長くなりそうだったので分割予定です。
「現在、王都再開発計画は当初想定した工程の4割が完了した。またこの計画の実施に伴った人的、物的資源の流通により王国経済は過去十数年の中でも断トツの好景気を迎えている。我が計画に賛同いただいた貴族の皆には改めて感謝の言葉を贈りたい。この事業の成功を足掛かりとして王国全土の主要幹線道路の整備を進めていけば、貴族だけでなく、王国臣民にも多大な利益をもたらし、帝国をはじめとした周辺各国に対しても王国の威を再び示すことができるだろう」
その日の宮廷会議はバルブロの計画進捗報告から始まった。
再開発計画は嘘偽りなく順調に進んでおり、ザナック第二王子による説得や、利益に敏い有力貴族による協力表明により無関心であった大半の貴族からの支持を得るに至った。
第一王子直々の労いに貴族も思わずニッコリだ。
しかし、彼が続けて放った言葉によって場の空気が一変した。
「しかし、先日王都を視察した際に俺は偶然にも人身遺棄の現場に出くわしてしまった。事もあろうに王の膝下たるこの王都でだ。しかも、その下手人は犯罪結社『八本指』の構成員であった」
今日の王国を裏社会から脅かす大物犯罪結社の名前が出ると貴族たちはざわめいた。
特に現王ランポッサ三世は犯罪結社の行いに憤りを覚えながらも表情にに出さぬ様努めていたのだろう、しかし杖を握る手が震えている事からその怒り様は明らかだ。
「突然の事であった故、件の下手人は取り逃がしてしまったが、これは王国の一大事であるという事は皆も理解してくれよう。そこでだ、今日は我が妻からその事について提案があるそうだ。クロエ、あとは任せる」
「ご紹介ありがとうございます王子」
バルブロに促されたクロエが貴族達に振り向けたのは、それはもうこれ以上に無い満面の笑みであった。
第1話から読んできた勤勉な読者諸氏ならもうお分かりだろうが、クロエの笑顔は悪属性特効精神兵器である。
故に今日の笑顔の破壊力は生後二十余年の中でも最強クラスに達し、敢えて言うならば笑顔のベストオブベストである。
僅かでもやましさがある者ならば、その笑顔がもたらすのは憤怒に相貌を歪めた大神、もしくは大龍を目と鼻の先に臨む心地であろう。
その証左に、会議に参加している貴族や警備を担当する衛兵の中には頭痛、目眩、吐き気を覚える者、急な動悸に胸を押さえる者、体表に発疹や発汗を浮かべる者、幻覚や幻聴に小さな悲鳴を上げる者など、反応は様々だがパニック症状を引き起こしていた。
しかしながらここは天下の宮廷会議、権謀術数の一丁目一番地である。
わずかな隙きを見せようものならば取って食われるが常の戦場に立つ者が己の軟弱を晒す訳もなく、ある者は文字通り体にムチを
まぁ心当たりのない人にとっては無害なんですがね。
現にバルブロ第一王子や実父ボウロロープ侯なんかは「いよっ!待ってました!」と言わんばかりにニッコニコでクロエの演説を待っているのである。
「さて、第一王子よりご説明いただきました再開発計画に加え、今年は法国の越境活動に端を発して、対帝国戦争回避の兆しが見えてきた事からもわかるように、我々は王国の歴史においても類を見ない重大な局面に立たされています」
「再開発計画により王国の経済は回復しておりますが、これを歓迎するの我々ばかりではありません。犯罪の温床たる裏社会も私腹を肥やそうと表社会にも影響を及ぼすでしょう。バルブロ第一王子が八本指の犯罪行為を目撃したのもその予兆と言っても過言ではありません」
「今ここで我々が八本指をはじめとした犯罪者らを抑え込めなければ、『王国はならず者にすら屈する無能』と
この発言を受けて愛国心ある貴族たちからは「そうだそうだ」と賛同の声があがるが、それらはあくまで地方の小貴族からのみであり、六大貴族をはじめとした有力貴族は出方をうかがい静かに頷くのみに留めていた。
「ゆえに、私は今この場において王都全域における犯罪勢力一斉摘発作戦『王国頂上作戦』の実施を提案します!」
※※※※※※
王都全域における犯罪勢力一斉摘発作戦。
通称『王国頂上作戦』
王国最大勢力の犯罪結社『八本指』首脳陣および幹部構成員の逮捕、並びに八部門の活動拠点と一切の運営資産の押収を目的とした取り締まり作戦である。
作戦名の元ネタは検索してくれると助かる。
原作ではデミウルゴスの謀略によりその機能をごっそり丸ごとナザリックに吸収されてしまったが、クロエはそれを良しとしようと思っていなかった。
むしろ、
原作では八本指編が大好きなクロエにとって、それだけは決して譲れないのだ。
