BIO HAZARD -Queen Leech-   作:ちゅーに菌

5 / 23
女王ヒルの手記 5

 

 

 

1998年6月21日

 

 プロトタイラントの改良のためにプロトタイプ・ネメシスの改良を進めているが、暫く大きなB.O.W.開発はやることがないので、もっと前から進めている研究に取り掛かることにした。

 

 それは単純かつ、アンブレラ支部ならば競うように行っていること――"量産型タイラントの製造"である。

 

 なぜそれをアンブレラが世界中でしているのかと言い切れるのかと言えば、確かにひとまずの量産型であるT-103型タイラントは完成をしている。しかし、世界の戦場に投入するとなった場合、コスト面で未だに問題があり、その上に単体の性能としては正直なところ現段階で微妙なのだ。

 

 何せ、普通に考えればタイラント1体と戦車1台ならば、量産型でさえタイラントの方が圧倒的に価格が高い。ならば、タイラントは戦車よりも優秀なのかと問われればハッキリ言って状況次第で如何様にも変わるであろう。確かに戦車よりも小回りは利くが、ドアすら開けれない個体が大多数な程に低い知能のため、武器を持たせることが出来ず、人間に比べれば機敏とは言っても限度がある。せめて、明確に圧倒的な優位――例えば自身に向けられた戦車の砲塔を理解し、見てから砲撃を回避するか、戦車砲そのものを腕で弾くぐらいの性能がなければ高い料金に見合わないだろう。言ってしまえば、タイラントは第二次世界大戦の戦艦にやや近いだろうか。まあ、そうは言うが、人間への偽装や施設内での戦闘能力などタイラントにしかない強みは多々ある。

 

 とは言え、まだまだタイラントの問題点は山積みのため、アンブレラ幹部にとっては支部の特徴を出し、己の確固たる地位を築くには、他の支部よりも強く独創的で安価なタイラントを生産することが求められるだろう。T-103型をこれからどう拡張するのかが求められるのだ。

 

 まあ、更に倫理面で言えば、タイラントの量産のためにβヘテロ・ノンセロトニンという物質が使用されているが、この抽出方法が問題であり、この物質は活性化細胞の中にしか存在しないために脳死状態の人体からは抽出できず、それに加えて脳が強烈な苦痛やストレスを感じた時に過剰分泌されるノルアドレナリンに反応する性質があるため、必然的に後述の非人道的な抽出方法に至っている。

 

 その方法とは、第2次成長期の若者の頭蓋骨を麻酔せずに切り開き、脳の下垂体を切り取るというものである。フォーアイズのように反社会性パーソナリティー障害に近い者や、私のようなそもそも人間ではない者がやるなら兎も角、タイラントが量産される施設全てでそう言った処理人員が確保出来るということはないだろう。如何に機械化しようと、スイッチを押すのが人間ならば大差はない。そして、それが何を生むかと言えば、人間とは愚劣なもので、それまで己は外道に落ちていたにも関わらず、神だの冒涜だのこんな研究をしたくはなかっただのと有象無象の理由を付け、下らん良心や雀の涙程度の正義感に苛まれた人員が、生産施設の情報を国や政府に密告する可能性が引き上がるのだ。

 

 要するにタイラントの量産などそもそも今のアンブレラにさえ、手に余ることなのではないかと私は考えている。在り来たりながら、過ぎたる力は身を滅ぼすとはよく言ったことだろう。やりたければ企業ではなく国家主導の元秘密裏にでもやるべきだな。

 

 とは言え、それはそれこれはこれ。私も独自のタイラントを量産することを目標にしてみることにしたのである。何せ、アークレイ研究所にあるものを使い潰そうと私の懐は一切痛まない上、後々どこかの国や組織に身を隠すならばそう言ったデータも持っていた方が、便利だろうということだ。そのため、アークレイ研究所にいる間に、試作品の1号を作ってしまおうという試みだ。既にこの計画自体は襲撃の翌日には始めており、これだけ量産性について書いているが、今回は完全にコスト面を度外視している。

 

 そして、私が各支部で開発されている様々なタイラントの目録から目を付けたタイラントは"バンダースナッチ"だ。

 

 バンダースナッチは汎用性を高めたタイラントというコンセプトで開発された人間ベースの試作B.O.W.であり、アシュフォード家主導の元で開発され、ロックフォート島などに配備されているらしい。

