(多分誤脱多いと思うけど)お兄さん許して。
年内はこの話を書き上げて書き納めにします!
あと12/24の総合日間ランキング3位に載ってました!
おかげで心停止したよ!皆ありがとう!
王国領某所
八本指の数ある拠点の一つ
「兄貴、積荷の目録ができやした」
「おう、そこに置いとけ」
「……あ、兄貴。そういや兄貴って元警備部門だったんでしょ?なんで密輸部門なんかに飛ばされちまったんですかい?」
「……お前、何年目だったっけ」
「へい、今月で2年と3ヶ月になりやす」
「じゃあ、あの襲撃事件を知らないわけだな」
「あの襲撃事件?……ま、まさか」
「そのまさかだよ。……『ライヘンバッハ』、あの狂気の女神がこの手を授けてくれちまったんだ」
「『ライヘンバッハの贈り物』……!」
「当時を知る奴は狂って自殺するか、俺みたいに閑職勤務を希望したもんだ。コイツぁ八本指の威厳に関わる秘密だ。くれぐれも口外するなよ?」
「う、うす!」
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ご機嫌よう皆様。
リ・エスティーゼ王国貴族、クロエ・カティナ・デイル・ボウロロープですわ。
早速ですが私、今はオフですの。
王都での仕事は父上に引き継いで、久々の里帰りですわ。
「ハーイ、ヨーゥ、シルバー!」
気分はまさにロー◯・レンジャー!
王都の別邸から必要最低限の荷物を持ち、動きやすい服装で愛馬に跨り、リ・ボウロロールまでまっしぐら!
さぁ、ウィリアム・テル序曲を流すのですわ!
「あ、やべぇ!今日がお嬢さんの出発日だったわ!お前ら早く荷物載せろ!追い付けなくなっちまう!」
「なんスか大将?クロエ様に商売するンスか?」
「バッカお前ぇ、クロエのお嬢さんは商人の守護聖人なんだ!神殿の生臭坊主の有り難ェ言葉以上に道中安全は効果覿面とくらぁ、お嬢さんに着いてくしかあるめぇよ」
「女将さん代金ここに置いてっからよ!釣りはいらんぜ!」
「「「クロエお姉さまー!行ってらっしゃいませー♡」」」
オホホホ、
皆が後ろについてくるから、いつの間にかロー◯・レンジャーが◯ッキーに変わりましたわ。
あ、ファンの娘達にはウィンクしときましょ。
「「「キャー♡」」」
フフフ、愛い奴よのぅ、ですわ。
「ただ今帰りましたですわー」
「「「おかえりなさいませ、クロエお嬢様ぁっ!」」」
8部の北米大陸横断レースばりのキャノンボールでヘトヘトになった私を迎えてくれたのは屋敷の従者達、だけでなく周囲の町や村からわざわざ駆け付けてきてくれた領民の皆でしたわ。
花吹雪まで舞ってまるで英雄の凱旋を祝うが様相。
……やべっ、感動のあまりちょっと涙腺が弛みますですの。
「クロエお嬢様、王都でのお勤めご苦労さまっす!」
「それじゃあムショ帰りのゴロツキをねぎらう言葉ですわ、ワイアット君」
ズレた労いの言葉をかけてきたのは執事のワイアット君。
元鉄級の冒険者で、足の怪我を理由に引退したところを拾ってきた若者ですわ。
絵に描いたような誠実さと、今も鍛錬を続けているストイックな性格はこういうお硬い仕事に向いてますしね。
しかも顔面偏差値高いし、いい老け方したらナザリックの執事みたいなイケおじになりそうですわねぇ……。
「相変わらずお嬢様宛の手紙がたくさん届いてるんで、目を通しておいてくださいねー」
……うーん、このすっごい砕けた感じ好きなんだけど執事感が低いですわ……。
湯浴みを終わらせてゆったりした部屋着に着替えたら書類整理ですわ!
