BIO HAZARD -Queen Leech-   作:ちゅーに菌

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 この前は後書きにジャクリーンさんの攻略メモなどを書きましたが、ゲームでの性能と、現実での行動は若干、異なりますのでご了承下さい(バイオハザードではよくあること)




女王ヒル ジャクリーン

 

 

 

 女王ヒル――ジャクリーンが15m程の距離を駆け出したと共に、まず放たれたレベッカのハンドガンの弾がジャクリーンの胴体に当たる。更に続け様に放たれたビリーの猟銃から無数の散弾が拡散し、胴体や頭部に命中する。

 

 しかし、一切減速することなく、ジャクリーンは向かってきたため、ビリーは猟銃から2発目の散弾を放ち、今度は銃口の1m程手前で女王ヒルの頭部を撃ち抜いた。

 

 流石に頭部へ至近距離からの散弾を受けたことにより、ジャクリーンは衝撃で行動が止められ、頭部が後方に傾くと同時に二三歩後ろに後退する。

 

 いい一撃を当ててやったと、結果にビリーは満足し――傾いていたジャクリーンの頭部が元の位置に戻ると共に、女王ヒルの胴体と頭部の様子を認識すると、目を見開いて思わず声を漏らした。

 

「おいおい、化け物かよ……」

 

 ジャクリーンの頭部と胴体には無数の散弾とハンドガンの弾頭が、深くとも精々5mm程でその強靭なゴムのようでしなやかな軟体の肌に全てめり込んでいたのである。

 

 そして、ジャクリーンが力むような動作を取ると、表面に埋まっていた弾丸が内側から押し出され、ボロボロと床に落ちていく。それが終わった後の女王ヒルの表面には、的屋にあるような安物のエアガンで発泡スチロールを射ったときに出来るような穴が無数に空いただけで、全くダメージになっている様子はなかった。

 

 更に表面が一時的にヒルに戻ってから再結合すると、その穴さえも無かったかのように滑らかな表面に戻る。

 

「下がってビリー!」

 

 レベッカのその言葉に、唖然としていたビリーが、まだ彼の背に隠れている赤い少女を片手で抱き上げると、そのまま飛び退く。

 

 その直後、液体が並々と入り、飲み口から火の着いた布が覗く瓶がジャクリーンの足元で割れる。

 

『オ、オオ……!?』

 

「ヒルなら火にも弱いでしょう!?」

 

 実際、その通りらしく、ジャクリーンは火炎瓶により下半身が燃え上がり、それに苦悶するような声を上げていた。

 

「まだっ!」

 

 そして、ジャクリーンが悶絶している最中、レベッカは次の火炎瓶に火を着けると、更に女王ヒルの胴体へと投擲する。それは弧を描いて飛び、女王ヒルへと殺到したが、直前にジャクリーンの腕に掴まれて不発した。

 

「なっ!?」

 

 更にジャクリーンは全身から体液を分泌させ、下半身と床に着いた炎をたちどころに消してしまう。

 

『木造ノ建物内デ炎ヲ使ウナ』

 

 二人に向けて、肩を竦めるような動作をしながら、ジャクリーンはそう言うと火炎瓶の布を取り、中身の燃料を頭頂部の口に瓶を傾けて流し込んでしまった。空き瓶に戻ったそれは床に優しく置かれ、コツンという反響音が嫌に大きく響き渡る。

 

 そして、直ぐにジャクリーンは動き出し、片腕を宙に構えてレベッカに向けると動きを止め――その直後、手の中から一匹のヒルが弾丸のように凄まじい速度で発射され、レベッカの胸部に激突した。

 

「――ッ!?」

 

 ハンマーで殴られたような衝撃がレベッカを襲い、肺から空気が吐き出されると共に後ろに倒れ込む。更にレベッカの胸部に放たれたヒルが体内に入り込もうともがいていたが、S.T.A.R.S.(スターズ)で正式採用されている防弾チョッキを着ていたため、喰い破ることは叶わなかったらしい。

