BIO HAZARD -Queen Leech-   作:ちゅーに菌

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正真正銘の癒し回です。

※この小説では原作でその後の登場がなかったキャラに、無理矢理"外付けの設定"を引っ付けて再登場させたりもします(いまさら)


あっ、バイオハザード1はこの後でしますのでご安心ください。










赤いオリビア

 

 

 

「全滅……だと……?」

 

 破壊されて砂嵐だけが映るようになったホールを映す画面を唖然としつつ、放心した様子でウィリアム・バーキンはそう呟いた。

 

「ば、馬鹿な……主力ではない急拵えの部隊にせよ、本社のアンブレラ 保安警察(U.S.S.)部隊だったんだぞ!? それがこんなにもアッサリと……こ、このままでは私のアンブレラでの立場が――」

 

「美しい……」

 

 ウィリアムが悲壮な表情をしていると、隣のアルバート・ウェスカーがポツリと言葉を溢した。

 

「剣を扱い、筆談を行うタイラントだと……? まさか、複数持っているということは刃毀れによる劣化を考えて予備を持つ知能を有しているというのか……? あれこそ完璧な兵士ではないか……」

 

 誰に言うわけでもなく、独り言を呟くアルバートは多少陶酔したような様子も見え隠れしており、普段そのような姿を見せない友人の様子にウィリアムは驚いた表情を浮かべる。

 

「ああ、悪い……まあ、お前の立場は問題ないだろう。今の一部始終は録画してある。それを本社に提出すれば、10年近く放置された施設で、タイラントをも超える謎のB.O.W.に部隊を壊滅させられたと理解し、流石に誰かを吊し上げることも出来まい」

 

「そ、そうか……そうだな。機密保持のためにこの施設を爆破すれば問題はない筈だ」

 

 アルバートはウィリアムにそう言って、落ち着かせた後、少しだけ眉を潜めて落胆した表情を浮かべつつ立ち上がり、置いていたサングラスを掛けた。

 

「この辺りが潮時だな。此度のT-ウィルス漏れと、それを本社の部隊ですら終息できなかった。アンブレラはもう終わりだ」

 

「裏切るのか!?」

 

 それに対して、ウィリアムはアルバートが裏切ることに対してと言うよりも、今この時点で裏切ることに驚いたと言った様子を見せる。

 

「私は嫌だ! まだ、Gが完成していない!」

 

 ウィリアムの叫ぶような声を聞きつつも、アルバートはエレベーターへと向かい、行き先ボタンを押しつつ彼に答える。

 

「好きにしろ。俺はこれからアークレイに行き、予定通りS.T.A.R.S.(スターズ)でB.O.W.のテストを行う。あの化け物がマーカス博士の忘れ形見だというのならば、その日記を拾ったレベッカには私のことを知られているかも知れんが……まあ、その辺りは上手く立ち回るさ…………お前も上手くやれよ」

 

「…………ああ」

 

 そうして、エレベーターの扉が閉まる。これが、アンブレラ幹部養成所からの付き合いであり、互いにそれなりに気の置けない関係の二人の最後の会話であった。

 

 実際、後世でアルバート・ウェスカーという孤高の男の生涯を見ると、友と呼べる存在はウィリアム・バーキンただひとりだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てが終わり、朝陽を眺めたビリーが地面に大の字で寝転がりつつ思っていたのは、生き残りアンブレラ幹部養成所を脱出した喜びと、"あっちのヒル野郎は大したことなかったな"という若干の落胆である。まあ、後者の比較対象は、ホールで交戦したジャクリーンという名の女王ヒル自身が日記で、進化の袋小路に自ら入っていったなんだとボロクソに扱き下ろしていた個体のため、それも仕方ないことであろう。

 

「ミアァァァ――」

 

 すると寝転がったビリーの様子を見てか、赤い少女もその隣で寝転がって見せる。その動作が酷く可愛らしく、ビリーは少しだけ頬を緩めた。

 

 そして、赤い少女を見ていたことで、これからどうするのかということを思い、ジャクリーンが言ったあの言葉を思い出す。

 

『その者の価値とは、他者にどう扱われ思われているかによって全てが決まる。私にとっては好奇心で生み出したB.O.W.以外の価値は一切ないが、ビリー君にとって、人間のように思われ、家族や友人のように大切に思っていてくれているのならば、それはとても幸せなことだろう』

