ハイスクールD×D 黒龍伝説   作:ユキアン

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9話

「注意事項は以上です。何か質問はありますか?」

 

「質問ではありませんが生徒会から一つ」

 

ロスヴァイセ先生から許可を貰って前にでる。

 

「生徒会庶務の匙元士郎だ。誰とは名指しでは言わないが、心当たりのある者は心によく刻んでおけ。これからオレたちは京都に向かうわけだが、この修学旅行で問題を起こせば、それは学園の評価に直結する。これまでは学園内であったためにある程度穏便に済ませてきたが、修学旅行中に問題を起こした場合、程度によっては警察に突き出すことも退学処分を言い渡すことも辞さない。横暴だと思う奴もいるだろう。だがな、学園側から退学処分を突きつけられそうになっていたのを生徒会で保留にしてある分を突きつけるだけだ。誰も庇いはしないぞ。ちなみに三人分だ。肝に銘じておけ。いつもの行いは人生を担保にかけることになるぞ!!無論、いつもの罰も強化してある」

 

そう言ってから着替えなどが入っているカバンとは別に用意してあるカバンから猛獣を拘束するために使われる鎖と首輪を見せつける。

 

「使う機会がないことを期待している。何かあればオレの携帯に連絡するように。生徒会からは以上だ。羽目を外しすぎずに楽しめ」

 

新幹線に乗り込み軽く見回りをしてから席に戻る。

 

「見回りお疲れ様。はい、これ」

 

「ありがとう、巡」

 

巡から缶コーヒーを受け取り礼を言ってから口につける。

 

「ねぇ、保留にしている退学の三人って、あの三人なんでしょう?最近一人は落ち着いてきてるんだし、残りの二人を退学にしても良かったんじゃないの?」

 

巡は誰とは言わないが退学にしてしまえと口にする。それに賛同するように残りの班員も首を縦にふる。無論、男子もだ。

 

「確かに一人は最近落ち着いている。だがな、それまでの1年半弱の行動の所為で最近の分もトリオで行動していると思われていてな、これが二人だけの退学届けだったなら保留にしていなかった。二人が残りの一人も同罪だと叫んでもこっちに退学届けが無いのなら突っぱねるのは簡単だからな。だが、三人分あるとなると残りの一人をかばえなくなる。最近はまともになろうとしているのだから手を差し伸べてやるのが人情という奴だからな。だから、あそこまで脅してるんだよ。これで二人だけが行動すれば他に証人を用意すれば二人を退学にさせることができる。書類も手元にあるから修学旅行中でも退学にできる」

 

「しつも~ん、その場合どうなるの?」

 

「強制送還。払われてる旅行の代金は差額分をキャンセル料や手数料を引いた分で返される。警察には訴えずにそれで終了。完全に学園と縁が切れることになる。訴えないのは最後の餞別ってわけだな」

 

色々と会長や先生方との協議の末このようになっているのだ。オレは結構我慢もしたし、譲歩もした方だぞ。備品の修理代、オレが材料費だけで済ませたおかげで今まで予算が保っていたのだから。オレがいなかったら8桁行ってるんだぜ。笑えねぇよ。

 

 

 

 

 

 

こうやって実際に見ると結構くるな。京都サーゼクスホテル。うん、自分の名前を堂々と付けれる魔王様のセンスには脱帽だ。部屋に荷物を置き、巡達と市内観光に出掛ける。そして10分ほどで観光を諦めた。あちこちで妖怪の気配を感じたのだが、動きが慌ただしい。何かが起きている。班から離れて少しだけ大掛かりな感知術式を発動させると地脈まで乱れている上に強力な力を感じ取った。いつでも動ける覚悟を持つように巡たちや兵藤たちやアザゼル先生たちに連絡を入れておく。結構楽しみだったんだけどな、京都旅行。小学生の時や中学生の時はそこまで心に余裕がなかったから。はぁ~、とりあえずスコルとハティのお土産に櫛でも買っておくか。生徒会の皆には、う~む、表通りに目ぼしい物が無いな。となると情報収集も兼ねて裏の表通りに潜るか。