 

「レベッカ――」

 

 レベッカが撃たれたことで、ビリーがそちらに気を取られ、悲痛な叫びを上げる。しかし、その時間を待つほど、ジャクリーンは戦いを楽しむ存在ではない。

 

「しま――ガッ!?」

 

 ハッとしてビリーがジャクリーンの方を見ると、既に目の前まで来ており、彼の胴を女王ヒルの腕が水平に襲い、体を弾き飛ばされた。壁まで吹き飛ばされたビリーは背中から激突し、肺の中の空気を全て吐き出す。

 

 なんとか、ビリーが痛みを堪えつつ立ち上がろうとすると、彼に向けて既にジャクリーンは腕を構え、ヒルの発射体勢を取っていた。

 

 レベッカと違い、ビリーは防弾チョッキは着ていない。その状態でジャクリーンのヒルをマトモに受ければ、只では済まないであろう。しかし、既に現在の二人は一時的にとはいえ戦闘を続行出来る状態ではなく、止められる状態でも避けられる状態でもない。

 

 そして、ジャクリーンからヒルが発射され――。

 

「アァァァ――!!」

 

『ヌ……?』

 

 その直前に、ビリーが吹き飛ばされたところで佇んでいた赤い少女が、斜め下の位置からジャクリーンが構えている片腕を目掛けて舌を伸ばしたことで、女王ヒルの射線が逸れて攻撃が中断される。

 

 それだけでなく、赤い少女の舌はジャクリーンの人間で言えば二の腕に当たる部分を完全に貫いており、傷口から明らかに人間のものではない鮮やか過ぎる色をした体液が溢れた。

 

『ホウ、コレハコレハ……大シタ威力ダナ。中々、狙イモ悪クナイ』

 

 すると自身の腕に突き刺さる舌を見ながら、ジャクリーンは興味深そうに貫いた舌と、赤い少女が舌を伸ばしている様子を交互に見ながらそんなことを呟く。

 

『ダガ、次ガナイゾ?』

 

 そんな問い掛けをジャクリーンが赤い少女に対して行った直後――レベッカから火炎瓶が飛んで来ていることに目を向けた女王ヒルがもう片方の手で火炎瓶を掴もうと手を伸ばす。その間に赤い少女は女王ヒルの腕から舌を抜いた。

 

『ダカラ火気ハ――』

 

 その言葉はキャッチする直前の空中で、火炎瓶が発砲音と共に粉々に爆発し、四散することで中身がジャクリーンの全身に振り掛かったことにより止められた。

 

「その澄まし顔が気に入らねえ」

 

 見ればビリーが構えたハンドガンの銃口から細い煙が立ち上っており、それを認識した直後、ジャクリーンは上半身を中心に全身が燃え上がった。

 

『ガァァアァァ――!?』

 

 やはり炎はこれまでの擬態マーカスと同じく有効らしく、ジャクリーンの硬度がありつつも柔軟な肉体にも明らかにダメージを与えている。

 

 しかし、全身から分泌液を出すという消火手段を持つため、長時間の効果は見込めず、怯みつつも徐々に立ち上る火の手が小さくなって行く中、ビリーが叫んだ。

 

「足だ! 小さいの!」

 

「――――!」

 

 その言葉によって赤い少女はジャクリーンの右足の大腿部を舌で貫く。銃弾は通さないが、何故か彼女の攻撃は有効らしく、それによってほんの少しだけ女王ヒルの体勢が右に傾く。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 そして、指示を出した直後にビリーはジャクリーンに向かって駆け出すと、懐からナイフを取り出し、そのまま女王ヒルの胸に目掛けて突き刺すと共に全力でタックルを行った。

 

『――!?』

 

(やはりコイツの体は……防弾には優れているが、防刃はほとんどない!)

