アルトリア・ペンドラゴンの人生はクソゲー   作:puripoti

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第8話 浜の真砂は尽きるとも世にクソゲーの種は尽きまじ

 人々が望むと望まざるとに関わらず、世の時勢は刻一刻、留まるところを知らずに流れゆく。

 それは例えば〈聖杯戦争〉の推移であったり、それに関わる有象無象の悲喜こもごもでもあったりも同じこと。

 

 いわんやクソゲー共、その(くびき)より逃れられること(あた)わず。

 今日も今日とて世に蠢くクソゲーがスタートボタンに手をかけて、ある者は口にしこたま詰め込んだ苦虫を噛み潰す羽目になり、またある者は退くも進むも出来やせん袋小路に迷い込む。

 

 余人が知ればそんなもんを命を張ってまでプレイするとか、お前ら全員、正味の阿呆かと呆れるような話でも当の本人達にとっちゃ切実極まるなんてのは、ところ変われど時が代われどいっかなまったく変わりなく。

 

 いっそ電源ボタンを一押しするなり別のゲームに乗り換えるなりすればよいものを、購入の際にかけた手間暇やら今までのプレイ時間を無駄にしたくないとかいう未練やらで惰性のごときプレイングに明け暮れるのだ。

 

 諦めたら試合終了というのはスポーツちょっといい話ではあるけれど、快適なゲームライフの追求なり人生なりを充実させようと思うなら、多少の痛い目に遭ってでも早めの損切り(さっさと諦め)を心がけるのが基本である。

 

 

 

 

 

 

 もっとも、それが出来ない連中だからこそいつまで経ってもクソゲーと縁を切れずにいるし、頼まれてもいない難儀やらんでもいい苦労を積み重ねた挙げ句に不毛極まる滑稽(こっけい)悲劇の主役を張る羽目にもなるのだが。

 

   *

 

 なんぞ実になったんだかなってないんだか、よく判らない聖杯問答───の名を借りた、約束された勝利の残虐ファイト一本勝負の夜から丸一日が経過した。

 

 目の腐ったセイバー顔が問答の場から辞去した際における尊い犠牲(約束された勝利のバリアー&迎撃ミサイル)となった変な仮面を被った変な連中、どうやらあいつらアサシンのサーヴァントであったらしく、これでめでたく半数のサーヴァントが脱落と相成ったわけであり、聖杯戦争もいよいよ佳境に入ったようである。

 

 ついでとばかりに切嗣のカミさんの容態もなんかヤバいようである。昨日まではちょいとした体調不良程度だったのが、今や満足に身体も動かせないくらいに悪化している、らしい。

 “らしい”という曖昧(あいまい)な表現になったのは、カミさんがぶっ倒れている原因というやつが、どうやら並の体調不良だとか病気をこじらせたとか程度の真っ当なものではなさそうだというのが理由であった。

 

 マスターの身内ということもあり、セイバー顔も一応は義理立て程度に考えて見舞いに行ったのだが、そのときチラ見したカミさんの容態は不思議なことに、生命力こそか細い糸のようなものであるくせになぜか魔力は身体の衰えに反比例するがごとく今にも溢れんばかりという異様さだった。

 

 これは一体、いかなることか。助手から連絡が行ったらしく、血相変えて駆けつけてきた切嗣や変える血相もありゃしない当のカミさん本人に尋ねても、はぐらかされるばかりで答えは得られずじまい。心配をさせまいと云う気遣いからではなく、余計なことを考えさせないためであろうことは明白だったので、特に追求することもなくセイバー顔は形ばかりの慰労の言葉を置き捨てて引き下がった。そして自室に戻る道すがら、暇つぶし程度に余計なことを考えた。

 

 ───冬木の地を訪れるまでは問題もなく“ぴんしゃん”していたのが、〈聖杯戦争〉の推移と同じくして“おかしく”なった。もしや切嗣の女房がああなったのはこの戦争ごっことなにがしか関係があるのではなかろうか

 

 いつもの直感スキル(笑)による何の根拠もない考えではあるが、それほど的を外していないと思われた。

 だがこの考えが正しいとなれば、自分を含めたすべてのサーヴァントが始末されたとき、カミさんどうなってしまうのだろうか。

 

