ハイスクールD×D 黒龍伝説   作:ユキアン

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8話

ええっと、修理にこれだけ補修剤を使って、備品の残りの在庫がこんだけだから、むぅ、予算オーバーか。これはあの変態三人衆から徴収しても良いよな。あいつらが学園の備品を故意に破損させているんだから、修理費はあいつら持ちだろう。業者を呼ばずにオレが修理して予算を抑えてきたのに予算オーバーとかふざけるなよ。とりあえず会長に報告して許可をもらおう。

 

「元士郎先輩」

 

「どうした、留流子?」

 

悪魔としては先輩で学園生としては後輩の仁村留流子だが、この前から名前で呼び捨てで呼ぶように言われたのだが、あまり慣れないな。他にも巴達も呼び捨てで名前で呼べと言われている。変わっていないのは会長と副会長と草下位だ。

 

「あの、今度の土曜日、空いてますか?」

 

「まあ、空いているといえば空いているぞ。急にセラフォルー様から呼び出しがなければだが」

 

「呼び出しですか?」

 

「主に怪盗蛇龍のアクションシーンの打ち合わせだな。やはりアクションが単調になりやすい上に小道具もめちゃくちゃな物を使ってしまいそうになるから、技術的におかしくなくあれば便利な物をオレが設計して作らせたりもしている。それを使ったアクションの手本を見せる必要があるんだよ」

 

最近の一番の出来は伸縮性のロッドだな。最短時には長さ15cmだが捻ることで最長5mまで伸び、棒術にも使える。幅3mの通路で伸ばして固定した場合150kgまで問題なく載せれることもできる。

 

これを使い足場を作ったり、棒高跳びの要領で飛んだり、武器として棒術を扱う手本を見せるのだ。向こうもプロである以上、手本から応用技を開発などを行うので教えがいがあるのだ。

 

「そんなことまでやってたんですね」

 

「他にも小道具の作成工房とかもやってるからな。ほら、この前のグレモリー先輩達に一人で挑んだ時の小道具、ああいうのを開発する工房を立ち上げたり、それだけだと先細りだから彫金とか細工物の仕事も振ってるけどな」

 

「えっ、経営にまで手を出してるんですか!?」

 

「まあ、そうなるか」

 

「資格とかもたくさんとってましたよね?」

 

「年齢制限がある物以外は片っ端から取っていってるな」

 

早く自動二輪と自動四輪を取りたいんだよな。特に自動二輪。レーティングゲームで使いやすそうだからな。

 

「......何をやっているんですか?」

 

「知識とは嵩張らない財産だとどっかの誰かが言っていた気がする。あとは根が小市民だからな。どうしても金を手元に残しておく癖がな。極端に節約する気はないが、それでも多少はな。無駄も嫌いだし」

 

「分からないでもありませんけど。って、話が大分それちゃってますね」

 

「そうだな。それで、とりあえずは空いているぞ」

 

「あの、それじゃあ、土曜日に買い物に付き合ってくれませんか?」

 

「ふむ、そういえば修学旅行の準備をしていなかったからちょうど良いか。いいぞ、付き合ってやる」

 

「そ、それじゃあ、駅前に9時半集合で大丈夫ですか?」

 

「駅前に9時半な。分かった」

 

「楽しみにしてますね!!」

 

そう言って留流子は駆け出していった。ほとんど聞き取れなかったが「やった」とも言っていたみたいだ。何が嬉しいんだ?そして若干ピリピリする複数の視線が突き刺さっている。

 

 

 

 

 

 

 

土曜日、約束の時間の30分前に誰も見られていないのを確認してから影から這い出る。オレが潜れるだけの影があれば何処へでも察知されずに移動できる便利な転移だ。倉庫にもなるしな。しかし、早くに来すぎたな。やることなど資格と検定の勉強しかないぞ。とりあえずネイルアーティストの資格でいいか。なんか、美容関係専門の悪魔になってる気がするけど気にしない方向で。既に手遅れな気もするけど気にしない方向で。

 

「お、遅れてすみません!!」

 

留流子が走り寄ってきたのを見て腕時計に目をやると約束の時間を10分程過ぎていた。

 

「気にするな。時間はまだまだあるからな」

 

慌てて頭を下げている留流子の頭を子供をあやすように叩いて落ち着かせる。

 

「それじゃあ行くか」

 

「はい」

 

