前回までのあらすじ
ライヘンバッハに扮し、エ・ランテルの街中で『蒼の薔薇』のティアと特大のキマシタワーをぶっ建てたクロエは、当初の予定通り冒険者組合に人探しの為に必要な情報を仕入れに行くのだった。
「すみません、お尋ねしたい事があるのですが」
「はい、なんでしょ……っ!!?」
※※当時の事を実際に対応したエ・ランテル冒険者組合受付員のカレン・ナンダは次のように証言している※※
「私達、冒険者組合の受付は日々、様々な方の対応をしています。だから、どんな方が来ても平等な対応が出来るように訓練を積んできました。ですがあの方を目にした瞬間、これまで積み重ねてきた全てが音を立てて崩れる様な心地でした。もちろん良い意味で」
「あ、あの……どのようなご用件で、しょうか?」
「人探しです。鉄級の冒険者、年は15、名前は……えーと、ルガート。ルガート・ソロン。彼の所在を知りたいのですがご存知ないですか?」
「あ、はい!調べますので少々お待ちを……。はい、鉄級の冒険者ルガートはトブの大森林周辺で薬草採集の仕事を受諾中ですね!」
「トブの大森林ですか……。助かりました、貴女に感謝を」
「ええ、ええ。本当は冒険者の個人情報を聞かれたからってホイホイと出すなんて組合の沽券に関わる問題行動なんですぅ!でもでも!仮面の下に見える優しそうな瞳と声色、あの方を前にしたらもう何と言うか、『あぁ、この方になら話しちゃってもいいさ』って思って……アァッ!ライヘンバッハ様、ライヘンバ……ホアーッ!」
「あぁ、チクショウまただ……!おい、彼女を押えろ!」
「落ち着いたと思ったらこれだ!誰か神官を呼んできてくれ!」
「組合長も呼んでこい!……今日だけで10回、10回だぞ!?」
「……部下が取り乱して済まない。組合長のプルトン・アインザックだ。続きは私から話させてもらおう。ライヘンバッハ氏はエ・ランテル冒険者組合が信を置いている稀有なワーカーだ。と、言うのも遭難した銅級冒険者の救助や、情報提供などの支援活動で多く助けられているからな。彼女の困ったところと言えば『天然の女たらし』である事。そして、今回の件もそれに伴ったものなんだが……、まぁ、つまりは結果論的にはなるが何も問題は無かったということだ。うん」
「ほ、ホアーッ!」
……あの受付嬢の娘すっごい緊張していたみたいだが、一体どうしたのだろうか?
最後の方なんて顔が真っ赤だったし。
それはそうと、……うーん、『トブの大森林』かぁ〜……。
カルネ村の近くじゃないですかヤダーっ!
こ、これもいつぞやの「世界の修正力」、っていうか「とっとと巻き込まれて来い」的な思惑が見え隠れしてる気がする……!
チクショウ!いつの間に大◯洋は存在Xに変化したんですわよ!?作品が違う、作品が!違う!ですわ!
作品自体は好きだけど!
んぐぐぐ……。
このままカルネ村をスルーすれば、……すれば。
出来るわきゃあねーですわっ!
見えている脅威を前にっ!
下々の民を見捨てる!?
敵に領土を好きにさせる!?
『善き貴族』がそんな事出来るわきゃあねーですわよっ!
正体を『ライヘンバッハ』と偽ろうとも!
私はボウロロープ侯『クロエ・カティナ・デイル・ボウロロープ』ですわ!
やってやりますわ。
あぁ、やってやりますわよっ!
やってやるからにはトコトンやってやりますわっ!
どうせなら『あの場』に集うすべてのど肝を抜いてやるくらいに、
世界の羨望が私にだけ向けられるくらいに!
うおおおお!何か自分を叱咤激励したらパワーが高まってくる気がしてきましたわ〜!
でもその前に、
「まずはルガート・ソロン探しだっ!」
ルガート・ソロンはエ・ランテルに帰還する道中のところを運良く見つける事ができた。
事情を話し、手紙を代筆してやり、手数料を渡してエ・ランテルについたら直ぐに手紙を送るように言って別れた。
見た感じも特に病気や怪我をしている様子もなく、順調な冒険者ライフを充実しているようだった。
……はいっ、という事でお仕事お終いですわっ!
早速向かうはカルネ村!待ってろよ生エンリと生ネム〜!ですわっ!