 

 赤い少女の舌が貫いたときからビリーはそうなのではないかと考えていたが、柄までナイフが深々と突き刺さり、炎と唐突なナイフで怯んだことで、タックルによって突き飛ばされ、2~3m後方に後退したジャクリーンを見てビリーはそう考えていた。

 

 そして、短い時間の中で相棒と呼べるだけの数奇な運命を共にしているレベッカに、ビリーは声を張り上げる。

 

「レベッカ!」

 

「あれね!」

 

 その促しによって、レベッカはハンドガンを構え――。

 

 

 

 丁度、ジャクリーンの真上にあり、女王ヒルの倍以上大きさのある巨大なシャンデリアを吊るしている一本の鎖に目掛けて射撃した。

 

 

 

『――――――』

 

 キンッと金属と金属がぶつかる小さな音が聞こえた直後、何かが引きちぎれる異音を頭上から聞いたジャクリーンが上を見上げた直後、女王ヒルは大量の氷柱が生えたような鋭利なシャンデリアにより全身を刺し貫かれながら押し潰される。

 

 ジャクリーンの背中の口から伸びる触手は暫く蠢いていたが、最後には力なく倒れ、女王ヒルは床に伏したまま動かなくなった。

 

「やった……?」

 

「ああ……勝ったようだな」

 

「ウゥゥ……」

 

「…………よくやったな小さいの」

 

「アァァ――」

 

 勝利を喜び合い、ビリーに褒められつつ撫でられた赤い少女は嬉しそうに目を細め、彼にすり寄っていた。とんでもない怪物を倒してしまったと達成感や放心感を味わいつつ、次はこのアンブレラ幹部養成所の奥に進もうと考え――。

 

 

 ホール内に、一体これまで何処にそれだけの数がいたのか、全身を黒い装備で身を包み、アサルトライフルかサブマシンガンで武装した集団が雪崩れ込んできた。

 

「な、何よ!?」

 

「なんだ!?」

 

 ジャクリーンを倒した直後、と言うこともあり、完全に気を抜いていた二人は完全武装した集団に敵う筈もなく組伏せられる。更に赤い少女も口を塞がれて縛られ、ホール内は完全に制圧された。その数は優に30人前後はいる。

 

 そして、彼らの装備の背には赤と白の二色で描かれたアンブレラ社のロゴマークが刻まれていた。

 

「班長。確保しました」

 

 その中で、ひとりの隊長格の男がトランシーバーで誰かと会話している。そして、その内容がまとまったようで、隊長格の男は隊員に指示を送る。

 

「戦闘データは十分とのことだ。S.T.A.R.S.(スターズ)の女は引き続き拘束し、男は殺す。残りの2体は研究所に直接輸送する」

 

 直ぐに指示に従い、二人を押さえつける人員と隊長以外の黒ずくめの集団は動き出し、ジャクリーンの周囲と赤い少女の周囲に集まる。

 

 まず、ビリーへと隊長は持っているサブマシンガンの銃口を向け――次の瞬間、ホール内に乾いた1発の銃声が響き渡る。

 

 直ぐに空になった薬莢が床に落ち、硬く小さな金属を虚しく響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっ! よしっ! 道理で一班と二班が壊滅したわけだ……"三班"の投入を踏み切ったのは正解だったな!」

 

 アンブレラ幹部養成所の奥にある研究所の区画で、アンブレラ幹部養成所内全体を監視できる監視部屋にて、二人の男がモニターを見つめていた。

 

 片方は歓喜の震えを抑えられない様子で立ち上がって叫んでいる白衣を着た金髪の男性。手元にマイクを持っており、部隊に指示を出している様子が伺える。

 

 そして、もう片方はそれと反対に冷静な様子でモニターのうち、シャンデリアに潰されているB.O.W.を映し続けているものを、座ったまま何をするわけでもなくただじっと眺めている短めの金髪をした男だった。

 

