そしてそんな作品に50人もお気に入りにして頂いている事を本当に感謝をしております。そして総UA5500越え。やったぜ。これからも頑張って書き続けるのでどうかよろしくお願いします。書く予定の作品についても楽しみに待っていただけたらと思います。
帝都に訪れて初日。今まで考えてきた策が通用しないことに気づき、早急に代案を考える必要が出てきた、クルスとロニーの二人。困り果てた二人は、現在アリアと名乗る少女の馬車の中にいた。
「にしても、国の情勢が危ない中で、人助けとは…とんだ変わり者だな。」
「よく言われる。でも、困っている人はほっておけないのよ…」
馬車に乗せられても尚、警戒を緩めないクルスに、変わらず微笑みながら返す。それにクルスは、内心警戒度をさらに上げる。そして、今度はロニーの方に顔を向けながら、
「そうだ、自己紹介がまだだった。私はアリア。貴方たちは?」
と、名前を聞いてきた。ロニーは失念したように、名前を言おうとしたときに、現在の自分の立場を思い出して口を噤む。それを察してか、クルスが口を開いた。
「俺はゼウベルト。辺境の地主の息子だ。そしてコイツがカルロス。ちょっと年の離れた友人で親父の秘書だ。父上から休暇を頂いてな。帝都に観光に行こうと思って来たわけ。」
と、真っ赤な嘘をさも本当のように言ってのけた。彼の言葉を聞いて、アリアが少し驚いたように、
「帝都が危険だと知っていて来たの?」
「いや、多少治安が悪くなっていることまでは知っていたが、まさかここまでひどいことになっているとは知らなくてな。それで警備の行き届いている宿に泊まろうとしたらどこも満席。野宿するしかないと思っていたところさ。」
アリアの質問に、クルスは半分嘘で半分本当のことを言った。その隣で、冷や汗をかいているロニーを気づいて、魔力共振で脳の信号を繋げた。
(どうだ?辺境の金持ちみたいだったろ。)
(ちょっ…急に脳内で語り掛けるな!びっくりするだろ!)
(元役人ならシャンとしろ。俺の一芝居で俺たちは金持ちの旅人になったわけだ。ウソがばれない限りは危害を加えようとはしないだろ。)
(なるほど…助かった。)
(お安いことだよ。)
と、テレパシー間で言った後に、魔力交信を切った。クルスの猿芝居を聞いたアリアは、心配そうな顔ををして、
「そうだったの。大変だったね。でも大丈夫。私の家で良ければ何日でも泊っても大丈夫だから。」
と、労うように言った。そう話している内に、馬車が止まり扉が開いた。そして馬車を操縦していた男がやってくる。
「アリア様。」
「ありがとう。案内は私がやるわ。」
「いえ…私が…」
「貴方は休みなさい。明日もあるでしょう?」
「はぁ…わかりました。」
アリアの言葉で、男は先に屋敷の方に向かう。「行きましょ。」という言葉を聞いて、二人は馬車から降りる。屋敷の外観はクルスから見ればかなり大きな屋敷。三階建てのバロック様式に近い建物だった。
「立派な屋敷だな。」
「ふふっ、ありがと。こっちよ。そう言えば夜は食べたかしら。」
「あぁ、それは大丈夫。」
三人は、そんな会話をしながら屋敷に入る。屋敷に入ると、複数の使用人に囲まれている清潔な装いの男女が迎えてくれた。
「ようこそ。私がそこのアリアの父だ。事情は護衛のジョージから聞いている。帝都から離れるまでここで休むといい。」
と、アリアの父が物腰柔らかにそう言った。二人は、それに少し驚きながらも、
「そりゃどうも。でも迷惑じゃないですか?」
と、クルスが返した。その返答を聞いて、男は声を出して笑いながら、
「心配ご無用。アリアのお節介癖はもう慣れているのでな。それに、治安が悪くなっている今、護衛も雇っているここはかなり安全だと思わないか?」
と、言った。
二人は、この広間で話した後に、使用人に連れられて寝室に案内された。それぞれの部屋に通されて、使用人が遠ざかったのを確認して魔力共振を使ってロニーとリンクさせた。
(聞こえるか?)
