プリパラ 『半才と呼ばれる無気力人間の故事』 作:自由の魔弾
パプリカ祭が始まると、学園内は多くの人達で賑わっていた。ハッシュも空いた時間で校内を徘徊していると、やけに上機嫌な校長に出くわした。どうやらライブイベントをつぶす事ができて最高の気分らしい。
「あら、あなたに会うとは珍しいですわね?」
「…どうも。校長先生もお元気そうでなによりです」
ちなみに大神田校長のことはそれほど苦手という訳でもない。怠惰なくせに成績は良いのであまり強く当たれないため教師間ではあまり評判の良くないハッシュだが、校長はプリパラ・友達というワードに過敏に反応するためなんとなく気配が薄れて覚えられてるのだ。これでらぁらを追い掛け回さないでくれたら良い校長なのだが。
「当〜然でっすわ!あの忌々しいライブイベントをこの手で潰すことが出来たのですから。ついでに真中さんの尻尾も掴めたら言うことなしでしたのに…そこの所、兄妹としてはいかが?」
「プリパラ…ですか?男には分からない世界ですよ。それより例の件なんですが…その、本当に僕なんかで良いんですか?」
「まぁ、少々“妹LOVE”が過ぎるところは否めませんが…成績は申し分無いですし、幾分急な依頼だったので御家族の状況も普通とは異なりますし…あ、失礼しましたわ」
ハッシュの家族環境が普通じゃないことを知っている校長は、自身の発言をすぐに詫びる。ハッシュも既に何度も経験しているやりとりなので特に気に留める様子もなく受け流す。
「もう6年もこの状況ですもんで、いい加減慣れましたよ。昼で早退して両親にきちんと話してから夕方の便で向かうつもりです。何時間か時差があるので多分眠れませんね」
「ふふッ…そうかもしれませんわね」
軽口で返してみると、つられて校長も柔和な表情を浮かべた。多分、こっちの校長が本来の姿なのだろうとハッシュは思った。だったら尚更あそこまでプリパラを毛嫌いしていることが不思議に思えたのだ。
時が進み辺りが夕方になると、風紀委員の雨宮が校内放送でスペシャルイベントを行うと流す。その内容は校門前でプリパライベントを中継するというものだった。
寝耳に水の校長は生徒達をイベントに行かせないと止めようとするが、盛り上がる生徒が沢山いるために止められない。それでも校長はイベントを阻止しようと校門前に向かうが、既に先回りしていた雨宮が行く手を阻んだ。
「きょ、許可は、とってあります!」
「許可?」
「こ、ここは、学園の敷地外です。校長先生則は及びません」
「では、一体、誰の許可を取ったと言うのです?」
「け、警察です!道路交通法に基づき申請し、使用許可を得ました! これは正式な書類です!」
「そ、そんな手があっただなんて…!」
それから少しして校門前に大型トレーラーがやって来ると、トレーラーは特設モニターへと形を変える。これで準備完了。ここからはライブの時間です。
まずはDressing Pafeの出番。3人はモニターを通じてライブを見ているファン達に、一緒に盛り上がろうと呼びかける。曲は宣言通りの新曲『CHANGE! MY WORLD』。普段プリパラに行けない男の子も女の子も楽しんでくれることでいつも以上のパフォーマンスを披露して終わった。
続いてSoLaMi♡SMILEの出番。こちらも新曲の『HAPPY ぱ LUCKY』を披露する。負けじと楽しませる歌とダンスで終始魅了した。ライブを見たファンは大いに盛り上がる一方、校長は動悸を感じるほど、気分が悪くなった模様。
ちなみに対決の結果は引き分け。とはいえ、どっちも盛り上がって良かったとらぁらとレオナは喜んでいると、突然らぁらのプリパスに着信が来た。出てみると意外な人物からだった。
《あ、通じてるのかな…?おーい、らぁら〜!》
「えぇ!!お兄ちゃん!?って、何で空港?」
通話の相手はハッシュだった。だが、その背景には明らかに次のフライトのアナウンスと旅行者の波が押し寄せているのが分かった。
《良かった〜、使うの初めてだからかかるか心配だったんだ。いきなりだけど今日から暫くの間、ヨーロッパラに留学することになったから》
『えぇ〜!!?』
