アルトリア・ペンドラゴンの人生はクソゲー 作:puripoti
ある意味において
例えばここに、十中における八ないし九の人々がクソと断じるゲームがあったとする。客観的に鑑みてそれは紛うことなきクソゲー以外の何物でもなく、大枚はたいてそんなもんを手にしあまつさえプレイに勤しむがごときは不幸以外の何者でもなかろう。
しかしてプレイヤーがそこに何がしかの楽しみを見出し、己が不幸を知ることなく満足のうちにプレイを終わらせることが出来たのならば、それは(あくまでもそのプレイヤーにとっての)良ゲーと云っても差し支えはないのではなかろうか。
無論、それ以外の人々にとっての評価は変わらずであるには相違ないが、自らがプレイしてるのがクソゲーであると気付きもしないという主観的幸福者にわざわざそれを指摘するのは野暮、もしくは大きなお世話の骨頂と云うべきものであり、これは厳に慎まれるべきである。つまりは誰の得にもならぬという意味で。
とはいえ大抵の場合においては、プレイの最中で己と他者の有り様を見比べて自身がクソゲーのプレイヤーであったと悟るもので、大方の連中は駄ゲー掴まされた事実を受け入れ別ゲー探しに血道を上げるもんではある。無駄な努力が実るかどうかまではしらないが。
だがいつの時代、いかなる場合にも例外というのはあるもので、その中でもある者は己の失敗を認めることもできず現実逃避にも等しいクソゲープレイに固執し、またある者はやけくそ混じりの意固地になって最期までプレイに勤しみ、そしてまたある者はすべてを諦めた惰性的プレイヤーとなって繰り言泣き言恨み言をこぼしながらのプレイに明け暮れたりするのだ。
なお別のある者は奇特なことに、自分も含めたプレイヤー連中の七転八倒さえ
……困ったことに、これら駄プレイヤー共においてはいつでも別のゲームに乗り換えることも可能であったにも関わらず、自ら進んで先に並べた自縄自縛のクソゲープレイに邁進するとかいう不毛極まったプレイングにどハマりする輩が妙に多く、そのような連中にはどのような説得忠告も無駄に終わるので翻意のさせようもないという現実もまた存在している。
そしてどのような理屈か因果かは知らぬが、こうした連中ほど断腸の思いで乗り換えた先が新たなクソゲーという悲劇をかこつ羽目になるもので、それを考えれば消極的現状維持の手段としてのクソゲープレイというのは、存外に真っ当な選択肢であるようにも思えなくもなかったりする。
……………。
無論、気休めにもならぬ妄言なのだが。
*
カミさんと今生の別れを終えた切嗣が姿をくらましてから2日ほどが経過した。
その間にちっとは情勢も変わるかとささやかな期待をしたのだが、結局のところ何が起こるでも変わるでもなく、カミさんの容態も相変わらず悪いばかり。
お陰様でゲームの攻略ははかどったが、肝心の聖杯戦争の攻略が遅々として進まないでは本末転倒もいいところである。セイバー顔にとってはどうでもよく知ったことでもなかったが。
事ここに至るともうしてやれることもないということで、セイバー顔はねぐらの城に切嗣のカミさん放置して街に出かけ、探索に精を出すという体で遊び回ることにした。人として最低限度の情すらも投げ捨てた人非人の所業といえる。サーヴァントだから人間でないのは間違いないけれど。
冬木の街に到着したセイバー顔は、目についた定食屋で腹ごしらえを済ませてから先日も遊んだゲーセンへと向かった。厨房から米が無くなるほどの注文を受けて感激したのだろうか、茹でたタコみたいな顔色になった店のオヤジは退店の際に軒先で塩をまくという一風変わったサービスをしてくれた。
腹も膨れて良い気分で向かった先のゲーセンでは思いもよらぬ姿があった。
「む? 誰かと思えば貴様か。斬った張ったの為に招かれておきながら、務めも果たさず遊び呆けるとはよい身分であるな」
自分のことはとことんお高い棚の上に放り投げた物言いの主は、最新作のレースゲームの
筐体の脇にはプライズゲームの景品だろうか、大小様々なブツが鎮座ましましている。お前もお前で、この浮世をそれなりに愉しんでるみたいだな。皮肉も交えたセイバー顔の指摘に、金ピカは鼻で笑うことで返した。
「ハ───やはり雑種の目よな。見渡さばどこもかしこも偽物ばかりが
セイバー顔が腐った視線をさらに動かすと、プラモデルやラジコンの箱を詰めた大きな紙袋に行き着いた。種類は自動車に軍艦・飛行機と様々だが、それぞれのジャンルの一番お高いやつであるらしいのは共通している。お前、やっぱし現世が楽しいんじゃないのか。
「ちょっとした
憎まれ口こそ叩いてはいるが、紙袋の中には初心者向け模型入門書やらゲーム雑誌に攻略本やら突っ込まれているのをセイバー顔の腐った目は見逃さない。しかしそこら辺をあえて見て見ぬふりをする情が、この目が腐ってて人の心がわからないセイバー顔にも存在していた。面倒くさいことになりそうだったし、それ以上にこいつと話したいこともないからだが。
不毛な追求をやめて
「待てい、何処へ行くつもりだ」
「どこって……やりたいゲームのとこに決まっとろーが」
「なれば先ず、我への接待を済ませてからにするのが筋であろうがよ」
……これって私が悪い流れなのか?
