インフィニット・ストラトス 黒龍伝説   作:ユキアン

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駆け抜ける光

 

8月24日、日本のIS用スタジアムにおいて新型ISの専用登場者の選定が始まろうとしていた。条件はただ一つ、日本の国籍を持つ適合率A以上。それ以外は一切の条件がなく、一番性能を引き出せた者が専用登場者となる。そして、スポンサーには今世界で一番注目を集めている会社であり、新型ISもその会社が開発した機体だ。一体どんなISなのだろうと期待していた者達はそのぶっ飛んだ説明に興味を失い、去る者も少なくなかった。

 

現行のどの機体よりも速く動く。会社の方針である全身装甲以外は、コンセプトの為に機能を削ぎ落とせるだけ削ぎ落とされ、拡張空間も固有武装も何もない格闘戦機という実体に嫌悪感を持って、あるいは格闘技に自信がないなどで会場を後にしたのが4割。そして残った6割の中に意外な人物が紛れていた。

 

 

 

 

 

匙元士郎と更識簪、あの二人を抑えるためにもと束に専用機の開発を頼んだのだが、出来ればD×Dの機体を精密に解析しないと無理だと言われた。困り果てた所にこの試験だ。都合がいい気もするが、私はこれに乗った。そして改めてD×Dの機体性能に舌を巻く。迅雷と名付けられたこの機体、現行どころか私専用に調整された暮桜よりも性能が上だ。

 

その分、クセのあるインターフェイスとPICに最初は苦戦するがそれもすぐに慣れる。他はここまで動かせていない。これならなんとかなる、そう思っていた。

 

そいつは私が教えているひよっこ共と同じぐらいの年頃だったが、纏う雰囲気が匙や更識の妹と同じ物だった。私は嫌な予感がした。そしてそれが間違っていなかったことにすぐに分かる。最初は確認するかのように数歩歩き、ゆっくり走り出し、どんどん加速していき、急停止と急加速、空中を蹴り上がり、そこに実際に壁があるように空間を蹴って跳ねる。更にはフィッティングが終了したのか姿が変わる。黒一色だった装甲が銀色をベースに金色のラインの入った黒い具足を纏う形になり、全身を覆っていたマントはマフラーへと変わり、色も黒から赤へと変化している。

 

フィッティング後、一度データの収集のためにピットへ戻るが、10分ほどで再び戻ってきてテストが開始される。先程までとは違い、高速で飛び回るターゲットが用意される。大きさはオルコットのBT兵器の半分ぐらいで、速さはラウラの使う物に近い速度だ。数は40、いや50だな。

 

これを全て落とすとなるとそこそこ苦労するだろう。だが、その予想の上を行かれる。両足の側面がスパークしたかと思えば、次の瞬間には姿が見えなくなり連続した爆発音が50回鳴り響く。何が起こったのか、理解できたが、認めたくなかった。やった行為自体は単純だ。瞬時加速でターゲットへ近づき、加速が切れると同時にスパークした足でターゲットを蹴り、次のターゲットへと瞬時加速。これを50回繰り返すだけだ。

 

やったことは単純だ。だがそれが異常性を醸し出している。あの機体はPICで機動するのではなく、PICで足場を作り、そこを走るという今までにない機動だ。瞬時加速の際は大きく踏み込んで、一歩で一気に距離を詰める感じに近い。それを50回、片足毎に25回だとしても、負担は危険域を遥かに超えるだろう。にも関わら普通に立つことが出来、腕を組んでいる姿には王者の風格すら感じられる。

 

その後、今までテストを受けた者も、もう一度テストを受け直すことが出来るとD×D側が発表しても誰一人、再テストを行う者は現れず、まだテストを受けていない者も殆どが棄権した。こうして、私はD×Dの機体を手にすることはできなかった。だが、束に用意してもらっていた特別製ISスーツのおかげである程度のデータは回収することが出来た。あとは、束に任せるしか無い。その間に私も自分を鍛えなおさねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャノンボール・ファスト?」

 

「簡単に説明するとIS学園専用機持ち最速一位は誰だ。妨害もあり。ちょうど、このマリカーみたいにな」

 

「元士郎、今すぐ会いたい」

 

「そんな嫌な音を出しながら来るな!!アイテムは、またバナナかよ!!って、いやああ、来んな!!」

 

「ドッスン先輩邪魔」

 