繋いだパスを使って、通信を試みる。すると、暫くの間を置いてから返信が来る。
(あぁ…慣れないなこれは。)
(すまないが慣れてくれ。これからも使っていく。)
と、交信を送ってから本題に移った。
(で、この家についてだが…)
(怪しいんだろ?俺だって信じ切っているわけじゃない。)
(それなら安心だ。ランサー)
『なんだい?』
交信で話しながら、ベッドの裏や、クローゼットの影になる部分にルーンを刻んで結界を張る作業をしながら自分の使い魔に話しかける。主の呼びかけに応じてランサーも聞き返す。クルスは、結界を張る作業を止めずに、
「ロニーの護衛についてくれ。この家はどうも怪しい。」
と、命じた。ランサーは少し考えるように間をおいてから、実体化していった。
「それがマスターの命令なら聞くけど。僕なら簡易的な探索も出来るよ。」
その質問に、クルスは間を置かずに返す。
「それやった方が速いのは承知の上さ。それを考えるのが億劫なくらいには疲れてるんだよ。今は、寝床を提供してくれているんだ。このアドバンテージ利用しない手はないだろ?奴らが真っ黒ならその時にでも考えるさ。」
「つまりは、利用できるところは利用すると?」
「そゆこと。」
マスターの言葉を聞いてから、実体化を解除して霊体化する。そして、
「それなら、了解した。なにかがあればまた言ってよ。」
「ありがとう、ランサー」
と、会話をやめる。そして共振先のロニーの方に念話を送る。
(というわけだ、今晩は体力を回復させることに専念。俺も簡易結界を張ってから寝る。)
(わかった。ではまた明日。)
と、ここで共振も切る。そして、結界を完成させてからベッドに飛び込む。その時にふと、自分の前世について考え始めた。思えば、自分がどう死んだのかを記憶ではあれど実体験としての体感が無いのである。それどころか、前世の自分がどうやって生きていたのかのかも断片的にしか思い出せない。よく聞く転生モノでは、前世の記憶で絶対的なアドバンテージを持っているものである。少なくとも彼が読んだことのある作品はそうだった。しかし、彼の記憶には自分がいる世界が、「アカメが斬る!」という作品らしいということだけである。それがどんな世界観でどのように物語が進行するのかもわからない。そして、今となっては、前世の時の名前も思い出せない。
「…こんな転生もあるんだなー」
クルスは、そう感嘆してから眠りについた。
その後、何も変化が無く朝日が昇り、朝になった。クルスが張った結界には大した変化はなく、エルキドゥからも大して変化はなかったらしい。朝食を食べに使用人に案内された先では、ロニーが何も変わらない様子で朝食を食べていた。そこには、アリアとその両親もいた。
「遅くなりました。」
「気にしなくていいよ。今から用意させるから。」
「何から何まで…申し訳ありません。」
と、クルスは言って、ロニーの隣の席に座った。すると、料理が次々に運び込まれてきた。
「いただきます。」
と、小さく呟いてからスープを口に入れた。野菜の優しい味のするコンソメスープである。
「あ、そうだ。ゼウベルトさん、カルロスさん。貴方たちが良ければ、私が帝都を案内できるけど…案内しようか?」
スープに舌鼓を打っている時に、アリアがそんな提案を投げかけた。アリアの両親たちもそれに賛成のようで、
「あら、いいじゃない。」
「僕も賛成だ。ジョージ達に護衛を頼んでくれ。」
母親が感心したように言い、父親が賛同して護衛の手配を使用人に頼んでいた。その様子を見て、ロニーとクルスが一瞬目を合わせた後にアリアの方を向いて。
「じゃあ、その厚意に甘えようかな」
と、快く返事した。
朝食を食べ終えてから少し時間が経ち、クルスとロニーはアリアとその護衛と共に帝都の中心部で買い物をしていた。