どうでも良いけど生ネムと生ハムって響きが似てるですわー。
「……それはそれは、わざわざエ・ランテルから来ていただきありがとうございますライヘンバッハ様」
「えぇ、噂と言うには物騒に過ぎますので暫く滞在させてもらっていいでしょうか?もちろん皆様にご迷惑はおかけしません」
愛馬を走らせカルネ村に辿り着いたのは夕刻に差し掛かった頃。
ライヘンバッハとしての身分を明かし、「所属不明の武装集団の噂」の調査で訪れた事を村長に告げた。
ここ迄来る間に見かけた開拓村も幾つかあったがその様子は全くの平穏そのものだ。
やはり私兵部隊による定期巡回の効果が出ているのは確かだ。
……考え過ぎだったのだろうか?
「……わかりました。さきほどご覧いただいた通り、村は収穫期の真っ最中です。そんな物騒な輩が居るのなら私達としても貴方様の滞在は願ったり叶ったりというもの。どうかよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします村長様」
こうしてその日は終わりを迎えた。
深夜未明
王国領内某所
「ベリュース隊長、あの村の周辺も王国兵が巡回しています……!ここは法都に戻り、指示を仰いだほうがいいのでは……?」
「法都に戻るだと……?すると何か?貴様は俺に恥をかいて来いと言っているのか?」
「い、いえ!そういう事ではなくこのままでは作戦の続行自体が危ぶまれます!糧食も志気も限界があるのです!」
「だったら近くの村から奪えばいいだろ!いいか、俺は隊長だぞ?俺がやると言ったらお前らはやれば良いのだ。つまらない事で俺の機嫌を損ねるんじゃあないっ!」
「っ!……はい、大変失礼しました。隊員には引き続き周囲の偵察をさせます」
……クソッ、親が資産家である事しか取り柄のない無能な隊長め。
糧食を近くの村から奪えだと?王国の警備が厚いという話を聞いていなかったのか!?
そもそも何で王国の兵士が巡回しているんだ?
軍事演習が行われるなんて本国から齎された情報には無かったはずだ。
予想外続きでイライラする。
それもこれもあのバカが隊長になってからずっとこのザマだ。
「グランプ副長!見つけました!王国兵士が巡回していない開拓村です!」
「なに……そいつは本当か?」
「はい、トブの大森林付近の村です!村の手前で部隊が引き返していったので間違いないかと」
「わかった。俺は隊長に伝えてくる。朝方から作戦を開始する可能性もある。お前たちは早めに休んでおけ」
「はっ!」
……予想外の妨害に糧食不足、それに伴う志気の低下、更にはバカ隊長。
もう部隊の不満は爆発寸前だ。
名も知らぬ村よ、済まないが俺たちの不満の捌け口になってくれ……。
全ては人類存続の為、悪く思うな……。
翌朝
カルネ村の空き家
「主武装の白鯨丸、副武装がショートソードが二本、投げナイフが20本、クロスボウが一つとボルトが40本……。陽光聖典との連戦も想定するとギリギリ足りるか微妙ですわね……」
カルネ村襲撃事件は大きく二段階に分かれていますわ。
一段階は帝国兵に偽装した法国兵士の集団。
しかも魔化した武装持ちですわ。
武具のクオリティという面なら負ける気はしないけど、やっぱり数が問題ですわね……。
私は村の損害を抑えつつ敵を殲滅しなければなりませんわ。
その次は歴戦の陽光聖典。原作通りの展開になればアインズ様の舐めプタイムだけど、それにはキーマンたる戦士長ガゼフ・ストロノーフの存在が不可欠。
それこそ私とアインズ様が接触することで何が起きるかなんて分からない。
最後に頼りになるのは己のみ、迷わば死、ですわ……。
「うーん、後ろ向きなことを考えてても仕方ねぇーですわ」
とりあえずやる事はやってやりましてよ!
ベストを尽くせーっ!ですわっ!
「ふっ!っせい!やぁっ!」
投げナイフとクロスボウ以外の武装での型稽古。
しっかりと残心を取りつつ、挙動の一つ一つを確認する。
白鯨丸は刺突を封じる代わりに打撃と斬撃の二属性を繰り出せる剣、その重心は先端にある為、振るうたびに全身の筋肉に程よい刺激を与える。
ショートソードは……まぁ、至って普通のショートソードだ。何十、何百と打った内の二振りで、これと言った特徴がない。
故に特徴が無く、真っ当に基本的な拵えで有ることが長所だ。
ショートソード二刀流?
