転生魔女さんの日常   作:やーなん

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おもてなしについて

 その日、いつもの四人は学校には居なかった。

 なぜなら謎のガス漏れ事件でその日は休校状態になっていたのである。

 今頃ガス会社の皆さんが涙目で点検している頃だろう。

 

「それにしても、びっくりしたよねー」

「うんうん、学校中の皆が三十分ぐらい眠ってたんだって」

「あの日も安全の為にすぐに下校になっちゃうしさ。やっぱり魔女さんが何かしたのかな?」

「春美ちゃんも言葉を濁してたし、何かあったのかもね」

 まさかその原因が自分達だとは思っても居ない幼馴染三人組はいつも通り駄弁っていた。

 

 大抵彼女らはファーストフード店にたむろしているのだが、女子高生のお小遣いも無限ではない。

 節約の為に彼女らは夏芽の家の彼女の部屋でごろごろしていた。

 

 予期せぬ休日を得た彼女たちは、予定があるわけでもなく思い思いに過ごしている。

 夏芽の家は両親がいつも忙しい為、大人の顔を見なくて済むという理由でこの三人はよくここに集まっていた。

 

 

 夏芽

『春美~、今みんなで私ん家に集まってだらだらしてるー。

 春美もこっち来る~? 何なら泊まってって明日うちから学校行ってもいいぜー?』

 

 春美

『ごめん、師匠に修業を言いつけられてる。

 師匠は用事があるからいないけど、手は抜けないから』

 

 

「春美は来れないって」

 夏芽はグループチャットを終えて、自分の部屋でごろごろしている二人に言った。

 

「わざわざここに来るのに電車使うのもねぇ」

「春美ちゃんは通学にだいたい一時間かかるって言ってたし」

 ぐでーっとだらけている千秋と、自宅からノートパソコンを持ち込んでいる真冬がそんなことを口にした。

 

「まあ、しょうがないか」

 流石に夏芽もわざわざ用も無いのに電車で来てほしい、と言えるほど無遠慮ではなかった。

 

「ねぇ、千秋ママ~。お昼なんか作ってー」

「はあ~? まあ親にはこっちで食べるって言ってきたからいいけど」

 そして夏芽にとって二人はそんな遠慮とは無縁の幼馴染たちだった。

 面倒そうに間延びした声音でそう言った千秋も、そうなるだろうと思ってあらかじめ親に言っておいたようだった。

 

「じゃあ、二人とも何食べたい?」

「千秋シェフのおススメコースで」

「私は千秋ちゃんの得意料理がいいな」

「要するに何でもいいってことでしょ」

 千秋は二人の物言いにため息を吐いて立ち上がる。

 

 彼女は部屋を出て勝手知ったる台所の食材を確認し始めた。

 それなりに保存がきく食材が冷蔵庫に入っていたので、彼女は夏芽が夕食にも食べられるようにカレーでも作ることにした。

 

 そうして鍋に水を入れお湯を沸かし、食材の下ごしらえを終え中に投入する。

 後は煮えるのを待って市販のカレー粉を入れるだけだったその時である。

 

 ぴんぽーん、とインターホンが鳴った。

 

「夏芽ー!! 誰か来てるよ!!」

 千秋は訪問者の来訪を夏芽が気付いていない可能性を含めて、彼女の部屋の前でそう言った。

 

「はーい、今出まーす」

 心底面倒そうな夏芽が部屋から出て、玄関に向かった。

 

「はいはい、どちらさ……ま……」

 夏芽はドアスコープで来客が誰か確認することをせずに鍵を外しドアを開け、その予想外過ぎる来訪者に己の目を疑った。

 

「こんにちわ」

 黒いケープを羽織った、私服の魔女が彼女の家を尋ねてきたのである。

 

 

「……あ、えっと、何のご用でしょう」

 夏芽は我に返ると、かしこまって彼女に用件を尋ねた。

 

「あら、あなたのご両親から聞いていない? 

