前回までの廃嫡皇子は…
前世と憑依元の記憶を取り戻したクルスは、魔女リリスの下で魔術の修行を始める。彼女の修行は苛烈なもので、何度も命を落としかける。それでも着実に成長を続けるクルスの心の内は、いずれやってくる別れの時を少しだけ寂しく思っていた。
今回もおたのしみにー
師匠によるスパルタ式魔術修行が始まってから10年。俺もとうとう20歳になった。成人式というクソッタレな文化はこの地域には無いらしく、粛々と時間が流れている。前世で死んだ年齢にあと少しで追いつく。魔術の実戦演習は相も変わらず続けており、十年経っても二回くらいしか勝てていない。大人げなくない?という風に、実戦演習では負けに負けているが、治癒と浄化魔術に関しては、合格点をもらえるほど上達している。魔術の乱打戦以外にも、村に出向いて村人の治療を、リリスに代ってやることも多くなり、村人の人達とも親しくなった。離島地域の病院の訪問診療みたいだなと思ったよ。前世で見た医者もののドラマでそんな話あった気がする。一昨日は、リリスについて治療の手伝いをしに行った時にはウリボアの干し肉をもらった。おいしい。イノシシ肉みたい。そんなこんなで20歳になって、酒も飲めるようになったが。…そろそろ旅立つ時だよなぁ、と思い始めた。だって20歳だよ?10歳で〇〇モンマスターになるために旅立つんだよ?20歳で行動起こさなかったらいつ起こすんだ。
「とは言ってもなぁ…」
と、いつもの実戦演習の帰り道で考えながら少し息をついていた。
「どうした?」
「いや、なんでもないです。次ばどうやって攻めようかを考えてて…」
師匠に心配をされて、それに俺はお茶を濁す。ろくに演習で勝ててない上に、長い間居座り続けたために、実際どう言えばいいのかが分からない。作品のストーリーは知らないが、少なくとも速く帝国につかなければ帰った頃には帝国が無いなんてこともありえる。それでもここでの生活でこの地にも愛着はあるし、師匠のことも母親のように思っている。農耕民族の性なのかね…。
いつも通りの修行の帰り道。そう考える時間も少し多くなった最近だが、今日は昨日とは全く違う展開が用意されていた。師匠が立ち止まって前方に目を凝らしている。
「お師さん。どうしました?」
「いや、あれ人じゃないか?」
師匠に言われて前方に目を向けると、人間サイズの物体があった。…というか人が倒れていた。それも身体中傷だらけで…
「…って、ボロボロじゃん。大丈夫か?」
俺と師匠は、すぐに倒れている男の方に駆け寄り状態を確認する。俺がうつ伏せになっている男を仰向けにして、師匠が男の様子を見る。軽口を叩いていられる雰囲気ではない。
「外傷が多いな…刃物による切り傷が多数、鈍器による打撲も10と少し、凍傷も酷いな…だけど切除しないくて大丈夫そうだな。クルス。」
「わかってるって。…癒せ。」
俺は、師匠の指示の通りに癒しのルーンで治癒を図る。ついでに毒に侵されてる可能性を加味して毒素の浄化を行う。すると、男の体から傷が無くなっていき、それと同時に先程まで荒かった男の息も落ち着いてきた。一通り治療を終わらせてから師匠は立ち上がり、
「まぁ、これでこの男も大丈夫だろ。クルス、そいつを頼んだ。」
と、言って歩き出した。患者は?…俺が運ぶのか!