ハッシュの突然の報告にらぁらのみならず、その場に居た6人全員が驚愕の表情を浮かべる。もちろん素直にハイそうですかとなる訳もなく、その中でも特に五月蝿…元気なドロシーが切り込んでくる。
「ちょっと待てよ!なんだっていきなりそんなこと!」
《う〜ん、実は前から話はあったんだけど…。ほらお店のこともあるし、何より妹たちのことが大切だから》
『…シスコンかよ(だな)』
《シスコン言うなッ!!っていうか今のドロシーだけじゃなかったろ!シオンか!?》
ドロシーに被ってディスってきたのはつい昨日知り合ったばかりのシオンだった。
「というのは半分冗談として《おい》ハッシュ殿なら何も心配することはない。【国士無双】国中で並ぶ者がいないほど優れた人物ってことさ。一戦交えた私が保証する!」
それを聞いて素直に嬉しく思うハッシュ。それが気に入らないのか野次が止まらないドロシーを必死で宥めるレオナの様子が時折プリパスに映る。
「コラ〜!!何赤くなってるんだよ!っていうかいつのまに知り合ったんだよー!もー!」
「ドロシー、リラックス〜!ハッシュ君、少し寂しいけど向こうでも頑張ってね。ドロシーも口ではこう言ってるけどちゃんと応援してるよ?」
「え!ば、バカ!何で僕がコイツなんか…」
《ドロシー、レオナ…サンキューね。帰ったらまたお店に顔出すつもりだから、その時はまた食べさせてくれないか…お好み焼きともんじゃ焼き》
「……絶対だからな。忘れて来なかったら覚えてろよ」
ドレパの3人はプリパスをらぁらに返すと、空気を読んでその場を後にした。こういう時にレオナが居てくれて本当に助かる。
と思ったら、また画面の向こう側で違う人物に渡ったようだ。
「こんにちわ〜」
《ほ、北条そふぃ先輩!?何でそこに…あ、コスモさんが言ってたの思い出しました。以前と雰囲気変わりましたけど、綺麗なのはお変わりなくて安心しましたよ》
「むっ!お兄ちゃんデレデレしてる!」
画面外で可愛らしく怒ってるらぁらの声が聞こえるが、気にすると話が入ってこなくなりそうなので心が痛むが無視無視。
「最近はレッドフラッシュのピザ、あまり頼まなくてごめんね。チームを組んでからは減らすようにしてるから…」
《でもシャキッとしてるんですよね。ぴよんって出てるのって“アホ毛”って言うんですか?可愛らしいですね。すごく似合ってますよ》
「ありがと〜」
《あ、時間ある時で構わないんですけど…妹の“のんちゃん”にサインをあげたいんですけど、描いていただいてもよろしいですかね?何時ぞやの約束だったんです》
「わかった〜」
らぁらはこれ以上そふぃと話しているとハッシュがどんどん染まっていくと危惧したのか、そふぃからプリパスを半ば強引にひったくった。
「お兄ちゃん!私の時と反応違くない?それにいきなり留学なんて聞いてないよ!そもそも何でプリパス持ってるの?」
やや興奮気味で画面いっぱいに近づいて話しかけるらぁら。一々兄貴(便宜上)の行動に突っかかるなんて、健気で可愛らしい妹(便宜上)なんだろうかと今すぐにでも飛行機のチケット破り捨てて帰ろうかと思う手前、忌まわしき古の誓い“妹離れ”を思い出して正気に戻る。
《ん、まぁそれは追い追いね。プリパスの件はチラッと前回の話を読んでくれれば分かると思うよ。っというか、本題から逸れてるんだけど…今そこに“みれぃさん”って居る?》
「え、みれぃ?うん、ライブ終わりだからもちろん…って居ない!?」
ハッシュに促され辺りを見渡してみると、ついさっきまで一緒にいたはずのみれぃの姿がない。思い返せばシスコンのくだりから既に消えていたようなそうでないような。
「…見つけた〜」
「ぷり!?みれぃは居ないぷり!だからお話できないぷり!」
そふぃが草むらに隠れているみれぃを見つけるも、明らかにテンパっている様子で電話するのを拒んでいる様子。らぁらは事情を知らないそふぃにこっそりと説明する。
(実はみれぃ、お兄ちゃんにアイドルなのを隠してるの。ほら、みれぃって普段は風紀委員長としてお兄ちゃんを叱ってるから、知ったらバカにされるって思い込んでるみたいなの)
(そんなんだ…。ハッシュ君優しいのにね〜)
(もー!そふぃもお兄ちゃんに甘過ぎ!)