 魔術被害の原因かもしれない物品の判別をしてほしいと言われているのよ。

 事務所は東京にあるからこちらに持ってくるからって」

「あーうん、初耳。ちょっと待ってて」

「ええ」

 夏芽は一旦ドアを閉め、自室に戻ってスマホで両親の事務所に電話を掛け、戻ってきた。

 

「あー、すみません。

 今こちらに向かってるらしいんですけど、高速道路が事故かなんかで渋滞してて遅れてるみたいで」

「ああそう、そう言うことなら出直すわ」

「いや!! そんなわざわざ、悪いですよ。

 何も無いところですけど、上がって待ちます?」

「そう言うことなら」

 そんな経緯で、夏芽は思わず彼女を家に上げてしまったのである。

 

「二人ともー、ご飯出来たよー」

「はーい」

 家の奥から千秋と、部屋の中から真冬の声が聞こえた。

 気が付けば香しいカレーの匂いが家中に漂っていた。

 

「あ、カレー食べます?」

「じゃあご相伴に与るわ」

 そう言うことになってしまったのである。

 

 

 

 §§§

 

 

 かちゃかちゃ、とスプーンが皿に当たる音だけが夏芽の家の台所にあるテーブルに響いていた。

 

「……」

 え、何この状況、と千秋が夏芽に視線だけで問う。

 

「……」

 私に聞くなよ、と夏芽は不満げに無言で睨み返した。

 

「……」

 真冬は予想外の人物が食事を同席していることに理解が及ばず機械のようにカレーを口に運んでいた。

 

「ねぇ」

「あ、はい、何ですか?」

 不意に魔女に話しかけられ、夏芽が応対した。

 

「不躾で悪いのだけれど、福神漬けはある?」

「あ、そうですよね、今出します」

 何なんだろうこの状況は、と夏芽は考えざるを得なかった。

 そりゃあカレーには福神漬けは必要だよな、と彼女は現実逃避気味に納得することにした。

 

「あの、らっきょうでも良いですか?」

 しかし残酷にも偶然この家には福神漬けが無かった。

 冷蔵庫を開けて中身を確認した夏芽が振り返って尋ねた。

 

「いえ、無いならいいのよ。らっきょうは触感が気に入らないからいらないわ」

「あ、私は食べるから持ってきて」

「うん……」

 何だろうこの状況は、と夏芽は千秋にらっきょう漬けを渡しながらもう一度そう思った。

 四人はもくもくとカレーを食べ続ける。

 言葉にすればそれだけなのに、何だかシュールな状態だった。

 

 

「ごちそうさまです」

「あ、おかわりします?」

「もう十分よ」

 食事を終えた魔女は微笑んでそう言ったが、夏芽は気になってしょうがなかった。

 彼女の代名詞とも言える黒いケープの隅っこに、カレーが一滴跳ねていた。しかも当人は気付いていなかった。

 

 え、どうしてそこに跳ねてるの? 一人だけカレーうどんでも食べてたの? 夏芽は言おうとしたが物凄く言い辛かった。

 

「あ、あの、今さらですけど、上着は脱いでもいいんじゃ」

「ああ、これ? 私冷え症なの」

 ああだからいつもそれ着てるんだ、と夏芽は常々思っていた疑問が氷解したが、自分の親切が不発に終わったことを悟った。

 彼女のケープを預かって汚れをふき取っておこう作戦は失敗したのだった。

 

「あッ、そこにカレー跳ねてますよ」

「あらホントだわ」

 夏芽の苦悩をよそに、真冬が空気を読まずそれを指摘してしまった。

 黒い生地で目立たないのに良く気付いたものである。

 

 魔女はケープについた汚れを指先で拭った。

 夏芽はなんだか気を使い過ぎて疲れる気がした。

 

 

「ほら、真冬。ノーパソどかして」

「う、うん!!」

「私はお茶入れてくる」

「お構いなく」

 夏芽はリビングに一人待たせるわけにもいかないので、結局自室に彼女を招いた。

 室内で唯一のテーブルを陣取っていた真冬のノートパソコンをどかさせようとしたり、千秋はお茶とお菓子を自主的に持ってこようとしていた。

 

「ねぇ」

「は、はい、何でしょう!!」

「そこまで気を遣わなくていいのよ、客とはいえ同級生なんだから」

 黒衣の魔女の言葉に、夏芽とノートパソコンの置き場に困っていた真冬が顔を見合わせる。

 この二人、或いは千秋を含めて三人は彼女が同い年の人間だという意識が根底から存在していなかったのである。

 

