アルトリア・ペンドラゴンの人生はクソゲー   作:puripoti

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第3話 槍使う奴はクソゲー

 聖杯戦争における槍の騎士(ランサー)という連中には、どうにもクソゲーの印象が付いて回る。

 

 無論、それは一部先行者による風評被害的な概念には違いないのだろうし、そもイメージを形作ったと思しき当の本人はクソゲーであろうがなかろうが最期には笑って全てを受け入れ散るがごとき剛の者、あるいは懐が底抜けた酔狂者(すいきょうもの)とも取られる面があったので、そのような評価を耳にしたところで鼻で笑うかさもなくば肩をすくめるだけで一顧(いっこ)だにせなんだであったろうが。

 

 ともあれ個人の主観はさておくにしても、傍からその経緯・来歴を伺い見ればやはり悲惨の一言でしか括れないような連中として、余計なお世話的色眼鏡で見られるのは如何ともし難い。より広義の意味合いで括るなら英雄と呼ばれる連中の人生はその大半がクソゲー、あるいはそれに近い状況に置かれる場合が珍しくないということなのだが。

 

 その日、目の腐ったセイバー顔が出会ったのはそういったクソゲーに足を突っ込まざるをえなかった者の一人であった。

 

   *

 

 聖杯戦争が開催されるのに合わせ、目の腐ったセイバー顔は切嗣のカミさんと一緒に開催地であるところの極東の島国は冬木という地方都市に足を運んだ。

 

 今回の戦争において対外的にはカミさんがマスターという事で通し、本来のマスターであるところの切嗣は一足先に別行動で開催地入りすることに相成(あいな)った。

 

 切嗣としては正直なところ、この目の腐ったセイバー顔に自分の命よりも大事なカミさんを任せるなぞ不安どころではなかったのだろうが、他陣営への撹乱(かくらん)というメリットのことを考えれば他に手はなかった。

 

 出立(しゅったつ)に先立って切嗣は、カミさんへ「コイツ(目の腐ったセイバー顔)に絶対に妙なことさせないようにね! 絶対に! 絶対にね!!」とくどいほどに繰り返した。そこまで言うならいっそ令呪でも使ったらどうよとセイバー顔から提案され、ホントに貴重な一画を無駄にしかけたところでカミさんに止められるほどしつっこく言い聞かせた。もちろん無駄に終わった。

 

 目的の地に到着した目の腐ったセイバー顔は切嗣のカミさんが交通事情に明るくないのをいいことにどさくさ紛れて行き先をこの国でも有数の電気街に変更しようとしたり、道中で目についたハンバーガーショップや牛丼屋に押しかけて立喰師(たちぐいし)よろしくキッチンがパンクしかけるほどの注文を頼んだり、興味をそそられたゲームをカミさんの寛容につけ込み「あのおもちゃかってー」とねだりまくって買いまくったりと好き放題。それらを切嗣が目にしていたら躊躇うことなく令呪をもって早よ死ねと命令していたことだろう。

 

 そもそも注意するなりしてしかるべきカミさんもカミさんで、閉鎖的なアインツベルンの土地から出られたことで色々と吹っ切れているのか、目の腐ったセイバー顔がいかなる奇行を重ねようとも楽しげに笑うばかり、これといって(たしな)める様子もなかった。

 よほどに懐がデカいのか、あるいは底の抜け通した阿呆の類なのか、目の腐ったセイバー顔は仮の主へのせめてもの礼として前者ということにした。どの道、その二つを区別するのは相当の目利きでも難しく、なによりも自分は人を見るのにすら失敗した阿呆であったのだから他人をどうのこうのと評するのはおこがましかろう。

 

 なお見た目だけなら眼福な二人の姿はどこへ行っても衆目を一旦は集めたが、その後すぐに見てはいけないものを見たかのように無視されたものである。

 さながら現世に迷い出た妖精郷の姫君のごとくに見目麗しいカミさんはともかく、その傍らに付きそうヘドラが湧いて出そうなくらい腐った目ン玉をした男装娘という取り合わせは、余程に勘働(かんばたら)きの鈍い輩でもアレは関わっちゃアカンやつだと即判りなほどに不気味だったのだ。

 

 そうやって現世の街並みを堪能してしばらくすると、切嗣のカミさんが海に行きたいと言い出した。

 

 生前の───『アルトリア・ペンドラゴン』にとっての海といえば、叩いても潰しても無限湧きのごとくにやって来る蛮族のエンカウントシンボル(稼ぎ要素なし)の一つという程度の認識であり、別段、見に行きたい観光スポットというわけでもなかったのだが、時代と場所を隔てて見るのならまた違った(おもむき)もあろうということで了承した。いかなるやりたい放題も笑って受け入れるありがたい財布への義理立てとしても悪いものではなかろうし。

 

 

 

 

 

 ……結果として大間違いもいいところだったが。

 

