アルトリア・ペンドラゴンの人生はクソゲー   作:puripoti

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第7話 B列車で逝こう~滅亡確定亡国コンプリートパック~ 

 王道───本来的な意味では古の思想家が説いた、優れた王が執るべき道ないし徳によってもたらされる真なる仁政のことである。

 また別の場合においては『王たる者かくあるべき』という形、その在り様を指すこともあるそうな。

 

 目の腐ったセイバー顔こと、アルトリア・ペンドラゴンにとってのそれがいかなるものであったのかと云えば、おヒゲが綺麗な古の武将よろしく「そんなものはない」としか言い様がなかったりする。

 

 何故というならこの女、ガワのスペックこそぶっちぎりにおかしいが元を質せばそんじょそこいらの田舎娘に毛が(ただし竜の剛毛)生えた程度の小娘でしかなく、そんな輩に語れるような王の道なぞあったものじゃない。八百屋に捕鯨の心得を訊ねるようなことをしても意味はなかろう。

 

 したがって王の道なぞ持ち合わせぬままに玉座へ就いたその日から、少女はひたすらにブリテンにおける『王』という名の統治システムとしてのみ振る舞った。

 法において理性を重んじ、人事において情に流されず、治世において公正であり、為人(ひととなり)において清廉(せいれん)であり続けた。

 

 そうやって一片の私心もなく、落日を迎えたブリテンのために粉骨砕身東奔西走滅私奉公する彼女のことを───人々は唯ひとつの例外もなく気色が悪いと感じ畏れ(はばか)った。

 

 まったくアルトリア・ペンドラゴンは常に正しかった。人を人とも思わず感情を廃し打算のみで動き利益を判断基準とし機械的冷徹でもって事に当たり裁可を下し続けた。

 

 そうやって彼女が正しい“だけ”の政を行えば行うほどに、その『人間的』なものとは程遠い有り様を人々は疎み、忌避し、遂には憎むまでに到ったのである。破滅の日まで表に現れなかったのは単に結果で文句をねじ伏せていたからにすぎぬ。

 

 アルトリアはそれを理不尽だと思わなかった(やさぐれて目は腐ったが)。しかしそれとて別に、彼奴めの器や懐が海よりも深く空よりも広いからとかではない。この女、堪忍袋の緒の太さと強度こそ他の追随を許さなかったが懐に関しては生涯通して常に素寒貧だ。

 

 彼女が己を不遇と思わなかったのは、単純にブリテンという国のありとあらゆる者がアルトリアを嫌っていたように───あるいはそれ以上に───彼女もブリテンのすべてが大嫌いであっただけのことである。好いた者に嫌われてヘコむ奴はいても、嫌いな連中に嫌われてどうこう思うやつはいない。そのように考えることで自分を守ったとも云えるが。

 

 周りがどいつもこいつも大嫌いな連中であったからこそ、情というものを一切差し挟まぬ公平無私の判断裁決施政を可能とすることが出来たのであり、それがこの女へ無類の正しさと強さを与え同時に致命の誤りと弱さをもたらした。

 

 いつの時代、どこの国でも人心が離れた王の末路なぞ知れたもの。

 臣下を(おもんばか)らず民草を愛さずそれらの心も理解せず、後に続く者達を導きも救いもしない。そのくせ言うこと為すことは正しいばかりの統治機械に捧げられるべき忠誠などあろうはずもなく、その治世においては終始、(少なくとも形の上では)国と民の為にひたすら献身して尽力しながらも、結局はただの一度も報われるとこもなく孤独に無様な屍を晒す結果となったのだ。

 

 とどのつまり、アルトリア・ペンドラゴンという女には王冠を戴くに足る能力はあっても玉座に在り続けるための、王としての資質までは備えてはいなかったということだ。

 イヤな言い方をするのなら、彼女がしてきた“王としての振る舞い”。その全てはどこまでいっても極めて高度な“王様ごっこ”止まりでしかなかったというわけである。

 

