ハイスクールD×D 黒龍伝説   作:ユキアン

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5話

「……くっ」

 

ストップウォッチを止めてアロンダイトとエクスカリバーを封印処理が施された鞘に納める。

 

「全開にして立っているだけなのに12分47秒か。戦闘なら5分が限界か。札に制限を掛けられたか。どうするかなぁ」

 

悪魔に成ったの、早まったか?魔力は自分で調達出来る様になったし肉体的にも強くなった。太陽が辛いのも慣れたのなら聖剣の力にもいずれは慣れると考えるしかないか。

 

それに悪魔に成った事で見れなかった世界を見る事が出来る。体験出来なかった事が出来る。生きていると実感出来る。

 

それはオレが生きる最大の理由だ。そこまで考えた所で、そろそろ会長にオレの全てを話さなければならないと思った。もうオレは引き返せない所まで来た。決定的な不和を出さない為にも話しておかなければならない。その覚悟は既にある。後は、タイミングだな。

 

 

 

 

 

 

身分や階級に関係なく誰もが通える学校を作りたい。それが会長の夢。空っぽなオレですら会長の決意に動かされそうになった。動かなかった理由はオレが会長に全てを打ち明けていなかったからだ。だから、ここが本当の分水嶺だ。何の為に生きるか。それを決めなければならない。

 

あてがわれた部屋の窓から翼を広げて屋敷の屋根へと上がる。冥界の空にも人間界と同じ様に月と星が見える。こうして星空を眺めるのはあの頃以来か。眠らない様にする為に星空を眺めるだけの行為だったっけ。

 

しばらく星空を眺めていると少しだけ予想外なことが起こる。誰かがやってくるとは思っていたが、それがセラフォルー・レヴィアタン様であるとは思っていなかった。それも真面目な魔王様の格好でまともな態度でだ。これが常なら会長は苦労しないんだろうな。

 

「少し良いかな?」

 

「眠れないだけですので時間は幾らでも」

 

「なら率直に聞くけど、ソーナちゃんを裏切るつもりなのかしら」

 

セラフォルー様から冷気が伸びてくる。臨戦態勢に入っているのだろう。

 

「そんなつもりは一切ありません」

 

「じゃあ、なんであの時、変な顔をしてたの?」

 

「……オレに動かされる程の心が残ってた事に驚いていただけです」

 

「……どういう意味かしら?」

 

「そのままの意味です。オレの心は無くなった物だと。そう思っていたのに、残っていちゃ駄目なのに」

 

「な、何を言っているの?生きなきゃ駄目なんでしょ?」

 

「そう、オレは生きなきゃいけない。オレの代わりに死んだ、いや、オレが殺してしまった妹の為に」

 

「えっ!?」

 

「あの男女から守っていたと思ったのに、オレの命の危機に覚醒した『黒い龍脈』は手近に居た妹の命を吸い上げてオレを生かした。日に日にオレの腕の中で弱っていく妹に、オレは追い討ちをかける事しか出来なかった。オレが死んでいれば、生きれたかもしれなかったのに」

 

「ちょっと落ち着いて!!」

 

「何故オレが生きている、何故あの男女が生きている、何故妹が死ななければならなかった、何故、何故、何故!!」

 

「ああもう、頭を冷やしなさい!!」

 

 

 

 

目が覚めるとあてがわれている部屋の天井が見える。

 

「匙、目が覚めましたか」

 

「……会長?」

 

「お姉様に氷付けにされたようです。何があったのかは言葉を濁すばかりで正確な事は分かっていません。何があったのですか?」

 

身体を起こすと会長の隣に正座をさせられているセラフォルー様が目に入る。その顔は何処かばつの悪そうな顔をしている。部屋には二人だけで時間はそれほど経過していないようだ。全部話すにはちょうど良いか。

 

服を脱ぎ、出来る限り隠してきた上半身を曝す。それを見て会長とセラフォルー様が息を飲むのが分かる。全身の至る所にある直径0.5cm程の小さな火傷の痕と小さな刺し傷。オレがあの男女に与えられたもの。それとは別にある銃で撃たれた痕。

 