「よし、逃げきっ、この音は、トゲゾー!?直撃した」

 

「今のうちにっと、やった、3連キノコ。これで安泰だね」

 

「ちぃ、順位が落ちたがこれでアイテムがマシなものに、5連バナナ。違うそうじゃないって、またスター音が!?ラウラか」

 

「バナナ処理!!」

 

「バナナを全部処理された上で轢かれた。ドンキー先輩しっかりしてくれ」

 

ラスト1週でビリまで落ちながら3位にまで戻ったが負けた。まあ、別に良いけどな。所詮はゲームだし。

 

「まあ、そのキャノンボール・ファストなんだが、今回はオレ達に加え、蘭も雷王で参戦することになった。年齢も近いからってな。ついでに2年と3年も合同で行われる。と言うわけで休み明けからは各自で高機動型への調整な。一応、競争だからオレ達の間でもどんな調整をしたのかは内緒だ。その調整のためにオーフィスが航海上まで接近する。ポイントは後で送る。第1格納庫はラウラが、第2格納庫は簪が、第3格納庫は蘭が、第4格納庫はオレが使用することになっている。それぞれ専属のメ蟹ックが付く」

 

オレは調整も何もないんだけどな。まあ、マントを外す程度とクロスラーの調整か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~む、しっくりこないな」

 

高機動化の調整を始めて5日になるが、どうもデルタに合う高機動化の答えが出ない。最初はフィン・ファンネルを取り外してみたのだが旋回性能が大幅に落ちた。隙ができれば容赦なく撃ち落とされる可能性が高い。何かヒントが欲しい。きっかけさえ掴めれば。

 

「ええい、考えていても埒が明かん!!」

 

整備が終わっているデルタに乗り込み、ハッチを開けてもらい外へと飛び出す。デルタに乗っている時の方が考えがまとまりやすい。集中力がそうさせるのか、物事の本質を捉えやすくなるというか、なんとなく予知っぽい物が出来る気がするのだ。だから教えてくれデルタ。お前をどうすれば良いのかを。オーフィスから真っ直ぐに飛び続ける中、ふと、センサーに反応が現れる。

 

「これは格納庫にあった戦闘機か?」

 

戦闘機、飛行機、航空力学、飛ぶために特化した形か。行けるか?このまま何も出来ないよりはマシだろうな。アストナージに相談してみるか。オーフィスに帰還する途中、蘭の雷王とすれ違った。雷王は最高速度はともかく、それを持続させることが難しいのだろう。それでも初日よりは速くなっている。うかうかしてられない。

 

「アストナージ、かなり無茶なことかもしれんが念の為に確認したい」

 

「どうした?」

 

「デルタを戦闘機のように出来るか?」

 

「……何処でそれを知った」

 

「どういうことだ?」

 

「そう返すってことは知らずに答えを出したのか。う~ん、まあいいか。設計図の見方は知っているか」

 

「簡単なものなら」

 

「ならこいつを見てみな。これがデルタの元になった設計図だ」

 

渡された端末に移る設計図に目を通す。結構変更点が多いな。フィン・ファンネルは更に大型で腰の左右に1機ずつ、背中はバインダーで機動性を高めているのか。顔も若干違うな。うん?

 

「おい、大きさが間違ってないか?全高が22mもあるが」

 

「あってるよ。元々そのサイズの機動兵器として設計されてたんだよ。だから、こんな機能も組み込んであった」

 

端末を操作して表示されたのは人型から飛行機形態への可変機構だった。

 

「見ての通り、可変機能は元の方にはあるんだよ。だけど、ISだからな。搭乗者がすごいことになる」

 

「そうか」

 

さて、次なる手を考えなければな。

 

「まあ、待てって。話はこれからだ。それでもこっちの戦闘機形態がおしいって話は前からあったんだよ。そんで設計だけはしてあるんだよ。外付けパーツと合体して戦闘機形態を再現しようってのがこいつだ」

 

そう言って更に新しい設計図を見せてくる。

 

「なるほど。だが、これだとフィン・ファンネルを外す必要があるな。出来れば外さずにすむとありがたいのだが」

 

「何もこのままとは言わないさ。それで、この方向のプランで良いか?製造を考えるとテストがギリギリだ」

 

「ああ、この方向で進めてほしい。攻撃の殆どはフィン・ファンネルに任せる形で速度優先で進めて欲しい」

 

