アルトリア・ペンドラゴンの人生はクソゲー 作:puripoti
目の腐ったセイバー顔の朝は遅い。
寝ようが寝まいが体調を崩すこともない霊体なのをよいことに、大抵の場合は昼夜逆転どころか毎日徹夜上等でゲームと漫画とお菓子とジュース漬け。たまに気が向いたら昼寝して、それ以外は古のギャグ漫画にならってその日は朝から夜だったを繰り返すのが喚ばれて飛び出てきてからこっちの日常である。
仮にも一国の主であったとは思えぬ
まず自分が任されている(ということにしている)のは根城となるこの城と、未だ人事不省になってる切嗣のカミさんの防衛であってそのためにはここを一歩でも離れるわけにはいかぬ。また適度の緊張感を保ちつつ寝ずの番をするのにTVゲームと高カロリーの菓子は相性もいい。つまり一見すると怠惰怠慢自堕落の申し子がごときこの有り様も、戦を勝ち抜くための約束された勝利の戦術の一環なのだ。
もちろん自分ですら騙せない寝言だが。
現在のセイバー顔にとって、もはや世界の行末かかったこの戦争ごっこなんぞどうなっちまおうが知ったことではなくなっていた。ましてマスターのオマケのカミさんやさらにそのオマケの助手の
───言うても、まだゲーム終わってないしもうちょっとだけ続くんじゃは許容の範囲だけどな
いつもの直感(笑)スキルの導きにより
*
何が起こったのかはさっぱり判らないが、とにかくマズい状況に叩き込まれたのだけは判った。
なにせ城からの落下、もとい脱出の途中で爆音と衝撃波に全身を打ち据えられたのだ。冬木市七不思議(気がつくとなぜか増えていく)のひとつ、《忘れた頃に多発するガス爆発の怪》でなけりゃ敵の襲撃だろう。ひょっとしたらマジでただのガス爆発かもしれないけど。
プロジェクトAのNGシーンばりの乱暴な着地と同時にセイバー顔はいつもの魔力ジェットで進路を強制変更、眼前に広がる森の中に逃げ込み三半規管のぶっ壊れた暴れ馬のごとき挙動と勢いでジグザグの軌道を描いて駆け抜ける。
勘に任せた自分でもワケのわからない動きだがそれが正しいか誤りかを考えてる暇も余裕もない。ときおり超至近距離を熱と爆音がかすめてるのだ、とにかく今は全身全霊を回避と逃走に振り分けて安全な場所(あればの話だが)まで退避せねばならぬ。少しでも余計なことをしたり考えるだけでも致命に到ると直感(笑)が告げていた。
…………
それからどれだけの時間が経ったのか。ようやっと安全だと直感(笑)が告げる場所まで逃げおおせたところでセイバー顔はねぐらのある方角を確認した。
魔力を叩き込んで強化した腐った視線の先には半ば崩れ落ちた城と……金ピカで珍妙な形した未確認飛行物体が浮かんでいた。しかもその
───なんだあ、彼奴めはインベーダーの英霊だったんか
セイバー顔は露骨に眉をしかめた。いかに最優を誇るサーヴァントであろうともこれはさすがに分が悪い。炎のコマ遣いな出っ歯の英霊でもなければ太刀打ちもかなうまい。
───さて、どうしたもんか
0.01秒ほどの熟考の末、セイバー顔は首刈りウサギも舌を巻く速さで約束された勝利の逃走を再開した。ほんのわずかな未練も躊躇も置き去りに、いっそあっぱれなほど潔いトンズラであったという。
一太刀も浴びせぬどころか尻尾を巻いての敵前逃亡。それでいいのか騎士の王にして剣の英霊とヤジが飛びそうな光景ではあるが、セイバー顔にも言い分なり言い訳はある。
正味、一介の『戦士』として見ればあの金ピカは大したことはない。自分が生きてた時代基準で考えても、腕っぷしだけなら野郎より強いやつなぞ雨後のタケノコよろしくそんじょそこらに生えていた。まして自分ならどれだけハンデがあろうと百回やっても百回勝てる。
ところが『〈英霊としての)格』で見ると話が違ってくる。文字通りになにもかもの『格が違う』のだ。
断言するが円卓どころかブリテンにアホほど蠢いていた有名無名有象無象、全てのボンクラを総動員しても野郎に傷どころか迫ることさえできないだろう。生前の武装をフル装備にして、百どころか千回万回やってようやくまぐれ勝ちを拾えるかどうか。全盛期のジャイアント馬場とアントニオ猪木がタッグを組んでも相手がシャーマン戦車じゃ勝てる道理はない。AC-10はダテじゃないからね。
───それにあの爆撃じゃあ切嗣の女房も、その傍らで面倒を見てた野郎の助手もおっ死んでるか致命傷だ
守るべき相手は亡くなって衞るべき根城も無くなった、つまり“今回の戦い”はもう決着が付いたということだ。
いずれ仇は取るにしても今の状況では何をやろうが返り討ちが関の山。負けの見えた目先の戦いにこだわるくらいなら、被害の少ない内にとっとと撤退して次に備えたがなんぼかマシである。勝者とは勝ち続けたやつのことではない。最後の一戦が終わった頃まで生き残って勝ち名乗りを上げたやつのことなのだ。生前、それにまんまと失敗こいたアホが口にしても説得力はないが。
追撃とそれに伴うある程度の被害は覚悟をしていたが、ありがたいことに向こうさんは見逃してくれるようだった。
さもありなんと内心で頷くセイバー顔。余人はいざ知らずあの傲慢極まる金ピカだ、勝ち目なく無様に逃げ出すようなクソザコナメクジセイバー顔なんぞにゃ目もくれないどころか、すでに脳内からは存在も消えて無くなっていることだろう。
───運が良ければその慢心に付け込んで勝ちを拾えるかな?
