プリパラ 『半才と呼ばれる無気力人間の故事』 作:自由の魔弾
パプリカ学園は年に一度の学園祭…通称“パプリカ祭”に向けて準備が進められていた。当然ハッシュもクラスの出し物の飾り付けなどを手伝っていた。空いた時間でらぁらやのんのクラスを見て回ろうと廊下を徘徊していると、ふと人だかりが出来ていることに気づく。どうやら壁に掲示してあるポスターが原因のようで、静かに読み上げてみることに。
「えぇ〜っと、SoLaMi♡SMILEとドレッシングパフェのライブ対決?ってこれ、らぁらのチームとレオナのチームが勝負するのか…ん?」
ハッシュはドレッシングパフェのチームに一人知らない人物がいることに気づいた。紫色の髪にサイドで結んでいる、師匠の言うところの芯の強そうな女性だった。
「そう言えば、レオナが言ってたっけな。この学校の生徒とチームを組むために転校してきたって。ドロシーは身内だって知ってるから、この人がそのメンバーってことか…」
このドレッシングパフェというチーム、その実力はらぁらから話を聞いている。最近結成されたチームで何度も自分たちとライブで対決しては中々決着がつかないんだとか。
そんな彼女に会ってみたいと純粋に思ってしまったが、どうせこの広い校舎内で素性も知らないので気軽に会えるわけもないとすぐに諦め、再び校内を歩き回るのだった。
居た。ものの五分で見つかった。廊下で一人碁盤とにらめっこしている少女はさっきのポスターに写っている凛とした姿のまま、制服を着たまま正座をして目の前に座っている。ものすごく集中していることは背後からでも分かっていたので声をかけるのは諦めて引き返そうとした最中、彼女の方から声をかけられる。
「失礼、真中ハッシュ殿であるか?」
「え、デジャヴ…ま、いいや。何故分かったのかな?」
師匠との初アポの時がふと過ぎったが、おじさんと少女を天秤にかけることはどれほど意味の無いことかは誰でも分かった。
「噂には聞いている。違反率ナンバー1、授業態度は不真面目…だったのだが最近はまともになってきたと聞く。それより何より武術に精通しているとか?」
視線を合わせずにハッシュに話しかける少女に疑問を抱く。
「(この失礼な態度…。囲碁を嗜む者が礼儀作法を心得ていないとは考えられない。もしや…?)だったら、試してみるかい?」
ハッシュは彼女の対面に座り、近くにあった手頃な小箱に盤上の碁石を入れていく。
「な、何をする!?」
突然の奇行に驚く少女を他所に、盤の上にこぼれないように素早く被せる。そのあと箱を静かに引き上げ、不自然なほど駒で「山」が綺麗に盛られたことを確認する。
「試すとは言ったけど、お生憎様囲碁の心得は無いのよね。例えあったとしても貴女には勝てないでしょ、学生チャンピオンなんだって?」
「だからと言ってこれは何だ!これではまるで将棋崩しじゃないか!」
吠える少女にチッチッと指を振って静める。
「それは将棋の駒を使ったらの話でしょ?と言ってもルールは一緒だけど。さしずめ“囲碁崩し”ってところかな?さぁ始めよう」
ちなみに将棋崩しのルールを説明しておくと、順番を決め互いに駒を動かしていく。駒を動かす際に音を立てたり持ち上げたりすることなく、かつ1本の指のみで盤の外まで何枚かずつ滑らせていく。盤の外まで運ぶとそれを得られる。駒を倒したり、積み重なっている駒を崩したりして音を立てたときは、次の参加者に順番を交代する。全ての駒が無くなった時点で終了。これが通常のルールで、唯一違う所といえば将棋の駒が黒181個の碁石で代用されていることだが、これがズブの素人でも玄人に勝てるかもしれない作戦だった。
それは何度か碁石を取っていくことで判明していく。
「へぇ…意外と上手く扱ってますね。もっと苦戦すると思ってたのに」
「…これでも全力を尽くしているのだがな。普段から使い慣れているはずの碁石がこんなにも扱いづらいとは…。まるで意思を持ったようだ」