領民からの嘆願、武具を卸してる店舗からの売上報告と契約更新の書類、武具使用者からのご意見状。
この量、まるで聳え立つ※※ですわ!
(お嬢様規約違反があったため一部規制)
ご意見状は見ててとっても楽しいですわね!
制作者の意図した工夫をユーザーが気に入ってくれたという感想はもちろんの事、改善案を並べ上げてくれるのも品質向上の方向決めに活かせるし……、とにかく楽しいですわ!
「さて次のご意見状は……あら?『ライヘンバッハ』宛……差し出しはエ・ランテルですわね」
……ゆっくりとオフを楽しめると思ったら、デンジャーな空気が漂ってきましたわー!
『ライヘンバッハ』
つまりは私のワーカーとしての名前ですわね。
転生前の世界では名探偵ホームズとモリアーティ教授が死闘の末に落ちてしまった滝の名前として有名ですわ。
どうしてその名を名乗ってるのかですって?
響きがカッコいいからに決まってますわ!
カッコいいからに決まってますわ!
大事なことだから2回言いましてよ!
ライヘンバッハへの依頼はエ・ランテル周辺地域での人探し。
冒険者になると出ていった息子さんの安否を思う親御さんが依頼者ですわね……。
人探しなら冒険者組合に依頼を出せばいいのにわざわざワーカーに頼む理由……。
「うーん、いつかの様にバックに八本指がいると面倒ですわね……。でも工房の運営資金も調達しなきゃいけませんし、世知辛ぇですわぁ……」
あの時はゾッとしましたわねぇ……。
何せ依頼者の私兵と一緒に守ってたのが奴隷満載の馬車で八本指の商品だったなんて。
道中で気づいてご破産にしてやったから良かったものの、運が悪ければバッドエンドまっしぐらでしたわ……。
エ・ランテル、帝国との最前線。
後に英雄モモンが訪れる街。
「行きたくねぇですわぁ〜!」
いや、生モモンと生ナーベを見たくねぇ訳じゃねぇんですわよ!?
ただ、こう何と言うか、罠っぽい感じがするんですわよねぇ……。
……まだ私兵部隊の情報網に開拓村襲撃の情報は掛かってないですし、大丈夫だとは思うのですわ。ギリギリ、多分。……多分。
……やっぱり子を思う親の気持ち、無碍にはできませんわ!
「ワイアット君!明日から暫く留守にしますわ!武具販売契約更新の書類は写しを契約店舗に返送、ご意見状は王都の私の工房に転送、嘆願書は関係各所に対応可能か確認を取ること!できますわね!」
「はぁ、イイっすけど明日はお嬢様の大好きな芋料理を作る予定だったんですが、食べられないので?」
「…………やっぱ明後日からにしますわ!」
ワイアット君の芋料理!
食べずにはいられないッ!ですわ!