「わかるだろアルバート! あのヒルのB.O.W.は既存のB.O.W.の能力を遥かに超えている! 言語能力を持ち、火が着けば消火する危機回避能力も持ち合わせ、タイラント並みに強靭な体をも持ち、天井を伝って移動すら出来る! 仮に量産が可能になれば、タイラントすら必要なくなるぞ! これだけでも養成所再利用計画をしようとした価値はあったんだ! 流石はマーカス博士だな……!」

 

 白衣着た男性――ウィリアム・バーキンは興奮冷め止まぬと言った様子であり、既にヒルのB.O.W.を自身の研究に役立てることを夢想しているように見えた。

 

「フフ……それにあれだけ強靭で利口なB.O.W.なら"G"にも適応するかも知れない……!」

 

「ウィリアム。今すぐ兵を下げろ。全滅するぞ」

 

 サングラスを掛けた金髪の男――アルバート・ウェスカーは真剣な表情でそう呟く。更に彼はサングラスを取ると、まるでこれから更に起こる事を眺めるように、頬杖を突いてモニターに映るヒルのB.O.W.から目を離さずにいる。そんな彼の表情は何処か愉しげに見えた。

 

「誘い込まれた……あるいはパンドラの箱に手を掛けたのはこちらだ……アレは今の我々の手に負える相手ではない」

 

「何を――」

 

 ウィリアムが、その言葉の続きを話そうとした時に、丁度モニターから銃声が響いたため、彼は嬉々とした表情でそちらに目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホール内にいる隊長に発砲された筈のビリーと、その近くで組伏せられているレベッカは驚いた表情をしていた。感染対策のマスクをしているため、表情は伺えないが、この場にいる全ての隊員も似たような顔をしている事だろう。

 

 何故ならビリーにサブマシンガンを向けていた隊長の頭部が弾け飛び、力なく床に叩き付けられたのだから。

 

 そして、銃声が上がった方向を見れば、倒したと思っていた筈のジャクリーンの腕が真っ直ぐに隊長の頭があった方向へと伸び、更に腕の中からショットガンが生え、掌から銃身が顔を除かせていた。

 

 その銃口から立ち上る細い煙を見れば、何が起きたのかは明白だろう。しかし、特にアンブレラに属する彼らの驚愕は想像を絶する。

 

 "人間の銃器を使うB.O.W."など存在しない筈なのだから。

 

 

『アンブレラァァァ――……!!』

 

 

 そして、底冷えするような人間とは決して言えないあの声が頭頂部の口から再び漏れ、その場にいる者に恐怖を植え付ける。

 

「コイツまだ生き――」

 

 最もジャクリーンの近くにおり、サブマシンガンを持った隊員が銃を構えようとするが、その前に女王ヒルの腕が、その隊員の顔に向き、暗い銃口を見据えた。

 

「あ――」

 

 そして、ついさっき、薬莢が落ちたということはポンプアクションが既に回転しているということを示しており、何が起こるか気づいて声を上げたが、一切躊躇なく発射された散弾は隊員の頭を容易に跡形もなく吹き飛ばす。

 

 更に、即座にハンドグリップがジャクリーンの片腕の中で往復するとポンプアクションが回転し、薬莢が腕の中から排出され、次に近い隊員へと銃口を向けて即座に発射する。B.O.W.の凄まじい怪力により、一切発射後の反動をものともしていないため、ポンプアクションから狙いを定めて発射までの時間が人間には不可能なレベルで恐ろしく速い。

 

「う、撃て! 撃てぇぇ!」

 

 隊員らは3人射殺されたところで、ようやく現実味を帯びて我に返り、レベッカとビリーを抑えている者以外のほぼ全ての隊員が、まだシャンデリアの下敷きになっているジャクリーンへ向けて一斉に支給されているサブマシンガンを放ち、蜂の巣と化す。

 

 

『アンブレラァァァァァ――……!!!』

 

 

 しかし、どれだけ撃とうとも決してジャクリーンは怯むことすらなく、身に受けたサブマシンガンの銃弾を次々と体外に排出しつつ、自身の背に突き刺さるシャンデリアを片腕で支え、それごと徐々に立ち上がった。