 

 

 

 

 

 

 ほんでもって、そこらを非難されようが何と言われようが「知らんがな」と、微塵も悪びれることなく開き直るような奴でもあったわけである。

 

   *

 

 ───タダより高いものはないとはまったく、よく言ったものだ

 

 清涼な夜気に澄み渡り満天に煌めく星の下、古の美酒に満たされた盃を傾けながらくっそダサいジャージ───アインツベルンの地でも愛用していたやつ───に身を包む目の腐ったセイバー顔は心の中でひとりごちた。

 

 同席するのは今だ名の知れぬ金ピカの英霊と、名前は知ってるけど口にしたくないデカブツの英霊の二匹もとい二騎、おまけでデカブツのマスターとかいう明らかに殺しの場には不相応な風体のガキである。

 

 秀麗な美貌を台無しにすることはなはだしい腐った目ン玉とクソダサジャージ姿の組み合わせが不気味なやつと、無駄にゴージャスな王気を惜しげもなく垂れ流す偉そうなやつ、全身から覇気を(みなぎ)らせてたりするデカくてゴツいやつが一堂に会するその酒席は、常人が目の当たりにしたならば間違えて夜に視た白昼夢のごとき異様さであったという。

 

 つい先日顔を合わせたばかりの、そしてこれより先は殺し合い潰し合うばかりの相手と酒を酌み交わす。真っ当な感覚からすればなんとも妙な話であるが、ここに居並ぶ連中の少なくとも過半数は良くも悪しくも普通でもなけりゃ真っ当とは縁遠い輩だし、どいつもこいつも昨日の敵は今日の友今日の朋友明日の怨敵というのが珍しくもない時代に生きた連中なもんだから、それくらいを一々気にすることはなかった。

 

 かくもおかしな情況に彼女らが放り込まれたのには、そこに至る複雑怪奇な事情があった。

 

   *

 

 事の起こりはその日の朝方まで遡る。

 

 切嗣が休息を終えたのを見計らい、これから先の方針を打ち合わせるべく彼が寝室としている部屋へと参じたセイバー顔であったが、そこで彼女を迎えたのはとっくの昔にもぬけの殻となった空き室だけであった。

 

 あの野郎、目を覚ますやいなやで城を抜け出したらしい。それほど真面目に寝ずの番をしていたわけではないにせよ、サーヴァントの目すら欺くとは大したもんだ。

 自身のマスターが長年に渡って培い、今まさに無駄な発揮をされた暗殺技能の見事さに目の腐ったセイバー顔は妙な感心をした。腐った目ン玉なら欺くのは難しくないとも思われるが、そこは気にするべきではないのだろう。

 

 どうやら彼女の親愛なるマスター殿におかれては、あくまでもセイバー顔と行動を共にする気がないご様子のようだ。ここまでいくといっそ、清々するほどの嫌いっぷりというべきではある。

 

 普通ならここで困ったもんだとでもぼやいて頭のひとつも抱えるところなのだろうが、目の腐ったセイバー顔は肩を竦めるだけで済ませてその場を後にした。

 

 正味の話、好きにすりゃいいと思う。こっちも好きにするから。前にも語ったように、所詮は立場の上下や利害で結ばれているでもない間柄。互いに知らぬところでなにをしでかそうが野垂れ死のうが、それこそ“知ったこと”ではない。

 

 とりあえず初日と同じく街中でもほっつき歩いて敵の出方でも探るか。そう考えたセイバー顔は車を借りるために切嗣のカミさんの部屋を訪ねた。ついでにカミさんも探索に誘おうかと思ったのだが、彼女は体調がすぐれないとのことなので、今日は護衛代わりの切嗣の助手と一緒に城にて留守番するとのことだ。

 

