アルトリア・ペンドラゴンの人生はクソゲー   作:puripoti

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第2話 衛宮切嗣の人生もクソゲー

 衛宮切嗣(えみやきりつぐ)という男の人生はクソゲーである。

 

 人の一生がクソゲーと化すには相応した理由があるものだが、この男の場合は何が悪かったのかと云えば、最悪の状況下で最悪の選択肢を本人的にはよかれと思って選んでしまうことに尽きるのだろう。

 

 そもそもの話をするなら、この男の人生とて最初からクソゲーであったわけではない。

 

 本来なら異国の地にて、笑顔がまぶしい褐色お姉さんとのうれしはずかしおねショタ展開それなんてエロゲのはずが、お姉さん手違いで得体のしれないバケモンカッコカリに大変身。そこでさっさと『諦める』を選んでりゃいいのに、絶対なんとかするから! 大丈夫だから! なんぞと宿題ほっぽらかして遊び回った挙げ句に夏休み最終日を迎えたクソ小学生感あふれるムーブをやらかしたのが運の尽き。

 なんとかしようと無い知恵を絞ったその結果、巡り巡ってお姉さん含めたご近所さんとかその他諸々がコロコロされちまうわ一緒に逃げようとしてくれた親父に到っちゃ自分の手でコロコロしちまうわでさあ大変。一夜にして開発元がきゃんでぃそふとからニトロプラスに交代である。

 

 てんやわんやな大騒動の末に天涯孤独の身の上となっちまい、その時のゴタゴタが縁で知り合った人生(クソゲー)の師匠とも云うべき女性に引き取られはしたものの、彼女と一緒に様々なイベント(クソ)をこなして好感度も順調に上がって、後はエンディングを迎えるだけとなったところでこれまた“すったもんだ”あった挙げ句にその師匠をもブチ転がす羽目になった。まったくもってひでぇ人生である。お前の人生、執筆担当が虚淵玄かよ。虚淵だったよ、なら仕方ないねあきらめて。

 

 何が悲惨かと云えば、コロコロした連中のどいつもこいつも、別に憎くてやったわけではないということだ。

 それが自分にとって大事であるかどうかが問題ではなく、あくまでもそうせねばならないと(切嗣の主観において)思ったからこそ彼は望まぬままに手を汚し続けたのである。

 

 ……普通ならこれだけの目に遭えば、大抵の人間は人生の電源ボタンをポチッとな! しちまうのだろうけれど、生憎と云うべきか切嗣のメンタルは無駄に硬かった。いやそこはさっさと切っちまえよと誰もが思うのだろうけど、それでも殺めた人達の命が無駄になるようなことだけは彼にはできなかったのだ。

 

 死へと安易に逃避して、かつて愛した尊い人々の犠牲を踏み躙るようなことができようか。否、それこそ決して許されぬ。なればこそ己が歩むべき道は唯一つ。

 たとえ茨の道行であろうとも愚行に愚行を重ねるような道程であろうとも、流した血に値する何かを為しえるその時まで、己が信じた『正義』を張り続け歩み続けるのだ。それが彼なりの贖罪であり義理の通し方であり正義の在り方でもあったのだから。

 

 シュワルツネッガーが売れっ子だった頃のハリウッド映画じゃあるまいに、どこの世界に人をコロがしたがしたその口で正義を語る正義の味方がいるというのかはさておいて、そこだけ切り取ればなんだかイイハナシダナー的にも聞こえんこともない。

 

 だが世の中にはよかれと思って何かをすればするほどドツボにはまり、結局は誰ぞの迷惑にしかならないようなのもいるわけで。

 衛宮切嗣という稀代のクソゲープレイヤーは間違いなくそういう手合いの一人であった。

 

   *

 

 師匠をコロがした後にしたくもない独り立ちをした切嗣は、それから数年ばかりを師匠の仕事を引き継ぐ形であちこちの迷惑防止条例違反な魔術師をコロコロする商売をして過ごした。並行して世界中の戦場を渡り歩くという漫画に出てくる傭兵みたいなこともした。本人が言うにはお金が目的ではなくあくまでも世界の平和のためらしいのだが、それやって何の足しになるんだと訊かれたら本人も答えようがなかったのではなかろうか。そもそも訊いてくれるような友達や知人もいなかったのだけど。

 

