アルトリア・ペンドラゴンの人生はクソゲー   作:puripoti

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第10話 クソゲーとスルメゲーは紙一重らしいが噛んでる暇がないやつには同じこと

「ほう、ほう、アーサーとな。たしか聖剣に選ばれたとかいう名高き騎士の王やらであったな。貴様の正体こそがそれであったか」

 

 腐った目ン玉を若干の驚愕に見開き、それ以上の不審に身構えるセイバー顔をどのように思ったものか、わざとらしい仕草で頷いた金ピカだったが、そのつぶやきはすぐに大笑に取って代わられた。

 

「クッ……ハ、ハハッ。なんだそれは、ひどい冗談があったものだとは思わんか」

 

 腹さえ抱えて爆笑する金ピカを、冷え切った視線でセイバー顔は射抜いた。一体全体、なにがそうまで可笑しいってんだ。

 

「これが笑わずにおられるものかよ。世に数多ある凡愚どもが武人の誇りよ戦士の誉れよと褒めそやす、いや(たか)き騎士道とやら掲げ束し者どもが、その王が、蓋を開けてみれば目と性根の腐りきった小娘に、それに群がる狂犬の群れときたものだ。なんたる醜悪か、なんたる茶番か」

 

 どうやら心底からツボにはまったらしい、金ピカは目に涙すら浮かべて笑い倒している。そんなにか。

 

「ハハ───これほど笑ったのはさて、いつぶりのことであったやら。奴めといい貴様といい、さては我を笑い殺す心積もりであったか? いや、その意味においてはこの浮世もまだまだ捨てたものではないぞ」

 

 言いながら金ピカが地面に転がる荷物を足で軽く蹴り押すや、それらは空間に波紋を残して吸い込まれていくように消えた。

 

 これは以前の酒盛りや埠頭でも拝んだやつだ。物品を自在に出し入れするスキルなんてもんはアーチャークラスには存在していない以上、“これ”がコイツ固有のスキルか宝具なのだろう。未来タヌキの英霊なのか? 丸くも青くもねぇけど。

 

 すべての荷物を片付けた金ピカはもはや用なしとばかりに(きびす)を返し、それをセイバー顔は血相を変えて見咎めた。

 

「あ、待てこらてめえこのやろうてめえ面倒事を人に押し付けて逃げるつもりか」

 

 難詰(なんきつ)するセイバー顔だったが、返ってきたのは心底からの軽侮を隠さぬ嘲弄であった。

 

「たわけ。駄犬と狂犬の噛み合いなぞ目にするだけでも身の(けが)れ、誰が興味を惹かれるものかよ───なによりこれは貴様が撒いた種であろうが、おのれの手で始末をつけずなんとする」

 

 言い方はともかく内容はぐうの音も出ない正論である。痛いところを突かれてほぞを噛むセイバー顔になぞ構うことなく金ピカは霊体化をはじめる。視線を向けるどころ振り返ることもしないその姿は、もはや残された馬鹿二匹になぞ欠片ほどの興味もなくしたと如実に語っていた。

 

「首尾よく気狂い犬めを始末したら貴様も己が首を()ねるがよい。遠慮は要らぬぞ、貴様のごときが王の王たる我より直々に死を賜る───その栄誉を噛み締め、逝け」

 

 この期に及んで我をこうまで笑わせた道化への褒美である。いっそ慈悲すらを感じさせる声音で言い放ち、金ピカは虚空に姿を消した。

 

   *

 

 散りゆく黄金の残滓(ざんし)へでかい舌打ちをかまし、目の腐ったセイバー顔はあらためて当面の敵へと向き直った。

 

「おい貴様、どこの誰だかは知らんが前回といい今回といい、お前のせいで───いや、お前だけじゃないけど───ささやかな楽しみすらもが台無しだ。一体なんの恨みでこんな真似をしくさるか」

 

 怒らないから正直に話してごらん、その後でコロがすけど。話を聞く気があるんだかないんだかよく判らないことをほざくセイバー顔であるが、本人としてもそこまで真面目に問答する気も詰問する気もなかった。

 

 なにせ相手は理性も知性もあったもんじゃないバーサーカー、まともな会話なぞ成り立つはずもなし。そもそも相手が誰だろうが、コロがしてさえしまえばどうでもいいのだ。

 