運頼みということはすなわち生前から現在までツキに見放されてる自分じゃ絶対に勝ち目がないということだが、そこは考えないことにしておこう。
今までやってきたことの焼き直しと思えば、気楽な気分でいられるというものだ。
*
さらに距離を置き、何があっても即対応・離脱可能な地点で城(半壊)を観察すること数分の後、一体何をしに来たのかも不明な金ピカインベーダー英霊が乗った金ピカ飛行物体がいずこかへ飛び去っていったのを確認したセイバー顔は一応の務めとして城まで戻り切嗣のカミさんたちの安否、というより死亡確認を行うことにした。
結論から言うと切嗣のカミさんの姿は見つからなかった。
瓦礫を除去しつつ30分ほど探してみたが死体も死体の欠片も見当たらない。とはいえ寝くたばってた部屋の有り様からするとなにがしかの形で死んじまってるのは間違いなさそうだが。
対して助手の死体はすぐに見つかった。部屋からふっとばされて城外にすっ転がっていたのだ。頭が半分ばかり吹き飛んでいるので、さして苦しむ暇もなしにあの世逝きになったのだけが救いだろうか。一応は美人の範疇に納まる風体なだけに、もったいないもんだなとセイバー顔は薄ぼんやり思った。
セイバー顔にとっちゃさしたる面識もない相手ではあるが、野ざらしにするのも寝覚めが悪いということで簡易的な埋葬をしてやることにする。いうても適当に穴掘ってぶっ壊れたゲームソフトと一緒に埋め、その上に墓石というか卒塔婆代わりに半壊した携帯ゲーム機(黒焦げだけど起動はちゃんと出来たマジすげぇ)をぶっ刺しておく程度のものだが。
ついでとばかりに『やくたたずここにねむる』とでも記してやろうかとも思ったがやめておく。そもそも自分に言えたもんではない。
───南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏、もし来世があるのならこんな血なまぐさい稼業とは縁のない、パンツをご披露しながら月面宙返りするようなアーケードゲーマーにでもなるとよいよ
やっつけ念仏と共にトコトンしょうもないことを考えながらセイバー顔はその場を後にした。
*
ねぐらの存在していた〈森〉を出たセイバー顔は近くを走る国道に出て、一路、冬木市を目指した。二本の足で。
用意されてた車はどうしたと思われそうだが、そっちは爆撃の余波で予備のバイク共々オシャカになっていた。ツイてないときってのはとことんまでツイてないもんだ。
気が滅入りそうになるのを辛うじてこらえ、セイバー顔は少しばかり前にCMで流れてた謎ソング(ミリタリーな連中がランニングしながら歌ってた)を口にしながら冬木市に向けて全力疾走する。途中、何度か対向車両とすれ違ったような気もするが気のせいだと思い込んだ。
後に冬木七不思議の一つとなる《目が腐っててセイバー顔したターボババア》の真相であった。
*
セイバー顔が冬木市に到着したのは辺りがすっかり暗くなってからのことであった。
───さて、マスター殿はどこで油売ってやがるかな
捜索を開始しようとしたところで、全身に血の匂いをこびりつかせたニヤけ面のナンパ野郎が言い寄ってきたので、腹いせとばかりにボコボコにして金品含めた身ぐるみ剥いでから約束された勝利のマッスルリベンジャー(偽)で生き埋めにしてやったがこれはどうでもいい。
ここ最近、珍妙奇天烈素っ頓狂な珍事件が立て続けに起こったり空気読めないナンパ野郎がボコ殴りにされたりするせいだろうか、以前訪れたときとは打って変わり街には息苦しい静寂が
今の時間帯なら活力のある明かりと、それに引き寄せられる人々に溢れていたはずの駅前には帰路を急ぐ影がまばらに見られるばかり。立ち並ぶ商店も早々にシャッターを降ろし、街の“そこここ”が人の営みを感じさせぬ寒々しさに沈んでいる。さながらゾンビ映画の一幕のように、誰も彼もが息をひそめるようにして夜が明けるのを待っているようだった。
───あーあ、これじゃあゲームショップもゲーセンも閉まってんな。コンビニくらい開いてねーかなー
事ここに至ってなお、どこまでもしょうもないこと考えつつ冴えわたるセイバー的直感(笑)のおかげで切嗣はすぐに見つけられた。
…………
とりあえずの現状報告を手短に済ませたセイバー顔は、ちょい前における自分の予感が正しかったことを悟った。