 

 低コスト性重視のために人間への偽装は施されず、外見は人間や量産型タイラントとは大きくかけ離れているなど、兵器としての実用面を重視して設計されている。特徴として最初に挙げられるのが、失われた左腕と退化した下半身を補うように発達した伸縮自在の右腕である。これには瞬発移動を可能とし、従来のB.O.W.にはなかった能力を有しており、目標追跡が効率的に行えるほどの移動速度を生み出す。また、右腕の筋組織増強により、凄まじい腕力を発揮することができるようになった。そのため、腕を鞭のようにして敵を叩き潰したり、持ち上げて頭部を握り潰すことが可能である。

 

 しかし、試作段階であるため、所々に失敗が色濃く出ており、左右非対称の体型と下半身が退化していることが災いし歩行機能は低下しているので、伸縮自在の右腕で補っているとはいえ即応能力が低い、左腕そのものが欠落している点、敏捷性が大きく劣る欠点、何故かタイラントの癖に炎に弱い、止めに攻撃時に弱点を露出するという致命的な欠陥が、タイラントと比較して大きな問題とされている。はっきり言って失敗作だな。

 

 まあ、鏡の国のアリスのバンダースナッチの詩の中で語られる燻り狂った素早い猛獣の名を持つだけはあり、腕を伸ばすという驚異的で異質な戦闘能力で、敵に与える恐怖感は相当なものであろう。そこだけはとても評価出来る点だ。そして、コストもT-103型を1体生産する10分の1以下に収まっているため、量産性自体は決して悪くはない。要は拠点防衛型のB.O.W.としてはそこそこ成功していると思うが、タイラントだと言われれば誰もが首を傾げる程度には微妙ということだな。

 

 それで、なぜバンダースナッチを選んだかと言えばやはり、"伸縮自在の右腕"という他にはない唯一無二の利点がタイラントの中で最も輝いて私には見えたのだ。それに何を隠そう、私は全身が伸縮自在のようなものだからな。一種のシンパシーすら覚えなくもない。

 

 そんなことを1ヶ月以上前に考えつつ、T-002型の培養室や準備室に置いてある培養槽を見てみれば――そこに1体だけ生きたバンダースナッチが入っていたことが完全な決め手である。まあ、なんと都合のいいことだとは思うが、T-002型や、T-103型の研究のためのサンプルとしてアークレイ研究所に置いてあっても何ら不思議はない。まあ、成功だけでなく、失敗例もわからねばならないという戒めのようなモノであるとは思われるが、存在する以上、私は十全に使って見せるさ。

 

 そして、改良案をまとめ、バンダースナッチに施したのは約1ヶ月ほど前の話。それから丸々、1ヶ月間じっくりと内側からの改造と調整を施し続けたのだ。今回に関しては完全な私の領分のため、失敗はないと断言しよう。

 

 ちなみに新たなバンダースナッチの名はもう決めてある。改良前がバンダースナッチならば、改良後は"ジャバウォック"だ。

 

 ジャバウォックとはバンダースナッチと同様に鏡の国のアリスに出る存在。ジャバウォックの詩の中で語られ、森に生息しており、鋭い鉤爪と牙による攻撃を得意とし、燃えるような赤い目を持ち、ふらふらとまたは揺れるようにゆらゆらとした様子で歩く怪物のことだ。まあ、それに近い性能だな。

 

 フォーアイズという研究助手も出来たため、明日には起動してみることにするか。人間が時間を掛けて熟したワインを空けるのを楽しみにする気分が、なんとなくわからんでもないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、夜間だが、ライトアップされたアークレイ研究所のヘリポートにて巨大なB.O.W.が佇んでいた。また、その10mほど前には20体程の活性死者たちが詰まった鉄檻があり、内部で外に出ようと手を伸ばしたり、檻を噛む姿が見られた。また、檻の出入口は巨大なB.O.W.の方へと向けられている。

 

 巨大なB.O.W.は3.5m程の体躯を持ち、頭身自体は十頭身程だが、右腕だけが身の丈とほとんど変わらない長さと、自身の胴よりも遥かに太い丸太のような腕をしている。そして、その腕を地面に付けて支えにするようにして立っているように見え、右側に体幹が明らかに傾いているため、酷くアンバランスな印象を受けた。

 

「では実験開始と行こうか」

 

「ふふ……実験の感覚は何物にも代え難い……」

 