「いやいや、師匠も手伝ってくださいよ。見るからに重いですって。」
「おやぁ?10年目でまた忘れたのか?実戦演習の敗者は、勝者の言うことを1日聞くと。」
「やっぱりか!使うと思ったよチクショウ!」
実戦演習の敗者の俺は、勝者の師匠の言うことを聞く。ゲッシュみたいな誓でもないが、修行を始める上で師匠が面白がって勝手に作ったルール。強制力は無いが、日常的にやりすぎた事で判例みたいにルール化してしまった悪しきルール。しかし、面白がったのも俺も同じだし人のことが言えない。
そんなルールに従って、男を背負う。重い。やっぱり脂肪より筋肉のが密度が違うからね。そんな重い荷物を増やして、再び帰路に戻った。
思えば、この出来事が大きな岐路になったのは間違いないだろう。
男を運び込んでから3日間。男の容態を見るために、実戦演習は中止、訪問診療のみの活動をしていた。珍しい。彼女曰く「ラボン、ひいてはオイラト公国の人々はよそ者を好まない。だから適切な治療をしてくれるかが不明のため、とりあえず快調になるまでは家に置く」そうで、俺のベッドが男に占有された。そのため俺はソファで寝ることを余儀なくされた。なんでさ。というかよそ者なら、俺もよそ者だよね?師匠、村人達に何か流した?
そんな事もあったが、男がようやく意識を取り戻したため、一旦男の話を聞くことにした。熱々栄養満点のかぼちゃのポタージュを片手に。男はそれを見て拷問と思って怯えられて、師匠に蹴り飛ばされた。満点の善意でやったのに…。痛みで踞る俺をよそに、師匠は男と話を始めた。
「うちの弟子が失礼した。」
「いや、こちらこそ…せっかくだからそのスープをもらおうか。」
「いいのか?あの
「入れるか!!俺をなんだと思ってんだ!」
サラッと理不尽な事を言われて、俺は痛みも忘れて彼女に噛み付く。まだ蹴られた所が痛い。しかし、痛がっても何も始まらないため俺も立ってから近くの椅子に座り直す。
「コホン、じゃあお前のことを話してもらう。どこの人間だ?そしてできる限り所属とか教えて貰えたら助かる。」
師匠が気を取り直して男に質問を始めた。男はスープを一口含んで少し考えてから、彼女に向き直して質問に答え始める。
「名前はロニー・カリオストロ。帝国から逃亡してきた。元々は政務官をやっていたが、オネスト大臣に在らぬ疑いで罪を着せられてな。暗殺部隊に殺される前に国外逃亡をした。傷は逃げる時に帝国兵に受けたものだと思う。」
「そうか…帝国から…」
ロニーの言葉に、師匠が言葉を返しながら俺の方に顔を向けていた。言葉にしなくてもわかる。珍しく真剣な眼差しの彼女はきっとこう言っている。「彼から聞けるところまで聞いておけ」と。そして彼女はロニーに向き直して言葉を続けた。
「ロニー。命を助けたは良いが、ここはラボン。余所者を受け付けない閉ざされた地域だ。それでも、ここで暮らしたいなら最低限の協力はするが帝都程豊かじゃないのはわかるだろ?」
「あぁ。でも、多くは望まないさ。なんせ命を救ってくれたんだ。これ以上求めるものは無い。でも、これ以上迷惑をかけるの訳にはいかない。歩けるようになったらここから出ていくつもりだ。」
師匠の言葉にも、真摯に答えるロニー。それだけでも彼がいい人というのはわかる。だからこそ帝国の生贄に選ばれてしまったんだろう。ロニーの言葉に、師匠は表情を変えずに返す。
「まぁ、この地域に根を下ろすのも、ここから出ていくのはお前の勝手だ。だが、その前にこいつと話して欲しい。コイツも訳ありで帝都から来た奴だ。」
彼女はそう言って俺に指をさす。俺もその言葉に何も言わないが。顔を縦に振った。ロニーが俺の方を見る。リリスは、それを確認すると部屋の出口の方に向かった。
「薬品室?」
「あぁ、終わったら言ってくれ。」
「わかったよ師匠。」