 

境界線を探してそこに若干の魔力を通して裏側の、妖怪の世界に潜り込む。やはりこちらの方が物の品質が良いな。櫛も見繕い直して新しく購入し、魔法を込めれる髪飾りを見つけ、それを生徒会の全員に似合うデザインの物を購入する。その頃にはオレの気配を感じ取ったのか店の周りを包囲されていた。

 

「すまんな店主、迷惑料だ」

 

包んでもらった髪飾りを受け取り2倍の代金を支払ってから店の棚の影に潜り込む。そのまま退散しようと思ったのだが、影の世界に潜り込んでくる気配を一つ感じる。

 

「さすが妖怪だ。影を生業にする者が居るとはな。だが、オレを追うにはまだ甘い」

 

裏通りの影から飛び出してタイミングを計る。影からの気配が濃くなると同時に再び影に潜り込む。足だけが影の中に残っているのを見て好都合だと引きずり込んで鎖で拘束して目隠しをする。

 

「すまんな、こちらにはただ買い物に来ただけだ。危害を加えるつもりはなかったのだが、言っても聞いてくれ無いだろうし、オレも無許可で立ち入っているからな。すまないが仲間に拾ってもらってくれ。オレは向こう側に帰るんでな」

 

影の中から拘束した妖怪を突き飛ばして再び駆ける。境界線に警備が張り付いていたが、影の中を移動できる妖怪はいなかったようでそのままスルーして表側に逃げることに成功する。そのままホテルまで逃げ切り、部屋で髪飾りにフェニックスの再生の術式を込める作業に移る。家系の特殊魔術とはいえ存在する以上なんらかの法則があるのは自明の理。その解析に時間がかかったが劣化版の再生術式の構築に成功した。劣化版なのはオレの禁手に登録されている物だからだ。フェニックス家に協力してもらえればちゃんとした物もつくれそうだが、さすがに無理だろうと諦めている。精密作業にもなるのでとりあえずは巡と由良の分を用意する。どちらかといえば前衛の二人の方が怪我をする可能性が高いからな。

 

自由時間が終わりホテルに戻ってきた巡と由良に髪飾りを渡して効果を説明しておく。そんなにやばいのかと聞かれたが、念のためとしか言い返せなかった。出来る限りはオレが一人で受け持ちたいのだが、情報が不足しすぎていて手が出せない状況だ。その後、軽く打ち合わせをしてから解散して豪華な夕食を堪能する。この漬物は美味いな。お土産に樽で買おう。夕食を終えてからアザゼル先生とロスヴァイセ先生に何か追加で入った情報がないかを確認する。何でもセラフォルー様が妖怪側と交渉のために京都入りしたそうだ。いつでも動けるようにしておくと言ってから別れる。部屋に戻り、手札の確認をしていると兵藤が深刻な顔をしてやってきた。

 

「ちょっと相談があるんだけど良いか?」

 

「構わないが、場所を移すぞ。あと、ついでに手伝え」

 

鎖と首輪の入っているカバンを担いで部屋から出る。大浴場がある階の非常階段を挟むように兵藤と立ち、誤認結界を張って話を聞く。

 

「で、相談ってなんだ?」

 

「あ~、実はさ、前の、お前一人に負けたレーティングゲームから、このままで良いのかなって思うようになってさ?その前の会長とのレーティングゲームの時も、途中からものすごく強かったじゃんか。だから、何か強くなる秘密があるのかなって」

 

「不調だったのが元に戻っただけだ。最後の禁手化は偶然だしな。前にも言ったがオレの強さは手札の数と組み合わせで決まる。それを組み合わせるために日頃の訓練は絶やしていない。お前は日頃からちゃんと鍛えていたか?」

 

「それは、色々と」

 

「忙しいっていうのは言い訳にはならない。制服の下に重りを仕込むとか、授業中も魔力を回し続けるとか」

 