囲碁に精通している彼女が何故こんなにも苦戦しているのか。それは碁石の形に謎が隠されている。将棋の駒は角ばっていることに加え必ずどの面にも盤と接する面積が確保されている。しかし碁石は円形でどう頑張っても碁盤とは点でしか接していないため非常にバランスが取りにくいのだ。さらに彼女を苦しめている理由は他にもあった。
「貴様は余裕そうだな…?」
碁石に触るのは初めてというハッシュだが、さっきから見るからに苦もなく碁石を取っていく。大抵自分から何か話しかけた時に自滅しているが、それすらもパフォーマンスに見えて仕方なかった。
「ん、まぁ少し前まで似たような修行してたから。割らないように卵掴んだり、丼一杯に水を入れてこぼさないように持ったまま生活しろとか」
ハッシュの説明を聞いて、なるほどと合点する少女。が、流石は囲碁チャンピオン。早くも順応してみせて自在に碁石を取っていく。
ハッシュはここでさらに揺さぶりをかけてみる。
「今度の学園祭、ライブで対決するんだって?ぶっちゃけて言うと勝算は?」
「勿論、私たちドレッシングパフェの勝利に決まっている!」
自信に満ち溢れた回答が返ってくる。これまで彼女を見てきて分かる通り、根拠のない自信を抱くタイプではない。と言うことは彼女の言葉や考えが行動に繋がっているのだろう。というわけでここで釘を打っておくことにする。
「でも、相手のチームには真中らぁらが居るぞ?」
ハッシュに指摘されて口を紡ぐ少女。彼女の中でもその存在は危惧しているようだ。
「確かに周りを巻き込むあの爆発力は敵ながら認めている。だが我々には新曲がある。例え“半才”の妹でも簡単に負けはしない!」
「うちのらぁらは強いぜ?俺なんかと比べ物にならないくらいにな…じゃじゃ〜ん」
ハッシュはそう言いながら取った碁石を袖に隠して掌を開いて少女に見せる。一瞬驚いた表情を見せた少女だったがすぐに冷静を取り戻す。側から見たらいきなり碁石が消えたかのように見えるが、タネが分かれば案外ちゃっちい仕掛けだ。
「マジックだよ、俺の負け。今日は色々話せて良かった。 ライブ頑張ってくれよな。らぁらの次に応援してるよ」
「それじゃ」と言って、席を立って離れようとするハッシュを少女は呼び止める。
「待て!私は東堂シオンだ!名を覚えておいてほしい!」
少し黙り込んだ後、ハッシュは少しハニカミながらシオンに答えた。
「…かしこまっ」
ハッシュがそのまま歩き去った後、シオンは静かに言葉を漏らした。
「ハッシュ殿の碁石の取得数は91個…この時点で私の負けか。半才の実力、本物だった…」
「え!ライブ中止なの?」
その衝撃的な事実をハッシュが知ったのはその日の夜のことだった。夕飯を食べて一修行を終えて部屋に戻ろうとしたところをらぁらに呼び止められ、さっきのセリフに至る。
「うん…パプリカ祭のイベントは小学部と中学部の両方の校長先生からの許可がないとダメなんだって。大神田校長が反対してるから、プリパラのライブ中継できないって南委員長が…」
すっかり気を落としてしまっているらぁらの姿を見て、ハッシュも可能な限り知恵を絞ってみる。が、流石のハッシュといえど一般中学生が持ち合わせている知識など浅はかで到底この状況を覆せる案など出るはずもなかった。
「ごめんな…俺じゃ力になれない。こんなんじゃ何の意味も無いよ」
ハッシュの力無い言葉を受けて、らぁらも元気なく返す。
「…ううん。お兄ちゃんが悪いんじゃないもん、全然気にしてないよ。ただ…」
そう言って部屋に戻る最中、言葉を詰まらせて一言ポツリと本音を口にする。
「みんなにライブ、見てもらいたかったな…」
扉が閉められ一人廊下に立ち尽くすハッシュ。自分の非力さを呪い、ただ悔しさだけが沸々とこみ上げてくる。何か、何か手立ては残されてないのかと考えた矢先、ハッシュはある行動に出ていた。
「もしもし、夜分遅くに申し訳ありません。実は折り入ってご相談したいことが…」
「…ゥシッ!それじゃやりますか」
そしてパプリカ祭当日の朝、ハッシュはパプリカ学園には行かず別の場所に赴いていた。その場所というのは…。
