廃嫡皇子の帝国再建   作:あじたまんぼー

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後編です。正直無いように自信はありません。ですがこれからも頑張って書きます!


デモクラシーの行方(後編)

ーナイトレイド アジトー 

 クルスが、ナイトレイドのアジトに滞在して数日。判明したことがある。一つは、アジト内での暮らしは他の場所と何も変わらないということ。一つは、毎日のように暗殺を行っていないということ。現在は、ブラートと共に鍛錬を終え、一人でアジトを散策している所である。

 

「にしても、ナイトレイドに入るつもりもないのに。なんでこんな自由にしてくれるんんだ?」

 

 と、思いながら、数日前のことを思い返していた。

 

 クルスがナイトレイドのアジトに入った日。彼は仮面を外して、クルスとだけ名乗った。そして同時にこう言った。「ナイトレイドに入る気は無い。ただ、この腐りきった帝国を具体的にどう糺す気でいるのか。お前たちが進む道の果てはどんなものなのか。それは知りたい。」と。ナイトレイドの面々はどう解釈をしたのかは不明であるが、少なくともボスと話すまでは保留という扱いらしく、時々勧誘はされるが基本的にはアジト内のルールに準じた自由を享受している。その点は問題が無いのだが、ロニー達に伝えた帰還の刻限は過ぎるのは明白であった。念のためランサーを中継してアサシンに報告は入れているため、比較的自由に行動が出来ているはずだ。

 

「帰ったら色々と言われそうだなー…お?」

 

 クルスは、そうため息をつきながら歩いていると、窓越しの空を見上げて上の空の少年がいた。

 

「随分と上の空だな、タツミ君。」

 

 そう、声をかけると、気が付いたようにタツミは振り向いた。

 

「クルスさん」

「あれだろ?ナイトレイドに入るのかを悩んでるんだろ?」

「クルスさんは…」

「呼び捨てで構わん。」

「…クルスは、決まってるのか?」

「俺か?入らねーよ。俺はやらなきゃいけないことがある。暗殺にかまける暇はない。」

「ならどうして…」

「俺はただ、ボスとやらに聞きたいだけさ。この国を具体的にどう直すのか。直す時に国をどう安定させるか。現皇帝の処遇をどうするのか、とか諸々。その回答次第では考えを改めるかもしれないがな。」

 

 クルスは、青空を見上げながら、そう自分に言い聞かせるように言った。そうして二人で空を眺めていると、後ろから金髪の女性、レオーネが飛びついて、

 

「お二人さーん!ボスが帰ってきたからついてきてー!」

 

 と、元気な声をかけた。

 

ー同日 帝国東方 コルネウスー

 

 つい二週間前までは東方の難攻不落の要塞都市コルネウスは、戦争の最前線であった。バーネット公国は、このコルネウスを拠点として屈強な要塞線による徹底防御によって、帝国の兵を何十年をも凌いで見せた。帝国は、何十年も決着をつけられなかった戦争に終止符を打つべく、白狼騎士団を派遣。他の帝国軍の部隊には無かった、卓越した規律と綿密に練られた戦略によってコルネウスでは兵站を断たれてしまい、それに帝国最強格のシロンの攻撃も重なったことで、わずか15日でコルネウスは陥落。同日にバーネットは降伏した。普通であれば、この後にバーネットの土地は帝国の物となり、現地住民も奴隷として売却される。この時代の戦後処理とはそんなものであるが、ここで話が終わらなかった。

 講和の際に中央政府から外交官が派遣されなかったのだ。シロン曰く、戦争の後始末は騎士団が請け負うことを条件に派遣されたようで、バーネットは帝国の領土にはなったが、帝都や他の都市から人が流入、流出は起きていない。それどころか、騎士団の兵士総出でコルネウスの復興に尽力をしている。その甲斐もあり、バーネット領内が不要に荒らされることはなったが、この善行に感謝をしつつも疑ってしまうことが多かった。

