廃嫡皇子の帝国再建   作:あじたまんぼー

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間髪入れずに続きを書きました。正直疲れ申した。


二章 毒蜘蛛の糸を辿って
悦楽の侯爵


 サヨが拳銃自殺事件を目撃をした翌朝。クルスは拠点に帰還した。傷一つ存在しないが、少し疲れた様子であった。その後、すぐに荷物をまとめて移動。彼らが向かった先は、一見普通の民家だった。

 

「いつまでも墓地で野宿もできんだろ。とりあえずアリア達が死んでくれたことで、自由に動けるようになった。この機会を使わない手は無いだろ。」

 

 と、クルスは笑いながら言った。その後、家の中を整理した後に、クルスがナイトレイドで起こったことを話すことになった。もちろん、その前に盗聴対策の結界は展開済みである。

 

「…で?ナイトレイドはどうだった?というか、よく帰してもらえたな。」

 

 と、ロニーは言った。クルスはそれに頷いて、

 

「それは、俺も感じていたところさ。奴らがお人よしで助かった。」

 

 と言いながら、数時間前のことを振り返っていた。

 

 

「頼む…これで手打ちにしてくれないか」

 

 頭を下げながら懇願をするクルスに、ナジェンダは困惑の表情を浮かべていた。目の前にいるのは、廃嫡になったとはいえ、かつての皇位継承第一位の皇子。そして、東の大魔女に育てられた、「正当なメーヴィン」。そんな男が、一介の殺し屋風情に頭を下げて願っている。もしそれが叶ったとしても、さして得するようなことは彼には無いはずなのに。ただ、「弟を助けたい」「故郷を助けたい」。それだけのために頭を下げている。そんな状況に、彼女は頭を抱えたくなるが、彼の願いは理解した。しかし、ナイトレイドにも事情がある。彼と手を組むことは大きな手札になりえるが、裏切られた時のダメージも計り知れない。アカメが実力者だと直感する程だ。敵に回せば厄介なことには間違いない。

 

「なるほどな…しかし、そのやり方は…よりお前を傷つけることになるぞ。それこそ私達よりもだ」

「覚悟の上だ。後世にわたって後ろ指を指されるよりは遥かにマシだ。」

 

 ナジェンダの忠告に、クルスはそれでもかまわないと決意を変えない。彼女は、彼の揺らがぬ決意を見てこう思った。これは、どう言っても止まらないタイプだと。

 

「わかった。お前がそこまで言うなら、私達もそれに応えよう。お前はナイトレイドにも革命軍にも入らない。ただし、必要に応じて協力してもらう。所謂同盟関係だ。これなら私達も、お前たちも動きやすいだろう。」

 

 彼女はそう言って、再び煙草に火をつけた。そして目線で、すぐに帰るように促す。クルスはそれに応えるように部屋を出た。その後は、ランサーの協力あって、一夜で帝都にたどり着いた。

 こうして、クルス・メーヴィンの、長いナイトレイド視察は幕を下ろした。

 

 

 そして現在に至る。クルスの話に、三人は唖然としながらも耳を傾けていた。

 

「つまり…ナイトレイドにも入らず、革命軍にも加入せず。ただ、奴らと協力関係を築いて帰ってきたってことか?」

「その通りだが…どうしたロニー?」

「どうした、じゃないよね?なんで内政に潜り込もうとしている時にそんな危ないカードを手に入れたわけ?接触がばれれば即刻処刑だぞ!?」

「俺たちはそう簡単にはやられんさ。サーヴァントがいるからな。それに、今のうちにナイトレイドとも関係を持っておけばいざという時に匿ってもらえるだろ?」

「それはそうだが…」

 

 ロニーは、クルスの言葉に納得しきれないのか、複雑な表情で食い下がる。一方、サヨとイエヤスは、それとは別の事に気を取られていた。

 

「クルスさん、タツミがナイトレイドに入ったのは本当ですか?」

「…あぁ。彼は、君らが死んでいると思っている。まぁ、他の遺体を偽装したんだ。多少怪しまれるとも思ったが、まさかこの形で誤解されるのは予想していなかった。」

「まじかよ…あのタツミが…」

 