「魔力を回す?」

 

「魔力を体内で循環させるんだよ。こうすることで魔力を消費せずに魔力効率化が可能になる。早い話が火力と展開速度が上がる。アザゼル先生に聞いたが、多少は火を吹けるようになったんだろう?あの特訓の基礎版だと思え。お前はとにかく基礎能力を上げることに集中しろ。オレも劣化版の倍化の力を使えるが、運用仕方が全く違うからな。参考にはならんぞ」

 

「どう違うんだ?」

 

「オレが使えるのは8倍までだが、それをラインにストックすることで物理攻撃力だけに関してなら最大で512倍まで出せる」

 

「なんでだ?8倍までしか使えないなら8倍だろう?」

 

「物理の授業で習った運動方程式を覚えているか」

 

「え~っと、ma=Fだっけ?けど、これを8倍したなら力は8Fだろう?」

 

「それがお前の倍化の仕方だな。オレの場合は一つにつき8倍する。まずは分かりやすいようにm=1,a=1とする。そして加速度のaを8倍する。つまり1×8=F=8。これで8倍。ヒットする直前に質量mを8倍する。これで8×8=F=64。そしてFが作用するタイミングでFを8倍。F=64。8F=512。タイミングがずれると無駄に力を消耗することになるが逆に言えば調整可能ということだ。今の話を理解した上で問うが、できるか?」

 

「まず複数箇所に譲渡ができないから無理。出来てもタイミングを合わせるのは無理」

 

「そういうことだ。地道に肉体と魔力を鍛えるのが一番だな。それと並行して洋服崩壊のような他の奴が思いつかないような技を作り続けるとかな」

 

「う~ん、なるほど」

 

「っと、兵藤、準備しろ」

 

「何を?」

 

「退学届、渡す必要があるみたいだ」

 

鎖を取り出して兵藤には首輪を持たせる。そして非常階段の扉を開いたときに死角になる位置に立つ。ちょうどタイミングよく非常階段の扉が開く。

 

「よし、匙の野郎はいない。このまま一気に女風呂を覗きに行くぞ!!」

 

「おい元浜!!良い物を見せてやるって、覗きかよ!!止めとけよ、退学が保留になってる三人ってお前ら変態トリオだろうが!!」

 

「あんな脅し、でたらめに決まってるだろうが。それに昔から言うだろう、虎穴に入らずんば虎子を得ずって」

 

「ざけんなコラ!!オレは帰るぞ」

 

「オレも」「僕も」

 

半分以上が戻って行ったみたいだな。それでも松田、元浜を含めて7人か。走って女風呂を覗きに行こうとした松田の足を引っ掛けて転がし、非常階段に飛び込んで痕が残らないように加減して残りの殴り飛ばして鎖で拘束する。

 

「兵藤、松田を捕まえろ」

 

「えっ、ああ!!」

 

兵藤が慌てながらも松田を床に組み敷く。素早くオレが足に鎖を巻いて行動を阻害する。

 

「オレ、朝に言ったよな。使う機会がないことを祈るってな。まあ、これでお前たちの顔をもう見ないで済むと思えば使わせてくれてありがとうと言おうか。松田、元浜、お前らは退学だ。始発の新幹線で向こうに送り返す。旅行代もキャンセル料を引いた分を現金書留で送ってやる。もう、学園の敷居を跨ぐな。他の奴らは、うん、初犯だな。後日反省文を提出、緊急時以外は朝まで部屋から出るな」

 

「何しやがるんだ匙!!無実の罪で」

 

「オレ、扉の隣に立っていたんだが」

 

「兵藤だって」

 

「こいつの相談に乗っていただけだな。一緒に手伝いもしたから関係ない。ああ、証拠としてお前たちが先ほど話していた会話も録音している。警察に突き出されないだけマシだと思え。これ以上、オレはお前たちに関わりたくないんでな。眠ってろ!!」

 

二人の意識を刈り取り、他に覗きをやろうとした奴らに見せつける。

 