 

 その間にもショットガンを内蔵した片腕は射撃とポンプアクションを繰り返し、3人の隊員を仕留める。

 

「くっ……くそっ!? まるで効いてない!? これでも食らえ!」

 

 B級パニック映画からそのまま現れたかのような存在による恐怖に堪えきれず、ひとりの隊員がグレネードのピンを抜いて投擲し――背中から伸びるジャクリーンの触手に掴まれ、そのままボールのように投げ返された。

 

「えっ――?」

 

 自身が投げたグレネードでひとりの隊員が吹き飛び、更にその間に2人の隊員がショットガンで撃たれた。そして、ショットガンの八発の装填数を迎え、リロードしなければならなくなった為か、ショットガンが腕の中から排出され、直後に代わりとばかりにカスタムハンドガンの銃口が掌から覗く。

 

「うっ……!?」

 

「足がぁ!?」

 

 そして、ビリーとレベッカを拘束していた隊員の防弾チョッキやマスクで覆われていない手足の血管や神経が集中している場所を的確に射撃しつつ、地面に散乱している殺した隊員が用いていたサブマシンガンを触手でビリーへと弾き飛ばし、更にレベッカに掌からカスタムハンドガンをヒルの飛ばしたときよりもやや遅く射出する。

 

「――――!」

 

 これを好機と見たビリーはサブマシンガンを、レベッカはカスタムハンドガンを拾い上げて、それまで自身を拘束していたジャクリーンに撃たれた隊員を撃ち倒す。

 

 そして、赤い少女を拘束していた隊員に放って倒すと赤い少女を救出し、被弾をしないように3人でホールにある柱の影に隠れた。

 

 その間に、尚も隊員からのサブマシンガンによる掃射を一身に受けながらも、両手を使ってシャンデリアを浮かせて立ち上がると共に、体に突き刺さった幾つもの部分を勢いよく引き抜く。

 

 そして、体から引き抜いたシャンデリアを少し高く掲げると、隊員の一人に向かって投げつけた。

 

「えっ……ぎゃぁぁぁぁ!!?」

 

 その隊員はジャクリーンのようにシャンデリアに全身を串刺しにされ、断末魔を上げながら息絶える。

 

 それに目を向けることすらしないジャクリーンは、人間が首を鳴らすような動作をした後、背中の触手で近くのサブマシンガンを2丁引き寄せると、両腕で呑み込むように装着して構え、更に幾つかのマガジンを背中の触手で拾った。

 

 サブマシンガンを撃ってくる隊員に対し、ジャクリーンは両腕に繋がれた2丁のサブマシンガンで応戦し、2つの銃口から激しく断続的なマズルフラッシュが繰り返される。

 

 それが始まると、隊員はこれまでよりも遥かに凄まじい速度で消えて行った。何せ、ジャクリーンが放つサブマシンガンは人間とは違い、一切の反動による手振れがないため、異様に正確かつ、女王ヒルが行動を阻害するために手足か、一定以上は防弾のしようがない首筋のみを狙っている。その上、物陰に隠れた隊員には、近くの死体からグレネードを触手で拾い上げて投擲して炙り出し、逃げたところに掃射を掛けて殺す。恐ろしいほど効率的に命が刈り取られていく反面、グレネードを投げれば凄まじい反応速度で投げ返される上、女王ヒルには隊員側のサブマシンガンは全くの無力と言っていい。

 

 

 

『アンブレラァァァアァァ――――……!!!!』

 

 

 

 そして、明らかな怨讐を込めて女王ヒルは吼える。その光景を柱の影から見守るしかない二人は、アンブレラの部隊が、絶対に呼び起こしてはいけない悪魔を相手にしたということを感じていた。

 

 時間にして、最初にジャクリーンが隊長の頭を吹き飛ばしてから約1分ほど。女王ヒルのサブマシンガンによる掃射は最初に集めたサブマシンガンの弾倉まで使い切ったことで一旦止まり、背中の触手を伸ばしてサブマシンガンの弾倉を探し始めた。