 

「城壁の改修は今週中に終わる、焦土作戦で寸断された物資ルートの整備も明日には完了をする。後は、あの件だけど…」

 

 コルネウスの執務室で書類に目を通しながら、欠伸をしている銀髪の青年、ディグリーは、帝都に出立をするジュンに頼まれていた仕事の手順を確認をしていた。

 

「…団長は一体何を考えてるんだ?コルネウスでの再軍備って。革命軍対策にしてはやりすぎだろうなー。騎士団と同じ『下級臣具』の標準装備って。クレ工廠で量産してるって話だけど…」

 

 団長、シロンが秘密裏に推進している、コルネウスでの再軍備計画。大仰な名前をしているが徴兵ではなく募兵という形式でコルネウスでの兵士を集めているのだ。そして装備も並の帝国兵よりも上質な物を提供をする。バーネット、ひいてはコルネウスの中継貿易拠点としての価値や、自然が生みだした要害ということもあり、防衛拠点として大事な所である。それ故に帝国はこの土地を欲して何十年も無駄な命の浪費をしていたのだ。そして、シロン率いる白狼騎士団が介入することでようやく手に入れた土地である。

 戦争が終わった矢先に水面下で始まった再軍備。これは、コルネウスの復興事業とセットで動いている。団長のシロンは「帝国を脅かす敵に備えて」と言っているが、現時点ではその敵の正体が分かっていない。正確には、シロン本人も確信を持てていないのである。その敵は革命軍よりも、帝国軍の総戦力よりも強大だそうだ。

 

「まぁ、この疑問は、時が解決してくれるっしょ。団長も何かと抱えている家系だし、秘密は今に始まったことじゃないし。」

 

 ディグリー含めて、騎士団の面々はシロンが頭領をしているゼッケンドルフの秘密については気にはなっているが、先代のセルマンから恩義を感じている者が多いこともあり、追及しようとはしない。何よりシロンもその秘密に振り回される節があるため追及しようにもできないのが現状である。そんな団長を信用できる所が、ゼッケンドルフが国に対して多くの貢献をしている事と、セルマンとシロンに人徳とカリスマ性によるところだろう。いずれにしろ、この再軍備は、考えうる最悪な事態に対する備えであることには変わりない。

 

「…さて、続きをしますか。」

 

 軽く息をついた後に、ディグリーは仕事を再開した。

 

ーナイトレイド アジトー

 

 タツミとクルスは、レオーネに連れられて広い部屋に入った。そこには他のメンバーも揃っており、彼らの前には黒ずくめの眼帯の女性が座っている。

 

「お前たちが、レオーネが言っていた新入りの…タツミとクルスだな?」

「いや!俺はまだ決めたわけじゃ…」

「右に同じだが、俺は入るつもりはない。入ってほしければ口説き落としてみろ。」

 

 タツミはいい淀みながらも返し、クルスは完全拒否の姿勢を見せた。女性はため息をつきながら口を開く。

 

「なるほどな。ナジェンダだ。ナイトレイドのボスをやっている。話は少し聞いているが、もう一度おさらいをしようか。」

 

 ナジェンダは、そうナイトレイドの面々に向けて確認を取った。

 

 おさらいと言っても、なんてことはない。タツミとクルス、両名の現在に至るまでの経緯をなぞるように確認したに過ぎない。タツミは、故郷の村を助けるためにサヨとイエヤスと共に、帝都で兵士になるべく上京したようだ。しかし、途中ではぐれてしまい、タツミは一人で帝都にたどり着く。寝床に困っていたところをアリアに声をかけられて泊まることになり、その後アリアの正体とサヨとイエヤスが拷問の末に殺されたことを知り、現在に至ると。

