アルトリア・ペンドラゴンの人生はクソゲー   作:puripoti

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第6話 アルジャーノンに花束を天使にラブソングをAVGNにクソゲーを

 ───極東の島国にて行われる魔術儀式、〈聖杯戦争〉へ信じて送り出した魔術師が開催初日で即オチ2コマばりの脱落をかます。

 

 その凶報が届けられるや件の魔術師が所属していた現代魔術の梁山泊(りょうざんぱく)、時計塔は大混乱に陥った。

 

 単純に負けて死ぬくらいならまだマシであった。魔術とは死と隣合わせ、それくらいを受け入れられないでは魔術師として話にもならぬ(その割にはどいつもこいつも生き汚かったりしぶとかったりと、妙なバイタリティに溢れる連中だが)。

 問題となるのはそのやり口と関係者にこそあった。

 

 殺害の手口が魔術の不文律ともいうべき神秘の秘匿をガン無視した聖剣(笑)による謎ビームというだけでも大概アレだが、それでも並の相手ならこちらで専門の駆除業者を送り込んで始末をつけて後は臭いものに蓋とばかりに知らぬ存ぜぬ決め込めば済んだ。やらかしたのが過去に《魔術師殺し》として名を馳せ、現在は錬金術の大家ともいうべき魔術の家をパトロンとする殺し屋であったというのが混乱と面倒に拍車をかけたのだ。

 

 当然というべきか、関わるあちこちの連中に苦情を出しはしたのだが、戦争を管理・統括する〈教会〉には魔術師のやらかしに関しちゃお前らの管轄じゃろがいと突っぱねられ、やらかした魔術師の後ろ盾というべき家に文句を言おうにもこちらには一切関係ございませんと二昔くらい前の政治家の答弁ばりの回答をよこされ、どうにかこうにか当の魔術師へとツナギを付けたもののそこでチラつかされた、野郎が過去に請け負った『お仕事』のいくつかが、どうやら露見したが最後、現在の時計塔内における派閥のいくらかに深刻な悪影響(最悪の場合、有力教室間での暗殺合戦)を及ぼしかねないものであるという事実の前に沈黙せざるをえなかった。

 

 なによりも開催地である極東の島国は冬木という場所が、時計塔の影響をいまいち受けにくい僻地(へきち)であったというのも災いし、半ば泣き寝入りの形で矛を収めざるをえなくなったのである。

 

 とはいえ先に述べた魔術・神秘の秘匿だけでもどうにかせにゃならんということで、関係各位(主に教会関係者)におかれましては不毛な労力を注ぎ込みいただく次第になるわけで、とりあえずホテルの損壊はガス爆発、謎ビームに関しては事故の影響で破損したガス管から漏れた素敵ガスを吸って幻覚を視たのだということで誤魔化すことになった。

 

 これが他所での大事件であろうものならゴルゴムの仕業だったり半人半豚の陰謀だったりシャミ子が悪かったりするのだろうが冬木における珍現象に関しては、「すべてはガス会社の仕業だったんだよ!」で片が付くのだ。なんだか頭が痛いと言おうが腹を壊したと言おうが「それは肝臓が悪いね」と切って捨てるヤブ医者みてえな対応である。

 

   *

 

 時計塔との折衝(せっしょう)(脅迫)を終えた切嗣は、アインツベルンが根拠地として用意した城の一室に置かれたソファへと疲れ果てた我が身をいささか乱暴に沈めた。

 

 肉体的な疲労もさることながら気分が最低最悪をスッ通り越して、奈落の底にジェットモグラで穴を掘るがごときズンドコだった。常人ならば目の保養どころか魂さえ奪われそうなほど豪奢な部屋の内装も身を預けた上等なソファの座り心地も、今の切嗣にとってはいささかの慰めにもならない。

 

「ご苦労なことだなマスター。だが(いくさ)はまだ始まったばかり、これくらいでへばっていてはこれより先の争いを勝ち残るなぞ夢のまた夢だろうよ」

 

 ……誰のせいだと思ってんだ、コラ。

 人のささくれた神経を逆撫でどころかヤスリがけをするがごとき声の主は言うまでもない。切嗣はテーブルを挟んで向かいのソファに我が物顔で寝っ転がる、人の心がわからないサーヴァントを忌々しく(にら)みつけた。

 

 豪華なソファに古のローマ人よろしく横たわりながら菓子を貪り、携帯ゲームに興じるその姿は一騎当千の英霊と云うよりは漫画やアニメに出てくるテンプレデブキャラの如し。いまさらだけどこいつ本当に大昔のブリテンの英霊なのだろうか?  

