転生魔女さんの日常   作:やーなん

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伊藤刑事は警察庁の人間だという設定ですが、いろいろ調べたら警察庁に刑事はいないやん!!
ってなりましたので、彼は警視庁の人間になりました。ご了承ください。

ちなみに、魔術師さんの仮面は、ゼル伝時のオカリナのこわそうなお面を想像してくればよろしいです。


アートについて

 東京都千代田区霞が関に存在する警視庁の一角に、異能係は存在する。

 警察は既存の捜査方法では異能事件の解決は困難とし、それらの捜査や取締りを行う比較的最近に新設された部署だ。

 

 昨今増え続けている異能事件に対し、公安警察は日本国内の異能者の把握や彼らの起こす混乱の収束を急務としているが、異能係はそこから事件解決を業務としている。

 つまり公安的な側面を持つ部署だった。

 係長の伊藤も元は公安畑の人間である為、その性質は明確と言えた。

 

 だがその異能係のある一室はまるで隔離されるように庁内の片隅に置かれていた。

 これは彼らが疎まれているわけではなく、単純に魔術的な押収物の管理も彼らが行っているためである。

 その中には周囲に影響を及ぼす危険な物も存在するので、物理的に周囲と距離があるのだった。

 

 そんな日本の対異能犯罪の最前線とも言えるその場所は、その需要に対して十分に機能しているとは言い難かった。

 在籍している職員は常に十人未満。

 この係に異動して半年持つ人間が三割以下という、某人材の墓場な刑事ドラマに登場する部署並みである。

 

 

「おや、今日は伊藤ちゃんじゃないのか?」

 そこに当たり前のように出入りする人物がいた。

 化粧屋である。

 

「あなたが化粧屋ですか? 

 一応、伊藤さんには聞いていますよ」

 彼女を出迎えたのは、若い警察官だった。

 年頃は二十歳ぐらいで、制服を着ていてもその若々しさが残っていた。

 

「ほう、あんた、こっち側か。

 だが同業者には見えないな」

 化粧屋はそのまだ少年とも言える若手の警察官が異能者だと悟った。

 彼の身体に内在する魔力が、一般人のそれとは違い活性化していると感じ取ったのだ。

 

「……ええ、超能力の方です」

「へぇ、日本には百人以上はいるって伊藤ちゃんが言ってたけど、こうして会うのは初めてだなぁ」

 化粧屋が物珍しそうに彼を見やると、彼は陰のある笑みを浮かべた。

 

「潜在的にはその十倍以上いるって想定されているらしいですね。

 誰だって、珍獣扱いは嫌ですから。親が黙っているパターンも多いらしくて、役所に異能者だって届出が出たパターンはその百人の半分も居ないとか」

「届け出ないことに罰則も、届け出た後の優遇も無いんじゃ当然だろ」

「一応、無料で定期検診は受けられますよ? 

 医療費もタダ同然だし、俺は花粉症の薬代とかが浮いてラッキーですし」

 逆を言えばその程度でしかない、と彼はニヒルに微笑んでいた。

 

「まあ、自分は新人類だって触れ回っているアホが外国にはいるみたいだが、実際はそうじゃないんだろう?」

「当然でしょう。アメコミのスーパーヒーローみたいな超能力者なんて確認されている時点では日本には居ない。

 俺の異能だって大したこと無いですから」

「ちなみに、おたくの超能力ってどんなの?」

 化粧屋は無遠慮に尋ねた。

 その表情は面白がっているようだった。

 

「何か小物有ります? どこかで買ったとかそう言うの」

「んじゃあ、このスカーフとかどうだ?」

 化粧屋は自分のスカーフを外して、彼に手渡した。

 

 彼は目を閉じて神経を集中させると、こう言った。

 

「へぇ、これ銀座の有名店のブランドものなんですね。メーカー名も言いますか?」

「ほー、すごいな。こういうの、なんて言うんだっけ?」

「サイコメトリーですよ。

 触れた物の過去の持ち主とか、以前はどこに有ったとか、バラバラの破片の元の形とか、そう言うのが分かるんですよ」

 それを聞いて、なるほど、と化粧屋は頷いた。

 