「はいよ。すぐに再設計に移る。今日の所はどうする」

 

「補給が済んだら少し自由に飛んでくる。ちょっとでも飛んでいたい気分なんでな」

 

「了解。こっちはこっちで再設計しとくから」

 

アストナージが他のメカニックと共に再設計を始め、補給が済み次第私はもう一度空へと飛び出す。一応練習っぽく、海面と並行になるようにして飛ぶ。有視界ではなくセンサーだよりの飛行は初めてのことだ。何もない空のはずなのに速度を上げる気になれない。おっと、センサーに反応だな。これはさっきすれ違った戦闘機か。なんだ?微妙にぶれているような反応があるな。気になって体勢を起こし、望遠で確認すると

 

「キャノピーにカバーを掛けたままだと!?しかもあんな低空を!?」

 

海面ギリギリを飛び、水飛沫を巻き上げている。明らかにISよりも速い。さすがに瞬時加速中には負けるだろうが、航続距離が長ければ長いほどあの戦闘機、確かRFゼロだったか?ソッチのほうが速いだろうな。やはり航空力学を参考にしようと思ったのは間違いではなかったようだ。しばらく練習を続けた後、オーフィスに戻るとお兄ちゃんが釣りをしていた。

 

「おう、ラウラか」

 

「釣れてるのか?」

 

「いいや。だが、たまにはこんな風にのんびりする時間も欲しくなる時がある」

 

「そうか」

 

「ラウラもどうだ。隣でぼうっとするだけだが」

 

「ぼうっとか」

 

「そうだ。別に釣りでなくても良いんだがな。何かやりたいことでもあるのか?」

 

「そうだな。宇宙にまた行ってみたいかな。何をするでなく、宇宙でぼうっとしてみるのも楽しそうだ」

 

「宇宙か。ふむ、上がってみるか?」

 

「私だけでか?」

 

「RFゼロの調整で大気圏離脱と宙間機動と大気圏突破までのテストがあったはずだから乗っけてもらうか?」

 

「そんな簡単に許してもらえるのか?」

 

「ゼロのパイロットの指示に従うなら良いってさ。補給を済ませたら第2格納庫に集合だと」

 

簡単に許可が降りたので補給を行ってから第2格納庫に向かう。お姉ちゃんは練習に出ているのか、ゼロがアイドリング状態で待機していた。

 

「それじゃあ、お二人さん、翼に捕まって腕をロックしていてくれ。結構キツイけど我慢してくれ」

 

ゼロのパイロットの指示に従い翼に捕まりオーフィスから発艦する。以前、オーフィスで宇宙に上がったときとは異なり、かなりのGを感じる。PICでの軽減は最小限だからだろう。それでも10分も経たずに私はもう一度宇宙へと上がった。

 

『それじゃあ、この宙域には近づかないように。テストが終わり次第戻ってくるから。エネルギーの残量だけは注意しろよ』

 

ゼロから離れて慣性を一度止める。

 

『それじゃあ、オレはオレで過ごす。何かあったら連絡をくれ』

 

お兄ちゃんも離れていき、世界が私だけになったような恐怖のようで万能感のような不思議な感覚に戸惑う一面、安らぎも得ていた。それらに身を任せて、体の力を抜き、全てを宇宙とデルタに預けて目を瞑る。何も考えずに、ただ感じる。なるほど、確かにたまにはぼうっとするのも悪くないことなのだろう。

 

宇宙は、広いな。無限に広がる大宇宙とはよく言ったものだ。この宇宙に進出するために作られたISがあんな狭いアリーナを飛び回るだけの存在になってしまうとはな。うん?宇宙進出にIS?待て、何かがおかしい。目を開き、周囲を見渡す。見逃している何かのヒントはないか。ゆっくりと見渡していると衛星軌道上で最も大きな人工物が視界に入る。ISS、国際宇宙ステーション。ちょうど打ち上げられた物資が搭載されたカプセルとドッキングするところだ。

 

そうか。見落としていたのはソレか。ISだけでは足りない。整備・補給を行う拠点もなく、そこに行くまでの足が旧世代の産物に頼る必要がある。ISだけでは駄目なんだ。オーフィスのような万能性はともかく、量産型のミドガルズオルム級位の性能は欲しい。あれなら物資を満載した上で600人を宇宙に上げれる。しかも燃料はほぼタダ。推進剤は掛かるだろうが、従来のシャトルなどと同じ量で物資込みで1000倍以上差が発生する。