 

 並の人間が晒されたなら顔色なからしむる視線を叩きつけられようとも、目の腐ったセイバー顔は涼しい顔。気にも留めぬ様子で昼間に買い込んだ携帯ゲーム機で遊んでいる。なんといっても生前は、睨まれただけで本当に殺されかねない輩と幾度も殺り合う羽目になった身だ。今更、恨みがましいツラで睨まれたとて鼻で笑うことすらできやしない。

 

 暖簾に腕押しを地で行くセイバー顔の態度に、切嗣は諦めたようなため息を一つ吐いて頭を振った。今はこんなやつに構っている場合ではなく、これから先のことを考えるべきなのだ───考えたら死ぬほど頭が痛くなってきたので、なんもかんもを忘れて寝たいのだがそうもいかないのがひたすら辛い。

 

   *

 

 実は今回の───敵の魔術師を謎のビームでふっ飛ばし事件なのだが、これ切嗣とはほぼ無関係だったりする。

 

 というのも本来の予定ならば例の魔術師はテロリストによる爆破という偽装によって、彼が宿泊していたホテル丸ごと潰してやる手筈だったのだ(よく考えるまでもなくこれだってイカレポンチの発想だ)。それがなんでこんなトンデモ事件になったのかと云えば、初戦の戦場から勝手に姿を消した彼のサーヴァントこと、目の腐ったセイバー顔による独断専行にその理由が求められる。

 

 切嗣とその助手が事前の調査によって件の魔術師が“ねぐら”にしていたホテルを割り出し(と言っても即バレにも等しかったが)、そこに高層ビル一つを更地に変えるだけの爆薬を仕込み、標的が埠頭での決闘からのこのこ帰還したのを確認していざ起爆させようとしたその矢先、どこからともなく放たれた謎のビームが標的もろともホテルの最上階を根こそぎでブチ抜き、それまでに注ぎ込んだ準備労力のなにもかもを台無しにしやがったというのが事のおおまかな真相であった。

 

 なお仕掛けた爆薬は放ったらかしにもできなかったので、『爆弾を仕掛けたという証拠を隠滅(いんめつ)するために爆破する』という何のために仕込んだのか判らん虚しい使い方をする羽目になった。現場が想定以上の大混乱に陥ったため、謎ビームの被害者以外は確実に無傷で終わったのだけが救いではある。

 

 つまりはこれら炎上騒ぎの火種となるべきほとんどが眼前でポップコーンを食い散らかす目の腐ったセイバー顔に起因するものではあるが、ならば切嗣には落ち度がなかったかといえば一概にそうとも言い切れぬのがまた困ったもんなのだ。

 

 少なくとも埠頭から姿を消したセイバー顔が素直にこの城に向かったものと思い込み、その動向を掴んでいなかったのは明らかにマズかった。こいつが素直なんぞという単語からはスッポンが泥中より見上げる月の軌道ほどにもかけ離れているのは端から判っていたというのにそれを野放しにするなど、まったく噴飯(ふんぱん)どころかヨガファイヤー噴き出すくらいには間抜けであろう。

 

 より深いところを突っ込むのなら、気に入らんなどと云う偏食こじらせクソガキばりのしょうもない理由で手駒(セイバー顔)との相互理解どころか意思伝達も怠るというのは片手落ちどころか両手落ち、いわんや暴挙ですらあった。目と性根が腐ってて言行もあんまりにもアレとはいえ仮にもサーヴァント。超必殺技の一撃で高層ビルをオシャカにする、人間サイズの怪獣みたいなもんをロクな管理もしないで放置するというのはいかがなもんか。

 

 何より問題なのがこれら馬鹿騒ぎの大元を辿りに辿れば切嗣に行き着くというのに、騒動そのものは彼の意図や手腕からまったく離れたところで起こったというところにある。

 

 先にも述べた通り自分が喚び出したサーヴァントを御するどころか放置して自分勝手に振る舞うのを許した挙げ句、マスターさえ予期しない破壊活動を行わせる。これがバレたとしたなら、魔術商売の定番厄ネタである神秘の秘匿云々をさておくにしても、マスターとしての資格なしとして聖杯戦争への参加・関与の権利剥奪(はくだつ)くらいはありえた。

 

