プリパラ 『半才と呼ばれる無気力人間の故事』 作:自由の魔弾
「え、今度越してくるんですか?」
ママさんからその事を聞いたのは、とある休日の昼下がり。なんでも、このパラ宿に飲食店が進出してくるらしい。
「そうなのよ〜。どんなお店かは…忘れちゃったんだけど」
「ありゃ…?ママさん、しっかりしてよ。飲食店なんだからお客さん取られちゃうじゃないですか」
歳の割に可愛らしく舌を出して「てへっ♪」と誤魔化すママさん。それで許してくれるのはパパさんだけですよと。
「でも、ハッシュ君と同じくらいのお子さんがいらっしゃるって話よ?しかも双子ちゃんなんですって!」
面白がって話すママさんとは裏腹に内心で焦りが見えてくるのが分かる。新しい店と珍しい双子という強烈な売りがある。これで間違っても双子が容姿端麗&頭脳明晰とかだったら一気に向こうの天下になる事は目に見えていた。
「成る程…だからあんなにパパさんが張り切ってる訳ですか」
視界の端でいつにも増して陽気に腕を鳴らしているパパさんが見える。
「いつも以上に頑張らないトルティーヤ〜!」
ダジャレはそこまで上手ではないが。
『チーム名は“SOPHISTEE”ウサ〜!意味は今までよりも洗練されたそふぃを見せるってことウサ〜!』
テレビの前でそふぃの3人チーム結成式を見ているハッシュとのん。純粋に嬉々として受け入れてるのんに対して、らぁらから事の経緯を聞かされているハッシュは神妙な面持ちで画面を見ていた。
「(北条さん…そんな顔したらいけないんじゃないの)らぁらのやつ…何やってるんだ?急がないと間に合わなくなるぞ」
何が何でもそふぃとチームを組むと息巻いて行ったらぁらを心配するハッシュ。このまま何も起こらなければ…とつい嫌な結末を想像してしまう。
その時、画面の中で想像だにしてない事態が起こった。
『そふぃさん!本当にこのままでいいの?籠から出たいって思ってるんじゃないの!?』
突然の乱入に騒然とする現場。しかしすぐさま警備していたガードマンパンダが総出でらぁらを会場から追い出していく。
『そふぃさん!ライブ会場は11階…。11階ですから〜ッ!!』
その言葉を皮切りに追い出されるらぁら。そふぃのマネージャーで会の進行を務めているウサギが何事もなかったかのように取り繕い、結成の儀式を行おうと促す。
「そふぃちゃんクラスのアイドルにもなると、変なファンに付きまとわれて大変ウサ〜!さぁさぁ皆様お待たせしましたウサ!いよいよ結成の儀式ウサ〜!」
この時そふぃは迷っていた。このまま周りに促されるままにチームを組んでいいのだろうか?自分の気持ちに嘘をついたままでいいのだろうか?と。
ふと脳裏にある言葉が浮かんでくる。
(籠から出たら私たちがいくらでも応援出来ます。でも、最初の一歩はそふぃさんが自分で踏み出すしかありません)
踏み出すべき最初の一歩とはまさに今なのではないか?そう思った次の瞬間には既に身体が動いていた。
『ごめんなさい!』
結成式を抜け出し、らぁら達の待つ11階のライブ会場を目指し走り出すそふぃ。途中連れ戻すためにらぁらを追い出したパンダたちが追いかけてくるが、ウサギの言いなりだと思われてた親衛隊がそふぃを守り援護する様子がテレビ越しに見て分かる。
「うわぁ…そふぃって、やっぱりクール!」
のんがかぶりつきになってその様子を見ている横で、内心安堵と感服の意をらぁらに表するハッシュ。
(やっぱりらぁらはすごいな…。この土壇場で彼女の心を動かしたのか。これなら…任せてもいいのかな?)
