アルトリア・ペンドラゴンの人生はクソゲー 作:puripoti
どうやらこの馬鹿騒ぎもお開きらしい。
*
目の腐ったセイバー顔が“それ”を感知したのは、早仕舞いによるシャッターまみれになった商店街の片隅に“ぽつねん”と開いていた駄菓子屋の脇に置かれてた100
記憶違いでなけりゃなんとかいうデカい橋のある地点から突如として膨大な魔力が迸り、しばらくしてから消えた。おそらく最後に残った馬鹿3匹の内2騎、金ピカとデカブツがぶつかったのだ。
でもまあ勝ったのはあのいけ好かない金ピカだろうな。セイバー顔は特に思うところもなく断定する。
とことん気に入らないし腹立たしいやつだが、実力だけは本物だ。今までの接触による情報に垣間見える実力から導き出されたセイバー的直感(笑)と分析とでイヤってほど判る。野郎にはどんな英霊英傑でも敵う道理がない───自分も含めて。
「デカブツが善戦してくれりゃ、ちっとは消耗した状態で戦えるんだがなぁ」
まあ無理だろうなと投げやりにぼやくセイバー顔。都合の良い妄想をしたバチが当たったのだろうか、操る怪獣もデカいカブトムシに負けた。それと同時に先の力の奔流からから少し離れた場所で途方もない魔力が吹き上がる。とっとと残ったクソゲー2匹で決着を付けろという〈聖杯〉からの催促なのだろう。とはいえセイバー顔にとっては知ったこっちゃなかったが。
───やるやらないは遊び終わってからでもええか
ひょっとしたら遊んでるうちにマスター同士で始末がつくかもしれんし。ぼんやり期待しながら隣に置かれた古ぼけたゲーム───馴染みのある名前したヒゲ面田舎騎士が魔物にとっ捕まった姫さんをパンイチになりながら助けるんだとさ。どんな状況?───にコインを入れようとしたが、肝心の小銭がない。セイバー顔は店の奥に座する年季の入った置物のごとき佇まいの老婆に声をかけた。
「おい婆様よ、両替え頼む」
人の話が聞こえているのかいないのか、布袋様の生まれ変わりのように福福とした風体のばあちゃんは若かりし頃に竹槍で爆撃機を撃墜したとの武勇伝を語ってくれた。そうなんだ、すごいね。ついでにご近所で悪さしてたキラーコンドームのでき損ないみてぇな害虫を踏み殺してやったとかいう自慢話もはじめた。
「おい婆様よ、両替え頼む。ついでにそこの棚にある駄菓子全部と、わざとらしいメロン味のジュースくれ」
「はいよ。ちょっと待ってな」
殺しても死にそうにないばあさんは歳に似合わぬてきぱきとした動きで商品を紙袋に詰めてくれた。
*
結局、駄菓子屋の閉店時間になるまで粘ってみたが〈聖杯戦争〉は終わる気配がなかった。
どうやらこの茶番劇を仕組んだ〈聖杯〉とやら、しぶとく残ったクソゲーの血を余さず啜らぬことには〆とするつもりはないらしい。
しゃあねえなぁと観念したセイバー顔は有り金全部はたいて購入した大量の駄菓子を齧りながら締めくくりとなるであろう場所を目指した。事ここに至ってなお往生際の悪さを発揮して死にぞこないの駄馬も呆れる約束された勝利の牛歩なのはさすがであった。
だらだらと食べ歩きすることしばし、辿り着いたのはやたらと金のかかってそうな会館だった。
失礼するぞと誰にともなくひとりごち、出入り口くぐってコンサートホールと思しきところに顔を出したところで聞き慣れた声がかけられる。
「───ぬ? おのれは今更なにしに来よった」
心底から呆れたような声の主はやはりと言うべきか例の金ピカ英霊だった。その傍らにはこれまた金ピカの盃が膨大な魔力を垂れ流して鎮座ましましている。もしかしてあれが〈聖杯〉とかいうやつなのだろうか。
「
