イルマ山脈。大陸北東部に位置するラボンにそびえる山脈で、標高8000メートル以上の山々が連なっている大陸随一の霊峰。この山脈には手つかずに自然が残っており、秘薬に必要な貴重な薬草の他、数多くの危険種の住処となっており、超級クラスの猛獣に縄張りになっている。
そんな危険な場所で何をしているのかというと…
「動きが鈍い!!そんなのじゃ、変えられるものも変えられないぞ!!」
「クッソが!!」
イルマ山脈の中腹にて、俺の魔術の修行をしていた。
5年前・・・
「魔術を教えてくれ?」
「あぁ、俺は力が欲しい。帝国を変える力が。」
五年前のあの日、リリスに初めて言ったわがまま。それは、彼女に弟子入りさせてほしいという頼み。これは、保護される前の廃嫡したクルスとしてでなく、前世の記憶を持つ憑依後のクルスとしての願い。これに対してリリスの返答は、
「嫌よ。」
簡潔な拒否だった。リリスにしては珍しい明確な拒否に驚いて、俺は聞こうとするが彼女は言葉を続けた。
「魔術を会得することは悪ではない。神秘を探求するつもりなら大賛成。でも、戦闘で使う前提で魔術を覚える気なら断固反対。私、これ以上血を見たくないのさ。」
と、静かに言った。俺は、それに食い下がるように聞く
「死にたくないと思って、変えたいと思ってやるのは間違いだってのか?」
「あぁ。少なくとも、それだけなら代替えはいくらでもある。私も前々から、お前に教えても良いと思っていたが、その考えなら教えられないかなぁ。」
リリスは、苦笑いしながら明確に答えた。俺はそれに続ける言葉が見つからずに口をつぐむ。俺の様子を見て、彼女は暫く見つめた後ため息をついて椅子に座った。
「クルス、全部を話せ。お前の記憶の全てを、そしてクルスでないクルスの事も。それを聞いて私が興味が湧いたり納得したら魔術を教えることも考慮しよう。」
俺はその言葉を聞いて、驚いて彼女の方を向くと、いつも向けてくれる優しい笑顔になっていたが、その目は真剣そのものだった。俺は、彼女の真剣な眼差しに負けて自分についてすべて話した。廃嫡に至った経緯、自分には前世の記憶があることを、そして自分が持つ英霊召喚のシステムを。それまで聞き流していたことを、今回に限り彼女は真剣に聞いていた。俺が全てを話し終えると、リリスはいつの間にか用意していた紅茶を含んでため息をついた。
「なるほど、つまりはクルスじゃないクルスは平行世界からやってきたから記憶が二人分あるのか…そうかー英霊召喚システムねー。」
彼女はそう言いながら天を仰ぐ。んーんー言いながら悩んでいる。少し可愛らしかった。それから五分ほど唸った後に、よしと呟いて俺に向き直した。
「なるほど。軍事転用を前提としていないことも、人を助けるための魔術を学びたいのか…その英霊召喚システムが気になって仕方がないわ。話を聞く限り魔術の心得が無いからそのシステムも使えないみたいだが。」
「いや、厳密に言えば使えなくはないけど。今の俺が召喚した時に相性が合わなかった時点で、その英霊に殺される可能性が高い。その対策も踏まえて、自分を守る程度の力が欲しい。それに、俺が一番学びたいのは、リリスが一番得意な浄化と治癒魔術だよ」
「だろうな。しかし…弟子にするのはなぁ…でも英霊とか見てみたいし、何より前世の記憶の話も面白そうだし…」
と、リリスは再び唸る。教えたくないのか、はたまた親心かは分からないが、その考えと魔術師としての興味と探究心で揺れ動いている。そしてひとしきり悩んだ後に、決断するように
よしと呟きながら向き直った。そして、若干目を輝かせながら言った。
「明日、朝一で起きろ。私の魔術を教えてやる。その代わり、英霊召喚をする時は私も帯同させること、そして前世の記憶とやらについてこれからじっくり教えてもらう。これが条件だ。」
そのリリスの言葉に、オレは驚いて、無意識に感謝の言葉が出ていた。しかし、どうやら魔術師としての好奇心に負けたようである。
………
時間を戻そう。そして、俺が悪態をつくまでの経緯も軽く話しておく。浄化と治癒の魔術は修行開始2年でコンプした。あとの3年は攻撃性の高い魔術で高山病と戦いながら実践演習に明け暮れている。以上。
まさか、浄化と治癒魔術が思ったより少なかったとは。彼女曰く「毒素や疫病、差異はあれど害をなすパターンは限られている」らしく、基本から応用編までコンプリートすれば時と場合に合わせて使い分ければ問題ないらしい。ただし、それには毒素や疫病の知識が必要なため、魔術の習得よりもこっちのがキツイ。医大生ってこんな感じなのかな?