 もしや埠頭にて一服盛ったのが不調の原因かと思ったのだが、どうもそうではないらしい。まるで“そうなること”が判っていたような様子がセイバー顔に不審を抱かせたが、抱いただけで特に追求することもなく彼女は城を出て、街に到着した頃にはその不審も頭の中から“きれいさっぱり”消えていた。今回はカミさんの目も気にする必要がなかったので、来日したときに仕立ててもらった黒スーツは根城に置いてくっそダサいジャージに着替えている。

 

 冬木の街に到着したセイバー顔(クソダサジャージ)が最初に足を運んだのは、この街でも一二を争う規模のゲームセンターだった。別にこの場所から怪異妖奇の気配を嗅ぎ取ったからではなく、店先の“のぼり”にある『新作ゲーム入荷』の字に惹かれたからだ。

 

 店内に足を踏み入れたセイバー顔の姿を認めるや、店内の客やら従業員やらが露骨に顔をひきつらせた。ひどいのになると足早に退店、いや逃げ出すようなのまでいる始末だ。彼らの視線は口ほどに物語っていた───真っ昼間から気色悪いもんを見た。

 

 顔の造作こそ無駄に整ってても、目は腐ってるわやさぐれた気配を遠慮なくまき散らすわなのがクソダサジャージ着込んでると、そのちぐはぐさが曰く言い難い不気味さを醸し出すもので、店内の連中の視線もむべなるかなと云うべきではある。

 

 哀れな衆生の反応なぞ少しも気にすることなく、数時間ほどをかけて店内のゲームを片っ端から遊び尽くしたセイバー顔は、最後に定番の対戦格闘ゲームへと足を運んだ。

 

 そして眉をひそめた。

 

 筐体に座る、なんか見覚えがあってやたらガタイがいい先客───それはなんたることか、こともあろうに初日の埠頭にて面を合わせたあのデカブツだった。その脇に佇む心底から疲れたようなツラしたガキは、たしか埠頭での死闘(笑)で見かけたこいつの空飛ぶ牛車に乗ってたやつだ。

 

 仮にも生前は王様で死後は英霊やってるようなのがこんなところで何してんだ。

 疑問を呈するセイバー顔へ、デカブツは“にやり”と笑って見せた。人並み外れたカリスマがなせるものなのか、ゴツい外見からは想像もつかぬほど人懐っこい笑顔である。

 

「知れたことを。この世に再び覇を唱えんとする余は今世の時勢のみならず世俗の情報収集にも余念はない。当世の文化風俗にも通じるのもまた、王たらんとする者の務めというものゆえな」

「本音は?」

「うむ。実はこの後、とある人物との待ち合わせがあってな、それまでちいと時間が余りそうだったんで暇を潰そうと思ったのよ」

 

 まさかに貴様とかち合うとは思わなんだがな。莞爾(かんじ)と笑うデカブツに特に思うこともなく、セイバー顔は隣の対戦台に座ってコインを投入、キャラセレクトを済ませる。飛び道具と対空、突進系の技が適度にまとまった標準的なキャラクターである。

 デカブツが小馬鹿にするように鼻を鳴らした。

 

「なんだなんだ、小賢しくもつまらん奴を選ぶのう。貴様も一端の英霊なら戦いに華を求めんでなんとする」

 

 そう言ってデカブツが選んだのは筋骨隆々たる見た目をしたデカくてゴツくて強そうなキャラだった。ご満悦の体で頷きながら得意げに語る。

 

「見るがよい、余が選びし戦士の威風堂々たる姿を。これぞまさに王が差配を採るに相応しき益荒男(ますらお)よ」

「どうでもいいがそいつ、投げコマンドが面倒な上に飛び道具ないから私の持ちとは相性最悪だぞ」

「……ちまちまとした小技に頼るなぞ王の振る舞いに相応しからざると思わんか」

 

   *

 

「せっかくだ、貴様も付いてくるがいい」

 

 手間賃として酒くらい飲ませてやる。そう言ってデカブツは対戦を終えてゲームセンターを後にしようとするセイバー顔を誘った。意外な申し出にセイバー顔は眉根を寄せずにはいられない。デカブツのマスターも反対の意を露にするがこちらは極めて自然に無視された。