「……?」

 

 見ればヘリポートで人が登れない高さに置かれた大きな貯水タンクの上で2人の白衣を着た女性が座っており、また座る場所がないようなので片方の膝の上に1人の少女――リサが大人しく腰掛けていた。

 

 2人の女性とは裏腹にリサは状況がわかっていないようで、足をパタパタと動かしながら退屈そうにしている。

 

「あっ」

 

 そんなとき、リサが声を上げる。どうやら、足をバタつかせていた拍子に履いていた靴を貯水タンクの下に落としてしまったらしい。

 

 リサは顔を後ろに向けて座っているリサとよく似た女性――ジャクリーンと顔を合わせると、特に気にした様子もなくポツリと呟いた。

 

「落ちちゃった」

 

「……そうか。まあ、丁度いいな。それを拾って私まで届けろ"ジャバウォック"」

 

 ジャクリーンが靴に指を指しながらそう言うと、巨大なB.O.W.――ジャバウォックは明らかに届かない右腕を伸ばし、人間の最大可動域まで達したと思えば、そのままするするとロープか何かのように腕自体が伸びた。

 

 そのまま、10m以上伸びたところで、ジャバウォックにとっては余りに小さな靴を親指と人差し指で摘まんで拾い上げると、更に手を貯水タンクの上まで伸ばしてジャクリーンの目の前でピタリと止まる。

 

 ジャクリーンは感心した様子でジャバウォックから靴を受け取る。

 

「よくやった。ジャバウォック」

 

「スゴいわっ! タイラントが靴を拾って潰さずに渡すだなんて巧緻性と知性がなんて高いの!? やっぱり実物のネメシス寄生体はずっといいわ……」

 

 その一部始終を見た日系人の女性――フォーアイズは興奮した様子と共に、うっとりとした表情を見せていた。

 

「緊急時には作業用クレーン代わりや、土木工事にも使えそうだな。次は飛ばすんじゃないぞ?」

 

「うんっ! ありがとー」

 

 ジャクリーンから靴を受け取ったリサは、ジャバウォックの大きく太い指に触れながらそう言う。命令が終わったと認識したためか、ジャバウォックは腕を縮めて元に戻す。

 

「さて、では戦闘実験の開始だな」

 

 そう言うとジャクリーンはポケットからビー玉のような大きさで、ピンク色のかんしゃく玉のようなものを取り出し、檻へ向けて投げた。

 

 ピンク色のかんしゃく玉は放物線を描いて飛び、檻の中へと入った直後、中にいる活性死者の1体に当たると、ポンッと小さく音を立てて破裂し、赤く薄い煙を檻の中全体にだけ充満させる。どうやらただのかんしゃく玉らしい――中身以外は。

 

 次の瞬間、檻の中にいて赤い煙を浴びた全ての活性死者が体を激しく痙攣させつつ、凄まじい勢いで全身が赤く染まり、クリムゾン・ヘッドへと変わって行った。

 

「それ後で貰える?」

 

「アークレイ山中で使わなければな。お前はアークレイ山中全ての活性死者をクリムゾン・ヘッドに変えかねん」

 

「それは残念……」

 

 ジャクリーンは心底残念そうな様子のフォーアイズを横目に、いつの間にか手に持っていたリモコンを操作すると、ジャバウォック側に向いていた檻の扉が自動的に開き始める。

 

 そして、ジャクリーンは檻を指差すと口を開いた。

 

「ジャバウォック。その檻から出てきた奴を残らず殺せ」

 

 その言葉を皮切りにジャバウォックの頭部と右腕を除く皮膚を突き破るように内側からヒルが溢れ、頭部と右腕以外の全身を覆う。

 

 そして、ヒルに覆われたジャバウォックは、ジャクリーン――女王ヒルが戦闘形態になった時のように下半身と胴体の全体が変化して光沢を帯びる。

 

 更に退化した左腕がヒルに覆われると、長く太い触手が現れる。右腕よりも一回り細いが、長さは同じ程度のそれは、百合の花のように内側に畳まれた5本の指のようなものを持ち、実際に腕としての機能を持つように見えた。

 

 気づけば、強靭な下肢で体を支えるようになったジャバウォックは、右側に傾いていた体幹が正中へと戻り、直立した姿勢を取り始める。

 

