封印?その内解けるんじゃない?
バーンと左慈は肉薄した距離で闘い合っていた、武器等抜ける距離はなく、文字通りの接戦が行われていた。
肘がかちあげられ、膝が横から蹴りつけ、肩からの体重をかけたタックルが、震脚の余波、零距離から打ち抜く崩拳、そして互いの頭蓋をぶつけ合う頭突き。
「ぐぅっ!」
「ぬぅっ!」
互いに弾かれ零距離からの一指しの空白に二人とも次への溜めを作りこむ。
バーンは両手に炎を、左慈は右足に気を。
「受けよ!
「吼えろ!真・王虎襲撃!」
互いの技は奇しくも龍を呼び出すものと虎を生み出すものであり、形こそ異なるが竜虎相まみえる形となってしまう。
それに水を差す形となるのは、左慈の隣に現れる藍色の道士服に身を包む眼鏡をかけた優男だった。
男の表情は暗く失望にも似た顔をしていた。
「帰りますよ左慈。私たちの最終目的が達成不可能だという事がわかりました」
「………そうか」
「鏡を、もうこの外史が存続しようとも私達に意味はないです」
その言葉に銅鏡を懐から取り出し、バーンへと投げ渡すと何かしらの道術で二人は姿を空間に溶かすように消えていく。
投げ渡された銅鏡は確かに見たことがある物だった、正確には割れた状態で見たことのある奥にあるあの割れた銅鏡と同一のものだった。
まったくの同一のものだった。
「この世界に興味はない、となればやはりあやつの事か……」
元となる銅鏡を視ることでわかることがある、この銅鏡は『外史』という世界を構築するものであり、『恋姫†無双』というストーリーを生み出すためのキーアイテムであり、この世界を維持するためのものだと。
『北郷一刀』という人物はこの『外史』における主人公であり、特例を除けばその存在がなければ物語そのものが進まない、そう言った存在でもある。
「ふぅ……やれやれ……どちら側であっても達成は不可、という事かのぅ。それは左慈たちも『儂ら』も変わらん、か」
ふるふると頭を振るい部屋の惨状を改めてみる。
部屋は格闘戦だけでもなく魔法まで使ったもので凄惨たる状況だった、まともな部分がない。
「これ片付けるのは儂になるのかのぅ?」
そんなことになった部屋を見て呆れた状態になる。
ここで少し時間は戻る。
俺は文字通りの最終ライン、カリン達の居る生活空間に立っていた。
眼前には長髪に眼鏡をかけた胡散臭い男、『超人』于吉が驚愕の表情をしたまま立っていた。
「な……ぜ……」
言葉を詰まらせながら驚愕の表情は諦観に染まっていく。
「なぜ……貴方なんですかね……」
顔は俯き言葉を吐き出していく。
「なぜ、なぜ……貴方が、この世界に居るのか……」
再び上げた顔には怒りしか見えなかった。
「私の願いを叶えるために、死んでもらいましょうか!なぁ?!あいつを生贄に捧げたお前がいるんですかねぇえぇぇぇぇぇぇっっ!!ああぁぁぁぁ!?ひぃぃぃぃとぉぉぉぉぉしゅぅぅぅぅぅぅらぁぁぁぁぁ!!」
怒りが満載された雄叫びと共に力ある言葉が紡がれる。
『アギラオ』
それと同時に俺も舌打ちと共に力ある言葉を紡ぐ。
これには発声の必要はなく、言葉をしゃべれない今でも使うことができる。
『ザン』
ただ、俺に才能はない。下位の言葉を紡ぐだけで精いっぱい、中位の魔法に対抗するために魔力によるごり押しをする。
火の玉は無数に呼び出されるが、俺はそれに倍する数の衝撃の弾丸を生み出していく。
相性はよろしくはない、よろしくはないがこれでしのぎ切るしかない。
「あいつが、あの子がそんなことを望んでいない事なんて理解している!お前のために道の礎になることを選んだのを知っている!あぁ、あぁ、だからこそ!お前だけが!此処に居ることを納得ができるかぁぁぁぁっ!!」
数千数万の火の玉が俺を問わず、後ろにいるフウや白丹、空丹それを守ろうとするプリニー三人へと殺到していく。
打ち出された先から再び創り出される火の玉たち、迎撃する衝撃の弾丸は一つに対し二つ三つと消費していく、それに合わせ俺も弾丸を作り出すためにごりごりと音を立てるように魔力が減っていく。
下位と中位は威力はもちろんの事、消費に対するコストパフォーマスがいい、中位は下位の1.5倍程度の消費で倍近い威力に相当する。