 

「余とて身中に虫を(はべ)らせるようなことはしたくないがな、今日のところは知らぬところで蠢かれてはたまらん」

 

 どうせ後を付けて闇討ちでもする気だったのだろうが、貴様。セイバー顔は肩をすくめるのみで何も言わぬ。心外と思ったからではなく図星だったからだ。それを聞いたマスターのガキが血相を変え、半狂乱の体すら晒して反対するが、黙殺の挙げ句に炸裂したデコピンで沈黙させられた。

 

 まあいいか。セイバー顔は気を取り直して提案を受け入れた。出鼻を挫かれた形ではあるが、近くにいれば気を緩めることもあろう。少しでも隙を見せたらその瞬間がこいつの最期だ。何となればデコピンの衝撃に目を回してぶっ倒れているそこのガキをブチ転がすだけで事足りるのだし。いまさらではあるが、なんでこいつがセイバークラスで現界してんだかはなはだ不思議だ。

 

 そうしてデカブツに連れられることしばし。途中で酒を調達し、はたして到着した先、街外れにある野っ原にて邂逅したのは自称・誰もが名前を知ってる著名英霊こと金ピカであった。

 

 予想を裏切らぬ展開ではある。デカブツの気性からして脱落してないサーヴァントの内、声をかけそうなのがコイツくらいしかいないのは消去法で想像がついた。セイバー顔はともかく先日、彼女がフクロにしたなんかへんなのは話が通じるようなタマではないだろうし、殺し屋のサーヴァントに到ってはどこにいるのか見当もつかないのだから。

 

 それにしても惜しいことをしたもんだ。セイバー顔は千載一遇の機会を逃したらしい我が身の不運を嘆かずにいられない。己がマスターとの連携ができていれば、サーヴァント不在の間隙を突いてこいつのマスターを切嗣が始末できたかもしれぬのに。

 

 デカブツにしても、結局はまったくと言ってよいほどに隙を見つけられぬままだった。さすが一代の梟雄(きょうゆう)は暗殺への対処も慣れたものである。

 

 なにせここに赴く前にもセイバー顔は酒席の場としてアインツベルンの城を提供しようと申し出たのだが、こちらの陣地に誘い込んでデカブツのマスターらしき小僧を約束された勝利の毒殺なり切嗣が用意した爆弾による約束された勝利の自爆テロなりでコロがしちまおうとした意図を見破られて断られてしまっている。

 

「そりゃあな、戦にルールも何もあったものでないのは余も承知はしているが、それでも貴様のやりようはどうかと思うぞ」

 

 とことんまで手段を選ばぬその根性に呆れとも苦笑いともつかない表情をこしらえデカブツが嘆息するが、馬や鹿にありがたい念仏説法を聴かせるより無益なセリフであろうことは疑いない。

 

   *

 

 ……かくして場面は今に到るというわけだ。複雑怪奇なる事情と云うよりは、めいめいの行き当たりばったり好き勝手な行動による当然の帰結というか報いというべきものであったかも知れぬ。

 

 出された酒(持ってきた酒にケチつけた金ピカが用意したやつ)がやたらと旨いのだけは望外の幸運ではあったが、それも同席してる連中のせいで台無しだ。今日はどうにもやることなすこと歯車が狂うが、これが天中殺というものか。まったく、タダ酒が飲めると少しでも浮かれた自分が阿呆だった。

 

 陰々滅々たる気分のセイバー顔をよそに、デカブツと金ピカはよく判らない意気投合的なにかを果たしている。頼むからそのまま、気の合う野郎ども二匹で熱く語り合ってこっちにゃ構わんでてくれや。切に願わずにいられないセイバー顔であるが、生前からこの手の願いだの祈りだのにかぎって叶えられたことはなく、それどころか願いでもしたが最後、真逆の方向へと叶えられるのがお約束なのだ。

 

