アルトリア・ペンドラゴンの人生はクソゲー   作:puripoti

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第5話 夜はすべての猫が灰色に見えるワゴンはすべての品がクソゲーに見える

 埠頭における決闘、の名を借りた陰険(いんけん)極まるドツき合いを終えたセイバー顔は、その足で別件の『一仕事』を終えた後、アインツベルンが用意した自動車を駆って一路、冬木郊外に用意されている根城へと向かっていた。

 

 切嗣のカミさんから聞いた話によれば根『城』というのは比喩ではなく、本当に城があるのだそうな。金持ちというのはこんな戦争ごっこですらも使える金が違うものか。かつての我が身と比ぶるに嘆息を漏らさずにはいられない。

 

 なお車の本来の持ち主たるカミさんであるが、彼女は埠頭でセイバー顔に盛られた薬が抜けていないせいもあり後部座席にて夢の国へとご招待中である。純粋な意味での『人間』でない彼女にも、視られる夢があるかまでは不明だが。

 

 彼女がもし起きていたのなら私に運転させろとゴネたろうが、アインツベルンの地にて練習走行と称してこの車を乗り回し、見物していた自分をハネ飛ばしたり踏んづけたりしてくれた腕前を嫌気が差す程度に思い知っているセイバー顔としては、生前の外交経験によって磨き抜かれたブリテン式交渉術(約束された勝利の腹パン)のかぎりを尽くして止めていたことであろうことは間違いない。

 

   *

 

 路も半ばに差しかかったところで、目の腐ったセイバー顔は道路のド真ん中に突っ立っている妙な影を見た。

 

 普通ならここで慌ててハンドルを切るなりブレーキを踏むなりするのだろうが、生憎と云うべきか運転してんのは普通から果てしなく縁遠い目の腐ったセイバー顔だ。ハンドルは当たり前のようにそのまま、アクセルにいたっては約束された勝利のベタ踏みであった。その気になれば恵まれた騎乗スキルでもって回避することも出来たのだが、“影”から漏れ出る常人ならざる気配と魔力から相手が人間ではないのを瞬時に看破したが故の判断である。

 

 もちろん、衝突に際して車体のフロント部分に魔力でもって編み上げた簡易装甲を施すのも忘れない。相手がサーヴァントなら自動車にハネられる程度はいかほどのこともないが、魔力を介しての当て逃げなら少なからず打撃を与えられるだろう。

 

 これらの工程を文字通りの“まばたきひとつ”の間に為しうるあたりはさすがである。目が腐っててもブリテンに名を轟かした騎士の王にして最優のサーヴァントの名は伊達ではなく、たとえ目は腐っててもスペックの高さだけは間違いなく本物なのだ。

 もっとも目は腐ってるし生前にさんざかプレイする羽目になったクソゲーの前には太刀打ちはおろか活火山に柄杓(ひしゃく)の水ぶっかけるより無意味であった上に目も腐っているのだけれど。

 

 腐った目ン玉はさておき、耳にした者すべてが顔をしかめようほどの衝突音にさえ毛の一筋ほども動じることもなくセイバー顔は余裕をもって車を停車させ、約束された勝利の()き逃げの成果を確認するべく事故現場へとUターンした。

 

 果たして例の“影”は夏によくある粗製乱造怪談小咄よろしく、衝突地点に寸分違わぬ姿と位置のまま(たたず)んでいた。ざっと見た感じ、大してダメージも負った風ではなさそうである。もっとも、どんな端くれだろうと仮にも英霊を名乗るようなのが車に轢かれた程度で死んでちゃ格好もつかんのではあるが。

 

 ふん、とつまらなそうに鼻を鳴らし、車から降りたセイバー顔はサーヴァントと思しき“そいつ”を観察する。さて、こいつは一体、何者であるか。

 

 相対するのは貴金属を散りばめた、豪奢(ごうしゃ)ではあるが悪趣味な色合いとデザインのローブを身にまとった長身の男。

 出目金(でめきん)かさもなきゃ日野日出志の漫画よろしく眼を“ぎょろり”と大きく()いた異相は一度でも目に焼き付けたならば、しばらくの間、夢見が悪くなりそうなほどに不気味であった。

 

 ───なんだこいつ、出目金養殖で名の知られた英霊か?