 それらの過程でさっさとあの世に逝ってしまえば、おそらく本人のためにも周りのためにもこれが一番ベターな話だったのだろうが、人生の序盤で最底辺のクソゲーをプレイした切嗣にとっては何ほどの事もなく、彼は毎日、世界平和の一助となるべく元気一杯に屍の山を積み重ね血の河を垂れ流しまくったわけである。平和ってなんだろうと思った人は辞書を引け。

 

 そして長年に渡る放浪の末に目ン玉からハイライトが消え失せ死んだ魚みたいな有り様になった頃、切嗣は魔術業界に伝わる珍奇な噂を耳にした。もっとも、魔術に関わる噂なんてもんは珍奇か珍妙か奇っ怪か奇天烈(きてれつ)のどれかでしかないけれど。その噂に曰く───

 

 

 アインツベルンとかいうどこかのスペースオペラの序盤でかませとして退場してそうな名前の魔術師が、数十年に一度行うとされる魔術儀式があるらしい。

 それは七人の魔術師に喚ばれし七騎の〈英霊〉を使い魔として争わせ、この世全ての願いを叶える願望器───〈聖杯〉を実現させる血塗られた争い。

 聖杯を巡り引き起こされる世に知られることなき魔術師による戦争。

 

 ───すなわち聖杯戦争、と。

 

 

 まんま過ぎてむしろツッコむ気を生じさせないという一周回って秀逸なネーミングセンスには特に感じ入ることもなく、切嗣は件の儀式を主催する魔術師にツナギを付けてまんまとその身中に潜り込むことに成功した。今回の戦争とやらにおける代理の兵隊として自分を売り込んだのである。

 

 無論、目先の利益なんぞに釣られたからではない。長年に渡って胸に抱いた大望(たいもう)宿願(しゅくがん)ゆえにである。聖杯とやらが真に万能の願望器であるのなら、この果てしなき流血をよしとする世界に平和を、それも現在未来の全てにおける絶対的かつ恒久の平和をもたらせるはずだと考えたのだ。

 

 陰惨なる決意を抱いてアインツベルンへと赴いた切嗣ではあったが、胸中に反するがごとく彼の地にて過ごしたおよそ9年に渡る日々は、彼にとって幸福の絶頂であった。

 美人で気立ての良いカミさんを(めと)りそれから少しの後には玉のように愛らしい娘も授かった。誰を傷つけることもなく傷つけられることもなく、愛する家族に寄り添い彼女達の幸福だけをひたすらに願う日々。誰も彼もが思い描いて求めずにはおられぬ、それがゆえに自分にとっては誰よりも遠かった幸福の図。

 

 

 こうしてきりつぐは かぞくとすえながくしあわせにくらしたそうな めでたしめでたし……

 

 

 まんが日本昔ばなしならこんな感じに市原悦子なり常田富士男(ときたふじお)なりのナレーションが(シメ)てエンディングだろうけれど残念、ここは日本でもなけりゃ昔でもない現代欧州のド田舎だ。

 一応はそれなりに悩みもしたのだが、結局のところ切嗣はその幸せすら放り捨てる形で自分の願いを叶える道を選んだわけである。

 

 バカは死ななきゃ治らないというのはよく知られた話ではあるが、ここまで逝くともはや死んでも完治するかは怪しい。なんだってこの男は自ら進んで己の人生をクソゲー化したがるのか。結果論で物を言うのは不毛ではあるが、この男がクソゲー沼に沈む大まかな理由の一つもそこらへんにあったのかもしれぬ。事ここに至っては、考えたところで詮無(せんな)い話ではあるが。

 

   *

 

 かくて大小様々な悲喜こもごも、あったりなかったりしながら舞台は整い役者は揃い、後は演目の開始を待つばかり。この戦いを人類最後の流血となし、己がクソゲー人生に終止符を打たんと衛宮切嗣はケツイを新たにするのであった。

 

 

 

 しかし切嗣は知らなかった。

 魔道が魔道を引き寄せて外道は外道と呼び合うように、クソゲーもまたクソゲーを招き入れるのだということを……。

 

   *

 

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上こそしたが、気に入らんのなら今すぐ自害を命じても構わんぞ」

 

 トンネルを抜けるとそこは雪国というのはどこかで聞いた話だが、雪国ド真ん中のアインツベルンが廃課金で用意したSSR確定アイテム使って抜けてきたのは腐ったような目をした川澄ボイスのセイバー顔だった。夜ならぬ頭の底が白くなった。

 

 挨拶もそこそこにお互いを値踏みする死んだ目と腐った目、二人の胸中に去来したものは奇しくも同じものであった。

 

