BIO HAZARD -Queen Leech-   作:ちゅーに菌

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忘れた頃に更新はやって来る(震え声)






タイラント研究所襲撃 その2

 

 

 

 

 

「くそっ!? 他フロアは!? 他支部からの援軍はどうなっている!?」

 

 現在、タイラント研究所の5階層では、警備兵らと研究者に加え、三十体余りのハンター及び7体の量産型タイラント(T-103)と2体の試作タイラントによって辛うじて襲撃者たちに対応していた。

 

 5階層はこのタイラント研究所のB.O.W.開発区画の中枢であり、通信状況からそれ以外の階層は全て壊滅しているため、襲撃に際して図らずも事実上の最終防衛ラインとなっている。

 

 アンブレラにとっては過剰なまでの戦力を投入していることにより、下層から上がってくる人型のヒルのようなB.O.W.は押し返すことができ、これまで進行を全く寄せ付けないでいた。

 

 

 

『サア、残リハココダケダ――』

 

 

 

 しかし、まるで地獄から這い上がって来たかのようにソレがやって来たことで戦局は一変する。

 

『援軍ノ前二貴様ラハ滅ブ。故二心置キ無ク忠誠ヲ証明シテ見セロ』

 

 下層から登ってきた言葉を話すソレは、3mはある体躯を持つ人型のヒルのようなB.O.W.を超えた何かである。そして、ヒルはキメラベースと思われるB.O.W.が11体のみを引き連れ、堂々と真っ正面から襲い掛かって来たのだ。

 

 当然、数多のハンターが突撃し、人間が銃撃をしたが、ハンターのようなB.O.W.らはその10本の多腕にそれぞれ銃器を中心とした武器を持ち、ハンターの以上の身体能力を生かして徹底的に抗戦して来る。

 

『――――!』

 

 キメラら――キメラ-βには個性があるらしく、そのうち一体を例に取ると、二挺のポンプアクションショットガンと、6本の大型ナイフを手に持ち、明らかに他のキメラ-βよりも間合いが近く好戦的である。

 

 ハンターにはその大振りな爪をわざと誘って避け、カウンターにショットガンを叩き込み、足りなければナイフで急所を突き穿つ。

 

 人間相手はそもそも自身の異様な再生能力と、ハンターの倍以上の速さを生かして、床と壁を三次元的に駆けることで多少の被弾はものともせずにナイフで喉笛や急所を斬り裂く。あるいはナイフを投げるか、ショットガンで身体を吹き飛ばしていた。

 

 他のキメラ-βにも拳銃、機関銃、長距離武器、手榴弾など様々な特色がそれぞれに現れているが、何れもアンブレラ側には"B.O.W.特殊部隊"であり、"最高の兵士"と言えてしまう異様な存在であり、人型のヒル――女王ヒル(ジャクリーン)にとっては個性がある時点で失敗作以外の何物でもない。

 

 

『後、3体ダ』

 

 

 そして、気づけば既に女王ヒルの足元や後方には、2体の試作品タイラントと4体の量産型タイラントが無惨なまでに破壊されるか、眠るように事切れて転がっていた。

 

「な、なんだ……なんなのだあの化け物は!?」

 

『人様ニ随分ナ挨拶デハナイカ』

 

 このタイラント研究所の副所長をしている男の叫びにジャクリーンは、そんな言葉を返す。

 

 その間にも残る3体の量産型タイラントは、ジャクリーンに向かって襲い来る。しかし、元より対B.O.W.戦をそこまで想定していないタイラントではあまりに遅かった。

 

『玩具ダナ』

 

 ジャクリーンは片手に持つ奇妙な形をしたやや大型の白い拳銃――アンプルシューターを構えた。それは特殊な弾薬を打ち出すための圧縮ガス銃であり、単純な銃としての性能は豆鉄砲のようなものである。

 

 しかし、放たれた麻酔弾のような銃弾が向かってくる先頭の量産型タイラントの首筋に命中した直後、量産型タイラントは明らかに異様な取り乱し方を見せた後、地面に崩れ落ちて二度と動かなくなった。

 

 ジャクリーンはそれに目もくれず、単発装填らしいアンプルシューターをリロードし、再び放たれたそれは眉間に吸い込まれるように突き刺さる。

 

 アンプルシューターの弾薬に詰まっている物は、ジャクリーンが開発したTーウィルスに対する特効薬――デイライトである。その効力は絶大で、事実タイラントさえも瞬殺しており、アンブレラが持つ如何なる物よりも即効性と効果があることを証明していた。

 