「え、でも、魔女さんって転生者なんですよね?」

「そうね」

「前世と今生を足したら幾つになるかはわかりませんけど、普通はその分を加算して考えるべきなのでは?」

 真冬は某小説投稿サイトで腐るほど転生物の小説を読んでいた。

 大抵の場合、流行の小説の主人公たる転生者は前世の年齢を今生と加算して考えていたりするものである。

 尤も、それが精神的に大人であることに必ずしも結びついているとは限らないが。

 とにかく、真冬はそのような見識を彼女に披露したのだが。

 

「気持ちはわかるけど、それって傲慢じゃないかしら」

 そしてこの黒い魔女はそのように意見を述べた。

 

「前世の知識があるから、そうでない他者より優れているのかしら? 

 他人と違うから、成功や名誉が約束されているとでも? 

 だから敬われて当然だとでも? もしそう思う者がいるのなら、私はそれ以上憐れな人間を知らないわ」

「私は物凄く羨ましいですけど……」

「私はむしろヘカテー様を敬い過ぎてハデス様に嫌われたのだと思っていたのだけれど。

 神々に嫌われることがどんなに恐ろしいことか、今時の人たちにはわからないのでしょうね」

 彼女の物言いなら、この魔女は今現在恐ろしい目に遭っているということになるが、当人の表情は涼しいものだった。

 

「やっぱり、あなたでも昨今の転生者の人たちが現れた原因はわからないんですね」

「私に言わせれば、今の人たちは理由を求めすぎているわ。

 断言しても良いけど。その理由が解明されることはないでしょうね」

 真冬は今の社会構造が面倒だと言われているようで言い返せなかった。

 

「未知に憧れる者は私も昔から数多く見てきたけど、それを特別視したり神秘性を見出すのは仕方がないことだとは言え不毛よ。

 私はあなた達と変わるところなど、少しも無いのだから」

「じゃ、じゃあ、私も春美みたいに魔法を使えるようになれるんですかね!!」

 真冬はなぜか興奮気味の夏芽を半眼で見た。なぜ今の流れでそのような解釈が出るのだろうか、と。

 

「ふふふッ」

「わ、笑われた……」

「夏芽の成績じゃ無理だってことじゃないの?」

 お茶を運んできた千秋の言葉の棘がグサリと夏芽に刺さり、彼女は部屋の隅でいじけ始めた。

 

「いえ、ごめんなさい。程度の差はあれ、魔力の素質を持たない人間は今のところ見たことは無いわね。

 でも私はその素質を目覚めさせて幸せになった人間なんて見たことがないわ」

「それは、春美ちゃんもそうだってことですか?」

 魔女が座るテーブルの前にお茶を置いて、千秋が尋ねた。

 

「言い方を間違えたわ。逆ね、幸せな人間は魔導に手を出すことは無い、と言うことよ。

 あなた達になりふり構わず私に師事したいって気持ちが無いのなら、それは必要なことではないわ」

 その魔女の言葉に、何となく三人は顔を見合わせ理解した。

 魔法には関わりたいしその恩恵を出来れば得たいと思っているが、それに人生を捧げるのは何か違うのだ。

 火遊びは、どこまで行っても遊びでしかないのだから。

 

「……じゃあ」

 夏芽は部屋の隅から戻ってきて、彼女にもう一度尋ねた。

 

「正義や困っている人々の為に、魔法を使うのは間違ってると思いますか? 

 その為に魔法の知識を得たり、それを実践するのは不幸なことなんでしょうか」

「それは幸不幸ではなく、生き方の問題よ。

 そして、あなたの抱く理想や幻想を私に当てはめるのは止めなさい。

 かつての私が何をしたのか、あなたが知れば幻滅するだけでは済まないわ」

 魔女の言葉はやんわりと拒絶するようで、だがある種の優しさに満ちていた。

 夏芽の心の奥底に根付いている憧れは、この魔女やその同業者たちとはあまりにもかけ離れたものなのだから。

 