「聞こえていますか!!こんな朝早くから騒いでしまって申し訳ない!!ですが!とても重要なことなので来ずにはいられませんでした!今日、僕の通う学校でこのプリパラのライブをするはずでした。しかし、諸事情あってそのライブは中止の危機に追い込まれています!正直言って、僕にはプリパラのことはよく分かりません!だが!このプリパラには夢がある!その夢を見せてくれるアイドルたちがいる!そして何より、その夢を待っている多くの人たちがいる!チケットを持たない者は、夢を見てはいけないのですか?憧れを持ってはいけませんか?僕の知っているアイドルはここに来て変わりました。自分に自信を持ってどんどんなりたい自分になっていきました!世の中にはそんな子たちがたくさんいることを知っています!男の僕には立ち入ることすら許されない場所ということは重々理解しているつもりですが、そういった男の子もここに来れない女の子も隔てなく楽しめる。そんな場所であってほしいと声を大にして言わせていただきたい!」
ハッシュはひとしきり叫び終えると、地面に座り込み頭を下げてさらに訴える。
「どうか!お力をお貸しください!以上、一中学生の告白でした!ご静聴ありがとうございました!!」
静まり返るプリズムストーンショップ前。ハッシュが行ったのは神頼みならぬプリ頼み、良心に訴えるより他に方法はなかったのだ。すると、お店の扉が開き女性が一人立っていた。
「プリズムストーンショップへようこそ。ですが、今の訴えに対して出来ることはありません。システムで〜す」
赤いメガネをかけたその女性は非情にもそう伝えた。正直出たとこ勝負の賭けだったので全て受け入れてくれるとは最初から思ってなかった。目的は内部に精通する人物と対面することだ。
「そこを何とかお願いします!ライブを待っているのは本当なんです!どうにか策はありませんか?」
ハッシュの言葉に困惑する女性。
「そう言われましても…あら?プリパスに着信が。はい、はい…分かりました、では変わりますね。どうぞ、あなたと話がしたいそうです」
そう言うと女性はプリパスと呼ばれる端末をハッシュに手渡す。恐る恐る出てみると、テレビで見たことがある人物と繋がっていた。
「初めまして、赤井めが兄ぃと申します。あなたの熱い思い、このめが兄ぃには確かに届きました。私共としましては全力でアイドルたちを応援する所存です」
「じゃあ…!」
「ですが、こればかりはこちらではどうしようもないのです。反対意見がある以上、簡単に頷く訳にはいかないのが現状です…と言う話を昨日したばかりなのです」
めが兄ぃから意外な話を聞き、柄にもなく驚くハッシュ。
「他にもこの事を話しに来た人が居たんですか?」
「えぇ、その日のうちに当事者のみれぃさんが。学校内での中継を断られてしまったので、新たに場所を設けて中継をお願いしたい…と」
ハッシュは初めて完敗した気分になる。自分では考えもつかなかったアイデアを当事者であるアイドル自身が状況を打破してみせたのだ。だがそれ以上に何よりも嬉しかった。
「そうだったんですか…。何だ、こんなことしなくても良かったのか」
「いえ、あなたの心意気はプリパラ内のどのアイドルたちとも勝るとも劣らないものだと感じました。本来ならこんなことは出来ないのですが…。めが姉ぇさん、彼にプリパスを渡してあげて下さい。責任は私が持ちますので」
めが兄ぃに促されためが姉ぇはカウンターの奥に一旦戻り、先程まで使っていたプリパスと同じ物をもう一つ用意してハッシュに手渡した。
「これはプリパスといって、プリパラ内と通信することができます。もちろんこれだけではプリパラの中には入れませんが、私からのせめてもの気持ちです。受け取ってください。最後にお名前を教えて頂けますか?」
「真中ハッシュです。妹のらぁらがいつもお世話になってます。どうか見守ってあげて下さい」
「はい、お任せ下さいハッシュさん。それでは」
通信が切れると、めが姉ぇに持っていたプリパスを返し、軽く使い方を教わって少し遅れてパプリカ学園に向かった。その足取りの重さは行きの道とは比べ物にならないほど軽く感じた。