「たしかに警官には引く手数多の能力だな。

 せっかく他人とは違う能力を得たのに、警察なんてやってるからどうしたもんかと思ったら」

「別に俺も、この力を人々の役に立てたいから、なんて思ってませんよ」

 彼は規則で室内では装着しないことになっている制帽を目深に被ってそう言った。

 

「わかるよ、見え過ぎると辛いもんな」

「…………」

「今まで伊藤ちゃんの周りであんたを見なかったのも、それが理由か?」

「まあ、今日が現場復帰初日ですね」

 化粧屋はそれ以上何も聞かなかった。

 表情は笑ったままだったが、サングラスの奥の両目は少しも笑っていなかった。

 

 

「化粧屋、あなたも来ていたのですか」

 そこに、仮面を付けた魔術師が現れた。

 

「え、あなた誰ですか? それに、その肩に乗ってるのって」

 見た目は化粧屋以上にその場にそぐわない魔術師を認めて、化粧屋と雑談していた彼は驚いた。

 

「おや、この子が見えるのですか?」

 魔術師の肩には、物珍しそうに周りを見ている妖精レプがちょこんと座っていた。

 

「って、ことは、あなた魔術師さんですか!? 

 うわー、ファンなんです!! まさか直接お会いできるとは」

「ええ、そうですね。魔術師と名乗っています。

 伊藤刑事はいらっしゃいませんか?」

「すみません、伊藤さんは席を外していて」

 若者らしく有名人に会えた彼は影のある表情に満面の笑みを浮かべて応対した。

 魔術師の来訪に、数少ない他の彼の同僚も色めきだってお茶の用意をし始めた。

 

「私と対応が全然別じゃねぇか」

「そりゃあ、あなたは犯罪者予備軍ですから」

「けッ」

 対応の差にふて腐れる化粧屋。

 

「ねえあなた、私のことが見えるってことは、声も聞こえるんでしょう? 

 私ってばすごく暇なの!! ここのこと、案内してくれない!!」

 すると、魔術師の肩に乗る珍生物がそんなことを言った。

 

「え……」

「見えない振りをし、聞こえない振りをしなさい。

 彼女の関心を買ってはいけない。素っ気なく対応しなさい」

 妖精に話しかけられた若者は、その見た目だけは可愛らしい仕草に硬直するが、すぐに魔術師にそのように助言された。

 

「ぶーぶー!! マスターのバカ!! せっかくおちょくろうと思ったのに」

「なんでお前、妖精なんて連れてきてるんだ?」

 魔術師の肩の上で文句を言い始めるレプを見て、化粧屋も変な物を見る目で彼を見やる。

 

「都会の空気なんて合わないだろうとは言ったんですけどね。

 イタズラをしないのなら、これからも一緒に外出しても良いと契約したので」

「だからってお前、妖精だぞ?」

「実体の維持は抑えているので、それで大丈夫でしょう」

「んなわけあるかよ」

 化粧屋はその返答に呆れたように返した。

 そして彼女の懸念はすぐに現実となった。

 

「はーい、みんなー、レプでーす。

 私は今、マスターと一緒にけいしちょー? ってところのいのーがかり? ってとこに来てまーす!!」

 なんとレプは、魔術師のポケットからスマホをすり取って実況放送を始めたのである。

 

「レプ、イタズラはするなと言ったぞ」

「これはイタズラじゃないですよー、マスター!! 

 弟子たちはマスターが何をしてるのか興味深々だしー? マスターの活動を広める一環って言うかー? そんなかんじ!!」

 と、この妖精はそんな屁理屈をこね始めた。

 ちなみに、“弟子たち”と言うのは魔術師の放送での視聴者の呼び名だった。レプが勝手に視聴者と決めた。

 

「ちょっと、機密とかたくさんあるんですから勝手に撮影しないでください!!」

 それに、異能係の職員たちは大慌てだった。

 異能者である彼以外、スマホが空中に浮かんで機械音声で喋っているようにしか見えないのだからそれも拍車を掛けた。

 

「レプ、私の言うことが聞けないのか? 