留流子と一緒に向かったのはレーティングゲームの会場となったショッピングモールだ。三度目ともなると何処に何があるのかは手に取るように分かる。

 

「それで、何を買いに来たんだ?」

 

「秋物の服を見に来たかったんです。元士郎先輩は?」

 

「オレも服と、あとは修学旅行に持っていく鞄だな。最近はどうも魔法陣に入れることが多くてな。何かを持っていくときもトランクに仕舞っておかないとまずいようなものだからな。まともな鞄がないんだよ」

 

便利すぎるのも考えものだなと困った風にみせる。

 

「あはは、元士郎先輩にしては珍しいミスですね。いつも万全の整えをしているみたいなのに」

 

「何、オレだって機械じゃないんだ。ミスはあるし、不調も起こす。だからこそ人生は面白い。いや、悪魔生か?」

 

そんな他愛もない会話をしながら先に留流子の服を見に行くことにした。

 

 

 

 

 

「う〜ん、先輩、どっちの方が」

 

「単品だけで見るなら左、さっきのスカートと合わせるなら右だ。ただ、右のはさっきのスカートと似た感じのものにしか合いそうにないぞ」

 

「ですよね〜。とりあえず保留にしておきます」

 

「服装はトータルバランスを考える必要があ るからな。悩め悩め」

 

女性の買い物は長いと聞くが、こだわりがあるならとことんまでこだわれというのがオレの持論だ。留流子にも何らかのこだわりがあるようなのでそれに付き合う。こうしている間にも分身体で自分の服と鞄を物色しているからな。まあ、少し離れたところでこちらを伺っている生徒会の皆の肩を軽く叩いてから本体であるオレの方からも手を振るおまけ付きだ。

 

「どうかしたんですか、先輩?」

 

「いや、少しヴリトラとな。それよりももういいのか?」

 

「はい。次は先輩のを見に行きましょう」

 

「下見済みだからすぐに終わるぞ。そのあとはどうする?」

 

「そうですねぇ〜、混雑するでしょうし先にご飯にしましょう。これからすぐなら空いているはずですし」

 

「ならそうするか」

 

手早くオレの買い物を終わらせて荷物をロッカーに預けてからファミレスに向かう。適当にランチメニューを頼む。ほとんど外食などしたことがなかったのだが、味と値段に多少首を傾げながらも留流子には気づかせずに同じタイミングで食べ終える。それを見計らったようにウェイトレスがパフェを持ってくる。

 

「注文した覚えがないんだが」

 

「ただいまキャンペーンをやってまして、カップルで来られた方にサービスでお出ししています」

 

めちゃくちゃ怪しい。そういうキャンペーンをやっている張り紙などは一切見ていない。何を企んでいるのか、少し見させてもらおう。ラインをつなげて軽く記憶をさらってみる。ああ、なるほど。

 

「そうか、ありがとう」

 

スプーンで一口掬って口にする。ふむ、まあこんなものか。

 

「いえ、それじゃあ彼氏さんが食べさせてあげてください」

 

留流子とウェイトレスがにやにやしているが何故にやにやしているのか分からん。

 

「ほれ、留流子」

 

とりあえず疑問は横に置いておいて、持っていたスプーンでパフェを掬って留流子の口元に持っていってやる。

 

「うええぇっ!?」

 

「うん?何を驚いているんだ?」

 

「何のためらいも否定もなしで言われた通りにするなんて、場馴れる感じもしないし、まさかの天然?」

 

小声でそんなことが聞こえたが意味がわからない。

 

「いらないのか?」

 

「いえ!?いります!!食べさせてください!!」

 

叫ぶだろうと感じた瞬間に静音結界を張って誤魔化す。すぐに結界を解いて、戻していたスプーンをもう一度留流子の方に差し出す。留流子は少しだけ逡巡してからパフェを食べる。

 

二人でパフェを片付けて支払いに行く際に鍵を落とした振りをして留流子を先に行かせ、パフェを持ってきていたウェイトレスがちょうどオレたちの席を片付けていた。

 

「すまんな、留流子が迷惑をかけた」

 

「ありゃ、気付いてた?」

 

「あからさまに怪しい話だったからな。パフェの分だ」

 

あらかじめ折りたたんでおいた紙幣を周りに見えないように渡そうとするが押し返される。

 

「ああ、いいよいいよ。留流子に先払いでもらってるから」

 

「しかしだな」

 

「気にしないの」

 

