プリパラ 『半才と呼ばれる無気力人間の故事』 作:自由の魔弾
「お兄ちゃん!私、アイドルになっちゃった…!」
何言ってんだこの妹は。お使いから帰ってくるなや否や突然のアイドル宣言と来たもんだ。お兄ちゃん知ってるぞ、どんなに頑張ってもトマト買いに行ったからってアイドルにはなれないんだぞ。
「………きゅ〜」バタッ
「え、え〜!?お、お兄ちゃんしっかりしてーッ!!」
が、脳内が理解に追いつかなかったらしく、ハッシュの思考回路からプスプスと音を立てて「えー、ちょっと待ってください、混乱してます」と終戦宣言を告げて、その場で卒倒してしまった。
「…んで、どう転んだらトマトからアイドルに変わっちゃうわけ?」
時間と所変わって、今はらぁらの部屋で事の詳細を聞いている。ハッシュは勉強机に備えてある椅子の背もたれを抱えるようにして座り、らぁらはベッドに寝転がって語っている。あ、あの後ものの5分で復活したよ。
「うん…。お使いの途中で“みれぃ”って子のプリチケバッグの落し物を拾って、プリパラに届けに行ったんだ。そしたら、ユニット組んでほしいって言われて…また一緒にライブしようって約束したら成り行きで…」
らぁらの話を聞いたハッシュは頼まれたら断れないらぁらの性格を知っているので、内心1人で納得した。というかそのみれぃってアイドルが中々やり手らしい。
「ふ〜ん…ま、らぁらがやりたいならいいんじゃないか?ダメと言って聞くような性格じゃないもんな。応援するよ」
「本当!?ありがとッ!」
歓喜のあまりハッシュに抱きついて顔を埋めるらぁら。ハッシュも元より反対するつもりなんか無いのだ。何と言われようが兄である以上、妹のやりたいことは尊重するほかないであろう。
「それにしてもらぁらがアイドルかぁ…。あんなに人前で歌うのが苦手だったらぁらがねぇ〜…こりゃ、一緒に風呂入ったり同じベッドで寝るのももう卒業かな?」
ハッシュの爆弾発言(わりと普段の行い)を聞いて途端に慌てふためくらぁら。
「わ、わぁー!!?わぁー!?な、何言っちゃってるの!お兄ちゃんのバカバカバカーッ!!」
羞恥に晒されながらハッシュをポカポカと力の限りを尽くして叩くらぁら。乱打乱打乱打。ひとしきり叩かれボコボコにされたハッシュはようやく重い口を開いた。
「というかそもそもなんだけど……プリパラって何?」
らぁらの乱打が再開されたのは言うまでもない。
翌日の昼下がりの午後、ハッシュは虚ろな視線のまま授業を受けると同時に物思いにふけていた。
「真中君…(応援するとは言ったものの、アイドルの応援って何したら良いんだろうか?)真中君!(というか、そもそも男の俺じゃプリパラ?に行けないって言ってたし…)真中君!!」
天を切り裂くような隣の席からの呼びかけに、思わず椅子ごと床に倒れ込むハッシュ。ふと現実に引き戻されその張本人と対峙することに。
「南……今ほどお前が同じクラス隣の席であることを呪ったことはないぞ」
その人物とは法の番人こと南 みれぃだ。どういう因果なのかハッシュとみれぃは同じクラスで席も隣同士。そのおかげでハッシュは常に監視されて胃がキリキリ痛む毎日を送っている。
「あなた正気なの?先生に名指しされて無反応って…」
みれぃに指摘されて前を向くと、確かに先生が額に青筋を浮かべながらワナワナ震えていた。
内心申し訳ないと思い、速攻で黒板に問いに対する答えをつらつら〜っと書き進めていく。
「…せ、正解です」
「…申し訳ありませんです。ちょっと考え事してて、決して無視してたわけじゃないんです」
「…今後は気をつけるように。もう戻って宜しいです」
正確な答えをあっさりと書き、尚且つ素直に非を認め謝罪すると思わなかった教師は、たじろぎ驚きながらもそれ以上追求することはなかった。
その後もまた考え事を再開させるハッシュを、横で見ていたみれぃは怪訝に思いながら思考を巡らせていた。