 

宇宙開発があまり進まないのはコストが掛かりすぎるからだ。そのコストを大幅に削減できるのがミドガルズオルム級なのだ。作業服は従来の宇宙服でも十分対応できる。むしろ、シャトルの技術などに使っていた資金を宇宙服や工作機械に回せれば宇宙開発は進む。

 

ああ、そうか。篠ノ之束博士は何も分かっていなかったんだ。誰もが万能ではないということを。だからその道の専門家を集めて、チームを組んで作業を行うということを。寂しい人なんだな、篠ノ之束博士は。

 

お兄ちゃんやお姉ちゃんのお陰で今ならはっきりと分かる。人というのは一人でも二人でも生きていけない。最低でも三人居て、初めて人としてのコミュニティが完成する。三人いれば派閥ができて対立が生まれるが、それで他者との付き合い方を学んでいく。お兄ちゃんとお姉ちゃんとクラリッサと蘭は皆仲が良いように見えるが、お兄ちゃんはちゃんと順位付けている。お姉ちゃんが一番で次が蘭で最後がクラリッサだ。三人もそれが分かっていて、その上で譲り合ったりしている。あれも一種の派閥だ。対立する時は私をおもちゃにする際の方向性位だな、腹が立つが。

 

そういう人とのつながりをしてこなかったんだろうな。私もそうだった。だから色々失敗したし、今もしている。この感覚は、多分間違いではない。篠ノ之束博士は今も失敗をし続けているんだ。それが今の私には分かる。世間は篠ノ之束博士を誤解している。この誤解が争いの元となるのか。

 

お兄ちゃん達のように、他人と誤解なく分かり合えることが出来ないというのは、こんなにも悲しいことなのか。いつの間にか涙が零れている。こんな悲しいことが世界中にありふれている。宇宙全体から見ればちっぽけな地球なのに、悲しみが詰まり過ぎている。

 

初めて宇宙に出た時に美しいと思った地球を、今は美しいとは思えない。地球は青かったと言うが、それは悲しみで出来ている様にしか見えなくなってしまった。

 

『ラウラ、どうかしたのか』

 

「……人と人が正しく理解し合えないことがどれだけ悲しいことなのかが分かってしまった」

 

お兄ちゃんはそれに何も答えてくれなかったけど、何かを考えている。それも私を心配してくれているのが伝わってくる。そして、かなり遠い場所から敵意を感じる。嫌悪ではなく憎悪で彩られた敵意。それが私たちの方に向かって放たれている。デルタではそこまでたどり着くことは出来ないだろう。だから、今は放っておくしか出来ない。

 

『ラウラ、そろそろ帰るか』

 

「うん」

 

お兄ちゃんの誘導に従って再びゼロの翼に掴まり大気圏に突入する。視界が赤く染まっていく。普通のISだとシールドに守られているとは言え、直接目の前が真っ赤に染まるんだよな。かなり怖いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャノンボール・ファスト当日、天気は快晴、体調・機体共に万全。全員がISを展開してスタートを待っている。お姉ちゃんの打鉄弐式と蘭の雷王は今までと見た目は変わらないが、中身は相当いじってありそうだ。お兄ちゃんはマントを外してクロスラーまで外している。一体何を考えているのだろうか。

 

私は左腕にハイメガランチャー付きのシールドを右手に大型シールドに見える拡張パーツ、BWSを持っている。この拡張パーツを背中から被るように合体して左腕のシールドを前面に抱え込むようにして擬似的な可変を行う。武装はシールドのハイメガランチャーとBWSに内蔵されているビームライフルが2門、デルタのフィン・ファンネル8機と追加で開発してもらったキャリア・ファンネル2機とキャリア・ファンネルに搭載されたリチャージ出来ないファンネルが各12機。ビームライフルもビームサーベルもグレネードも今回は外した。

 

スタートが近づくに連れ、緊張が高まっているのが手に取るように分かる。この前、宇宙に上がってからは特に人の感情が手に取るように分かる。だから気づけた。スタート直前の1秒で3人の殺気が膨れ上がったのを。スタートと同時に真上に飛ぶ。次の瞬間、お兄ちゃんとお姉ちゃんと蘭が牙を剥いた。

 

