BIO HAZARD -Queen Leech-   作:ちゅーに菌

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 リサちゃん可愛い(血走り目)

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女王ヒルの手記 3

 

 

 

1998年6月7日

 

お母さんのにおい 石の箱あけ くれた

お母さん いたけどいなか た もういない

お父さんのおはか あった お父さんもういない

でも私 妹いた まだひとりじゃない よかった

よかった

 

 

1998年6月11日

手のジャラジャラなくなった 嬉しい

お風呂ひさしぶりだった ごはんもおしいかた きれいな服も着せてくれた

ジャクリーン は 優しい

私の かぞく 大切な家族

 

 

1998年6月12日

 

りさ やだ

 

お姉さん ちがう

 

お姉さま ない

 

お姉ちゃん うん

 

 

1998年6月13日

 

ジャクリーン お姉ちゃん が

まもる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年6月11日

 

 リサ・トレヴァーが洋館に近い小屋に置いていた日記の辛うじてわかる日付から考えると、どうやらアークレイ研究所でオリジナルのプロトタイプ・ネメシスを投与された後に爆発的な再生能力が身に付いただけでなく、微量ながら知能の再獲得が見られていたようだ。それから考えると、彼女に私が大量のプロトタイプ・ネメシスを廃棄処分した結果、彼女は少しずつ知能を取り戻したのかも知れないが、既にそれ以外にも色々なものを彼女に埋め込んで吸収させて廃棄処分していたため、理由の方は確認のしようがない。

 

 また、知能が上がったと言っても、相貌失認に近い症状が消え、幾分か注意機能が向上したことが主な能力の更新であろう。リサ・トレヴァーの依存先が両親から私にシフトしただけに過ぎず、私は彼女の求めるようにしてやっているだけ。成長しない雛鳥に餌付けしているようなもの。

 

 まあ、既に存在しない親を探し続ける彼女を憐れんでしまったことがないかと問われれば否定はしない。私は、凡そ人間の感情は理解できないであろうし、倫理観や感情などが研究の妨げになるのならば全くもって不要なものと考えているため、理解したいとも思わん。

 

 しかし、家族愛だけは別だ。私は紛れもなく、父に――ジェームス・マーカスの純粋でたゆまぬ愛から生まれた。父はそれほどまで我々(ヒル)を愛していたことを誰よりも知っている。死に際に最期の思考が途切れる寸前まで父が考えていたことは、手塩に掛けた二人の男の裏切りへの怒りがあった。スペンサーへの怨讐があった。だが、それ以上に家族(ヒル)の今後の心配があったのだ。だからこそ、現在進行形で父に擬態し、父の名を語る片割れは私の意思に反する。

 

 まあ、打算的な意味でもリサ・トレヴァーは可能ならば抱えていた方がいいだろう。知性がある程度ついたとなれば今後はあらゆる面で有用だ。彼女の中で新たなウィルスを作る研究というのも面白いかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年6月12日

 

 元々、私がリサ・トレヴァーの妹だということを伝え、信頼関係の構築のために一旦、彼女への廃棄処分を停止してから約5日。

 

 昨日、リサ・トレヴァーに溶接された手枷と鎖を私が力ずくで外し、既に必要ない人皮のマスクを取り去り、溜まりに溜まった垢や汚れを落とし、整容を行って年齢相応の服を着せれば、目が赤い事と背中にプロトタイプ・ネメシスが入った隆起があること以外はただの14歳の少女が出てきたのだからこちらとしても驚いたものだ。

 

 どうやら、彼女の肉体は約20年以上も前から一切の時を刻んでいないらしい。真の意味での不老不死、不死者をこんなところで目にするとは、下らない理想を秘めていたスペンサーには皮肉でしかないな。

 

 ただ、それをしてからというもの明らかになつかれた。なぜか、彼女の距離がとても近い。こうして実験室の椅子に腰掛け、机に向かって手記に書き記している時も、彼女はクリクリとした大きな瞳で不思議そうに手記を脇から覗き込んでくる。まあ、彼女の知能で手記の内容を読み取れる訳もないので別にいいのだが、何が楽しいのか甚だ疑問だ。

 

