袁公路の死ぬ気で生存戦略   作:にゃあたいぷ。

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間幕.包の三日天下・弐

 ほんの数週間前までは活気溢れ――てはいなかったが、人は詰まっていた執務室。

 嫌がらせのように仕事を私に押し付けていた上司は何時の間にか居なくなり、これで少しは楽ができますね! と思ったのも束の間、各地から送られてくる書類の全てが私の机に送り込まれてくるようになった。それもそのはずで今、この執務室には私以外に誰も居ないのだ。

 つまり今は私が部屋の主なのだ。執務室の長、我が世の春が来た。未だ、ヒラ役人であるにも関わらず!

 

 ――どうしてこうなった!!(血涙)

 

 本来は十人以上で処理する量の書類を私ひとりで回している。

 確かに私は上司が居なくなって欲しいとは思っていましたが、誰もいなくなるのは想定の範囲外。望んでいない形での下克上に裸の王様の気分を味わう羽目となった。これが独裁の末に辿り着く風景、包は謙虚に生きようと思いました。そんなことを考えながらも手を動かす、文章を斜め読みで掌握する。何時もの倍以上の速度で処理する書類の山は、更に倍の速度を以て積み重なる。もう頭がおかしくなっちゃいますよ、とがしがし頭を掻き毟りながら書類の処理を続ける。

 そうすること一刻、二度、三度と放り込まれる書類の山を睨みつけながら「もう我慢なりませんね!」と立ち上がった。

 

「こんなの何時まで経っても終わりませんよ! (魯粛)が死んじゃいます!」

 

 せめて人員を増やして貰わないことにはどうしようもない、と私は人事担当に話を付けに行こうと扉に手を触れた。

 

「あっ……」

「うひゃあっ!」

「ん、誰ですか?」

 

 扉の向こう側で少女もとい幼女が二人、私の顔を見ながら立ち尽くす。

 この辺りでは、あまり見かけない衣服を着ている。白を基調とした衣服に焦げ茶色の上着を羽織った姿、そして奇抜な帽子を被っていた。それはまるで都の学問所で使われているという制服に似た形状をしているようにも思えるが、実物を見たことがなかったので判別できなかった。兎に角、質の良い衣服を着ているということはそれなりの家を出ているか、後ろ盾があるということだ。

 誰かの御客様かも知れない、もしくは御客様の付き添いか。どちらにしても丁寧に対応して損はない。

 

「こほん……御二人方、如何致しましたか?」

 

 仕事の疲労を営業的な笑顔を覆い隠しながら二人に問いかけると、片や唖然とした、片や驚いた顔をした幼女二人組が姿勢を正した。

 

「私達、程立様からの紹介で来たのですが……」

 

 程立? 聞いたことがない名前だ。

 おずおずと二人組の幼女が差し出してきた二つの封筒を拝借すると、片方には水鏡女学院に宛てた手紙が入っており、そこには確かに程立と呼ばれる人物が南陽郡の袁術に人材を派遣して欲しい旨が書き記されていた。そして、もう一つには程立への返信と袁術に宛てた紹介状が入っている。水鏡女学院の存在は知っている。将来有望な若者を多く抱えた男子禁制の女学院、その内の二人を我が勢力に貸し与えてくれたという話だ。

 しっかし、こんなちんちくりんな二人が役に立つんですかねえ? と訝しげに見つめた。

 

「ええ、分かりました。とりあえず私が預かっておきますね」

 

 とりあえず封筒は預かって「ところで」と執務机の上に置いていた二枚の報告書を二人に手渡す。

 

「ちょっと、この二枚の報告書を読んでみて貰ってもよろしいでしょうか?」

 

 その二枚の報告書を受け取った二人は言われるがままに報告書を読み、まるで正反対の反応を見せた。

 

「はえー、やっぱり南陽郡って人が多いだけあって税収も潤沢なんですね」

「ふえー、この程度しか税収を回収できてないの?」

「はえ?」

「ふえ?」

 

 二人は互いの顔を見合わせると申し合わせたかのように互いの報告書を覗き込んだ。

 そして確認すべきことを確認した二人が次に取ることは想像できる。

 

「えっと……あの、貴方は……!?」

「魯粛ですよ」

「魯粛さん、この集落における経費の内訳を見せてください!」

「はいはーい、こちらになりますよー」

 

 二人に報告書を見せた瞬間、「ひえっ」「ふえっ」と二人は顔を青褪めさせた。

 

「ろ、魯粛さん! この報告書、この社交費の項目! 桁が三つほどおかしくないですか!?」

「ええ、そうですよね。舐めてますよね?」

「姉様! ここ、ここ! 環境整備で、どうして、ここまで高価な壺を買ってるの!?」

「高価な壺を買ったのか、それとも安物を高値で買ったのか、気になるところではありますね」

「ひええ、茶葉に玉露。食事に特上鰻重。一役人が毎日食べるものじゃないですー!」

 

 包なんて近頃、仕事しながら食べられるおにぎりしか口にしていませんよ。

 それは口に出さないとして、ここまで頭が回るのであれば、ある程度の仕事を任せられそうだ。

 満足げに頷き、二人を執務室に招き入れた後、後ろ手に扉の鍵を閉める。

 

「……えっと、どうして扉の鍵を掛けられたのでしょうか?」

「此処にあるのは機密の資料が多くてですね。こうして普段から鍵を掛けているのですよ」

「ふえー、そうなんですねー。入る時は鍵が掛かってなかったと記憶していますが?」

「あらら、それは不注意ですね。気を付けないと……」

「……と、ところで、他の役人の姿が見えないようですが?」

 

 二人が私を見つめてくる。確信と恐怖を込めた瞳、私は一度、天井を見上げた後、そのまま二人を見下ろしながら告げる。

 

「勘の良いガキは嫌いですね」

 

 その後、震えあがる二人にはたっぷりと研修を受けて貰うことになった。

 二人が悲鳴をあげる程にたっぷりと、だ。

 かあっと烏がなく頃に、

 何時もの二倍は進んだ執務に私は満足げに頷き、ぐだっと長椅子で倒れる二人に問い掛ける。

 

「ところで二人の御名前はなんと言うのでしょうか?」

「今更ーっ!!」

「えーと、私が馬良、字は季常。そして妹が――」

「――名は馬謖で字が幼常! 馬氏の五常が二人とは私と姉様のことよ!」

 

 そして、と名乗った少女は身を起こしながら私を人差し指の先を向けてきた。

 

「私は袁術軍の筆頭軍師になる女よ!」

「ほう? それは面白いことを聞きましたね」

 

 私は執務室の棚から将棋を取り出すと彼女の前に並べる。

 

「将棋はできますか?」

「あ、私とやるつもり? 得意も得意、大得意! 予言してあげる、この馬謖に挑んだことを後悔するとね!」

「それでは一局、お手合わせを願いましょう」

「さあ、ぎゃふんという準備はできているかしら!」

 

 憤る馬謖に、私は涼しい笑みを浮かべて、五枚の歩を握る。

 数十分後、「ぎゃふん!!」と叫ぶ馬謖の姿があったとか、なかったとか? ともあれ鴨が葱を背負って来るように従順な手下が増えて嬉しい限りだ。

 新しい人材が配属されるまでは大切に預かっておきましょう。

 

 

 




出す予定があった子は粗方出ましたので、ここからの補充は恐らくありません。
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