「鎖、解いてやるから大人しく帰れよ」

 

余った分の鎖で松田と元浜を厳重に拘束する。

 

「なあ匙、なんとかしてやれないのか?」

 

「5400万積めばなんとかしできるかもしれないな」

 

「5400万!?」

 

「学園の備品や設備を壊した分に、覗きなどによるセクハラ行為の示談金なんかの総計。最低でもだぞ。しかも一人一人でな。お前も一歩間違えればそっち側だ。頼むからこれ以上そっち方面で手間をかけさせるな。これでも結構庇ってやってたんだぞ。って、金額にされて初めて自分のしでかしたことを理解したのかよ。ちなみに裁判起こされれば未成年じゃなければ確実に10年は食らってるぞ」

 

「10年!?10年も刑務所ってことはその間おっぱいは?」

 

「無いに決まってるだろうが。エロ本とかもな。それどころか場所によったら掘られるぞ」

 

「掘られる!?」

 

「嫌なら少しは我慢を覚えろ。少しは評価が変わってきているんだ。そのオープンエロを仕舞い込め。まあ、それでも彼女ができないだろうがな」

 

「なんでだよ!!」

 

「それはお前自身が一番よくわかってるはずだ。その点だけはオレとお前はよく似ているんだよ」

 

「似ている?」

 

「無自覚か。いずれ分かるさ。心の傷ってやつは厄介なのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見張りを終えて部屋に戻ると携帯にメールが届いていた。内容を見てすぐにコートとマフラーとゴーグルを準備して影に潜る。

 

「お待たせしました」

 

「ごめんね、急に呼び出しちゃって」

 

影をくぐり抜けた先にはオレのもう一人の王であるセラフォルー・レヴィアタン様がいる。

 

「いえ、緊急ということでしたが」

 

「そうなの。まだ私の方にも触りしか分かってないんだけど、どうも妖怪側のトップである八坂様が行方不明になってるみたいなの」

 

「トップがですか?」

 

「そうなの。どうも禍の団が裏で動いているみたいなの。妖怪側からそれとなく聞いたんだけど、危害は加えられていないみたいだし、京都から離れている訳でもないみたいなの。理由は教えてくれなかったけどね。何を目的に動いているのかが分からないの。だから、それを調べれる?妖怪側にも悟られずに」

 

「出来る限りやってみます」

 

「無理はしないでね」

 

「はっ!!」

 

再び影に潜り京都の中心にまで移動する。京都に来たときから気になっていたことをついでに調べようと思い、ラインを地面の奥にまで潜り込ませ、力の流れに触れる。これが龍脈や地脈と呼ばれる地球の力。触れてみてわかるのはこれが莫大な力であること、扱うには専用の術式か、体の相性が必要っぽい。ラインをどんどん伸ばしていくと所々で流れが不自然な場所がある。なるほど、ある程度龍脈が多く流れていた京都に、更に龍脈が集まるように人為的に流れを変えたのか。よく淀みができないな。ああ、淀みが集まる部分があってそれを定期的に浄化しているのか。なるほど、それを行っているのが八坂様で、今も淀みがないことが無事な理由か。

 

さて、逆に言えば八坂様は常にとは言わずとも龍脈にすぐに触れれる場においておきたいということだ。触れた時にどう変化するのかはわからないが、なんらかの感触が得られるはずだ。このまま待っているとしよう。張り続けて数時間、ようやく誰かが龍脈に触れた。触れてきた場所まで移動するが、そこに誰かが居た形跡はない。

 

「どういうことだ?」

 

現在も龍脈への接続は確認している。なのに誰も居ない。幻術?いや、異界操作か?むぅ、これは向こうから招いてもらわなければならないようだな。考え込んで隙を作っている振りをして数分で動きがあった。結界とは違う感覚で取り込まれる感じ、霧が見えたことから神滅具の絶霧だと断定する。さて、セラフォルー様のために頑張りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「匙が、音信不通!?」

 