 どのような有り様になってしまうのかは想像もつかないが、少なくとも『人』としての真っ当な形、つまりは『切嗣のカミさんとしての形』は保てぬであろうことは避けられまい。なんせ道半ばの今でさえ、もはや半身不随も同然の状態なのだ。下手をすれば人の形を捨てた魔力の塊のようなものに成り果てても───

 

 “はた”と思い付き、目の腐ったセイバー顔は立ち止まる。自分が今、何かの端緒(たんしょ)となるようなものに辿り着いた気がしたのだ。

 

 そして気がしたからといっても別にどうでもよかったので、とっとと忘れることにして歩き出す。そんなことより優先するべきことがある。

 

   *

 

「おい、ちょっと待て」

 

 カミさんへの最期の見舞い(誤字にあらず)、ついでに今後の戦いに必要な諸々を済ませ、さながら夜逃げよろしく城を立ち去ろうとした切嗣は車を停めてあるガレージへ向かう廊下の途中にて予期せぬ声をかけられ立ち止まった。

 

 声の主は言わずと知れた人の心がわからないサーヴァント。どうやら先と同じく切嗣が人知れず抜け出そうとしたのを見越して待ち構えていたらしい。

 ただでさえツラを合わせて気分のよろしくない相手な上に、今は誰の顔も見たくない気分だった切嗣は、眉根をそれと判らぬ程度の角度でしかめさせただけでいつものように無視することにしたが、

 

「お前の女房、このままだと消えちまうんだろ───傍で看取ってやらんでいいのか」

 

 およそデリカシーというものを母の胎内に置き忘れたがごとき一言へ物凄い目つきが返されるも、今更それくらいでは目の腐ったセイバー顔の顔面装甲を貫くどころか、かすり傷を負わせることもかなわない。恐れ入るどころかむしろ彼女は、この男にも人並み程度に情はあるんだなと妙な感心をすら抱いたものである。

 

「フムン。そんなツラができるなら、お前にもまだ見る目はありそうだ。なら、ここらで止めておいたがどうだ。過程も動機も褒められたものではないにせよ、今までお前はよくやったよ」

 

 苦労に耐えてよく頑張った、感動した。表情筋を微動だにせぬまま言い放つセイバー顔。ひょっとしたらこいつ、それで褒めてるつもりなのだろうか。なんの情動も感じさせない顔と口調で言われても、喧嘩を売られてるようにしか思えやしねえ。こいつはどこまでも人の心がわからない奴なんだなと、切嗣は今更ながらに思い知らずにはいられない。

 

「今からでも遅くはなかろう、こんなバカ騒ぎなんぞ放っぽらかして女房と娘を連れて逃げ出せ───何なら私も手伝ってやらんでもない───そちらにとっても、悪い話ではないと思うが、どうだ」

 

 どうだ、じゃねぇよ。常日頃の無表情をかなぐり捨て、顔面一杯にしかめっ面をこさえた切嗣は内心で罵声を浴びせた。この期に及んでなお、口を利かないというのはいっそ大したもんではある。

 

 眼前の人の心がわからない目の腐ったサーヴァントが一体、どこまで本気でぬかしてるのかは知らないが、それができるなら切嗣だって苦労はしない。否、本心を口にできるのならば切嗣だってそうしたいのは山々だ。しかし今の今まで自分が切り捨て、見殺しにしてきた総てに“けじめ”もつけぬまま、自分だけが安楽な道を行くことがいまさら許されるものか。世界の誰が許そうとも、他ならぬ衛宮切嗣だけはそれを許せない。

 

 なればこそ、己が心を圧し殺し今またまさに、愛しい者をも切り捨て永年の悲願を果たさんとしているというのに、その決意の重みすら理解できないようなのが何を知ったような口を叩きやがるか。

 

「知ったような、というより知っているというのが正しい。この手のウマい与太話には大抵の場合、ロクなオチが用意されとらんのよ」

 