 それはさながら、体の70%程が女王ヒルに取り込まれたバンダースナッチと言えるような奇妙な姿になったジャバウォックがそこにいた。

 

「戦闘形態に移行する速度は及第点か」

 

 そして、檻の中からクリムゾン・ヘッドの群れが飛び出し、一番近くにいたジャバウォックへと駆け出す。

 

 それとほぼ同時に、ジャバウォックは通常のタイラントのように二足歩行で走り出すと、助走を付けた状態で大きく振り下ろされた右腕が、空中で縦に10m程伸びながら3~4体のクリムゾン・ヘッドをまとめて押し潰した。その破壊力は絶大で、直線上にあったクリムゾン・ヘッドの檻ごと叩き潰すと共に、鉄とコンクリートと肉片を辺りに巻き上げた。

 

 更にジャバウォックはヒルで出来た左腕を横へ振るうと、こちらは20m以上伸び、さながら巨大な鞭で薙いだかのようにジャバウォックへと迫っていた全てのクリムゾン・ヘッドをいとも簡単に打ち払い、弾き飛ばした。特に直撃したクリムゾン・ヘッドは、タイラントから繰り出されたあまりの破壊力故か、上半身と下半身がほとんど離断しているような有り様である。

 

 そして、更にクリムゾン・ヘッドの1体がジャバウォックの伸ばされた巨大な右腕に胴体を掴まれると、そのまま異常極まりない握力で握り潰してしまった。無論、最早事務的に次の対象にジャバウォックは腕を向け、その巨腕を伸ばす。

 

 その間にジャバウォックの周りにクリムゾン・ヘッドが集まり、爪や歯を立てようとするが、硬化したヒルで覆われたジャバウォックの肉体は、異様に弾力性と強度のあるゴムのような異質な硬さをしており、傷付きすらしてはいなかった。

 

 既にこれは戦闘実験でも何でもないただの蹂躙と化しているが、その光景はあまりに暴君(タイラント)の名に恥じぬものであろう。

 

「ああ……中々悪くない性能だな。唯一無二、私だけにある父の頭脳の再現は不可能だが、私の戦闘形態の再現ぐらいならば、ヒルをベースにしたネメシス寄生体が頭角個体()の真似事をすればこの通りだ」

 

 ジャクリーンが得意気な表情で、そう言っているうちにジャバウォックは全てのクリムゾン・ヘッドを文字通り握り潰し終わる。

 

 チラリと自身がしている腕時計に目を落としたジャクリーンは、クリムゾン・ヘッド20体の殲滅まで、2分掛かっていないことを理解し、口角を引き上げて笑う。

 

「ふむ……相手が弱過ぎたか。私のジャバウォックを測るにはタイラントにでも相手をして貰う必要があるな」

 

「へぇ、つまりそれって?」

 

 期待に満ちた様子でフォーアイズが視線を向ける中、ジャクリーンは当たり前といった様子で肩を竦めると口を開いた。

 

「次の標的はウィリアム・バーキンと、ラクーンシティだ。あそこにはウィリアムのラクーンシティ地下研究所以外にも、多数のアンブレラのB.O.W.関連施設がある。B.O.W.同士の戦闘というものも見てみたいだろう?」

 

「素敵……ええ、もちろん。ここは最高の職場で、あなたは最高の上司ね。マーカス博士」

 

 天職に着いたとでも言わんばかりに嬉しげなフォーアイズを見つつ、ジャクリーンは決行するその日を夢想し、静かに笑みを強めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年6月22日

 

 フォーアイズと共にジャバウォックの試運転を行ったが、タイラントの素体は非常に便利だということを、改めて感じた。元々のポテンシャルの高さも去ることながら、何よりも全ての個体が始祖ウィルスに適応しているというところがいい。セルゲイ大佐はアンブレラの筆頭だが、足を向けて寝れんな。

 

 まず、1ヶ月前に何をしたかと言えば、単純に"女王ヒル()が直々に産み出した大量のヒルの卵"を80%ほどの完成度で廃棄されていたT-002型に植え付けて餌にした後、バンダースナッチに掛け合わせ、1ヶ月掛けてゆっくりと微調整を施しながら肉体に馴染ませた。そして、最後にヒルベースのプロトタイプ・ネメシスを注入して完成だ。結果的にバンダースナッチ1体、T-002型1体、私の肉体を構成するヒルの遺伝子情報を持つヒル、ヒルをベースにしたプロトタイプ・ネメシス1体とかなりハイコストな仕上がりとなっている。T-002型の残骸を使用している辺り、本末転倒だな。