「昨夜に八坂様の行方の調査を頼んでから、敵と接触したと連絡があったきり、駒のパスも消えちゃった。異界に取り込まれたか、もしくは」

 

「あの匙がやられたと?」

 

「ないとは言い切れないの。八坂様は私たち魔王ともタメを張れるぐらいに強い。それを周囲に気づかせずに攫っている時点で相手はかなりの力を持っているの。不意を突かれたら」

 

そこでレヴィアタン様が口を閉ざす。あの匙でさえもやられたかもしれない相手にオレたちは敵うのか。不安が漂う。

 

「あの匙が簡単にやられるとは考えたくないが、これからは出来るだけ固まって行動だな。一人には絶対になるな。増援も呼びつけるが、時間がかかる。全員気を引き締めていろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だ」

 

ヘラクレスと名乗った男が投げ渡したものを見て、オレはそう呟いた。木場も生徒会の皆も否定の言葉を出す。血まみれで、破れたり壊れたりしているコートにマフラーにゴーグル。匙が使っていたものだ。だけど、普通に市販されている物でもある。だからこれは奴らが用意した物だと思う事にした。あの匙が簡単にやられるなんて思ってない。

 

「現実を見ろよ、悪魔ども!!まあ、これぐらいなら偽物を用意できるだろうが、こいつは無理だろ。おいジャンヌ!!」

 

だけど、ジャンヌと呼ばれた女が持っていたものを見て心が折れる音が、生徒会の皆から聞こえたような気がした。女が持っていたのは聖魔剣エクスカリバーと聖魔剣アロンダイト。匙だけの剣だった。それをあの女が拒絶されずに持っている意味を理解したくなかった。

 

「やれやれ、この程度で心が折れたか。いや、戦力的にもそれだけウェイトが高かったということか。ふっ、不意打ちで仕留めておいて正解だったか。ヘラクレス、もういいぞ」

 

「へへっ、待ってたぜぇ〜、その言葉!!」

 

曹操とか言う男がヘラクレスに許可を出す。まずい、殺しにくる。

 

「死n」

「きゃああああああああ!?」

 

だが、そこまでだった。突如ヘラクレスの頭が弾け飛び、隣にいたジークフリードが袈裟懸けに体がちぎれ、ジャンヌが全身から血を吹き出して倒れる。その後から轟音が鳴り響く。何が起こったのか、誰も理解できていなかった。この状況を作り出した者以外は。ジャンヌが倒れた場所のエクスカリバーとアロンダイトの姿が影に潜るのをたまたま見ていた。影に潜れる術を使えるのはオレは一人しか知らない。つまり

 

「ぐわあああああっ!?」

 

「ちっ、足1本か」

 

曹操の影から禁手姿の匙がアロンダイトを振り抜いて曹操の右足を切り落とす。

 

「くっ、貴様!?何故だ、黄昏の聖槍が!?」

 

「逃がすかよ!!逃げたほうが地獄だからな。ここで死んどけ!!」

 

木場の持つ魔剣創造と似たような現象で聖剣が曹操に向かって生える。聖剣が曹操を貫こうとしたその刹那、黒い霧が曹操を覆い、姿を消した。

 

「ここで死んだ方が楽だったのにな」

 

「匙、なんだよな?」

 

「そうに決まってるだろうが。まあ、一度死にかけたがな」

 

匙が禁手化を解いた。死にかけたというのは本当のことらしく、体に巻いている包帯が血で赤く染まっている。

 

「すまないがアルジェントさん、治療を頼んでも良いか?結構、キツイ」

 

「は、はい!!」

 

アーシアが座り込んでしまった匙に駆け寄って聖母の微笑で治療を始める。匙も影の中から輸血パックを取り出して輸血を行っている。

 

「匙、お前、何をやってたんだ?」

 

「破壊工作から情報奪取に寝返り工作、色々と影でゴソゴソとな。英雄派の屋台骨をへし折ってきた。まともな戦力はもう残ってないはずだ」

 