リリスが扉を閉めて部屋から出ていった。ロニーはその様子を見て、俺に聞いてきた。
「仲が良いんだね。ちょっと羨ましいよ。」
「そうでもないっすよ。これでも毎日雪山で魔術で殺し合いしてますし。それよりも…」
「あぁ、君がワケありという話だったが。」
「えぇ、それにあたって、少し確認したいことがあります。」
「何だね。」
俺は、服の襟をずらして左首筋を彼に見せる。決してふざけているわけでもなければ、血を吸ってもらおうと思っている訳では無い。無論、男色に性癖は持っていない。
首筋に刻まれている紋章を、ロニーに見せるために行った。ロニーは最初怪訝な表情を見せたが、その紋章を見つめていくうちにその表情が、驚愕に変わっていく。
「これは…何かの冗談か?」
「その顔…知ってるみたいですね。」
月の紋章。憑依元のクルスの記憶を使って説明をすると、皇帝の血族が引き継ぐ皇位の証であり呪い。皇帝たちの先祖、通称「月の一族」が月の周期で力を使い分けて、月の動きと共に生活をしていたという。
曰く、満月になれば月神の如き力を得る。
曰く、神月になればどんな獣よりも矮小な存在となる。
多くの歴史書や古文書で、決まってこの二つの文が使われる。そんな月の一族が帝国を築き、幾分へいわなじだいを迎えると、一族としての力は必要ないと判断されて、世代を追うごとにその力を縮小させていった。そして、力を無くした今、紋章は皇帝の血を引く有力な証拠として使われ続けている。日本における天皇家の三種の神器のようなもので、それ本体に意味はなくとも、それを意味することに重要性を置く。元政務官レベルならば、おそらくはこの紋章の意味を知っている。そう踏んで見せてみたら、効果て覿面だった。
「これを見せたのなら、俺が何者で、どのようなワケありなのかは政務官を務めていた貴方にならわかるはずです。」
「あぁ…はっきりと理解しました…。あぁなんてことだ…まさか殿下が生きていたなんて…。先程までの無礼をお許しください…」
「殿下なんてやめてください。俺はもう皇位を持っていない、廃嫡された者に過ぎません。」
ロニーは途端に、血相を変えて片膝をつこうとするが、何とか止めてベッドに戻す。その後、彼が落ち着くまで少しかかったが、再度気を取り直して、俺の方に向き直る。
「して、殿下が私に聞きたいことは何でしょう。先程の女性も私たちに気を使って出ていったのですね。」
「えぇ、まぁ。殿下はやめてね…ってそれはいいや。聞きたいことはいろいろあるけど、まず一つ目。俺が廃嫡になった13年前。どこに所属していましたか?」
「13年前…確かその時は、東方諸国の担当をしていた外交官の秘書をしておりました。」
「東方の外交官…オイラト公国とも付き合ってました?」
「えぇ。そのオイラト公国と連絡するときの機密文書などの管理も私が行っていましたので。」
それが何か。とロニーは不思議な面持ちで俺を見ている。この男が、オイラトを担当していた外交官の秘書なら、俺が欲しいものがある場所を知っているかもしれない。
「すみません、話が見えないですよね。実はあるものを探していまして。オイラトとの外交を担っていた貴方ならわかるかもと思いまして。」
「何を探しているのです?」
真剣な面持ちで聞き返すロニー。俺は、ある物について聞いてみることにした。
「13年前、おそらく貴方はオイラトに機密文書を送ったはずです。それも外交官より上の位の人から。そして、おそらく13年前からオネストは大臣だったでしょう?」
「ちょっと待ってください…確かに13年前、オネストは確かに大臣職でした。しかし、機密文書については…待てよ?いや、まさか…?」
彼は、頭を働かせて必死に思い出そうとしている。病み上がりにこんなことはさせたくはなかったが、帝国のことならば今すぐにでも情報は欲しい。やがて思い出したように、目を見開いて口を開いた。