 いや、状況を考えれば間違いなくあったろう。なにせ事が事であったし、それ以上に戦争に参加している他の陣営連中にとっても悪い話ではないのだから。戦争の最序盤でいきなり二つもの勝利を(手段はともかく)もぎとるような危険ブツをルール違反にかこつけて労せず排除できるとあらば、誰だって諸手(もろて)を挙げて賛成するに決まっている。自分だってそーする。なによりも明日は我が身かも知れないのだ。

 そうさせぬためにも、一刻も早く関係者連中へ連絡を入れ、牽制(けんせい)を入れると同時に自らの正当性を主張する必要があった。

 

 かくして関係する諸々からの突き上げをくらいまくった切嗣はそれらの対応へ追われることとなったのである。

 

 この場合、釈明なり説明をすべきなのは対外的なマスターとして認知されている切嗣のカミさんの役割だったのだろうが、彼女はこともあろうにセイバー顔から一服盛られて前後不覚。しかもクレームが届いた時点では城に戻ってさえいなかったのでどうにもならなかった。ちなみに戻らなかった理由はセイバー顔が塾帰りのガキンチョよろしくコンビニで立ち読みしたりスナック食ったり食玩を大人買いしたり珍妙な出目金を轢き逃げしたりで遅れたせいだ。それらを知ってなお令呪で自害を命じなかった切嗣の忍耐力はどれだけ褒められてもよかろう。

 

 かくして様々な方面への都合十数時間にも及ぶ説明、弁解、韜晦(とうかい)恫喝(どうかつ)、脅迫、鼻薬、買収、言い訳、繰り言、泣き落とし、その他諸々を伴いながらの各部署へのたらい回しの末、どうにかこうにか不問に付すとまでならずとも、いくらかのペナルティ込みでの厳重注意で済ませることができたのだ。ちなみにペナルティ云々に関しては現状では払いようもないので、後日、アインツベルンへのツケという形で踏み倒すつもりである。

 

 もっとも今後の行動には少なからず厳しい目が向けられるのは避けられないし、それら釈明のために表に出ざるをえなくなった結果、自分が本当のマスターであるとバラす羽目にもなったわけなのだからプラマイゼロといえるのかは怪しい。踏んだり蹴ったりとはまさにこのことだ。

 

   *

 

 聖杯戦争の初日からここに到るまでの出来事と経緯を振り返った切嗣は頭を抱えた。

 

 ほんとにこりゃひどい。頭痛の種どころじゃなく、ちょっと古いオムニバスホラーよろしく種が芽吹いてにょきにょき生えた頭痛の木が頭蓋(ずがい)をブチ破りそうな勢いだ。

 

「どうした、腹でも減ったのか。今の時間じゃ出前も取れんから我慢することだ」

 

 言うても、こんな辺鄙なところにまで注文を受け付けるようなソバ屋がおるとも思えんがな。心配してんだかしてないんだかよく判らないことを言いながら、セイバー顔は新たなポテチの袋を開き貪り食う。さすがは人の心がわからないだけあって分けてくれる気は微塵もないらしい。そもそも腹が減ったとかじゃないんだが。

 

 仏頂面を崩さぬ切嗣になにを感じたのか、目の腐ったセイバー顔は形だけは無駄に良い唇を皮肉げに歪めた。

 

「フム、これだけの戦果を挙げてきたというに、我が主殿におかれてはご不満があるようだな。しかし今回の一件は港での貴様の不手際が招いたことでもあるぞ。埠頭で槍使いの主を始末さえ出来てりゃ“こんなこと”にはならなんだ。つまりはお前の尻拭いを私がやって、それによって生じた私の尻拭いを貴様がしたということだな───もちろん貴様が他に策や打つ手はあったのも知っているさ、だが魔術師という連中の土壇場での生き汚さは私だって悉皆承知(しっかいしょうち)している」

 

 それはつまり、切嗣の採る手段ではかの魔術師を始末できぬと判断したからか。

 

「さあな───判っているのはこの手の話は結果だけが物を言うということよ。戦果も結果も残せぬ輩に何を言うこともできまいが。それとも貴様も、結果論を盾に苦情を言い立てるクチか」

 

 そのように言われては切嗣としても口をつぐまざるをえない。だがそれらに関してはもはや問わぬとしても、いまだ摘み取られぬままの疑問の芽は片付けておきたい。

 例えば、あれやこれやの対応で聞けず終いだったのだが、こいつは例の魔術師の拠点をどうやって見破ったのか。つまらんことを考えずコロがし合いに没頭させるため、余計な情報はシャットアウトしていたはずなのだが(それが騒動の原因の一つでもある)。まさか盗み聞きでもしたのだろうか。

 