「昨日、帝都が危険だって言ってたけど。」
「そうね。確かに治安は悪くなったけど、その分警備隊も強化されてるから日中の観光でいうならそこまでじゃないわ。でも夜は危険よ。野盗も活発だし、何よりナイトレイドがいるから。」
「ナイトレイド?」
アリアから出たナイトレイドというワードに疑問符を浮かばせる。それに、ロニーと護衛が少し驚く、
「おいおい、ナイトレイドも知らずに帝都に来たのか?」
「クル…ゼウベルト。流石に俺も知ってるぞ。」
二人はそう言って少し呆れながらも、護衛が説明を行った。
「ナイトレイドは、主に貴族や役人を標的にして暗殺を行う集団だ。ご主人様の友人の何人かはナイトレイドの手によって殺されている。皮肉なことに、庶民からは一定の支持を受けているがな。」
護衛の言葉に、ロニーが補足を入れる。
「役人といっても悪徳役人が多く殺されているらしいからな…。気の毒だが民衆の支持が集まるのは無理もない。…あぁ、君の主の友人を愚弄しているわけじゃない。ただ、そんな時代だったてだけだ。」
ロニーがそう言った後に、壁に貼られている手配書の方に指を指す。そこには様々な手配書があり、一部の手配書にはナイトレイドの表記があった。クルスはそれを見て、
「ナイトレイドね…民衆から見れば義賊ってやつか…。」
と言って、壁に貼ってある手配書をはがして鞄の中に入れた。その行動に護衛が、
「何をしている?」
と、聞く。それにクルスが振り向いて。
「田舎じゃこんなの無かったからね。記念だよ、記念。」
と言って、三人の下に戻った。護衛はそれに若干怪しみながらも、これ以上は何も言わなかった。その後、帝都に関する観光地を回りながら、アリアの買い物の手伝いをしていた。というよりも、後半はほぼアリアの荷物持ちだった。護衛に助けを求めたが、護衛も荷物持ちになっていたため助けを求めることもできず、結局帰るまで荷物持ちをやっていた。
その晩、朝食と同じように夕食を食べて、風呂にも入れさせてもらってから部屋に戻った。ロニーには、買い物でこっそり買った帝国内の地図である場所に向かうための最短ルートを作ってもらいつつ、帝都内の地図と、リリスからもらった地下道の図面を暗記してもらっている。クルスは、使用人が離れたタイミングで、ランサーを呼び出した。
「どうしたんだい?」
と、実体化して話しかける。クルスは、ランサーの方を向いて口を開く。
「今日、屋敷内の探索をする。気配探知で周りを見張ってほしい。」
「いいけど…目的は?」
「この家が抱えているかもしれない秘密を探る。」
「なるほど。…マスターは、この家に何かあると踏んでいるんだね。」
「あぁ。辺境から来た奴にあそこまで優しい対応が出来るか?こんな情勢の悪い時期にやってくる旅行客なんて、俺ならかなり疑うよ。」
「わかったよ。実は僕も気になっている所があったんだ。この際だから一緒に行こう。」
話がわかったランサーは、霊体化する。それと同時にクルスは自身に透明化の魔術をかけて周りから見えないようにしてドアの前に立つ。すると、
『通行人無し。このフロアに来そうな人は居ないよ』
「オッケー。」
ランサーのナビに従ってドアを開けた。そしてランサーが気になっているという場所に案内してもらった。案内された場所は、屋敷から少し離れた古びた倉庫。クルスはその倉庫の目の前にいた。
「ここか?」
『そう。ロニーの護衛ついでに敷地内を散策してこれを見つけたんだ。開けるかどうかは迷ったけど、マスターの意見も聞きたかったからね。』
そう話しながら、クルスは倉庫の周りを歩いてみる。見た目は古びた倉庫だが、扉や鍵が新しいものに買い替えられている。それも屋敷の扉よりも厳重になっている。そしてそこまで厳重に鍵をかけているのに関わらず、護衛は一人もついていない。そして周りとはかなり違う空気。言ってしまえば心霊スポットみたいな感覚である。