 しかしここで意外なことがまた起きる。大した期待もしないで放られたセイバー顔の声が届いたのか、それとも未だ姿を見せぬ野郎のマスターが気を利かせたのか、へんなのの総身を覆うへんな“もや”みたいなものが薄れていったのだ。

 

 そして謎もやに隠されていたどこかで見たような鎧甲冑が露わとなり、これまたどこかで見たような兜が脱ぎ捨てられ───

 

 果たして正体を表した狂気のサーヴァント。そのツラを拝んだセイバー顔は、肩透かしくらったようにつぶやいた。

 

「……あー? 誰かと思ったらお前だったんか。今さらなにしに化けて出よった」

 

 白けた視線の先にいるのは、かつて自身に仕えた家臣にして円卓の一員、その筆頭格にして騎士の中の騎士とまで謳われた人物その人であった。

 なるほど、“こいつ”もまた無数の武勲と絢爛(けんらん)たる逸話に彩られた一廉(ひとかど)の英霊、この馬鹿騒ぎに招かれていてもなんら不思議ではない。だが、しかし……。

 

「一体全体なんだってそんな有様になっとるんだ、お前は」

 

 セイバー顔の疑問も“ごもっとも”だ。

 

 確かに“こいつ”は主君の妻を寝取り、後にバレたらトンズラこいてそれが原因で仕えてた国まで割るとかいう、やっつけ仕事のエロゲシナリオでもそうはならんやろと言いたくなるくらいのやらかしをかましたアホではあるが、それでも行状の中に狂戦士呼ばわりされるような逸話はなかったはずである。寝取り小咄の部分を無理くりに解釈すりゃ性のバーサーカーと云えなくもないが。

 

 一体、いかなることかと首をひねくるセイバー顔。瞬間、いつもの直感(笑)スキルが発動しすべてを察した。

 

「……あぁ、そういうことか。お前、私のカミさんに絡んだあれやこれやの未練をまだ引きずってたんか」

 

 察しても普通なら口にするのははばかるのだろうがこいつにそんな気遣いを求めるのは、今まさに哀れな犠牲者を手にかけんとするB級ホラーの殺人鬼へ博愛人道順法精神を説くのと同じくらいには不毛である。

 

 悪びれるどころか井戸端会議でご近所さんのゴシップに花を咲かせるおばちゃんの駄話にも匹敵する“どうでもよさ”でほざく態度が気に障ったものか、バーサーカーが生前の無駄に良い声が台無しな雄叫びとともに激烈な斬撃を叩きつけてきた。

 

 並の手合なら目にしただけで気死を免れぬ剣閃を、セイバー顔は付き合いきれんとばかりに打ち払い距離をとる。

 

 セイバー顔の予想に反して追撃はなかった。

 

 代わりにその身を打ち据えてくるのはかつての忠実にして清廉なる、今や無念に穢れ妄執に堕ちた家臣が心中にて燻ぶらせ続けた、やり場もなければ声にもならぬ憎悪。なにもかもお前が悪い、すべてお前さえいなければ云々と出るわ出るわの恨み節(直感)であった。

 

 煮えたぎる汚泥のごときその怨念。もはや当の本人にすら御することかなわぬ激憤に晒されたセイバー顔は───

 

 耳の穴をかっぽじりつつ(かゆかったのだ)「へっ」と吐き捨てるという、絵に描いたような小馬鹿の仕方で応じた。

 

「だとしても知らんわそんなもん。人にさんざか迷惑かけた挙げ句、ゴメンのひとつも言えなんだド腐れなんぞへ手向ける台詞はどこのポッケを探ってもありゃせんぞ」

 

 それでも寝言と文句が言いたきゃ、せめても墓の下にすっこんでからやれ。開き直った輩に特有の、取り付く島もない一刀両断であった。

 

 生前においてはいついかなる時も寡黙にして沈着冷静であり続け、不言実行を貫いた(傍から見た場合は正にそうだった)かつての姿からは想像もつかぬ悪罵に、頭がフットーしてるはずの不貞の騎士も顔をひきつらせずにはいられなかった。

 

 在りし日の完璧にして至高の騎士とまで謳われた秀麗さはどこへやら。間の抜けたその面貌へ、セイバー顔はつまらなそうに鼻を鳴らした。

 

