大丈夫だ問題ない、そんな人は最後までどうぞ
俺は大きく息を一度吸い、大きなため息を吐いて肩を落とす。
今まで付き合いのあった仲間たちが三人同時に冒険者を引退することになってしまったために、一人になってしまった為少々困っているのだ。
冒険者として組んでいたのだから危険がないという訳ではないし、確かに今までも怪我が全くなかったという事はないのだが三人同時というのは堪えるしかないだろう。
ため息はどうしても漏れるものだが。
別れるときに隣にそれぞれに彼女がいたというのだから。
ただ、短い間とはいえ仲間だったのだから祝福してやるべきだろう、普通ならば羨ましく思うのだろうか、それとも妬むものなのか。
俺にはわからない。
「お兄さん、お困りですか?」
そんなことを考えていたら、後ろから声をかけられた。
その声に訝しく思いながらも表情に出さず、振り返る。
振り返った先にはシルクハットが見えた、視線を落とせばモノクルを付けた金髪の少女が俺を見上げていて、服装はタキシードを模したドレスと言ったところだろうか?
その顔を見て、驚く。
「………」
言葉は出せないが、なぜ風がいる?そんな疑問が頭の中を埋める。
イクドトナククリカエサレルキオクノナカタダノイチドモダレヒトリタスケルコトガデキナカッタノダカラ ソレガサイゴニタドリツクタメニヒツヨウナイケニエダトイワレテイルヨウニ
「?」
振り返ったものの返事がないことから首をかしげている、いや、あの風なら……隠した驚愕を見つけて不思議に思っているだろうか。
少しかぶりを振り、軽く頷く。
「んー……見ても分かりませんねー」
「?」
今度はこちらが首をかしげる番だったがわかっている、ため息を見て声をかけたという事は、聞こえている。
「なんで声をかけたかという事でしたら、盛大にため息をつかれていましたから―」
顔を隠すように片手で顔を覆い、恥ずかしいところを見られたと言わんばかりにジェスチャーをする。
「ふふふ、お金絡みですか?」
やや、肩をすくめ肯定のために首を縦に振る。
「それはそれは……ここで声をかけたのも何かの縁です。フウのお願いする仕事をしませんか?」
再び首をかしげる、さすがに仕事の内容を詳しく聞かずに受けることはできない、受けると逆に不審がられるだろう。
もしくは罠を前提としているかだが、フウからはそんな気配は感じられない。
「これぐらいですね」
報酬の事だと勘違いしたのか、報酬の額を示された。
結構な額だろう、今泊まっている宿なら一週間分になる。
なのだが俺は一度首を振る。
「金額が足りませんでしたか?」
その言葉にもう一度首を振り腰に差した剣を指し、次いで頭を指し、最後に力瘤を作って見せる。
暗にどれを使う仕事かと聞いているのだが……通訳というか交渉できる人がいないというのは手間がかかる。
「おお……内容を話していませんでしたね。ここから近い枯れ迷宮への案内なのですよ。フウはそういった迷宮を見たことがないので見てみたいのです。道中の護衛も兼ねたお値段なのですよ」
説明には納得できる、護衛がいることで難易度は上がるし品のある姿からどこぞのお嬢様だと言われてもあっさりと信じられるだろう。
出された金額も無理に捻出したとも見えるはずもない、気になるのは何を試そうとしているかになるのだが害意、敵意は感じられない。
俺は承諾の意を伝えるために首を縦に振る。
「無事受けてくれて嬉しいのですよ」
さぁ、また繰り返/踏み出そう……一人の新しい一歩を踏みしめるこの時を……
フウからの依頼を完了して宿に戻ってきたのだが、迷宮の中までの案内を引き受けたことで追加として今は最初に提示された倍に近い金額が今懐にある。
日は落ち、部屋の灯りも落としているので、部屋の中を照らすのは窓から入る星明りが精々なのだが……音を立てないようにフウが俺の部屋に入ってくる。
いや、なんでフウがこんな時間に俺の部屋に入ってくるんだ?
スルスルと衣擦れの音がするのだが、なんでフウは服を脱いでいるんだ?
いやいや、なんでフウさんは恥ずかしがりながらももぞもぞと生まれたままの姿で俺のベットの中に潜り込んでるんですかね?