「そうか。なら、こいつはオレからの気持ちってことで」

 

そう言って無理矢理握らせる。

 

「悪いわね」

 

「こちらこそ。さて、これ以上は怪しまれるんでな」

 

用は済んだので会計を済ませて留流子に合流する。その後は再び留流子の買い物に付き合うことになる。夕方ぐらいにようやく納得できる物が見つかり嬉しそうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これ昨日の。隠し撮りだから写りが悪いのは勘弁してね留流子」

 

「ううん、こっちこそ無理言ってごめんね」

 

隠し撮りの写真のデータが入ったメモリースティックを受け取る。

 

「それにしてもあの彼、どっかの資産家のボンボンなの?」

 

「えっ?違うけど」

 

「そうなの?隠し撮りのことに気づいてたみたいだし、留流子が迷惑かけたってポンっと諭吉を渡したりしてきたんだけど」

 

「あ〜、その、先輩って色々と勘が良くって、それに裏で商売もやってるらしいんで」

 

「……やばい話?」

 

「ほら、年齢的に若すぎるでしょ。だから、代理を立てて書類もちょっとごにょごにょっとブラックに近いグレー?商売自体は小物とか玩具だから問題はないよ」

 

「頭に変な修飾語は付かないわよね?」

 

「普通だよ。小さな工房を複数買い上げて一つにまとめたって言ってたけど。拘ってるから生産数が少なくて規模拡張は考えずに職人たちが生活に困らなくて済む程度に利益を出していくって」

 

「あの若さでそこまで堅実に稼いでいるのね。甲斐性があって、女の買い物に文句も言わずに付き合って、あのルックスか。運動とか頭の方は?」

 

「運動は全部の部活のエースをまとめたような、勉強は上から数えた方が早くて、現国と古文に弱いって自分で言ってたっけ。あと、一人暮らしだから家事は万能」

 

「この世にそんな男が残ってたんだ。欠点は?」

 

「自分に向けられる好意が一定までしか分からないことかな」

 

「一定までって?」

 

「間接キスにあ〜んまでして私から好意を向けられてるってことは分かってても、それが親愛なのか友愛なのか恋愛なのかがわかってないの。それこそ小学生低学年並みかもしれない」

 

「それって致命的じゃない」

 

「これでも夏休み前に比べればかなりマシに成長してるんだよ。その、生まれた時から虐待受けてて敵意には鋭いけど、それ以外が鈍くなったらしくて」

 

「生まれた時からって、よく生きてたわね、彼」

 

「その、妹さんが亡くなってるの。守りきれなかったって」

 

「わお、さらにヘビーな話になったわね。その話からすると確かに成長というか、まっすぐ育ったって方に奇跡を感じるわ。あれ?でもそれだと小さな工房を複数買い上げたお金って何処から出てるわけ?」

 

「立て続けに宝くじに当たったらしいよ。詳しくは知らないけど」

 

「オーケー、この話はここまで。話を戻すけど、その彼、欠点が無くなったらさぞかしモテるんでしょうね」

 

「……夏休み前は好意的には見られてもそこまでじゃなかったんだけど、今じゃあそこそこの人数が」

 

「はいはい、自分で言って落ち込まないの。それでも貴女が今の所トップなんでしょう?」

 

「押してるって意味ではトップの自信はあるけど、元士郎先輩自信が特別視しているのが二人ほど」

 

「その二人のスペックは?」

 

「一人は、生徒会長で漫画に出てくるような風紀委員長みたいな優等生。ただ厳しいだけじゃないし、いろいろと苦労もしてる。胸は小さめで周りに大きいのが多くて若干気にしてる。かなり良い所の出。欠点はおかし作りで、どうやって作ったらあんなのができるんだろうっていう腕前。でも元士郎先輩は普通に食べて変わった味で面白いとか言ってパクパク食べてた。もう一人は会長のお姉さんで、真逆の性格で容姿もかわいい系。実家からは独立してて組織のトップ。むしろ実家よりもすごいことになってる。欠点は軽すぎる性格と魔法少女趣味。だけど元士郎先輩、感性がちょっとずれてるから普通に受け入れちゃってる」

 

「ダメだ、勝ち目ないわ。欠点が激しいけどそれを受け止めれる相手からすれば欠点にすらなってないわ。それで彼がどう特別視してるのよ」

 