「確かに、これは何かありますわ。あとなんか匂うよね。」
『近づいてみてはっきりしたよ。血の匂いだよ。』
「…マジ?」
自分の使い魔の言葉に、クルスは顔を青ざめる。顔色を悪くした主を見て、ランサーが実体化する。
「ただの屠殺なら良いと思うけど。ここではそれも難しいのかな。」
ランサーの言葉を聞いて顔色を悪くしながらも、右手を地面につけて術式を編む。人払いの結界を作り、その範囲を倉庫のを中心にギリギリ屋敷にかからない程度に広げる。そして倉庫の裏口に回り込んでから深呼吸をする。
「…よし。いくぞランサー。」
「あぁ。」
短く会話をした後に、鍵に手をかけて魔力を流し込む。そして流し込んだ魔力を一気に内側から破裂させた。すると、鍵が軽い破裂音と共に壊れ、裏口の扉が開くようになった。少し間をおいて、扉を開ける。
扉を開けた後に、倉庫から濃い臭いが流れ込む。その臭いは無機物から発せられたものではなく、有機物から出た腐敗臭。そしてそれに混ざって濃厚な血の臭いも。
「ヤバい!」
クルスはその臭いを嗅いだ瞬間に反射的に臭いを除去する魔術を使用。これで漂っていた死臭は蔓延する前に霧散した。クルスは、中にあるものの重大さに気づき、ランサーに、
「ランサー。入口を守ってくれ。何かあれば呼ぶ。」
「わかった。気をつけて」
と、頼んだ。ランサーはそれに応えて入り口付近で座る。クルスはそれを確認してから倉庫の中に足を踏み入れた。
臭いを除去できたは良かったが、倉庫内の見た目まではどうしようもできない。辺りには、衣服と思しき布切れ、人の髪と思しき毛が散らばっていた。異様過ぎた光景に吐きそうになるところを、必死に抑えながらも入口の方まで進む。すると、倉庫の開けた場所にたどり着く。そこは光が一切差し込まないため暗闇である。
「…光よ」
クルスはそう唱えて宙空に光を灯す。そして、光で見えるようになった倉庫内を見まわした。遅滞していた臭いは除去できても、常に発生する血と腐敗臭が漂う。そして、辺りには多くの死体が転がっていた。中には、死んでから相当期間が空いたのか、肉が解けている遺体もある。牢屋の中にも、吊るされていて見るも無残な姿になっている者もいたここでこらえていた吐き気も、喉元までせりあがるがそれも無理矢理抑え込む。口に手を当てながらも、先を歩く。音の無い空間で、彼の足音だけが響く。
「…ひどい……人のやることじゃねぇ…。」
光を片手に、この常識はずれな状況に唖然となる。そして入口の方まで歩いた後に振り向いてこれをどうしようかを迷っていると、
「ねぇ……あなた…どこから…?」
と、彼の頭上から声が聞こえた。クルスが顔を上げると、そこには吊るされた、体中を斬りつけられたと見える少女の姿があった。彼はそれを見た瞬間に、目をそらしそうになったが、必死に耐えて答える。
「裏口からだ。待ってろ、今助ける!」
そう言って、ランサーを呼び出す。ランサーはそれに応じて、少女の頭上で実体化してから彼女を繋ぐ縄を切る。体重を支えるものが無くなって自然落下するが、ランサーの鎖に巻き取られて、ゆっくりと降ろされた。クルスは、すぐに彼女の傷の治療を行おうとしたが、少女がそれを止めるように腕を掴む。
「私は後でいいから…そこの彼を助けてくれる…?ルボラ病にかかっているの…」
少女の言葉に、つられて後ろを振り向くと、全身に特徴的な斑点を浮かばせていた少年が見るからに衰弱していた。クルスは、少女をランサーに任せて少年の方に向かう。そして、魔術で彼を閉じ込めていた檻を解除して入った。
「おい!返事はできるか!?」