 また、最初は私の姿に怯えていた気がするが、その辺りの価値観は最早どうでもいいらしい。質問しても要領を得ない言葉が返ってくるだけでなく、抱き着いてくるので彼女に私から質問はしないことにした。

 

 一番、疑問なのは何故か彼女は今日の1日中、私の背後をずっと着いてくることである。私が歩いて他の区画に向かえば黙ってそれに同行し、実験中や研究中は不思議そうな顔で後ろにおり、手記に書いているときは隣に椅子を置いてやると嬉しそうにそこに座る。

 

 一体、彼女にカルガモの遺伝子を取り込ませたのはどこの馬鹿だ? そんな記録はアンブレラ幹部養成所にもアークレイ研究所にもなかった筈のため、一部の研究者の奇行であろう。おのれ、アンブレラめ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年6月13日

 

 今日はリサ・トレヴァーの件で、非常に興味深いことがあった。

 

 それというのは、私が彼女を同伴して洋館内を移動しているときに、ヨーンという毒蛇に私がパクりと呑まれたのである。まあ、今までもたまにあったことだ。命じれば私を避けるB.O.W.たちとは異なり、ヨーンは知能が低い上に飢餓感に支配され、敵味方どころか相手の格の判断も出来ない出来損ないだが、何かの研究に使えるかも知れないため残しているレアな二次感染の個体なのである。そのため、いつものようにヒルに元から備わる麻酔を遥かに強力にしたような私の分泌物で昏倒させようと考えていると――。

 

 激昂した様子のリサ・トレヴァーが叫び声を上げ、全身からネメシスの触手を出して攻撃し、素手でヨーンの外皮を殴り付けて暴れたのである。ヨーンの中にいた私は、ヨーンの外皮が素手で抉り取られる音を聞いた。

 

 直ぐにヨーンから這い出た私は、貴重な実験体に死なれたら実験にならないので彼女を止めたが、それまでにヨーンは瀕死の重症を負わされて痙攣していた。まあ、それは直ぐに私が作った特製の救急スプレーで回復させてやったので問題ない。

 

 それよりも全身血塗れで、這い出た私を見て嬉しげに笑う彼女を見ると、見た目は14歳の少女に見えようとも彼女の根本的な部分は、人の顔で出来たマスクを被っていた頃と大差ないことに気付かされた。やはり彼女は誰かの庇護下に入らず生きて行くのは難しいだろう。

 

 そして、それを初めて感じたとき、父が初めてヒルに愛着を芽生えたときと似たような何とも言えない感覚を覚えた気がしたが、父の場合とはまるで状況が異なるため、意味がわからなかった。

 

 まあ、彼女を廃棄処分用に使用する件については、彼女の有用性を上方修正し、当分先送りにすることにしよう。

 

 こうして、記録を書いているときも隣にいるリサが何を考えているのか考えたが、全く答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年6月14日

 

 洋館にいたヨーンが回復していることを確認し、アークレイ研究所に戻ろうとすると、1体の活性死者が屋外の庭付近を忙しなく走り回っている姿を目にしたため、急遽捕獲して調べることにした。

 

 クリムゾン・ヘッド。アークレイ研究所の資料によれば、V-ACTと呼ばれるT-ウィルスの変種体によって、ゲノムの器である肉体に変化をもたらし、致命傷を負った活性死者の体組織が変化し蘇った存在である。宿主の意識が無くなり、休眠期に入ると体組織の再構築を行い、その際に細胞を活性化させ、体組織自身の改造を行うらしい。挙げられていた特筆点としては、体色が赤く変化し、通常の活性死者とは比べ物にならないほど動作が俊敏になり、筋力が上昇し、行動の妨げになれば無差別に攻撃する凶暴性を持っているとのことだったが、捕獲時に全て確認した。中々、興味深い。

 

 また、T-ウィルスの二次感染による全ての活性死者から、低くない確率で発生するらしく、頭部を破壊するか、焼却すれば発生しないらしい。しかし、T-ウィルスの完成が完全ではなかった頃のアンブレラ幹部養成所では発生したことはないため、私にとっては新たな研究対象である。

 