そうしないとできない魔法を使うから?ア、ハイ。
しかし裸になって密着する魔法か……いかんな性魔術くらいしか思い浮かばないんだが、フウが俺にする理由がどうしても思い浮かばない。
投げ出していた腕の上に頭を置いたから寒いだろうと、寝返りをするふりをして抱きしめてフウの顔を俺の胸に押し付ける。
抱きしめるときに緊張からか、それとも起きていると思ったからなのかフウの体がびくりと震えたが知らないふりをしたまま、掛け布団をフウにしっかりとかけてやる。
背中が少し寒いと感じるが、それも懐かしいと感じてしまえる。
寒いのかフウの体温が少し上がる感じがする、空いている手で少し強めに身体全体を密着させるように抱きしめればフウが何かを呟きだす。
「あうあう……ぎゅっとされて……えっとえっと……」
しばらくそうしていると何かと接続される感触がするので、そちらに意識を向ければ中空にツインテールをくるくると巻いた独特な髪形をした金髪の少女が魔族っぽい服装で、足を組んで座る様にしてこちらを俯瞰していた。
フウだけでも驚いたんだがな……手のひらからこぼれてしまった人と同じ顔をまたみたのなら驚いても仕方がないだろう。
カリン……フウもいたのだ……他にもいるのだろうか。
「ひゃんっ?!」
驚いたときに指が動いてしまったのだろう。
「この男?」
あぁ……そうか……俺の知っている二人じゃあないんだな、フウに声をかけられたときから覚悟はしていたが、かなり胸にくるものがある。
「ん、んん……そうです」
「なるほど……」
「フウが用意した罠を、全て避けました。求められていた資質を持っていますよ」
枯れ迷宮な筈なのに罠が生きていた理由はフウが原因で、カリンに紹介するために試していたと……見た感じから微妙に封印が解けた状態か?
「それは私が求めた資質ではなく、フウが求めた資質でしょ」
カリンは少し困った表情をして風の言葉に返す。
「魔王さまの役に立ちますよ」
質問したいが言葉がないというのももどかしいものだ、静観しているしかないだろう。
「そうかしら」
夢魔法だと思うのだが……あれは服を着ていても大丈夫じゃなかっただろうか?
魔王、役に立つ、封印、こうした手段での通信、試された内容……封印を解く手伝いか、迷宮の運営の手伝いだろうか、もしくはそのどちらもか。
考え込み再び見上げてみれば、視線が合う。
「あら、私を感じられるなんて、思ったよりも見込みがあるわね」
「それはきっとフウが中継しているからですよー。驚くのは、ここで動けることですね」
二人の言葉に肩をすくめてみせる。
「そういえば、そうね。ふーん?」
どこか機嫌よさげに笑みを浮かべる。
魔王。魔物を統べる王。世界を混沌に導き、破滅を望む王。
と、言うのが一般的な知識なのだが、割と奔放な者たちが多いイメージだろうか……昔に会ったことがある魔王はあの爺さんだからな。
迷宮の運営なら呼べば来てくれるだろうか?
「貴方」
「魔王さま、彼の名はカズトです」
お兄さんではどうしても懐かしさが勝ってしまうから名前を教えていたんだったな。お兄さん呼びのままだったが、理由が話せなければ仕方ないだろう。
名乗れないが装備の一部に名前を掘っているためにそれで教えていた。
「そう、カズト。貴方は私が本当に魔王か、そう疑っているのかしら?」
言葉をしゃべれないために沈黙していることと考え事をしていたことから、そう勘違いしたのだろうが、彼女たちの言葉に嘘は感じられない、そして嘘をつく理由もない。
だから俺は首を横に振る。
「あら?嘘だとは思ってもいないのかしら」
嘘だとは思っていないことを肯定するために頷き続いて首をかしげる。
「私の名はカリン。魔王カリン。私の復活のため、貴方の力を寄越しなさい」
力を求められた、助けを求められた。
いつも俺が君たちから力をもらっていたんだ。
いつも俺は君たちに助けられてきたんだ。
なら応えないわけにはいかないだろう?
俺は君たちの味方だと。
俺は君たちの幸せこそを願ったのだから、笑顔こそを望んだのだから。
しかし、カリンがあのように復活したのはここ最近だろう、あの事とは関係があるのだろうか?