「いやぁ〜やっぱワイアット君は万能執事ですわ。王都にも置いておきたいくらい万能ですわねホント」
丸一日をかけてワイアット君の芋料理を堪能し、翌日にはリ・ボウロロールを出発。
道中ワイアット君が持たせてくれたお弁当をつまみながら年中雪化粧のアゼルリシア山脈を臨んでぶらり旅。
エ・ランテルに辿り着いたのは出発してから10日目の朝でしたわ。
「おっと、仮面をつけとかなきゃですわね。ここから先はライヘンバッハタイムですわ〜」
武器や旅道具を満載したサドルバッグから取り出したミスリル製のハーフマスクをつければエ・ランテル入りの準備は完了ですっ……じゃなかった。
準備は完了だ。
「さぁさよってらっしゃい見てらっしゃい!何とあのクロエ工房の新作が、王都リ・エスティーゼから早速入荷と来やがった!その名も『偉大なる王国の再興(グレイト・キングダム・アゲイン)』!女子供から大の大人まで使い勝手の良いナックルダスターだよっ!栄えある王国臣民はこれを買って、不埒な輩を殴りつけてやろう!いつも通りクロエ工房の商品はお求め安い価格設定だ!早いモン順、売り切れ御免!さぁさ買っていった、買っていったァッ!」
「今日も精が出ますね、見習い君」
「ややっ、コイツぁ驚いた!ライヘンバッハの姐さんじゃあねぇですかい!どうもどうもお久しぶりでごぜぇやすっ!あっしも親方も姐さんがクロエ工房の商品を紹介してくれたおかげで今じゃぁエ・ランテルでも指折りの店構えとなりやして、全くクロエ様々で、あ、ごぜェやすよ!」
「ははは、貴方の鎚を振るう以上に回るその口にも磨きがかかっているようで何よりです。それだけ出来れば噺家としてでも食べていけるのでは?」
「いやいやいやいや、そいつぁイケねぇやライヘンバッハの姐さん。いいですか、あっしは世界一の鍛冶師になりてぇンですよ!姐さんが今まさに担いでる魔剣『白鯨丸』!そいつぁクロエ・カティナ・デイル・ボウロロープ様の作品だって言うじゃねぇですかい。人が魔剣を拵えられるってンなら、俺もいつかそういった大名物を、あ、拵えて、みてェなぁ!」
彼は私が武具を卸している店の見習い君。
名前はまだ知らない。
手先が器用との事だが、それ以上に忙しなく回る口が彼最大の特徴と言えるだろう。
あと、所々で歌舞伎めいている。
「ほぅ、魔剣を拵えたいと見得を切るとは大きく出ましたね」
「夢はデッかく、生活は慎ましくってぇのがあっしの信条ですさネ。ところで今日は親父っさんに用事ですかい?」
「えぇ、仕事の都合でしばらく厄介になろうかと」
「なるほどなるほど。親父っさんは奥にこもって作業中でさぁ、二階のいつもの部屋は整ってるんで荷物を置いたら挨拶でも言ってやってくだせぇ」
「そうさせて頂きます」
「親方、お世話になりますね」
「ン、あぁ。アンタか侯爵様」
「ちょっ……。親方、一応確認ですけど私の正体を……」
「バラすもんか、うちのおふくろにも言ってねぇっての」
「ですわよねぇ……、じゃなかった。ですよね」
「いちいち言い直さんといかんのか?」
「いかんでしょ」
「左様か」
彼がこの店の主、私は「親方」とだけ呼んでいる。
見習い君とは対極的な口の少なさで、彫りの深い外見も合わさって凄腕の職人という雰囲気が際立っている。
そして何よりも重要なのはライヘンバッハの正体を知る数少ない人物という事。
この親方、私の装備と手を見比べただけで製作者であることを見抜いたのだ。
何かのタレントだろうかと聞いてみたら、
「手に『私が作りました』って書いてあった」
と、外見に合わない小粋な冗談をかましたのだ。
「んで、今回は何泊するんだ?」
「人探しの依頼ですから……外泊も含めて最大6泊の予定ですね」
「わかった。いつも通り部屋を出る時は現状復帰してくれりゃ好きに使ってくれ」
さて、必要最低限の装備を整えたらまずは冒険者組合だ。
依頼者の息子はこの街の冒険者らしいから宿や依頼の受諾状況はすぐにでもわかるだ「ライヘンバッハお姉さま!?」っゲェ!あの声はもしや!
「やっぱりお姉さまじゃないですか!エ・ランテルに戻られたので!?」
「へぇ、コイツが噂のワーカーかよ」
「今すぐ仮面を外すべき、査定結果が出せない」
「ノンケなので興味なし」
「……」
あ、アイエエエエエ!?蒼の薔薇、蒼の薔薇ナンデ!?
しかもフルメンバー!?蒼の薔薇フルメンバーナンデ!?
お、おおお落ち着くのですクロエ、いやライヘンバッハ!
冷静に逝け、いや逝っちゃ駄目だろ!