どうしたもんかと
「それでなくとも我の酒を盗みよったのを忘れてはおらんぞ。いまさら返せなどとは言わんが、せめても酒代として相手くらいせんか」
それを出されるともはや何も言えぬ。観念したセイバー顔は黙って金ピカの隣の筐体に腰を下ろしコインを投入した。
*
「フハハハ、いじらしくも健闘したようだが所詮は雑種の足掻きよ! やはり王の王たる我の足元はおろか影すら踏み得ぬなあ!」
「ああ、そうかい」
対戦が一段落し、金ピカは筐体のシートにふんぞり返って呵々大笑した。対象的にセイバー顔は子泣きじじいを背負ってフルマラソンでもさせられたような有り様で突っ伏していた。
ぱっと見ではセイバー顔が一方的なボロ負けをしたようであるが、実際のところは溢れる財にモノを言わせた無限コンティニューによる金満米帝プレイを前に轟沈したというのが真相である。
なにせこの金ピカときたら何度ブッちぎりにされようが絶対に負けを認めず、しかも面倒くさくなったセイバー顔がわざと負けて終わらせようとしたら「貴様ー! この我を
結局、対戦はだらだらと長引き、時代劇に出てくる悪い高利貸しからの借金よろしく雪だるま式に増えていく精神的疲労により、ついに集中力を途切れさせたセイバー顔が操作をミスって勝敗は決した。敗北の屈辱も解放の喜びもクソもない、真っ白に燃え尽きて消し炭すらも残りゃしねえような気分であった。
心底から嫌気が差したツラへ小馬鹿にしたように金ピカが鼻を鳴らした。
「フフン、どうやら貴様も我が威光の前に完敗を悟ったようであるな」
───お前がそう思うんならそうなんだろうお前ん中ではな
そのように口に出して言えればどれほどよいことか。
しかし言ったらまた勝負をふっかけられそうなので黙っていることにする。人の心もそれを理解することもついでに空気を読む能力もない女だが、保身の心得までないわけではないのだ。
「おい、いつまでそうやって項垂れておるか。さっさと次の勝負にするぞ」
「……すまんけどな、生前に矢を受けた膝が痛みだしたんで今日はもう帰りたいんだよ」
つーわけで今日はこれでお開きだ、じゃあな。短く言い捨てたセイバー顔は右手を投げやりに振りつつ踵を返した。
「ぬぅ、王の誘いを無下にするとはいっそ見事なまでに不敬不遜な
つまらなそうに返す金ピカが顎をしゃくった先では、どこかで見たようなドス黒い陽炎のようなものが立ち上っていた。
この無駄に凝った登場エフェクトは埠頭でボコ殴りにしたなんかへんなバーサーカー的なんかのやつだ。次から次へと巻き起こる消沈イベントに、セイバー顔はため息を禁じ得ない。
───あーあ、こんなことならねぐらに引きこもってゲームしてりゃよかった
後悔したところで後の祭りである。心底イヤそうな視線の先では
ええい、しかたなし。腹を括ったセイバー顔はニチアサの変身ヒーローにも引けをとらぬ速さでいつもの鎧に装束変えを済ませた。
*
不可視の得物を携え、相手の出方を伺うセイバー顔だが、ここで妙なことが起こった。
相手は理性もへったくれもない
そんな二匹の立ちん坊を交互に見やり、金ピカが後方腕組みで「あーそういうことね完全に理解した」と言わんばかりに頷いてみせた。
無駄に秀麗な面にはどれほど勘働きの鈍いものにさえそれと判るほど底意地の悪い笑みが浮かんでいた。
「埠頭の一件でさてはと思ったが───やはりかの気狂い犬めは貴様にこそ
「あー? 笑えん冗談はせめて寝てから言え」
「ひょっとしたらお前の知り合いかもとは思わんのか。そもそも埠頭んときじゃあいつ、他には目もくれずにお前をガン見してたろ」
「我の知るべなぞ後にも先にも
我が寛容なる王であったからよかったものの、さもなくばその放言に死をもて謝する羽目になっていたぞ? 冗談めかしてこそいたが目がこれっぽちも笑っていなかった。傲岸不遜傍若無人天上天下唯我独尊が人の形をしたようなコイツにも、土足で踏んづけてほしくない聖域なり地雷なりはあるってことか。
「まあよいさ───それはさておくにせよ、先の戦いで貴様が為した彼奴めにやらかした振る舞い思い出せ。アレはどう見ても抑えきれぬ私情怨恨ゆえのものであったな?」
貴様の粗末な頭蓋の中身が忘れようとも、魂に焼き付いた
こいつ、現世に何の関心も湧かないとぬかしておきながら、人の細かいところはよく観察しやがる。弓兵だけあって目の良さは折り紙付きってことなのだろうか。
「箸にも棒にもかからぬ木っ端とは云え貴様も英霊の端くれ。身に憶えがあろうとなかろうと、なにがしかの形で恨みを抱えずにはおられぬさ。そこな浅ましき畜生こそは、そうやって“おのれ”が生前に積み重ね、死に際で捨て置いた罪科の写し身よ」
なれば───ここで禊いでおくも、悪い話ではあるまい? 口調こそ諭すようなものではあったが、相対する両者への
「───Ah…ArrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrThurrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!」
獣の叫びは、間違えようもなく“アーサー”と聞こえた。
今回の(も)クソゲー
目の腐ったセイバー顔