クワトイネ公国
政治部会
国の代表が集まるこの会議で、首相のカナタは悩んでいた。昨日の事、クワトイネ公国の防衛、軍務を司る軍務郷から、正体不明の物体が、マイハークに空から進入し、町上空を旋回して去っていったとの報告が上がる。
空の飛龍が全く追いつけないほどの高速、高空を侵攻してきたという。
国籍は全く不明、機体に十字の模様が書いてあったとの事であったが、それがなんなのかすら分からない。
カナタは発言する。
「皆のもの、この報告について、どう思う、どう解釈する」
情報分析部が手を挙げ、発言する
「情報分析部によれば、同物体は、三大文明圏の一つ、西方第2文明圏の大国、ムーが開発している飛行機械に酷似しているとのことです。しかし、ムーにおいて開発されている飛行機械は、最新の物でも最高速力が時速300kmとの事、今回の飛行物体は、明らかに400kmを超えています。ただ・・・。」
「ただ、なんだ?」
「はい、ムーの遙か西、文明圏から外れた西の果てに新興国家が出現し、付近の国家を配下に置き、暴れ回っているとの報告があります。かれらは、自らを第八帝国と名乗り、第2文明圏の大陸国家群連合に対して、宣戦を布告したと、昨日諜報部に情報が入っています。彼らの武器については、全く不明です。」
会場にわずかな笑いが巻き起こる。文明圏から外れた新興国家が、3大文明圏5列強国のうち2列強国が存在する第2文明圏のすべてを敵に回して宣戦布告したという事実。
無謀にも程がある。
「しかし、第八帝国は、ムーから遙か西にあるとの事、ムーまでの距離でさえ、我が国から2万km以上離れています。今回の物体が、それであることは考えにくいのです」
会議は振り出しに戻る、結局解らないのだ。
ただでさえ、隣国ロウリア王国との緊張状態が続き、準有事体制のこの状態で、頭の痛いこの情報は、首脳部を悩ませた。
味方なら、接触してくれば良いだけの話、わざわざ領空侵犯といった敵対行為を行うという事自体敵である可能性が高い
その時、政治部会に、外交部の若手幹部が、息を切らして入り込んでくる。
通常は考えられない。明らかに緊急時であった。
「何事か!!!」
外務郷が声を張り上げる。
「報告します!!」
若手幹部が報告を始める。要約すると、下記の内容になる。
本日朝、クワトイネ公国の北側海上に、長さ210mクラスの超巨大船が現れた。
海軍により、臨検を行ったところ、ドイツ帝国という国の特使がおり、敵対の意思は無い旨伝えてきた。
捜査を行ったところ、下記の事項が判明した。なお、発言は本人の申し立てである。
○ ドイツ帝国という国は、突如としてこの世界に転移してきた。またその他オーストリアやオスマン帝国も転移したとのこと。
○ 元の世界との全てが断絶されたため、哨戒機により、付近の哨戒を行っていた。その際、陸地があることを発見した。
哨戒活動の一環として、貴国に進入しており、その際領空を侵犯したことについては、深く謝罪する。
○ クワトイネ公国と会談を行いたい。
突拍子もない話、政治部会の誰もが、信じられない思いでいた。
しかし、昨日都市上空にあっさり進入されたのは事実であり、210mという考えられないほどの大きさの船も、報告に上がってきている。
国ごと転移などは、神話(例えばムーの神話)には登場することはあるが、現実にはありえないと思っている。
しかし、そのドイツという国の力は報告にある限りだと本物なので、まずは特使と会うこととした。そこから見極めるつもりだったのだ。
中央暦1639年3月22日(西暦1936年)午前―――
ドイツという国が転移してから、2ヶ月が経とうとしていた。
彼らと国交を結んでから2ヶ月、クワ・トイネ公国は、今までの歴史上最も変化した2ヶ月であった。
2ヶ月前、ドイツは、クワ・トイネ公国と、クイラ王国両方に同時に接触し、双方と国交を結んだ。その他の国々もドイツの仲介により国交を結んだ。
特にドイツと友好国であるオーストリア、オスマン帝国からの食料の買い付け量は、とてつもない規模での受注であったが、元々家畜にさえ旨い食料を提供することが出来るクワ・トイネ公国は、彼らからの受注に応える事が出来た。
クイラ王国にあっても、元々作物が育たない不毛の土地であったが、ドイツの調査団によれば、資源の宝庫であるらしく、クイラ王国は、大量の資源をドイツ帝国とその他友好国に輸出開始していた。(後で知ることになるが友好国には転移に巻き込まれたルーマニア、セルビア、ギリシャは含まれていない)
一方、ドイツやその他の国々は、これらをもらう変わりに、インフラや1部の技術を輸出してきた。
大都市間を結ぶ、石畳の進化したような継ぎ目の無い道路、そして鉄道と呼ばれる大規模流通システムを構築しようとしていた。これが完成すると、各国の流通が活発になり、いままでとは比較にならない発展を遂げるだろうとの、試算が、経済部から上がってきている。
各種技術の提供も求めたが、ドイツには新たに、「新世界技術流出防止法」と呼ばれる法律が出来たため、中核的技術は、貰えなかった。
ドイツから入ってくる便利な物は、明らかに彼らの国の生活様式を根底から変えるレベルのものばかりであった。
いつでも清潔な水が飲めるようになる水道技術(もともと水道技術はあったが、真水ではとても飲めたものではなかった)、夜でも昼のごとく明るく出来、さらに各種動力となる電気技術、手元をひねるだけで、火を起こせ、かつ一瞬で温かいお湯を出すことが出来るプロパンガス、これだけでも生活はとてつもなく楽になる。
まだまだ、2ヶ月しか経っていないので、普及はしていないが、それらのサンプルを見た経済部の担当者は、驚愕で、放心状態になったという。もちろんこれらによる産業の打撃もあるが関税をかけて最小限のダメージで抑えている。
国がとてつもなく豊かになると・・・。
「すごいものだな、ドイツという国は・・・。明らかに3大文明圏を超えている。もしかしたら、我が国も生活水準において、3大文明圏を超えるやもしれぬぞ」
クワ・トイネ公国首相カナタは、秘書に語りかける。
まだ見ぬ国の劇的発展を、彼は見据えていた。
「はっ。しかし、彼らが平和主義で助かりました。どうやらここに転移する前に大規模な戦争があり、それによる反戦論が多くて良かったです。彼らの技術で覇を唱えられたらと思うと、ぞっとします」
我が国はなすすべもなくドイツに滅ぼされていただろう。直接的には兵器は見てないが、ドイツから手に入れた本などによる情報や鉄道、通信機器を見るだけでわかる。
鉄道は素早く大量に兵を送り込むことが出来るし、通信機器は素早く通信できる。通信機器だけでも戦争の常識をひっくり返せるのだ。(ちなみに通信機器がない時代のモンゴル帝国は、最大100kmくらいなら素早く情報を伝達出来たとか。誤訳かソースが間違ってるのか何かだと信じたい。事実だとしたらモンゴル帝国のあの無双っぷりも納得出来る)
「そうだな、しかし、武器を輸出してくれないのは、いささか残念だな。彼らの武器があれば、少しはロウリア王国の脅威も低減するのだが・・・。」
ドイツ本国では武器が不足しておりとても輸出なんて出来る状況では無かった。
カナタは、夕日を見ながら、そう嘆いた。
原作にないオリジナル都市を追加するかどうか?
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追加して欲しい
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いや、そこは原作に忠実にして欲しい