 やはりというか話すこともなくなったらしいデカブツがこちらに話を振ってきやがった。せっかくだから貴様も《聖杯》にかける願いを語ってみせよとかなんとか。こっちみんな、話しかけんな。プレイヤーがしてほしくないことにだけは全力で応えてくれるのはまさにクソゲーだな。

 

「どうせ下らん願いなのは知れているが、それでも酒の肴程度にはなるだろうが」

「だったらご期待に添えなくてザマぁ……もとい残念だ。私ゃお前らと違って謙虚な騎士なんでな、くたばった後にまで叶えたい願いなんて御大層なもんはありゃせんのよ」

 

 召喚初日にマスターへ語った通り、彼女が聖杯にかける願いなんぞというのは端からありゃしない。それどころか戦いへの意義も意欲さえ見いだせず、ダラダラとコロがし合いをやらかしている始末である。

 

 セイバー顔がそれらを含めた我が身の事情を語るや、なにがこいつらの癇に障ったものか一転して空気が悪くなった。

 

 コイツらに言わせると英雄英傑ってのは強欲でなんぼということらしい。己のみならず他者をも巻き込む夢なり欲なりのままに動き世界を平らげる力と覇気、それあってこその王であり英雄なりと。それらを持たぬ上に戦に意義も見いだせず信念もなく、力だけは無駄にあり余る小娘に出番なぞあろうはずもなし、早々に引っ込んでろとかなんとか。

 

 軽蔑も顕にデカブツから喝破されたセイバー顔は無言のまま、白茶けた表情でデカブツの寝言を聞き流した。

 

 別にデカブツの威風に気圧されたとか一代の英雄の主張に恐れ入ったとかとかではない。慎ましい胸中から溢れかえるにバカらしさに蓋をするので手一杯だったからだ。千古の昔からとった杵柄(きねづか)で口にも表情にも出さなかったが、出せていたのなら暗愚の王に愛想を尽かした将軍みたいな顔で口汚く罵倒していたことだろう。

 

 ───ば~~っかじゃねぇの!? それができてりゃ昔も今も苦労なんざしてねえっつーんだよ

 

 お前らと私とでこんなにも意識に差があるとは思わなかったが、その理由ってのはこういうことか。心中の霧が濃くなるような感想を懐き、セイバー顔は酒を舐める。天下の美酒が、知らずに酢にでもすり変わったような気分だった。

 

   *

 

 目の腐ったセイバー顔がその不毛極まる生涯(クソゲー)を通じてプレイしてきた超リアル国家経営SLG(クソ)ことシムブリテン、これがクソゲーたる所以のひとつにグッドエンドが存在しないというものがあった。

 

 念の為に断っておくが、セイバー顔の選択肢がマズいせいだとか能力不足のせいで辿り着けないとかではない。

 

 文字通りの意味で、最初から“存在していない”のである。

 

 ついでに付け加えるならこれはまだ幼かったアルトリア・ペンドラゴン(まだ目が腐っていない頃)が選定の剣を畑の大根よろしく引っこ抜いたときに、通りすがったという体で湧いて出た笑顔が死ぬほどムカつく魔術師から聞かされていたことでもあった。

 

 ───さっきも言ったけどこの国に未来はないよ

 あるのは破滅か、無関係の連中にまで迷惑をまき散らして破滅するかの二者択一さ

 せっかく王様になるのだし、君が好きな方を選ぶといいんじゃないかな───

 

 なにが楽しいわけでもないくせに、常と変わらぬにやけ面をへばりつかせて告げる魔術師へ約束された勝利のマッスルスパークをブチ込まずに済んだのは、そんな無益なことをやらかす暇も惜しかっただけだ。

 

 当時はいまいち実感がわかなかったが、今にして振り返ればあの時代におけるブリテンという国、ひいては地域そのものが妙な喩えだが燃料切れで今まさに墜落真っ最中の旅客機みたいなもんだった。立て直すことが不可能なら飛び続けることも不可能。最悪、人口密集地に突っ込んでさらなる被害すらまき散らしかねない最悪のメーデー案件。どうせ誰も助からないならせめて周りにだけは害を及ぼさぬように始末をつけねばならぬ。