「機密文書とは、また違いますが。オネストから秘密裏に頼まれて機密文書に混ぜたものがありました。先代皇帝直々の文書だとだけ言われただけでしたが…その文書を見つけて、何をなさるつもりですか?」
と、少し怪訝な表情で聞いてきた。俺の質問が悪かったとはいえ、表情筋働きすぎでは?俺は一息ついて、間を置いてから答えた。
「その文書に13年前の廃嫡に関する内容が記載されている可能性が高い。なので、その文書を入手して、帝都に乗り込みます。」
俺の答えに、ロニーは驚愕で顔を歪ませた。そして慌てるようにこう言う。
「殿下、お言葉ですが。今の帝国は昔とは大きく違います。先代皇帝もとうに亡くなり、今の皇帝もオネストによって傀儡になっています。帝国の全ての権力を奴が握っているのも同義です。そんな状況で殿下が帝都に乗り込んだら…殿下、いやクルス君はもうそんな皇位に縛られない生活ができている。君はここにいるべきだ。」
ロニーは、敢えて途中敬語をやめて、俺にここにとどまるほうが幸せだと言う。そしてそれは正解だし、痛い正論。頭のいい人間なら、ここで魔女の弟子として生活していた方が、絶対的に幸せだと思うだろう。ここには回せる経済はないが、それ以外は驚くほど揃っている。途中で敬語をやめたのも、俺が「殿下」の立場で無いならその方が良いと思った上だろう。しかし、俺にも引き下がれない事情がある。
「帝都には弟がいる。その弟がそのまま傀儡にされ続けてみろ。じきに革命戦争が起こる。そうなれば、その戦争の責任は誰が負う?」
「それは…」
「答えは皇帝だ。大臣がどれだけ酷かろうと、最初に矢面に立つのは国家元首。それが独裁者の腐敗であれ、国民社会主義の暴走であれ、結局はその全ての責を元首が負う。このままでは年端も行かない少年が、何もわからないまま巻き込まれて、何もわからないまま罪を背負って死ぬことになるんだぞ。俺は、年長者としても、皇族の血を引く者としても、現皇帝の兄としてもそれは看過できない。」
そう、この世界でたった1人の血の繋がった兄弟を見殺しにするのは、いくら精神的な他人とはいえ寝心地が悪すぎる。そして、
「それに、自分の実家に帰ることに、理由はいるか?」
これを言ってみたかった!厨二だけどさ、皇帝の兄なら許されるよね。でも、一度どこまで酷いことになっているかはこの目で見ておきたいじゃない。そもそも、力をつけて帝都には行くつもりだったから、これをきっかけに行くしかない。もうタメ口だが、気にせずに押し通そう。そんな俺に対して、真剣に考えるロニー。そして、重い口を開いた。
「私は君のことを思って忠告したつもりだったのだが。」
「生憎様。俺は、帝都に乗り込んで弟を助け出して、帝国を立て直すことを決めてるんだ。そう決めて10年間魔術の修行をしたのさ。誰を信じればいいのか分からない世界で、最後に自分自身が守れるように。」
俺は、そう言ってから出口の方に向かう。ドアを開けて出ようとした時に、ふと思い出したことを彼に言うことにした。
「さっき、師匠に歩けるようになったら出ていくって言ったけど。もし貴方が良ければ、俺の戦いに協力して欲しい。俺も貴方も同じオネストによって全てを失った者達だ。仲間がいれば心強い。」
「それって…」
「今決めなくても良い。帝国に裏切られたんだ。精神的にはまだキツいところでしょ。だから少し待つ。頭の片隅程度でもいいから考えて欲しい。」
じゃあ、と言ってドアを閉める。そして、師匠のいる薬品室の方に足を進めた。地下に降りて、薬品室の札が書かれている部屋の前に着くと、ノックせずにドアを開けた。そこには、治療薬の調合をしているリリスの姿がいた。
「話は終わったか。ノックしてから入れ。」
