プリパラ 『半才と呼ばれる無気力人間の故事』 作:自由の魔弾
ついこの間夏休みになったかと思いきや季節はすっかり秋になり学校も2学期に入ったことで、ハッシュもお店のお手伝い優先の生活から再び学業優先の生活に戻ろうとしていた。
そこ、時間の経過が早過ぎるとか言わない。
一応夏らしい出来事が無かったわけではないが、特筆すべき事件があるわけでもないのでここでは触れないでおこう。
反対に、らぁらはほとんど毎日真面目にプリパラに通ってライブをしたりアイドル特番に出演したりと大忙し。親友のなおに内緒でプリパラに通っていたことで一悶着あったようだが、2人が築いてきた友情を再確認したことで何とかことなきを得たようだ。
そして季節は流れ、冒頭でも言った通りパプリカ学園はらぁら達小学部とハッシュ・みれぃ達中等部共々登校初日を迎えていた。
「らぁらもこの1ヶ月、色々あって大変だったもんなぁ〜」
そう言ってらぁらの頭を撫で回しながら登校するハッシュ。
「うぅ〜…だからって何で撫でるのさ?のんにやってあげればいいじゃ〜ん」
周囲の学生を気にすることなく接するハッシュの対応に恥ずかしがるらぁら。ちなみに今この場には知り合いはハッシュとらぁらしかいない。
「だってのんちゃんに『そんな恥ずかしいことお店の外でやらないで下さい!』って逃げられちゃったし。それにらぁらは夏休みの間はプリパラ行ってたから、兄貴らしいことほとんど出来なかっただろう?……嫌なら今後は控えよっかな〜」
「別に…嫌、とは言ってないもん」
パッと手を離すと見るからに元気無さげな表情で答えるらぁら。ハッシュはそんならぁらの姿を見て、少し安心した笑みを浮かべた。
「こんな兄貴でも嫌わないでくれて、ありがとうな。本当は少し不安だったんだ。らぁらが頑張ってる姿はテレビを見てれば分かるよ、どんどん“アイドル”になっていくのも。それがちょっと怖かったんだ、多分」
今までほとんど語られることのないハッシュの弱い部分を初めて垣間見たらぁら。ハッシュが以前どういう風に扱われていたかを少し知っているらぁらは、驚きを隠せなかったもののすぐに受け入れた。
「お兄ちゃん…大丈夫だよ。私がどんなアイドルになっても私の“お兄ちゃん”はお兄ちゃんだけだもん。だから…笑ってッ!」
満面の笑みを浮かべてハッシュを励ますらぁら。ハッシュはそんな彼女の雰囲気に飲まれると同時に、天性のアイドルであることを実感させられる。
「やっぱアイドルだな、らぁらは。そんなこと言われたら、気張るしかないよな!」
再び自分に喝を入れ、気合いを入れ直すハッシュ。彼の心残りも少しは晴れたようだ。
「あ、らぁら〜!」
2人の少し先の所で、なおが手を振って待っていた。ハッシュはらぁらの背中を押して『行ってこい』の合図を送る。らぁらは頷いて少し走った所で振り返り、1ヶ月ぶりの“わがまま”を言った。
「帰ったら、お兄ちゃんの作ったピザが食べたい!作ってくれるー?」
それに対してハッシュはサムズアップで返した。
「おみまいするぞ〜!!」
一瞬、炎の料理人が乗り移ったけど、らぁらは気にせず(というか多分知らない)笑顔で手を振って、そのままなおと一緒に小学部の校舎へ歩いていった。
一息ついていると、後ろからいきなり誰かに声をかけられた。
「おはよう真中君。朝から妹さんには優しいのね…って何で隠れてるのよ!?」
「し、知らない知らない。ワタシ、ナニモ、シラナイヨ」
「何でカタコト…?」
声の主は南 みれぃだった。が、ハッシュはただいま絶賛気まずいのだ。
「まさか何の気なしに開けたタンスの中にクマのパンツが大量にあるとは思わなかったんよ!ほんの出来心だったんよ!まさか持って帰ってたなんて思わなかったんだよ!」
そう口走った次の瞬間、ハッシュの身体は宙に舞っていた。それはほんの一瞬の出来事だった。彼が言い終わる瞬間から地に倒れるまでのコンマ何秒の世界だった。そのままハッシュの身体に馬乗りになって抑え込み顔を近づけるみれぃ。