 かくいう私も生前にアホほど積み重ねたクチでな。自嘲気味に付け加え、セイバー顔は続ける。

 

「まさかに貴様、この期に及んでなお自分にハッピーエンドが用意されてるなんぞというサッカリン漬けの砂糖菓子みたいな甘ちょろけたことを考えとるんじゃなかろうな。どこまで行こうが貴様なんぞは度し難いクソゲーでしかなく、そんなのが───」

「黙れ」

 

 短く、しかし有無を言わせぬ怒気を孕んだ声に(さえぎ)られ、セイバー顔は沈黙した。と云っても別に、切嗣の鬼気迫る剣幕に気圧されたとか恐れをなしたとかではない。

 人の心がわからないセイバー顔の腐った目ン玉は口ほどに物を言っていた。その目に曰く、

 

 

 

 

    ───つくづくお前は、手の施しようがない阿呆だな───

 

 

 

 

 怒気を向けた相手に憐れみさえこもった視線(しかも腐っている)を返されると、さしもの切嗣とて感情のやり場に困るもので、結局それ以上は何も言えぬまま彼はセイバー顔に背を向けてガレージへと向かった。それを白けたような面持ちで見送りつつ、セイバー顔はダメ押しの一言を放り投げた。

 

「とはいえ、お前ならそのようにするとも思っていた。判りきった無駄足とはいえど、これもまた従僕(サーヴァント)としてのささやかな責務というやつではある───宗旨変(しゅうしが)えは早めにな」

 

   *

 

 苛立ちを隠さずに立ち去る切嗣と別れたセイバー顔は、あてがわれた自室へと引きこもり、でかいテレビの前に腰を下ろしてゲーム機の電源を入れた。

 

 陽の差し込まぬ暗い室内でクソダサジャージに身を包んだセイバー顔が腐った目でゲームに興じるその姿は、歴史に燦然(さんぜん)と名を刻む英傑英霊というより典型的ダメ人間の肖像以外の何物でもない。

 目の腐ったセイバー顔の、これまた腐った性根を搭載した脳内からは既に切嗣のカミさんのことなぞ“すぽり”と消えて無くなっていた。持ち前の不人情もさることながら、考えても仕方ないなら忘れて面白いことをしてたがなんぼかマシという割り切りゆえである。

 

 血なまぐさいコロがし合いの渦中にいると微塵も感じさせぬ、呆けたような面持ちでコントローラーを手にゲームに没頭するセイバー顔は、面付きに相応しい“うすぼんやり”とした気分で今後の身の振り方について思いを巡らす。

 

 ───ありゃあ長いことはあるまい

 

 それが彼女の、マスターへの見立てである。どのような末路を迎えるのか知ったことでもなけりゃ興味もないが、戦の勝敗如何に関わらず衛宮切嗣という男はこの戦争とやらで潰えるのだろう。

 

 単純に、戦いに負けて死ぬというのではない。それを言うならあの男はすでに生きながらにして死に体も同然だ。とっくに死んで然るべきなのが、なにを迷うたのか洗濯物の油汚れよろしく現世にこびりついている。

 

 ごくたまにだがいるのだ、ああいう奴が。死に時、死に場所を誤ったがゆえに“死ぬこともできなくなった”ようなのが。

 

 せめて間違いを自覚して、とっとと首でも(くく)れば楽になるというのに、一文の値もつかぬ“しがらみ”だの義理だのに雁字搦(がんじがら)めとなって死ぬまで死ねぬ。

 しかも本人の自覚はさておき周りはそいつが垂れ流す《死》の気配を察知するからなおさら世俗とは関われぬというのに、どういうわけか妙な形で世界と関わりたがるものだから、その“ずれ”とでも云うべきものが世界との軋轢となって、ときにひどい悲劇すらも引き起こす。例えば、今まさにあの阿呆が己の命より大事とうそぶく家族にしでかしてる仕打ちがそれだ。

 

 つまるところ衛宮切嗣は生きている限り人のためと世のための害悪以上にはなりえず、さっさとくたばる以外に世のため人のためとはなれぬのだ(本人も無意識下の自覚はあるのかも知れないが)。

 