 

 そして、ホールについさっきまで30人ほどいた隊員の残り人数は3名である。

 

「ひ、ひぃぃぃ……!!!?」

 

 するとひとりの悲鳴を皮切りに、3人は役目も何もかもを全て投げ捨ててひとつの扉に向かって一目散に走って行く。ジャクリーンは既に弾倉を見つけて再装填を終えた2丁のサブマシンガンを彼らの背に向けたが、扉が唐突に開き、入って来た人物を見た女王ヒルは、サブマシンガンの銃口を上に向けて攻撃を止めた。

 

 最後に残った3名の隊員が向かったその扉を頭を下げて潜るようにホールに入って来た者は、250cm以上の背があり、黒いトレンチコートと帽子を纏った大男である。

 

 それを見た3名は唖然とした様子で立ち止まり、ひとりが口を開く。

 

「た、タイラント……なんでこんな――」

 

 大男――タイラントと呼ばれたB.O.W.の手には、館の仕掛けのひとつにあった騎士甲冑が握っていたトゥーハンデッドソードの柄が片手で握り締められていた。

 

「――――!」

 

 そして、タイラントはトゥーハンデッドソードを凄まじい腕力と多少の技量を感じさせる振り方で、豪快に水平に薙ぐ。それにより、2名の隊員の上半身を通り抜け、一拍置いてから2名の隊員は胴体から泣き別れになり即死する。

 

「あ、ああ……ああ――」

 

 残り1名の隊員はタイラントから少しでも距離を取ろうと後ずさったが、続けざまに縦に繰り出されたトゥーハンデッドソードの一閃により、三人目の隊員は正中線をなぞるように、体を縦に真っ二つに切断された。

 

 そして、タイラントは切り捨てた死体を目に映すこともなくジャクリーンの前までやって来ると、一旦トゥーハンデッドソードを床に置き、胸ポケットから手帳とペンを取り出して待つ。

 

『ナンダ、仕掛ケノ剣ヲ回収シテキタノカ?』

 

 ジャクリーンはそう呟きながら、2丁のサブマシンガンを腕から床に落とすと、最初に使っていたショットガンを拾い上げる。そして、(おもむろ)にショットガンの弾を取り出すと装填を始めた。

 

 するとタイラントは手帳にペンで文字を書き、ジャクリーンへと見せる。

 

《剣はいいですね。近くにいる敵を簡単に一度で倒せますし、銃器と違って悪戯に弾を使う事もありません。持っておいて損はないと思いました。移動にかさ張りますかね?》

 

『ソウカ。父ノ"ヘソクリ"ヲ回収シテイルヨウダシ、他ハナニモ言ワンサ』

 

 見ればタイラントの背には一時的に床に置いてある物と、同じトゥーハンデッドソードは5本束ねて背負われていた。

 

 更にタイラントには余りに小さいため、ウエストポーチのようになりつつ、片方の肩についたリュックからは、入り切らなかったのか、金の延べ棒がハミ出ている。

 

《それに》

 

 そこまで書いたところで、両手足をジャクリーンに撃ち抜かれたが、致命傷は免れた1名の隊員が這って逃げようとしている姿に目を向ける。

 

 ジャクリーンはなんの躊躇もなく、ショットガンをその隊員へ向けたが、タイラントはそれを手で制す。その際に小さく笑みを浮かべたように見え、手帳とペンを胸ポケットに仕舞うと、床に置いたトゥーハンデッドソードを拾い上げた。

 

 そのまま、その隊員の背後に向かったタイラントは、隊員の背中を軽く片足で踏んで移動できなくする。

 

「た……助け……たっ――ぎひぃ!?」

 

 最後にトゥーハンデッドソード両手で構え、下向きに切っ先を向けると力の限り振り上げ、真上からギロチンのように首を切断する。そして、奇妙な断末魔を最期に一度大きく体が跳ねると2度と動かなくなった。