 

 とても癪ではあるが、その通りだとビリーは考える。実際、このまま彼女をアメリカ政府にでも突き出せば、実験動物や、アンブレラのサンプル以上の価値がないまま、一生を終えるのが関の山であろう。

 

 ビリーは立ち上がり、隣にいるレベッカに向き合った。

 

「なあ、レベッカ。俺は別にどうなってもいいが……コイツはどうにかならないか?」

 

 これからレベッカは今いる丘からも見える洋館に向かうということを聞かされていたがそう言った。それほどまでに赤い少女のことが心配なのであろう。

 

 するとレベッカはビリーから認識票(ドックタグ)を取り、ビリー・コーエンは死んだということを彼に伝える。そして、笑顔になると赤い少女に目を向けてから彼に目を移す。

 

「私にはまだ任務があって、アンブレラからその娘を守れないと思う。だから……その娘の事をどうかお願い」

 

「………………ああ」

 

「ウゥゥ?」

 

 何もわかっていない様子で、立ち上がってビリーに触れている赤い少女は首を傾げている。

 

 そして、何故か口を開いた。舌を伸ばす相手がいないにもそうしたことに二人が疑問を抱いると、赤い少女の舌が動き出す。

 

「びりぃ……れべか……」

 

「しゃべった!?」

 

「――――ッ!?」

 

 それはアンブレラ幹部養成所で見つけてから、脱出するまで赤い少女が唸り声以外に初めて放った明確な言葉であった。それに加えて、稚拙ではあるが、二人の名前を言葉にしていた。

 

「レベッカ! 私はレベッカよ!?」

 

「れべか……?」

 

「レベッカ!」

 

「れべっか……!」

 

「そう、レベッカ!」

 

「れべっか!」

 

 レベッカが自身の名前を言いながら嬉しそうに笑うと、それに釣られてか笑顔になり、言葉を繰り返す赤い少女。その姿はどう見ても化け物ではなく、ただの少女でしかなかった。

 

「ねえ、ビリー? この娘に名前を付けてあげたら?」

 

「びりぃ?」

 

「俺が……?」

 

 ビリーはレベッカの提案に驚いたが、首を傾げて彼の名前を口に出す赤い少女を見ていると、名前は必要なものだと直ぐに感じるようになる。

 

「なら――」

 

 そして、ビリーは赤い少女の前に出ると少し考えた後でポツリと言葉を吐く。

 

「お前は"オリビア"だ」

 

 オリビアとは日本ではナデシコと言った方が有名な花の名である。ピンク、白、赤、紫などの色があり、花言葉は大胆・純愛・貞節などがある。ビリーという男から出た名前としては、笑えてしまえるほど洒落た名前であろう。

 

「そっか、よかったね! オリビアちゃん!」

 

「おりぃぁ……?」

 

「オ・リ・ビ・ア」

 

「おりぃびぁー」

 

「オリビア!」

 

「おりぃびぃあっ!」

 

「うん、言えたわね! 可愛い!」

 

「ウゥゥ――……」

 

 赤い少女――オリビアに彼女自身の名前を言わせたレベッカは、オリビアを抱き締めて撫でる。

 

 そして、暫く撫でた後、レベッカは最後にビリーに確りと向き合うと、敬礼をして見送る。ビリーは晴れやかな表情でそれに返すと、オリビアを連れてアークレイの森の中へ消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アークレイ山中の小川に近い場所で、無人の大型のキャンピングカーを見付けたのはビリーとオリビアにとって幸いだった。

 

 持ち主にとっては不幸だったであろうが、ゾンビに襲われたのか、他の二次感染した生物に襲われたのかしており、キャンピングカーの周りをユラユラと徘徊する1体の老年の男性のゾンビしかいなかったため、それを倒してキャンピングカーを頂いた。そのゾンビは運転席にあった免許証と同じ顔をしていたが、最早どちらも彼には必要のない物であろう。

 

 更にキャンピングカーひとつで、半ば世捨て人のような生活をしていたのか、ただ偏屈だったのか、銀行に口座を作ったりはしておらず、かなりの金額がキャンピングカー内にあった。

 