「あ、すみません。」
俺は注意されて謝りながら、彼女の方に向かう。俺が口を開く前に、彼女から話しかけられる。
「お前、まさかオイラトの官庁に忍び込もうとは思っていないだろうな。」
嘘だろ?俺がやろうとしていることバレてる。言葉につまる俺を差し置いて言葉を続ける。
「なんでわかったかって?さっきの会話は魔術で筒抜け。そして証拠品がある可能性が出てきた。となればお前は証拠品を手に入れて速攻で帝都に乗り込むつもりだったろ。全く、行動パターンが単純なところは変わらなんな。」
「はぁ…」
今からやろうとしていることを看破されるのみならず何故か詰めの甘さで怒られる。怒られに来たんじゃないけど。でも困った。これで許可なんてされるわけない。そう思っていた矢先に、師匠が口を開いた。
「今回は特別だ。好きにやれ。ただし、足跡は一切残すな。やるなら完璧にやれ。」
と。まさかの許可である。俺は驚いて彼女を見ると、普段見せる悪いことを思いついたような意地の悪い笑顔を浮かべていた。
「あと、明日の朝までに帰ってこなかったら…殺す」
そして本気の殺意を垣間見せられた。
そんな、師匠とのやり取りから二時間程経った夜。俺はとある建物の前にいた大陸の北東に位置する辺境においても比較的豪華な装飾が施されている建物。オイラト公国の治世の中枢である官庁だ。その官庁にあるかもしれない、13年前の文書。ひいては、クルス皇子が野盗に殺されたとされる事件の真相を握る機密文書。その文書は一般に公開されていないためかなり厳重に管理がされているはずで、情報漏洩を怖れて廃棄処分もできていないはずだ。存在した場合、国家ぐるみのスキャンダル。暴かれれば、国家の存亡にも関わる。一国のロイヤルファミリーに意図的に手をかけたなら、時代が時代なら大逆罪で即銃殺刑。いや、俺がいる世界はその時代だったわ。…というのに、警備が杜撰過ぎる。なんで、正門付近に衛兵いないの?平和ボケしすぎじゃない?世界一の平和ボケの日本人ですら最低限の警備はするよ。例えば、巡回とか。それならそれでとても都合がいいだけどさ。
「さてと?どこにあるかな宝物ー?」
俺はそう呟きながら、魔術を体内に展開する。発動した魔術は、透視の魔術。館内の状態を数分監視をする。流石に目立つため官庁の近くの茂みに移動した。官庁の構造は一般の庁舎のようで、館内には複数の警備がいる。しかし少ない。マジに襲撃されなければ警備体制変えなさそうだな。…っとと。とにかく、重要そうな所は…地下に大きな空間と強固な扉。…こんな辺境にあんなごついのいる?まず一つ目。次は、最上階のおそらく政治を執り行う執務室。警備がついているからここにもありそうだけど、執務官が変われば保存場所を変えるだろうし、それなら破棄でもするか。でも前世と違って、シュレッダーとか機密文書を処分をローリスクで処理できる手段は限られるし、やはり保存していると思う。とすると、
「地下金庫の方に行きますか。」
目的地を確定させた俺は、茂みから出て官庁の敷地に侵入する。」
「我、影を纏う者也」
短く呪文を唱えて。自分の姿を周りから見えなくする。そうしながら、入れそうなところを探す。正面入り口は、衛兵が控えているからアウト。裏口にも衛兵が待機しているためこれもアウト。…隙があるのか無いのかわからんなぁ…。その気になれば突入もできるけど、師匠からは一切の足跡を残すなと言われてるしなぁ。完璧に奪うなら、荒事は一切無し、もし起きても人が顔を視認するよりも速く沈める必要がある。と、思いながら庭園を散策していると、ある扉を見つける。周りに廃棄された食料もあるため、おそらくは清掃出入口、もしくは厨房口になるか。念のため透視を継続させながらも、俺はその扉を開けた。その先には廊下が続いている。俺は、その道なりに進んだ。するとどうだろう。なんと階段の踊り場にたどり着いた。幸い人影もいないため、遠慮なく失礼させてもらおう。そのまま階段を降りた。地下にたどり着くと、俺は頭を抱えた。
