Not a Hero of justice   作:サティスファクション

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 気まずい。俊永は目の前の光景から必死に目を逸らしつつ、小鉢に取り分けた鍋の中身を突いていた。

 彼の隣では桜が同じく鍋の中身を小鉢に取り分けて食べており、机を挟んで反対側ではキャスターが同じく鍋を食べている。

 本来ならばサーヴァントであるキャスターには食事など必要ではないのだが、それはそれ味覚があり一応の魔力補填にはなる為食べていた。

 

「――――――では、先輩。お話、聞かせてもらえますよね?」

 

 沈黙ばかりの夕食も締めのちゃんぽん麺まで食べ終えた頃、桜がそう切り出してきた。

 隣から突き刺さる視線に、俊永は目を逸らした。

 

「せ・ん・ぱ・い?」

「…………いや、その…………」

「どうして目を逸らすんですか?何か後ろ暗い事でも?ねぇ、先輩?」

 

 小鉢を机に置いた桜は、どんどん詰め寄って俊永を押し倒しそうな雰囲気だ。甘酸っぱくないのは彼女の瞳にハイライトが無く、口角が上がった軍神スマイルだからか。

 流石の俊永も、この状態の彼女には勝てないし、そもそも手を出そうとも思わないのだから退き続けるしかない。腹筋と背筋を使いリクライニングチェアの様にゆっくりと上体を後ろに倒しながらである為、見た目以上に余裕があるらしい。

 とはいえ、本気で逃げようとしないならば追い付かれるのは必至。

 背中から畳へと寝そべった俊永を床ドンするように桜は覆いかぶさっていた。

 

「お盛んね。人前ですることにも抵抗は無いのかしら?」

 

 この状況を造り出した原因が更なる火種を放り込んでくる件について。

 キャスターは湯呑を傾けながら、フードの下より二人の様子を眺めている。そこに侮蔑の色などは無く、むしろどこか楽しんでいるという印象すらも受けた。

 明らかに蚊帳の外にいるようなその言葉、桜のハイライトの消えた眼が貫いてくる。

 

「もとはと言えば、貴女のせいじゃありませんか。先輩が休んだのも、貴女のせいですよね?」

「あら、人聞きが悪いわね。マスターが学校を休んだのは、彼の意志よ?私は何も手を出していないわ」

「ぬけぬけと……!」

 

 どうも根本的に相性が悪いのか、あるいは逆に相性が良すぎていがみ合うのか。キャスターが火種を注ぎ、桜が燃える。二人の会話はその繰り返しであった。

 売り言葉に買い言葉と言えば会話が成立しているようにも思えるが、その実態は自分の尾を追いかける子犬の様にぐるぐると同じ場所を回り続けているに過ぎない。

 姦しい二人の会話を聞きながら、俊永はウィーン会議を思い出していた。有名な“会議は踊る、されど進まず”という言葉で評されたあの会議。

 堂々巡りが続き、やがて会話は要領を得なくなっていく。

 このまま五月蠅く成るのは、俊永としても困るらしい。

 

「はい、そこまで。少しは落ち着けよ」

 

 子犬の様に吠えていた桜を抱き寄せて黙らせ身を起こす。

 

「面倒を買い込んだのは俺だ。ちょっと、聖杯取ってくるだけだからよ」

「…………聖杯戦争、ですか?」

「俺の目的じゃないが…………まあ、キャスターには手を貸すって言っちまったし、な?」

「…………」

 

 宥めるように桜の頭をなでる俊永。

 撫でられる桜もまた、俊永の胸板に顔を埋める。

 二人の間には、確かな絆があった。そしてそれは、生前のキャスターが手を伸ばせども結局手に入れられなかったモノ。

 

 フードの下、彼女は何も言わない。その内心は、未だ胸の内だ。

 

 

 

 

@@@@@

 

 

 

 

 聖杯戦争が行われるのは、基本的による。草木も眠る丑三つ時、ではないが人々の寝静まった夜闇こそが戦いの舞台となる。

 