「己のことを棚に上げてよう言うた。お前とてそのバカタレの一匹じゃろがい」
「事もあろうに我を貴様らと同列に扱うか……愚劣も突き抜けるといっそあっぱれよな」
「なぁに気取ってやがるか。どう抜かそうが首突っ込んでる時点で同じクソゲー穴の駄プレイヤーだろ」
もはや怒る気にもなれないのだろう、金ピカは肩こりこじらせたような顔でこめかみの辺りに手をやりため息をついた。
「大きく違う。いっかな歯車の噛み合わぬがごとき事象であろうと、離れたところから
いずれ不愉快であるのは否めぬ上に、つまらぬものであるも明らかではあるがこれも王の責であり務である故に。つまらなそうな態度を変えぬ金ピカではあったが、その声にも佇まいにも微塵の気負いは存在しない。物言いはさておきこいつはこいつなりに、今生の己が在り方へ承知はしているようである。
「所詮は私ら歴史に消えた影法師、治めるべき国も従わせるべき民も、とっくに土と還っちまってるだろうにご苦労なこった」
「かような世迷い言を口にするは貴様が生粋の王でないからよ。間違えるな。国在って王在るのではなく、王在るところ応じてことごとく従うが理ぞ。なれば───我在るところ自動的に臣従せしこの世全て、背負うはこれ当然である」
ああ、そうかい。その言いに完全な納得ができたわけではないが、死してなお自身に課した責を放り出さぬという一点において、こいつは自分とは比べ物にならぬほど〈英霊〉であるには違いなかった。比較対象が天の川とドブに吐き散らかされた酔漢の吐瀉物ほどにも差があるというのはこの際、無視するがよろしい。
「それで、どうするつもりだ。貴様には我が直々に自裁を賜したぞ。まさかに王の施しを無下にする気でもあるまいが……」
冷然と訊く金ピカへの応えはいつの間にやら鎧姿に変身済ませたセイバー顔の抜く手も見せぬ剣一閃。並の剣士なら斬られたことにさえ気付かぬそれを、慌てた風もなく金ピカは謎空間から取り出した盾で受け止めた。
「ひとつ聞いておくが───それは正気か?」
「私としちゃ面倒事は避けたいし、ついでに言うならこんな駄話には付き合い切れんのよな。とはいえ財布連中への義理くらいは果たしておかんと寝覚めが悪い」
マスターへの義理はないあたり、つくづくこの目ン玉と性根が腐り果てた女らしい。金ピカは手の施しようがない馬鹿を目の当たりにしたかのごとく吐き捨てた。
「そうか。なれば精々、無様に足掻いて我を愉しませるくらいしろよ」
それを合図に金ピカの背後の空間で波紋がゆらぎ、剣、槍、弓、刀……様々な武具が切っ先を覗かせ、セイバー顔は顔をしかめて距離を取る。
───あー、やっぱナシってことにゃならねーかなあ……
そりゃならんだろ。
壮絶な最終決戦の、どこまでもしまらない幕はこうして上がった。
*
古のクソゲーが火花を散らすその一方、少し離れたところでも現代に生きるクソゲーがちょいと深刻な状況に陥っていた。
そのクソゲーこと衛宮切嗣は困惑していた。
聖杯戦争あらため天下一クソゲー会の決戦場にて待ち構えてたコンクリをも砕く謎のケンポーを使う謎のストリートファイター神父の相手をしてたら、上から降ってきたなんかものすごいキモくて汚いゲロみたいなのを、謎のスパルタンX神父もろともぶっ被って意識を手放したのまでは憶えている。
そしたらなんかガワだけがカミさんというかカミさんの皮を被ったなんかというか、とにかく自称・聖杯くんだか聖杯ちゃんだかいうのが現れて、そいつとよく判らん問答の末に珍妙な人間救出ゲームっぽいものをやらされたのだが、そのゲームというのがなんというか、こう……
「クソゲーじゃねえか!」