「…この際、どこでそれを知ったのかは問わないわ。あなたに残された選択肢は2つ。1つはこのまま法の裁きを受ける」
「うぁ…そいつは是非とも勘弁願いたいな。もう1つの方で」
すると性に合わないニマァっという笑みを浮かべるみれぃ。
ハッシュは人生で初めて悪寒というものを感じた。
周囲が信じられないものを見ている。その原因は普段からは想像もつかない異常な事態が起こっているからだろう。
「中々お似合いの格好じゃない、真中君?」
「…南がそうさせたいって思ったなら別に構わないが。こんなので本当に良かったのか?」
状況を説明すると現在のハッシュの姿は、いつもの寝癖を直されネクタイがきっちり締めてあり、それにシャツのボタンを掛け違えることなくシャツもぴっちりインしている。ポケットの内側が飛び出ていないしズボンの裾も捲ってない上違う種類の靴下を履いてないし極め付けに靴の踵を踏まずに正しく履いている。そして度数の入ってない眼鏡(みれぃの予備)を掛けさせられthe・優等生といったところだ。(#1を参照)
ハッシュの問いかけに対して自信ありげに答えるみれぃ。
「普段から素行不良のあなたを更生させることで、この学園内での私の評価も上がるという訳よ。最も、成績に関しては今更何も言うことないでしょうけどね。この機会に授業態度も真面目にしてみなさい」
みれぃの説明を受け、計算高い女だと改めて思うハッシュ。以前ならこんな事されて黙って従うはずはなかったが、ハッシュにも色々と思うところがあった。
「…うん、そうだね。気にかけてくれてありがとな、委員長。(南のヤロー、まさかここまでアグレッシブに動くとは思ってなかったぞ。こりゃコスモさんの言ってたこともあながち間違いじゃないのか?でもあの人なんか胡散臭いしなぁ…。まぁこの際、これを機に妹離れ(らぁら&のん)するしかないのか……離れたくないな〜!)」
ニカッと屈託のない笑顔で返答するハッシュに思わずドキッとなるみれぃ。一瞬で普段通りに受け答えて取り繕ったものの意外と内心はバクバクだった。
「…ッ!そ、そうね。分かってくれればいいのよ。(何、この人。急にそんな顔するなんて…普段から見慣れてなかったら驚いただけだし。さっき真中さんに向けていたのもこんな笑顔だったし、彼が“半才”と呼ばれていた由縁もあって本当に心を許せる相手にしか見せないのかしら…?)」
困惑するみれぃ+周囲の生徒&教師たちだったが、見た目がまともになっただけで、怠惰な性格はそうそう変わらないと高を括っていたがその後の学校生活でその考えは間違いであることを裏付けられてしまう。
とある休み時間①
「黒板消すの手伝うよ。高い所は任せて」
「え!あ、ありがと…」
とある休み時間②
「それ重いでしょ?半分持つよ」
「本当?真中サンキュー!」
とある昼休み
「ギャハハハハハハッ!!」
『ギャハハハハハハッ!!』
結果、意外とクラスに溶け込めた。
「ふぅ…学校って大変だ〜」
放課後、珍しくリビングで伸びているハッシュ。普段とのギャップの所為か常に気を張っていた1日はとても辛い。普段お店の手伝いに使われるはずの体力が学校生活に費やされていつもより効率が下がっていたのが自分でもよく分かる。
「あ、お兄さんまた伸びてる。お姉ちゃんじゃないんだから、そのまま寝ないでよね。あ、それよりも今日のこと聞いたよ〜?」
心身ともに疲労困憊して突っ伏しているハッシュに対して、いやらし〜笑みを浮かべて迫るのん。どうやら小学部にも今日の出来事は広まっているようだ。
「のんちゃんはいつもこんな学校生活を送ってるんだろう?今日1日やってみたけど俺にはとても無理だ…感服するよ」
疲れた身体に鞭を打って賞賛の拍手を送るハッシュ。それに便乗するようにのんはとあるおねだりをした。
「そう思うんなら今度そふぃのサイン貰って来てよ!今日配達に行ったらその家の人が『ハッシュ君ならそふぃの知り合いだから直接会ってサイン貰うのなんかコズミック楽勝よ!』って言ってたもん」
果てしなく1人しか思いつかない。あの人は一体何を企んでるんだろうか?