静かに自室に戻るハッシュ。画面にはそふぃの結成式は『都合により放送を休止します』の文字が表示され、しばらくするとらぁら達のオーディションライブの映像が流れてくる。らぁら・みれぃ・そふぃが初めてチームを組んで歌う『Pretty Prism P aradise!!!』が披露されているのだ。その歌声は観客の心を掴み、見事優勝を果たした。
「あれ、お兄ちゃん居ないの?」
翌朝、リビングに行くといつもは居るはずのハッシュの姿がなかった。
「ハッシュ君、昨日から旧家の方に行ってるのよ。ほら今日は…」
ママさんに言われて初めてそこで気づくらぁら。
「あ、そっか…今日は命日だもんね。じゃあ学校には私から言っておかなきゃだね」
「そうね…らぁら、お願いできるかしら?」
少し元気なく「かしこまっ」と決めてみせるらぁら。
「そうなの…まぁそういう事なら仕方がないわね。分かったわ、先生方には私から伝えておくから安心して」
らぁらはみれぃにハッシュの欠席の事情を伝える。意外にもすんなりと受け入れてくれて少し拍子抜けしているらぁらに対して、みれぃは「それにしても…」と続ける。
「あなた達って、実の兄妹じゃなかったのね…?随分と仲が良いから」
「お兄ちゃんが家に来た時は随分前だから、もう普通の兄妹みたいに思ってますけどね。のんはまだ小さかったからあんまり覚えてないかもしれないけど…でも、お兄ちゃんは私たちのお兄ちゃんであることに変わりないですから!」
普通の兄妹という言葉にみれぃは普段の真中家の様子を思い出してみる。
『お兄ちゃ〜ん!それ!』
『うわっぷ!?ら、らぁら…後ろからいきなり抱きつくなって』
『もう!2人ともやめてよね!一緒にいる私まで恥ずかしいじゃん!』
『とか言って、のんもこっちに来なよ〜。お兄ちゃん盗っちゃうぞー?』
『らぁらに盗られちゃうぞー?』
『うぅ…もう!お姉ちゃんだけずるい!私だってお兄さんに甘えるの我慢してるんだから!』
『うお!?のんちゃんそれタックル…』
なんだこの甘ったるい空気の兄妹たちはと宙を見つめるみれぃ。一体どこの世界にこんな甘々な空気の兄妹がいてたまるかと。
同じ頃、暮石の前で手を合わせて拝むハッシュの姿があった。年に1度だけこの日は何があってもここに来ている。
かつての家族、家系に手を合わせるために。
「今年もよろしく。あなた達の分もしっかり生きるよ。救ってもらった命、無駄にはしないから…見守っててくれ」
深く一礼をすると、踵を返す。すると前から歩いてくる男に不意に声をかけられる。
「失礼、もしやあなたはハッシュ殿でありますかな?」
目深に帽子を被りコートで身を隠した男が、身元を確認してきたのだ。初見で疑わないわけがなかった。
「誰ですか、あなた?」
ハッシュの問いに対して、不適に微笑む男。そしてそのまま無言で拳を放ってきた。
「…ッ!?な、何の真似だ!?」
寸でのところで受け止めたハッシュはそのまま相手の喉元目掛け腕を突き出した。が、男は既に見切っていたのか容易に攻撃を逸らしそのままハッシュの身体ごと固めて動きを封じてしまった。抵抗するハッシュの動きを見て満足したのか、男は構えを解いてハッシュを解放した。
「蛇の型か…話には聞いていたが本当に使えるとはな。恐れ入ったよ」
「ハァ…ハァ…あなた、益々何者?」
その場に倒れ込むハッシュに、男はポケットから取り出した名刺を手渡した。
「東風道場 師範 ウォン・チェンサム?」
明らかに胡散臭い笑みを浮かべるこの男との出逢いが後にハッシュの運命の歯車を動かすこととなる。
らぁらはプリパラでチーム練習している頃、珍しく一報入れて帰って来なかったハッシュの事を考えていた。毎年決まって日帰りで帰って来ていたのだが、何故か昨日は「暫く戻りません」の連絡だけを寄越して音信不通になったのだ。
「でも、心配ばかりしていられないよね!明日には記念ライブもあるしチーム名も決めなきゃだし。私もできる事をやらないと!」
いざ3人で活動し始めると、テキパキと計算するみれぃと天才肌でマイペースのそふぃがうまく噛み合ってないことを気にしているらぁらは、ハッシュならどう動くかを考えて行動していた。
「ねぇ2人とも聞いて!私思い出しちゃった、初めてトモチケ交換した時のこと。すっごく嬉しかったし出逢えたことに本当に感謝したいと思った!」
らぁらの想いを受けた2人はぎこちない表情から、やがて自然な笑みを浮かべてお互いに笑い合う。
変に意地を貼るのも可笑しくなってしまったのだ。
「ごめんぷり。そふぃさんにはそふぃさんのやり方があったぷり。一方的に押し付けるべきじゃなかったぷり」
「ううん。みれぃちゃんの計算力もすごいよ」
ようやく本当の意味でお互いに打ち解けることができて、安心するらぁらだった。そして、3人の名前を一文字ずつ取ってチーム名にしようとお互いに提案した結果…
「だったら、私たちのチーム名は…“SoLaMi♡SMILE”!」
前向きで何事も諦めない強い心。常識で考えたら諦めるしかない状況でも決して諦めないらぁらの強さ。そふぃとチームを組みたいと思ったとき、断られても何度もアタックしたのはそふぃの一歩踏み出したい気持ちを感じ取ったから。その結果そふぃの心を動かすことができた。
「ウォンさん、いきなりこんなこと仕掛けて来たのには何か理由が?俺はもう何年も武道には触れてないし、今さら必要になる理由も無いはずですが…」
「いやそうも言っていられないのだ。だがその腕前、錆びついてなくて安心したぞ。実はハッシュ、その蛇の拳…極める必要がある。場合によっては、秘伝を伝授する事態にもなりかねん」
ハッシュは因縁の日以来、人生最大の岐路に立たされていた。