BIO HAZARD -Queen Leech-   作:ちゅーに菌

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読み返してても設定に穴があるなとは思いつつ、これまでに買ってきた解体新書など莫大なバイオハザードの資料とにらめっこしつつ、作者のカニミソを絞り出して作っておりますが、莫大過ぎて未だに全容が把握仕切れていなかったり、元々がカニミソなので何かあればつついてやってください。作者は精神にジャック・クラウザーにナイフを当てた時のようなダメージを受けつつ真摯に直させていただきます。




女王ヒルの手記 2

 

 

 

 

1998年5月21日

 

 さて、結論から言えばプロトタイプ・ネメシスとやらを製造することが出来た。無論、改良も加えてある。ある意味、プロトタイプ・ネメシスの試作品、試作品の試作品なので文字にすると奇妙な物を何かである。後は成長を待って適当なB.O.W.に寄生させて実験するだけだ。まあ、寄生虫なので、過度に成長させる必要もないため、明日には打ち込んでみよう。

 

 このプロトタイプ・ネメシスに加えた改良はとりあえずは単純に、特別でない我々(ヒル)の遺伝子を組み込み、頭角個体である私の意のままに制御出来るようにした。自分で言うのもなんだが、B.O.W.にしか出来ない荒業だな。こちらの結果は既に寄生虫の段階で上々であり、プロトタイプ・ネメシス自体の制御は全て水準をクリアしたと言える。

 

 まあ、こんなにもトントン拍子で開発が進んだのには理由がある。と言うのもリサ・トレヴァーが何故か生きていたため、彼女を捕獲し、生命体としては消滅していたが、遺骸は背に埋まっていたプロトタイプ・ネメシスの名残を引き摺り出して解析し、一部を再利用することで、驚くほど早く造ることが可能になったのだ。

 

 一体、アークレイ研究所の廃棄処分は何を基準にしていたのかと、再び問い詰めたくもなったが、資料によると一応、3日は生命活動の完全な停止を確認した上での廃棄処分だったらしく、そのお陰で今はこうして面白い研究が出来ているので、まあいいだろう。

 

 何故だろうな。私が何もしなくても、アンブレラが大規模なT-ウィルス漏洩事故でも起こして、都市ひとつ規模のバイオハザードにするような失態を起こすような気がしてきたため、逆に不安になってきたのだが、私はその前に復讐を遂げられるのだろうか?

 

 そもそも、アンブレラはオズウェル・E・スペンサー、エドワード・アシュフォード、そしてジェームス・マーカスの3人で始め、それぞれが役割をこなしていたため、大企業として体を成していたのだ。にもかかわらず、現在は権謀術数の結果として、生化学の分野において門外漢もいいところのスペンサーだけが残った。

 

 今までならばよかっただろう。結局のところ、父がいた頃はT-ウィルスとB.O.W.を実用化に漕ぎ着ける段階であり、規模としても精々、社のトップシークレットに収まるレベルだった。

 

 しかし、今のアンブレラのB.O.W.を研究している支部の数は既に世界中に点在しており、更にプロトタイプ・ネメシスの資料から考えても、商品としてのB.O.W.の実用化まではそう遠くないだろう。キリがないが、他に挙げるのなら父がいた時点で既にハンターは実用段階にあった。それこそ、もう少し速度が出せるようになり、ネメシスの量産品をハンターに埋め込んでしまえば、単純な命令をこなせるだけでも市街地戦やゲリラ戦の主力に取って変われる程であり、世界中のテロ組織が喉から手が出るほどに欲しがるであろう。

 

 ならば、秘密裏に内部の者が国家やテロ組織に売ろうとしても何も可笑しくはない。そうなればもう、秘匿どころの騒ぎではない。あっという間にアンブレラの闇は公となり、アンブレラの名は人々の生活に根付く製薬会社から、眉唾物の悪の秘密組織の象徴に様変わりだ。そうなれば、B.O.W.を持つ程度でアンブレラが世界を相手に戦争か? 一企業風情に勝ち目などあるわけもない。

 