「わかりやすく例えるなら、会長の場合は忠誠を誓ったような王女と騎士のような主従関係、お姉さんの場合は忠犬?」

 

「違いが分かりにくいんだけど」

 

「傍に居て願いを叶えて守るのが当たり前なのと、命令を聞いて達成できたら褒めてもらいたい系?」

 

「ああ、うん、なんとなく分かった。そっかぁ、一番の敵はお姉さんか。虐待を受けてたからか無意識のうちに母性とかを求めてるみたいね。そっちじゃあ勝ち目はなさそうだから積極的にボディランゲージをやっていってアピールしていくしかないわね」

 

「なるほど。ありがとう明日菜ちゃん!!私、頑張る!!」

 

「はいはい、頑張りな」

 

立ち上がると同時に携帯が鳴る。相手は会長だった。

 

「はい」

 

『緊急事態です。今すぐ兵藤くんの家にまで召喚します。匙が大変なんです』

 

「すぐに行きます!!折り返し連絡します!!明日菜ちゃんゴメン、急用ができたの!!」

 

「行ってきな。彼からもらった分で会計は済ませとくから」

 

「ありがとう!!」

 

すぐに人の目のない場所に移動して会長に連絡して召喚してもらう。召喚された先にはアザゼル先生と生徒会とグレモリー眷属のほとんどが揃っていた。いないのは、元士郎先輩とグレモリー先輩、アルジェント先輩の三人だ。

 

「会長、何があったんですか?」

 

どうやらみんな集まっただけで説明を受けていないようだ。私は黙って話を待つことにする。

 

「ことの始まりはリアスとアルジェントさんがとある魔法を使うために匙に協力を求めたところからになります。その魔法は魔法陣を自分で描かなければならないタイプだったのでそれで匙に協力を求めたそうです」

 

そういえば元士郎先輩って魔法陣に関しての造詣が深いんだよね。それで一財産を築けるぐらいに。

 

「ですが、リアスの不注意で魔法が誤作動。リアスとアルジェントさんを庇って匙が魔法の影響を受けました」

 

「一体どんな魔法を受けたんですか!?」

 

それに対してはアザゼル先生が答えてくれた。

 

「肉体退行。ようするに若返りだ、擬似的だがな。本来なら問題ないんだが、リアスの書き間違えと匙自身の問題でかなりの問題が発生した。リアスの書き間違えで記憶を持ったまま精神まで退行した。それによって黒い龍脈を精密に扱えなくなった上に蓄えた力で器が壊れかけている。何より退行した肉体が話にあった虐待を受けていた頃の所為で少しのダメージが致命傷に近い。長くても半日以内に処理できなければ匙は死ぬ」

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

「落ち着けよ。状況はまだ最悪だじゃねぇ。セラフォルーの協力があったから半日の余裕がある。匙のやつが生真面目な性格をしてやがったから事前に調べた資料は揃ってる。あとは薬の材料を取りに行くだけだ。人数もこれだけいる。3班に分かれて動くぞ。1班は薬の材料の調達、2班は資料を調べて解呪方法を調べる。3班は匙の延命処置だ」

 

「延命処置ってどうするんですか?」

 

「簡単だ。匙を抱いてりゃ良い」

 

元士郎先輩を抱くって、つまり

 

「はい、今いやらしいこと考えたやつ挙手」

 

アザゼル先生の茶化すような言葉に反射的に顔をそらした私は内心で後悔した。これじゃあ挙手するのと変わらないと。だが、巴柄先輩と目が合った。周りを見ると他にも私と同じように確認する生徒会のって、あれ?なんでロスヴァイセ先生まで?えっ、いつの間に?違う、あれはただ単に耳年増なだけだと私の直感が訴えてくる。

 

「イッセー、これがお前と匙の差だぜ。『おっぱいドラゴン』と『蛇龍』の人気の統計も見てみるか?『蛇龍』は10代後半から20代前半の男女共にほぼがっちり掴んでるぞ。おっぱいドラゴンより先に映画化決定したし」

 

「先生、めちゃくちゃ悔しいっす!!」

 

「その悔しさをバネに男を磨けよ」

 

「うっす!!」

 

「さて、話が逸れたが、ちゃんと説明するとだな、話にあっただろうが妹の命を吸い上げた時と同じ現象が起きている。傍に居る相手から生命力とか魔力を吸い上げている。匙の意識がほとんどない所為でリアスとアーシアは吸われすぎてダウンしている。命に別条はないから安心しろ。それで今はセラフォルーがラインに接続されて部屋の外でミッテルトが監視している。倒れない程度に順次交代していけば延命可能だ。ただ、あまり多くの人数は割かない」