 叶える願いもありゃしない身としてはこの先いかなる趨勢(すうせい)を迎えようと微塵の興味もないが、世界に対して死を撒き散らすことでしか関われない『衛宮切嗣』という存在に関しては、ここであらためて死に直したがいっそ慈悲であろうと考えていた。自らトドメなり介錯なりをしてやらないのは、マスターとかサーヴァントとか云うしがらみ以前に彼奴めにくたばられると今遊んでいるゲームが続けられないからという、どこまでもしょうもない理由でしかない。

 

 なによりも、ここだけの話だが目の腐ったセイバー顔は自分が最後まで勝ち残るなどと露ほどにも思っていなかったりする。

 

 無論、彼女は敗北に美学を見出すタイプでもなければ、負け戦こそいくさの華よなどという傾いた考えをしているわけでもないので、やるからには手段のいかんを問わずに勝ちに行くつもりではある。つもりではあるのだが、“つもり”で勝てるなら誰も苦労はしない。皆、勝ちたいのは同じで、そして仮にも戦争ならばどんな大番狂わせが起こっても不思議ではないのだから。

 

 それらをさておきなんとか勝ち残れたにしても、それで良い結果を残せるとはどうしても思えない。いつものセイバー的直感もさることながら、自らの出自も含めた経験からそのように考えざるをえぬ。

 

 なにせ英霊というやつは自らの逸話に大きく縛られる。

 戦い続け勝ち続け───最後の最期でしくじり果てた間抜けの末路なぞ知れたもの。いわんや今回の戦争とやらはどうか。

 

 ───数多の人間に都合、幾百年もの時間をドブに捨てさせてなお願いの一つすら叶えられん万能(笑)の願望器に、殺し屋が血で血を洗う闘争の対価として世界平和を願うとな

 

 冗談にしては出来が悪すぎて、真面目に語るとするなら馬鹿馬鹿しすぎる。

 

 一体全体、脳ミソのどこらへんに重篤(じゅうとく)な支障をきたせば、これほど杜撰(ずさん)な組み合わせであれほど崇高壮大(すうこうそうだい)な願いが叶うなどと考えるようになるのだろうか。これは目の腐ったセイバー顔の、目が死んでるマスターだけの話ではない、この戦争に関わるどいつもこいつもにそれは当てはまった。

 

 そも字面からして“なんもかも”がおかしいのがアホでも判りそうなもんだというに、その矛盾から目を背けてさらなる血を流したその末に何が得られるというのか。それ以上に自分も自分で、なにが悲しゅうてかくも明らかなクソゲーに死してなお巻き込まれにゃならんのか。

 

 魔道は魔道を呼び寄せて、クソゲーはクソゲーを引き寄せる。死んで縁が切れたと思ったのに、現世のクソゲーに導かれるまま新たなクソゲーをプレイさせられる羽目になるとは、ひどい因果があったものだ。

 ひょっとしたら自分は死後の世界に囚われたままで、今はクソゲー地獄とかいうのでも巡らされているのやもしれぬとさえセイバー顔は疑っていた。

 

 ───ああ、一度でいいからやり応えと満足感に溢れた良ゲーのプレイヤーになりたいだけの人生だった

 

 具体的には手強いシミュレーション的なやつとかいいな。いっそのことそれを聖杯とかいうブツにかける願いにしてやろうかとも考えたが、その対価としてさらなるクソゲープレイに明け暮れるでは釣り合わぬこと甚だしい。やっぱ今のはナシということでひとつ。

 

 益体(やくたい)もないことを考えながらも、コントローラーを握るセイバー顔の手は止まらない。

 いつ死ぬかも判らぬのなら今生の未練は断ち切っておきたい。あのくたばり損ないのマスターにしても、せめて今遊んでいるゲームをクリアーするまでは生きててもらいたいもんなのだが。

 

 だがそれも、いずれ叶わぬ願いのような気がしてならない。




 今日のクソゲー

 目の腐ったセイバー顔

 適合職はロードどころかナイト系すら選べそうもない

 衛宮切嗣

 しかし活躍の場がないね これもまたクソゲーにはよくある話だが
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