クロエ・カティナ・デイル・ボウロロープ
あのふざけた儀式によって、
転生を果たした異世界における私の名前。
あれから20年。
殆どの歳月をナザリック転移の瞬間に向けた準備に費やした。
「善き貴族」として人間的魅力を磨き、
護身の為に戦士としての能力を鍛え、
タレントを活かすべく領内に専用の工房を造り、数々の武具を作成した。
多忙を極めた20年だったが、とても新鮮で刺激的な日々を過ごすことができた。
その20年の中でもとても大事な出来事を時系列で振り返ってみよう。
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クロエ 5歳
ボウロロープ邸
「お父様!わたくし、カトク?を継ぎたいとおもいます!」
私の5歳の誕生日。
その日は後に貴族派閥を形成するだろう叔父さま方が大勢集まり、私の誕生日を祝ってくださいました。
と、言うのは建前でいわゆる社交界へのお披露目なのです。
ところで、このクロエ・カティナ・デイル・ボウロロープ!
自分でも言うのはアレだけど!
この時はかなりKAWAIIロリっ娘でした!
謙虚目に見ても黄金に次ぐ可愛さを保有していた!
すげぇよ顔面偏差値の高い異世界!
…失礼、話が逸れてしまいましたわ。
もしかしたらレエブン侯(ver.子煩悩)の如く、可愛い娘を見て欲しいとか結構純粋な想いもあったのかも知れません。
しかし、ここは権謀術数の貴族社会。
お父様を含め、叔父さま方は私を出しにして政治的交渉の場を設けていたのです。
なのでお父様……、超美少女がお調子こかせていただきますわよ〜ッッッ!
「こ、コラコラコラコラ。クロエ、あっちでお友達と遊んできなさい。今お父さんは大事な…」
「私聞きましたの!お父様が私を王国のお后様にするって!だけどそれではお父様や領民の皆と離れ離れになってしまって悲しいわ!だから私考えたの!リ・ボウロロールを王国で一番の土地にして、王様をここに住まわせればいいんだって!だから私、カトクを継いでお父様のような爵位を頂いて、リ・ボウロロールが一番になるように努力しますわ!」
私が大きく両手を広げて高らかに宣言し終えると、お父様達は鳩が豆鉄砲をお喰らいになったような表情を浮かべられてましたわ。
オホホホホ、壮観ですこと。
「は、ハハハハ。いやぁ、とても聡明でそして剛毅なご息女であらせられる。まだ5歳だというのにボウロロープの繁栄は約束されたと言えますなぁ……」
「し、然り!我々の言の葉を理解し、大胆にも王座を簒奪する気概を微塵も隠さぬ精神!まさしく侯にも劣らぬ覇者の風格を有しておられる!惜しむらくはご息女が女人であられる事……惜しい、実に惜しい!」
「いや、これは好機やもしれませんぞ!これほど聡明なご息女なのだ、王国へ負債を丸投げして新国家をぶち上げる旗頭にされては如何か!この際慣行を無視して侯爵位を与えてでも……!」
いけませんわ、はしたなく高笑いしてしまいそうですわ。
ここは堪え所でしてよクロエ。マジで耐えるのですわよ。
たかが子供の戯言と言えど、ボウロロープ印の戯言。
この場で一蹴できるような気概のある貴族がいるはずもなく、予想通りにお父様のおだて上げ合戦会場が出来上がりましたわ。
マジで王国貴族チョレぇですわ、チョレチョレですわね。
ついでで言うとお父様はキング・オブ・チョレチョレですわ。
「……ムフフフ、新国家はまだしもクロエに侯爵位を与えての王位簒奪か。中々どうしてそそる話ではないか」
ね?
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クロエ 12歳
リ・エスティーゼ ロ・レンテ城
「あら、バルブロ王子。ご機嫌麗しゅうございます」
「ひっ……う、うむ」
予め断っておきますがバルバロ王子……バラバラ……もうバルブで良いですわね。
頭捻ったら色々と放出しそうですし。
で、バルブがビビっているのは怪物や幽霊を見たからではなく、
超絶美少女ことクロエ・カティナ・デイル・ボウロロープにアイサツされただけで勝手にビビってるだけなのですわ。
まったく、淑女を相手に悲鳴を上げるなどと失礼な方ですこと。
あれが王国の未来を担う(未遂)などと考えるとゾッとしますわね。
あら、またしても話が逸れてしまいましたわ。
色々と気移りしてしまうのが私の悪い癖、ですわ。
この年頃になるとお父様に便乗して王都へと出向くことが多くなりました。
「クロエちゃん王位簒奪計画」にノリノリのお父様がプロデュースする「クロエ派閥形成作戦」の実行という名目で連れてこられましたが、まぁ悪くはありませんでしたわ。
何せ同世代の友人ができるというのは子供にとっては一大イベント。
もう派閥とか関係なく色んな貴族のご子息、ご息女と友好関係を結んで、クロエ、マジ感激!ってぇヤツでしてよ。
ただしバルブ、テメーはダメだ。
あのバルブ頭、あろうことか、気弱そうな女の子にイチャモンを付けた挙句に手を上げたのですわ!