クルスが声をかけても反応をしない少年に、彼は脈や呼吸を確かめる。
「息はかろうじて、脈は…少ないか。どっちも時間をかけられないし…ランサー!彼女をこっちへ!」
「わかった!」
クルスはランサーの手を借りて、少女を自分の所に近づけさせる。少女は、意識が途切れかけており何を言っているかも判別が出来ない。
「大丈夫…治療なら何度もやってる…。ルボラ出血熱の知識もある…。よし」
彼は、そう自分に言い聞かせて、彼らの上に術式を展開する。片方は毒素を抜き取り、内臓機能を修復させる術式。もう片方は傷を修復させて、その上で回復させる術式。種類の違う術式を同時展開。最大出力で展開しているため、魔力と精神力はその分削れる。倒れそうになるのを耐えながらも術式に魔力を送り込む。
治療開始から30分。少女の方の容体が安定してくる。傷はふさがり、ダメージの回復をしていたが息が安定していき、峠は越えたようだった。クルスは彼女にかけていた術式を解除して、全精力を少年の治療に充てる。体内の毒素は全て浄化出来たが、この毒素によるダメージが大きく、回復に相応の時間がかかるようだった。だが、もう少し回復させてから療養をすれば何とかなりそうである。
「あと少し…あと少し…」
クルスはそう呟いて、集中をする。そしてさらに30分の時間がかかる。ようやく自然治癒が出来る程度まで落ち着いたのを確認をした後に術式を解除して、その場に座り込んだ。二人は、寝息を立てている。
「はぁ…キッツ…」
そう呟きながら、檻の外で転がっている死体に向けて魔術を展開した。
「マスター、何をするつもりだい?」
ランサーの質問に、
「心が痛むが、二人とうり二つな偽物に作り替える。二人がいなくなったのを知った場合、まず疑われるのは俺たちだ。帝国の内政に入り込む前に悪目立ちするようなことはしたくない。」
と、返して二人にそっくりなものを作り終える。そして、ぐったりとしながら、
「すまない、この少女のものを吊るしてくれ。」
と、頼んだ。ランサーはマスターの意見に納得して少女に偽装した遺体を吊るす。そして、マスターの所に戻って、
「見捨てられないからってかなりクレイジーなやり方だね。嫌いじゃないよ。」
と、笑いかけて手を差し伸べる。クルスはそれを掴んで立ち上がる。そして、自分の上着を、裸同然だった少女にかぶせる。そこで何かに気づいたようにランサーに話しかける。
「そういえば、まだ朝にはなってないよな。」
それに、ランサーは少し考えてから、
「まだ夜だよ、マスター。」
「じゃあ、俺の部屋に運ぼう。行きと同じく探知よろしく」
ランサーが答え、それにクルスは二人を担いでから檻を出て、透明化の魔術をかけた。もちろん檻の方も鍵をかけた。ランサーは、それをそれに答えずに霊体化した。
クルスは、そのまま倉庫を出て、ランサーの探知を頼りに自室まで戻った。
そんな夜が明け、朝が来た。少女をベッドに寝かせており、少年は、ソファに毛布をのせた簡易ベッドに寝かせている。クルスは床で雑魚寝である。そんな自室にノックオンが響く。
「ゼウベルト様、朝食の準備が出来ました。」
ノックを聞いてクルスが目を覚ます。そして一気に意識が覚醒する。とにかく、今この家の関係者を部屋に入れるわけにはいかない。
「わかりました。今行きます。後、今日は部屋に入らないでくださいね。」
「何故でしょう。」
「…部屋に、大きな鳥が入ってきまして。その鳥が怪我してたんですよ。私の手で治療はできましたが他の人が入ると興奮して傷が広がる可能性があります。」