 

 そんなもんがいるのかどうかはさておいて、先の埠頭にて雁首(がんくび)揃えていたのは全七匹もとい七騎の内、自分を含めた五騎。身元はともかくクラスは知れている。

 

 となれば眼前の相手は残りの二匹、(つら)を見せなかった魔術師か暗殺者のサーヴァントのどちらかになるわけだが……問題はそのどちらも正々堂々の殴り合いを得手とするようなのではないということだ。

 

 そして陰に紛れ影に蠢くが本分の輩が表に姿を見せるからには、そうしても問題ないと判断したか……あるいは『それが勝利条件となる』場合のみ。つまりは余程に血迷うかトチ狂った阿呆でもないかぎりは十中十まで罠か策があろう。

 

 少年漫画の主人公なら罠があるなら噛み破るまでよと正々堂々たる態度を崩さぬであろうが、そんな考えなんざケツをふく紙にもなりゃしねってのによお! と言い張って恥じ入ることもない目の腐ったセイバー顔にそれを期待するのは無意味であるばかりか不毛であろう。

 

 何事かあろうとすぐさま対応できるように用心しつつ相手の出方を伺い、しばし無言の内に相対していると、なんと出目金男は何をトチ狂ったか王に拝謁(はいえつ)する騎士のごとくに膝をつき、作法に(のっと)った(うやうや)しい一礼をよこしてきた。

 

「───お迎えにあがりました聖処女よ」

「開口一番なに言ってんだお前は」

 

 突然のことに思わずツッコミを入れるセイバー顔。いやほんとになにいってんだこいつ。

 

 呆気にとられるセイバー顔へと、聞かれもしないのに怪奇・出目金男が語るところによればこやつ、生まれも育ちもおフランス、ブルターニュ地方で産湯をつかい姓はレェで名前はジル人呼んでキャスターのジル・ド・レェとのことである。

 

 その名を聞いた途端、サーヴァントに備わる自動検索機能が作動して出目金に関する詳細な情報(プロフィール)が強制ダウンロードされ、セイバー顔は腐った目一杯に嫌悪というか嫌気のようなものを(こしら)える羽目になった。いくら目が腐っていようとも、又聞きしただけでもメシが不味くなりそうな性犯罪者の駄話を聞かされて愉快な気分でいられるほど心は腐ってはいないのだ。

 

 野郎にまつわる変態性癖モロ出しの逸話に関してはこの際スルーということにして、人のご飯をマズくする程度の能力(デバフ)持ちのド変態出目金が続けて言うところによれば目の腐ったセイバー顔の正体はこいつの故郷を救った救国の聖女ことジャンヌ・ダルクであるらしい。

 

 ───このやろう、もういっぺん轢いてやろうか。セイバー顔は己がこめかみにデカい青筋が立つのを感じた。

 

 いうにも事欠いてこの出目金、なんたる妄言をほざくのか。ひょっとしたら遠回しにケンカ売ってんのか? 何が楽しゅうて生前の自分が、海を渡ってやって来る腐れ蛮族共の国なんぞ救ってやらにゃならん。そんな耳にした者すべてが満員総立ちでブーイングとコーラの空き缶を投げつけてくること請け合いのクソエピソードなんざありゃせんがな。

 

 久方ぶりに感じた溢れんばかりの腹立ちを、生前に培ってきた鋼の自制心でもって蓋をして、人違いじゃないのかと目の腐ったセイバー顔にしては至極まっとうな意見をしてみるも、

 

「何を、何を仰いますか! 余人はいざしらずこの私が、他ならぬジル・ド・レェが! 貴方様を見誤るなぞありましょうや然様(さよう)なことがありえましょうや!」

 

 これである。人の話なんざ聞きゃしねぇ。この手の、人の話を端から聞く耳持たない輩を見ると生前の家臣連中を思い出してさらにイヤな気分になる。

 

「ありましょうやもへったくれも、今現在おもっくそ見誤ってるだろうが」

 

 半眼で呻くセイバー顔のことなぞ構うことなく、出目金のテンションはウナギが滝を登るがごとし。我を忘れ半狂乱どころか完全に狂態を晒して荒れ狂う。出目金なのにウナギとはこれイカに。

 

「たとえ死すとも忘れがたきは何より貴く誰より尊き御身の姿! 徹夜明けを繰り返したかのごとき疲労がへばりついたその(おもて)! 総身から惜しげもなく撒き散らしてはばからぬやさぐれし気配! 何より……何よりも、その腐り果てた両の眼こそ、嗚呼───我らが御旗(みはた)を誇りも高く掲げし聖処女の証に他なりませぬ!」

 

 こいつが言うところの聖処女とやらはセイバー顔でやさぐれてて腐った目ン玉をしていたらしい。

 

 それは聖女じゃなくて、ただのくたびれた干物女だったのと違うか。私が言うのも何だがな。やさぐれてて腐った目ン玉をしているセイバー顔は疲れたようにつぶやいた。ツッコミを入れるというよりは独り言のようなものである。どうせこいつは聞き入れやしなかろうし。