こっちはこっちで一悶着起こっているようで、ハッシュの事になると頭がいっぱいになるところを見ると、どれだけハッシュが妹離れをしようとしてもらぁらが兄貴離れしなければ意味が無さそうだ。
「これ以上そふぃには渡せないもん!みれぃ、受け取って!」
「えぇ!?ち、ちょっとらぁら!」
すぐ様プリパスを返そうとするも、既にらぁらはそふぃと二回戦が始まっている模様で取り合ってくれそうにない。深いため息を吐くと渋々通話することに。
「も、もしもし。みれぃです…ぷり。私に何か用があるぷり?」
《…!みれぃさんですか!?初めまして、らぁらの兄(便宜上)の真中ハッシュです。妹がいつもお世話になっております》
知ってる。大変よく存じていますと内心叫んでいるみれぃ。プリパラ内での容姿が普段と大きく異なるため内情を知らなければ、まず正体がバレることはないだろう。とはいえ相手は半才ハッシュ、第六感で生きていると言っても過言ではないのでいつもの癖が出ないように注意する。
《あの、今回のライブイベントの件…既にめが兄ぃさん達から事の経緯は聞きました。僕もらぁらに相談された時、何も答えることが出来なかったのがすごく悔しくて…。だから今回みれぃさんが奔走してくれて、実際に成功したと聞いて本当に嬉しかったんです!》
「ま…ハッシュ君、みれぃは何もしてないぷり。SoLaMi♡SMILEもDressing Pafeもライブしたかっただけぷり。みんなに見てもらいたくてちょっとだけ中継地点をずらしただけぷり〜」
照れ隠しなのかぷいっと視線を逸らすみれぃ。その様子が可笑しかったのか思わず笑みがこぼれるハッシュ。
《アハハッ…分かりました、ならそういう事で。あ、もうすぐフライトの時間なのでこの辺で失礼します。一言お礼が言えて良かったです。それでは》
「あ、うん…留学頑張ってぷり!向こうで怠けちゃダメぷりよ?」
《え、何その感じ、すごい既視感。途中で抜けたから仕方ないとはいえ、南にも最後に挨拶しておきたかったんだけどな…やば!マジで遅れる!あの本当に切りますよ。お疲れ様でした〜!》
やや急いだ様子で通話が終了する。自分の正体がバレなかったことも良かったが、それより何よりハッシュが普段の自分を気にかけてくれていることが少しだけ嬉しかった。
「あ、みれぃ!お兄ちゃんは?」
「もう行っちゃったぷり。らぁらもあまり迷惑かけちゃダメぷりよ?」
「うぇ!?う〜…かしこまっ。でもやっぱりちゃんと会ってさよなら言いたかった〜!!」
目に見えて落ち込むらぁらにつられてみれぃとそふぃの笑い声がプリパラ内に満ちた。
同時に真中ハッシュ、齢13歳の意味深な海外留学が幕を開けた。