 向かった先の埠頭(ふとう)にて、やるにも事欠いて戦争初日でいきなり空気の読めないエネミーとかち合う羽目になったのである。

 

 ───やっぱ海ってクソだわ。目の腐ったセイバー顔はつくづくそう思わずにはいられない。

 

   *

 

 それは美しい男であった。

 

 青春の光輝に満ちあふれる美貌は吐息を漏らすごとに夜気さえも恍惚に悶えさせ、それを戴く美影身には総身を照らす月の光さえ色褪(いろあ)せた。男がそこにあるだけで、世界の全てはただその美へと奉仕するだけの木偶へと成り下がろう。

 

 しかし美しいばかりの男では決してない。一分の隙もなく鍛え抜かれた肉体は我にただの一度とて無駄に過ごした日なぞ無しと目にした者ことごとくに知らしめ、その身が纏うは凄愴無比たる鬼気という名の戦化粧。美丈夫という言葉は、まさしくこの男のためにこそ作られたものであった。

 

 面と声だけなら無駄にいい野郎どもを見慣れた目の腐ったセイバー顔でなければ見惚れるほどのイケメンなのだが、なんか(さち)が薄そうなのだけは気になった。具体的には自分には一切の落ち度がないのに周りとの軋轢(あつれき)、特に女絡みで無駄な苦労を背負わされて最終的に身の破滅にまで追いやられた的な。

 

 いつものセイバー的直感だが、そんなに間違ってはいないのだろう。人の楽しみをふんだくるようなろくでなしにゃ相応(ふさわ)しい末路だざまぁみろ。

 

 こちらの胸中なぞ知らぬイケメンは射抜くがごとき一瞥を目の腐ったセイバー顔へとくれるや、断じるように言った。匂い立つほどの美身にふさわしく、いっそやりすぎじゃねぇの思えるほどのイケボである。

 

「その腐った目と瘴気(しょうき)のごとく淀んだ気配───バーサーカーのサーヴァントに相違ないな」

「とんでもねえ、あたしゃセイバーだよ」

 

 隠すほどでもなかったので正直に名乗ると、イケメンはものすごくイヤな───なけなしの小遣いとお年玉を貯めて買ったゲームがクソゲーだったときのちびっ子のような───顔をした。

 

 このやろうせっかくの観光を邪魔した分際でなんて面しやがるかな。景気づけとして念入りにボコボコにしてやる。腐った目を半眼にしたセイバー顔は心に決めた。

 

   *

 

 互いに必殺必滅の間合いの中、かつて無数の武勲と栄光に彩られた得物を携え隙を伺い合う剣と槍の英霊二人。剣気と殺気によって冬の夜気さえ凍えるほどの緊張を破ったのは目の腐ったセイバー顔であった。

 

 なんと彼女は構えを解き、総身から垂れ流されるやさぐれた気配からは想像もつかぬほどに格調高き一礼をとったのだ。

 

「しばし待たれよ槍の騎士。この戦、尋常に名乗りを交わすことすら叶わぬものなれども、貴殿ほどの遣い手に見えるとは一人の騎士としてこれ望外の誉れ。故に───仕合う前にぜひとも握手を交わすことを許されたい」

 

 まさかに目の腐ったセイバー顔からこのような模範的騎士口上が出てくるとは思わなかったのだろう。誉れある騎士にのみに許されるその所作に、槍のイケメンはしばし困惑したように眉根を寄せ、切嗣のカミさんに到ってはへんなものでも食べてお腹壊したのかしら。大丈夫? 回復魔術する? などと要らん心配をした。

 

 ややあって槍のイケメンは申し出を了承し、前に進み出た。

 

 ついでに両手の槍を神速で突き込んだ。

 

 いきなりのことに切嗣のカミさんが息を呑むが、目の腐ったセイバー顔、少しも慌てず槍の間合いから退がり、手に隠し持った小さな円筒───牛丼屋でちょろまかした七味に砂を混ぜたもの───を握りつぶし、約束された勝利の目つぶしとして叩きつける。しかしそこはイケメンもさる者、槍を一振りして出来た風でもってそれを無効となさしめ、それ以上のやり合いに拘泥(こうでい)することなく後ろに退がって仕切り直しの間合いに移った。

 

 せこいにも程のある小細工を見破られたことを特に悔しがるでもなく、目の腐ったセイバー顔は不可視の剣を構え直し、それを合図にあらためて聖杯戦争の幕が切って落とされる。

 

 

 

 騎士の誇りも魔術師の栄誉もクソもない、さながら場末のチンピラにこそふさわしいゲスな幕開けに、当事者はその場にいる者いない者問わず頭を抱えずにはいられなかったそうな。

 




 登場クソゲー

目が腐ったセイバー顔

 清澄なる闘気(笑)

槍のイケメン

 メインヒロインが地雷というクソギャルゲーあるいは乙女ゲー(クソ) ニッチ狙いでワンチャンあるか?
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