夜明けの地平線団の襲撃を退けた鉄華団団長オルガ・イツカはノルバ・シノより所属不明の機体がいることを聞かされ、まだ眠れそうにないなと目頭を抑える。戦闘が終わり、事後処理を行う団員達とすれ違いながら、オルガはモビルスーツ格納庫へ向かう。
ノアキスの七月会議にて革命の乙女と謳われたクーデリア・藍那・バーンスタインを地球に送り届けるという仕事から始まった鉄華団はタービンズと義兄弟の盃を交わし、ギャラルホルンの介入があったにもかかわらず見事仕事を成し遂げた。その成果は各経済圏、各企業へと名を知らしめす結果となり、タービンズの親会社テイワズの直系団体となった鉄華団は一躍急成長企業へとなった。その裏には鉄華団の武力が大きく買われており、ガンダム・バルバトスのパイロットでありオルガの相棒である三日月・オーガスや多くの団員の支えがあってのものである。
子供だとバカにされ、迫害されてきた彼らからすれば今の立場は過去と比べると月とスッポンであり、毎日温かい食事が出て温かい寝床で睡眠をとることが出来る。人として当たり前の小さな幸せを手にした鉄華団だが、それでも彼らはまだ止まらない。
ここではないどこか。死んでいった者たちのためにも、今を生きている者たちのためにも、みんなが安心して幸せに暮らせるようになるまではオルガ・イツカの戦いは終わらないのだ。
「おやっさーん」
モビルスーツ格納庫へと着いたオルガは鉄華団になる前の組織CGSの頃から"おやっさん"と慕っている雪之丞へと声をかけた。
「おう来たか」
片手にタブレットを持ち、今回の戦闘を終えて運ばれてくるモビルスーツやモビルワーカーを眺めていた雪之丞の隣にオルガは立つと白き装甲を持った鎧の巨人を見上げた。
「これが新しくなったバルバトスか」
「あぁ。名前はバルバトスルプスってテイワズの整備長がつけてた」
バルバトスの改修と受け取りのためにパイロットと共にテイワズへ行っていた雪之丞は先程バルバトスルプスと共に火星まで飛んできた。そして、今しがたその輸送機から降りてバルバトスルプスや他の損傷した機体のチェックに当たろうとしていたのだが。
ちらりと動かなくなったモビルワーカーや敵モビルスーツの残骸を運んでいる見慣れないモビルスーツにオルガは目を細めた。
「で、あれが…」
「シノ達が言ってた突然現れたっていう機体だ」
バルバトスと同じく白い装甲を持ちながら身体や肩には青が用いられており、角張っていたり流線的でどこか神秘的なデザインを感じさせる。ガンダム・フレームやグレイズタイプのモビルスーツのフレームとは違った体躯や背中の羽根のようなものといい、オルガや雪之丞が今まで見てきたモビルスーツとは異なるデザインをしている。
「あれを見て夜明けの地平線団のやつらは撤退したんだよな?」
「さぁな」
今帰ってきたばかりで戦闘は見てねぇからなと知らん顔をする雪之丞にオルガは苦笑した。
「そっか。じゃあパイロットに直接聞くとするか」
頭をボリボリと掻きながら格納庫を出る前にオルガはキョロキョロと辺りを見渡す。まるで誰かを探しているような様を見た雪之丞は口を開く。
「三日月なら食堂で飯食ってるぞ」
雪之丞はそう伝えると整備班の面々と合流し、各モビルスーツ、モビルワーカーの点検作業へと入る。用がある人物の場所を聞いたオルガはその人物に会おうとまた足を進めた。
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「……じゃあ、アンタが何者なのか聞かせてもらおうか?」
そう口火を切ったのは団長室でソファにどしりとヤクザのような形相で目の前の男に最大の警戒心を向けるオルガで、その隣にはいつでも動けるように三日月が立っており、さらにその後ろには副団長であるユージン・セブンスタークや昭弘・アルトランドらも背中の後ろで手を組んで立っている。