スタートと同時に隣の選手のISに瞬間最大火力を叩き込み、まとめて行動不能に陥れた。関わればまずいと本能が訴える。瞬時加速で前に出ながらBWSを纏ってとにかく前に出る。フィン・ファンネルを切り離してシールドを張り、攻撃を後回しにする。多少落ち着いたところで後ろの様子を探れば、今も三人が高速機動戦を行いながらこちらに向かってくる。正確にはお姉ちゃんと蘭が私を守るように、お兄ちゃんが私を落とそうとしている。

 

たぶん、私には内緒でそういうルールを決めたのだろう。問題ないと言いたいのだが、微妙に距離が詰まってきている上に最初のカーブが差し迫っている。練習はしてきたが、この最高速で何処までロスを少なく曲がれるか。それによってこのレースの勝敗が決る。

 

防御に使っていたフィン・ファンネルを戻し、使い捨てのファンネルを2機ずつ飛ばして牽制に使う。そのまま減速せずにPICと姿勢制御用バーニアで強引に機動を変更して、プレッシャーを感じ、翼の右側にマウントされているキャリア・ファンネルを切り離してバランスを崩すことで機体をロールさせ、切り離したキャリア・ファンネルからファンネルを全て飛ばす。次の瞬間、キャリア・ファンネルが撃ち抜かれて爆散する。

 

お姉ちゃんと蘭に両側から襲われて二刀流で鍔迫り合いになっていたはずなのに、何が起こった!?視界を後方に向けると、お兄ちゃんから蛇が生えていて、それがお姉ちゃんたちに襲いかかって両手がフリーになっていた。

 

「何だあれ!?」

 

『これぞ、ヴリトラの単一使用能力。見ての通り、自由自在に動かせるだけでなくISに接続することでエネルギーの吸収なども行える』

 

『そっちがその気なら!!氷紋剣・水成る蛇!!』

 

『静動轟一!!その名に恥じるな、雷王!!』

 

お姉ちゃんと蘭も隠していた札を切ったのか、お姉ちゃんは閻水から水の蛇を作り出してそれを操ってお兄ちゃんの蛇と喰らいあい、蘭の雷王は全身がスパークし始め速度がまだ上がる。また二人がお兄ちゃんを押さえてくれているうちに機体のチェックを行う。バランスが崩れる以上、左側のキャリア・ファンネルも切り離し、既に飛ばしてしまったファンネルは全てお兄ちゃんに差し向ける。この序盤でブースター代わりにも成るキャリア・ファンネルを失ったのは痛い。だが、それだけの被害で隠していた札を切らせることができたんだと思い直す。

 

『ふむ、このままでは若干キツイか。あまり好きではないが、弾幕を張らせてもらおう!!』

 

お兄ちゃんが蛇にガトリングを持たせて、濃厚な弾幕を張ってきた。二人がある程度弾いてくれるが、それでも大量の弾が飛んでくる。

 

「くっ、フィン・ファンネルを、いや、ファンネル自体が。これでどうだ!!」

 

弾幕によって被弾しそうになっているファンネルをそのままミサイル代わりにお兄ちゃんにぶつけて爆発させる。多少は効いたのか、弾幕が散らばり、多少の回避できるスペースが生まれそこにデルタを潜らせる。

 

当初の予想とは異なり、私がトップを飛んでいる現在、後方に対して使える武装はキャリア・ファンネルを失ってしまったためにフィン・ファンネルだけになってしまった。それも今使うと撃ち落とされてしまう。くっ、どうすればいいんだ。

 

『隊長、落ち着いて下さい』

 

「クラリッサか。今忙しい」

 

弾幕が薄い部分に機体を滑り込ませながらフィン・ファンネルのリチャージだけは行っておく。

 

『焦りはそのまま隙に繋がります。デルタは、隊長の全てを表現してくれるマシンです』

 

「意味が分からんぞ!!」

 

『そのままの意味です。デルタにはそれが出来るだけの力が備わっています。力や技、そして心すらもデルタは表現してくれます』

 

「心を表現する?なんだ、話しかけてくるとでも言うのか?」

 

『元士郎から聞きました。この前、宇宙に上がった時、隊長は一皮むけたと。キャノンボール・ファストのことは置いておいてもいいでしょう。元から勝ち目は薄いのですから』

 

「……私はな、教官の指導で負けず嫌いなんだ。デルタが私を表現するマシンだというのなら、私に応えてみせろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私に応えてみせろ!!』