ロケテストの切嗣さん激おこである。
なんせゲーム内容は可能なかぎり多くの人間を助けるというものなのに、プレイすればするほど犠牲者が増えて、しかも選択肢はどちらを選んでも死亡者多数というふざけたもんしかないので回避する方法もなしときた。ていうかそういうどっちに転んでもダメとかいう悪質なひっかけは選択肢といわねえ。
「どうなってるんだ、これは……」
あまりのことに切嗣が呆然とつぶやくとカミさんのガワを被ったなんかが説明をしてくれた。
「そんなこと言われても仕方ないじゃない。貴方は人生そのものがクソゲーなんだから、その中で選べる選択肢やプレイングどころか選べるゲーム自体がクソにしかならないわ」
「おいこらてめえ待てこらてめえ、ふざけんな!」
これにはたまらず切嗣も怒声を上げた。
「そのクソゲーが嫌でイヤで仕方ないからワゴンの中身ごと別の良ゲーに乗り換えたかったんだよ! これじゃ意味ないだろ!」
頭をかきむしって激昂する切嗣へ、慈母の眼差しを変えぬままカミさんカッコカリは告げた。
「こんなげーむにまじになっちゃってどうするの」
「上手いこと言ったつもりかよ!」
いい加減、忍耐の限界にキたっぽい切嗣は抜く手も見せずに鉄砲ズドン! そんなキレなくてもいいじゃん……と思うだろうけどこれまでの経過を考えりゃコイツもよく我慢した。クソゲーって普通なら安値でもいいから売っぱらうか積みゲーにして存在を忘れるんだけど、まさかここまでひどいのを最後までプレイするとか誰も考えないもの。
それにしてもこの男、手の施しようないクソゲー人生その果てに、ようやく得られた大事な女房を質に入れてまでして手に入れたのもやっぱりクソゲーとか。一体、前世でどんな悪さをやらかせばこんなザマになるというのか、とことん不思議な輩ではある。
…………
目を覚ました切嗣はクソゲー掴まされて癇癪起こしたクソガキのように地団駄を踏んだ。
「ああくそちくしょう、なにが〈万能の願望器〉だ! あの腐れジジイ、この厄ネタのこと黙ってやがったなあ!」
昭和の名探偵よろしく頭をぐしゃぐしゃ掻きむしっていると傍らでイー・アル・カンフー神父が目を覚ましたそして何を血迷ったかわけのわからないことをほざきはじめた。
なんでもあのクソゲー、切嗣にとって価値がなくとも自分にはあるから捨てるくらいなら寄越せとのことだ。さてはクソゲーハンターだなオメー。
「うるっせぇーよ! お前みたいなのと違ってこっちは無理やりクソ掴まされてんだ、ふざけたことを抜かしこいてんじゃねー!」
なおもごちゃごちゃうるさいモータル・コンバット神父の土手っ腹へ腹いせとばかりに銃弾叩き込んでFATALITY。
冥土へ旅立ったケルナグール神父に構うことなく急いでその場を立ち去った切嗣が目にしたのは、先程の血ゲロっぽいなんかを垂れ流しまくる聖杯の姿であった。
───うわあ、なんだこりゃ超キメえ
切嗣が顔をしかめたのもむべなるかな。なにせ控えめに言っても死ぬほどキモい。夢に出てきた聖杯ちゃん(自称)が言ってたのがホントなら、このままでは世界があのゲロにまみれてクソゲー漬けになっちまうらしい。さっきのクソゲー大好きカラテカ神父なら大喜びかもしれないが、こちとら冗談じゃねえ。
幸いというかゲロが溢れるその傍らで、目の腐ったセイバー顔がド派手な鎧に身を包んだ金ピカ野郎と壮絶なド突き合いをしているのが見えたので、あいつを使って聖杯を撤去することにしよう。
普通の英霊なら「それをすてるなんてとんでもない!」と言いそうだが、良くも悪しくも普通とは縁遠い奴だし、何よりゲロまみれの優勝トロフィーなんぞ向こうだって願い下げだろうから令呪使えば喜んで消し飛ばすだろ。そうでなくとも野郎の心情なんざいまさら知ったことじゃねえ。