 私が気になったのは無論、このV-ACT。活性死者に突然変異をもたらすこれは、アークレイ研究所の資料では人間からしか発見されていないということ。ならば別のT-ウィルスベースの生物を頭部破壊と炎を用いずに生命活動を停止させ、V-ACTを打ち込んだらどうなるのかということが気になったのである。

 

 という訳で、実際に実験してみた――。

 

 

○二次感染

・活性死者

結果:クリムゾン・ヘッドに変異

※体内で生成されたV-ACTでなくとも問題ないらしい

 

・クリムゾン・ヘッド

結果:変化なし

※スーパー・クリムゾン・ヘッドなどになるのではないかと少し期待していたため残念である

 

・クロウ

結果:変化なし

※鳥類はダメなのだろうか

 

・ジャイアントスパイダー

結果:変化なし

※広意の虫もダメなのだろうか

 

・バット

結果:変化なし

※哺乳類ならいいというわけでもないらしい

 

・活性死者の犬

結果:変化なし

※まあ、あれ以上俊敏かつ凶暴になっても困る

 

○B.O.W.

・プレイグ・クローラー

結果:変化なし

※B.O.W.ならばと思ったがダメらしい。虫だからだろうか

 

・ラーカー

結果:変化なし

※両生類もダメらしい

 

・エリミネーター

結果:変化なし

※猿でもダメらしい

 

・ハンター

結果:変化なし

※人間の遺伝子情報を持っているだけではダメなのだろうか

 

・キメラ(キメラ-α)

結果:変化なし

※やはり人間の遺伝子情報だけではダメなようだ

 

・マーカスのヒル(一般個体)

結果:変化なし

※赤くならなかった

 

・女王ヒル(私)

結果:変化なし

※赤くなれなかった

 

 

 結果的にやるだけ無駄な実験であったが、無駄ということが判明したため上等だろう。大した収穫にはならなかったが、V-ACTの投与の過程で、対象に致命傷を与えなければならない突然変異までのラグと、注射器を使って投与することの使い難さを感じたため、スプレータイプで即効性のあるV-ACTを製作した。これを殺虫スプレーのように体のどこにでも吹き掛ければ、直ぐにクリムゾン・ヘッド化が起こる。少し、楽しいと思ったのは内緒だ。

 

 折角なので、更にそれから発展させ――。

 

 

"C-発煙弾"

 

 

 性能のいいグレネードランチャー用の発煙弾を作り、それに詰め込んでみた。無論、頭文字のCの意味はクリムゾンである。攻撃性能どころか視界を塞ぐ性能も削り、ただ周囲への拡散性と空気中での滞留性を上昇させたため、理論上は着弾点から半径160mの範囲まで瞬時に拡散する筈だ。そして、効果はこれを浴びた活性死者に瞬時に影響を及ぼし、非常に短時間かつ一切の外傷を与えずともほぼ100%の確率で、V-ACTによる突然変異を引き起こさせ、クリムゾン・ヘッド化させる代物である。

 

 まあ、その性質上、詰めたV-ACTが非常に微細で軽いため、最大の弱点は雨天ではほぼ無力化されることだろう。無論、風で効果範囲にばらつきが出るため、それにも弱い。しかし、逆に外部から施設の換気ダクトにたった一発投擲するだけで、施設全体に拡散させることが可能なため、アウトブレイク下の建物内で使用されれば大惨事になるだろう。リサには決して使わせないように弾は注射器のイラストが描かれた箱に入れ、手の届かないところに置いておく。

 

 V-ACTは感染していない人間に対しては全くの無害のため、T-ウィルスと抗体のセットに付け、テロ組織にでも売ればひと財産を築けそうなものだな。アークレイ研究所から離れた後、資金調達のついでにアンブレラの名を語って販売することで嫌がらせをすれば一石二鳥かもしれない。

 

 

 

 ここからは完全な蛇足だが、実験で作り出した個体のクリムゾン・ヘッドは、案の定、一番近くにいた私に飛び掛かった。しかし、即座にリサの触手に巻き取られ、動かなくなるまで殴り付けた上、最後には触手で首をもぎ取り、やはり笑みを浮かべながら私に差し出してきた。

 