「うぅ…お兄さん…やっぱり、ダメ?」
即答しないハッシュに畳み掛けるようにのんの泣き落としが炸裂する。そんなことしなくても断るつもりは無かったが、コスモが何を計画しているのかが分からなかった。
「そこまでされたらやらない訳にはいかないよ…。のんちゃん、もしかして誰にでもやってる?」
「そんなことないよ。お兄さんとお姉ちゃんにしか使わないもん。お姉ちゃんの場合は結構抵抗してくるから交渉材料を用意するけどね〜。ま、何はともあれ交渉成立!にひ〜」
年相応の笑顔を見せて部屋に戻るのん。ハッシュは心の中でああいう子が小悪魔って言うんだろうな〜っと確信した。
そして、そんなことを考えていると真中家のもう1人の小悪魔ちゃんが帰ってくる。
「お兄ちゃん!真面目になったってどういうこと!?見損なったよ!」
「帰ってくるなり見損なったってどういう…。普通そこ、褒めてくれるんじゃないの?」
らぁらは眉を逆ハの字にして詰め寄ってくる。
「だってお兄ちゃんものんも真面目になったら、私も真面目にならないと怒られちゃうじゃん!」
一々言うことが可愛いなこいつは。そう思ったのを妹離れの決意を思い出し、必死に飲み込む。
「お生憎様、南の罰ゲームなんだなこれが。あいつの家に忍び込んだことがあったろ?(#4参照)多分あの時あいつの下着、間違って持ち帰ってきちゃったらしいんだよ。今朝そのこと謝ったら許す代わりに真面目になりなさい!って言われてこのざまよ」
落ち込むハッシュにらぁらは思い出したように真実を告げる。
「あ、それ持ってきたの私だよ?可愛いデザインだったから同じの欲しくて1つ借りてきたの忘れてて、そのままお兄ちゃんの部屋に置いてたの忘れてたんだった!」
主文、被告らぁら氏を頭ぐりぐりの刑に処す。
「なるほど。要するに真中さんが持ってきたのをそのまま真中君の所に渡って行ったという訳ね…。ハァ〜、なんか疲れたわ」
意外な結末に思わず頭を抱えるみれぃ。ハッシュとらぁらは揃って謝罪し下着も返す。
「という訳なので、どうか罰ゲームの方はその、もう終わりということで〜…?」
珍しく下手に出るハッシュ。彼自身不可抗力とはいえ勝手に忍び込んで見てしまった罪悪感に苛まれてるのだ。
「まぁ、真中君が自発的にやった訳じゃないみたいだし、私の狙い通り評価も上がったから今回の件は目を瞑るわ」
「本当か?いやぁ〜助かる。安心したら一気に汗かいてきたよ」
暑さを感じて制服の上着を脱ぐハッシュ。するとその首元にとんでもないものがあった。
「…真中君。その首元にあるキスマークは何かしら?」
「え?ぬぉ!?な、何だこれ!?」
ワイシャツの首元にあるのは明らかにキスマークだった。反射的にらぁらの方を見ると急に目線を外した。確か昨日なんとかっていう化粧品メーカーのイメージガールに選ばれて、リップ貰って帰ってきたので見せびらかしていたが…?
「真中君…あなたって人は!!」
「え!南待て!これはそこにいる小悪魔の陰謀だ!」
「問答無用!不潔ヨォーッ!!!」
秋色に染まる今日この頃、響くのは違反チケットを貼る音だった。