ボウロロープ侯の娘   作:neocy

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予告どおり今回は幕間となります。
主要メンバー以外のゲヘナ参加者紹介となるので、いったいゲヘナ編の総話数はどれほどになる事やら……

ナザリックの動向については諸事情(文字数が多くなった&投稿ペースの維持の為)別枠となります。


幕間:集う者たち

※※※※※王都東門につながる街道上※※※※※

 

「よし、通れ!次ぃ!」

 

王都頂上作戦の一環で設置された検問所を一台の馬車が通過する。

その荷台には所狭しと商売道具が積まれており、王都で一山当ててやろうという御者台の商人の野心を如実にあらわしていた。

 

「それにしてもよぉ、検問が多過ぎやしないか?エ・ランテルからここまででもう六回だぜ?」

 

馬車の護衛として雇われた冒険者が愚痴をこぼした。

機動性を重視した革鎧と背負った合成長弓から野伏(レンジャー)である事が伺える。

そして、冒険者の証たるプレートの色は「金」であった。

 

「そうだな。それに街道付近以外にも兵士が配置されている……かなり物々しいな」

 

レンジャーの彼に応えるのは、リーダー格の冒険者。

当然彼のプレートも「金」である。

前衛職らしく、目立った所は見当たらずも攻守のバランスを考えて整えたであろう装備の数々からは、彼の真面目な性格が反映されている。

 

「王都からやって来た商人は八本指の行動を押さえつけるための作戦の一つだと言ってましたね」

「遂に王国が本気を出したのであるな!」

 

続けてチームメイトの魔法詠唱者(マジックキャスター)森司祭(ドルイド)が口にした。

 

読者の皆さんならもうおわかりだろう。

彼らは冒険者チーム『漆黒の剣』。

エ・ランテルを襲った「死の螺旋」の夜を生き延びた彼らはその際の功績を讃えられ、無事に金級冒険者に昇格を果たした。

 

「おいお前ら!無駄話してないで周囲に気を配りやがれっ!昇格したからって浮かれてんじゃあねぇぞ全く……」

 

そして彼らを怒鳴る声の主はミスリル級冒険者チーム「クラルグラ」の「元」冒険者、イグヴァルジである。

彼もまた「死の螺旋」の夜を生き延びた一人であり、自らを鍛え直すために冒険者稼業を休業し「戦士団」の入団試験を受けるべく馬車に便乗しているのだ。

 

「すみませんイグヴァルジさん」

 

漆黒の剣のリーダー、ペテルが謝罪しメンバーに指示を飛ばす。

彼らにとってイグヴァルジは冒険者の先輩であり、その性格については良くも悪くも理解していた。

 

「あっ!そういやイグヴァルジさんって見たんすよね!?モモンさんとライヘンバッハを!」

「そうである!ミスリル級冒険者から見たお二人とはどんな姿だったのであるか!?」

「お願いしますイグヴァルジさん!僕たち、気になります!聞かせてくれませんか……?」

 

まずはルクルットが奇襲を仕掛け(話題を振り)

続けざまにダインが援護に入る(興味を煽る)

とどめはニニャの魔法攻撃(おねだり)でキメるのが、『漆黒の剣』式・対イグヴァルジ戦術だ。

 

「し、……しょうがねぇなぁお前らぁ!いいか?一度しか話さねぇから耳かっぽじって聞くんだぞ?ありゃなぁ……」

 

ご覧の通り、イグヴァルジは煽てられるのにとても弱い。

特にあの晩、モモンとライヘンバッハという「二大英雄と共に戦った事」は彼の誇りであり、一生の宝である為、効果は抜群だ。

 

(やはりイグヴァルジ氏はチョロいであるな!)

(やめろダイン!聞いてないってドヤされるぞ!)