 なんだか、考えているだけで更に不安になってきたので、今日はもう筆を置こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年5月22日

 

 ひとまず、プロトタイプ・ネメシスが注入しても肉体の内圧や、組織に挟まれて死なない程度の大きさになったため、実験を開始した。

 

 今回製作したプロトタイプ・ネメシスは1体だけだが、様子を見ながら細かな調整を行うためこれでいい。また、そもそもプロトタイプ・ネメシスは、タイラントレベルに強靭な体を持っていない限り、寧ろ宿主を壊すことになるため、宿主がかなり限られるということもある。それに基礎は出来上がったため、これからは2日もあれば調整しつつ1体は作成可能だ。

 

 ちなみに同時平行で他にも幾つか実験をしている。私がこの研究設備の整ったアークレイ研究所を使えるのは、限られた期間のため、それまでに可能なことは全てやっておこうと言うわけだ。まあ、幸いにも始祖ウィルスは私自身がキャリアーのため、施設さえあれば研究は何時でも可能なのだが、イチイチT-ウィルスを始祖ウィルスから作り出すのも骨が折れる上、実験機材まで私は造れないため、やれることをするに越したことはないであろう。

 

 また、あまり関係のない話だが、仮に私の体にプロトタイプ・ネメシスを入れたとしても、乗っ取られることはまずない。というのも、始祖ウィルスベースのB.O.W.と、T-ウィルスベースのB.O.W.だと、ウィルスレベルで考えた場合では、どうやってもT-ウィルスが始祖に勝つことは非常に難しいためだ。

 

 何故かと言えば、始祖ウィルスはあまりに強過ぎる毒性を持つウィルスなのである。どれ程かと言えば、始祖ウィルスとT-ウィルスを同じシャーレに入れると、瞬時にT-ウィルスが死滅するレベルである。故に始祖ウィルスに適合するということは、賢者の石に選ばれるようなもの。現地のンディパヤ族も始祖ウィルスの大元である始祖花を食べ、それに生き残った者を大いに讃えたという習慣があることからもそれは明らかだ。

 

 よって、T-ウィルスは始祖ウィルスを発展させたモノと言うよりも、始祖ウィルスの毒性を削り、何にでも広く使いやすくしたモノ。もっと言ってしまえば改悪してコストを下げた量産品だ。まあ、ほとんど全てに使えない始祖ウィルスを、何にでも使用できるようにしたモノのため、T-ウィルスが下位互換だとは言えないがな。利便性の面で言えば、始祖ウィルスがT-ウィルスに勝るところなどひとつもない。

 

 よって始祖ウィルスベースのB.O.W.と化したリサ・トレヴァーの実験結果もはっきり言ってわかりきっていたことだ。本気で彼女を何か変えたいのなら、前提として始祖ウィルスベースのモノで実験が必要だ。リサ・トレヴァーと言わず、全体の実験記録を見る限り、T-ウィルスが出来た時点で、扱いにくい始祖ウィルスは、アークレイ研究所の実験からはほとんど無くなり、T-ウィルスが主体になっていたため、仕方あるまい。それほどまでに父のT-ウィルスの開発は偉大だったと言えるだろう。

 

 もっとも、私はリサ・トレヴァーと同様に始祖ウィルスベースのB.O.W.だ。それに多少のシンパシーを覚えなくもないが、だからといって、私が彼女を憐れむ訳もない。彼女はただの実験体、それ以上でも以下でもない。それに人間ですらない私が、聖書を引用して憐れむなど失笑ものだ。ヒル1匹の原罪を背負う救世主など絵本ですらあり得んだろう。聖書は人間しか幸福になれんのだ。

 

 話が大いに脱線した。それよりも今日の実験の対象。それはアンブレラ幹部養成所にいたムカデのセンチュリオンだ。二次感染した生物の中でも一際、巨大化を果たした個体であり、10mほどである。

 

 まあ、虫のB.O.W.に関しては父のレポートにも――。

 