「そんなしょうもない真似はせん。昼間はお前の女房と一緒に街中をうろついてたのは知っとるな、そこでいくらかの噂話を耳に入れたのさ。鳴り物入りで完成したばかりの高級ホテル、そのフロア一つを借り切ってさらには珍妙な荷物を尋常ではない量で持ち込む外国人がいりゃ怪しいとまで言わんでも話のネタにゃなるだろが。魔術で誤魔化すにしても限度はあるしな」

 

 人の口に戸は立てられぬとはよく言ったものさ───件のウカツ魔術師はそう思わんかったようだが。腐った目をしたフードファイターの英霊はここで一旦、言葉を切り、袋に残ったポテチを豪快に流し込んだ。生前は小なりとはいえ一国の王様であったとは思えんくらい食い方が汚い。

 

「後は霊体化でホテルのロビーやフロントに探りを入れて相手を特定したという寸法だ。私が王様稼業と戦争屋の兼業だったのを忘れたか。嘘か真かも判らん情報を頼りに市井戦場を予想するくらい出来ぬでは話にもならんわ」

 

 リスの食事よろしくスナック菓子で頬っぺたを膨らませた姿さえ無視すれば、説得力のありすぎるセリフではある(口にもの詰めたままなので聴き取りにくかったが)。普段の言行と風体とで騙されがちではあるが腐っても鯛、目ン玉は腐っててもアーサー王。こいつこそはしこたま抱えた内憂(ないゆう)とアホほど湧き出る外患(がいかん)の末に滅亡寸前だったブリテン(クソゲー)を10年近く延命させてのけたバケモンなのだ。

 

「彼奴めの拠点と持ち運んだ武装なりを剥ぎ取れる程度でも御の字と思っていたが───まさかのドンピシャだ。喜ぶがいい、運気は我らにあるぞ」

 

 それが喜べねえからこうして頭抱えてんだろが。しかも抜かした当の本人が心底どうでもよさそうな口調でゲームと菓子に没頭しているのにどないせえというのか。あと、せめてこっち向いて話せ。

 

「召喚してからこっち、話の一つも振ってこなかった貴様が言うか」

 

 ごもっともである。ついでに云うならここまで切嗣は一切、口を開いてすらいない。すべてはセイバー顔の直感スキルとやらに依存した一方通行にも見える謎会話であるが、わざわざ言葉にしないでも通じるという意味ではこれもひとつの以心伝心の形かもしれぬ。

 

「それよりもだ、この一件はあくまでもサーヴァントの私でなくマスターのお前がやらせたということになるのだろう? 濡れ衣を着せられたままが嫌なら精々、馬車馬のごとくに働き、殺し、勝ち残り、己が正当性を証明することさ」

 

 でなけりゃ今回のみならず過去のあれやこれやの精算として、貴様は首に縄かけられることだろうよ。半ば以上に脅迫まがいのことを言う目の腐ったセイバー顔。こいつが一体、誰の味方なのか判らなくなる。

 

「あるいはこの身が王のままであったなら、己に願いを託さんとした者の味方をしたろうな。だが今の私は王どころかただの人間ですらない死者、正真正銘の“ひとでなし”ときたものだ」

 

 そんな輩が託されていい願いも祈りもあるはずはなく。できることなぞ精々が、余人の与り知らぬところでブチコロがし合いに勤しむが関の山。

 かつては国や臣下に縛られた身の上も、今は遠くはるかな過去。なればこそ、己の来し方行く末くらいは自らの心赴くままに振る舞うを私はよしとする。

 

「つまるところ今の私、アルトリア・ペンドラゴンは誰でもない自分だけの味方というわけだ」

 

 字面だけならなんだか格好よいことを抜かしてるように聞こえなくもないが、よくよく内容を吟味(ぎんみ)すれば自分のワガママ都合を最優先させて後は知らんという開き直り以外の何物でもない。

 

 あまりの身勝手さにめまいすら覚えた切嗣は、二度と口を利かぬという誓いを破りそうになるのをかろうじてこらえ、大きく深呼吸をして息を整えた。息を吸いすぎたのと脳ミソの処理が追いつかないほどの感情の奔流とで、頭の中がヒッチコックの映画ばりにくらくらするがそこはじっと我慢の子。今の今までしたくもないのに積み重ねてきた我慢に比べればなにほどのこともない。そうやってクソゲーを我慢しようと得られるものなぞありゃせんというに、ご苦労さんと云うべきではある。

 