 

※※※※※

ーーエ・ランテル 『死の螺旋』発生時

 

「イグヴァルジ!ここはもう駄目だ、撤退するぞ!」

「馬鹿言ってんじゃねぇっ!ここを抜かれたら街に入られちまうだろうがっ!」

 

その晩、現場に真っ先に急行したのはイグヴァルジ達「クラルグラ」であった。

墓場にアンデッドが発生するのは当たり前、出現したアンデッドの難度的にも自分達の実力であれば十分に対処できると高を括ってしまったのが過ちであった。

結果、先行し過ぎて窮地に陥っていた。

 

「お、おい……何なんだあれはぁっ!?」

チームの誰かが発した悲鳴か、その声に反応して目を向けると巨大なアンデッドが今まさに起き上がろうとしていた。

集合する死体の巨人(ネクロスウォーム・ジャイアント)、『クラルグラ』の面々にとっては未知の存在であった。

 

「う、うわああぁ!?」

「おい逃げるなっ!……クソッ!」

 

逃げる場所なんて無い。

イグヴァルジはその事を理解していたからこそ、パニックで逃げ出す仲間たちに叫んだ。

しかしその声は届かず、クラルグラのメンバーは各個撃破された。

 

(……ここまでかっ!)

 

残されたイグヴァルジは武器を構え直すが、全く勝算の見えない現状に抗う事に意味を見いだせなくなっていた……。

 

哀れイグヴァルジの命潰えるか。そんな時、彼の頭上を風切り音を立てて大剣が飛んでいった。

そして大剣はイグヴァルジの目の前に立ちはだかる巨大アンデッドに直撃する。

 

『グウオオォォォ……』

 

大剣が直撃した集合する死体の巨人(ネクロスウォーム・ジャイアント)はうめき声を上げて倒れた。

 

「そこの冒険者さん!よくぞ耐えきりましたねっ!」

 

続け様にイグヴァルジに向けて女性の声が、そしてアンデッドには無数の短剣が飛んできた。

短剣は尽くが一撃必殺でアンデッドを活動不能に追い込み、イグヴァルジへの包囲は瞬く間に消滅した。

 

「あ、アンタは……?」

「簡略で失礼します。私はライヘンバッハ、通りすがりの王国所属のワーカーです」

「ライヘンバッハ!」

 

その名はイグヴァルジも知っていた。

数年前に突如と現れたと凄腕の女騎士。

竜王国ではビーストマン相手に一騎当千の働きを見せ、王国内でも悪事以外は何でもこなす万能の英雄、護国の騎士。

 

「じゃあ、あのデカブツを殺ったのもアン……いや、貴女が?」

「あれは私じゃありません。ほら、おそらく彼らですよ」

 

そう言う彼女が指差す方向を見ると、イグヴァルジは驚愕した。

指の先にはちょうど自分達の方に降りてくる二人の人影と、一頭の魔獣がいた。

一人は全身鎧に身を包んだ偉丈夫、もう一人は黒髪のポニーテールが特徴の美女であり、どちらもイグヴァルジが見た事のない人物であった。

更に彼らが使役しているだろう魔獣は白銀の毛皮に覆われており、イグヴァルジはその魔獣から強大な力を持つ印象を受けた。

 

(こんな魔獣を使役するなんて、相当の手練なのか?)

 

「おや、ライヘンバッハさん。貴女もいらしてたのですか」

「モモンさんとナーベさんこそ。意外と早い再会になりましたね」

「ライヘンバッハ…さんは、この二人を知ってるん……ですか?」

 

敬語を使う機会など縁がないと高を括っていた事を後悔しながら、イグヴァルジはたどたどしい言葉遣いで訪ねてきた。

ナーベと呼ばれた黒髪の美女はまるで虫けらを見るような視線を向けてくるが、ライヘンバッハはそれを気にせず紹介を始めた。

 

「彼らは冒険者チーム『漆黒』の戦士モモンさんと魔法詠唱者のナーベさんです。魔獣のほうは……」

「それがしは殿の忠臣、ハムスケでござる!」

「……ハムスケさんです。つい先日から冒険者稼業を始めたばかりの銅級だそうですが、先程の見事な攻撃を見た貴方なら階級以上の実力があるとおわかりですね?」

「ど、銅級……?」

 

ーー銅級ってなんだっけ?