 ───こいつクソゲーだ

 

 おまえらのどちらもだよ。自分のことを天より高い棚の上に放り出すかのごとき感想もまたクソゲーゆえである。

 

 正直なところ、お互いがお互いにあんまり口を利きたいとは思えなかったのだが、このままだんまり決め込み立ちん坊というわけにもいかない。最低限の礼儀でもって自己紹介を済ませた彼らは主従間における情報の交換を行った。主たるところでは互いが聖杯にかける願いについてである。喚び出したサーヴァントがこの世界に不利益をもたらすような願いを抱いていたとするなら一大事だ。仮にも抑止を司る《座》から招かれた者(ということになっている)にはありえないはずではあるが、英雄というやつは故事から覗き見るだけでも常人の思考を斜め上へかっ飛んだ連中ばかり。本人にとっては大したことではなくとも、他の人間的には大事なんてのは十分にありえる話なわけで。

 

 そしてある意味において、目の腐ったセイバー顔が口にした『願い』というやつは自分を常人だと思い込んでる一般切嗣にとっての理解を逸脱するものであった。

 

「死してなお抱く願いときた。そんなもんありゃせんし、あったとしてもいまさら要らん」

 

 意外にも程のあるセリフに切嗣は露骨な猜疑の色を死んだ目に写し、人を疑うことさえ知らなそうな切嗣のカミさんまでもが呆気にとられてしまう。

 二人の反応を見た目の腐ったセイバー顔は皮肉げに口の端を上げてみせた。

 

「フムン、その面を見るに信じられぬか───だが道理を誤るなよ魔術師。願いとは生きている内にこそ叶えるべきもの、生きている内にしか叶えられぬもの。生前に叶わなんだからと死者がそれを成就しようというのはな、未練という名の恥の上塗りに他ならんぞ」

 

「まして私は生前の有り様に満足まではできちゃおらんが、それでも自分なりの納得と答えは───今際の際ではあったが───得た身でな。今になってどこの馬の骨ともわからぬ輩が、鼻先に機会をぶら下げて見せたとて乗る気にはなれんのよ」

 

 それが目の腐ったセイバー顔の言であった。目が腐っているくせに、わりかし真っ当なことを言う。

 

「誇りも矜持(きょうじ)もあったものじゃない身の上ではあるが、それでも最低限の道と(ことわり)はわきまえている。故に───我が身に叶えるべき願いはなく、またあるべきではない」

 

 無論、納得しようがすまいが、それはお前たちが好きにすればいい。私は知らん。投げやり気味に余計な一言を添えて締めくくり、目の腐ったセイバー顔は死んだ目をした“かりそめ”の主に向き直った。

 

「さて、今度はこちらが問う番だ。死者には祈りを捧げばよいが、生者には願いこそ必要だ。故に訊かせよ語れよ述べよ、今代異国の魔術師よ。何を願うか何を望むか───万能の願望器“とやら”に」

「……決まっている、すべてはこの世界から争いを無くすため。僕は恒久的な平和の世界を作る、そのためにこそお前を喚んだ」

 

 問い返された男は胸の奥にしまい込んだ少年の日の夢に蓋をして今や虚しい願いを口にした。 

 

 かつて誓った正義のために大事なものさえ切り捨てて、遂には己の心すら殺して押し出したそれこそは怨嗟(えんさ)と絶望を舐め尽くし、もはや声を荒げることさえできぬ悲嘆。夜闇に鎮む冬の森のごとき静謐なる慟哭であった。

 

 己を喚び寄せた主の悲痛な思いを感じ取り、目の腐ったセイバー顔は───手の施しようがないアホを見たような面をした。

 

「あぁ? 出来るわけねーだろ、そんなの。いい年こいて夢見てんじゃねーよ、ばーか」

 

 セイバーはそんなこと言わない。でも目の腐ったセイバー顔は言う。

 

 普通に言われるだけでも腹立つ台詞が、目の腐ったセイバー顔に川澄ボイスで言われりゃムカつき倍増だ。

 ムシャクシャしてカッとなった切嗣の右手が唸りを上げ、カウンターで放たれた約束された勝利のギャラクティカ・マグナムが炸裂する。ファントムでないだけ慈悲を感じるが感じただけで気のせいだ。

 

 やたらにド派手なエフェクトでふっ飛ばされた切嗣は聖杯戦争の開催期間中、二度とこの目が腐った川澄ボイスのセイバー顔とは口をきかないと決めた。

 