そうと決まれば善は急げ。切嗣は肺腑を空にする勢いで声を上げた。
「おい、そこの目の腐ったセイバー顔! 《令呪》をもって命ずる───」
*
目の腐ったセイバー顔はイライラしていた。
腹立たしいことこの上ないが、やはり金ピカはメチャクチャ強かった。
それ以上にプレイスタイルが死ぬほどムカついた。
なんせあの野郎ときたら地道に鍛えたプレイヤースキルなんぞゴミ同然とばかりに超絶廃課金装備を雨あられと繰り出し、しかもそれを使い捨てにしやがるのだ。かつては無駄遣いなぞ以ての外、使えるものなら捨てるどころか擦り切れるまで使い倒してた生前の自分に対するイヤミかこの野郎てめえ。
したくもないのに鍛え抜いた戦士の技量と勘、そこに加えて最優のサーヴァントとしてのスペックによるゴリ押しによってどうにか被弾こそ免れてはいるが、このままではいずれ追い詰められるのは目に見えている。
どうにかして一打逆転の一手を模索したいところだが、この猛攻の前にはそんなもんを考える余裕もない。考えたところでまず通じないから意味もない。
───ああ、クソ鬱陶しい。もういっそのこと手元が狂ったことにして聖杯もろともふっ飛ばしてこのバカ騒ぎにケリを付けてやろうか
あの阿呆マスターは文句を言うだろうが、一発だけなら誤射ってことでいいだろ。ことここに到って極めて短絡的な事情で聖杯を思い切りよく諦めた目の腐ったセイバー顔は勝利のために脳ミソをフル回転させた。
幸いなことにあの金ピカは聖杯(なんか妙なもんを垂れ流してる)を盾にしていると思い込み油断しきっている。位置も聖杯のド真ん前に陣取っているから逃げ場も限られるし諸共ふっ飛ばすにゃ都合がいい。
パッと見ではセイバー顔が一方的に追い詰められているようでもその実、反則上等・後先御無用で盤面ひっくり返すのを前提とするなら互いに綱渡りなのが今の状況だ。
ただし一発デカいのをお見舞いするにしても手間はそれなりに必要で、そのための隙をどうやってひねくり出すのかが問題なのだ。ゲージ技や超必殺技を使うには複雑面倒なコマンドも不可欠なのである。
どうしたものやらと懊悩しつつも射出される剣と槍と弓矢の弾雨を弾き飛ばすセイバー顔、そこに天の助けとばかりに声が響いた。
『───《令呪》をもって命ずる。とっととそのドブゲロ聖杯を始末しろ!!』
「いよっしゃあ───!!!! おっ死ねドグサレ金ピカ!!!」
令呪の助力により一瞬でチャージを終えた目の腐ったセイバー顔は「ひぃやっほー!」と歓声を上げ、全力で約束された勝利の超必殺爆烈究極ビームを叩き込んだ。
足が止まったことにより少なからずどころか手足と臓物まき散らす程度の被弾もしたが、どうせあそこで変なもん垂れ流してる優勝トロフィーふっ飛ばしちまえば自分の存在もろともで消えるのだからマイペンライ!と割り切る。
まさかに目と鼻の先にまで迫った聖杯を傷物にするアホがいるとは露ほども思わなかったのであろう(そらそうだ)、今の今まで余裕ぶっこきまくってた金ピカの秀麗酷薄な面が信じられぬとばかりの驚愕に固まり───押し寄せる光の嵐に為すすべもなく吹き飛ばされた。
それを痛快に感じつつ目の腐ったセイバー顔もまた、悪党どもへ目にもの見せてやったビバリーヒルズの警官ばりに大笑いしながら自らが放った光に飲まれ消えていく……。
……………………
……はずだった。
登場クソゲー
目の腐ったセイバー顔
素の入力で爆烈究極拳を出せる
目の死んでる衛宮切嗣
多分、前世はアタリショックの関係者