もうプッツーンするには十二分でしてよ。
「ええい!いかに王族とはいえその狼藉、ボウロロープの人間として見逃せませんわ!バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ!」
「なんだ貴様ァ?無れっ」
「問答無用!誅罰執行ぉ!」
懐に忍ばせた試作武器1号(ナックルダスター)を右手に嵌め、右脚の踏み込みと同時に水月への渾身の一撃。
二回りは大きいバルブの身体がくの字に折れ曲がり、ゴロゴロと後方に転がってバルブはしめやかに失神。
顔を狙わなかったのは淑女の嗜みでしてよ。
これがガガーランだったら間違いなく頭がい骨骨折コースですわよマジで。
騒ぎを聞きつけた衛兵や貴族は何が起きたと大騒ぎ、当然お父様も駆けつけ、こってり絞られましたわ。
「何やっとるんだバカモン!」
「高貴なるものの使命を果たしたまでですわ、お父様」
「ぬぐぐ……だからと言って、王族相手だぞ!もそっと、こう何というか、手心というか……」
「お言葉ですがお父様、こんな言葉をご存じでして?――痛くなければ覚えませぬ」
「え、いや、知らぬ……怖っ」
などという出来事が2年前。
この後から一部の女の子から「お姉さま」と呼ばれるようになってとても懐かれていますの。
あと、城下にも噂が広まってやっぱり「お姉さま」と呼んでくるファンができてしまいましたわ。
これって、カリスマってヤツなんですの?
「おねぇーさまー!クロエおねぇーさまー!」
「あらラキュース、ご機嫌よう。でもダメじゃない淑女がバタバタ走るなんて」
「あ、ごめん、じゃなかった!失礼しました!」
あぁ~ロリキュース可愛いんじゃあ~、ですわぁ。
そうそう、ラキュースとも友好関係を築けたのは最大の戦果でしたわ。
年齢は2個下の10歳。まだ中二病発症前の貴重なラキュース、最高ですの!
「あ、そうだ!ラキュース、あなたにプレゼントがあるの」
「え!?」
「ほら、この前こんなのが欲しいって言ってたでしょ?鍛冶の練習がてら作ってみたらこれが上手く行っちゃってね」
懐から取り出した箱をラキュースの目の前で開けると彼女は、キラキラと、そりゃもうスッゴいキラキラと目を輝かせました。
その顔が見たかったのですの!ですの!
「か、カッコいいぃぃ~ッッ!銘は!銘は何というのです!?」
「ふむ、無銘のアーマーリングというのも趣がないから……異邦の神様から名をもらって【ヘルメスの指】というのはどうかしら。旅人の守護神だから冒険者志望のあなたにはピッタリだと思うわ」
「ヘルメスの指……お姉さま大好きっ!」
私の自作アーマーリングに感極まってガシィっと抱き着いてくるラキュース。
何というか、うん。
「ありがとう」…… それしか言う言葉がみつからない……。
やっべぇですわ。これF〇Oだったら消滅演出が再生される奴ですわ。尊みで高確率即死ですわ。
オバロ世界で良かったー、ですわ。
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クロエ 18歳
リ・エスティーゼ
「あぁー、合法的に消失してくれないかなぁ、バルブ王子」
「ク、クロエお姉様。流石にそれは不敬すぎるかと……」
「あらラキュース、私はバルブ王子という方への不満を漏らしているだけでしてよ?決して頭を捻ると色々出そうな第一王子の事じゃありませーん」
「……聞かなかったことにします」
14~18歳にかけては対帝国戦争への初参陣や、お忍びでのワーカーデビューなどスリル満点の日々を過ごした。
しかし、父上が私に秘密でバカ王子との結婚話を進め、婚約成立まで漕ぎつけていた事に比べると、いささかインパクトに欠けてしまうのだ。
どうにも王国法のスキを突いた貴族派閥の人物が父上に入れ知恵し、バカ王子を煽てたらしい。
二人に下手人について尋ねても口を割らないのがとても気になるが、そもそも貴族派閥にそんなに頭の回る御仁がいただろうか……?