 

 つまりアルトリア・ペンドラゴンに求められたのは、存在しているだけであちこちに要らん迷惑を及ぼすだけの存在に成り下がったブリテンを、可能なかぎり被害の少ない形でハードランディングさせることだったというわけだ。なお軟着陸という選択肢は存在していない。選べる選択肢はかの魔術師が述べたように、無関係の人間まで巻き添えにしながら乗客全員を死なせるか、被害は乗客のみだが運が良ければそいつらも一人か二人なら生き残れるかもしれない末路だけだ。

 

 プレイヤーとなったが最期(誤字にあらず)、貧乏くじを引かされまくった挙げ句にBADENDが確定という、まさにクソゲーの面目躍如というべきであろう。

 

 こんなクソゲーの真っ只中に放り込まれりゃ誰しも欲という名の希望なぞ持てようはずもない。願うとするなら唯ひとつ───はよ終わってくれ、これくらいであろう(まさか終わった後で一息つく間もなく、新たなクソゲーに足突っ込む羽目になるとは思わなんだが)。

 

 ───あるいは自分がもう少し強い人間であったのなら、諦めることも膝を屈することも知らぬ強き者であったのなら、今まさに万能の聖杯(しかしウソくせぇキャッチフレーズだ)とやらへ託す願いを胸にしていたやも知れんがな

 

 こんなことでブリテンは終わらない、もっと違う道があったはずだ、もっと良い選択肢があったはずだと死ぬ間際にまで、あるいは死してなお諦めることを潔しとせなんだかもしれない。

 もっともっと───より良い王がより良い未来を選びより良い終わり方へと皆を導いたはずだ。そのように考えて、ありもしない希望に手を伸ばそうと足掻いたのかもしれない。

 

 

 だが残念、そのような考えに到れるほどには、このセイバー顔は強くなかった。だから目が腐りもしたしやさぐれもしたのだ。

 

 

 今際の際で現実(クソゲー)に負け、己に負け、すべてを諦め、膝を屈して、無様に死にくたばった阿呆が目の腐ったセイバー顔という女のすべてである。つまりはもうクソゲーには飽き飽きしたのだ。

 

 こんな自分を人は阿呆な女だと嗤うか惨めなやつだと呆れるだろう。自分でもそう思う。ただし嗤った奴には問答無用で約束された勝利のDDA(デンジャラスドライバーアルトリア)だが。人の苦労も知らんと勝手なことを抜かす輩にとやかく言われる筋合いはポッケのどこにもありゃしねえ。

 

 それに無様ではあっても恥とは思わない。負け惜しみに近いものではあるが、それでも弱かったからこそ見えてくるものもあれば、開き直ったからこそ得られる答えもあった。

 

 骨折るばかりでくたびれ儲けも得られないようなのはもう真っ平だ。死ぬまで苦労するだけのクソゲーを二度とプレイする気になんぞ誰がなるものか。

 ましてやこんな馬鹿げたクソゲーを他人に背負わせる気にだけは決してなれぬ、してはならぬ。馬鹿を見たのはアルトリア・ペンドラゴンという稀代の阿呆一人で充分だ。

 

 あの日、あのとき、終わりの丘で、一人孤独に散り逝く刹那ニヤリと笑ってのけたのは、やせ我慢だけでは決してない。独りよがりな自己満足であろうとも、あんなクソゲーを投げ出すことなく最後までやり抜いた自分を誇ったからこそなわけで。

 

 何ひとつも報われず何ひとつも残せず世界から消えた愚昧無能(ぐまいむのう)の王ではあったが、それでもやるべきことを投げたり他人になすりつけようなどとはこれっぽっちも……いや何度も考えたが、とにかくやり遂げたのだ。

 