 それとも、その実体を維持している魔力を絞ろうか?」

「……むー、私はマスターの為に行動しただけなのになー」

 と、心にもないことを嘯きながら、レプは視聴者たちに手を振って放送を打ち切った。

 なお、レプのモラルもクソも無い放送の最後は彼女に対する罵声のコメントで終わった。

 

「困りますよ、魔術師さん」

「だから言ったろ」

 焦る警官たちに、言わんこっちゃないという態度の化粧屋。

 

「レプ、次に勝手なことをしたら鉄の箱の中だ。わかったな?」

「は、はーい」

 仮面の合間から覗く視線に慄いたレプは、彼の肩に戻るとしゅんとなった。

 

「あ、ところでさ」

 が、すぐにそれを忘れたかのように彼女は顔を上げた。

 

「あんたって、有名人なの? 

 コメントに、あの警官ってメドリじゃね? って何個かあったけど」

「ッ!?」

 無垢な妖精の問いに、異能者警官は顔を引きつらせた。

 そのまま彼は顔だけでなく、後ろを向いて俯いてしまった。

 

 

 

 §§§

 

 

「超能力高校生?」

「ああ、何年か前に騒がれてたの、覚えてないか?」

「うーん、あー、思い出した!! あれか!!」

 伊藤刑事の言葉に、化粧屋も思い当ったように手を叩いた。

 

 彼ら二人と魔術師は、異能係の押収物保管庫に来ていた。

 そこは警察の保管庫だと言うのに、そこらじゅうにお札や魔法陣が描かれており、窓も存在していなかった。

 

「あいつな、それで酷い目にあったわけよ。

 まあ、半分くらいは調子に乗ったあいつの自業自得とも言えるが」

「ブームってのは残酷だよな」

「そうだな、あいつはプライベートをしゃぶりつくされ、高校卒業後は逃げるように警察に入った。

 警察の制服を着てれば、その他大勢に紛れるとでも思ったのかもな。

 だがその異能を買われてこんなところで働いている。休職も前回で二度目だ」

 伊藤刑事の言葉に、化粧屋もまあそうなるだろうな、と言いたげな表情だった。

 

「世間が異能者を認知したのは約十年前だが、日本じゃあいつがメディアに現れるまでそれがどんな連中かはまったく分からなかった。

 誰もが、興味深々だった。

 だから両親の職場や友人関係、学校の成績までつまびらかにされてトラウマになってんだよ。

 挙句、捻くれた連中からはテレビだからヤラセやイカサマ呼ばわりされたり、散々だったらしい」

「ヤラセ、ヤラセかぁ、あれ酷いもんな。

 この間、それで好きな番組が終わったし」

 やや的外れなことを言う化粧屋の横で、魔術師は真面目に作業をしていた。

 

「伊藤刑事、これはホンモノですね」

「ああ、やっぱりか」

 魔術師が示した物品を見て、伊藤刑事も唸った。

 

「おい化粧屋、これお前の専門だろう」

「どれどれ。ああ、これはハンズオブグローリーか」

 化粧屋は目の前に置かれた物品は──切断された手だった。

 それは人の肌とは思えないほど変色しており、指先はろうそくの先端のように加工されていた。非常に悪趣味な物体だった。

 

「昔、そんな技を使うマンガの主人公が居たな」

「マジかよ、そいつヤバイな。自分の体を死蝋にでもしてたのか? 

 私やほかのネクロマンサーでもしないぞ、そんなこと」

「これは二年前、ある窃盗団が所持していた代物だ。

 そいつらはこれを利用して窃盗を繰り返していたそうだ」

「まあ、そう言う使い方が好まれたらしいな」

 化粧屋はそれを他の魔術品の置かれているテーブルに置いた。

 

 彼らは魔術品とそうでないモノの仕分けをしていた。

 普通の押収物は普通の保管庫に移動させるためである。

 そして本物の魔術品は使用できないように封印するのだ。

 

「私たち以外にも同業者の協力者はいるんだろ? 