「オレの世界はアパートの一室と、オレに常にストレスを酒瓶でぶつけてくる男と、オレを灰皿の様に扱う女だけでした。ただひたすら耐えるだけの日々、生きる為に残飯や腐りかけの物を漁り、部屋の隅に居るだけの存在。それがオレでした」

 

「まさか、そこまで」

 

「自分の子供なのに、そんなのって酷いよ」

 

「人間ではありふれた物ですよ。探せば同類は幾らでも見つかる。後に俺が入れられた施設に3人程居ましたから。話を戻します。ある日、女の方をしばらくの間見ることが無くなり、オレの世界に一人加わることになりました」

 

「それが妹さんですね」

 

会長の言葉に首を縦に振る。

 

「妹はオレにとって初めて現れた存在でした。オレより小さくて、弱くて、温かい存在でした。そんな妹にまで手を出そうとする男から反射的に庇い、初めて男と女に反抗する位に、妹はオレにとって大きな存在だったんです。だけど、その反抗が妹を殺してしまう原因になってしまった」

 

「「……」」

 

「反抗された事に怒った奴らは、それまで以上にオレに暴力を振るった。オレの命を脅かす程に。その後、いつ目覚めたのかは分かりませんが『黒い龍脈』が一番近くに居て抵抗出来ない妹の命を吸い上げてオレを生かした。日に日に弱っていく妹が死んだと理解した後の記憶は曖昧で、次にはっきりとした記憶があるのは何処かの森の中に居た事、野生の獣を『黒い龍脈』で命を繋ぎ止めていた事、そして猟師に獣と間違われて撃たれて保護され、施設に入れられた」

 

感情が高まっていくのを感じる。さっきみたいに暴走するわけにはいかない。もっと自分を憎め、恨め。感情を一気に高めろ!!これは懺悔なんかじゃない。オレは許されては駄目なんだ。

 

「生き残ってしまったオレには妹の命で生きていると言う事実が残された。これが産まれたばかりの妹ではなく、優しい母だったなら祝福とも取れた。だが、産まれたばかりの妹であった為にオレには呪いだけしか残されなかった。オレの命は妹の命だ。だからオレは妹の代わりに生きなければならない。すぐに転生悪魔にならなかったのもオレという命を一度終わらせるため。それを終えた今、オレは主である会長のためと、妹のためにしか生きてはいけないのに」

 

なのに、主従関係と関係なくオレ自身が会長の夢を手伝いたいと思ってしまった。

 

「オレは会長の眷属に」

 

相応しくないと続けようとした所をセラフォルー様からの平手で妨げられる。

 

「事情は分かったわ。その上で言わせてもらうけど、複雑に考え過ぎ!!悪魔に転生したんだから、もっと欲望に忠実になれば良いの」

 

「しかし、オレは死んで」

 

「悪魔の駒で蘇った。死んだなんて言わせないし、屁理屈も言わせないよ」

 

そう言ってオレの胸に何かを押し付けてきた。会長が驚いていたが、すぐにオレも驚きで唖然としてしまった。オレに押し付けられたもの、それは悪魔の駒だった。それもセラフォルー様のだ。

 

「ソーナちゃんの駒で蘇った命が妹さんのだって言うのなら、貴方自身の命もこれで蘇った。それで、最初の命令だけど貴方は貴方らしく生きなさい。妹さんの事で悩んだり、自分を恨んだりする事もあるだろうけど、それでも自分の為に生きなさい」

 

「そんなのは無理だ」

 

「無理じゃない。それは貴方自身が証明している」

 

「オレ自身が?」

 

「貴方が困っている人を助けていたのは何故?保護してくれた猟師の人達と交流があるのは何故?それらに妹さんは関係ある?」

 

「それ、は」

 

「貴方が貴方として生きていた証だよ。逃げ道が無いなんて思わないで。誰にでも逃げ道はあるの。だけど、それを選ばない事が力になるんだよ」

 

「オレは、オレとして」

 

「生きなきゃ駄目。自分でどうする事も出来ないのなら、縛って手綱をとってあげる。それが主の義務だよ」

 

滅茶苦茶な理論だった。逃げ道を作っておけとか、悩んだり恨んだりしろって。真逆のことを言われているのに。オレはその言葉で救われた気がした。救われてはいけないはずなのに。