その顔にはオルガのように警戒心を向ける一方で男の得体の知れない雰囲気に動揺に似たナニカも現れている。
「刹那・F・セイエイ。私設武装組織ソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ」
「ソレスタルビーイング?」
淡々とした口調で発した刹那に対し、オルガは聞き慣れない組織に首を傾げる。すぐさまユージンが調べるも、該当する名前はない。
「やはりか」
「やはり?」
その結果に納得する刹那に、オルガは説明を求めようとするがそれは突如現れた別の人物によって遮られる。
『その話は僕からしよう』
「うおっ!?なんか出やがった!?」
ユージンの持っていたタブレットからこの場の誰でもない声が響き、メガネをかけた長髪の男にも女にも見える中性的な人物が投影される。
「ティエリア、成功したのか」
刹那の問いかけに首肯したティエリアは驚く鉄華団の面々に向き直る。
『僕の名前はティエリア・アーデ。刹那と同じくソレスタルビーイングでガンダムマイスターをしていた』
無感情であまりにも淡白に話すからか、あるいはタブレットから人が現れて話していることに動揺しているのか、僅かに上擦った声でユージンが尋ねる。
「な、なんなんだよ、そのガンダムマイスターってのは」
『そうだな。僕たちが理解し合うためにはまずは僕らの話からさせてもらおう』
そこからティエリアは語った。戦争根絶のために自分たちがモビルスーツ・ガンダムで介入行動を行っていたこと。ソレスタルビーイングはそのための組織であること。ガンダムマイスターとは、ガンダムに乗ることを許されたヴェーダによって選ばれたパイロットであること。さらには、自分たちが戦ってきた者たちのことを。
「軌道エレベーターに独立治安組織?」
「イ、イノベイターにイノベイド?な、なんだそりゃ」
「さっぱりわからん…」
副団長に任命されてるだけあって頭の回るユージンはティエリアの言うことを大体は理解したものの、シノや昭弘のような脳みそが筋肉で出来てそうな輩にはちんぷんかんぷんであった。
「……あんたらのことは大体分かったが、地球には軌道エレベーターなんてものはねぇし、連邦議会とやらも存在しねぇぞ」
『あぁ。こちらは我々の文明よりも進んでいるようだ』
ヴェーダと自らの力でどうにか鉄華団のシステムに侵入したティエリアは、火星のネットワークシステムからこの世界の情報の大凡を把握していた。エイハブリアクター。ガンダム・フレーム。厄災戦。ギャラルホルンなど。どれもこれも聞いたことの無いワードばかりだ。それにオルガの言葉と合わせるとこれらの齟齬の理由は自ずと見えてくる。
『どうやらここは僕たちのいる世界線とは別の世界線らしい』
「あんた正気か?」
そんなお伽噺のようなことがあるわけが無いだろうと言うオルガにティエリアは『それしかないだろう』と首を横には振らなかった。
意見を変えることはないであろうティエリアの様子にオルガはため息をつくと瞑目した。
「まぁ…アンタらが言ってることがホントだとしてよ…俺らがこれからまた戦うってなったらどうするんだ?」
戦争を根絶するという思想を持つソレスタルビーイングの一員という話が事実なら、鉄華団が夜明けの地平線団と衝突し合っている現状に対して何かしらの行動を起こしてくる可能性がある。それが鉄華団の利益になるのならばよしだが、不利益になるのならば。
「もちろん、俺たちは止める」
今まで口を閉ざしていた刹那が口を開き、それと同時に三日月は持っている銃を彼に向けた。
「どうやって?」
銃口を突き付けながら尋ねる三日月に周りの目線が刹那と三日月に集まる。そして刹那の出した答えは、彼とティエリアにとっては言い慣れ、聞き慣れた言葉であった。
「ガンダムによる武力介入を行う」