転生魔女さんの日常   作:やーなん

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前世について

 まるで自身が体験したかのように、カタリナの前世の記憶は彼女を苛む。

 

「総長、戦況はどうです?」

「まずいな、サン・ルー砦が落ちそうだ」

「それが本当ならお見事ですな、士気だけで本当に絶体絶命の状況を引っ繰り返せるのかもしれん」

 総長と呼ばれた、カタリナの前世の男は上空からイングランド軍の砦を見下ろしていた。

 

 勿論、彼は実際に飛んでいるわけではない。

 鳩の視線を通じて、術によって偵察しているのだ。

 

「標的は?」

「元気に旗を振ってるよ。本当にあれが十六歳の小娘かね?」

「小娘かどうかは関係ないでしょう。

 歴史に列聖なされた聖女の方々も、ほとんどがただの女性なんですから」

 部下である団員たちの言葉に、そうだな、と総長は頷いた。

 

 やがて、サン・ルー砦が落とされた。

 ジャンヌダルクの輝かしい初戦であり、のちにオルレアン包囲戦と称される戦いの一幕だった。

 

「む?」

 後方で軍旗を振る標的が、ふと、手を止めた。

 そして、遥か上空を飛んでいる鳩と、目が合った。

 

 総長は咄嗟に術を切り、視界が見慣れた野営地のものへと戻った。

 

「どうでした? 噂の聖女はホンモノでしょうか?」

「本物だろう。当人の意図に関わらず」

「では、手筈通りに」

「ああ」

 総長は部下たちに指示し、調査を続けることにした。

 

 聖女の奇跡を、再現するために。

 

 

 彼の取りまとめる傭兵団は、騎士団とは名乗っているが実際にそれとは程遠い物だった。

 祖先であるテンプル騎士団の異端の容疑を晴らすため、異端の研究を長年続けてきた。

 いつしか、彼らは神の御業を人の身で再現させた。

 それが彼らが異端視する、魔術となんら変わりない物だと言うことなど、少しも考えぬまま。

 

 それどころか彼らは、聖人たちの起こす奇跡で異端を殺し、邪教の教えから目を覚まさせればいずれ祖先の名誉は晴れると信じて戦っていた。

 

「ひでぇことするよなぁ」

 場面は変わる。

 市松模様の、当時流行っていた服装に身を包んだ男が焼けた村を見渡していた。

 

「せめて死体ぐらい残しておいてくれよ」

「黙れ、それ以上口を開くな、おぞましい異端の魔術師め!!」

「なあ、教えてくれ、なんでこの村を焼いたんだ」

「知れたこと、貴様が齎したペストによる感染をこの村で留めるためだ!!」

 若い団員が、激怒してその男に怒鳴りつけた。

 

「事実無根だよ。あんたらの雇い主がそう言ったのか? 

 私はこの村の人々に親切にしてもらったから、ちょっとした術を披露してやっただけさ。

 焦土作戦の言い訳ぐらい、もっとマシなのがあっただろうに」

 男はまだ温かい灰を手に取った。

 ぼろり、と焼けた骨が崩れ落ちる。

 

「聞く耳を貸すと思うか? 異常者が!!」

「ただ数が多いだけで健常者振りやがって。

 なあ、十戒に書いてある殺人はダメとか、聖書に書いてる隣人を愛せとか、どうしてまともに守れないんだ? 

 魔女を殺せって一文が、そんなに好きなのか?」

「貴様らが人々を惑わす悪魔に魅入られた者だからに決まっているだろうが!!」

「そうかい」

 初めから、会話になどなりはしなかった。

 

「じゃあ、もう一回無辜の人々を殺して見せろよ」

 ぱんぱん、と男が手を鳴らす。

 すると、おぞましいことに村中の焼けた死体や灰が人の形を取り、起き上がった。

 

「総員、抜刀!! かかれ!!」

 総長の号令で、死者を冒涜するネクロマンサーとの戦いの幕が切って落とされた。

 

 

 場面は変わる。

 

 

「死肉を貪るつもりか、おぞましい魔女め!!」

 総長の手にする剣の切っ先の向こうには、黒衣に身を包んだ魔女が膝を突き、冷たくなった小さな女の子を抱きしめていた。

 

「この子はね、母親が病気だからそれを治す薬を取りに来ただけなのよ。なぜ、斬ったの?」

「貴様がその子供に邪悪な呪いを教えていたと証言は取れている。

 理由など、それだけで十分だ。その知識をそれ以上広めるわけにはいかない」

「傭兵風情が、異端審問の真似事かしら? 