 

 

 

 

泣いているあの子を一人にしてソーナちゃんのお部屋で姉妹水入らずのお話なんて何時ぶりだろう?お姉ちゃん、テンション上がって来たよー☆

 

「ソーナちゃん、あの子をちゃんと見ていてあげてね」

 

「申し訳ありませんでした。お姉様のとっていた変異の駒を使わせてしまって」

 

「いいのいいの♪前から個人的に興味は持ってたし、十分私の眷属としても活躍出来るだけの技量もあるしね♡」

 

実際、並の上級悪魔よりも信用して仕事を任せられると思う。自分の実力を過大評価も過小評価もせずにどんな手でも使える悪魔なんて少ないから。それが一定以上の実力を持つとなると3桁を切る位しか居ない。私の眷属も半分は脳筋だしね。サーゼクスちゃんみたいにもうちょっと人間から眷属を取った方が良かったかな?まあ、今回の件でその枠も埋まったしこれからの成長に期待しておこう。

 

「そうそう、今回の事で変われると思うけど、あの子、精神面が凄い不安定みたいだね。自分の言葉で過去を話して暴走しかけてたのを氷付けにしたっていうの、本当だったでしょ」

 

「私も独自に調べてはいたのですが、まさかあそこまで重い過去を持っていたとは思いもしませんでした」

 

「突っ込み辛い案件だったしね〜、仕方ないと思うよ。いやはや、心ってのは本当に分かり難いよね。これからも少しずつ理解していかないと、あの子、また変な風にねじ曲がるかもしれないしね」

 

「……それはどうでしょうね?」

 

「ほぇ?」

 

「私にはねじ曲がっている様には見えませんでした。匙は、まっすぐに生きていました。ただ、目隠しをしたままで、自分が決めた道をまっすぐに。道が無いのなら作ってでも。見えないからこそ逆に恐怖が無かった。そして目隠しが外れて、いえ、外して歩けなくなってしまっただけ。だけど、私は何もしてあげられなかった。私の眷属なのに、何も」

 

ありゃりゃ、ソーナちゃんまで落ち込んじゃった。お姉ちゃんとしては何とかしてあげたいけど後の成長を考えると下手に手伝うのも問題が出てくるし、どうしよう?

 

結局その場はお茶を濁して乗り越えてくれる事を祈ったんだけど、翌日から二人の間に微妙なすれ違いが生まれて、それに釣られて他の眷属まで不安になって、あの子に至っては黒い龍脈を扱えなくなって、悪い方向にばかり流れてしまった。

 

まずは落ち着こう。落ち着いたらちょっとタイムマシン探してくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ〜、情けない。黒い龍脈が使えなくなっただけでこの様か。ギャスパーをニンニクで潰したまではよかったが、聖魔剣を持ち続けている木場に手も足も出ない程に追いつめられている。なんとか煙幕を使って逃げ切って隠れる事は出来たが、一撃仕掛けるのが限界だ。

 

その一撃は確実に致命傷まで持って行けない。もう一撃が必要になる。木場相手なら一撃目を防がれると同時に死角からの追撃が必要だ。駄目だ、殆ど積んでやがる。笑えてくるわ。オレらしく生きろって言われても、生き方が分からない。

 

オレだって普通に人と人が作る輪の中に入りたいと思っている。だけど、その輪の中に入る方法を知らないんだ。猟師の人達とはいつの間にか入っていた。施設でもそうだ。どうやって輪の中に入ったのかが分からない。正確には輪に入っている事を理解出来ない。

 

生徒会の輪の中に入っているはずだ。同じ会長の眷属で、表向きの生徒会を一緒に運営しているのだ。当然、オレもその輪の中に居る。それなのに輪の中に居ると思えない。

 

今まで目を反らし続けて来た現実にオレは耐えられず、神器を扱えなくなった。聖剣達からは拒絶が強くなった。魔力すらも上手く練れなくなった。精神構造もメチャクチャ。欠陥だらけの存在。それがオレだ。

 

そして会長の兵士であり、セラフォルー様の騎士でもある。このまま引き下がると言う無様な姿を見せるわけにはいかない。最低でも木場を道ずれにしなければならない。だから、そんな必死になってこっちに来ないでくださいよ会長。こんな姿、見せたくないのに。