 

 現世における目の腐ったセイバー顔としては、よく知らない過去の目の腐ったセイバー顔(聖処女)とやらに妙なシンパシーじみたもの的なにかを感じないでもなかったが、それはそれ、これはこれである。眼前の錯乱出目金が何を求めていようがいまいがもはや知ったことではない。敵なら引導を渡してやるだけのことだ。

 

 セイバー顔は大きくため息を吐くや、表情をあらためた。

 そして驚くことなかれ。なんと彼女はその(ツラ)に、この女の一体どこにと思わせるほどの慈しみと博愛に満ちた微笑みを浮かべたのだ。

 

 目が腐ってさえいなけりゃセイバー顔だけあってその破壊力たるや、向こう十年は青少年の心を鷲掴みにするヒロイン(ちから)

 

 そう、それは───まさしく万人が幻想に思い描きし《聖女》の微笑みそのものであった。

 

 こいつの本性を少しでも知る者ならエチケット袋の用意不可避の笑みを浮かべ、目の腐ったセイバー顔は口を開いた。

 

「───今こそ想い出しました。ジル・ド・レェ、我が戦友にして永遠の盟友。そう、私は……私こそはジャンヌ、ジャンヌ・ダルク」

 

 まともな相手であれば引っかかりようもないほど、それは感情のこもらぬクソ芝居もいいところであったが、どうせ相手はとっくに正気を失っている出目金なのでそこは無問題。

 目の腐ったセイバー顔をジャンヌ・ダルクと思いこんでいる一般出目金の英霊は、眼前のセイバー顔が繰り出す干からびたカイワレ大根以下の小芝居に、ひん剥いた両の眼に涙すら浮かべて感激していた。きがちがってはしかたないね。

 

「……おぉ……おぉ! ようやく、ようやくご自身を取り戻されたか! ジャンヌよ、我が唯一の救い! ああ、いと高みにおわす方! 今こそ私はあなたへ真なる感謝を捧げましょうぞ。救いは身を焼く絶望の只中にこそあれ───御身の聖なる言葉を連ねし書は正しかったのです!」

「ええ、ええ。その通りです。しかし、それもすべては貴方あってのこと───過去においても今生においても、貴方の身を削り惜しむことなき献身にはこのジャンヌ、かけるべき感謝の言葉さえ見つけられません」

「なんと……我が聖処女よ……なんともったいない……私は再び貴方に見えただけで……いえ、その御姿を我が両の目に映すことが叶っただけで……それだけで……」

「なにを言うのです。このジャンヌ・ダルク、我が身を救わんと奔走せしあなたの献身に目を背けるがごとき忘恩の徒ではありません。さあ、こちらへ……私に懐かしきあなたの姿をよく見せてください」

 

 どこまでも優しいその声に誘われた出目金が、さながら夢遊病者のごとき足取りでジャンヌ・ダルク(笑)へ近づくと、その土手っ腹に“ぞぶり”と何かが突き刺さった。

 

「……え?」と、間の抜けた声を漏らす出目金の英霊に突き刺さったものの正体は無論、セイバー顔の得物たる不可視の剣を用いての約束された勝利のセコ突きである。そういやこいつセイバーだった、やり口そのものは仕事人(アサシン)だけど。

 

 いきなりのことに出目金の英霊は驚愕に目を見開いた(普段と見分けはつかなかったが)。

 

「……な、なぜです……我が聖処女よ……わ……私は、貴方を……貴方様を……」

「ええからはよしね」

 

 目の腐ったセイバー顔、一切の聞く耳を持たぬまま短く吐き捨て約束された勝利の喉笛掻っ捌き。トドメ刺されたなんだかよく判らない出目金の英霊はなんだかよく判らないまま消滅した。本当になんだったんだ、こいつ。

 

「まあいいや勝ったことだし、なんだか知らんがとにかくよし!」

 

 よくねえ。

 

   *

 

 

 

 

 

 そういえばくっそどうでもいい余談なので忘れていたのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 生え際がちょっと怪しい工房自慢おじさん、ホテルの部屋もろとも約束された勝利の謎ビームで消えちまったってよ。

 




 今回のクソゲー

目の腐ったセイバー顔

 中村主水が召喚されたらセイバー枠なのかアサシン枠なのか

出目金

 喉を掻っ捌かれてたから判らんかったけど死に際に血涙流しながら「聖杯に呪いあれ」とでも言ってたんじゃねぇの

工房自慢おじさん

 ギャルゲーならイヤミなハイスペライバル的ポジだったんかね いや、ただのイヤミ教師が妥当か
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