 

「なぜですか?」

 

「あんな姿は、あまり見られたくないだろうからな」

 

「どういうことですか?」

 

「そのまんまの意味だ。痛々しくて見てられないぞ。リアスとアーシアからかなり急激に吸い上げて多少はマシな状態になっているとか言われても信じられねえぞ」

 

「そんなに酷いのですか?」

 

「細胞から推定年齢5歳前後だが、肉体的には2〜3歳程度だな。体のあちこちに根性焼き、つまりはタバコで作られた火傷の痕、肋骨が変な形で癒着している。内臓機能もボロボロ、リハビリ含めて5年は見ないとまともに回復しないような状態だ。覚醒直後から黒い龍脈で生命力を奪いまくって強引に回復したんだろうな、あいつ。赤ん坊が相手でも、命そのものを食らえばそこそこは回復したんだろう。そこまでしないと生き残れないぐらいに、あいつの過ごしてきた環境は劣悪だ」

 

元士郎先輩、そこまで酷い環境で生きてきたんだ。だから、知識や力を貪欲に求めてるんだ。だけど、自分の命を投げ捨てちゃったんだ。

 

「とりあえず一番重要な匙の延命班だが、支取、真羅、巡、仁村、ゼノヴィア、リアスとアーシアにセラフォルー、監視のミッテルトだな。材料集めがイッセー、祐斗、朱乃、小猫、イリナ、花戒、ベンニーノ、それにオレ。材料が手に入る場所を知っているのは俺だからな。残りが資料を調べて解呪方法を調べる。資料はこいつらと匙の手記だ。今すぐ動くぞ」

 

各自で動き始める中、私たちはとりあえず元士郎先輩の様子を確認するために揃って移動する。

 

「はいはい、立ち入り禁止ッスよ。交代するときになったら呼ぶっすから、それまでは何も、いや、順番だけ決めていて欲しいッス」

 

結界が張られている部屋の前にミッテルトが居た。基本的にアザゼル先生の助手をやってるからよく会うんだ。

 

「アザゼル先生からは簡易的な説明しか聞いていないのですが、もう少し詳しい説明をしてもらえますか?」

 

「いいっすよ。たぶん、ラインに接続されろってことしか聞いていないってことでいいんすか?」

 

「あとは、抱いていろと」

 

「間違ってはいないッスね。正確にはラインを伸ばす距離を少しでも短くするのが重要ッス。距離が延びる分、力を消耗するみたいッス。だから抱きしめておくのが一番ッス。あと、高熱を出してるッスから風邪を引いた子供を看病するみたいにしてればいいッス。ただ、看病する側もじわじわと消耗するッス。だから、無理をせずにちょっと疲れたなっと感じたら交代するのが基本ッス。あと、複数人が入ると同時に吸われるんッスけど、吸う量が多くないんで複数ラインを伸ばすと逆に消耗するッスから基本一人ずつッス。緊急時には呼び出し用のボタンを押すッスよ。お互いの命がかかってるッスから。それから意識の方はかなり朦朧としてるッスけど呼びかければ反応はあるッス。まあ、体力を消耗さ せることになるッスからあまり呼びかけない方がいいッス。あと、ものすごく弱いというか脆いッス。ヘタな赤ん坊以下ッスから、優しく丁寧に扱って欲しいッス。見てるこっちが辛いッス」

 

「そんなに酷いのですか?」

 

「あ〜、ちょっとだけ待ってくださいッス」

 

器用に結界の一部に穴を開けてからドアをノックして声をかける。

 

「レヴィアタン様、ミッテルトですけど、ソーナ様達が来られたんッスけど、先に見せておいた方が動揺が少なくて済むと思うんッスけど、今大丈夫ですか?」

 

「そうだね。ちょっとだけ待って。結界を私たちの周りに張るから。いいよ、入って」

 

会長がドアを開けて部屋に一歩踏み入り、そして立ち止まってしまった。空いている隙間から中を覗いてみると会長が立ち止まってしまった理由がわかる。レヴィアタン様が抱いている元士郎先輩の姿を見て、話で聴くよりも生々しい惨状に言葉を失ってしまう。荒い呼吸と呻き声と流れる汗だけが生きているという証なだけで、それがなければ人形のように生気を感じない。