 

「無事、とは言えませんね。大丈夫ですか、匙」

 

「……なんで、此所に?」

 

いや、オレの所為か。戦況は芳しくない。オレが与えられた仕事をこなせていないから。そのてこ入れだろう。

 

「今は私の話を聞いてください。頼りない王かもしれませんが」

 

「そんなことは……ありません」

 

「いえ、私はあの時何も出来ず、何も言う事が出来なかった。自分を追いつめて苦しんでいる眷属が目の前に居るのに、言葉だけの慰めすら出来なかった」

 

確かにそうだったけど、あれはセラフォルー様が居たからで

 

「お姉様がいらしたおかげであの場は綺麗にまとまりました。ですが、もしお姉様が居られなければ、どうなっていたか。私は悪い方にしか流れないと、そう思っています。だから、私の元に居るよりもお姉様の元に居た方が良いのではないかと、ずっと考えていました」

 

そんな、オレなんかの所為で会長が悩んでいたなんて

 

「このゲームが終わった後、お姉様の元に行く様に提案するつもりでした」

 

会長の言葉に頭を思い切り殴られたような、そんな感覚がした。会長の元から離れるなんて、嫌だ。オレは会長の夢を手伝いたいと心から思ったのに。だけど、オレが傍に居る事が会長を傷つける行為なのだとしたら離れる方が良いのではないのかと言う考えに板挟みになる。

 

「ですが、それを知った椿に怒られました。王として自ら考えた結果ならともかく、流されて出た答えで眷属を放そうとするなって。匙の事を考えているようで、ただ逃げているだけだって」

 

よく見れば会長の右頬が赤くなっている。

 

「匙、私は貴方の事を分かってあげる事が出来ない。だから、教えて貰えますか。貴方はどうしたいか、どう思っているのかを」

 

「……オレは、会長の夢を聞いて、手伝いたいって。身分が低い、力が弱い、そういった者のための、オレみたいな奴を作らなくて済むかもしれない。オレみたいな奴が増えても、ど、何処かで、孤独を感じる奴が、増えるだけなんて嫌だから。そのために力を振るいたい。嫌いだけど大切な、大切だけど大嫌いな、醜い欠陥だらけのオレ自身を捧げられたのなら、少しは妹に顔向け出来るかもしれないから。オレは貴女の夢を手伝わせて」

 

口から零れるこれはオレの本音だ。だけど、違和感を感じる。これはなんだ?オレは何かを間違えている。気持ち悪い。なんだ、一体何を間違えている。

 

一瞬だけエクスカリバーとアロンダイトが聖なる力を解放する。その痛みに顔を歪め、睨みつけて、理解した。匙元士郎がどうやって人の輪に入っていると感じられる様になるのか。そして何を間違えていたのか。

 

そうだ、そもそも匙元士郎は妹の命を演じる為に生きて来た男だ。オレの本来の名は■■■■■。あの男と女によって産み出されたストレス発散用の道具だった本来のオレ。そんなオレの本音は誰かと繋がっていたいという生物としては普通の事。そして繋がる為の手段をオレは一つしか持っていない。

 

オレは痛みを与えられて、それを許した相手としか繋がる事が出来ない。そういう風に歪んでしまったのだ。猟師には間違って撃たれ、施設の奴らとは些細な事で喧嘩になって、セラフォルー様には平手を貰い、エクスカリバー達には身体を焼かれ、会長には、そう、角でぶつかって偶々会長が持っていた荷物が鳩尾にクリーンヒットしたんだっけ。

 

たったそれだけのことなんだ。オレの欠陥は。

 

そう理解しただけで身体が軽く感じる。そしてオレ自身の本音も分かった。

 

「オレは、匙元士郎は会長の夢を手伝いたいんです。そして■■■■■は、ただ貴女の傍に居たいんです。それがオレと、妹の命を使って来たオレの本音です」

 

「■■、それが本当の名前なのですね」

 