 

ラウラのその言葉と同時に、BWSとデルタの関節部から緑色の炎が吹き上がり、バリアを張っているフィン・ファンネルが緑色に発光する。

 

「バカな、サイコフレームの共振現象だと!?」

 

驚いた所に蘭の蹴りがクリーンヒットし、距離を離される。その隙にBWSと分離し、その上に乗って反転する。所謂バック走だな。これでハイメガランチャーとBWS内臓のビームライフルが使用可能になったか。

 

『行け、フィン・ファンネル!!』

 

通常ならコの字型のフィン・ファンネルがIの字でビームを発振させて高速回転し、円状のシールドビットへと姿を変え、弾幕を完全にシャットダウンする。

 

「くっ、まさかここまでの素養を備えていたとは」

 

ラウラの成長は速いと思っていたが、まさか高レベルなニュータイプに覚醒するとはな。作られた命でありながら、それでも世界を恨まず、優しくて純粋な心を持つ一人の人間として巣立ったか。ちょっとだけ寂しいな。まあ、これからも構ってやるけどな。巣立っても、オレ達の家族も同然なのだから。

 

「まあ、まだ負けてやるつもりはない!!見せてもらおうか、デルタの想定以上のパワーを!!」

 

再び簪と蘭の猛攻を掻い潜り、シールドビットと化したフィン・ファンネルの隙間から狙撃を行い、サイコ・フィールドに完全に防がれ、ハイメガランチャーで反撃される。

 

「ちょっ!?そいつは想定外過ぎる」

 

開発したオレの想像以上のビームの出力に慌ててマントでガードする。ハイメガランチャーが融けていてもおかしくないのだが、排熱による蒸気すら見受けられない。これが高レベルニュータイプとサイコフレームの共振による力か。まさかこれほどまでとは。カーブでの減速の際に再び狙撃をやってみたがサイコ・フィールドを抜けない。仕方ない、もう一段本気を出そう。使う気はなかった呪印を開放して出力を上げる。

 

『行かせない!!』

 

簪と蘭も魔術炉心に魔力を追加で投入し出力を上げてくる。だが、ISと言うオモリを纏う以上こちらの方が上だ。地面を蹴り、一気に二人を引き離してラウラに肉薄する。エクスカリバーとアロンダイトを引き抜き、斬りかかる。ラウラが取れる手は、ハイメガランチャーかBWSのビームライフルをサーベル状に固定しての防御。どちらか、もしくは両方、どちらで来る。

 

 

 

 

 

 

 

まずい、距離を詰められた。射撃戦ならこのフィールドが守ってくれるが、あの剣はまずい。どうする、ハイメガランチャー、いや、ビームライフルをサーベルに。違う、自分の感覚を信じろ!!

 

足場にしていたBWSを蹴り出してぶつけ、BWSを撃ち抜くようにハイメガランチャーのトリガーを引く。今度は収束するように、全てのエネルギーを撃ち出す!!

 

ハイメガランチャーに撃ち抜かれたBWSが爆発し、吹き飛んでいくビームライフルをフィン・ファンネルに回収させる。よし、1つは壊れているが、もう1つは使える。壊れている方もカートリッジを抜き、エネルギーが切れたハイメガランチャーと共に破棄する。無論、シールドから引き剥がしてだ。シールドがないと次に接近された時に切り捨てられる可能性が高いからな。

 

先程の一撃でお兄ちゃんとの距離が大分離れた。最も、ハイメガランチャーは身体を隠せるほどの大きさの大剣で防いでいた。お姉ちゃんと蘭が追撃に入り、お兄ちゃんとの距離がぐんぐん離れていく。このままなら余裕でゴールできる。

 

そして最後のカーブを曲ったところで敵意に反応してフィン・ファンネルがシールドを張る。後ろではなく前に。意識を向ければ応急処置だけ施した他の参加者がコースを逆走しながら襲い掛かってくる。

 

「なるほど。逆走して襲ってはならないなんてルールはなかったな。だが、負ける訳にはいかない!!」

 

フィン・ファンネルを全機飛ばし、ビームライフルと共に連射で飛んでくるビームやレーザーや鉛玉を撃ち落とし、余裕があれば顔面を撃ち抜く。一番最初に篠ノ之箒が落ち、次に凰、オルコットが落ち、エネルギーが切れたビームライフルのカートリッジを織斑一夏の顔面に投げつけて手放した刀を引っ掴んで駆け抜ける。そして腕だけ後ろに向けてライフルを乱射する。