「寝返り?」

 

「少し待て、奴らが完全に撤退するまで」

 

そこまで言ったところで大きな九尾の狐が暴れ出した。あれが八坂様なのか。

 

「馬鹿どもが、素直に逃げればよかったものを」

 

「匙、どうなってるんだ!?」

 

「奴らは八坂様を洗脳してたんだがな、とっくの昔に洗脳は解いてある。今までは洗脳されたままのふりをしてもらっていただけだ。八坂様を使ってこちらにけしかけようとしたのだろうが、好機と見て曹操たちを殺しにいってるんだろう」

 

しばらくすると、いらいらしている八坂様の姿が消え、九重ちゃんを大きくしたような美人な人がやってきた。もしかしなくても八坂様だろう。それと同じくして異空間が崩壊する。

 

「どうやら完全に退いたようじゃな。無事かのう、元士郎よ?」

 

「さすが最強の神滅具ですよ。悪魔との相性が悪すぎる。未だに回復をかなり阻害されています」

 

疑問に思いアーシアの方を見ると半泣き状態で、必死に回復させようと頑張っている。

 

「アルジェントさん、もういい。フェニックスの涙を使ってもほとんど回復しなかったんだ。黄昏の聖槍の影響が薄まらないと、これ以上は無理だ」

 

「ですが」

 

「安静にしてれば死なない程度には回復してるから大丈夫だ」

 

逆に言えばさっきまでは安静にしてても死ぬ程度の体で戦ってたってことだよな。死ぬのが怖くないのか?これが匙の強さの秘密なのか?

 

「お前たち、無事、なようだな。匙、お前も無事だったみたいだな」

 

「アザゼル先生ですか。すみません、ご心配をおかけしました。レヴィアタン様も含めてご報告をしたいのですが」

 

「簡単に説明しろ。外側でも混乱が起こってるんだよ」

 

「幹部クラスは半数以上を無力化、または弱体化及び一人保護しています。英雄派の運用資金や貯蔵物を根こそぎ奪取。戦力になる神器も大半は奪ってきました。八坂様もご覧の通りです」

 

「やりすぎだ、馬鹿野郎!!外の奴らが弱いと思ったらお前の所為かよ。いざ戦闘って時になって相手が混乱し始めるから罠かと思って慎重に鎮圧してたのが馬鹿になってくるだろうが」

 

「オレも最初はそこまでやる気はなかったんですよ!!ただ、流れに身を任せてたら隙だらけだったから。あと、私怨も混ざってますから」

 

「私怨?」

 

「詳しい話はレヴィアタン様を含めてからにしましょう」

 

この場での話し合いを切り上げ、レヴィアタン様の待つ料亭に移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、お疲れ様。元ちゃんは心配かけすぎ。帰ったらソーナちゃんと合わせてお説教ね」

 

「お手柔らかにお願いします。それから、報告の前に一つお願いがあります」

 

「何かな?物にもよるけど、この場で聞くってことは重要なことなんだよね」

 

「はい。英雄派の一応幹部扱いされていた子供を保護しています」

 

「一応幹部扱い?」

 

「持っている神器から特別扱いするために幹部として数えられていますが、実態は拉致した子供を監視しやすくするための対応です」

 

「それだけ手放したくない神器、いや、神滅具か?」

 

「はい、魔獣創造を持つレオナルド・ダ・ヴィンチの魂を持つ少年です。幼い頃に目の前で両親を殺されている上に、暴力で無理やり従わされていたようです。魔獣創造をこちらに譲渡する代わりに、普通の生活を送りたいと。嘘を言っている様子もありませんし、先に魔獣創造も受け取っています。一応、仮の契約もその場で交わしてしまいましたので保護は確実に行う必要があります」

 

「う〜ん、神滅具の代わりに普通の生活かぁ〜。とりあえず私も直接会って確認しないとどうしていいかわからないかな?サーゼクスちゃん達にも相談する必要があるし。普通の生活の定義も曖昧だけど、元ちゃんはどうしたい?」