 加えて、もうすぐ21世紀だが、ハンドガンが1丁とその銃弾が200発。そして、ベトナム戦争で有名なウィンチェスターM70狙撃銃が2丁とその銃弾が900発ほど保管されていた。彼の中ではまだベトナム戦争が続いていたのだろうか。

 

「びりぃ――?」

 

 奪うような形となるのは心苦しいが、自身は既に死亡した身な上、今はオリビアもいる。ひとまず、キャンピングカーを入手し仮住まいとすることにビリーは決めた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「べっと――ふかふか、おりびあ――わたし、びりぃ――すき」

 

「上手いな……」

 

 3日後。ビリーはラクーンシティから離れ過ぎず、近過ぎないと言った距離にある森林や河川の近くにキャンピングカーを停めて、オリビアに言葉を教えつつ過ごしていた。

 

 と言うのも彼は、近い内にラクーンシティがジャクリーンの手により、アンブレラ幹部養成所とは比べ物にならない規模のバイオテロが引き起こされることを知ってしまっている。

 

 今の彼が出来ることなど高が知れているが、それでもそれらをそれを知って何もしないでいれるほど、彼は非情にも悪人にもなり切れなかったため、こうして事の発生を見守っている。せめて、今度こそはひとりでも多く助けられればという想いからだ。

 

「びりぃ――おりびあ――すき?」

 

「……ああ、好きだぞ」

 

 そして、オリビアと言えば、既に三語文を言える程に発話能力が向上していた。これは既に2~3歳程の発達を遂げていることを意味しており、人間発達学に照らし合わせれば、爆発的な勢いで知能面で成長していることに他ならなかった。仮にジャクリーンがそれを実験で知れば、愛着を持っていたのは彼女だったかも知れないであろう。

 

 しかし、そのようなものとは無縁であり、今年で26歳だが、暫く戦争に駆り出されていたビリーには預り知らぬところであった。

 

「びりぃ――おくさん――いない?」

 

「…………」

 

 そして、澄んだ目をしてビリーを見上げるオリビアから放たれた、一切悪意の無い言葉に彼は思わず閉口する。それは戸籍上は死刑囚として死んでいる彼には、少なくともアメリカ国内では無縁のことであろう。

 

 婚期だのなんだのにこだわるようなビリーではないが、面と向かって言われると、細やかな平穏な暮らしと言うものからは、随分と遠ざかってしまったことに彼は何とも言えない気分になった。

 

「こいびと――いない?」

 

 そして、オリビアは案外鋭いのか、無言の間を肯定と受け取ったようで、奥さんから恋人へと質問の範囲を狭めた。

 

 ビリーは戦争に行く前は、ガールフレンドぐらいはいたが、互いに大して想ってはいなかったため、戦争に行く前に別れたことを思い浮かべたが、そのようなことをオリビアに説明しても伝わらないと考えたため、"恋人もいない"とだけ簡潔に伝えた。

 

「なら――おりびあ――なる!」

 

 するとオリビアは名前の通り、花が咲くような無邪気な笑みを浮かべて、そんなことを言い始める。それに少しだけ目を丸くして驚いたビリーだったが、直ぐに親戚の小さな子供もたまにこういうことを言うことがあると微笑ましい者を見る目に変わる。

 

「…………せめてレベッカぐらい大きくなったらな」

 

「うん――やくそくっ!」

 

 子供らしい大人になれば自然と忘れるような小さく儚い約束。ビリーはそう思いながら、少しだけ困ったような優しげな顔でそう返した。

 

 

 

 ただ、ビリーは気づいておくべきだったかもしれない。ジャクリーンの日記でオリビアは産まれたときには5歳程と記載されていたにも関わらず、その3日後にビリーらが見つけたときには7歳程の少女の姿であり、今は8歳程まで成長していることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごはんだヨー!」

 

 アンブレラ幹部養成所での数奇な事件から、1ヶ月と少しの時間が経った頃。キャンピングカー内のキッチンに当たるスペースに掛かったカレンダーには"1998年の8月"と示されている。

 

 そして、キッチンでは"赤い女性"がフライパンとフライ返し片手にやや舌足らずな口調でそう言う。

 

 赤い女性が持つフライパンの上には、適度に焼けたベーコンエッグが乗っており、赤い女性は片方のお皿に多めに盛り付けた。そして、それが終わった直後にトースターから食パンが飛び出し、コーヒーの完成を告げる音がコーヒーメーカーから小さく響く。