 

振り返る暇はない。暴風が既にそこまで近づいているのだから。先輩たちが振り返った瞬間、真空の刃が、水の龍が、レールガンが全てを飲み込んでいく。

 

「逃がすか!!」

 

再び追いついたお兄ちゃんが切りかかってきたのを奪った刀で受けて押し返し、砕けた。ちょっ、待て待て待て!?脆いにも程が有るわ!!武器は、エネルギーが切れたビームライフルだけ。フィン・ファンネルはさっきのに巻き込まれて全部落ちた。シールドはレールガンらしきものががかすって手を放してしまった。何か手は、ってこれしかないわ!!ビームライフルで殴りかかり、押し返す。

 

まさか銃剣術なんて使う羽目になるとは思っても見なかったわ!!というか、刀より堅いな、このライフル!!受け止め、打ち返し、防御主体で時間を稼ぐ。だが、ライフルも限界を迎えて真っ二つにされる。どうする?どうすればいい。そうだ!!

 

「ありがとう、マリカー!!」

 

お兄ちゃんに真正面から組み付き、そのままゴールに向かって突っ込む。今思い出したが、先にゴールしたほうが勝ちなんだ!!これで勝ったと本気で思った。油断しかなかった。反転されて先にゴールされた。

 

 

 

 

 

 

ラウラの落ち込み方が半端ない。まあ、オレも簪も蘭もクラリッサも笑いを我慢しようとして漏れてるからな。

 

「笑わば笑え!!我慢しきれてないんだよ!!」

 

「そうか、じゃあ遠慮なく」

 

四人で大笑いする。そしてラウラは再び落ち込む。

 

「はぁ~っ、笑った笑った。まあ、最後はともかく、いや、最後も想定外だったが、今日は本当に驚かされた。体に異常はないか、ラウラ」

 

「ふん、私の心はボロボロだ。悪い大人達に虐められてるからな」

 

「いや、結構真面目な話。ラウラ自身は分かってなかったんだろうけど、途中から全身火だるまだったから」

 

「何!?」

 

「映像あるよ」

 

簪から全身緑色の火だるま状態のデルタを見せられて慌てて身体を調べ始める。

 

「たぶん、大丈夫」

 

「一応検査してもらおうな。クラリッサ」

 

「手配してあります。隊長、こちらへ」

 

クラリッサに連れられて会場を後にするラウラを見送る。こっちはこっちで後始末があるからな。

 

「で、何か用かな?」

 

廊下の角から現れたのは織斑一夏の回りにいる奴らだ。

 

「お前達、一夏に何の恨みがあるんだ!!」

 

「恨み?」

 

意味が分からんぞ。スタートの時の不意打ちだと思っていたのだが。

 

「雪片参型を壊しただろう!!弐型もお前が壊して、どこまで一夏を傷つけるんだ!!」

 

「武器が破損することは普通だろうが。何を言ってやがる。そんなに大事なら使わずにしまっておけ。あと、恨みなんかはない。路端に落ちている小石に恨みなんてもたないだろう?」

 

「貴様!!」

 

「蘭、アンタ、なんでそんな男の所にいるのよ!!」

 

「織斑先輩よりも元士郎先輩の方が格好良くて頼りがいがあって私を愛してくれるからですが何か?それよりも皆さんISの修理をしなくて良いんですか?ほぼ大破でしたよね。授業に支障をきたしますよ」

 

「あんな不意打ちをしておいてなんて口を!!」

 

「ラウラは普通に対応してたよ。先輩方もガードしてたから中破だしね。ルール的にも問題なし。腕の差がもろに出た形。や~い、下手くそ」

 

「まあ、そういうことだな。それと1つ宣言しておく」

 

「調子に乗ってんじゃねえぞ、小娘共」

「調子に乗るのも此処までよ、小娘共」

「調子に乗ってんじゃないわよ、小娘共」

 

三人で殺気を気絶しないギリギリで浴びせる。全員の顔が恐怖に染まり、床に座り込み、廊下をアンモニア臭の液体で濡らしていく。

 

「敵対してないだけマシだと思え」

 

そう言い捨てて、その場を離れる。これだけしてまだバカな対応をするなら。摘み取るだけだ。

 

 

 


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