イグヴァルジは困惑した。

まだ王都や帝国のアダマンタイト級冒険者と紹介されたほうが納得のいく風格である。

 

「モモンさん、ナーベさん。彼はイグヴァルジさん、ここエ・ランテルを拠点とするチームのリーダーで貴方達の先輩にあたる冒険者です。困った事があったら彼に頼れば手助けをしてくれるはずですよ?」

 

「あ、どうも……ってえぇ!?俺、いや私なんかの事を知ってるんですか!?」

 

続けてライヘンバッハから放たれた言葉にイグヴァルジは驚愕した。

 

「貴方の事はこの街でも有数の実力者と伺っています。しかし、実力を過信する傾向もあると」

「ぐっ……」

 

英雄が自分のことを知っていた事に嬉しい反面、仲間を失った事実も相まって恥ずかしくなったイグヴァルジ。

 

「……それでも、貴方は死地を生き延びた。実力については階級相応を名乗って申し分ないでしょう。故に此度の経験を活かせるよう鍛錬に励み、先達として若輩を導けるような冒険者になりなさい」

「は、はいっ……!」

 

英雄(ライヘンバッハ)の口から続けて放たれた言葉は、イグヴァルジの心を打つには十分すぎたものであり、彼はその慈悲深さに膝をついた。

 

「それでは我々は更に奥へと進みますが、ライヘンバッハさんとイグヴァルジさんはどうされますか?」

「そうですね、イグヴァルジさんを街まで一旦送り、その後合流させていただきましょう。貴方達の実力を疑うわけではないですが、戦力は多いに越した事は「まっ、待ってくれ!」」

 

ライヘンバッハの言葉を遮るイグヴァルジ。

ナーベのゴミを見るような視線が刺さりたじろぐが、何とか踏みとどまった彼は言葉を続けた。

 

「お、俺も連れて行ってくれ!これでもミスリル級冒険者、自分の身は自分で護れるから足手まといにはならない!頼む、この通りだ!」

「身の程を弁えなさいアブラムシ、お前程度が足手まといになら「やめろナーベ」……失礼しました」

 

ナーベが不満をぶつけようとするが、それをモモンが止めた。

そして、モモンが代わりにイグヴァルジに問う。

 

「イグヴァルジさん、私達について来れば……最悪死にますよ。それでも良いのですね?」

「あぁっ、アンタら、いや、貴方達の勇姿を目に焼き付けて死ねるなら本望だ!」

 

「俺は英雄に憧れて、村を飛び出して冒険者になった!だから見てぇんだ!英雄達の戦いってやつを!」

 

それは嘘偽りの無い、イグヴァルジの本気(マジ)な言葉であった。

とてもワガママな申し出だと理解していたから、駄目だと言われたら諦める覚悟もできていた。

 

「……フッ、わかりましたイグヴァルジさん。貴方の同行を許可します。ライヘンバッハさんも異論はありませんか?」

「こちらも問題ありません。イグヴァルジさんは私から離れないように行動してください」

「は、はい!ありがとうございますっ!」

 

どのような思惑があってか、モモンは同行を了承し、ライヘンバッハも同意した。

ただ、イグヴァルジにとっては何物にも変え難いという事実に変わりはなかった。

 

「そうと決まれば代用の武器が必要ですね。……ではイグヴァルジさん、これを。あと先程の戦いで消耗されてるでしょうからポーションもどうぞ」

 

イグヴァルジを気遣ったライヘンバッハが彼に渡したのは数本のポーションに一振りのショートソードだった。

 

「私が懇意にしている鍛冶師の作品です。数打ち品ですが折れず曲がらず、切れ味は折り紙付きですよ」

 

その剣を手にとった瞬間、イグヴァルジは今夜何度目かの驚きを覚えた。

 

(か、軽い!?それに手にしだけで力が湧き上がってくるようだぞ!?……もしや魔法武器の類か?)

とんでもない代物を借りてしまったと恐縮していたイグヴァルジにライヘンバッハが思いついたかのように声をかけた。

 

「あ、その剣ですが貴方に差し上げましょう」

「えっ……えぇ!良いんですか!?」

 

英雄からの小粋な贈り物に素っ頓狂な声を上げるイグヴァルジ。

それがツボに入ったのか、ライヘンバッハは微笑みながら告げた。

 

「言ったでしょう、数打ち品だと。貴方がその剣を使いこなせるようになったら、私が懇意にしている鍛冶師を紹介しましょう」

 

(神、いや女神……ライヘンバッハ様ってスゲぇ!)