 2体目の量産型タイラントが倒れるとほぼ同時に3体目の最後の量産型タイラントがジャクリーンに接近し、その豪腕を振るう。装甲車でさえ一撃でお釈迦にしかねないそれは壮絶な威力であろう。

 

 しかし、あろうことかジャクリーンはそれを片腕で受け止める。流石に衝撃は殺し切れず、一歩大きく後退したが、それで踏み留まると共に背の触手を大きく蠢かせた。

 

『喜ベ、貴様ラノ目ノ前ニイルノハ結果ダ。貴様ラガ選ンダ結果ナノダ……アンブレラァァアァァ――……!!!』

 

 女王ヒルという怪物は底冷えする慟哭を発しながらアンプルシューターを床に落とし、両手で量産型タイラントの両腕を掴む。

 

 量産型タイラントは手を振り払おうともがくが、一回り以上ある体格差と力があるようには思えない外見に似つかわしくない怪力により全く抜け出せず、鋼のような肉と骨が軋む異音が響く。

 

『――――!?』

 

 そして、最後には量産型タイラントの腕をただの腕力で握り潰してしまった。

 

 あらぬ方向へ曲がった量産型タイラントの両腕から手を変え、ジャクリーンはその頭部を鷲掴みにする。

 

『クククッ……B.O.W.トB.O.W.ニヨル戦争。コレコソ新タナル時代ダ』

 

 そのまま掴む力を強め続けながら量産型タイラントを宙に持ち上げ、その足が地面から離れた頃に怪力に耐えられなくなったその頭蓋が砕け、糸の切れた操り人形のようにタイラントというアンブレラの最高傑作は事切れる。

 

「ヒィ……!?」

 

 そんな量産型タイラントの死骸をジャクリーンは、副所長の目の前に投げ飛ばした。30m程前に捨てられたそれは、無くなった頭部と潰された両腕から溢れ出た血で床を濡らす。

 

 ジャクリーンによってタイラントは全滅。そして、副所長が辺りを見回せば、既にキメラ-βによりハンターと銃を持つ人間は跡形もなく壊滅している。

 

 既に副所長を数えた数名の研究者しか残ってはおらず、いつの間にか研究区画の最奥まで追い詰められていた。

 

「な、何が目的だ!? お前はいったい!?」

 

『語ル時ハ当二過ギタガ……強イテ分カリヤスク言エバ、我ガ望ミハ貴様ラガ等シク脳漿ヲブチマケル事ダ』

 

「助け――」

 

 その言葉と共に最早放心していた研究者の一人にジャクリーンの触手が跳び、頭蓋骨ごと脳髄に穴を開ける。そして、びちびちとその中身が床に飛び散った。

 

 それ共にキメラ-βたちが残る研究者に飛び掛かる。当然、ハンターすらまるで相手にならないB.O.W.にただの健康な人間でしかない研究者たちが相手になる筈もなく、虐殺と言っても差し支えないだろう。

 

『後、1人ダ』

 

 気がつけば放心状態の副所長の数m手前にジャクリーンは佇んでおり、いつの間にか拾い直していたアンプルシューターを百合の花弁のような手で遊ばせていた。

 

 

『ドウシタ? 殺シテシマウゾ?』

 

 

 その言葉で、副所長は我に帰る。

 

「こ、こんなところで私は……!?」

 

 副所長は最奥の研究室に設置された分厚い鉄扉の前まで向かい、指紋認証と網膜認識によるパスを解除する。

 

 そして、鉄扉が開くとその中に走って行き、設置されたひとつのカプセルの前まで来た。

 

 当然、ジャクリーンも着いて来ており、アンプルシューターを仕舞うと、近くのコンピューターに触手を伸ばして弄りつつ副所長の挙動を観察している。

 

「動け! 動け!? 私はこんなところで死んでいい人間ではないんだ!」

 

 最後に副所長はそのカプセルに隣接したコンソールに触れ、それから一際大きなスイッチを殴り付けるように叩いた。

 

 その瞬間、カプセルは開き、中からタイラントを更に醜悪にしたような巨人――ネメシスが現れたのであった。

 

 

『■■■■■■■■■■――――――!!!!』

 

 

 ネメシスは巨大な獣のような言葉にならない咆哮を上げる。それは周囲に僅かな振動を感じさせるほどおぞましい。

 

 そのネメシスは拘束衣が着せられておらず、身体の至るところからネメシス寄生体の触手が溢れており、本来の完成したネメシスからは明らかに掛け離れていることは明白であろう。

 

 そんな姿をパソコンのコンソールを操作しながら眺めていたジャクリーンは首を傾げた。

 

『発話無シ……拘束衣ヲ着テイナイ……アア、成ル程。ソノ"ネメシス"ハ暴走シタ廃棄個体カ。完成版ノ方ハ既ニ別ノ施設ニ移シタヨウダネ』

 