「あの男と女に与えられた物なんて全部捨てたつもりだったんですけどね。捨てれなかった様です。やっと向き合えた。会長のおかげです。会長は否定するかもしれないけど、今ここでオレがちゃんと過去に向き合えたのは会長があの町外れの廃墟で悪魔である事を知る前に、オレと出会って、痛みを与えてくれたから」

 

「痛み?」

 

「オレの日常は暴力に、痛みに染まっていた。与えられる痛みが誰かと繋がるための道具になった。それをオレは理解出来なかった。オレはちゃんと誰かと繋がってるし、新しく繋がる事も出来る。オレはもう、孤独に怯える事は無いんです」

 

「匙、貴方は乗り越えたのですか」

 

「いいえ、向かい合っただけです。乗り越えられるかはこの先次第。その為にも、貴女の傍に居させてください。我が『王』よ」

 

「何も出来ない情けない『王』の元で良いのですか?」

 

「今は何も出来なくとも、未来の事は分かりませんよ。それとも今のままで燻り続けるおつもりですか?」

 

オレの言葉に会長の目に力強い光が見えるようになる。

 

「……私は良い眷属に恵まれた様です」

 

会長は立ち上がりながらポケットから小瓶を取り出す。試合前に配布されたフェニックスの涙だ。

 

「大まかな指示だけ出します。ここからリアスの本陣までの敵を撃破しつつ、プロモーションを狙うフリをしてリアス達を本陣付近に誘導。その後リアス以外を全て取ります。その間、私達は時間稼ぎを行います。行けますね、匙」

 

「イエス、マイ・ロード」

 

フェニックスの涙を受け取り、二振りの聖剣と共に駆ける。今までのように聖剣に身体を焼かれる事なく、アロンダイトの肉体強化にエクスカリバーの天閃、透明、夢幻、祝福を発動させる。まずは木場からだ。

 

 

 

 

 

 

 

「まさかあの状況から、完全にひっくり返されるなんて」

 

「アレだけボロボロなのに真正面からでも強いし、上手い。これが匙の本気なのかよ」

 

グレモリー先輩達の本陣に、このゲームの参加者達は揃っている。こっちで残っているのは満身創痍で未だに黒い龍脈が使えないオレと魔力が半分程の会長と退場していないのが不思議な程消耗している真羅副会長と由良さん。対する向こうは魔力が殆ど残っていないグレモリー先輩とアルジェントさんが最後の力で傷を全て癒した兵藤。

 

笑いたくなる位に状況は劣勢だ。魔力がほとんど無いグレモリー先輩でも魔力が完全に0でない以上、兵藤の倍化で増やせる。兵藤を抑えきれるかどうか。この戦いの勝敗の分かれ目はそこだ。

 

小細工の道具はあるが、場所も悪ければ時間も無い。真っ向からどうにかしなければならない。奥の手は残しておきたい。アレは今後も使える貴重な物だ。ここで切る訳にはいかない。

 

ならば黒い龍脈を再び覚醒させる。この身に黒い龍脈は眠っている。失った訳では無い。そこにあるのを感じる。それを再び目覚めさせる。

 

神器は本来強い感情によって目覚める。オレは命の危機から目覚めた。その後も使えた理由はオレが■■■■■を殺そうとしていたから。そう考えるのが妥当だろう。だから、強い感情によって呼び起こす必要があるのだろう。その為には本気で戦うしかない。

 

「オレはまだまだ本気じゃないぜ、兵藤。三大勢力の会談の前にも言った通り、オレは手数と種類で力の弱さをカバーするってな」

 

ガンベルトを改造して鞘を取り付けたそれにエクスカリバーとアロンダイトを納め、上着の内側からはぐれ神父達から奪った銃を取り出してグレモリー先輩に向かって発砲する。それを、兵藤が盾になる?何をやっているんだ?修行した結果、普通にある程度の魔法は使える様になっていた。それなのに身体を盾にする?何故赤龍帝の篭手の力を使わない。既に8倍は溜まっているはず。

 

「ドライグ、まだなのかよ!!」

 

その言葉を聞くと同時に再び聖剣を抜刀して距離を詰める。エクスカリバーの力を引き出せる体力はもう無い。近づいて、二人まとめて斬り捨てなければヤバいと本能と思考が訴える。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