助けてくれただけでは無く、愛用品まで貰ってしまったら、これはもう崇拝せざるを得ないだろう。

イグヴァルジの中ではライヘンバッハは英雄から英雄神に昇格していた。

 

そうとなれば神から与えられた試練に挑まざるを得ない。

イグヴァルジは気合を入れて応える。

「ウッス!俺、頑張るッス!」

 

「えー、ゴホン。それでは皆さん、準備はいいですか?」

「申し訳ありません、いつでも大丈夫です」

「ウッス!よろしくお願いしますっ!」

 

こうしてモモン、ナーベ、ハムスケ、ライヘンバッハ、そしてイグヴァルジの5名は「死の螺旋」を引き起こした元凶に辿り着くため、アンデッドの犇めく死地に飛び込んだのである。

 

※※※※※

 

「それからはもう圧倒の展開だったぜ!モモンの大剣一振りで数十のアンデッドがブッ飛び、ライヘンバッハの容赦ない打撃と斬撃のコンビネーションはアンデッドの尽くを塵に還す!優劣をつけるなんておこがましい程だ!特に漆黒の二人組、アイツら何で銅級なんて名乗ってたんだろうな?」

 

「それは組合の規則であるからな」

「カァーッ!規則、規則ってお堅いこったぜ全く!俺が組合長なら初日にでもアダマンタイトのプレートを進呈するってのによぉっ!」

 

「イグヴァルジさん、彼らはもうアダマンタイト級冒険者ですよ?」

「んなのは知ってるっての!というか、あの吸血鬼への対策会議には俺だって出席してたんだぜ?まぁ、俺にはライヘンバッハの試練を乗り越えるっていう偉大な目的があるから参加できなかったけどよぉ、ヤツらだけで解決できるってことはわかってたぜ!」

 

それにしてもこのイグヴァルジ、ノリノリである。

この後も真に迫るイグヴァルジの語りは続き、一行は王都へと向かうのであった。

 

 

※※※※※王都南門につながる街道上※※※※※

 

「ご協力いただきありがとうございました!」

 

王都頂上作戦の一環で設置された検問所を馬車の一団が通過する。

 

その馬車の特徴を一言で言い表すならば「清楚」である。

華美な装飾は無く、必要最低限、アクセントとして取り入れている程度なのだが、手綱を握る御者も含め、全てにおいて洗練され、自然と見苦しくない上品さを漂わせていた。

 

人類国家の知識がある者であれば、その車体に取り付けられた紋章も含めて、馬車が「スレイン法国」の所属であることは一目瞭然であった。

 

「神官長様、このペースで進めば夕刻までには王都入りできるそうです」

「うむ、すまんな隊長。破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の調査という任務があったにも関わらず呼び出してしまって」

 

神官長レイモン・ザーグ・ローランサンが申し訳なく「隊長」と呼んだ男に声をかける。

しかし隊長は不満を述べるわけでもなく、寧ろ期待を抱いているかのような声色で応えた。

 

「いえ、私としても強者として名高いライヘンバッハに興味がなかったと言えば嘘になります。彼女を漆黒聖典に迎え入れらるのならば今まで以上の働きができるようになりるでしょう」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。それにしても漆黒聖典の雁首を揃えろとは……王国も思い切った要求を突きつけてきたものだ」

 

レイモンは天井を仰ぎ見ながらぼやく。

漆黒聖典の王国派遣については、一部神官長の反対を押し切り、非難轟々の中で決行されている。

 

千載一遇故にしくじる事はできないと考えたレイモンは、王国の要求(というよりクロエの煽り)通り「漆黒聖典の雁首」を揃えた。

まぁ、流石に死亡したばかりの「巨万巨壁」と「神領縛鎖」は置いてかざるを得なかったが。

 

「しかし、『彼女達』まで連れてくるのはやり過ぎだったのでは?」

 

漆黒聖典の総戦力の投入。

その中でも隊長が懸念するのは二人の女性隊員についてであった。

 

元第九席次「疾風走破」クレマンティーヌ。

 