「本日より作戦終了までの期間、王都全域と王都から全土に繋がる各種道路、水路の警備を強化、検問所の設置により夜間の人と物の出入りを制限します。これに伴い、既にボウロロープ侯より精鋭兵団2000名の動員が確約されています」
「に、2000ですと!?侯は戦でも始める気ですか!」
これには王派閥を自称する
「相手はならず者と言えど悪名高い八本指、中にはアダマンタイト級冒険者に匹敵する者もいるとなれば、戦をするつもりで兵を揃えねば勝ち目がないと考えるのは当然であろう……」
「義父殿の肩を持つわけではないが、王都はその歴史の古さから公には知られていない古い地下道や水路が点在している。王都の騎士や衛兵を総動員しても見つけ切れるかがわからない程にだ。この作戦の成就には何よりもまず人手が重要なのだ」
ボウロロープ侯がさも当然と返し、バルブロも王都の特性という別の視点から援護射撃をした。
余りのド正論にブルムラシュー侯は唸る事しかできなくなり、すごすごと引き下がった。
「ブルムラシュー侯の懸念は私も承知しています。戦場の象徴たる兵士が日常生活の場に見えては市民も恐怖を感じずにはいられないでしょう。更には夜間のみと言えど流通を制限するため、経済にも影響が出る可能性があります。だからこそ短期間で決着をつけなければならないのです。王国の鍔際、派閥を越えて取り組まねば成功はありえません。……どうか皆様、ご検討をお願いします」
クロエは貴族達とランポッサ三世に深々と一礼すると自分の席に着いた。
バルブロとボウロロープ侯は満足といった様子で「よくやった!」とジェスチャーでクロエに伝えてきた。
それにしてもこの二人、相当仲が良い。
(とりあえず無事に作戦をぶち上げられましたわねぇ……)
あとは貴族連中が正しく損得勘定ができる事を祈るばかりですわー、とクロエは派閥に分かれて議論を交わす貴族たちをみやり心の中で呟く。
八本指の影響力は凄まじい。
当然、その甘い汁はライラの黒粉とセットで一部の貴族にも蔓延していた。
この作戦の情報はこの会議に参加した貴族から当然八本指にも伝わるだろう。
そして、当の貴族は作戦に賛同することで身の潔白を証明しようとするだろうとクロエは考えていた。
(まぁ〜、んなぁ〜事は見逃さねぇーんですがねぇ……)
鮮血帝の如く粛清するとまではいかないが、対象の貴族の皆様にはデトックスの為に『
鬼か。
いや、公明正大なクロエ様である。
良かったな、ここがシベリアじゃなくて。
「……皆の者、結論を聞こう」
ランポッサ三世が貴族たちにたずねると、最初に王派閥のウロヴァーナ辺境伯が、続けて貴族派閥のレエブン侯が答える。
「王国200年の歴史を連綿と受け継いできた我ら王国貴族、王国の未来のためにクロエ妃殿下の作戦に賛成いたします」
「我らの総力をもって国難を乗り切る所存であります」
両名からの答え、つまりこの場にいる貴族の総意を受け取ったランポッサ三世は深く頷いた後に王座から腰を上げて宣言した。
「良かろう、ではリ・エスティーゼ国王の名のもとに命ずる!八本指なる不届き者らを一人残らず引っ捕えよ!」
『ははぁーっ!!』
こうして、王国は八本指に対して事実上の宣戦布告を行うに至ったのである。
※※※※※
王都近郊 ボウロロープ侯私兵部隊「精鋭兵団」宿営地
「あれほど威厳あふれる国王陛下を目の当たりにしたのは数十年ぶりだ」
「そうなのですかお父様?」
宮廷会議の後にクロエは実父ボウロロープ侯に連れられて秘蔵の私兵部隊「精鋭兵団」の視察に訪れていた。
「うむ、陛下はああ見えてかつては勇猛果敢を文字通り体現されていた方でな。わしも若輩の身であった頃は何度叱咤されたことか」
父親が過去に思いを馳せている横で、宿営地内を行き来する兵士たちの様子を見てクロエはたずねた。
「それにしても兵士の武装が帝国戦のときと異なりますわね」
「お前に派遣を頼まれたときに市街地や室内であれば従来の装備は不向きだと感じてな。思い切って一新してみたのだ。一見すれば厚手の革服だが、下には鎖帷子と鋼鉄製の膝当て、肘当てを仕込んでおるし、靴にも鉄板を仕込んておる。防御力を落とさずに歩兵の機動力を高める工夫だな」
「なるほど、あと装備が黒一色な理由は?」
「夜間の奇襲戦を想定したものだ。黒色であれば輪郭が把握しづらく存在の威圧感も高まるから一石二鳥だとは思わんか?」
「……私、お父様の口から突撃以外の戦術用語が出てきた事に凄いビックリしてますわ」