ないないない、それはない。
咄嗟の行動が取れなくなるし、何より恰好だけで「私は剣しか振れない」と喧伝するようなものだ。
剣も振るう、拳も振るう、場合によっては投げて、組み付き、飛びかかる。
何でも出来て初めて一流を名乗れるというもの。
まぁ、「剣を振るうだけで何でも解決する強者」ならば話は違ってくるのだろう。
近いうちにそんな人に会いそうな気がするが。
……それにしても空気がクッソうめぇですわっ!
この世界の文明が停滞しているってのもあるけど、早起きするだけで価千金、三文どころじゃないですわ!
「きれい……」
むむ、何奴。
「あ、ご、ごめんなさい!邪魔をする気はなかったんです!」
おや?
おやおやっ!?
あの方はもしやっ!
エンリ・エモットさん!?
「……お気になさらず結構ですよ。まぁ、見ても面白いものではなかったでしょうが」
「い、いえいえ!とっても綺麗で格好良かったです!」
「ふふっ、それはどうも。見たところ貴女は……、カルネ村の方ですか?」
「は、はい!エンリ・エモットといいます!」
おぅふ、エンリさんメッチャ慌ててるでゴザですわよ。
私もメッチャパニックだけど。
だって生エンリよ?
テンション上がりますわよね?
バイブスがアゲ↑アゲ↑になりますわよね?
実際に私はなってますわYO!Foo!
「エンリ・エモット……いい名前ですね。私はライヘンバッハ、昨日この村にやって来たワーカーです。お見知りおきを」
「あ、ありがとうございましゅっ……〜〜っ!」
あ、噛んだ。ですわ。
「へぇ、エンリさんは毎朝の水汲みが日課なんですね。大変じゃないですか?」
「慣れちゃいました。それにうちの男手はお父さんだけですから私がその分働かなくちゃいけないので」
「親御さんはいい娘さんを持たれた様ですね」
「えへへ……。でもライヘンバッハさんも凄いですよ。戦うことについてはよく分からないですが、さっきの動きも凄いキレがあって……物語の英雄って感じで!」
「ははは、……実はあの動きにはコツがあるんです。知りたいですか?」
「……是非!」
「それはですね……」
「それは……?」
「慣れることです」
「〜〜っ!も〜、からかってますね!?」
「いやいや、でも本質はエンリさんの水汲みと一緒なんです。『やらなきゃならないならやるしかない』、最初は木剣をひたすらに振って、次は姿勢が崩れないような足運びを意識して木剣を振って、木剣を鉄の剣に変えてひたすら振って……強くならざるを得ないからこそ続けられたんだと思います」
「……ライヘンバッハさんが強くなりたい理由って何なんですか?」
「それはですね、……っ!」
エンリとの会話に水を指すように周囲の空気が変わった。
帝国との戦争で幾度も感じた殺気。
それがこの村に近づいている……!
「ど、どうしたんですかライヘンバッハさん……?」
「エンリ、村に戻って皆に伝えてください。『村に賊が接近している』と」
「ぞ、賊って……なんで!?」
「落ち着きなさい!良いですか、奴らはこの村を荒らし尽くすでしょう。私が奴らの注意を惹きますが漏れが出る可能性があります。貴女は直ぐにこの情報を村の皆、そして村長に届けて襲撃に備えてください」
「は、はい!」
「大変良い返事です。さぁ、時は金よりも大切です!すぐに行きなさいっ!」
「はいっ!」
……これはいよいよナザリックとの邂逅ですわね。
この20年、この日よりも未来の為に準備をしてきましたわ。
爵位を得た、工房を得た、ワーカーとしての地位を得た、偶然と言えど魔剣も拵えた。
そして……「ライヘンバッハさん!」
「ライヘンバッハさん!また、また会えますよね!?」
「……無論です。後で手を痛めない拳の握り方をお教えしましょう」
……良い人脈も築く事が出来ましたわね。
さぁ、やってやろうじゃありませんの。
法国も、ナザリックも、ど肝を抜かれる準備をしてやがれですわっ!
遂にナザリックとの邂逅果たすか!?
その前にベリュース達を血祭りに上げろ!
クロエ・カティナ・デイル・ボウロロープの飽くなき戦いは続く!
彼女の勇気が、王国を救うと信じて!
次回『ベリュース、死す』
良いお年を!アディオス、アミーゴ!
(これでコミケ行けるで……)