プリパラ 『半才と呼ばれる無気力人間の故事』 作:自由の魔弾
ここはパラ宿にある洋館風の可愛いイタリアンレストラン「パパのパスタ」。物語はこじんまりとしたリビングから始まる。
「♫オシャレなあの子マネするより〜」
テレビから流れるアイドルのライブに釘付けになって見ているのは、このレストランを経営する真中家の長女“真中らぁら”だ。
「3年前の伝説のラストライブの映像だね。もう何回も見てるやつなのに…お姉ちゃんも飽きないね。あ、今日は日直だから早く行く日だった!」
そう言いながら朝食を済ませ、足早に家を出ていったのはらぁらの妹の“真中のん”だ。らぁらとは対照的にしっかり者でかつ頭が切れる彼女には流石のらぁらも頭が下がるようだ。らぁらは母親に早く食事をするよう促される中、頭の中では先ほどのアイドルのことでいっぱいだった。
《セインツかぁ…。ちょっと前のプリパラのビックアイドル。まぁ、私にはとても無理だけどね》
そんな事を考えていると、この家に住むもう1人の住人が足早に階段を降りてきた。
「おはようございます、パパさんママさん。今日は早く学校終わるので、帰ってからお店の手伝いしますから。あ、学校行くついでに一軒配達済ませておきますね!」
そう言いながらテーブル上に置かれたピザを持って家を出ようとしているのは、この家の長男的存在の“真中ハッシュ”だ。的っていうのには複雑な事情があるのだが、それはまた追い追い話すことにしよう。
「あら、そう?ならお願いしちゃおうかしら…?」
「はい、お任せあれ!」
了解を得たハッシュに気がついたらぁらは、普段通りに挨拶をする。
「あ、お兄ちゃんおはよー!今日は随分早いんだね?お兄ちゃんも当番か何かなの?」
「はぁ…何言っちゃってるの。俺が早いんじゃなくてらぁらが遅いんだろう?早くしないとあの鬼風紀委員長にまた違反チケット切られるぞ?俺も今まで何枚切られたか…」
そう言いながらどんどん虚ろな目になっていくハッシュ。その言葉を受け、思わずらぁらも身震いする。確かに自分たちが通う学校の風紀委員長は所謂普通の学校の風紀委員長とは別格に違う。規律正しく過ごしていればある程度校則は守れることには守れるが、はっきり言って細か過ぎる決まりが多くて違反チケットを貰わないで卒業するのは不可能に近いだろう。それだけ違反の取り締まりが徹底されてるのだ。
「た、確かに…私ももうすぐ100枚目になっちゃうって言われちゃったし。すっごく恐ろしい罰があるって噂だしなぁ…」
そう言って見るからに落ち込むらぁらの姿を見て、ハッシュはまるで我が子をあやすようにそっとらぁらの頭の上に手を置いて、優しく説いた。
「そんなに心配しなさんな。悪いことしようと思って違反してるんじゃないだろう?らぁらがそんな子じゃないって知ってるからさ。それに…」
「それに…?」
そこで口を閉ざしたハッシュを怪訝に思ったらぁらは恐れながらもその先を問いかける。
「…100枚目は大したことない。200、300枚目の方がもっと恐ろしい…!あれはもう嫌だ」
「えぇ〜!!?何それェ!っていうかもうそんなに貰ってたんだ…?」
衝撃的な事実を突きつけられるらぁら。自分の考えていた以上の地獄がまだ存在していたのだ!そしてそれ以上に自分よりまともなはずのハッシュが自分以上に違反チケットを貰っていたことに驚愕する。
「だから、何となくで頑張れ。んじゃ、先行くから〜」
そんならぁらを尻目にハッシュは宅配用のピザを持ってそそくさと退散した。後ろでらぁらがギャーギャー騒いでいるが気にしないでおこうと振り返らずに走り抜けた。
世の中、知らないほうがいいこともあるのだ。
「すみませ〜ん、北条さんに宅配ピザのお届けに参りました。確認お願いしまーす」
所変わって、ハッシュが向かった先はパラ宿で最も高いとされるプラウドタワーヒルズだ。まずはエントランスで受付を済ませる。そうしないとタワー内に入れないのは流石のセキリュティだろう(常識)。
「お待たせ致しました。本人と確認が取れましたのでお進み下さい。部屋は最上階の3333号室になります…君も若いのにお手伝い大変ねぇ…」