 殺していれば自分たちが常に正義の側でいられるとでも?」

 くつくつ、と魔女は低く笑って立ち上がる。

 彼の部下たちは、包囲を固めて臨戦態勢だった。

 

「あなた達の死に様を見るまで、私は死ねないわね」

「ほざけ!!」

 総長の号令で、本物の魔女との戦いが始まった。

 

 

 場面は変わる。

 

 

「標的はどうです?」

「どうやら、打ち止めらしい」

 総長の視界には、イングランドの捕虜にされ、火刑に処されるジャンヌダルクの最期が映っていた。

 

 何かしらの奇跡を期待していた彼らは、落胆のため息を吐いた。

 聖女は最終的に魔女と言うことで落ち着きそうな気配に、団員たちの空気も重かった。

 

 彼女の火刑は、数時間にも及んだ。

 火傷によるショック死か煙による窒息か、判別はつかなかったが彼女はもう既にぐったりと息絶えていた。

 だが、不意にその瞳が開かれ、鳩を通してその光景を見ていた総長の目が会った。

 

 思わず、彼は息を呑んだ。あれは確実に死んでいるはずだ、と。

 彼女の目が開いたことを、処刑を見守っていた民衆や聖職者たちは気付いた様子は無かった。歴史に記されない、彼だけが知る彼女の奇跡だった。

 やがてその視線が、横に逸れる。その先には、民衆に混じって黒衣の魔女が火刑の様子をジッとみていた。

 

 その姿を認めて驚く総長に、魔女は言葉無く唇だけでこう言った。

 

 次はお前たちの番だ、と。

 

 

 

 場面は変わる。

 

 

 死がそこに具現化していた。

 

 まだ、歴史上この時代に存在しないはずの装束を身に纏った存在に、団員達は次々とやられていく状況だった。

 その装束とは、つば広の帽子に全身を覆う黒い革のガウン、そして特徴的な鳥の嘴のようなマスク。

 総長が知る異端の中でも、最も邪悪な存在がそこにいた。

 

 

 

 場面は変わる。

 

 

「濡れ衣だ!! 我々は正しく作戦に従事していた!!」

 ジャンヌダルクが亡くなっても、戦乱は終わらない。

 そして彼らは、なぜか敵前逃亡と虐殺の汚名を着せられ、軍法会議で処刑される運びとなった。

 

 総長たちは捕えられ、民衆の前で役人が彼らの罪状を読み上げる。

 してもいない不名誉な行いや略奪、軍費の横領など、様々な不実の罪が並べたてられる。

 人々の罵倒や物が飛んでいき、処刑人の斧が振り上げられた時、総長は気付いた。

 

 魔女の扱う、薬の臭いに。

 

 その場に居る全員が、正気ではないと気付いた時には遅かった。

 民衆に混じって彼をあざ笑っている黒衣の魔女に何かを叫ぼうとした直後、処刑人の斧は振り下ろされた。

 

 地面を転がる彼の首が最後に見たのは、黒衣を翻す魔女の後姿だった。

 彼らは異端としてではなく、ただの浅ましい人間として人々に処されたのだ。

 

 

 

 §§§

 

 

「……」

 自分は結局、何をしたかったのだろうか。

 カタリナは夜に悪夢に苛まれ、飛び起きてそう思った。

 

 現代の価値観から言えば、彼女の前世は従軍してたとはいえ虐殺者だった。

 しかし当時は当時の価値観があった。

 時代が違うと言われるのなら、当時も現代とは違うのだ。

 

 罪悪感が無かったのか、と問われれば、多少はあったのだろう。

 総長は少なくとも、軍事的目的の為にと理解したうえで非道を行っていた。

 雇われ先の都合で関係の無い人々を異端として殺したこともある。

 傭兵団の長となってからは団員たちを食べさせる為に、不本意な任務も行った。

 

 全ては使命の為だった。

 だが、肝心の総長は何故に使命に全てを捧げていたのか、思い出せなかった。

 記憶はあっても、感情はそうではなかった。

 