 

 それを終えると、タイラントは服に付いたポーチからやや硬質の布を取り出し、トゥーハンデッドソードの血を拭うとポーチに布を戻す。そして、胸ポケットから再び手帳とペンを取り出すと、書いた文をジャクリーンへと見せる。

 

《殺した手応えがある武器の方が好みです》

 

『ソウカ、マア、オ前ガソウ言ウナラ好キナモノヲ見ツケレテヨカッタナ。凶暴性ハ変ワッテナイヨウデ何ヨリダ』

 

 するとジャクリーンは、自身の胴体にショットガンを当てると、ショットガンは泥濘(ぬかる)んだ沼に沈むようにぐじゅぐじゅと音を立てながら体内に収納された。どうやら、何もない場所から銃を取り出していたのはこういう仕掛けらしい。

 

 それを終えるとジャクリーンはサブマシンガンをひとつ拾い上げ――その途端、女王ヒルの全身が蠢き、これまでの怪物のような姿から、スーツ姿のとある老人――肖像画と同じジェームス・マーカスの姿へと変貌を遂げた。

 

「触手……? 爪……? 舌……?」

 

 そして、わざわざ呆れたような様子で大袈裟に肩を竦めて首を振って見せると、ホール内の天井に設置された監視カメラのひとつに頭を向けて、また言葉を吐く。

 

「B.O.W.に使わせれば、銃の方がずっと強いに決まっているだろう?」

 

 それだけ言い終えると老人は歯を見せて笑い、サブマシンガンを構えると監視カメラを発砲して破壊し、更にホール内にある全ての監視カメラにも同様に破壊した。

 

「さて……」

 

 ゴトリとサブマシンガンを床に投げ捨てたときの反響音が酷く大きく木霊する。更にいつの間にか、その手にはビリーが女王ヒルに突き刺したナイフが握られている。

 

「大方、わかったかね? "アンブレラ"という企業の実体が」

 

 アンブレラの隊員の鮮血で真っ赤に染まりきったホールの中央に立ち、タイラントを伴う老人――ジェームス・マーカスは、そのナイフを物陰に身を潜めるビリーとレベッカの近くに放りつつ声を掛ける。

 

 二人は警戒を強めながら、それぞれサブマシンガンとカスタムハンドガンを向け、マーカスと対峙した。

 

 それに対して、タイラントが剣を構えて前に出ようとしたが、マーカスは手で制して止めた。するとレベッカの方から口を開く。

 

「あなたはジェームス・マーカスじゃなくて、ジャクリーン・マーカスでしょう……?」

 

「クククッ……最初は君らを殺すつもりだったが、気が変わったよ」

 

 レベッカの問いにそう言うと、ジェームス・マーカス――に擬態したジャクリーンは少し嬉しげな表情を浮かべ、ビリーを見つめた。

 

「君は囚人か、軍人かと思い。何処かのタイミングで投入された烏合の衆のアンブレラ バイオハザード対策部隊(U.B.C.S.)の生き残りかと考えたが、そのわりには妙に骨がある。加えて、あの忌々しいロゴも見当たらない」

 

「………………」

 

 ビリーはそれに答えないが、特に気にせずにジャクリーンはレベッカへと視線を向ける。

 

「無論、そちらのお嬢さんも違うと見える。そも奴らは、ビリー君を殺そうとしていた。敵の敵は味方とまでは言えんが、殺す必要もない。生かした方がアンブレラの不利益になる。アンブレラではない者が、アンブレラに立ち向かうことを止めるような真似はしないさ」

 

「……随分お喋りなのね」

 

「父譲りの癖みたいなものさ」

 

 そう返したジャクリーンはくつくつと笑い、最後にビリーに隠れている赤い少女――サスペンデッドへ目を向ける。

 