「私がこんなん言うのが意外か。だったらお生憎様だな、お前の知ってる『アーサー王』はともかく、お前らに終ぞツラを見せなんだ『アルトリア・ペンドラゴン』って女は死ぬ寸前までこんなんだったよ───好きでなったわけじゃないけど───それが表に出てこなかったのは何のことはない、お前らに民草、そして国への体面やら責任やら義理やらに縛られてたからにすぎん」

 

 そのどれも亡くなり無くなった今となっちゃ、もはや野となれ山となれだ。目ン玉と性根が腐り果てたクソゲーは相対するかつての臣下へ、二の句を継がせぬままに言い捨てる。

 

「言いたいことだの恨み言だの、そんなもんはくたばる前に済ませとくべきだったのさ───お前も、私もな。だのに手前勝手なだんまり決め込んだ末、あの世から出戻りしてまで未練を持ち越すなんて惨めったらしいマネしよってからに。まして互いおっ死んでからどれだけ経ったと思ってる。何処ぞの誰ぞがいかほど恨みを抱えていようが、そんなもんとっくに時効だ阿呆め」

 

 正直なところセイバー顔もとい『アルトリア・ペンドラゴン』としては生前に縁やらゆかりやらあった連中への思うところなぞはこれっぽっちも……といえば嘘になるが、しかし現在に限るならそこまでの恨みを抱えているわけでもなかった。

 

 衆生皆、死ねば等しく仏様とまでは云わないが、くたばった後にまで怨恨を持ち越すのもなんだということで、過去にはこだわらず現世を楽しむことにしていたのだ。これもまた開き直ったものならではの割り切りというやつである。

 

 ───だがそれも、オマエらがのこのこツラ見せずに済ませればの話なわけだがな

 

 顔貌を“ぎり”としかめ、まさに獰悪の相を浮かべたセイバー顔はひとりごちた。

 

 何度も述べたが彼女の家臣という連中、己の死の間際において『もしまた出会うことがあったのならブン殴ってやる』と考える程に麗しい絆で固く結ばれた奴原であり、それゆえ二度と会いたくないとも考えていた。

 

 念の為に断っておくと、合わせる顔がないとかではなく本当に“顔も見たくない”連中だったということである。それこそどいつもこいつも生まれ変わったら、ち◯ちん亭の薄い本に出てくる汚いおっさんみてぇな見た目になっちまえと思うくらいには大嫌いだった。

 

 せっかく過去のしがらみの何もかもを放り捨て、かりそめの、しかも期限付きのものとはいえ第二の人生とでもいうべきものをそれなりに楽しんでいたというのに、死んで縁が切れたはずのろくでなしと面付き合わせて台無しにされたいなどと誰が思うものか。

 

 だというに頼みもせんのに見たくもないツラを見せに来よって。こいつらどこまで私の人生に水を差せば気が済むのか。

 しかもその理由が当事者であるところのセイバー顔ですら忘れてた、当時の女絡みの恨みつらみを吐き出したいからときた。生前のあれやこれやでさんざか思い知らされちゃいたが、ほんにお前の阿呆さ加減は天井知らずだな。

 

 これならまだ惚れた女に会いたいとかいう理由で湧いて出た、いつぞの色ボケ出目金のがよっぽどマシ……いや、アレはあれで輪をかけてナシだ。悪質な性犯罪で歴史に名を刻む、よいこと児童福祉法の敵は論外だ(そもそも何であんなんが〈英霊〉の扱いなのか、これがわからない)。

 

 益体もない考えを打ち捨てるかのように軽く頭を振ったセイバー顔は、見るも無残に堕ちたる泉の騎士を腐った視線で射抜いた。

 

「お互いに、ここで会ったが百年目もとい千年ちょっと目。これ以上お前なんぞから聞きたいことも私から言いたいこともありゃあせん───何も言わずにブン殴られちめぇー!!」

 

 言うが早いか目が腐ったセイバー顔、ポッケから取り出した水筒の中身───約束された勝利の液体燃料───を口に含み、隠し持った約束された勝利の百円ライターを口元に当てて約束された勝利の火炎放射をお見舞いする。いよいよもってこいつが一体、何の英霊なのだかよくわからなくなってきた。

 

 セイバー顔の魔力にでも干渉されたのか、ただのガソリンでしかないはずの火種はあまねく苦界を焼き尽くす劫火の勢いでゲーセンに拡がっていく。唐突な火災にスプリンクラーも一応は作動しているのだが、あまり効果はないようだ。

 それを満足気に見届けたセイバー顔は新たな得物を引っ掴んで己が生み出した焦熱地獄に吶喊していった。

 

 思いもよらぬ(そりゃそうだろうよ)攻撃に一瞬、たじろいだへんなのあらためバーサーカーあらためNTRエロゲのチャラ男英霊だったが、そこは腐っても鯛。そろそろ話のネタに詰まってきたくさいエロ漫画では定番のNTRチャラ男ポジではあっても至高の騎士とさえ謳われた戦士ならではの切り替えで、炎の海を突き破りパイプ椅子を振りかぶるかつての主君へと───パイプ椅子?