「アイス!アイス!アイス!っすよぉ!」
プリニー達も必死に魔法を唱え応戦しようとするが、文字通りの焼け石に水の如く生みだされた氷は蒸発していく。
「ふぉぉぉっす!?威力が全然違うっすよぉ!?」
慌てながらもいつも通りの語尾を使っている以上余裕はあるようだ。
余裕なのはいいが、カットインまで入れて三人連携して火の玉蹴り飛ばすな、壁が焼ける。
「おおっ!なんだかプリニーがすごいんだもん!」
「こう?こう?」
空丹はプリニーの動きを真似ようとするのはやめろ、一応プリニーは生ものだから。
「受け取るっすよ!大将!」
コントのようなことをしている中、プリニーは金属製の剣を俺に投げ渡して来るのを後ろ手に受け取る。
「カズト!生贄ってどういう……」
「あぁ……お前は知らなかったのか。地上の総てを、人間全てを、70億という人命を使った。それがその男というだけだ」
声を張り上げたカリンが驚愕の表情を浮かべているのがわかる。
于吉の言葉は事実だ、事実だが……何のために行ったのかは言っていない。
心を揺さぶるだけならこれで十分だろう。不信を植え付けるには十分だ。
剣を構えた俺を見て于吉は舌打ちをし、新たに火の玉を生み出しながら両手に魔力をためているのが見て取れる。
力がある言葉はゆっくりとただ力のみを注ぎ込まれ形を成すが、いまだに言葉は紡ぎ続ける。
幾度かは見たことがあるが……数えられる程度の回数だ、見える力は無属性。
物理ではない『属性を持たぬ無色の力』、防御は無意味、回避が最適だが、後ろには俺が背負っている者がいる。
回避は論外。
防御は無意味。
耐えられる保証は無し。
■■■■が嗤っている姿が見えるようだ。
『お前に幸福な未来は似合わない。みっともなく足掻く様を見る、それこそがお前の本質だろう?』
かつて訊いた答えだ。
『抗え』
抗ってみせよう、背に守るものがある限り。
『辿り着け』
必ず辿り着いてやろう、お前たちが作った道を。
『connect ON 十束の十拳之剣』
刻む音が聞こえる それは刻を刻む音ではない
燃える光が見える それは光を生み光ではない
飲み込む闇が在る それはただ其処にあるだけ
カズトの右手が剣を溶かし飲み込んでいく、その光景を私は見ていた。
「なにが……」
記憶にノイズが走る。
豪雨の降る中、鬼灯の様に腹を染めた八つ頭の大蛇が天に挑む姿を。
『自分から生贄となった蛇の姿を見た』
それは確かに私の声だ、でも私はそんなことは覚えていない。
『人々は望んでいた者を飲み干し生贄となった人の魂を束ねて、剣を造り上げた大蛇は人の世界を沈める豪雨を止める前に己の腹を裂きそれを捧げた』
やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて
『生贄になった大蛇は龍王『■■■■■■■』、捧げた剣は『天之羽々斬』』
やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて
『生贄になったのは……
やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて
『魏の将兵の子孫たち』
やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて
『その始まりとなったのは
私はその光景を目を瞑り、耳を塞いで、身を縮こませ、ノイズで記憶に蓋をしようとした。
それでも、声だけがそっと頭の中に響く。
『だけどそれでも足りない』
「天帝陣・八極炉」
眼鏡をかけた侵入者の男の声が現実に戻す。
展開される魔法陣は見たことはないが、全盛期の私でも一撃耐えられるかどうかわからない、そんな力を内包していることは見て取れる。
そんな男の放つ攻撃にカズトは、右腕を繰り出していた。
力を弾く度にカズトの右腕は皮膚を失っていく。
その下から見えるのは夢で見たはずの、あの右腕だった。
色んなものが混じってるけどのんびりと逝きますよー
基本カズトには不幸が降りかかる、そんな仕様です