 もし己がここにいる連中のような“強き王”であったのなら、そんな満足に価値なしと放り捨てていたことだろうが、自分は弱く、“王”ですらない腕力自慢の小娘だ。そんなんが自分を張って駆け抜けきったのだから、オチとしては上々というべきであろう。

 

 ふと目の腐ったセイバー顔は、得々と語るデカブツをうそ寒い視線で見やった。こいつらには欲を持つこともできぬ者というのが理解できないんだろうな。

 

 王道にせよ欲望にせよ、そんなもんはどこまでいっても語るだけの余裕がある人間の戯言だ。仮にだが、あの時代にブリテンの玉座へ就いたのが彼女ではなく、眼前にてふんぞり返る連中であったとしたならどうであったろうか。

 

 おそらくは、いや間違いなくブリテンどころかあの時代のすべてが目も当てられぬ惨状と成り果てていたこと疑いない。

 

 これは能力の多寡ではなく性分の問題だ。何をどうしようとこいつらにかの時代は致命的に向いていない。負けが定められた弱者の道程なぞ一顧だにせず、己の信ずる王道とやらを他者すら巻き込んで邁進(まいしん)したことだろう。それによって引き起こされる惨禍なぞ気にも留めず───その結末に責任すら取らず。

 

 そして逆もまたしかり。例えば自分がコイツらの時代に生を受けて王として君臨していたら、亡国RTAまっしぐらであったことは疑いようもない。これもまた能力云々の話ではなく性格志向の問題だ。強き王が生き様と矜持(きょうじ)を賭けて覇を競い淘汰を繰り返す国を挙げての生存競争じみた時代に、目先の現実しか見えず誇りもクソもあったものではない目と性根が腐った小娘ができることなぞ何もない。

 

 つまりそれぞれの時代とその在り方における前提条件からして狂っているというのに、それを無視して王道なんぞを語って述べられても困るということだ。今まさに飢え死にしかけている人間に、下手くそが描いた餅の絵を見せびらかすような真似をして何かの足しになると考える馬鹿はいない。

 

 それらをきっちりと筋道立てて説明できればよかったのやも知れぬが、話が合わないと感じたら説明も釈明も弁解も理解も放棄して無用の誤解と疵を拡げまくるという、目の腐ったセイバー顔がその生前において散々に自分を追い詰めた悪癖がここでも発露された。

 

 つまり、もう面倒くせぇやと問答を放棄して酒をかっ食らうことにしたのだ。どんな馬鹿や阿呆でも死ねば治るというのがいかに根拠なき迷信であるかという、これは一つの証左というべきであった。

 

   *

 

 白けたような顔で無言のままに杯を重ねるセイバー顔をどう思ったものか、デカブツがかさにかかって自説を畳み掛けるが、もはや誰も───少なくとも目の腐ったセイバー顔は───聞いちゃいない。

 それどころか目の腐ったセイバー顔、反論の代わりに酒樽から抜いた柄杓(ひしゃく)を勢いよく、熟練のツッコミ芸人も舌を巻く鮮やかさでもって閃かせデカブツの頭頂部に叩きつけたのである。

 

「人が黙ってりゃいい気になってクソ妄言しゃべくってんな酒が不味くなるだろが。屁にも似たような夢だか妄想だかを語るのは勝手だが、そんなもんに縁も興味もない他人を巻き込むなっちゅーんじゃ」

 

 一気呵成に言い切り、目の腐ったセイバー顔は呆気にとられるデカブツの手から酒盃をふんだくり、それを“ぐい”と思い切りよく干した。唐突な暴挙にデカブツとマスターのガキはおろか傲岸不遜を絵に描いたがごとき金ピカまでもが目を丸くする。

 