 そう呟くと弄っていたパソコンのコンソールを叩く事を止め、ネメシスへと向き合う。

 

 残ったディスプレイには何らかの施設情報や記録が映っており、対峙するジャクリーンはやや落胆した態度になったように見えた。

 

『……マア、目的ノ物ハココノ区画ノ奥カ。ソレダケデモ良シト――』

 

 そこまで呟いたところで、肉が抉れる音が響き渡った。

 

「ひ――ぎゃあぁぁ!!?」

 

 すると目の前で、ネメシスによって副所長が刺し貫かれており、ジャクリーンは閉口する。

 

 そのまま、部屋の隅まで投げ捨てられた副所長は腹に大穴を開けて完全に事切れており、少なくとも二度と自然に動く事はなかった。

 

『己デ御セズ、壊セモシナイ物ヲ造ルナド烏滸ガマシイトハ思ワンカネ……?』

 

 その一部始終を眺め、最早、誰に言うわけでもなくポツリと呟いたジャクリーンは、アンプルシューターを仕舞いつつ小さく溜め息を漏らす。

 

 その直後、ジャクリーンを見据えたネメシスが数本の触手を銛のように放った事で、数m伸びたそれは彼女の肩口や大腿部を貫通して止まった。

 

 それに対してジャクリーンは、損傷部に力を込めて抜けなくしつつ、表面だけを無数のヒルに変異させ、触手へ一斉に吸血と補食を繰り返すと共に、背中から二十以上の触手を展開する。

 

 直接触手を喰われるネメシス寄生体は堪ったものではないであろう。

 

『■■■――!? ■■■■■――!!?』

 

『生憎ダガ、可愛ゲモナイ貴様二手加減ナドハセンゾ。無数ノ蛭二触手ヲ差シ込ムナド愚カナコトダ』

 

 その言葉と共にジャクリーンの背から全ての触手がネメシスに殺到し、全身を刺し貫く。

 

 そして、触手でネメシスを手繰り寄せながら拳のように片腕の触手をまとめ、走り出すと力の限りネメシスを殴り付けた。

 

 しかし、腐ってもタイラントを超えたB.O.W.。全身の損傷を一切意に介さず、大木のような足でジャクリーン目掛けて蹴りを放ち、互いの拳と足はそれぞれすり抜けて命中する。

 

 結果、ジャクリーンはくの字に身体を仰け反らせながら数歩後退すると共に怯んだことで触手が回収され、ネメシスは大きく一歩後退すると膝を突いた。

 

『暴走状態ノ"ネメシス"相手二ハ僅カニ純粋ナ"力"デハ負ケテイルカ……』

 

 互いに巨体のため、後退によって数m出来た間隔は自身の後退距離の方が多い事からそう評価したジャクリーン。

 

 しかし、何処と無く興味深そうな様子の彼女は、首を鳴らすように異形の頭部を回しつつ、片腕の中から気に入って持ち歩いているポンプアクション式のショットガンの銃口を覗かせた。

 

『フム……。失敗作トハ言エ、少シハ楽シメ――』

 

 その言葉の途中――彼方から飛来してきたロケット弾が起き上がり掛けのネメシスに直撃し、爆炎と共に真後ろの壁にネメシスの巨体を叩き付ける。

 

 数mの距離で起こっているため、ジャクリーンも僅かに爆風を浴びるが、元より直撃しなければ飛ぶような重量ではない事と、かなり驚いている事により、その場で固まるばかりであった。

 

『エ……?』

 

 更に間髪入れずにもう一発ロケット弾がネメシス命中し、その爆発でネメシス寄生体の触手の一部と、ネメシスの組織の一部が吹き飛ぶ様子が目に入る。

 

 そして、ジャクリーンが視線をロケット弾が飛んで来た自身の斜め後方に目を向けると――。

 

 

『――――!』

 

 

 一体のキメラーβが武骨なデザインの重火器ー――"ネメシス用ロケットランチャー"をその多腕で構えており、再装填を急いでいる姿があった。

 

 ネメシス用武装。その正式採用されたロケットランチャーモデルであり、ネメシスを極秘研究している以上、この階層の何処かにあったらしいそれを目敏く見つけて来たらしい。

 

 ジャクリーンも探そうとはしていたが、殲滅してからのつもりだったため、寝耳に水であり、直感的に悪い予感を覚えた彼女は制止させようと動く。

 

『オイ、オ前何渡シテ、イヤ君タチ、少シ待――』

 

『――……!』

 

『――――!!』

 

『――!』

 