『虫』

この太古から生き続けている生命体は半ば進化の袋小路に達しているのか、始祖ウィルスを投与しても、莫大なエネルギーによる巨大化や攻撃性の向上といった変化しか確認できない。現状、これらをB.O.W.として、実用化することは非常に難しい。

 

 ――このように記している。そのため、新たな脳を形成するという方法ならば、制御可能になるではないかという淡い期待を込めた実験である。

 

 何せムカデは、地上が通常の生物が生き難いほど高濃度酸素だった石炭紀に体長3m、体幅は45cmに達する巨大ムカデである"アースロプレウラ"が一番に思い浮かぶだろう。まあ、アースロプレウラは実際にはムカデやヤスデとは別種だが、見た目はほぼ変わらず、センチュリオンの方が何倍も迫力があることだろう。そして、私の小さなロマンは――。

 

 

 最初の実験の結果は見事に失敗した。

 

 

 センチュリオン自体は実験中も実験後も特に変わった様子はなかったのだが、人間からあまりに掛け離れた生物に投与されたせいか、センチュリオンの体内に入ったプロトタイプ・ネメシスが激しく拒絶反応を起こしたようで、脳が形成される前に死滅したようだった。どうやら、あまりに条件が掛け離れた相手にはこのままのプロトタイプ・ネメシスは使えないらしい。まあ、プロトタイプ・ネメシスのベースも人間由来の遺伝子のため、当然と言えば当然であろう。

 

 しかし、実験など莫大なトライ&エラーの繰り返しだ。今日の失敗を生かしつつ、プロトタイプ・ネメシスを調整して作製し、またセンチュリオンに挑むとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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1998年5月24日

 

 センチュリオンへのプロトタイプ・ネメシス投与実験2回目。今回はプロトタイプ・ネメシス自体にムカデの遺伝子を組み込むことで拒絶反応を抑えようという試みである。また、父の節足動物()に対する実験結果から、虫の遺伝子を増加させた場合の知能低下は疑いようもないので、我々(ヒル)の遺伝子を更に組み込むことで進化と学習を促すことで、代償出来るのではないかと考えたので組み込んだ。無論、我々(ヒル)に含まれる始祖ウィルスの毒性でプロトタイプ・ネメシスどころか、センチュリオンまで殺したら話にすらならないので、その辺りは考えている。結果的にプロトタイプ・ネメシスの見た目が、前回よりも気持ち節足が多めになったが、外見の変化は大した意味はあるまい。

 

 

 そして、私待望の2度目の実験は再び失敗した。

 

 

 今度は拒絶反応の問題は前回よりもマシになったようで、投与した後も問題はなかったのだが、いつまでたってもプロトタイプ・ネメシスがセンチュリオンの脳に達する様子がなかったのである。私の命令自体はプロトタイプ・ネメシスが聞いているにも関わらずだ。

 

 仕方がないので、センチュリオンを研究室で製作したグレネードランチャーの冷凍弾で活動性を弱め、私が素手で捩じ伏せた上で薬品で眠らせ、頭部を切り開いて確認すると、脳幹の下部までは達していたが、そこで何故か止まっていた。

 

 これから考えられる点は幾つかあるが、一番の原因はやはり脊椎動物の脳と昆虫の脳の大きさの違いではないかと結論付けることにした。まあ、プロトタイプ・ネメシスの触手でつつけば壊れそうな冗談のような小ささのセンチュリオンの脳を見れば答えも出よう。恐らく、プロトタイプ・ネメシスはセンチュリオンの脳を脳として認識出来なかったらしい。

 

 そもそも脊椎動物の脳と虫の脳を比べると、人間の脳が1,000億個程のニューロンで構成されているのに対し、昆虫の脳を構成するニューロンは多くとも100万個程度であり、その段階から既に異なるのだ。ニューロン数は脳の情報処理能力の大きさと比例しており、だからこそ父やアンブレラは人間による実験を選んだのである。3回目の実験ではこの辺りを改善点にするとしよう。

 