カミさんはおそらくお陀仏で助手はきっちりあの世逝き、しかも当のセイバー顔は手も足も出ずに二人を見捨ててトンズラという、普通なら激怒激昂激憤激おこしてもおかしくない駄話を聴かされてなお切嗣は無反応。うんともすんともそうかとも言わず、無言のまま明後日の方向───生き残りと思われる魔術師ん家───を向いたっきり。
どうやら人としての「衛宮切嗣」は今をもって死んじまったらしい。
遅かれ早かれこうなるのは判りきっていたのでセイバー顔としては特に感じ入ることもなかったが、とはいえ一応はサーヴァントの身。ご主人さまへの最低限の義理は果たすべく余計な一言を口にしておく。どうせ聞く耳を持たないのは明白だったが義理とはこういうもんなのだ。
「おいマスターよ、最後の忠告だ。ここがお前の
女房はすでにどうしようもないが、それ以外ならまだ間に合う。こんな馬鹿騒ぎからはとっととオサラバして魔術なんぞの“やくざ”な稼業とも縁を切り、ついでに宿願とやらも諦めるがいい。簡単なことだろ。
「人類の救済、恒久的世界平和とな。お前、この世全ての悪の廃絶でも目指そうてのか。過去に存在したいかなる聖者にすら手が届かなんだものを、まして貴様のこ汚い手でどうこうできると考えるのがそもそも間違ってんだ」
痛烈な悪罵としか思えない忠告にも衛宮切嗣は堪えた風もなく微動だにもしない。そもそも聞こえてさえいないのだから当たり前だが、それを承知でセイバー顔も続ける。
「どうせ馬耳東風なんだろうがよ、『少ない犠牲によってもたらされる多くの幸福』───こんなもん、真っ先に犠牲にならない立場のやつが手前の後ろめたさを正当化するためにほざく世迷い言にほかならんぜ」
一の犠牲で十助けてもそれを十回繰り返しゃ犠牲は十だし、そこまでして得たもので納得するだけの幸福を贖えるかどうかを誰ぞが保証してくれるでもない。そのくせ積み重なった不幸は必ず精算されるし、とどめとばかりに利息はきっちり尻の毛まで毟られる。
「お前が喚び出した、腐った目の女を見るがいい。それをさんざんやらかした挙げ句、ツケを最低の形で支払う羽目になったアホだ。そいつが言うんだから間違いない」
自分で言っててホントに虚しくなるような話であった。
それ以前に衛宮切嗣という男が根本的かつ致命的にはき違えたのは、世界を救済するために人の手に余る奇跡なんぞに縋ろうという考えそのものだったが。
望みもしないのにやれ英雄やれ英霊なんぞと祀り上げられる憂き目に遭ったセイバー顔には判る。《力》に救いは宿らない。まして奇跡ごときで誰ぞが救われるなどあり得ない。
目に見える優れた剛力、富に知識に技術などという表面的なもので世界の本質が変わるなら誰も苦労はしない。そんな道理がありえるのなら、世界はとっくに千手観音様の指の数ほどは救われていいはずだ。それができないからこそ今と今まで、そして今から終わりまで続くであろう世界の巡りだ。
この程度のことは少し考えれば気付きそうなもんだというに思い至らぬあたり、所詮はこいつも〈魔術師〉の軛に囚われたクソゲープレイヤーってことなのだろう。
探せば良い方法なんていくらもあるはずなのに、自分のプレイスタイルこそが正しいと固執して、それ以外の方法について可能性すら考えることを放棄してやがるのだ───かつてのアルトリア・ペンドラゴンのように。
生前においても今生においても自分としては珍しいくらいの長広舌ではあったが、それを聞く衛宮切嗣はまったくの無反応であった。聞く耳どころかもはや『生前』の妄執だけを燃料として動くだけの機械と成り果てたその姿を嘲るでもなく憐れむでもなく、セイバー顔もまた無言で踵を返した。
とりあえず言うべきこと言いたいことは言ったのだ。後はどいつもこいつも、野となろうが山となろうが好きにするがいい。
───そんなことより決戦に備え、腹でも満たして英気を養う方が先決だな
これまた直感ではあるが、この馬鹿騒ぎの決着は両日中に為る。ならば精々、最期の晩餐くらいは豪勢なものと洒落込むべきであろう。
幸いなことにフクロにしたナンパ野郎からふんだくった財布のお陰で懐は温かい。
登場クソゲー
目の腐ったセイバー顔
レインボーとケツイボムを狙って出せる