 カタリナがかつての記憶を思い出した時、六歳だった。

 それまで培っていた少女としての記憶と、異端狩りの傭兵総長としての記憶がぶつかりあった。

 

 彼女はどうしても、総長の記憶を自分自身だとは受け入れられなかった。

 彼女の今生の精神が、過去の虐殺の記憶に耐えきれなかったのだ。

 

 そして、全ての記憶を整理し終えた後、彼女は独り教会の門を叩いた。

 

 絶望と諦念に身を任せて、枯れ木のようにこれまで生きていた。

 だが時々、自分は前世の続きを生きているのか、カタリナとして生きているのか分からなくなる時があった。

 

 あの忌まわしい魔女の薫陶を得たであろう少女たちに出会った時もそうだった。

 最初は、本当に見逃そうと思ったのだ。

 かつての自分と、今生の自分。そのどっちつかずで揺れる彼女は、少なくとも悪行を目にしない限り動く気力はなかったはずだった。

 

 あの忌々しい黒衣の魔女の魔術の臭いを嗅ぎつけるまでは。

 

 あの時、形容しがたい感情が彼女を支配した。

 それが怒りか、憎しみなのか、その翌日に出会った化粧屋に煽られた時の感情も、まだ整理がつかなかった。

 

 自分の心が自分で制御できない恐怖を、初めて思い知ったのだ。

 ついでに自分の考え方が世間にまるっきり通じないことも。

 

 寝付けなかったカタリナは、自室から礼拝堂へと歩み出た。

 そこには、親代わりの神父が雑巾で掃除をしていた。

 

「カタリナ、眠れませんか?」

「はい、神父様」

「まあ無理もありませんか」

 神父も、彼女が化粧屋に向ける激情を見た後ではそうとしか言えなかった。

 

「カタリナ、神は貴女に想像を絶する試練を課しました。

 ですが神は乗り越えられぬ試練を与えぬもの。あなたの苦悩は、私には想像することしかできませんが、必ず行く先の道は用意されているのです。

 時には苦しむだけではなく、考えないようにするのも手ですよ」

 神父は改めてそのように彼女を諭した。

 

「でも神父様、私はあの邪悪を目の当たりにして、体が反応せざるを得なかったのです。

 私の記憶に、魂に刻まれた異端狩りの知識が、奴らを野放しにするなと」

 確かに、無辜の人々を拷問に掛けて殺すのは時代が違うのだろう。

 だけどカタリナはそれでも、無性にあの邪悪の存在を許容できなかった。

 

 化粧屋の煽り文句を思い出すだけで、言葉にできない激情がふつふつと煮えたぎるのである。

 

「明日、私はあの忌まわしい魔女に会いに行きます」

「……むやみに立ち向かう必要などないのですよ?」

「決めましたから。これが神の試練だと言うのなら、この地獄に救いがあると言うのなら、なおのこと避けては通れません」

 カタリナの決意は固かった。

 神父はそれを聞いてため息を吐いた。彼女を止められない己の無力さに嘆きながら。

 

「わかりました、ですが約束してください。

 刃傷沙汰にはしないこと。他人に迷惑を掛けないこと、神に誓えますね?」

「はい」

「では、そうしなさい。

 くれぐれも、その言葉を忘れないように」

 神父は心配そうに何度も念を押して、カタリナの決意を後押ししたのだった。

 

 

 

 

「この町ですか」

 乗り慣れない鈍行列車を乗り継ぎ、旅行カバンを持った修道服のカタリナは魔女のテリトリーへと降り立った。

 

 彼女は感じていた、濃密な異端の魔力の気配を。

 ここで間違いないという、確信を。

 

 カタリナは先日警察署に連れて行かれ、事情聴取を受ける間ずっと鳩を魔術的に支配し、その視界から春美たち五人の行き先を探っていたのである。

 そして彼女は、この町を見つけた。

 

「団員たちがいたなら、硫黄と火で町ごと焼き尽くしてやれたのに」

 と、呟いてから彼女は首を振った。

 思考が前世に引っ張られていたのだ。

 

 カタリナは町を探索し始めた。

 何の変哲もない、日本のどこにでもある町だった。

 それでも普段教会からあまり出ないで外界との接触を殆ど断っていた彼女には、コンクリートの町並みは窮屈に感じられた。

 