 しかし、キメラーβらは既に行動しているためか、主人に手傷を負わされた事に憤慨しているのか、ジャクリーンの制止の言葉を遮り、キメラーβの内の三体がジャクリーンより少しだけ前に出て――その多腕に一門の"ネメシス用ガトリングガン"が構えられ、既にゆっくりと銃身が回転していた。

 

 直後、ダウンしているネメシス目掛け、凄まじい轟音と共に三方向からガトリングガンの集中豪雨が降り注ぎ、研究区画の一角ごとネメシスを削って行く。

 

 更に残る七体のキメラーβらもいつの間にか集まり、それぞれが持つ銃器でネメシスを銃撃し、まるで真昼のようなマズルフラッシュがジャクリーンの視覚を染める。

 

『ウワァ……』

 

 そして、20~30秒ほど経過し、全てが終わった頃には、安物のミキサーに掛けたミートパイのようになったネメシスだったものが、穴だらけの地面にこびりつくばかりであった。

 

 無言でジャクリーンは女王ヒルとしての形態を解き、これまで擬態していた女性の姿になるが、その表情は絶妙に苦虫を噛み潰したような半笑いを浮かべており、やや口を端をひくつかせている。

 

「君たち……」

 

 ジャクリーンがポツリと呟く中、そんな彼女の回りをキメラーβたちは、SPが何かのように固めて辺りへの警戒を強めていた。

 

 現にネメシスに殺された事で今更ながら活性死者として立ち上がった副所長だったモノの頭部が即座に吹き飛んでいる。

 

 他で発生した活性死者も頭部を的確に破壊し、それから学んだようで先に死体の頭部を踏み潰して破壊しておく様子すらある。作業的に一撃で軽々と粉砕していく様は最早関心すら覚えるであろう。

 

 

「やはり商品にするには賢過ぎるなぁ……」

 

 

 "弱点という弱点もないしなぁ……"等と呟きつつ、ジャクリーンは上層階のフォーアイズらの到着を待ちながら目的のバグを起こしたネメシスたちと、NE-α型とNE-β型の確認と回収作業を進めるのであった。

 

 

 

 





~自作B.O.W.に対するジャクリーンの評価(ラクーンシティ時点)~

・キメラーα
粗体はキメラなのでぽこじゃか造れるが、指示を聞く知能がないので、いずれ作るカタログの隅にでも小さく載せとく程度のもの

・プレイグクローラー(簡易改良型)
狙う対象を持たせただけのプレイグクローラーなので、ダース単位ならカタログで売れるかも知れない

・ダンプリングタイガー
売れるかどうかは兎も角、可愛いからカタログには載せておこう

・キメラーβ
臨床実験の結果、成長速度が異常な上、自己判断で主人の命令を行動の範囲内で無視する様子も見られた。何よりタイラントと比べた場合にローコスト過ぎるためカタログに載せられない失敗作

・ハーブーT ニュクスーλ
とりあえず造ったけれど世に出しちゃいけないので絶対売れないタイプの失敗作

・プロトタイプ・ネメシス(女王ヒル製)
キメラーβの臨床実験の結果、頭を良くし過ぎるため、売り物としては芋づる式にお蔵入りになり、そっとカタログから削除した。かなしみ

・センチュリオン
うちで働いてるトラック兼作業ロボット、非売品

・ジャバウォック
タイラントとバンダースナッチの粗体が必要な上、自家製のプロトタイプ・ネメシス使ってるけど、一点モノでハイコストだから年に数体生産出来る体制があればワンチャンとても高値で売れる。なんならカタログの目玉にも出来る
あれ……? これ造った目的って、そもそも量産型タイラントを造ることだったような……まあ、いいか

・私
こんなの今までのB.O.W.の何れよりも売り物になるわけないだろ

・リサ
気が付いたら姉になってたB.O.W.。売りものじゃない

・フォーアイズ
流れでB.O.W.になったへんなやつ。誰か貰ってくれ





~QAコーナー~

Q:キメラ-βってどれぐらい強いの?

A:
 全く学習していない初期状態で武装無しならば、ハンター3~4匹に囲まれて倒される程度。タイラントと殺り合った場合、相性の関係で接近されたら掴まれて握り潰されて即死するのでまず勝てない。
 ただし、学習によって実力を積むB.O.W.のため、ハンクレベルの対人間及び対B.O.W.戦闘のプロから数ヶ月程掛けて直接学習させることで最大まで成長させ、銃器武装込みの場合、50名規模のU.S.S.部隊を単身で壊滅させることさえ可能。


Q:要するに最大でどれぐらいまで強くなるの?

A:凍ってないヴェルデューゴとタイマンで刺し違えるぐらい



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