 とりあえず、プロトタイプ・ネメシスの原料になる生きた人間の脳髄や、他の実験に使う人体パーツや遺伝子情報が早くも一部実験で供給不足になり始めたことが、少し問題だな。反省点を挙げるならば、アークレイ研究所の襲撃の際に屋敷にいた連中を、ほぼ活性死者の犬とエリミネーターがほとんど殺しきってしまったのが、やり過ぎだったようだ。流石に私が捕らえて、実験用に生かしているアークレイ研究所の研究者だけでは、数の制限が難しいところだ。

 

 また、実験体が活性死者にならないように細心の注意を払いつつ、健康を維持することが割りと大変だとは思わなかった。本当に人間は3日程度水を与えないと脱水症状で死ぬのだな。使い途が減るので、容易に死体になるのは止めていただきたいが、この辺りは私の管理が間違っていただけだろう。実験用のラットよりも人間は多少貴重なのだから、丁重に扱わなければな。

 

 

 

P.S.

 センチュリオンから抜いた今回のプロトタイプ・ネメシスは与える相手もいないので、リサ・トレヴァーに入れておいた。前回のプロトタイプ・ネメシスの実験では、吸収されて消滅したそうなので、ゴミ箱代わりにすることにした。何せ、結果をアークレイ研究所に残せば、私が行った研究の全てがアンブレラに渡ることになるため、他の実験で廃棄処分するモノも粗方リサ・トレヴァーの体内に詰め込むことにした。何をしても死なずに吸収するため、実に体のいい廃棄処分先である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年6月6日

 

 少し期間が空いたが、今日は3回目のセンチュリオンの実験日である。今回は前回の反省を生かして、そもそも発想を変えてみることにした。何をしたかと言えば、最初の2~3日はどうにか、小さなセンチュリオンの脳に対応出来るようにプロトタイプ・ネメシスを10分の1程まで小型化しようとしたのだが、流石に父と同等たる私の頭脳をもってしてもオーバーテクノロジー過ぎたため断念した。そんなことが出来たら、センチュリオンで実験など最初からしていない。

 

 それで1週間以上の間で何をしたかと言えば、受精卵の段階で遺伝子操作をし、人間の雌個体に出産させる方法で製造する人間の卵子にハエの遺伝子を組み込んだB.O.W.であるキメラを用意することにしたのだ。

 

 戦闘能力は高くハンターと同等かそれ以上であるが、知能は昆虫並みのためB.O.W.としては失敗作の烙印を押されたキメラなのだが、脳自体の大きさは人間と遜色なく、にもかからず、使えている部分が昆虫程度だということに着目したのである。つまり脳をプロトタイプ・ネメシスとリンクさせるにはこれ以上ないのではないかと考えたのだ。

 

 とりあえず、遺伝子はハエに加えて、ムカデと我々(ヒル)の遺伝子を組み込んだ。更にタイラントの研究が行われていたアークレイ研究所では、セルゲイ・ウラジミール大佐の遺伝子情報を用いた卵細胞を作り出すことも可能なため、それを用いて製造されたキメラにプロトタイプ・ネメシスを使える可能性も高い。空いていた期間に5体ほどプロトタイプ・ネメシスを製造したので、1体でもキメラに使えれば御の字だろう。

 

 そして、母胎にはアークレイ研究所で捕獲した研究者の雌個体を選んだ。理由は、癌などもなく健康体だったためである。何故か、その雌個体は、キメラの母胎に選ばれると酷く興奮した様子を見せていた。思考能力が失われてはこちらとしても面倒なため、予めキメラの製造に支障が出ない程度のT-ウィルスの中和剤を投与してから行うことも説明したのだが、一体何が不満なのだろうか? そもそも私が、ヒルのB.O.W.であり雌雄同体の生物でなく、哺乳類で雌のB.O.W.だったのならば、他者などに頼らずに自分の子宮を使用して生産していたところだ。むしろ、父の記憶では研究者とはそうあるべきなのではないか?