 

「最初はオレが育った施設に預かってもらおうと考えたのですが、オレ自身が面倒を見てやりたいと思っています。ありえないと思いたいのですが、報復や再度拉致して魔獣創造を持っていないことからキレて殺される可能性を考えると」

 

「なるほどね、その可能性も考えられるか。まあ、私個人としてはそれで良いと思うよ。もちろん、影から護衛を何人かつけたりすることになると思うけど、基本はそんな形になるかな?」

 

「ありがとうございます。では、報告です。成果としては英雄派の活動資金、現金で約7億円、各地に用意していたと思われる拠点の土地の権利書とその土地にある建造物合わせて約150億円、生活物資が200人で1ヶ月分ほど、神滅具の魔獣創造に合わせて黄昏の聖槍、神器が83個、内56個が禁手、フェニックスの涙が62個、それとは別に純度の低い物が371個、魔剣6本、幹部クラスと思われる3名を殺害、1名を保護、首領らしき曹操の右足を膝上から。これで残りの戦力は神滅具絶霧を持つゲオルグと神器持ち数人と言ったところのはずです」

 

「「「やりすぎ」だ」じゃ」

 

「あと、今回のために用意していた拠点を解体するために発破も仕掛けてきてます。これ、起爆スイッチです」

 

影の中から起爆スイッチを取り出してテーブルに置く。

 

「トリガーを引きながらカバーを外してスイッチを押せば爆破可能ですので。今、奴らが戻ってきているのなら一網打尽ですよ」

 

「いや、いいから。それで、被害の方は?」

 

「安静にして全治1週間位だと思います。黄昏の聖槍に貫かれた傷が治りにくいので。それと衣装一式が使えなくなったぐらいですね」

 

「戦果と被害が釣り合ってねえな。何度でも言うが、やりすぎだ」

 

「やれることをやった。後悔も反省もしない。心配をかけたことだけは後悔も反省もする。すみませんでした」

 

「素直に謝るのは良いところだけど、お仕置きは確定ね♡」

 

「怪我が治ってからでお願いします」

 

土下座をしながら輸血パックを使い切ったのでラインを使って新しい物に交換する。

 

「えっと、結構まずい?」

 

「まずいと言えばまずい状態です。適当な縫合だけで済ませてるので輸血を絶やすと死にますね。在庫は十分にあるので今のところ問題はありませんが」

 

「なんでそういうことを淡々と話すかな!?アザゼルちゃん、医療部隊医療部隊!!」

 

「ミッテルト、緊急用の保存溶液と培養槽だ!!急げ!!」

 

「いえ、そこまで慌てなくても」

 

「うるせえ!!お前は黙ってろ!!セラフォルー、こいつの手綱をしっかり握ってろよ。もしくはちゃんと調教しろ。毎回こんな感じじゃこっちの胃のダメージの方が大きいぞ」

 

「ごめんね、ちゃんと躾け直してみるから」

 

そんな話をしている内にミッテルトさんが毎度お世話になっている培養槽を持ってきたので大人しくそれに入り、別室に運ばれて検査を受ける。

 

「なんで生きてるかなぁ、急所を黄昏の聖槍に貫かれてるのにな」

 

「破損した臓器にラインが絡まってるのが原因ッスね。まるで破損していないかのように動いてるッス。これ、理論上頭を吹き飛ばされない限り生きれるってことッスよね」

 

「理論上はな。まあ、目の前に半分以上死んでてもおかしくない奴が生きてるから実際に生きれるっぽいがな。こいつ、どんどん生物を辞めていってるよな」

 

「アザゼル様、めちゃくちゃ不満そうに睨んできてるんッスけど」

 

「事実だから無視しろ」

 

確かに事実だが、むかつくな。

 

「とりあえず、聖なる力の除去を優先で調整しておいてやったから3日もあれば十分だろう。傷の方は自分で治せるんだろう?」

 