 ここでクルスは訂正したいところをなんとか堪えた。サヨとイエヤスは存命で、現在は快調に向かっている事を。しかし、本能的にそれはだめだと感じ取り言葉を飲み込んだ。クルスの来歴に関しては、目的のために帝都に来たが、アリアに騙されて殺されそうになったところで逃亡に成功。顔が割れているため、口封じのために殺しに行ったら、偶然ナイトレイドが処理していた、と答えた。

 

「そうか。まぁ、大体の事情は納得はした。それでどうだ?二人共、ナイトレイドに加入する気は無いか?」

 

 ナジェンダが、義手の掌を向けて二人に問うたが、クルスは目線で「先にタツミに聞け」と訴え、そのタツミはまだ決心がついていないのか言い淀む。

 

「でも断ったりしたらあの世行きって聞いたぞ。」

「そんなことはしないさ。しかし、アジトを見られた以上は故郷に帰してやるわけにはいかないな。革命軍の本部にある工房で働いてもらうことになる。別に断った所で命を奪うような真似はしない。それを踏まえた上でそうする?」

 

 ナジェンダの鋭い目線がタツミに向けられる。すると、彼は、拳を握りしめてポツリと語りだした。

 

「俺は、帝都で稼いで故郷を少しでも助けたかったんだ。でも、帝都にきてみれば国を治めるはずの都市や人が腐りきっていた。」

「あぁ、中央のお偉いさん方が腐っているから、地方はどんどん貧困に喘ぐことになるんだ。だから俺たちはその根幹を取っ払おうとしているわけだ。」

(なるほどな。まるで日本みたいだ。いや、国民が現状を打破しようと行動をしている分、遥かにこちらの方がマシなのか?)

 

 彼の言葉に、言葉を告げるブラートの言葉に、クルスはかつて暮らしていた所を回顧してみた。今思えば、日本も現世に堕ちたディストピアだったが、武士道という美徳と牙を引き抜かれたやせ細った野良犬に仕立てられた国民が、何かを変えようとする気力も失っていた。ブラートに続いて、ナジェンダがそこで補足を入れた。

 

「ブラートは、元々は帝国の有能な軍人だ。しかし、帝国の腐敗を知って革命軍に入ったんだ。」

「だが、この前みたいに軍にも政治にも関係ない小悪党を狩っても効果は薄いんじゃないか?それこそ中枢には皇帝を誑かす連中がわんさかいるってのに……まさか、ナイトレイドの目的って…」

「クルスは大体察しはついたようだな。そうだ、ナイトレイドは、革命軍に所属している。だが、何も帝国とやりあうわけではない。」

 

 ナジェンダは、クルスの言葉に続くように説明を始めた。

 

 帝都の遥か南に革命軍が存在している。最初は小さな集団だったが、総大将ベルサルクの元に、彼の思想に賛同する者達が次々と集まり、次第にその勢力を拡大させて、結果として帝国軍に負けない程の大規模な反乱分子となった。大規模になれば、自ずと諜報、暗殺に特化した暗部組織が必要になる。そこで設立されたのがナイトレイドだ。

 今は、帝都のダニ退治をしているが、革命軍の決起と共に、その混乱の乗じて腐敗の根源である大臣を

 

「この手で討つ!」

「………」

「大臣を…!」

 

 ナジェンダの言葉に、ある程度察しがついていたクルスは黙って話を聞き、タツミは驚愕したように言葉をこぼす。彼女はそれに構わず革命軍の話を続ける。

 

「それが、我々の目的だ。他にもあるが、今は話す必要は無いだろう。決起の情報は詳しくは言えんが…勝つための策は用意してある。その時が来れば、確実にこの国は変わる。」

「なるほどな。」

「……その国は、ちゃんと民にも優しいんだろうな?」

「無論だ。」

 

 クルスは、一定の理解を示すように頷き、ナジェンダは、タツミの質問に即答した。

 

「スゲェ…!」

 

 ナイトレイドの目的を聞いたタツミは、関心するように声を上げた。

 