そ、そうだCOOLだ。COOLになれ。
取乱さず、彼女たちがエ・ランテルにいる理由を聞き出し、自然体で振る舞うのだ。
できるぞライヘンバッハ、貴女はやれば出来る娘よ!
「久しぶりねラキュース、元気そうで何よりだわ。後ろの方々はもしかして噂の……?」
「えぇ、彼女たちは『蒼の薔薇』の仲間達です。ガガーラン、ティア、ティナ、イビルアイ。彼女はライヘンバッハ、王国を拠点としているワーカーで、クロエお姉様とも親交のある方よ」
「紹介に預かったワーカーのライヘンバッハです。訳あって素性を隠していますが王国を思う気持ちはラキュースに負けぬと自負しています」
「ガガーランだ。あんたの腕前と魔剣の話は聞いてるぜ。是非とも手合わせ願いたいね」
「私はティア、こっちがティナ。それよりもその仮面を外すべき、はよ、素顔はよ」
「訳ありだと言っていただろバカ!……仲間がすまない。私はイビルアイ、魔法詠唱者だ。私も故あってこの仮面は外せないんだ。すまない」
よ、よし!
チョロいラキュースは別として、蒼の薔薇のメンバーにも不審がられてない!
っていうかティアの眼ぇ怖っ!
獣、そうあれは獲物を狙う獣の眼光だわ!
何か手がワキワキ動いてるし、絶対仮面を奪う機会を狙ってるでしょ!?
うおおおおお!?何かさっきより近くなってるって言うか摺り足でにじり寄ってきてるぅ!?
「ッシャアアァァァ!!」
「あっ馬鹿ぁ!?」
「ティア!?」
ティアってこんなにレズバーサーカーなキャラだったかしらーッッ?!
なんて言ってる場合じゃない!これはかなり不味い!
ライヘンバッハとはつまりクロエ・カティナ・デイル・ボウロロープが世を忍ぶ仮の姿。
徳川吉宗にとっての徳田新之助、水戸光圀にとっての越後のちりめん問屋!
別に「予の顔を忘れたか」とか「この紋所が目に入らぬか」をしたい訳じゃないけど、身バレは絶対に避けたい!
「うおおおお!?」
――「いいかいクロエ。貴族たるもの、『常に余裕を持って優雅たれ』だ。この状況、君が培ってきた技術で十分対応できる筈だ」
……ハッ!?何かCV.速水奨っぽいおじさんのセリフが脳裏をよぎった!
飛びかかってくるティアに打てる最善手……これだぁっ!
「なっ!?ティアの動きを捉えただと!?曲がりなりにもアダマンタイト級冒険者だぞ!」
「勝負あったようね。この勝負、ライヘンバッハお姉様の勝ちよ」
「……ちょっと待てよ、あの抱え込み方、ちょっと変じゃないか?」
「私知ってる、あれは……」
――お姫様抱っこ。
「……いけない子猫ちゃんだ、仲間のもとへお帰り」
勢いで抱きかかえて、何言ってんだろうか私。
でも咄嗟に行動できたのもあのセリフのおかげか。
ありがとう、CV.速水奨っぽいおじさん!
背後の弟子とかに気をつけてね!
「アッ、これしゅき……♡」
ティアは鼻の穴という穴(2箇所)から血を吹き流して気絶!
「で、でた〜!お姉様の女たらしムーブ!あの技を受けて喜ばぬ女はいなかった〜っ!」
「うおおお?!ティアがいきなり出血しだしたぞ!ラキュース、バカ言ってないで早く治療するんだ!」
「落ち着け、ありゃ鼻血だ」
その後、気絶したティアを回収した『蒼の薔薇』の面々は王都に帰るべくエ・ランテルを後にした。
やれやれ、ヒヤッとしたがなんとか乗り切れた。
……あっ!どうしてエ・ランテルに来てたのか聞くの忘れてたですわっ!?
アダマンタイト級とやり合える王国貴族の万能お嬢様を見れるのは『ボウロロープ侯の娘』だけ!
続く!