「まあ、私の製造したサスペンデッドの評価もそれなりに出来た。こちらもこれからは少し潜伏する為、身軽な方がいい。その子はくれてやろう。細やかなプレゼントというものだ」

 

「――! 気に入らねぇな。コイツの命を玩具のように……!」

 

「ほうほう、そこまで君が愛着を持っていてくれているならば、そのサスペンデッドも冥利に尽きるだろう」

 

 明らかにサスペンデッドをモノ扱いしているジャクリーンにビリーが声を上げると、ジャクリーンは興味深そうにそう返し、更に口を開いた。

 

「その者の価値とは、他者にどう扱われ思われているかによって全てが決まる。私にとっては好奇心で生み出したB.O.W.以外の価値は一切ないが、ビリー君にとって、人間のように思われ、家族や友人のように大切に思っていてくれているのならば、それはとても幸せなことだろう。私もかつてはそうであったように」

 

「コイツ……!」

 

 突如として、どの口が言うのかとばかりに博愛や無償の愛を語るジャクリーンにビリーはより怒りを向ける。

 

 しかし、日記の内容を思い返し、その所々に人間らしさがあるとも感じていたレベッカは口を開く。

 

「お父さん――マーカス博士の復讐……それがあなたの目的なのね?」

 

「左様。故にあのような企業とオズウェル・E・スペンサーを野放しには出来ん。何もかも全てを捧げ、この身を使い潰してでも必ずや滅ぼして見せるさ」

 

「――!? だとしたら尚更そんなやり方じゃ――」

 

「くだらん」

 

 嗜めようとしたレベッカの言葉をジャクリーンは途中で遮る。

 

「仮にだ。君たちがここで見て、感じた全てを、如何に真実を語った所で、そんな与太話を信じる者が何処にいる? あのアンブレラが生活基盤と化している街で誰が耳を貸すというのだ? それともアンブレラにでも訴えるか? ちなみにだが……アンブレラは現時点でアメリカ政府との癒着もあるぞ? 少なくともアンブレラとアメリカ政府、ついでにラクーンシティ。全てを一度に相手にするだけの手段と考えが君にあるかね?」

 

「そ、それは……」

 

「止めろレベッカ。コイツはもう、ほとんど死兵だ。言って止まるような奴じゃない」

 

 そもそも価値観が違い過ぎる。今の姿形は人間とよく似ているが、その中身はさっきまでの怪物の姿とそう変わらないであろう。

 

「さあ、私の手記を返して貰おうか。言った通り、君らが何を語ろうともアンブレラに揉み消されるため、私にとっては取るに足らん事だが……それだけはアンブレラに渡ると少し面倒だ」

 

 話は終わったとばかりにそう言って、ジャクリーンはレベッカに手を向ける。すると片腕だけが女王ヒルの姿に変異し、10m以上伸びてレベッカの目の前で止まり、不揃いで歪ながら指のような機能を持つ掌を向けた。

 

「…………わかったわ」

 

 ここで渋って、事を構えれば殺されるのは間違いなくこちら側のため、レベッカはその異形の手に手記を渡した。

 

「ありがとう。ちなみにラクーンシティの襲撃は、下調べやこちらの基盤も固めなければならないため、私の予定では来年度以降だね。遅くとも20世紀のうちには遂げたいところだ」

 

 直ぐにジャクリーンは手を縮めてジェームス・マーカスの腕に戻し、手記を捲って内容を確かめてから、擬態で作ったスーツのポケットに入れる。

 

「まあ、それなりに楽しめた。故に君らがラクーンシティに近付かない事を祈るよ」

 

 それだけ言うと、ジャクリーンはタイラントと共に踵を返してホールから去って行く。

 

 そのときに、同伴していたタイラントが自身の帽子を取って、こちらに会釈した姿が酷く印象に残った。

 

 

 






 ちなみによく誤解されますが、ウィリアム・バーキンってアンブレラ幹部ではないんですよね。幹部になりたがっているという記述が剥製署長宛の資料にありますので。

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