「親に向かって何だ貴様ァっ!?わしだってこの歳になっても勉強くらいはしとるわいっ!」
クロエが驚くのも仕方のないことだが、歴戦と謳われるボウロロープ侯も貴族であり、当然ながら突撃戦術を「伝統」として信奉していた一人である。
しかし、クロエとの図上演習が彼の戦術的価値観に衝撃を与えてしまったのだ。
クロエは自身が運営する武具工房の費用調達のために父親をはじめとした貴族相手に図上演習をふっかけて、その都度開催される賭けで稼いでいた。
ボウロロープ侯も最初は伝統に従い通常兵種による人海戦術を用いてきたが結果は惨敗。
ある時は少数のビーストテイマー部隊によるスタンピード戦術で蹴散らされ、
ある時は森林地帯に仕掛けられたブービートラップで兵士の数を減らされた所に高所からの集中射撃で蹂躙され、
またある時は要塞内に続くトンネルを掘られ、戦略物資を焼かれて兵糧攻めに遭うなど、戦争の王道とも言える「数でぶん殴るという行為」を許されなかったのだ。
「これが演習、しかも図上演習で本当に良かった」
ボウロロープ侯は敗北を喫する度にこの言葉を口にしていた。
国王直轄の戦士団に対抗して設立した「精鋭兵団」。
虎の子とも言える私兵部隊をもってしても覆らぬ敗北はボウロロープ侯に「いかにして部隊の生存率を高めるか」という事の重要性を気付かせた。
こうして「精鋭兵団」の改革は始まったのだ。
まずは指揮系統を分化し、各部隊に隊長職を設けた。
続けて伝令に変わる情報伝達手段を構築し、
更には陣地構築や偵察など戦闘以外の技能に特化した部隊を新たに設立した。
他にも上げればキリが無いが、ボウロロープ侯が中央政治の場から離れていた理由はこれが原因である。
「今ならば陛下の戦士団を相手にしても負ける気はせぬ」
「そりゃ数的有利を考えればお父様の兵団が上ですからねぇ」
「練度の高さでギャフンと言わせるのだ!」
「こう、ギャフンと!」と手のひらに手刀を振り下ろすようなジェスチャー付きで言うボウロロープ侯はその強面も相まって普段の厳つさからは想像もできない愛嬌が感じられて、クロエは思わず吹き出してしまった。
「ふふふ、その時は是非私も観戦させていただきますわ。本当にギャフンと言うのか楽しみですもの」
「お前いつもそうやってバルブロ殿下をからかっているのだろう?……ほどほどにしておけよ。やり過ぎると相手も雄としての自信を失ってしまうからな」
「あー、……善処しますわ」
※※※※※
「いやぁ、それにしてもすげぇ宿営地でしたわね……。キルハウスみたいなのもありましたし」
おそらく八本指の施設に乗り込む事を想定して設置したのだろうか、宿営地の隅みに設置されたハリボテを思い出しながら実父の先見性に改めて驚嘆していた。
自らも挑戦した軍制改革は王国の財務状況や人材不足が理由で挫折に終わってしまった。
しかし、実父は私兵という違いはあるが確実に改革を成し遂げていた。
図上演習にしてもそうだった。
実父は同じ手には二度とかからず、最近はクロエも危うい場面に遭うことが多くなっていた。
結局のところ「餅は餅屋」、未来の知識を有しているとはいえ小娘の付け焼刃程度の知識と歴戦の戦士の持つ感性では、後者に軍配が上がるのは明白であった。
「ぶっちゃけマリウスかくやと言うべき手腕……、私兵部隊の責任者として腐らせるのは勿体無いですわね」
実父を前世の偉人になぞらえて評価したクロエは、何としても手柄を挙げさせて、国家規模の軍制改革を任せたいとまで考えていた。
「さて、明日はラナーとラキュースに会って八本指捜査の情報交換もしなきゃですから、ちょっと休憩を……」
クロエは宮廷会議のスピーチ準備を徹夜でやっていたせいもあり、少し仮眠を取るためソファーに寝転がっていたが、部屋のドアをノックする音が聞こえたので飛び起きた。
「クロエ様、バルブロ様がお呼びになっております」
「んぇ?バルブロ王子が?」
「はい、なんでも客人がいらしゃったので会っていただきたいようです」
「うーん、わかったわ。王子にはすぐ行くと伝えて」
※※※※※
身だしなみを整え、バルブロの待つ部屋に向かったクロエが目にしたのは意外な人物であった。
「紹介しよう。こちらが我が妻のクロエだ。クロエ、この前話した執事のセバス殿だ」
「お初目にかかりますクロエ妃殿下。私、セバス・チャンともうします。本日はバルブロ王子殿下にお借りした上着をお返しする為に伺わせていただきました」
「お会いできて光栄ですわセバス様。貴方の勇姿は夫から聞いていましてよ」
(キャーッ!生セバス!生セバスキターっ!)