本来裏切り者である彼女はエ・ランテルにて『死の螺旋』を巻き起こそうと企てていた一団の一人であったが、漆黒の剣の助太刀に入ったライヘンバッハとの遭遇戦において敗北を喫した挙げ句、簀巻き状態で馬に積まれていたところを風花聖典に保護されるという戦士として、相当屈辱的な扱いを受けた。

 

『アイツ……アイツぅ!私の刺突に合わせてカウンターを入れやがった!』

 

しかし、クレマンティーヌを屈辱的な仕打ち以上に苛立たせたのは自分の土俵(一撃勝負)で遅れをとったという事実であった。

 

彼女の刺突攻撃は「英雄の領域に踏み入った」と自負するに足る絶技である。

格上とはいえ、並の反射神経では見切れるはずもなく、魔剣使いと名高いライヘンバッハすら容易く屠れると彼女は判断していた。

 

しかし、彼女の不運はライヘンバッハの正体を知らなかった事に尽きる。

 

クレマンティーヌがクラウチングスタートに似た体勢を取り、必殺技の準備に入ると、ライヘンバッハは突如、正眼の構えを解いた。

 

それを嘗められたと受け取ったクレマンティーヌは絶技を繰り出し、あとは「スッて行ってドスっ」という勝ちパターンが待っているはずだった。

 

あと半歩という間合いまで両者が迫った瞬間、

ふいにライヘンバッハの上体が動き、クレマンティーヌの剣先の外へと抜け出した。

 

「小癪な真似を」、内心で舌打ちをしたクレマンティーヌは二の矢とばかりにもう一方の手に構えたスティレットで追撃を試みるが、ライヘンバッハの白鯨丸を握りしめた左手が迎撃とばかりに眼前に飛び出す。

 

完全に意表を突かれたクレマンティーヌはすかさずそれを防御(うけ)てしまい、結果自慢の素早さが殺された。

軽戦士の戦いとしては致命傷に相当する状況。

歴戦の戦士としてのクレマンティーヌの決断は後方に飛び距離を稼ぐ事であり、すぐさま行動に移そうとしていた。

 

だからであろう、ライヘンバッハがフリーであった右手に拳を完成させていた事に僅かとはいえ気がつくのに遅れてしまったのだ。

 

その拳速はまさに「疾風」を超えた「閃光」。

慌ててクレマンティーヌは両腕を交差させて防御(うけ)ようとするも、ライヘンバッハ(クロエ)(アッパーカット)は不完全な防御を破り、クレマンティーヌの顎を貫き彼女の意識を奪った。

 

絶技を封じたのは、更に上を征く絶技。

ここに『ライヘンバッハ式・二重迎撃術(ダブルクロスカウンター)』が誕生したのである。

 

この顛末は偶然にも彼女の姿を捉えた風花聖典隊員が記録した映像情報により明らかになり、法国上層部に衝撃を与えた。

魔剣ならざる「魔拳」使い。

徒手空拳のほうが強いなんて、どこの王国貴族だよ……。

王国ヤバい、と。

 

そしてその事実を把握したクレマンティーヌはというと、兄クアイエッセをして「俺の知ってる愚妹とちゃいまっせ……。あ、今のは『愚妹とちゃいまっせ』と『クアイエッセ』を掛けたギャグでして」と語るほどの変貌を遂げた。

 

「あら、御機嫌よう神官様」

「精が出ますね。よければお手伝いしましょうか?」

「良い?暴力をふるっていい相手は異教徒共と異形種共だけだよー?」

 

……最後のセリフについては置いておくとして、クレマンティーヌは物腰の柔らかい優しげな性格の女性となった。

最近では「聖女」なんて呼ばれていると風の噂に流れてくるほどの変貌である。

 

「クインティアの片割れ」と言われればブチ切れ、実兄の安い挑発にも乗ってしまうほど感情の沸点の低さであった彼女を知る者は口を揃えて「きれいなクレマンティーヌ」と評した。

 

とはいえ、これはあくまでも人前での人格であり、本性の方はというと

 

「ライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺すライヘンバッハ殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」

 

ライヘンバッハ憎し、ならば殺すしかない。

「雑魚専クレマンティーヌ」から「ライヘンバッハ絶殺(ブッコロ)ウーマン・クレマンティーヌ」に進化した彼女はそれこそ全身の穴という穴から血が出るような鍛錬に打ち込むようになった。