 

 そして、完成したジャバウォックの見た目は体色が灰色になり、浮き出た血管が黒紫色をしている事、背部にプロトタイプ・ネメシスが入っている膨らみがある事、全体的にやや巨大化したこと以外に見た目の変更点は特にない。

 

 さて、では1つずつ改良点を述べていこう。

 

 まずは左右非対称の体型と下半身が退化していることが災いし、歩行機能が低下しているため、伸縮自在の右腕で補っているとはいえ即応能力が低く、左腕そのものが欠落している点。

 

 これはジャバウォックと同化しているヒルが女王ヒル()が戦闘形態を取る時に近い形態を戦闘時に取ることで解決した。結果として、ヒルが右腕とほぼ同等の性能を持つ伸縮自在の左腕となり、更に下半身全体を補強することで、歩行機能を向上させてある程度の移動能力を得たのである。

 

 それから敏捷性が大きく劣る欠点。

 

 これだが、右腕でのみ可能だった瞬発移動が、両腕で可能となっており、森林や吹き抜けの室内では三次元移動を可能とし、向上した歩行能力と合わせ、かなりの敏捷性を持つことが可能となった。

 

 最後に攻撃時に弱点を露出するという致命的な欠陥。

 

 これに関しては通常時は心臓部をプロトタイプ・ネメシスの触手が覆い、戦闘時には更に上から体内のヒルが覆い被さり硬化することで破壊がより困難なものになった。

 

 また、ヒルを元に始祖ウィルスに適用した副次効果と、プロトタイプ・ネメシスによる大幅な知能の向上が見られるため、対象を殺さずに捕獲することや、炎といった自身にとって危険なモノを避ける危機回避能力が身に付いた。後、リサがジャバウォックの大きな手を見て、やってみたいとのことだったのでやらせてみると、じゃんけん程度の簡単なルールならばジャバウォックが理解出来たことは私も非常に驚かされた。

 また、再生能力の高いプロトタイプ・ネメシス、女王ヒル()の肉体を構成するヒル、T-002型の生命力を手に入れているため、戦闘形態のジャバウォックはタイラントと比べても常軌を逸した再生能力を得ており、正面から戦えば傷付いた側から回復していくため、一撃で死にさえしなければ、戦車砲の直撃にさえ耐え、再生という形で無効化するであろう。

 

 概ね戦闘能力は改善したどころか、最早別物のような戦闘能力と知能を手に入れたが、まだまだ欠点はある。特に問題なのが相変わらず、炎に弱いということだ。

 

 試しに戦闘形態のジャバウォックを火炎放射器で焼いてみたところ、ヒルで出来た左腕と両足の三肢の結合が緩み、弱点部位がネメシスの触手すら剥がれるため、無防備になるという致命的な欠陥が発生した。

 

 しかし、炎に焼かれつつも再生能力によって半ば無効化していた。そのため、仮にジャバウォックを倒すことがあれば、火炎放射器で足止めしつつ結合を緩め、守りを失った弱点部位を攻撃するといいだろう。

 

 また、相変わらず、我々(ヒル)の弱点である陽射しを浴びると急激に三肢の結合が緩んで動きが悪くなる上、弱点部位の守りもネメシスの触手のみとなるため、非常に倒しやすくなるだろう。そのため、直射日光の当たる場所に誘導して戦えば決して不死身ではなくなる。

 

 まあ、なぜこんなわかりきっていたであろう、あからさまな弱点を残したまま、製造したかと言えば大した理由ではない。弱点のない兵器など可愛いげがないからだ。

 

 真面目に話せば、兵器である以上は誰にも倒せない無敵の兵器というものはこの世に存在してはならない。例えばあえて、ある程度の耐用年数を超えると壊れやすくなるなる家電製品があるとするだろう。B.O.W.を用いた戦争とはすなわちそれなのだ。価格に見合った戦果のやや上のを挙げつつ購入したB.O.W.が死ねば、購入者は満足し、再び同じB.O.W.を買う。これで単純に倍稼ぐことが可能。そして、そのB.O.W.を使われた側もまた同じB.O.W.が使われる恐怖から、そのB.O.W.を購入すれば尚いい。故に性能がよく、そこそこ粘りつつ人間が頑張れば倒せるようなB.O.W.が理想と言えよう。まあ、このままのジャバウォックではコスト面が完全に論外なので試作品の域は出ない。