アザゼル先生の問いに首を縦にふる。というか、そろそろレオナルドを出してやりたいんだけどな。いきなり出すとまた何か言われそうだし。とりあえず念話で許可を取るか。

 

『アザゼル先生』

 

「なんだ?」

 

『レオナルド、保護した英雄派の子供をそろそろ出してもいいですか?』

 

「出す?」

 

『とりあえず寝かせて影の中に入ってもらってるんですよ』

 

「なら、とりあえず出せ。眠ってるんだろう?」

 

『はい。それじゃあ、アザゼル先生の影から出しますんで、引っ張りあげてください』

 

魔力で影をつないでゆっくりとレオナルドを押し出す。

 

「こいつか。よっと、ミッテルト、診察を始めるぞ」

 

「了解ッス」

 

しばらく色々と検査をしているのを眺めているとアザゼル先生から確認を取られる。

 

「何で眠らせたんだ?」

 

『妖精の嗅ぎ藥です』

 

「どっから仕入れた?作ったとか言うなよ」

 

『御用商人からですが、どうかしましたか?』

 

「いや、純度が高い奴を使ってるせいかぐっすりにも程があるからな。普通だと起きないからついでに精密検査でもしようかなって。ミッテルト、そういうわけだからこのまま一番近い支部に搬送するぞ。通常の検査以外に魔術的な跡がないかもだ」

 

「とりあえずは洗脳系を優先ッスね。それからリミッターとかもッスか?」

 

「精神安定に必要な分以外は解除しろ。頭脳系の英雄だから肉体的にはちょっと丈夫なぐらいだから拘束はしなくてもいいが、最低でも部屋に上級を二人護衛兼監視をつけろ。匙が回復するまでは寝かせておくのが一番だ」

 

「了解ッス」

 

ミッテルトさんと一緒に転移するレオナルドを見送り、アザゼル先生にレオナルドの検査結果を聞く。

 

「まだレントゲンとかを撮ってないから確実とは言えないが、日頃から骨を折られてたんだろうな。触った感覚だが変な形で癒着してるっぽいな。精神鑑定とかもした方がよさそうだ。もしかしたら対人恐怖症なんかもありそうだ」

 

『目の前にも元対人恐怖症が居るんですが』

 

「だからそっちの方は心配してねえよ。とりあえず、保護の話はこのままお前の提案通りになるだろうよ。ちゃんと面倒を見てやれよ」

 

『もちろんですよ。帰ったら家を買ったり駒王学園付属小への転入手続きとか、戸籍の偽造から始めないといけないのか。忙しくなるな』

 

「そこでアパートとかマンションを借りるって選択肢が出ずに家を買うってどういう発想だよ」

 

『いえ、そろそろスコルとハティを人間にも慣れさせようかと』

 

「神喰狼を街中で飼うだと!?何考えてるんだよ!!」

 

『そういう風に見るから、そう思い込んじゃうんでしょうが。オレはあいつらを猟犬程度に見て躾けてますからちゃんとそういう風に育ってますよ。責任はオレが持つってことで許可したのはアザゼル先生じゃないですか』

 

「いや、確かにそうだが」

 

『そこらの飼い犬よりもまともですよ。それに抑止力にぴったりですから』

 

「まあ神喰狼を相手にただの子供を襲おうとは思わねえな」

 

『そういうこと。それに普通の対人恐怖症相手には間に動物を挟むのが一番効果的だ。オレは動物を獲物にしか捉えられなかったから効果はなかったが、あの人はオレと話を合わすためだけに生の動物の肉を目の前で食ってくれたからな。ある程度常識を身につけて生の肉を食う危険性を知っていたオレの前でな。さすがにあれにはある程度心を開くしかないですよ』

 

「......なんつうか、大胆というか豪快な人だな」

 

『見た目からは想像もつかないですよ。いや、まじで』

 

あ〜、そういえばあまり顔を出していなかったな。今のオレを見たらびっくりするだろうな。喜んでくれるだろうか?一度、戻ってみよう。

 

 

 


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