 

「………………」

 

 その声とやや騒がしい朝の様子に起こされて、キャンピングカー内に備えられたベッドで眠っていたビリーが起床し、寝惚け眼を擦る。

 

 そして、ビリーは立ち上がると、キッチンスペースへと向かい、そこに隣接された食事スペースの横に立つ。その前に何気無く、赤い女性の後ろ姿を見た。

 

「……? ビリィどうしたノ?」

 

 赤い女性は流し台にフライパンなどを置いたところで、直ぐに視線に気付いて振り返る。

 

 その容姿は膝まで伸びた白に近い銀髪に、非常に整った顔立ちをしており、ビリーですらグラビア雑誌でしか見たことがない程、抜群に豊満なスタイルをしており、出るところは出て引き締まるところは引き締まり、ただ細いのではなく限界まで絞った鋼のような筋肉をしており、肉体美に溢れつつも人間からは若干外れているように見えた。

 

 また、全身の肌が鮮やかなまでに赤く、それ以上に瞳も赤いが、その目には丸いレンズの入った眼鏡が掛けられており、眼鏡の奥のルビーのような瞳が、不思議そうにビリーを見つめている。

 

 そして、料理のためか長い銀髪はポニーテールに縛られており、更にエプロンをしているが、8月も下旬の陽気のためかタンクトップにホットパンツというかなりラフな格好であり、彼女のアメリカのグラビアモデルも顔負けな肢体が溢れんばかりに強調されていた。

 

 彼女の背の高さは額に2つだけ小さくちょこんと付いた鬼のような角を覗けば175cmほどで、身長が180cm程のビリーと比べると少しだけ低いが、同じ女性のレベッカは160cm程なので差は歴然だろう。

 

「冷めるヨ?」

 

「ああ、ありがとう……"オリビア"」

 

「うんっ!」

 

 赤い女性――オリビアは嬉しそうに少女の姿をしていた頃と変わらない弾んだ声で返事をした。オリビアは短期間で急激な成長を遂げ、20代前半程の容姿になると完全に成長が止まり、今の姿へと変貌したのである。非常に長い髪はその証であろう。

 

 ちなみに眼鏡に関しては、アンブレラ幹部養成所にいた頃はビリーに掴まっていることが多かったように、リッカーの特性か退化はせずとも、生まれつきかなり目が悪い為である。よって度の強い眼鏡にしている。

 

 そして、ビリーが手を合わせて、いつものように神への食前の祈りを捧げると、それと同じくオリビアも手を合わせて祈りを捧げている。

 

 ジャクリーンによる神への冒涜の果てに産まれた彼女がそうしていることに不思議な感覚を覚えつつも、ビリーはジャクリーンがあのときに言った言葉を思い出した。

 

 

『まあ、私の製造したサスペンデッドの評価もそれなりに出来た。こちらもこれからは少し潜伏する為、身軽な方がいい。その子はくれてやろう。細やかなプレゼントというものだ』

 

 

 "アイツ、ひょっとして戦闘中にこれを見越して厄介払いをしたのではないか?"とビリーは決して嫌な訳ではないが、何とも言えない気分になりつつ、科学者というよりも魔女なのではないかと考え始める。

 

 そんなことを考え、ビリーの好みに合わせてほどよく半熟にされたベーコンエッグを食べていると、向かいに座って笑みを浮かべているオリビアが唐突に彼の手に自身の手を絡ませてきた。

 

「どう、ビリィ?」

 

 するとオリビアはビリーの手を取ると小さかった頃と何者変わらない無垢な笑みを浮かべると、心の底から嬉しそうな声色で口を開いた。

 

 

 

「私、レベッカより大きくなったヨ?」

 

 

 

 ちなみに、オリビアという花の中でも、赤いオリビアの花言葉は"純粋で燃えるような愛"である。

 

 

 

 

 

 

 







※リアルはクリスマスなのでビリーにサンタさんを送りつけました(リア充感染しろ)


そして、オリビアちゃん(0.16さい)がちっさいレベッカに喧嘩を売ったと思った心の汚れたそこのあなたにはウロボロスウィルスをプレゼントだ。




オロロロロロry)←身長の比較対象にレベッカを出していたため真っ先にウロボロスウィルスをプレゼントされる心のドス黒い作者


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