 

 尤も、私は父に造られた最高傑作のため、陽射しを克服し、無敵のB.O.W.になる気である。私は非売品だからいいのだ。まあ、その道のりは遠そうだ。

 

 しかし、やはり当面の問題は素材であるバンダースナッチの製造方法が謎ということだな。正直、成功品を模して作るよりも、失敗作を再現する方が遥かに難しい。そのため、ウィリアム・バーキンが所長を勤めるラクーンシティ地下研究所を襲撃し、アンブレラ社を混乱させた次は、それに乗じてアシュフォード島に赴く必要があるな。

 

 失敗作の設計図欲しさにアシュフォード家を襲うのは、多少心苦しく無くもないが、スペンサーへの復讐の前にはどうでもいい。それよりもまずはラクーンシティ地下研究所。

 

 まず、ラクーンシティ地下研究所の襲撃には、ジャバウォックと、実用化に足る改良を施したプロトタイラントを用いる。ラクーンシティ地下研究所のセキュリティを分析したところ、偽装して搬入するにしても2体のタイラントが限度であろう。故に2体のタイラントと私の3体でアンブレラと正面から殺り合うのだ。

 

 それに加えて、T-ウィルスの入ったアンプルを幾つか持って行く。それをラクーンシティ地下研究所内部で壊せば、直ぐにでも初期の空気感染でネズミへと移り、それからラクーンシティ全体へと爆発的に広がる。歴史上類を見ない最低最悪のバイオハザードの発生源となるだろう。

 

 そして、必要ならば私のタイラントを殿にしてでも速やかに離脱した後は、ある程度蔓延したところで、1人でも多くラクーンシティの市民の救助を行えば、後は勝手に生き証人としてアンブレラに大打撃を与える事だろう。多くて400人、少なくとも200人程度は救助出来れば御の字だな。

 

 ウィリアム、まずは貴様だ。貴様が父を踏み台にしたキャリアも、姑息でちっぽけなプライドも、G-ウィルスも、アンブレラも、何かも全て終わりだ。

 

 全て、全て、この世の地獄をラクーンシティに刻んでやろう。私はB.O.W.(兵器)なのだからな。

 

 

 

 







※女王ヒルちゃんはラクーンシティ地下研究所がウィリアムごと勝手に内輪揉めで壊滅し、全てのバイオテロの引き金になるとは露程も思っておりませんので、万全の準備をしております。



~B.O.W.~

ジャバウォック
 女王ヒルがラクーンシティ地下研究所襲撃用に製造した試作タイラントの1体。量産型タイラント"バンダースナッチ"をベースに、女王ヒルが直々に新たに産み出した自身の体を構成するヒルの卵を培養槽に浮いているT-002型タイラントの未完成個体に植え付け、喰わせることでタイラントの遺伝子情報を取得。その状態のヒルたちをバンダースナッチに与え、内側からの1ヶ月掛けて馴染ませ、最後にヒルをベースにしたネメシス寄生体を投与することで誕生した。
 性能としてはバンダースナッチの利点に、タイラントの戦闘能力を付与し、女王ヒル 第一形態に近い頑強さと、射程が遥かに長い擬態マーカスのムチ攻撃を持ち、ネメシスと女王ヒル由来の再生能力を持つ。特に再生能力が顕著であり、一見すると不死身に見えるレベルで与えられた損傷を自己再生出来る。そのため、互いに搦め手のないB.O.W.同士の戦闘ではめっぽう強く、また対タイラント戦を想定しているのか、身長が350cm程あるため、比べてみると通常のタイラントよりも一回り大きく、異常に発達している右腕の筋力からまず力負けはしない。
 ただし、ヒルの要素を強くし過ぎた弊害で、炎と日光が致命的なほどの弱点であり、燃焼中や陽射しを浴びせている最中は再生能力及び身体能力が著しく弱体化する。そのため、室内以外での活動はほとんど夜間に制限されることが運用上の大きな問題点。

※このジャバウォックは1998年にジャクリーンが、ヒル(始祖ウィルス)を用いて開発。"ジャバウォックS3"は2002年頃にT-Veronicaを用いて開発されたため、腹違いの兄弟のようなもの。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。