その音声と共に兵藤が赤いオーラに包まれ、そのオーラの中から赤い鎧が飛び出し、殴り掛かってくる。それをエクスカリバーとアロンダイトをクロスさせて受け止め、砕け散る聖剣達と共に壁に叩き付けられる。

 

「匙!!」

 

飛びそうになった意識を会長の声を支えに踏み止まる。どれだけのダメージを貰ったのかを調べる。身体のあちこちに、エクスカリバーとアロンダイトの破片が刺さり両腕の骨が折れている。あれが、禁手化した赤龍帝の篭手の力なのか。

 

壁を支えに立ち上がると兵藤が会長に向かってそこそこ大きい魔力弾を撃っていた。それを真羅副会長と由良さんが会長を突き飛ばして魔力弾に飲み込まれる。

 

『ソーナ・シトリー様の女王、騎士1名リタイア』

 

このままでは負ける。駄目だ、そんなことは。会長の夢が、オレの夢が、冥界で会長の夢を望む者達の為にも、こんな所で、負ける訳にはいかない。目指す物が曖昧な相手に、夢を潰されてたまるか!!起きろ、黒い龍脈!!夢を守る為に目覚めろ!!

 

「目覚めやがれ!!ヴリトラ!!」

 

アザゼル先生から聞いた黒い龍脈にその魂の一部を封じられている竜の名を叫び、それに応えるかの様に身体の奥から力が戻って来る感覚が起こる。そして、以前よりも莫大な力が沸き上がる。おそらく、これは

 

「禁手化!!」

 

禁手化と共にオレの中で一つの意思が完全に目覚める。

 

いつのまにかオレは自分すら見えない闇の中に立っていた。

 

『バラバラにされたとは言え、龍すらも変容させる程の力を持った存在か』

 

闇の中から何かの声が響く。

 

「お前がヴリトラなのか?」

 

『確かにそうだった』

 

「だった?」

 

『お前がオレの力を変に発展させたが為にオレの魂も変容してしまった。もう昔の姿には戻れんだろう』

 

「それはすまない事をしたな。だが、謝らん!!」

 

『構わん。オレはもう死んだと思っていたからな。それに、オレが知らなかった力を知れたのは面白い。一つ頼みがあるとすれば更なる高みを目指し、変わっていけ。オレの残りの力も集めた上でな』

 

「なら今から高みに居る二天龍の片割れを地に落とすぞ」

 

『ああ、やってみせろ。我が半身よ』

 

闇とオレが一体となり、形を変えていく。龍を模した漆黒の鎧に一切の穢れを持たない純白のマント、腰には灰色の剣が一振りずつ。そして背中には悪魔と龍、それに堕天使の翼一対ずつ。そしてそれがどんな力を持つのかが感覚的に理解できると共に、オレの身体で異常が発生しているのも分かる。余裕は無い。だが、赤龍帝を地に引きずり落とすには十分すぎる。

 

気付けばオレは兵藤に叩き付けられた場所に立っていた。兵藤はオレを見て驚いている。その姿は隙だらけである。

 

迷わずオレは黒い龍脈の禁手の力をフルに活用する。その力で肉体をブーストし、一瞬で距離を詰めて、左腰に差してあった灰色の剣で、聖魔剣エクスカリバーで兵藤の鎧を粉々に砕く。そして右腰に差してある聖魔剣アロンダイトで左腕を切り落とす。

 

「ぎゃあああああああ!?!?!?」

 

切り口から血が吹き出ている兵藤を殴り飛ばしてリタイアさせる。

 

『リアス・グレモリー様の兵士1名リタイア』

 

切り落とした左腕もちゃんと転送されたのを確認してから、グレモリー先輩に聖魔剣を突きつける。

 

「チェックメイトです。グレモリー先輩」

 

「くっ、一体それは」

 

「黒い龍脈の禁手の亜種、いえ進化した姿。『混沌龍の騎士鎧(アブソーブ・ナイトメイル)』無限に進化し続ける究極の神器!!会長の夢の障害を全て排除してみせる!!」

 

オレの気勢に飲まれて、グレモリー先輩からリザインの言葉が零れる。試合終了のアナウンスが流れ、会長がオレの方にやってくるのを見た所で意識が途切れる。

 


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