 

「これで大分マシになったんだって。リアスちゃん達がそう言ってた。本当はたぶん、一本のラインで大量に吸い上げるってことはできるんだと思う。ただ、迷惑をかけたくないってだけで吸い上げてないんだろうね。少し位多めに吸い上げてもいいよって言ってもやらないんだから。あっ、それと近くにいて幾つか分かったことがあるから。喋ることもほとんどしていないからかちゃんとした発声が出来ないみたいなの。だから何か聞くときは首を多少動かすことで返事ができるものにしてあげてね」

 

「声まで出せないのですか!?」

 

「たぶん、あれだね。うるさいとか言って暴力を振るってたんだと思うよ。だから喋らなくなって、喋れなくなったんだと思う」

 

レヴィアタン様の言葉に元士郎先輩がわずかに首を縦にふる。

 

「意識を失うと黒い龍脈をコントロールできなくなるからって眠ることもできないの。あと、蓄えてる力が大きくて器が壊れそうってアザゼルちゃんは判断してたけど、それとは別の要因もあるの。エクスカリバーとアロンダイトが原因なんだけど、力を弱めると元ちゃんの体が弱くなって苦しんで、力を強めると悪魔の部分が聖なる力に焼かれて苦しむの。だから、そのバランスが取れる場所をちょっとずつ探してるみたいで苦しみに波があるの。安定する加減が分かればもう少し楽になるはずだよ。あとは、そろそろ出てもらった方がいいかな。ラインが勝手に伸びようとしているのを抑え込んでるみたいだから」

 

「そうみたいッスね。それじゃあ、レヴィアタン様以外は隣の部屋にどうぞッス。ウチは扉の前にいるッスから、何かあればボタンを押して呼んで欲しいッス」

 

「はいは〜い。あっ、そうだ。タオルの替えとスポーツドリンクを持ってきて貰えるかな。脱水症状の予防はしっかりしとかないとあっさり死んじゃいそうなんだよねぇ〜」

 

「普通にありえそうッスから気をつけてくださいよ」

 

そう言いながらミッテルトが何処からともなくタオルとスポーツドリンクを取り出してレヴィアタン様のそばに置く。それから私たちを部屋から追い出して結界を貼り直している。

 

「まあ、そんな感じッス。ウチはさっきみたいに必要なものを調達して渡したり、緊急時の連絡役ッス。皆さんは基本、隣の部屋で待機していてくださいッス」

 

隣の部屋に案内され各々が自分の場所を決めてから会長が話し始める。

 

「順番ですが、適当に籤で決めてしまいましょう。まともに考え事ができるような状態ではないでしょうから」

 

その意見に誰も意見を言わずに順番を決める。順番はゼノヴィア先輩、私、会長、巴柄先輩、副会長、グレモリー先輩、アーシア先輩、レヴィアタン様となった。順番が決まったあとは気まずい沈黙が漂った。しばらくしたあとにゼノヴィア先輩が我慢できなくなったのか声を出す。

 

「なあ、元士郎の両親は今どうしてるんだ?」

 

「それを聞いてどうするんですか?」

 

「分からない。だが、このモヤモヤした気持ちになんらかの方向性をもたせたい」

 

「そうですね。皆もその方が良いかしら?」

 

会長の問いに首を縦にふる。

 

「両親共に23年の実刑判決を貰って収監、態度が悪く収容所で騒ぎを起こしたりして無期懲役になっているわ。匙は、一度も面会に行っていない。それが私の知っている全てよ」

 

「そう、か。元士郎は施設に入っていたんだよな。そっちの方は?」

 

「基本的には酷い虐待を受けていた子供ばかりが集められている施設です。そこの院長を務められている女性はかなりの人徳者の様で、なんとか社会に復帰できるぐらいにまで回復する子が殆どなのですが、匙は院長に最後まで心を許さなかったみたいです。ある程度は許しても最後の壁1枚は絶対に許さなかったみたいです。まあ、少ないですが他にもそういう子は居たみたいです」

 

「まあ、あの姿を見てしまっては他人が信じられなくなっても仕方がないとは思う。むしろ、今眷属として共に行動できている君達がすごいとすら感じる」

 

「私たちの力ではないわ。匙が自分で歩み寄れたから、今の私たちがある。匙は、私が知る中で誰よりも進み続けている。以前までは逆走していましたし、今もたまに全力で脇道に逸れていたりしますが」