「じゃあ、今までの殺しも、悪い奴を狙ってゴミ掃除をしているだけで…『正義の殺し屋』じゃねぇか!!」

 

 ナイトレイドが掲げる志に感動してタツミは感嘆するが、彼の言葉を聞いたナイトレイドのメンバーは誰もが笑う。クルスはタツミの言葉を聞いてあきれるように大きなため息をついた。

 

「それは違うぞタツミ。俺達がやっていることは確かに聞こえは良いが、結局のところ殺しは殺しだ。そこに正義なんてものはない。」

「口封じのために殺そうとした俺が言うのもあれだが、殺しと戦いの場では事の善悪なんてものは存在しない。そこにあるのは『殺しがあった』という結果だけだ。殺しがある以上は、それは違法行為。ルール違反だ。タツミ、夢を見る前にこいつらの眼を見ろ。」

 

 ブラートの言葉に続くように、クルスはタツミに言葉をかける。彼らは、タツミに殺し屋として履き違えてはならない一線を教える。ナジェンダを含めた、ナイトレイド全員の瞳には深淵の闇が落ちており、酷く冷たい眼をしてた。この瞳こそ、闇の世界に魂を売った者達の眼。

 タツミは、その眼を見て生唾を飲み込んだが、ナジェンダが最後の問いを投げかける。

 

「ブラートの言う通り。ここにいる全員が相応の覚悟を持っている。それでも、お前の意見は変わらないか?」

「……あぁ、変わらないさ。それに報酬がもらえるんだったら、それを故郷に送って少しでも豊かにしてやりたい!」

「殺しの稼業を始めたら、大手を振って故郷に帰れなくなるかもしれないわよ?」

 

 マインが意地悪げに笑みを浮かべて言うものの、タツミはそれに即答するように答える。

 

「構わないさ。オレの力で村の皆が少しでも幸せになるならな。」

「……決まりだな。修羅の道へようこそ、タツミ」

 

 ナジェンダがそう言いつつ、彼に手を差し伸べた瞬間、ラバックの帝具、クローステールが巻かれる音が部屋に響く。

 

「ナジェンダさん、敵襲だ!」

「何人だ?」

「結界の中だと…合計で9人…いや、11人だ!全員がアジトまで来てます!」

「ここを嗅ぎ付けたとなると、異民族の傭兵あたりか。仕方あるまい…」

 

 ボスとして、アジトの危険を耳にしたナジェンダは煙草にライターで火をつけると、皆に向かって冷徹な声で告げた。

 

「ー全員生かして帰すな」

 

 その瞬間、その場の空気が一気に重くなり、各々の殺気が鋭くなった。

 

「全員散開。行け!」

 

 ボスの言葉を聞いて、全員が一気に駆け出し外へ向かう。侵入者を絶やすために部屋から出る。

 ナジェンダとクルスを除いては。

 

「そういえば、お前の答えを聞いていなかったな。タツミは決断したぞ。」

「言っただろ。与する気は無いと。しかし、その前に確認をしておきたい。」

「確認だと?」

「あんた達が信用に足る存在か。それを確かめさせてもらう。」

 

 クルスは、その場で座りながら、改めて話を始めた。

 

 

 ナイトレイドのメンバーが、侵入者の対処に向かっている中、クルスとナジェンダは鋭い目線を向け合っていた。

 

「ナイトレイドの目的はわかった。だが、肝心なところが抜けているな。」

「肝心なところだと?」

 

 クルスの問いかけに、ナジェンダは眉をひそめながら聞き返す。

 

「「民に優しい国」といったな。その目標は、大臣を殺すだけでどうにかなる事なのか?俺が知りたいのは革命を成し遂げた後に世界。具体的に、この国をどう立て直す気でいるんだ?その国を下支えをする行政の仕組みは?民主主義か?全体主義(ファシズム)か?共産主義(コミュニズム)か?いずれにしろ変わらない。帝政のままならそこまでの混乱は起きないが、どうもお前たちは帝政を壊したいらしい。それとも、帝政から変質してしまった摂政政治の仕組みを壊したいか?」