 

 雌個体を寝台に拘束し、豊富な栄養と、追加で与えた成長促進剤の効果で1週間ほどで母胎は臨月まで達した。雌個体は成長促進剤の副作用で下腹部を中心とした全身の疼痛の訴え及び。キメラの製造に支障が出ない程度のT-ウィルスの中和剤のため、母胎の意思と知能を残したまま、代謝異常の症状が出る程度には進行しているため、常に空腹を訴えていたが、製造には何も支障はないことだ。

 

 そして、待ちに待った製造日には我々(ヒル)の遺伝子が入っていることで既に私の制御下にあるため、腹を裂いて産まれるといったB級映画染みたことは起こらず、しっかりと産道を通って生産されたため、再度使うことが出来る点はとても良く、製造数も1度に12体と中々悪くない。そのため、製造を終えた母胎に今後の実験で何かに使えるかもしれないということで、私がアークレイ研究所に留まっている限りはキメラの生産を続ける旨を伝えた。

 

 無論、身体的に製造に支障はないので、再び受精卵を子宮に与え、寝台に拘束して同じように成長促進剤を投与しておいた。まあ、そんな幾らでも替えの利く存在よりも、今は製造されたキメラが成長の方が遥かに重要だ。

 

 形は蛆虫だが、我々(ヒル)にどことなく似た幼虫は急速に成長を遂げ、3日ほどで羽化した。その姿は元のキメラとあまり変わらない上、相変わらず知能は昆虫並みで、背にあった羽がない。しかし、背中に生えていた6本の腕は10本に増えており、長さも倍以上になっているため、攻撃性能は格段に上がったと言えるだろう。また、体格も元のキメラよりも二周りほど大きく、外骨格も硬く厚みがあり、かなりの防御力を持つ。更に全てのキメラたちは我々(ヒル)の群れる特性から頭角個体の私を仲間と認識しているようで攻撃はしてこない。簡単な指示すら出せないが、呼べばあらゆる行動を中断して集まり、解散すれば直ぐに近くの生物に攻撃を開始するため、私にとっては使い捨ての護衛と割り切ればそれなりに使えるかもしれない。

 

 そして、私は製造したキメラのうち特に体格の良い個体の5体に対して、同じく5体のプロトタイプ・ネメシスを投与した。結果は散々なもので、投与した直後に死滅したキメラを除き、別の個体に投与することを繰り返すと、プロトタイプ・ネメシスが機能した個体はたったの1体だけであった。無論、他の初回製造のキメラたちは全滅だ。成功確率にすると8%。高いと言えば高いが、わざわざ、タイラント適合者の遺伝子情報から生み出した受精卵を使った確率と考えると製品としては失敗作だな。

 

 とりあえず、新たなキメラは"キメラ-α"、そしてプロトタイプ・ネメシスを投与したキメラは"キメラ-β"とでも命名しよう。どうせ、キメラ研究など誰もしていないので問題あるまい。

 

 プロトタイプ・ネメシスにより思考能力を獲得した1体のキメラ-βを観察すると、教えずとも引き戸・開き戸・ドアノブなどの特性を理解してドアから出入りし、食料を1ヶ所に貯蔵することを覚え、幼児用の玩具程度ならば間違えることもなく使い方を理解していた。また、ある程度言語も覚えさせた。

 

 そして、ここまでは全て下準備。本題はムカデの遺伝子を含むキメラ-βの脳を注入した同じくムカデの遺伝子を含み脳を形成したプロトタイプ・ネメシスごと、センチュリオンの脳を除去して移植することである。これでダメならばセンチュリオンの脳は除去してしまったため、廃棄処分だな。

 

 

 結果、3度目の実験は――成功した。

 

 

 最早、これがセンチュリオンと呼べるのかは謎だが、完全に制御下に置き、我々(ヒル)を動かす頭角個体の声か、言葉によって制御が可能になった。元々、戦闘能力の方の評価はする予定はないため、アークレイ研究所にアンブレラの部隊が現れたら、ぶつけてみる程度でいいだろう。

 

 ひとまず、正常に私のプロトタイプ・ネメシスが稼働していることがわかったため、ムカデによる動物実験はここまでとして、次はT-001による人体実験へと移ることする。

 

 

 

P.S.