 

会長から視線をそらす。否定できる要素が全くない。最近は前に向かっているけど斜めに進んでいることが多い。迷走だけはしてないけど、時々分からない方向に向かっている気がする。昨日待ち合わせの場所で読んでいた本もネイルアーティストの本だったような。ま、まあ、そのおかげで綺麗になれてるから良しとしておこう。

 

「まるで子供のようだな」

 

ゼノヴィア先輩の言葉は的を得ている。そうか、明日菜ちゃんも言ってたけど元士郎先輩は精神的に子供なんだ。それも甘え方を知らない子供。だから、誰にも頼らない、頼り方を知らないから頼れない。精神的にも幼くなっている今なら性格の矯正も可能だ。あわよくば鳥の刷り込みみたいなのもできればいいなぁ。そんな邪な考えが出来る位には精神が落ち着いてきた。

 

2時間ほどそのまま待機しているとミッテルトさんがゼノヴィア先輩を呼びに来て、出て行ってから入れ替わるようにレヴィアタン様が部屋にやってくる。

 

「ふぃ〜、予想以上に疲れるねぇ〜。リアスちゃんたちを庇ってなかったらここまで大事になってなかったのにねぇ〜」

 

「お疲れ様です、お姉さま。それを言い始めると魔法陣を書き間違えたリアスが一番の元凶なのですけどね」

 

「まあねぇ。あの魔法陣を用意しようとした理由も以前見た赤龍帝ちゃんの小さい頃の写真を見て、実際に見てみたくなったからだって。分からないでもないけど、全部任せておけば問題なかったのに」

 

「相変わらず変なところでプライドが出るのは変わりませんね」

 

「まあ、おかげで色々と調べられたから良しとしよう」

 

「調べた?」

 

「駒のパスに黒い龍脈、本人が弱っていたのが合わさって色々と記憶とか感情を覗き見し放題。おかげで人間不信になりかけちゃった。もうね、あの施設のお婆さん、人格者過ぎるわ。ちょっと元ちゃんの名前を連名にして寄付してくる」

 

「そこまでですか!?」

 

「そこまで、いや、それ以上かな?良い人すぎて悪意を持って騙すこともできそうにないぐらい。聖人君子ってあのお婆さんのためにあるような言葉だよ。そしてあの男女は苦しんで死ねばいいのに」

 

レヴィアタン様から恐ろしい程の殺気が漏れる。本当に元士郎先輩の両親は酷い人間なのだという事実が浮かび上がってきた。

 

「まあ、それとは別におもしろいことも分かったしね。ねぇ、留流子ちゃん。お友達とはもう会ったのかな?

 

あっ、昨日のことがばれてる。

 

「プライベートにはあまり干渉したくないけど、元ちゃん、冥界で物凄い人気があるからスキャンダルにだけは注意してね。蛇龍がおっぱいドラゴンと一緒に冥界の娯楽業界を軒並み駆逐しちゃったから。レーティングゲームも5戦で一部層のシェアを完全に奪っちゃったし」

 

「匙が一人で行うレーティングゲームを5戦?聞いていないのですが、お姉さま」

 

「言ってなかったっけ?ちなみに全戦全勝でエンターテイナーとしても有名になってるよ。ほら、10ページの特集も組まれてるし」

 

レヴィアタン様が取り出したレーティングゲームの雑誌に表紙のメインを飾っているフードを被ってゴーグルとマフラーで顔を隠した元士郎先輩が写っていた。特集ページでは駒王の制服姿、私服姿、禁手姿にスコルとハティと一緒に写っているのも載っている。

 

「そうそう、中級への推薦も昨日一定数揃ったからちょっとした面接で中級に上がれるのも伝えないとね」

 

「中級への推薦が通ったのですか?ここ300年程、推薦が通ることはなかったはずですが」

 

「実績は十分あるし、実力も問題無し、思想も普通、推薦者は多いし、反対者はいつの間にか失脚するばかりで楽だったよ。これが上級ならもっと揉めた可能性があるんだけどね」

 

明らかに裏で誰かが動いている。誰かというか元士郎先輩が。痕跡を全く残さない影から陰へと渡る力で。

 

「異例の早さですね。転生してまだ3ヶ月も立っていないのに」

 

「珍しいけど、居ないこともないよ。確か最短記録は36日だったはずだし」

 