夜は明け、窓から日差しが入ってきて明るくなる中、腕の中で寝息を立てていたフウがもぞもぞと動く。
ふむ、起きたがこのまま二度寝をするつもりらしい。
腕を引き抜き、布団から出て椅子の背もたれにかけておいた上着を羽織る。
そのまま階段を降り店主に顔を出して朝食を一食分用意してもらう、指をつまむような形にして男性冒険者が食べるには少々少ない形にしてもらって。
「珍しいな、お前さんが朝飯を頼むなんてよ。明日には槍でも降るのかね?……つーか身体でかいんだからもっとしっかり食いやがれ」
俺を指し片手を振るうことで俺の分じゃないことを示しておく。
ホワイトシチューにロールパンが二つにベリーズサラダ、ヨーグルト、線の開けられていないオレンジジュースの瓶が一つ。
シチューの中には大きめに切られた鶏肉に人参、玉ねぎ、じゃがいも、彩に刻まれたセロリが振りかけられていた。
鼻腔を擽るこの匂いは食欲を誘うだろう。
部屋に戻ってみれば、寝返りを打ったつもりだというのか布団を下腹部まで下げ、胸部を見せつけるようにこちらを向いて目をつむって、寝たふりをしているフウが変わらずベットの上にいた。
起こすために頭を撫でてみるが
「むにゅう……むにゃむにゃ……」
わかりやすい寝言で返してくれる。
今度は肩をゆするが、定例の後五分が返ってくる。
よろしい、そちらがその気ならこちらにもまだ手があるという事を教えてあげよう。
かちゃりと持ってきていた朝食を備え付けの机の上に置き、荷物の中からわざと音を立てながらキャンパスのセットを取り出す。
それを寝たふりをしているフウの前に置き、描き始める準備をする。
「あの……おにいさん……?」
薄目を開けて現状を確認したのだろう、確認して目がしっかりと開けられていた。
だが、そのまま描き始める。
「わわわ、負けましたよー、起きたから描くのはやめてください―!?」
うむ、よろしい。
畳まれていた服をフウを渡して、部屋の外に出る。
女性の着替え除くような変態ではない。
しばらく待っているとフウが部屋から出てくる、机の上を見れば朝食も食べてくれたようだ。
「うぅ……それじゃあ、行きますよ」
顔が赤らんでいる。
行先はどこだろうかと考えるが、おそらく昨夜の魔王のところだろう。
部屋にもう一度戻り、荷物と空になった食器を手にフウについていく。
俺はフウの案内に従って山を目指した、一般的にはギオウ山と呼ばれるがもう一つ名前がある。
魔王の墓という名前があるのだが……迷宮はあっただろうか?
「ところでですねー。まずはフウの紹介をしたいのですが、かまいませんか?」
「?」
唐突に言われ首をかしげる、ギュンギュスカー商会の者だと思っていたのだが今更説明が要るのだろうか。
「フウはギュンギュスカ―商会という魔界にある商店で働いている者です」
その言葉に頷く。
「魔界と聞いて、岩しかないような場所を想像しているかもしれませんが、魔界もこのあたりとかわりませんよー」
知っている、魔界はこちらと変わらない次元を挟んだ異なる地上だと思っている。
住んでいる種が違うだけで知性もなく暴れるものこそ稀だし、人間が想像するような混とんとした世界ではない。
気質が荒いものが多かったり力寄りの統治がされているのは確かだが。
「人ではなく、魔族が生活しているだけで、このあたりとかわりませんよ」
農業をやってる魔族もいるし、猟師をしている魔族もいる……というか神でも農神や狩猟の神という者は居るのだからそう不思議でもないだろう。
欲に忠実な分発展も早く、また長寿なものが多い関係でそこらの街が王都よりも発展しているのもざらだそうだ、随分と変わったのか。
フウの言葉に相槌を打っていく、魔王にも色々といるという説明があったが既に知っている。
一人でうろうろする……俺の事か。
「魔王カリンさまは、魔界からこちらの世界に訪れました」
フウによる説明ではカリンが来たのは千年前、何かしらの理由で封印された、最近目覚めた……正確にはフウが封印の一部を解いたないしは目覚めさせたといったところ。
目覚めた理由は封印の劣化と説明されたが、もしそうなら俺に手伝えることはない、なので嘘。
まぁ、そこは重要なことではないので突っ込まない。
「あそこに魔王さまは封印されているのですよー」
ここには洞窟の入り口はなかったはずだが、辿り着いた場所にはぽっかりと洞窟の入り口が口を開けて侵入者を待っていた。
フウを見ると十日ほど前にフウが作ったとのこと。
となると十日より前に封印が解け応援が必要になった?アレが戻ったのとそう変わらない時期だが……カリンの封印と関係している?なぜ?アレは勇者や魔王とは全く関係がなかったはずだ。
自然の岩が露出している自然の洞窟に見えるが、岩に触れてみればわかる……この迷宮は生きているそれが触れることでわかる。
「お兄さん、フウより先に行くと危ないですよ。罠を仕掛けてありますから」
その言葉にフウに前を譲ると奥まで辿り着きなにか呪文を唱えると、さらに奥へ続く道が現れた。
今のところ分かっている巣作りからの登場人物
フウ(魏)
カリン(魏)
カロン(魏)
ケイファ(魏)
シュンラン(魏)
シュウラン(魏)
レンファ(呉)
シャオレン(呉)
シシュン(呉)
ミンメイ(呉)
蜀(ぇ