 いつものように研究中に出たプロトタイプ・ネメシスや失敗した変異ウィルス類の廃棄処分のため、寝台に拘束したリサ・トレヴァーの元に向かったのだが、若干自分の置かれている状況を理解した振る舞い、ヒルの集合体が人型を成した私の姿に怯える様子、何より稚拙ながら言葉で他者の助けを訴えているのだが、どうしたものだろうか?

 

 それとよくよく思い返して気づいたのだが、リサ・トレヴァーはB.O.W.として、同じ父の始祖ウィルスベースで知能を持つ希少な存在。考えようによっては私の姉に当たるのではないか?

 

 

 

 

 

 







※女王ヒルさんは研究中や手記を書く間も含め、今までずっと白衣を着た女王ヒル第1形態の姿で居ました。



~B.O.W.~

キメラ-α
 人間の卵子にハエの遺伝子を組み込んだB.O.W.。受精卵の段階で遺伝子操作をし、人間の女性に出産させる方法で製造された。急速に成長を遂げ、羽化することで成体になる。通常のキメラとの違いはハエに加えて、ムカデとマーカスのヒルの遺伝子を組み込まれており、受精卵はタイラントの適合者であるセルゲイ・ウラジミール大佐のクローンの遺伝子情報を元に造られている。
 外見の相違点としては、腕の本数の増加と外骨格の強化がなされ、体格は180cm近く見た目通りにキメラとは比べ物にならない怪力を持つ。欠点としては重量の増加と筋組織の肥大化によって、キメラにあった敏捷性がかなり落ちており、天井や壁に登る能力は完全に消失した。しかし、10本に及ぶ身の丈以上の長さの折り畳み可能な背中の腕により、垂直の壁をかなりの速度で登ることも可能なため、汎用性は自体は上がっている。また、マーカスのヒルの遺伝子情報により、キメラ-α及びマーカスのヒルと群れる特性を持つ。
 しかし、キメラが失敗作の所以たる知能に関することは全く変化していないため、製品として見れば製造コストが数倍になっただけの失敗作である。

キメラ-β
 キメラ-αに女王ヒルが製造したプロトタイプ・ネメシスを投与したB.O.W.。それによって爆発的な身体及び再生能力の向上と、知能の向上が見られ、高水準に纏まった能力と高い任務遂行能力を持ったB.O.W.となった。
 しかし、相対的に見れば完成したB.O.W.となったが、性能面ではハンター及びキメラ以上ではあるがタイラントには大きく届かず、コスト面に関してはハンターに勝るところがひとつもなく、製造確率も10%を下回っているため、総合的には製品未満の駄作である。

プロトタイプ・ネメシス(女王ヒル製)
 実際のプロトタイプ・ネメシスを保管していたアークレイ研究所の資料と、リサ・トレヴァーに残っていた実際のプロトタイプ・ネメシスの名残から女王ヒルが製造したプロトタイプ・ネメシス。T-ウィルスがベースだが、進化と学習能力が高く汎用性の高いマーカスのヒルの遺伝子情報と、寄生先の遺伝子情報を組み込むことで、タイラント以外のB.O.W.への投与も想定して造られているため、肉体的に強靭なB.O.W.ならばどんな個体に対しても高い確率で身体・再生能力及び知能の爆発的な向上が見込める。ただし、思考能力の向上は童学期――自己効力感を求める段階まで知能を引き上げるため、未教育の場合、自己の赴くままに行動するようになる点だけは注意が必要。
 しかし、それを差し引いても女王ヒルは自身の遺伝子情報を直接使っているため、製造コストは比較的安価であり、現在この世界に存在するあらゆる試作品のネメシス寄生体の中で、最高のコストパフォーマンスと性能を両立し、既に製品としてこのまま売り出しても何も問題ない水準に達している。アンブレラに知れ渡れば、喉から手が出るほど欲しい逸品であろう。



~QAコーナー~

A:女王ヒルさんってどれぐらい外道なの?

Q:ブレスオブファイア4のユンナぐらい



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