 

その他にも戦闘スタイルや装備にも変化があるのだが、これらについては省略する。

長くなっちゃうからね。

 

さて、隊長が懸念する二人目の女性隊員は法国の最終兵器(リーサル・ウェポン)とも称される人物だ。

 

番外席次『絶死絶命』

 

本名不詳、エルフの血を引くということ以外のプロフィールは一切不明。趣味はルビクキューと敗北を知る事。

 

「えっ、王国の強者に会いに行くの?だったら私も行く。敗北を知りたい」

「漆黒聖典の雁首揃えろって話なんでしょ?だったら私も行かなきゃダメでしょ。ね?ね?」

 

本当は宝物庫の警備任務があるため置いていくつもりだったのだが、ゴリ押しで押し切られていまい、やむなく同行を許可することとなった。

 

彼女にとって敗北を知ると言うことは、子種を宿すに値する番を見つける事と等しい。

しかも最強を自負しているから、その成就の厄介さは「理想値を高く設定し過ぎた歴戦の婚活女子」のソレである。

 

ライヘンバッハは女性なのだが、自分よりも強ければ性別の壁すら気合で解決するだろうという謎の希望的観測を抱き、今頃は後方の馬車で胸を躍らせている事だろう。

 

「まぁ隊長。人事尽くし天命を待つ、という奴だ。こちらは王国の要求(オーダー)に従っただけだ。賽は投げられた。後はその出目を見守るとしよう。全ては六大神様の思し召しだ」

 

隊長の懸念に、心配し過ぎだと返したレイモンは手を組み、心の中で六大神に祈った。

 

ーーこの遠征が実りあるものでありますように、と。

 

 

※※※※※王都近郊の森※※※※※

 

鬱蒼とした森林の奥深くに、一人の男がいた。

腰に佩いた南方独自の武器「刀」から、その男が戦闘を生業としている事は明らかである。

冒険者と言うには身軽に過ぎる軽装であり、何よりも証たるプレートがぶら下がっておらず、ワーカーか傭兵と言う所であろう。

 

しかし、人類国家で武の道をゆく者であればこの男が「ブレイン・アングラウス」であると気が付くのに時間はかからないだろう。

 

彼は傭兵団「死を撒く剣団」に用心棒として所属していたが、シャルティア・ブラッドフォールンの襲撃に遭い、命からがら逃げ延びた末に王都に辿り着いた。

人外の脅威に心が折れていた彼であったが、偶然にも工事現場に来ていたバルブロに保護された。

 

『ふむ、どうやら貴公は相当恐ろしいものと対峙したようだな……。しかし貴公はまだ生きている。であればまだ高みを諦めるのは早計ではないか?』

 

御前試合で見せたかつての勇姿を取り戻してほしいと思ったバルブロの後押しを受け、工事現場で日銭を稼ぎつつリハビリの為にこの森に通い詰める生活をしていた。

 

「……」

この日、ブレインは初めて「黙想」という修行を行っていた。

きっかけはバルブロの言葉であった。

 

『貴公程の剣士に俺ごときが教える技術はないと思うのだが……そうだな、修行僧(モンク)などが行っている精神統一の修行などはどうだろうか?』

 

バルブロの場合、クロエの特に理由のない暴力から逃れるために様々な武術、体術に触れていた経験から精神修行に関する知識を有していた。

 

近現代武道の教育思想において当たり前となる「黙想」であるが、そのルーツはヨーガ、禅宗などにおける宗教的行法である。

彼らの属する世界においてはそれこそ神職や修行僧(モンク)といった限定的な集団の中で共有された修行法であり、実戦における鍛錬を主とする兵士や冒険者はおろか、ブレインのような風来坊には知るすべも無かった。

 

物は試しと黙想を始めるブレインであったが、シャルティアに対する恐怖をはじめとする雑念が脳裏をよぎり、困難を極めていた。

 

そして数刻を置いて、ブレインはある事に気がついた。

 

「そういえば俺、アイツの攻撃を受けたわけじゃないんだよな……」

 