(真中ハッシュ…校則違反ナンバー1、授業態度も不真面目そのもの。でも成績は常に上位に入っているに加え、一部のスポーツでは超次元的な技まで使えるとか使えないとか。小学部の頃からの付き合いだけど……その素性はほとんど謎ね。そしてその鍵を握るのは妹の…)
(あ、今日サッカー部の助っ人頼まれてたんだった。ガンシャンドガーンだったか?あ、これキーパーの時のやつだ)
そしてさらに放課後のプリパラ。小学部校長の大神田グロリアによるプリパラ禁止令の恐怖を振り切り、もう1度ステージに出る決心をしたらぁら。再びみれぃとペアを組みライブをする事で、やはり自分はプリパラでアイドルになりたいという気持ちを再確認できたのだ。
ライブを終え帰路についたその道中、らぁらはみれぃに自分の学校では小学部のプリパラが禁止されている現状について説明する。
「えぇ〜!何それ!?ウチの学校みたいぷり…」
そんな会話をしながら、2人はゲートをくぐりプリパラの外に出る。そう、現実世界である“外”に出るのだ。
『えッ…真中さん(南風紀委員長)!?』
お互い素の姿を見て驚愕する2人。といってもらぁらのプリパラの姿は実際より少し成長させた程度でちゃんと見れば原型がわかるものだが、みれぃの場合はそんなもんじゃなかった。それは本人の口から説明してもらうとしよう。
「姿が違うのは当たり前じゃない。校長先生にバレない且つ最も魅力的に振る舞うために計算に計算を重ねて作り上げたキャラだもの。こうして真面目な風紀委員というキャラクターから徹底的にかけ離れたポップなアイドル“みれぃ”が生まれたってわけ」
みれぃの説明を受けて、確かにそうだと思うらぁら。事実、自分たちがライブしている映像をハッシュに見せた時のことを語る。
「確かにそれは言えてるかも。ライブの映像見せた時もお兄ちゃん、私のことは分かったけど南委員長のことは全然気づいてなかったみたいだし「…見せたの?」え?あ、うん…って委員長、どうしたんですか?そんなに怖い顔して…」
気がつくとみれぃの顔がこの世のものとは思えないほど羞恥と恨み辛みが混ざった表情とドスの効いた声色でらぁらに静かに、そして重すぎる言葉を告げた。
「…私がアイドルの“みれぃ”であることは、真中君には絶対秘密にしなさい。アイツにバレたら後でどんな辱めを受けるか分かったもんじゃないわ!」
みれぃの脳内では普段の無気力な姿とは打って変わって水を得た魚のように躍起になって小馬鹿にしてくるハッシュの姿が浮かんでくる。しかし、らぁらにはそんな気は無いようだ。
「そうかなぁ〜…お兄ちゃん、優しいし。それに(みれぃさんの時の)委員長のこと、すっごく可愛らしい子って言ってたし!」
あのハッシュが?いやいやそんなはずは無い。基本的に妹たちのことしか考えてないと思っていた“あの”ハッシュが天敵である自分(アイドルのみれぃ)を可愛らしいって褒めた?まさかそんな、そんなこと…
「…当然だわ!!私の計算が間違った答えを出すはずないもの!そう考えると確かに全てに説明がつく……普段の彼の違反は、私に対しての愛情の裏返し!敢えて素行の悪い素振りを見せて、風紀委員である私と接する機会を得るためだったのね!……少し可愛い所もあるじゃない」
「……南委員長?」
気がつくと眼前に広がるらぁらの顔に驚き、「と、とにかく!」と仕切り直す。
「真中君の気持ちは嬉しいけど、それとこれとは話は別!アイドルに恋愛は厳禁!そんなことにうつつを抜かしていて神アイドルは勿論、目の前のライブ1つ成功させられないわ!真中さん、あなたにも明日から徹底的に練習してもらうわよ!」
「お、おー!ってお兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだから!絶ェ〜対誰にも渡さないだから〜!!」
こうして2人の少女の決意が固まり、アイドルチーム“らぁら&みれぃ”が結成されたのでした。
「ファ○アト○ネード!!」
超次元的な技、ハッシュは使えたみたいです。