 サヨの言葉に、クルスは申し訳ないような表情を浮かべて返した。イエヤスも、驚愕したように言葉をこぼしている。結果として、タツミを騙したまま、誤解を解くことなく立ち去ったのだ。もしこの事実が判明すれば、タツミはもちろん、ナイトレイドの面々にも殴られるだろう。二人は、非常に複雑な心境で考えていた。当然と言えば当然である。万が一でも帝都で遭遇すれば、ちょっとした騒ぎになる。正直、その手のトラブルには関わりたくないクルスは、先を憂いながらも言葉を告げる。

 

「と・に・か・く、だ。協力関係と言っても現時点ではお互い不干渉という形だ。現状は接触さえしなければ感知されることは無い。ロニーの心配事は、お前の冤罪を晴らして内政に潜り込めた時にでもすればいい。とにかく今はロニーの罪の解消。そのためには、どうしても介入が出来る糸口がいる…さて、ここからが難しいぞ。」

 

 クルスは、そう言って顎に手を当てて考える。大臣が如何に実権を握っていようと、この国の最終決定を下しているのは他でもなく皇帝である。つまり、一番早い方法は、謁見の間に客人として入り、皇帝の口から恩赦、または無罪の言葉を聞き、それに大臣がなし崩し的に納得させる。もしくは、大臣に気に入られて、それに乗じて恩赦を勝ち取るか。前者、後者問わず、必要になってくるのは、謁見の間に入りうるきっかけだ。それが無ければいつまでも話は進まない。

 

「クルスさん、ロニーさん」

「あぁ、呼び捨てで構わないよ。」

「え、えぇ。二人の考えとして、要は謁見の間に入りうる功績が必要ってこと?」

「まぁ、そうなる。」

 

 サヨの言葉に、二人は訝しげに答える。その返答に、サヨは考えるように黙り込んだ。

 

「お…おい、サヨ。どうしたんだよ?」

 

 そんなサヨの様子に、イエヤスが心配するように声をかける。それにサヨは大丈夫と答えながら、視線をクルスの方に戻した。

 

「もしかしたら、いけるかも」

「何?」

「功績についてよ。昨日買い出しの帰りに不審な拳銃自殺を目撃したことは聞いたよね。」

「あ、あぁ…それは昨日も聞いたけど…」

 

 サヨの言葉に、ロニーは歯切れ悪く答える。彼女の意図を聴くように、黙ってクルスは話を聞いていた。サヨは話を続ける。

 

「そう、明らかに正気じゃなかったわ。何かに操られているみたいだったし…まるで…」

「薬物をヤッたみたいだったって?残念だが、この腐りきった帝都じゃ当たり前のように転がっているぞ…」

「でも、調べたら何か大きな手掛かりがつかめるかも。」

「一理あるな。いずれにしろ、何もないよりはマシだな。よし、調べてみるか。」

 

 クルスは、そう答えると立ち上がり、

 

「とはいえ、明日からでも問題ないだろう。今日はしっかり食べて寝るぞ。久しぶりに料理してやる」

 

 と、にこやかにそうい続けた。

 

 

 皇帝の勅命を受けて、とある麻薬の流入経路を探す任務を行っているシロン達四人は、青物市場の付近で探索を行っていた。勿論、目立たないように、変装をした状態である。

 

「ここで自殺をしたんだな?」

「間違いないよ。目撃者もたくさんいる。正気には見えなかったそうだ。」

 

 シロンが、昨日に起こった自殺の現場の前で立ち止まり、ラフィ―ニャは周りを見ながら上司に補足をしていた。ジュンとクリスティーナは、また別の所を見てもらっている。探索範囲は青物市場全体。薬物販売の流通場所の疑いがある場所である。

 昨日、不審な自殺を遂げた者の死体を解剖したところ。彼らが追いかけている薬物の反応があったそうだ。「ジョイヤ」である。そして、これまでの変死を遂げた者達の特徴を踏まえると、彼も薬によって殺された被害者である。

 

「早いうちに見つけないとな。急がないと、また罪のない民達が薬で壊される」

「そうだね。早くしないと…そのためには、経路を判明させないと。」

「そうだな。試しに、あの裏路地に入ろうか。連中からアクションを起こしてくるかもしれん。」

「え、僕戦闘力皆無なんだけど。」

「いいから来い。」

「横暴だ…」

 