「打って出る、なんてことはしないんだな」

「ええそうよ。私はキャスター。陣地を築いてからが勝負だもの。隠ぺい、罠、騙し討ち。正面からの戦いは基本的にしないわ」

「…………まあ、俺から言う事じゃないか」

 

 紫の髪をなでながら、俊永は柱に凭れ目を閉じる。

 泣き疲れてしまった桜は、彼の胡坐を枕に寝息を立てている。布団が掛けられただけで寝にくいだろうに、その寝顔は穏やかその物だ。

 彼の傍らでは、キャスターが座り込み魔術を編み上げている所。

 

「その子」

「あ?」

「大切なのね。ヒーローになりたいのは、その子の為かしら?」

「別に、どうでもいいだろ」

「ええ、そうね。ほんの手慰みよ」

「手慰み、ね…………」

 

 キャスターの言葉を繰り返しながら、俊永はその言葉を口の中で転がした。

 聖杯戦争は始まってすらいない。未だに七騎のサーヴァントは揃っていないし、それどころか魔術師もまだではなかろうか。

 俊永の左手の甲には、花と鏃、そして花を包むような葉の様な刻印が浮かび上がっている。

 これは、キャスターが前のマスターから奪った令呪を彼に転写したもの。

 令呪はサーヴァントに対して絶対的な命令権を有しており、仮に相手が対魔力Aであろうともその命令を受諾させることが可能となる無色の魔力だ。

 

「マスターは、彼女と戦えるの?」

「…………さてな」

「知っていたのでしょう?彼女が魔術師の家系だと。そして、今回の聖杯戦争に参戦する可能性もあると」

「…………」

 

 キャスターの指摘は、正解。俊永とてその可能性は十分にあると考えてもいた。

 だが、

 

「…………分かってるさ、ンなこと。まあ、サーヴァント倒せば問題無いだろ」

「軽く言ってくれるわね」

「勝つなら、それが良いだろ。まあ、魔術師殺すのも仕方ないとは思ってるがな」

「とんだヒーロー様だ事」

 

 一を切り捨て、十を救うのが正義の味方ならば、十を見捨てて一を救うのが俊永のヒーロー像。

 仮に桜と敵対すればサーヴァントを殺すし、彼女が狙われれば他のマスターもサーヴァントも等しく殺す。

 物騒なセコムであるが、そこまでしなければ人一人守れない事を彼は知っている。そして、

 

「約束は、守る物だろ?」

 

 もう居ない相手を偲ぶのは、生者の特権だ。そして、その為の方法は何も思い出だけではない。

 例え一方的な約束だとしても、約束は約束。それを守るために、彼は拳を振るうことも厭わないだろう。

 

「…………どうかしらね」

 

 そして、その言葉はキャスターにとっては苦い記憶であり、記録であった。

 彼女は裏切りの魔女。そして、裏切られた(・・・・・)魔女。

 たった一人を愛した代償はあまりにも大きく、最後は悲劇として終える原因ともなった。

 誰が悪かったのかと問われれば、間が悪かったとしか言えない。

 世間知らずの折りに口の無駄にうまいイケメンに出会い、神がその背を押して突き落とした。二人の間には、一方的な植え付けられた愛だけがあり、初めから救いなど無かったのかもしれない。

 

「少し、席を外すわ。何かあれば、念話なさい」

 

 気まずくなったのか、キャスターはそれだけ言って霊体化し消えた。

 暖かな部屋はそのままに、外気より住人を温め続けている。

 

 

 

 

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 夢を見る

 

 あの日、運命の日

 

 体を這いずる不快な感触

 

 皮膚を貫き血肉を貪り内側から変えられていく

 

 地獄だった

 

 生きている事すらも苦痛だった

 

 全てを恨み切る事も出来ず、ただ心を殺す事だけが逃げ道であり救いだった。

 

 だがそれも唐突に終わりを迎える

 

 蒼い閃光が闇を切り裂き、変わらなかった(天井)を打ち砕いたその日に

 

 終わった彼女は甦ったのだ

 

 

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