「でも、あなたを見ているとかつての知り合いや青かった頃の私を思い出すわ。

 なぜ他人とは違うことができるのに、それを役立てようとしないのかと、私も師に言ったことがあるのよ」

「えーと、それ、なんて言われたんです?」

 夏芽が幼馴染の二人から見てもなかなか見ないレベルで落ち込んでいるのを見て、千秋が尋ねた。

 

「掻い摘んで言うと、個人のできることに限りがあるし頼られるのは肝心な時だけにしておけ、安売りをすると軽んじられるしお互いの為にならないってことね」

「思いのほか普通っていうか、俗っぽいっていうか。

 何と言うか、神秘の秘匿の為とか、魔法の秘密を知った者は生かしておけないとかそんな理由だと思ったのに」

「真冬、それはあんたがアニメの見すぎよ」

 今度は真冬が割と落胆していた。

 そんな幼馴染二人を見て、呆れる千秋だった。

 

「ところで前々から不思議に思ってたのだけど、この時代でもないのに当時の私たちが使う共通認識的な専門用語が存在したり、それらを当然のように誰もが知っているっておかしくないかしら?」

「え? どういうことですか?」

 真冬はそれが深淵に踏み込むことだと分かっていながらも、尋ねずにはいられなかった。

 

「ほら、念話とか、結界とか、そういうものよ。そんな便利な物が出てくるのはこの時代の人間らしい発想と言うか」

「え、無いんですか、念話とか、結界とか」

「あるにはあるけど、他者との交信は物凄く面倒なのよ。

 結界の概念はあったけど、もっと漠然としたものだったわ。

 言っておくけど、昔の私たちは同業者同士でそこまで横繋がりがあったわけではないし、組織的でもなかったわ。

 ましてや、専門の教育機関があったわけでも無かったわよ。そう言うのってもっと後の時代の発想でしょう?」

「ぎゃーーー!! ラノベやアニメの設定を全否定するの止めて―!!」

 魔女の素朴な疑問とマジレスが憐れなオタク予備軍に致命傷を与えてしまった。

 

「共通認識を利用した術もあるし、今ならそう言う物も作れるかもだけど、スマホがある時点で無用の長物ね」

「あの、もう聞こえてないみたいですよ」

 夏芽は落ち込んでるし、真冬は聞こえなかったふりをしている。

 とりあえず千秋はほっといても大丈夫そうな真冬より、夏芽の気分を変えてあげようと千秋は思った。

 

「そう言えば、この辺りに昔夏芽が使ってた魔法使いの衣装とか呪文書とか設定集とかが入ってたような」

「ちょ、千秋、マジで止めて!!」

「いいじゃない、この際だから本物の魔法使いに見てもらうよ」

「止めて──!!」

 その反応に千秋の笑い声が響く頃には、夏芽はすっかりいつもの調子を取り戻していた。

 

「やっぱり、あなた達に私と同じ道は不要ね」

 この三人を見て、少しだけ微笑んで黒衣の魔女はそう結論付けた。

 

 

 

 

 




これが今年最後の投稿になります。
ってか、日刊ランキングに居続けているおかげか、お気に入りの増加速度が私史上類を見ないレベルになってるんですが……。
これ、息抜きで書き始めた奴ですよ? 趣味全開ですよ? 正直、今までニッチな作品しか書いて来なかったので戦慄してます……。

作者はラノベ全盛期に青春を生きてたのでこの小説の作風に近いので言えば、禁書目録とかレンタルマギカ辺りが好きでしたね。
当然フェイトとかも青春の一部でした。現代社会に神秘の力が密かに息づいている感じの作品が好きだったわけですね。
この小説をお気に入りしてくれた方々は分かってくれると思うのですが。

せっかく読者の方々が増えたので、もう一度以前のアンケートを実施します、ご協力くださると幸いです。
アンケートの結果は今後の話の展開の参考にさせてもらいますので、ぜひともご協力ください。
それでは、また!! 皆さま、良いお年を!!

第二回、今後の登場に期待しているキャラ等は?

  • 春夏秋冬の四人+α
  • 死霊術師『化粧屋』
  • 人気配信者『魔術師』さん
  • 修道女のカタリナ
  • 刑事さん、学校の先生、神父さん等
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