 

 星が生み、数多の人々によって紡がれた歴史と幻想とで鍛え抜いた聖剣を放り出し、一山いくらの安っすいパイプ椅子をそれはそれはイイ笑顔で(ただし目ン玉は笑ってないし腐っている)ブン回す騎士の王。

 

 あまりにもあんまりな絵面に、ここが血と暴力のワンダーランドであることも忘れて呆気にとられた寝取り野郎もといNTR英霊の脳天に約束された勝利のパイプ椅子が無慈悲に炸裂し、目の中一杯に盛大な火花が飛んだ。せめて兜をかぶってりゃ被ダメも違っていたろうに、悲劇のダークヒーロー気取りで格好つけて正体バラすみたいなマネするからそうなるのだ。

 

 強烈な一撃にさしもの寝取り英霊もたたらを踏むが、目の腐ったセイバー顔は止まらない。間髪入れず得物をニクいこんちくしょうのこめかみ、喉元、腋下(えきか)、脇腹へとねじり込み、こらえきれずに前のめりとなった無防備な背中へさらなる追撃を叩き込んでいく。今更ではあるが剣の英霊というより場外乱闘になだれ込んだヒールレスラーか路地裏で暴れる酒癖悪い酔っぱらいがごときダーティー殺法である。

 

 限度を超えた酷使によって、あっという間になんだかよくわからないオブジェとなってしまったパイプ椅子を捨てたセイバー顔は、約束された勝利のガゼルパンチでもって間に合わせ系エロ同人名物のチャラ男英霊の顎をカチ上げ、衝撃にのけぞり無防備にさらされた喉めがけて約束された勝利の毒針エルボーを打ち込んだ。

 

 さらに必滅致命の唸りを上げてブチ込まれた肘の勢いを殺さぬまま、セイバー顔は全身に魔力ジェットの加速を載せ、約束された勝利の変形喉輪落(のどわお)としで力任せに押し倒し、ダウンを取ったところで馬乗りにのしかかり約束された勝利のマウント殴打に持ち込んでいくのだった。

 

 

 …………。

 

 

 しばらくして、夜の帳に響く硬いものと硬いものを打ち付け合う音が、大きめのお肉を勢いよく台所のまな板に叩きつけたときのようなものに変わったあたりで目の腐ったセイバー顔は立ち上がり、「ふぃー」と一息ついて額の汗を拭った。

 

 腐った目にはふさわしからざる、それはそれは爽やかな笑顔だったそうな。

 

   *

 

 

 

 

 

 

 なお、これはちょっとしたオマケ程度の話なのだが。

 

 

 

 

 

 

 運命の敵(笑)との一戦を終えて帰ろうとしたら、その途中でなんだかアメコミの悪党(ヴィラン)ができそこなったような風体の兄ちゃんが、今にも死んじまいそうな有り様でスッ転がっていたのを見つけた。

 

 寝取られエロゲ名物のへなちょこ主人公がオモシロ薬ぶっ被って悪堕ちしたみてえなツラをしたそのあんちゃんは、助け起こそうとしたセイバー顔を見るや「放せ! 俺にはまだやらなきゃいけないことが……!」とかなんとかゴチャゴチャぬかして暴れやがったので、約束された勝利のコブラツイストで黙らせ簀巻きにしてから近くの病院に放り込んでやったのだが、ありゃあ一体なんだったんだろう。




 登場クソゲー

 目の腐ったセイバー顔

 こんな腐った目ン玉で騎士王名乗るとか各方面に失礼だよね♥ 忌憚のない意見てやつっス

 NTRエロゲのチャラ男英霊

 寝取り野郎に悲しき過去……そう思っとる当人以外はそんな悲しくもないんやけどなブヘヘ




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