「……ねぇお姉さま、私のように冒険者になりませんか?冒険者なら政治不介入の原則で王族との結婚とも回避できますよ?」
「ふふっ、ありがとうラキュース。だけどね、私みたいにしがらみを気にせず動ける貴族が義務をほっぽりだしたら誰がツケを払うかは想像に容易いでしょう?」
「……!す、すみません。軽率な発言でした」
「でも気持ちだけはありがたいわ。それに侯爵位を得ればリ・ボウロロールだけでなく王国政治への正式な参加権が得られるし、軍制だけでなく内政改革も本格的に進められる。あの王子だって私の目が黒い限りは勝手な行動をさせないように手綱を握り続けるわ。だからこれは『箔』という道具を得るために必要な行事なのよ」
「お姉さま……」
「それにね、冒険者を名乗ってやってる事が街道の掃除や便利屋なんて格好が悪いじゃない。私は冒険者が冒険者らしく、それこそ吟遊詩人が話の題材に困らないくらいに伝説を打ち立てられる様な土台の整備に全力を尽くすわ。だからラキュース、あなた達冒険者は来るべき日に備えて研鑽を続けなさい」
感極まったのか、ラキュースが「お゛、お姉様ぁ!」と目を潤ませ始めたのでハンカチを渡してやる。
この時ラキュースは16歳。19歳で最高峰たるアダマンタイトに到達するという原作知識から、彼女の冒険者としての成長スピードには目を疑った。
そして同時にもう時間が残り少ないという事を悟る。
世界の修正力というべきか、ここ数年の活動を通して八本指とスレイン法国の影がちらつき始めている。
私兵団を結成して僻地の巡回や王都内の密偵の潜伏状況を通して監視を続けてきたが、ライラの黒粉が王都内に広まり始める事を阻止する事が出来なかった。
さらには先日行われた御前試合。わざわざ六大貴族パワーを使ってまでブレイン・アングラウスと準決勝でぶち当たるように仕組み、試合後にヘッドハンティングを狙ったものの、あっけなく振られてしまい、彼の放浪を許してしまう事となった。
恐らく王国戦士長ガゼフ・ストロノーフの暗殺計画も次の戦争の後から動き始めるだろう。
そしてナザリックの転移が発生し、原作が開始される。
多分、ここが介入限界点だ。残りの時間は降りかかる火の粉が払えるだけの鍛錬をするだけだ。
「ところでラキュース、小さい頃のように『お姉様大好きっ!』って抱きついてこないの?」
「あっ、あれはそのっ!お忘れくださいお願いします!」
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クロエ 20歳
リ・ボウロロール某所
別宅鍛冶工房内
「完成したわ!」
自前の鍛冶工房で一本の剣の出来栄えを見て確信した。
10年以上炉に火をくべ、槌を振るって培った技量、
身分を問わず様々な人脈から齎された各地の珍しい資源、
そして転生時に授かったタレントの恩恵。
この3つを総結集して作り上げるのは己が身にまとう武具の最高傑作集。
討ち取ったビーストマンの骨を加工した「双角の鉢金」
様々な局面に対応可能な拡張性の高さを追求した「多目的防御機構」
極秘裏に帝国魔法省の協力を得て魔術機構を組み込んだ「三式魔導手甲」
シンプルに足元の安全性を重視した設計の「鉄長靴」
そして主武装として、「叩き切る」事を目的とした大型の片刃剣「白鯨丸」
試作品や資金調達のために流通させた武具を含めれば千を超える試行錯誤の末形になったことを考えると、感慨深く、そして手前味噌ながらその出来栄えに惚れ惚れしていまう。
……そして何よりかっこいい!!
色調は暗色系の単色に抑え、無駄な装飾を省いた質実剛健な趣!
一度纏えばプロフェッショナルという風格すら見て取れる流線型!
そしてネーミング!
っべー、まじっべー。
私のセンス力まじっべー位に高杉ですわぁ……。
世界の流行を先取りしすぎてないか心配になってくるほどやべーですわねマジで。
……テンション上がりすぎましたわ。
これで現状できる準備は整った。
残るはナザリックの転移によって全てが動く。
……絶対生き残ってやるから、でしてよ!
書き溜めないので今週中に次話かお嬢様設定上げられるよう努力しますわよ。
12/19追記 たまごん様、誤字報告、ありがとうございました!ですわー