 状況判断能力が向上した上、拘束がされていないリサの戦闘能力は、威力もさることながら敏捷性が凄まじい。アンブレラ社が生産するタイラントの遺伝的素体であるセルゲイ・ウラジミール大佐が、直接調整したイワンというT-103型のカスタムタイプにスペック上ならば準じるのではないかと思うほどだ。アークレイ研究所の記録にイワンを見つけたときは、とっくにタイラントは完成したのか、社員のタイラント製造の意識向上をさせるためのプロパガンタか何かなのではないかと考えたほどだ。

 

 後、リサは撫でると目を細めて喜ぶということが判明したため、積極的にしていこう。それと、彼女から更なる信頼を得るため、少々窮屈だが、リサ・トレヴァーという人間が20代半ばまで成長出来ていたらなっていたであろう姿に擬態することにした。まあ、人間の社会に入り込むならば擬態は必須であるため、私自身の訓練の一環にもなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アークレイ研究所の研究室の一室にある予備部屋。比較的手狭なそこに置かれた机に向かって日々の記録や研究レポートをまとめている女性と、その隣に置かれた椅子に座る少女がいた。

 

「ジャクリーン」

 

 アークレイ研究所という場にそぐわないほど普通の少女らしい服装と、整容が行き届いているため衛生的な姿をした少女――リサ・トレヴァーは机に向かっている女性に声を掛ける。

 

「なんだね?」

 

 するとジャクリーンと呼ばれ、リサに似た容姿をした白衣姿の女性は、作業の手を止めて掛けていた眼鏡を直しながらそう呟く。

 

 リサは胸に抱えている20cmほどのやや大きな黒紫色のヒルを、ぬいぐるみを抱き締めるように少し力を込めると口を開いた。

 

「呼んだだけー!」

 

「…………そうか」

 

 その言葉にジャクリーンは何とも言えないような表情を作りつつ、リサの頭に手を伸ばす。そして、ゆっくりと頭を撫でると、リサは嬉しげな様子で椅子をジャクリーンに寄せ、体を彼女に預けてピタリとくっついた。

 

「ふわぁ……」

 

 そのまま、ジャクリーンは気にせずに暫く作業をしていると、リサは欠伸をひとつ落とし、目を瞑るとそのまま寝息を立て始める。

 

「はぁ……」

 

 するとジャクリーンは小さく溜め息を吐き、立ち上がりながらそっとリサを抱え、起こさないようにか、擬態が崩れないようにか、非常に慎重な足取りで近くにあるソファーまでリサを運ぶとそこに寝かせた。

 

 そして、眠っているリサに毛布を掛け、少し彼女を眺めてからポツリと呟く。

 

「母親にでもなったような気分だ……」

 

 そう言うわりには、ジャクリーン――女王ヒルが作っている表情には疲れや困惑の色は見られず、むしろ少しだけ口角が上がっているように見えた。

 

 

 

 







※ジャクリーンさん(女王ヒル)はマーカスの全てを引き継いでいるため、マーカスと同じように家族や認めた一部の存在にだけは非常に優しいです(尚、それ以外)


擬態ジャクリーン
 人間に擬態している状態の女王ヒル。ジャクリーンとはジェームズの女性名詞。静止状態ならば顔のシワのひとつといった細部まで擬態することが可能だが、あまり激しく動くと擬態が崩れるため、最低限歩いても問題ないように訓練をしている。眼鏡を顔からずれない位置に維持することが特に難しいらしい。
 また、現在はリサ・トレヴァーを模した女性の姿をとっているが、ヒルはそもそも雌雄同体のため、女王ヒルに性別という概念は存在しない。

※蛇足だが、バイオハザードのナンバリングタイトルにおいて、入手出来る無限ロケットランチャーで数発必要なボスは意外と少なく、女王ヒルはその中でも非常に稀で、かなりの数の無限ロケットランチャーを当てなければ倒せないボスである(ゼロの無限ロケットランチャーが携帯式のため、他作品に比べると威力が低いが、それにしても他のゼロのボスは2発で倒せるため異様に硬い)。
ちなみに女王ヒル 第一形態の体力はプロトタイラントの約2倍、女王ヒル 第二形態の体力はプロトタイラントの約1.5倍のため、女王ヒル 第一形態の方が何故か体力はかなり多かったりする。


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