と、答えた。その後少し間をおいて「わかりました」と言って部屋を離れた。使用人の足音が離れていくのを確認してから、寝ている少年と少女を見る。すると、少女の方が目を覚ましてまどろみ始める。そして、少しの間をおいてから、病み上がりとは思えないスピードで起き上がり、クルスに襲い掛かる。それにクルスは驚きながらも後ろに下がり、彼女の拳を受け止める。そのまま、腕を捻って関節技に持ち込んで彼女を動けなくした。そして、
「落ち着け…!俺は昨日の奴だ。」
と、言った。それに彼女が正気に戻ったかのようにクルスの方を向いた。そんなことをしていると、ドアからまたノックが響いた。
「少し大きい音がしましたが、大丈夫ですか?」
それに、クルスは冷や汗をかきながら少女の方に視線を向ける。少女は察したかのように力を抜いて黙りこくった。それを確認してから、
「はい、大丈夫です。少し暴れただけです。今落ち着きました。」
と、返した。再び、離れる足音を確認してからクルスは大きくため息をついた。そして少女も力が抜けて彼の方に寄りかかる。
「おい…大丈夫か?」
「はい…。助けてくれてありがとうございます。」
心配して彼が聞くと、少女は疲労感が残った顔で返した。クルスはその少女をベッドに連れて寝かせた。そして、
「話は後で聞く。今は怪しまれないようにしたい。少し待っていてくれ」
と、彼はランサーに念話で彼らの監視と警護を頼んでから朝食に行った。
朝食を手早く食べ終わってから、ロニーに自室に来るように言ってから部屋に戻った。理由をつけて色々な食事も持って行っている。
「…食べないのか?」
「えぇ、ここでもらった物ですよね?私たち、ここの料理を食べてひどい目に遭ったから。」
「そうか…それは配慮が足りなかったな。じゃあ…」
と言ってから、クルスは自分の荷物の中を探る。そして目当てのものを見つけて、
「こんな保存食でよければ。」
と、乾パンを差し出して言った。少女はそれを受け取って食べ始めた。食欲があることを確認が出来たクルスはそれに安心して、彼女に質問を始めた。
「さて、いきなりで悪いが。色々聞いてもいいか?」
「はい、何でも聞いてください。」
「わかった、食べながらでいいから聞いてくれ。」
と、食べる手を止めた彼女に食べるように促してから質問を始めた。
「自己紹介が遅れたな。俺は、クルス・メーヴィン。ラボンから来た。君は?」
「サヨと言います。あそこで寝ているのがイエヤス。ここから北西の村からタツミと三人で、軍に入るために帝都に来ました。」
「なるほど……そのタツミ君はどこに。」
「はぐれました。アイツ、本当に方向音痴なんだから…。」
と、サヨが心配そうな顔をして俯いた。クルスは、少し考えてから質問を続ける。
「帝国軍に入って何をしたい。西のブルターニュの征服か?革命軍の駆逐か?」
その質問に、彼女は、
「そのどちらも違います。私たちが軍に入れば、村に給料の仕送りが出来るし、村の食い扶持も減らせるし…私達は戦争をしたいから来たわけじゃありません。イエヤスとタツミは自分がどこまでやれるかを試したいとか言っていますけど…。」
と、答えた。クルスはなるほどと思いながら少し考え事をする。すると、ドアからノックが響く。
「何?」
「ロニーだ。」
「大丈夫だよな?」
「あぁ、平気だ。」
と聞こえてから、ロニーが部屋に入ってきた。彼は、ベッドにいる少女と、ソファで寝ている少年を見て少し驚く。
「クルス君。これは?」
ロニーの質問に、
「訳アリだ。」
とだけ、返した。
次回予告:
なりゆきで田舎からやってきたサヨとイエヤスを助けたクルス。彼女の話を聞いた彼は、二人を仲間に引き入れようと考え、彼らを休ませるために屋敷から出ることを決意する。そしてちょうどその時に、ある男が戦場から帰還するのであった。
次回『狼の帰還』
偽名は私が敬愛するサッカー漫画「GIANT KILLING」に出てくるサッカー選手の名前を拝借しました。