 町中を歩き回り、魔女の気配を探している内に、彼女は気付いた。

 

「はぁ、はぁ、まさか私がここまでひ弱だったとは」

 そう、前世はともかく、今生の彼女は出不精の引きこもりとなんら変わりなかったのである。

 神経を研ぎ澄ませ、霊感を冴え渡らせ長時間歩いていたせいで、体力の限界に気が付かなかったのだ。

 

 奇跡の触媒の入った旅行カバンも重たかった。

 これからは鍛え直さないと、と彼女が電柱に手を突いて呼吸を整えながら思っていると。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「ええ、お構いなく」

 気配は一般人だったので、カタリナは気付かなかった。

 

「あ、あなた達は先日の……」

 彼女に声を掛けたのは、学校帰りの夏芽だった。当然、他の幼馴染二人もいた。

 

「夏芽ちゃん、やっぱりこの間の人だよ!!」

「え、どうする? また警察に通報するの?」

 ビビっている真冬はともかく、千秋は完全に不審者に対する構えだった。

 

「いや、でもこの人辛そうだよ」

「そうだけどさぁ」

「今は剣を持ってないみたいだし、私たちは魔法とか使えないし、大丈夫でしょ」

 酷い楽観だった。

 平和ボケした日本人の危機感の無さと、夏芽の能天気さの顕れだった。

 カタリナの前世で言えば、この三人は魔女と接触したと言う理由だけでとっくに斬り殺されている。

 そしてそんな気さえ起きないほど、カタリナは呆気に取られていたわけだが。

 

 

 

「へぇ、じゃあ魔女さんと前世からの知り合いなんだ」

 カタリナは情報を聞き出すべく、ファーストフード店で三人の話を聞いていた。

 聞いていた……のだが、この三人に限ったことではなく、この時代の人間はオカルト話に飢えていた。

 彼女はすぐに質問攻めにされる側になった。

 

「まあ、殺し合った仲ですが」

 カタリナは抑揚のない声でそう呟いた。

 その事実を、三人は重く受け止めなかった。人間同士が殺し合う実感が無かったとも言う。

 

「それより!! ジャンヌダルクを見たことあるって本当ですか!!」

 若干興奮気味に、真冬がそう言った。

 ジャンヌダルクは今時様々な創作で登場する偉人なのだから、それを実際に目にしたと言う人物の話に彼女が興奮しないわけがなかった。

 

「ああ、そのことですか」

「聖女なのか魔女なのか、調査したんでしょう!? 

 実際どんな感じだったんですか!!」

「少なくとも、あなた達と同い年だとは思えませんでしたね」

「ま、そうでしょうね」

 千秋はカタリナの話を聞いて、手持無沙汰にジュースを飲みほしたコップの氷をストローでじゃりじゃりさせながら頷いた。

 

「彼女の最期は、私の記憶にも印象的な出来事として残っています。

 言葉を交わしたことはありませんでしたが、そう、この感情は……」

 カタリナはあの憐れな最期を遂げた少女に複雑な感情を抱いていた。

 それを言語化するには、彼女はまだ人間的に成熟していなかった。

 

「……あなた達は、止めないのですか? 

 私は、彼女に会いに来たんですよ」

 その言葉がカタリナの口から出たのは、この三人にある種の罪悪感を抱いたからなのだろうか。

 もしかしたら、これから彼女たちの知り合いと殺し合うかもしれないという事実に。

 

「え?」

 だが、三人は不思議そうに顔を見合わせた。

 カタリナはなぜ彼女らがそんな表情をするのか、分からなかった。

 そして。

 

 

「でも、それって、前世のことでしょ?」

 夏芽はカタリナが想像もしていない言葉を口にした。

 

 

「は?」

 一瞬彼女は、何を言われたのか分からなかった。

 思わず口を開けてポカンとするほどに。

 

「いやだって、前世で殺し合ったからって、なんで今の時代に殺し合う必要があるのかってことで」

「いやいや、夏芽ちゃん。それを言っちゃダメだよ。

 多分、魔女さんが魔法とか実践してるのとか許せないんだろうし」

「それを言ったら真冬だってそうじゃない。

 動画で見てお守りとか作ってるし」

「それはそうだけど」

 真冬は言いよどんだ。この幼馴染は弁護士の両親から肝心な物を受け継がなかった代わりに、弁が立った。

 悲しいことに、その長所は口喧嘩や言い訳を述べる時にしか発揮されないが。

 

「カタリナさんもさぁ、そりゃあ前世でいろいろしたかもだけどさ、それって今のカタリナさんと関係無くね? 

