクスと粘菌ベースのエヴリン



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