「ありがとのかしこまっ…。いやいや、お姉さんも十分若いでしょうに。お勤めご苦労様です」
無事確認が取れたので受付の女性に軽く会話をするとエレベーターに乗り、目的の階のボタンを押す。
さっき持ってきたピザはここの住人が頼んだものだ。そのトッピングも一風変わったもので、必ず梅干しを入れて欲しいとのこと。常設してるメニューにはないが、かなりの頻度で注文してくれるためある意味では常連さんということになる。
スゥーっと途中で止まることなくエレベーターは最上階に到達した。目的の3333号室には何度か配達に来たことがあったので、難なく部屋を見つけ出し呼び鈴を鳴らす。
「お待たせしました〜パパのパスタです。梅干しピザのお届けに参りました」
すると少しして部屋の中から「はーい!コズミック待っててー!」という声が聞こえてきた。
この口癖の人間は恐らく彼女だけだろう。
「やっぱり今日はハッシュ君だったのね。コズミックそうだと思ってた!」
この独特の雰囲気を持つ女性は北条コスモさん。名前の通り宇宙的な服を着てる。聞くところによればファッションデザイナーらしい。が、自分がファッションに疎いことも相まって正直どれがどれなのか分からない。服はプニクロ、ピマムラ、ピーユーって決まってるのだ。庶民派ですから。
「今まで僕しか配達来たことないじゃないですか…。それにしても、梅干しピザって変わったセンスしてますね〜?」
「ん、あぁ〜それね。私っていうか妹が好きなのよね。レッ…じゃなかった、梅干し食べるとコズミック元気になれるんだーってね」
どこの家の妹も手の掛かる妹らしい。ハッシュの頭に浮かんでくる2人の妹。元気過ぎるのと妙にしっかりしてるの。
「随分と渋い趣味の妹さんですこと…あぁっと、これが品物です。確かにお届けしました。それでは」
「コズミックまたねー!」
そう言ってドアが閉まる。一瞬奥にジャージ姿の妹さんらしき人が見えた気がしたけど、あの姉にして妹のはずだ。仮にもファッションデザイナーを自負してる彼女の妹が全身ジャージな訳がないだろう。その場では特に気にも留めないで急いでパプリカ学園に急いだ。
「ハッ…ハッ…よし!このままいけばギリギリ間に合うか…ん?」
始業開始まであと5分。教室到着までの諸々のタイムラグを考慮しても十分間に合う距離だ。
アイツがいなければ。
「おはよう、真中君。随分と急いでるみたいね」
「げっ…南!?あ、あぁ〜おはよー…」
ハッシュの眼前に立ち塞がるのは我がパプリカ学園の鬼の風紀委員長こと南 みれぃだ。彼女はハッシュのたじろぐ姿を見るや否やすぐ様服装の乱れを指摘する。
「ネクタイが緩んでる!それにシャツのボタンを掛け違えてる!中途半端にシャツを入れない!ポケットの内側が飛び出てる!ズボンの裾を捲らない!違う種類の靴下を履かない!靴の踵を踏まない!それより何より…ッ!!」
一方的にまくし立てたみれぃは何処からか取り出した違反チケットをハッシュ目掛けて振りかざした。
「私立パプリカ学園校則第26条。寝癖をつけたまま学校に来てはならない!これで通算400枚目の違反チケット!!」
「そこォ!?いやもっとあるでしょッ!これ地毛だから!今だけくりくりヘアーなだけだから!っていうか、校則多過ぎてそんなにたくさん覚えられるかよ!?」
ハッシュは寸での所で回避すると、そのまま闇雲に校内へ逃走を図る。
「こらーッ!!待ちなさい!400枚目の奉仕活動をする決まりでしょう!!」
もちろん違反を目の前にして放っておく性分ではない(加えて節目の奉仕活動の)ため、ハッシュとみれぃによる追いかけっこが始まる。だが、もう既に生徒たちにとっては日常の景色となりつつあるので、特に気にも留めないでいる。勿論5分10分で終わるわけないので、その後2人揃って授業に遅刻し廊下に立たされたとさ。(みれぃはハッシュを取り締まるために奔走したと理由付けしたため、違反チケット免除。ハッシュも奉仕活動をする事で免除となった。ハッシュ意味無くね?)
因みに途中からみれぃが持ち場を離れた為、らぁらの遅刻はカウントされずに済んだ。兄貴様々です。
そして店の手伝いを終えた夕暮れに事件は起きてしまった。
「お兄ちゃん!私、アイドルになっちゃった…!」