「なるほどな。先を見据えての確認か。それなら安心しろ。この国が変わる時が来れば、今の行政のシステムも再編する。革命が終われば、その国の行く末を決める強者はいらない。この国の権威に当たるものもだ。国のことは国民が決める。そうだ、お前の言った通りに民主主義だ。腐った役人共もこれで行政に口出しが出来なくなる。」

 

 ナジェンダは、クルスの問いに対してそう答えた。クルスはそこで止まらずに話を続ける。

 

「なら、皇室はどうする?」

「あれは帝国の象徴だ。廃止にする。」

「それはいただけないな。大きな改変を行う時に、この国の象徴を消そうとはな。民主主義は脆弱だ。よほどの強固な権力基盤が存在しなければ不安定な情勢が続く。その間に何度も戦争が起こるぞ。軍部のクーデター、民主主義から独裁政治に転換、もしかしたらまた革命がおこるかもな。象徴無しで運営を行いたいなら、大統領制を取るべきだ。まぁ、この大統領制も権力が集まりすぎて問題は発生するかもしれんがな。」

 

 クルスは、生前に学んだ内容を思い出しながらそう言った。フランスは革命を経て民主主義を勝ち取り、王家も断絶したが、その分招かれた混乱も大きかった。その混乱に乗じてナポレオンが行政を掌握して、皇帝となった。典型的な軍人政府の完成である。その後に起きたのがかの有名なナポレオン戦争。東奔西走しながらとめどなく進む侵略戦争だ。大統領制に関しては、独立戦争で独立を勝ち取ったアメリカ合衆国。戦争によって生まれたこの国は、最初から国民の支えとなる王も聖人もいなかった。アメリカとという広大な大地を統括するためには、どうしても強固な権力基盤が必要になった。そうして生まれたのが大統領制。国民によって支配者を決められるシステムである。こうしてアメリカは多種多様の人種を抱えながらも、世界の列強として名を馳せることになる。

 

「ならば、クルス。お前ならどうする?」

「決まっている。皇室は残す。その代わりに皇室が持っていた、国家を動かす力を民に返してもらう。以後、皇室はその国であると示す象徴として動いてもらう。象徴ならば、行政に介入することはできないし、行政から見れば、より効率的に国家の安定度を維持できる。」

 

 と、クルスは自分の考えを語った。ナジェンダはそれに少し考えてから口を開いた。

 

「なるほどな。確かに一理あるが、聞く限りだと「皇室に信頼がある」ことが前提の話だな。私としても安定が維持できればその方法でも良かったのだが、今回は難しいぞ。今の皇帝は、文字通り大臣の操り人形だ。罪を全て大臣に擦り付けて、無罪放免というのはできなくはないが、後々の火種になりかねん。ここまで考えを展開が出来るお前ならそれに気づかないわけが無いのだが。…お前、何か隠しているな?」

 

 ナジェンダが、そう問いかけるとクルスが初めて表情を変えた。顔にははっきりわかる程動揺の色が伺える。

 

「それが、私達に与しない理由か?話してみろ。幸い私は口が堅い。ここで話したところでどこかに広まる話ではない。」

 

 そう続ける、ナジェンダを他所にクルスは冷や汗を流しながら必死に考えを巡らせた。すべて話すのが最善か。しかし、彼女が約束通り黙ってもらえる確証は無い。ただ、彼女は元帝国の将軍である。自分の身に起きたことについて何か知っているかもしれない。そもそも、顔が割れた以上は、ナイトレイドとは何であれ付き合っていく必要がある。でなければ明日は我が身。殺される可能性だってある。そうなれば、ここで話しておいてある程度の信頼関係を築くのは一つの手かもしれない。もし帝都で失敗をした場合でも頼れる余地がある。