魔術自体の演習が終わり、とうとう攻撃性の高い魔術での実践演習。この演習のモットーは「実戦の中で魔術を磨け」らしく、3年間、高山病と戦いながら彼女と魔術の撃ち合いをしている、といった流れ。
やってみてわかった。リリス強すぎる。俺の魔術をことごとく無効化してくるし、死角からの攻撃にも対応するし、彼女の攻撃がほぼオールレンジだから全方位から魔術飛んでくるし、魔術でずっと空飛んでるし、それに対抗しようと空に飛ぼうとすると魔弾で撃ち落とすし。とにかく隙がない上に容赦がない。現に、雪に足を取られて動きが止まった俺に容赦なく爆破魔術を打ち続けている。俺の周りで轟音をとどろかせて爆発する。無防備状態だった俺はあえなく吹き飛ばされる。
「どうした?元気がないぞ。」
「うるせーよ。まだまだこっからだ!!」
それでも、魔術の応酬が出来ている分修行開始当初よりはマシにはなっている。実践演習が始まって半年は何もさせてもらえずに魔術のサンドバッグにされてたし。今は魔術の撃ち合いでどうにかイーブンにまでもっていけるようになった。おそらく彼女は本気でもないし、当たるはずの魔術は無効化されているが。彼女は悠々と空から氷雪の地を眺めている。その顔には余裕の文字が浮かび上がる。
「あーくそ…あれどうやって撃ち落とす?」
俺はボヤきながらも必死に考える。しかし、魔術が無効化される以上…魔術の無効化…あ…
「いいこと思いついたわ。」
閃いた俺は、魔弾を数発放つ。しかし、魔弾はリリスに避けられる。まぁ、当てるのが目的じゃないし。魔弾は逸れて雪山に当たる。するとどうなる?
「おっとぉ?」
雪の層がズレて崩落、つまり雪雪崩が発生する。そしてそれをルーンで制御してリリスに向かうようにベクトル設定。咄嗟に思いついたとはいえ我ながら良い作戦…
「爆炎よ」
と思ったんだけどなぁ…なんで爆炎で溶かし切るのさ。涼しい顔で、
「今のは悪くなかったぞ。だが、崩すなら」
リリスは俺と同じように魔弾を放つ。魔弾は逸れてそれが岩肌に。
「岩にすべきだったな。」
彼女の言葉と共に岩肌が崩れて岩雪崩が発生した。岩肌から出してはいけない破裂音や崩れる音が響く。
「汚え!!プライドないのかこの魔女!?」
「口を動かすより、手と頭を動かせ馬鹿弟子!」
目前まで雪崩が迫っていて余裕が無いが、足下を爆発させて緊急離脱を行う。これが成功して一気に攻勢をかけようと顔を上げると、
「前よりは機転が利くようにはなったが、まだまだだな」
俺の師匠が、複数の魔術を展開して待ち構えていた。彼女からしてみればチェックメイトであり、俺に切れる手札も存在しない。俺は素直に両手を上げて降参の合図をする。師匠はそれを確認次第に術式も消して地上に降りた。魔術の応酬によって轟音が響いていた雪山も凪ぎ、静寂を取り戻した。
「だー!!また負けたー!!」
悔しさのあまり、俺は雪の上で転げ回ったが、それを師匠に蹴り上げられた。
「いってぇ!!」
「私に勝とうなど20年は速いんじゃないか?まぁ、魔術の修行から5年目にしてはいい線は行っていたぞ。後は実践を重ねるだけだ。」
「こんなボロボロにされたら強くなった実感湧くわけないんだよなぁ…」
「師の言葉は真摯に受け止めるものだぞ。」
「へいへい。」
そんな軽口を叩き合いながらも、俺は立ち上がる。俺がたったのを確認した師匠は帰り道の方に足を進めていた。そして、師匠が一度足を止めて、
「さて、今回も私が勝ったから、家事は頼んだぞ。」
「チッ…!忘れてなかった」
「なんか言ったか?」
「いや、何でも?でも、こんなことばっかしてたら魔術師よりも先に家政婦になっちまうよ。」
「家政婦クルス…ぷふっ」
「今笑ったな!?勝手に想像した挙句勝手に笑いやがったな!?」
「私は知らんなぁー」
俺たちはそう言い合いながらも山道を下りる。なんで、ここまで仲良し親子みたいになったのかを少し疑問に思いながらも、今ある日常を大切にしようと思った。
ーいずれ、ここから去らなければならないのだから。
土地の設定
ラボン
モデル:南米のアンデス山脈とそれに付随する国家。
概要:大陸の北東に存在するツンドラ地帯。8000メートル級の山々を抱えるイルマ山脈を抱える山岳地域。山脈特有の自然と、北東部特有の厳しい寒冷地帯が重なっている場所。芋系を主食にしている。
主人公のサーヴァントはいつ出てくるのでしょうか。今のままではアカメが斬る版コードギアス反逆のルルーシュ風味の話になってしまう。
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