「ナザリックのぐう聖(クロエ談)」と名高いセバス・チャンを目の前にして興奮したい気持ちを抑え、クロエは笑顔で老執事に挨拶をした。
「お褒めに預かり光栄の極みでございます殿下。しかし、私は為すべきことをしたまでです」
「ハハハ、セバス殿は謙虚でもあらせられるのだな。ところで、あの時の少女の容態はそれからどうなっただろうか?」
「はい、予断を許さない状態ではありましたが、王都で知り合いました治癒師様の尽力により無事峠を越えました。しかし相当怯えているようでしたので、しばらくは当家にて保護を続けようかと考えております」
(なるほど、ここは原作基準って訳ですわね。すると今日か明日にでもスタッファンあたりが訪ねていく可能性があるという事……確かその後にソリュシャンが誤報を飛ばしてしまうのでしたわね)
(となると、モモンガさんに誤報が入ってしまう前にソリュシャンをそれとなく説得、「王家もサポートしますから心配いりませんよー」という事を直接アピールしなければ
いけないですわね!)
クロエはセバスが訪れた理由を「バルブロの上着を返却しに来た」と判断した。
そしてそれはたしかに間違いではなかった。
しかし、既にセバスはモモンガに事の次第を報告を終えており、その結果クロエはナザリックにおいて要注意人物に指定されていた。
その為、次のような展開となるのは必然であった。
「ねぇバルブロ王子、せっかくだからそのお嬢さんのお見舞いに行きましょうよ!」
「む、見舞いか。……確かに良いな!セバス殿、どうだろうか!」
突然の申し出にセバスは焦っていた。
確かに事情を知っている者が見舞いに訪れるというのはごく自然の反応である。
しかし相手は
仮の拠点とはいえゴーレムやガーゴイルといった防衛機構を備えている為、仮に看破されてしまった際に背後のナザリックに気づかれる恐れが大いに有る。
(しかし、ここで断ってしまうのも不審がられてしまう可能性がありますね……)
どう答えればよいか、セバスは暫し黙考していると、在りし日のナザリックで至高の御方達がしていた会話の内容を思い出した。
『空城の計?』
『ええ、孫子の兵法ですよ。敢えて無防備に見せかけて相手に不要な警戒をさせるんです』
『つまりノーガード戦法って事だろ?大丈夫なのかそれ?』
『侵入者が対峙するのは天下御免のDQNギルド「アインズ・ウール・ゴウン」ですよ?不自然なくらいまでノーガードで構えていても相手が勝手に警戒してくれますって』
『確かに……っていうかDQN言うなし』
いくら看破能力が高いといえど、看破する罠が無ければその能力は封じられたも同然。
そして有事となった場合も室内という限定された空間においては近接戦闘力に長けた自分とソリュシャンがいる。
殲滅はできずとも、ナザリックに危機を知らせることは可能だと、セバスは判断して答えた。
「えぇ、私個人としては問題ございません。ただ、彼女の体調面の事もございますので、後日改めてご招待させていただいても宜しいでしょうか」
(駄目ですわ!セバスっ!それはダメッ……!悪手……!圧倒的悪手っ……!このままではツアレに向かって正拳突きしなきゃいけないルートまっしぐらですわよ!)