 

「…わかった。全てを話そう。ただし、ここでの話は全て無かったことにしろ。一切の口外は許さん。」

 

 散々悩んだ挙句、覚悟を決めたクルスは、これまでの事の顛末について話すことにした。自分が、東の大魔女の弟子であること。元々は事件に巻き込まれて死んだことにされた、第一皇位継承者であること。そして、自らの目的が弟の救済と大臣派を排した上での立憲君主制であること。立憲君主制はイギリスや日本が代表的な民主主義の形。国家元首である王室に行政における決定権は無く、象徴として国家を代表する民主主義。王室が象徴となることで、国家のアイデンティティを残しつつ、安定した国家の運営が望まれる。そして国民の心の拠り所として支えることも可能。しかし、それを達成するためには、まずは強固な成文憲法、そして清廉な王室のイメージを国民の殆どが抱いていることが前提である。そうでなければ、戦後の日本は焼け野原からの急速な復興もなしえなかっただろう。イギリスもまた王家の存在があるからこそ連邦共和国を維持することができるのだろう。

 そのような利益の面もあるが、立憲君主制をとれば実弟である皇帝を救うこともできる上に、腐りきった現状も打破できる。彼にしてみれば一石二鳥の手段である。ほかの民主主義の形を取れば、皇帝は処刑される。かつてのフランス王室のように、かつてのロシア皇室のようにだ。

 

「これが、俺の全てだ。信じ難いかもしれないが……それが俺が、お前たちの軍門に下れない理由だ。腐っても皇室の人間だ。闇を利用しても、闇に魂を売る真似は出来ない。それを行えば、皇室の血を穢すことになる。」

 

 クルスの言葉に、ナジェンダはただただ圧倒されていた。彼女が将軍であった頃に、確かにそんな事件があった。それによって名前を伏せられた皇子が殺されたことも。犯人は未だ見つからず、迷宮入りした挙句に霧散してしまった国家の一大騒動。思えば、その頃から国家の歯車が狂い始めたのかもしれない。文官は腐り、軍人が狗に堕ちた。そしてそんな騒動の中心人物が目の前にいる。彼女からすれば極上の手札である。

 しかし、クルスにとっても、ナジェンダ率いるナイトレイドが利用価値のある手札である。そしてそれはお互い察しはついている。

 

「…俺はナイトレイドに入らん。ましてや、革命後の世界をお前たちだけで築くことは…この俺が許さない。しかし、最終目的に関しては共通している。」

「私は、お前がの目的である皇帝の保護の約束はできない。しかし、目的は同じだ。」

「…ここはひとつ、協力者としてお前たちに協力をするところで手打ちにしないか?俺はお前たちを売るようなことはしない。その代わり、お前たちは俺や俺の仲間の情報を売らない。」

「口約束でどうにかなる話か?」

 

 ナジェンダの言葉に、クルスは被せるように答える。

 

「あぁ、じゃあ前払いに一つ。タツミが言っていたサヨとイエヤス。二人は生きている。」

「何?」

「アリアに拷問されて死にかけている所を助けた。今じゃ歩けるくらいにまで回復している。この情報を含めればどうだ?バラされて困るのは俺達だ。こちらには、帝国軍の追手から逃れた元政務官と、悪徳貴族に拷問されたナイトレイドのメンバーの知り合いがいる。この条件で明らかに不利な条件になっているのは俺達だ。身元が明かされれば、俺とロニーは殺され、サヨとイエヤスはナイトレイドとの関連を疑われて拷問されて殺される。それでもこの取引をしようとしているのは、お前たちに対する最低限の礼儀だ。」

 

 クルスは、そう言うとおもむろに頭を下げて続けた。

 

「もちろん、内政に介入できる策ならある。だから頼む、共闘という形で納得してくれないか?」

 