   *

 

 あんな目の腐ったセイバー顔と行動を共にするとか真っ平ごめんなんてもんじゃねぇ。呪腕先生あたりと交換してくれ。

 

 召喚早々、自らが喚び出したサーヴァントに嫌気が差した(そりゃそうだ)切嗣は、召喚儀式のやり直しをアインツベルンの親玉へ申し入れた。

 

 絶対勝つから! 一生のお願いだから! などと新しいファミコンをねだって(ゲーム機の名前は全部『ファミコン』の絶対的世界法則)、できもしない空約束を乱発するクソガキばりのしつこさで食い下がるも、やはりというか大却下であった。

 あの野郎、☆2のコモンよりも☆5SSRのがつえーに決まってんだろ! などとおぬかしあそばされて聞く耳なんざ持ちゃしねぇ。ワザップの駄記事を真に受けるちびっ子かオメー。そんなんだから信じて喚び出した例のアレがとんでもねぇドブゲロだったりするんだ。

 

 当の目が腐ったセイバー顔はマスターの気持ちなんぞ一切合切、斟酌(しんしゃく)することもなく、いつの間にやらネットで購入したらしい大型テレビの前に陣取り切嗣の娘と一緒に対戦格闘ゲームなんぞを遊んでいる。どこで売ってんのか不思議なくらいダサいジャージ姿で。

 

 呼ばれて飛び出てきてからこっち、この目が腐ったセイバー顔ときたら主従としての交流どころかコミュニケーションも放棄して食っちゃ寝食っちゃ寝繰り返し、寝てない時はひたすらネットとゲームに明け暮れるというダメ人間もといダメ英霊生活を満喫しまくっている有り様だ。ダサいジャージで。こいつセイバーでもアーサー王でもなくて、ただの川澄ボイスでセイバー顔してるだけの干物女子英霊とかじゃなかろうか? 該当する英霊に心当たりなんてこれっぽっちもねぇけど。

 

 しかも困ったことに目が腐ったセイバー顔(クソダサジャージ)に感化されたのか最近は切嗣の娘もこいつと一緒にゲーム三昧のネット漬け、クルミの芽探しもやらなくなった。愛娘へこれ以上の悪影響が出る前に、令呪でこいつを始末するべきか切嗣は真剣に悩む日々だ。

 

 懊悩(おうのう)する切嗣のことなぞどこ吹く風とばかりに目の腐ったセイバー顔が声をかけてきた。

 

「おいマスターよ、ポテチが足りんぞもってこい」

 

 仮にも《使い魔(サーヴァント)》としての自覚があるのかさえ疑わしいセリフだった。どこまでも人の心がわからない、あるいは端から理解する気の欠片もないセイバー顔である。こんなのを王様にしてた連中はさぞかし不憫だったろうな。

 

「……一応、言っとくが私だって生前はあのド腐れトンチキどもに、約束された勝利のパロ・スペシャル叩き込みたいのを我慢させられてたんだぞ。つまりは“どっこいどっこい”というやつだ。それよりポテチくれ」

 

 こいつ人の心もわからないくせになんで考えが読めるんだろう。読心術の心得でもあんのか? 切嗣が無言のままに顔をしかめていると、目の腐ったセイバー顔はこちらを見もせずに応えた。

 

「そんな愉快能力は持っとらん、あくまでも直感スキルの賜物だ。そんなことよりポテチくれ」

 

 マジかよすごいな直感。しかも人の心は読めても理解するつもりまではないとか能力の無駄遣いどころじゃねぇ。めまいがするほどの偏頭痛を覚えた切嗣はこめかみを押さえずにはいられない。

 

「ほっとけ。あといい加減にポテチくれよー」

 

 しつっけーんだよ、わかったよ。ちょっと待ってろ! あらんかぎりの罵声を叩きつけたかったが、口を開くのすらイヤだったのでそこはじっと我慢の子。なにも言わずその場を後にする切嗣の背中へ、とことん人の心がわからない目の腐ったセイバー顔の追い打ちが投げかけられた。

 

「ピザとコーラもな」

 

 ねぇよそんなもん。




 登場クソゲー

衛宮切嗣

 開き直れぬ男 来世では最盛期のあかほり脚本みたいな人生だといいねでも野郎も気まぐれに黒ほりになったりする

目が腐った川澄ボイスのセイバー顔

 開き直った女 ピザとコーラとポテチとゲームとネットは良い文明
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