ブレインが気がついたのは、自分がシャルティアに抱いていた恐怖とはあくまで「シャルティアという存在」だった事。

渾身の必殺剣が通じなかった事から逃げの一手に至り、その強さを測らず妄想の中の「シャルティア・ブラッドフォールン」という存在に恐怖するという、客観的に考えると剣士として何とも滑稽な事態に陥っていたのである。

 

「……馬っ鹿だなぁ俺ぇ〜」

大きな溜め息と一緒に吐露したのは自分の情けなさを痛感したブレイン(天才剣士)

しかし同時に、その事に現状を打破するための奇策を見出した。

 

「それじゃあ、俺の代わりに増上慢な天才剣士サマをぶっ殺してもらうとするかねぇ」

 

つまり、雑念まみれの自身像を妄想のシャルティア・ブラッドフォールンに殺させることで「無心」を完成させるという事である。

かなり滅茶苦茶な考え方ではあるが、既に形のあるアイデンティティを否定し再確立させる手法としてはアリ……なのだろうか?

 

世の心理学者や宗教家が聞けば頭を悩ませそうな話ではあるが、ブレイン・アングラウスは己の直感を信じ早速実践にうつした。

 

その結果、ブレイン・アングラウスは何度も(臨死)を体験する羽目となった。

元々優秀な剣士であるため、緻密な想像での体感が現実の身体にも影響を及ぼしていたのだ。

 

死しては息を吹き返す。

5回目以降は数えることすらやめた。

そして、死を重ねるに連れてブレインは心から余計なものが取れていくことがわかった。

傲慢、貪欲、嫉妬、それまで自らを飾り付けた煩悩が一つまた一つとシャルティア・ブラッドフォールンの手によって()されるごとに想像の中の剣閃に宿る煌きが一段また一段と増しているように思えてきたのだ。

 

そして日が傾き、逢魔が時が訪れる。

ブレインは既に百を越える死を経験していた。

流石は天才剣士と言うべきか、今日初めて挑んだ修行法のコツを掴み、恐怖を克服するに至っていた。

 

改めて黙想に入るブレイン。

その瞬間、周囲の音が消え聞こえるのは己の呼吸音のみ。

遂にはその呼吸音すら聞こえなくなり、真の静寂が彼を包み込む。

目の前に姿を表したのは銀髪の吸血鬼、シャルティア・ブラッドフォールン。

シャルティアはあの時と同じようにゆったりとした歩調で接近してくる。

対するブレインは居合の構えにて迎え撃つ。

両者の間合いが徐々に縮まる。

そしてーー

 

 

「チェリヤァアアアッッ!!」

 

気合の一声と共に、この日「初めて」刀が抜き放たれる。

その気迫に驚かされたか森中の鳥獣が騒ぎ出し、臨死から逃れたブレインは静かに目を見開いた。

 

確かな手応えを感じた。

薄皮一枚、いや爪先程の僅かな部位かもしれないが、確かに刃は人外の領域(シャルティア)に届いた。

その瞬間、妄想のシャルティア・ブラッドフォールンの気配がかき消え、気がつけば自分は剣を握りしめていた。

 

「無想の一閃、まさかこれ程とはな……」

 

大粒の汗を滴らせながらブレインは呟いた。

目の前には逆袈裟に切り裂かれた大木の幹。

黙想に入る前は無傷であったが、今は見るも無惨な姿を晒していた。

そして驚くことに、大木が根を張る場所は、ブレインの剣の間合いの外だという事である。

 

一日にして人外の恐怖にを打ち勝ち、あまつさえ微かとはいえ人外の領域に迫る一刀をモノとした天才剣士ブレイン・アングラウス。

 

実に「百九」回目の奇跡であった。




エ・ランテル組(漆黒の剣、イグヴァルジ)
ライヘンバッハの活躍により生存。
イグヴァルジに至っては装備品だけ強化が入る。

漆黒聖典
爆弾系女子2名を引き連れて参戦。
この戦いの末に何を発見するかで扱いの方向性が決まる。
というかクレマンティーヌには普通にリベンジのチャンスをやろうとしただけなのに、どうしてこうなった?
なお、占星千里はやばい未来が見えてギャン泣きしているのを無理やり連行された模様。

ブレイン
イメージの中とはいえ、生死の間にて大活した模様。
まさかのイメトレでレベルアップである。
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