 クルスの静かな懇願に、ナジェンダはただ黙って見ることしかできなかった。

 

 

ー帝都ー

 

 ここは、帝都軍寮の白狼騎士団の執務室。若き将軍シロンは、帝都の地図を眺めて唸っていた。傍には、魔術師のラフィ―ニャ、騎士団の副団長のジュン、そして一番槍のクリスティーナがカップを片手に地図を眺めていた。

 

「謁見の間に呼び出されたと思ったら、違法薬物が蔓延しているから、その流入経路を見つけて潰せって…これって警備隊でも出来る仕事だろう…そもそも悪徳役人共が許諾したからこんなことになっているというのに。」

「まぁまぁ団長落ち着いて。勅命を出す程なんだし、きっと何か意図があってのことだと思うよー」

「ラフィ―ニャの言う通りです。もしかしたら、役人たちが意図している物ではないから私たちが駆り出されたのかも。」

「もしくは、麻薬をばら撒いている者に検討がついていて、それが帝具使いという線もな。」

 

 シロンの言葉に、ラフィ―ニャ、ジュン、クリスティーナと三者三様の意見を述べる。四人は、数か月間の内に、薬物による変死を遂げた遺体の場所が記されている地図を眺めながら、最新の地下道の地図と照らし合わせながら経路を算出していた。その隅には、透明な袋に入った錠剤がある。これが件の違法薬物「ジョイヤ」意味は悦楽だそうだ。南西の諸国原産だが、最近は帝都に流入して問題になっているという。

 

「ともあれ、勅命は勅命だ。明日は、西の青物市場を見て回ろう。地下道と並行して調べれば何か見えるはずだ。」

 

 と将軍は、明日に向けて行動を計画した。

 

 

ー帝都西方 青物市場付近ー

 

 シロン達が軍寮で話していた少し前。サヨが、買い出しで購入した食糧を抱えて歩いていた。拷問の時に負った傷はまだ痛むものの、こうして出歩けるようになるまでには回復をしていた。ロニーのサーヴァント、アサシンが集めた情報には、既にアリアが死んでいることが確認できたため、ロニーに無理言って買い出しに出たのだ。

 

「にしても賑やかだったな。帝国が大変な状態だけど…」

 

 彼女は、そう思いながら拠点にしている共同墓地に向かって歩みを進める。少し不安だが、ロニーの命令でアサシンが護衛についている。今は姿を見せていないが。彼女は、周囲の様子を見ながら来た道をたどるように変える。その道中で、彼女はある男を見かけた。普通の男ならば誰でも無視をするだろう。しかし、その男の様子が見るからにおかしかった。目は正気が失ったように虚ろで口は不自然なくらいに笑みで歪めている。口から涎が垂れ下がり、薄気味悪い笑い声が漏れる。彼女は、それに不快感を感じながらも男を避けるように道を通ろうとした矢先。

 

 男は、狂ったように笑いながら、懐に忍ばせていた拳銃を抜いて自身の頭を撃ち抜いた。




次回予告:危険薬物、ジョイヤの流入経路と生産元を探すシロン達は、拳銃自殺をした男が、その薬物に侵された者であることが判明する。一方、クルスが帰還し、安堵している所に、サヨから、不審な死を遂げた男について話す。拠点を共同墓地から、買い取った住居に移した一行は、成り行きでその事件を追うことに。それと同時期に、ナイトレイドでも、ある男に動きがあったという情報が入った。
次回「悦楽の侯爵」


最近、思ったんですよ。自分が推しているものをどうにか紹介できないかなと。そこで思ったんですよ。ハーメルンと小説家になろうでやればええやん、と
と言うことで不定期開催推し紹介「面白いもの雑貨」やっていこうと思います。西南聖杯合戦と今作もなるたけ急ピッチに書いていく予定です。

では、ご意見、感想どしどしお待ちしております!
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