「おとなしく聞いてりゃ笑かすんじゃねーよ自分でどう思ってたのか知らんけど私に言わせりゃおまえらなんざ生まれてからくたばる間際まで乳母日傘のヌルゲー人生キメまくってたボンでしかねーそんなんに人生とやかく言われる筋合いはねえこちとら生前は常時難易度はInsaneやシバムラティックバランスしか選べなかった死ぬまでクソゲーだっつーんじゃあそんな女にケチつけたきゃ信長の野望を沖ノ鳥島スタートで地球統一くらいやってからにしろや」

 

 つまみも用意しくさらん分際でよこのバーロー。心底からコケにしたような口調でデカブツのデカいデコを平手で“ぺちん”とはたく目の腐ったセイバー顔であった。

 

 目が腐っててセイバー顔してるやつに川澄ボイスで、しかも句読点すら省いて罵倒の末にバーロー呼ばわりされるとハラワタが煮えくり返るほどムカつくもので、さしものデカブツも堪忍袋の緒が切れた。そういえば生前はどこかの何かの紐をブチ切った逸話持ちだけに、そりゃもうキレの良いキレっぷりだった。

 

 何だとこの野郎もといこのアマと、胸ぐらつかむデカブツだったが今回ばかりは相手が悪すぎる。なにせ古今に比類なきクソゲー人生を、あの手この手で10年近くに渡りプレイしてきたクソゲー王だ。

 

 正攻法なんざ犬も食いやしねぇとばかりに、目の腐ったセイバー顔は残りの酒を口に含み約束された勝利の毒霧攻撃をかまし、思いもよらぬ攻撃に怯んだところで約束された勝利の地獄突き、約束された勝利のヘッドバット、約束された勝利のビール瓶、約束された勝利の栓抜きのゲスコンボをお見舞いする。こいつ本当はアブドーラ・ザ・ブッチャーの英霊じゃねえのか。

 

 無論、デカブツとてやられっぱなしというわけではなかったのだが、王様としての格には月とスッポン鯨と泥鰌ドラクエと星をみるひとほどの差があろうとも一介の戦士、あるいはクソゲープレイヤーとしての腕前やらサーヴァントとしてのスペックは誠に遺憾ながらこの目の腐ったセイバー顔のが大幅に勝るのだ。

 

 聖杯問答あらため約束された勝利の時間無制限流血場外乱闘一本勝負になだれ込み伝家の宝刀、約束された勝利のシャイニングウィザードが唸りを上げる。剣の英霊なのにウィザードとはこれいかに。

 決まり手として炸裂するのは約束された勝利の投げっぱなしジャーマンだ。ブリテン英霊なのにジャーマンとはこれいかに。

 

 デカブツを投げ飛ばしたついでに金ピカも巻き添えにしてしまったが(よくよく思い出してみりゃぶん殴ったり蹴っ飛ばしたりビール瓶で頭カチ割ったりもしてた)、もう面倒くさいし気のせいだということにして目の腐ったセイバー顔は脇目も振らずにずらかることにした。これ以上このアホどもと話なんかしてられない、他所で飲み直しだ。

 

 しかし行きがけの駄賃で飲み残した酒瓶一式をかっぱらったのがまずかったのか、背後から金ピカの罵声と一緒に攻撃が飛んでくる。贅を極め尽くした云々ぬかすならこれくらい見逃せ。存外セコいやつだな。

 

 幸い逃げようとした先に変な仮面被った変なのが山ほどうろついていたので、目についた端からとっ捕まえて約束された勝利の南斗英霊砲弾にして難を逃れた。誰だか知らんがありがとう、仮面の変なやつ。

 

   *

 

 一夜明け、ちょっぱった酒で月見酒と洒落込み朝帰りしたら、なんか切嗣の助手がプンスコおかんむりだった。なんか切嗣のカミさんが体調不良こじらせてぶっ倒れ寝込んでるんだとさ。

 

 そういや今の今まで存在すら忘れてた、すまんね。




 登場クソゲー

セイバー顔

 目が腐っててCV川澄でセイバー顔したグレート・カブキの英霊 

仮面被った変なの

 ワゴンの中みたいにいっぱいいる 当然だがクソゲーも混じってる
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