 前世の因縁を引きずって殺し合うとか、ラノベやマンガの世界じゃん。

 色々なことを抜きにして、悪と戦うのは私は格好いいと思うし。前世の知り合いに会いたいって思うのも普通じゃないの?」

 カタリナは思った。

 こいつ、馬鹿だ、と。両親はどんな教育をしているのか、と。

 

「今の世間もそうだけどさ、親の罪が子供の罪みたいに言われることがあるじゃん? 

 それって野蛮なことだってうちの両親も言ってたし。だから前世の罪も同じことなんじゃないの?」

「それは、そんなことは、神は赦さないはずです」

「じゃあ神様が裁くのを待てばいいじゃん。

 なんでこの世に法律があるか知ってる? 人は人を裁けないから、法律が代わりに裁くんだって。神さまも同じことなんじゃないの?」

 夏芽はバカだった。

 テストは毎回赤点ギリギリの学ばないアホだった。

 それでも、彼女は両親から大事なものは受け継いでいた。

 

「それにほら、ジャンヌダルクも今の時代に転生していたらって考えるとロマンがあるじゃん!!」

「あ、確かに!! その可能性もあるよね!!」

「カタリナさんも、そう思わない? 今度こそあのジャンヌダルクに話せるかもよ!!」

「まあ、当人が今の時代に蘇っても喜ぶとは思えないけど……」

 真冬は二次創作界隈の薄い本等を思い浮かべ、遠い目になった。

 

「カタリナさん?」

 夏芽は、黙り込んでいる彼女を見て再び小首を傾げた。

 

「ああ、いえ、なるほど、少々納得がいったことがありまして」

 カタリナは思考を止め、そう口にした。

 

 魔女や異端を赦せない激情とは別に、彼女は化粧屋に煽られた時の名状しがたい感情の理由が腑に落ちたのだ。

 そう、それは、前世と今生を一緒くたにされるという理不尽に対する怒りと悔しさだったのだ。

 

 今生とは性別も異なる苛烈な人生を生きた前世は、カタリナの人格形成に大きな影響を齎した。

 だが、それでも総長の所業を今生でもやって当然と思われるのは甚だ不愉快だった。

 

 彼女は別に、前世の記憶も、奇跡の知識も、望んで得たわけではないのだから。

 誰だって、生まれで奴隷だと侮蔑されるようなら怒りも湧くだろう。

 

「……今回は、このまま帰ります」

「え、魔女さんに会わないの?」

「今会いに行っても、前世の続きにしかなりませんから」

 不思議そうにしている夏芽たちに、カタリナは立ち上がってそう言った。

 

「彼女に伝えておいてください。いずれ、この時代を生きるカタリナとして会いに行くと。

 そしてその時、私が邪悪を目にしたら今度こそ処断する、と」

「うーん、わかった」

 夏芽は少し痛いセリフだな、と思いながらも触れないことにして頷くことにした。

 

「やっぱり、前世の記憶とかあると、患っちゃうのかなぁ」

「夏芽、あなた色々と台無しよ」

 何にもわかってなさそうな夏芽に、千秋は少し苦笑してから、溶けた氷をずぞぞとストローで吸い出し始めた。

 

「千秋ちゃん、お行儀が悪いよ」

 真冬は幼馴染の意地汚さを指摘しおえると、カタリナの後姿を目で追った。

 

「あ……」

 彼女は駅の方に向かうカタリナのずっと背後の方に、見慣れた黒いケープの魔女が踵を返して離れるのを見つけたのだった。

 

 

 

 




ランキング効果しゅごいのぉ(錯乱
お気に入りが一気に倍以上になって、作者困惑の極みです!!
ハーメルンでこんな趣味全開のオリジナル小説が多少なりとも評価されるとは思わず、びっくりしました。数日前まで伸び悩んでて、十日前には感想全然なくて心折れそうになってたのに。

それもこれも、拙作をご愛読してくださる読者の皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!!
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