今度はクロエが焦った。
あまり他所様の事情に突っ込むのは感心できない行為だが、やはり原作を知っている以上、手助けしたいという気持ち生じてしまうのだ。
「む、そうか……。明日以降は王都南の工事で留守にしている事が多くなってしまうから都合が合いにくくなってしまうのだが……」
(バルブロ!ナイスアシスト!)
「じ、じゃあこうしませんこと?これからセバス様のお宅に挨拶だけさせて頂いて、お見舞いについては都合がついてからということで……どうかしら?」
(むぅ、なかなか引き下がりませんね。……仕方ありません。シャドウデーモンを使ってソリュシャンに王子夫妻の来訪を伝えましょう)
「それならば問題ないかと思います。お嬢様も両殿下とお会いできると知れば大層喜ばれる事でしょう」
「セバス殿、妻の急な申し出を受けていただき申し訳ない。この埋め合わせはいつかさせて頂こう」
バルブロが頭を下げたのと同時に、自らの影に潜ませていたシャドウデーモンを屋敷のソリュシャンに向けて放ったセバスは人の良さそうな表情で答えた。
「いえ、殿下には個人的に恩義を感じておりますので、今度はこちらからお返ししなければなりません。なので、今はそのお気持ちだけ頂いておきます」
※※※※※
王都 高級住宅街
「へぇ、つまりソリュシャン様はセバス様と二人で王国にいらしたのですね」
「はい。当主様の方針でお嬢様に見聞を広めていただく事が目的なのです」
王城から屋敷までは王家所有の馬車で行く事となった。
というのも、バルブロの巨体では普通の馬車に収まりきらなかったからである。
なんとか収まったものの、同じシートに座るクロエがなんとか窮屈を避けられるだけであり、当のバルブロは背を屈めたりと窮屈な事に変わりがなかった。
「帝国と講和を結んたら帝国製の馬車を買いましょう」というのは、偶然その光景を目の当たりにした第二王子ザナックの言である。
「そろそろこの辺りですが……おや?」
「セバス殿、どうかされたか?」
「屋敷の前に衛兵が2名おりまして……何かあったのでしょうか?」
セバスの視線を追うようにバルブロも窓から外を覗くと、確かに一件の屋敷の前に衛兵が立っていた。
「……もしやあそこがセバス殿の屋敷なのか?」
「はい、間違いありません」
「……!ばっ、バルブロ王子に、敬礼っ!」
するとこちらに気付いたのか、衛兵は姿勢を正し敬礼を行った。
「御者、ここで停めてくれ。……衛兵、この屋敷で何かあったのか?」
「はっ!現在こちらの屋敷にヘーウィッシュ巡回使様が訪れており、我々はその警備の任に就いております!」
「巡回使だと?」
(ヘーウィッシュ?……スタッファン・ヘーウィッシュ!?)
八本指編における
(こいつぁ……なかなか愉しめそうですわね!)
「まぁ!ちょうど私達もこちらのお宅に用がありましたの。折角だからその巡回使さんのお仕事ぶりを見学させていただこうかしら」
「く、クロエ殿下ぁっ!?あ、し、失礼しました!いえ!しかし……ヘーウィッシュ様より誰も通すなとの命令を受けておりまして」
「まぁまぁ、王子夫妻の来訪だから寧ろ喜んでくれると思いますわよ?ここはちょっとしたサプライズということで……通してくれませんこと?」
「あー済まない。クロエはこうなると止まらないのだ。俺から君たちの上司には後から説明するから、ここは通してくれまいか?」
何が何でもゴリ押そうという姿に「絶対に譲らない」というメッセージ性を感じたバルブロも仕方なく援護に入ると衛兵達も仕方なくといった様子で三人を屋敷の中へと通した。
「……俺達、両殿下に声を掛けられたんだよな?」
「うん、会話の内容は別として王族の方と直接話せるって、これ誇っていいと思うわ」
「というか、バルブロ王子ってやっぱデケぇ」
「それな」
その後屋敷の中では愉快な事が生じるのだが、門前の衛兵達は知る由もなかった。
・クロエ、八本指検挙作戦を大々的に発表。
ランポッサ三世「たとえ最後の一人が便所のすみに隠れていようと見つけ出してやる」
・有能軍人と化したボウロロープ侯
※一新した精鋭兵団の外観は某カリオストロの城に出てくる埼○県警機動隊です。
・バルブロ、危機に陥った際にセバスが駆けつけてくれるフラグが立ちました。
次回はみんなから愛されるスタッファン=サン、サキュロント=サンが精神的に追い詰められる所からスタート