「......悪魔の駒が開発されてから今までの間で一番実績を積める機会を得られているのは私たちだと聞いたのですが、どうやったのか興味があるのですが」

 

「何代前か忘れたけど暴走した白龍皇を倒して中級に上がったんだけどねぇ、それが気に食わない老害に裏で殺されたみたい。無論、それが発覚して当主とその子供と下手人は処刑。孫がいたから家自体は潰れてないよ。潰せって意見もあったけど、只でさえ少なくなった上級の家を潰すのも問題になるからってことで監視を常につけている状態。彼が生きてたらもうちょっと戦力的に楽だったんだけどねぇ。今は元ちゃんに期待が集まってるから」

 

「匙にですか?」

 

「実績・実力ともに上級並み、生存能力が高い、脳筋じゃない、潜入工作も可能、誠実、敵と見なせば味方でも問題ない程度に処理できる、汚れ仕事の意味を理解している。こんな人材滅多に居ない、というか絶滅危惧種なんだよ。特に脳筋じゃないのと潜入工作ができるのが!!堕天使にしか居ないんだよ、それができるの。しかも下級とそっち方面で評価されて階級の上がった中級しか」

 

「そこまでですか?」

 

「大戦期にはもう少し居たんだけどねぇ。当時は力こそパワーとか言うような脳筋一色に染まってたから、工作の類は評価対象外にされてて、潜入専門なのに前線に立たされたりしていてほとんどすり潰されちゃった。おかげで私たちがどれほど苦労したことか」

 

「「「うわぁ〜」」」

 

レヴィアタン様が遠い目をしながら語ってくれる。

 

「ああ、ちゃんとあの部隊が残ってたら新旧魔王派の内乱なんて起こってなかったのに。大戦のおかげで技巧派がマイノリティーになったのが最近の元ちゃんの活躍で少しずつ勢力を取り戻してきてるんだよ。全面的に押し出して技巧派を増やさないとテロに対処しきれないし、捕縛術もダントツでトップクラスの元ちゃんを参考にしてるからどうせなら教官とかに出来るように上級まで駆け上がって欲しいところなんだよねぇ。実績を簡単に積んでくれるからある程度は楽なんだけど」

 

「実績ですか?」

 

「そうそう、ソーナちゃんの眷属としてじゃなくて私の眷属としてだけど。レーティングを5戦全勝、はぐれの討伐がS級1、AA級3、A級8に、例の身体調整の顧客に多くの上級悪魔を相手にしてる分で評価されてるし、例のあの術式を公開すれば資産も跳ね上がるだろうから上級昇格に必要な条件を満たせるし、勤勉だから領主としても普通にやっていけそうだから。まあ、学園を卒業してからかな?」

 

「いつの間にそんなことを」

 

「分身って便利だって。普通に平日に動いてるから。本体は普通に学園に通ってるよ」

 

「また私に内緒でそんなことを」

 

「まあ色々と隠したがる傾向があるみたいだからソーナちゃんも定期的に報告を上げさせたほうがいいよ。言えばちゃんと隠しごとなく話してくれるから。まあ、吹聴しないようにって念押しされるけど。赤龍帝ちゃんに言ったらしいんだけど、手札を増やして組み合わせるのが自分の戦闘スタイルだって。その手札を増やす速度がかなり早いよ。以前聞いた分身とか高速治癒とか以外に光の屈折を利用した透明化とか、熱源探知とか、体術もかなり増えてるみたいだから」

 

「この件が済みましたらそうさせていただきます。さて、話がうやむやになっていましたが、留流子」

 

「はい」

 

「何を頼んでいたんですか?ちゃんと話してくれますよね?」

 

げっ、忘れてなかった。会長以外にも巡先輩と由良先輩がちょっとキツい目で私を見てくる。ええい、ここは開き直る!!ただし全ては言わない。

 

「元士郎先輩とのデートを隠し撮りしてもらっただけです」

 

「無知で純粋な元ちゃんにあ〜んしてもらった上に間接キスまで楽しんでたけどね」

 

ば、ばれてらっしゃる。というか、レヴィアタン様が知ってるってことは、元士郎先輩が知っている?えっ、嘘、気付かれてた!?

 

「ほぅ、そんなことまでしていましたか」

 

「あ、あはははは」

 

このあとゼノヴィア先輩が戻ってくるまで滅茶苦茶喋らされた。


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