 事情を知らぬものが目にしたなら誰もが同情をする(そして事情を知っているなら半ば自業自得じゃねぇかと呆れる)その姿に思うところがあったのか、セイバー顔はゲームを止めて己の主へと視線を向けた。寝っ転がったまま、かつ顔までは向けていないから投げやりな印象は拭えなかったが。

 

「この際だから言っておくがなご主人様(マスター)よ、我々の関係は別に対等でもなんでもない。叶えるべき願いなぞ持ち合わせぬがゆえにこの戦争ごっこなぞどうなろうが構わない私と、是が非でも叶えたい願いを成就させうる最初で最後のチャンスとなるお前───失うものがないというのは、実に便利な立ち位置であると思わんか」

 

 なんとも悪質な無敵の人理論を振りかざすもんである。(おもて)に表すことこそなかったが内心で歯噛みする切嗣に、とどめを刺すかのようにセイバー顔は続ける。

 

「それが気に入らんのならいっそのこと、その令呪でもって我が意に従えとでも命じてみちゃどうだ。あるいは───《自害せよ、セイバー》とでもな。召喚初日にも言ったがな、私は一向に構わんぞ。どうせとっくに死んどる身だ」

 

 もっともそれをやったが最期、お前は勝ち残る権利そのものを自ら捨てるのと同義であろうがよ。弄うように断ずるセイバー顔が一体、どこまで本気なのか判断がつきかねるが、それができれば切嗣だって苦労はしない。認めるのは(しゃく)だがこいつの言が正しいのは判っちゃいるのだ。

 

 過程さえ無視できるのなら聖杯戦争の初日で二つもの陣営を下したこいつは、戦力としてこの上を考えられぬほど優秀だ。仮にだが、こいつを処分して新たにサーヴァントを喚び寄せるにしても(それができればの話だが)、それがこいつを上回るとはかぎらない。いや、間違いなく下回るであろうことは目に見えている。

 勝つための手段なぞ結果でいくらも正当化できると素で考えるような、反英霊(はんえいれい)まがいの精神性とそれを高い精度で実行できる能力を併せ持つような英霊などそうはおるまい。

 

 そして仮に令呪で言う事聞かせるにしてもそれが切嗣を利するかは疑問だ。先の首級にしてもマスター含めて他人の思惑・意見なぞを一顧だにしない性格と行動原理だからこそもたらされた戦果であり、それを縛って唯々諾々と自分に従うだけの木偶(でく)となったとしたら(駒や兵隊としてならそれでもいいが)、果たしてこれ以上の戦果が期待できるかどうか。

 

「……そこで迷うことなく手札を切れないのがお前の限界なんだろうよ───最終的な勝利のために、あえて現状における下策を承知で採ることもできぬではな」

 

 失望というより興味をなくした風に言い捨て、視線を戻したセイバー顔はゲームを再開するのだった。

 

「まあいいさ。それより貴様、仕事が片付いたのならさっさと寝たらどうだ。戦いが始まる前からろくすっぽ眠っとらんのだろう? いざというときに体調不良で使い物にならぬでは、さすがの私も愛想を尽かす」

 

 その間くらいなら私も忠良なる使い魔(サーヴァント)として護っていてやろうから、安心して寝くたばるがよい。責任感なぞ微塵も感じさせない口調と態度ではあったが、これだけはまったく正しい。先に述べた通り都合、半日にも及ぶ各方面に及ぶ弁解と恫喝にいい加減、精神と肉体が軋みを上げていたのだ。その気になれば身体が壊れるのを無視しての行動を可能とする切嗣ではあるが、今はまだその時ではない。ここは大人しく忠告に従っておくべきであろう。

 

 疲労物質の塊のようなため息を吐いて切嗣はソファから腰を上げた。セイバー顔へ一瞥もくれぬまま部屋を出ていこうとしたところで、

 

「───おっと、その前にしばし待て。大事なことを忘れていたよ、これはちょいと重要な話なのだがな……」

 

 思わせぶりに語りかけられた切嗣が足を止め胡乱な眼差しを向けると、重苦しい表情で空になったコーラのペットボトルを振ってみせる目の腐ったセイバー顔の姿があった。

 

「コーラを切らした、目を覚ましたら買ってこい。デカいサイズのやつ」

 

 ……そんくらいおめーが買え。声帯の限界に挑むほどの罵声を浴びせたいのを、クソゲープレイヤーに特有の強固な精神力でもってどうにか堪えた切嗣は無言のままに退室した。




 今日のクソゲー

目の腐ったセイバー顔

 死んでもクソゲーと縁が切れない女

衛宮切嗣

 死ぬまでクソゲーと縁が切れない男
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