「いやいや…いくらラボンに住む人たちが良い人達だからって…なにこの「好きに盗んでください」と言ってるような…」
目の前には金庫。警備無し。自分日本人ですけど呆れていいすか?まぁ、とりあえず。
「人払いの結界よ。拡がれ」
地下エリア全域を指定して人払いの結界を張ってから、金庫のダイヤルも魔術で高速で解読して開けた。やってよかったリリス塾、学んでよかった魔術。しかし、これで安心していられない。人払いの結界は足がつく可能性が高いため30分の制限をつけている。その時間内に文書を見つける必要がある。といっても、事前に構築してある魔術を使うだけで良いのだが。
「さて、時間がないから魔力の大盤振る舞いよ。」
俺はそう言って魔術を展開する。術式は金庫を掌握して、金庫内にある物品の解析を行う。そして13年前、そして皇室、帝国、親展や機密文書に該当するものを収集できるようにした。金庫の各地で該当した文書が飛んでくる。俺は、飛んできた文書を読み込んで、使えるものは収納、使えないものを燃やして破棄をしていた。勿論煙と灰が出ないようにしている。そんな作業を始めて20分。ようやくそれらしい文書を見つけた。
「お…これか。どれどれ…うわぁ…文春とか新潮とかあったら今頃帝国大炎上しているわ…」
その文書を一通り読んでから、一生借りておくことにした。必要なくなったら責任を持って処分するよ。さて、原状復帰をしよう。行きは少し難しいはずがが簡単だった。ならば、帰りはもっと簡単である。人に見つからないように、元にあるところに戻してとんずらすればいい。金庫内の文書も少し整理してから金庫から出て解除した時と逆のコードで再び金庫を閉じる。そして人払いの効力が切れる前に官庁から脱出して、家に帰った。時間は丑三つ時だった。
翌日、夜遅くまで探索をしていたためかあまり寝付けず、睡眠不足の状態で目が覚めた。起きた途端に蹴られた。今日は珍しく、師匠が朝を作ったらしく、おいしそうな香りがした。少し遅めの朝ご飯をいただくとする。
朝食を食べながら、いつもは今日の予定について話すことが多い。今日も例外無くその話だったが、予定は今日もロニーの看護と薬品調合である。
「そういえば、昨日はどうだった。成果はあったのか?」
「えぇ、まぁ。あまりにも警備が杜撰だったので」
と、俺は師匠の質問に答えていく。必要な物は手に入った。結果としては大成功である。そこで、俺はその流れに乗って、師匠にあの話を切り出した。
「師匠。」
「なんだ?」
「俺に魔術を教えるときにした約束を覚えていますか?」
「あぁ、一言一句覚えているとも。そして現在進行形で片方の約束は守ってもらっている。」
片方の約束というのは、自分の過去や前世の記憶について話すといったところ。もうひとつの英霊召喚に約束は果たせていない。だから、ここで試しってみるのはアリだろう。俺は意を決して、師匠に、もう一つに約束について話した。
「師匠」
「どうした」
「もう一個の約束。今月の15夜の日に果たせます。」
短いが、二人の間でなら通じ合う話。自分が旅立つことを決めたという決意を彼女に向けて話した。
次回予告
弟を助け出して、帝国を再興させようと考えていたクルスは遂に、13年前の機密文書を手に入れる。帝国中枢の急所を握ることに成功したクルスは、かつてリリスを交わしていた約束、英霊召喚の約束を果たすことに。そして、この約束が二人の別れの合図だった
次回「旧き兵器」
次回でサーヴァントを出すために約三話分を飛ばして書きました。どんな英霊が出てくるのか。予想しながらお待ちください。