 シロンの命令に、ラフィ―ニャがげんなりしながら付いて行った。

 

 

 帝都で広まっている、この不審な薬物騒動。これは勿論ナイトレイドにも届いている。アジトの一室で、ナジェンダは、とある報告書を読んでいた。内容は、「ジョイヤ」を製造した麻薬の生みの親。ナイトレイドの標的にも入っている通称「悦楽の侯爵」こと、ビリー・ラズウェルが帝都で新型の薬物を試作しているというものだった。この通称は、元々は侯爵の官位をもつ貴族であったことから由来している。報告によれば、既に何人もの罪のない人たちが、この薬物によって命が断たれているそうだ。名前は「ジョイヤ」。嗜好性の薬物とは思えない強い毒性を持っているそれは、精神に大きなダメージを与え、積極的に自傷行為を行う。その後、自らの糸を切るように自殺をする。聞いただけでもおぞましい類である。しかも、この薬物は恐らく試作品。完成して量産でもされれば、それこそ、国民が息絶える。

 

「…私たちも動くべきか。」

 

 ナジェンダは、そう呟いた後に部屋を後にした。そしてメンバーを集めて、ビリーの行方を追うように指令を出した。

 

 

 帝都の地下に張り巡らせている地下道。下水や生活用水を運ぶ血液でありながら、革命軍等の帝国に従わない者達の隠れ家にもなっている。その地下道の一角で、調合台の前で薬品をあぶっている男がいる。短く整った黒髪、色白でやせ細った体を、一回り大きな白衣で覆っている。脂肪が少ない細い中指には長いペンデュラム付きの指輪が怪しく輝いている。

 名は、ビリー・ラズウェル。またの名を「悦楽の侯爵」。彼は、薬品を炙りながら鼻歌を歌っていた。そして彼の背後には、手足を結び付けられ、口も塞がれている女性が涙を流しながら唸っている。彼は、それを気にしないどころか嗜虐的に嗤いながら炙った薬品を、フラスコに入っている別の薬品と調合をする。

 

「ジョイヤの意味は悦楽。文字通りにこの薬を打てば誰でも極楽浄土。すぐ楽になれるってもんさ。でもこの薬って難しくてね?既に57人に投与してるんだけど、皆決まって自分から死を選ぶんだ。気持ち良すぎるのかな?」

 

 狂気が孕んだ声で、後ろにいる女性に声をかける。しかし彼女は唸るだけだ。口む塞がれているならば仕方ない。

 

「いずれにしろ、この薬はまだ発展途上。完成した暁には、この国で病んでいる者達を救うことが出来る。…おっと、さては人殺しと思っているね?違うね。僕はただ実験の手伝いをしてもらっているだけ。ほら、よく言うだろ?失敗は成功の母だって。僕はただ失敗しているだけさ。それに、死を望んだのは彼らだ。僕としては、一刻も長くこの悦楽を味わってほしいと思っているんだけどね。」

 

 そうして完成させた薬品を注射で吸い出してから、彼女の方に向いた。彼女は、恐怖のあまり声にならない悲鳴を上げるが、この男には単なる歓声にしか聞こえない。

 

「待たせたね、僕の愛しき58人目の助手君。今度こそ、極上の悦楽を味わってくれよ?」

 

 と、彼は言いながら近づく。彼女は、必死にもがきながら叫ぶが、誰も助けに来ない。彼女は、絶望をした目を彼に向けて叫び、

 刺されたような軽い痛みの後、意識がブラックアウトした。




次回予告:悦楽の侯爵が新たな薬物を作っている中、騎士団、ナイトレイド、クルス一行がそれぞれの思惑の下に彼を追う。クルスは締結したばかりの協力関係を使って、ナイトレイドと連携をして情報を集める中、ロニーは偶然にも、嘗ての友の息子である、シロンと遭遇する。この毒蜘蛛の糸を辿る程に、交わるはずが無かった者達をも繋ぐことになる。
次回「毒蜘蛛の糸」

いかがでしょうか。ナイトレイドの扱いとか扱いを考えるのがとても疲れますね。うまく書けていればこれ幸い。感想をどしどしお待ちしております。
では。

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