 そいつらに頼んで仕分けぐらい手伝わせたらどうだ?」

「分かり切ったことを言わせるな。

 世俗に興味がある魔法使いなんて稀なんだ。電話でアドバイスをくれるのが精々で、魔術師殿みたいに出向いてくれるなんてまず無い」

 そう言う意味では、伊藤刑事は化粧屋に感謝していた。

 この仮面の魔術師は、まともだった。本当にまともな常識人だった。

 まともな受け答えをしてくれるだけ貴重な人材だった。その上、化粧屋が認めるほどの凄腕ときた。

 こうして彼を便利に扱っていることを申し訳ないと思うくらいだった。

 

 そしてこの化粧屋もまともだったらなぁ、と伊藤刑事がもう一度思わざるをえない場面がこの後訪れる。

 

 

「ま、気にすんなって。私も住んでた森を焼かれたり、勝手に開発しようとした人間を土砂崩れで追い払ったりしたしさ。

 私みたいに何百年も生きてたらいろいろあるって」

 メドリ──妻鳥は応接室でレプに慰められていた。

 このクソ妖精は保管庫に入れてもらえなかったのである。

 

「俺だって、最初は何も考えずに取材を受けたわけじゃないさ。

 でも取材に来る記者はどんどん増えて行って。最初に約束した俺以外に取材しないって約束は忘れられて……」

「そうなの? じゃあどうして」

 レプは妻鳥の耳元で、囁くように言う。

 

 

「──そいつらに、仕返ししなかったの?」

 

 

 ギョッとして、彼は顔を上げた。

 顔を横に向けて、視線を肩の上の妖精に向ければ彼女は無垢で、残虐で、楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

「嘘つきは手足をもいで、口の中に石を詰めましょう。

 目玉を潰して、耳を削いで、鼻を潰さないと♪」

 くすくす、と儚く目麗しい小さな少女からとは思えない、残酷な言葉が並べられる。

 

 彼はようやく、魔術師の忠告の意味を理解した。

 この妖精は、人間と全く異なる価値観を持っていることを。

 そして彼女らの禁忌に触れれば、惨憺たる有様を晒すことになるのだと。

 

「止めてくれ、俺は君たち妖精とは違うんだ」

 妻鳥は茶菓子のクッキーの袋を開けて、中身を砕いてその破片を肩の上の少女に与えた。

 はむはむ、と可愛らしくクッキーの破片を食べるこの妖精は、決して油断ならない相手なのだと思い知った。

 

「私も、多少は意趣返しぐらいしてやっても良かったと思うがな」

 選別作業を終えて戻ってきた化粧屋が、妖精の面倒を見ていた妻鳥の対面のソファーに座った。

 

「化粧屋さん、あなたはどうして警察に協力を? 

 あなたのような人が、どうして?」

 早くも妖精の相手に疲れ始めた彼は、化粧屋にそんなことを問うた。

 

「なんで、そんなこと聞くんだ?」

「だって、あなたって他の魔法使いみたいに警察に協力する理由なんてないでしょう? 

 かといって正義や義侠からという訳でもない」

 違いますか、と彼は視線で彼女に問う。

 

「いやまあ、警察に協力することでメリットはあるっちゃあるんだが、それは些細なことだな。

 どうして私があんたらに協力するか、だったか?」

 化粧屋はお茶請けのクッキーをかじりながら言った。

 

「一言で言えば、冒涜だからだ」

「は?」

 妻鳥は化粧屋が口にした言葉が自分の理解からかけ離れた単語だったことに、思わず変な声を漏らした。

 

「私は昔から、気になっていたんだ。

 人は死んだらどうなるって、な。だから数えきれないほどの死体を弄って、死の先を垣間見ようとした」

 それは普段の化粧屋の軽薄な雰囲気にそぐわない、求道者のような真剣な表情だった。

 

「数だけ多い馬鹿どもは言う。神を信じれば天国に行けると。

 私はどうにも、連中が鼻に付いたんだ。だからそれを否定してみたくて、色々なことをして回った。

 そして今生だ。俺はどこに居る? エデンか? コキュートスか? 涅槃か? エリュシオンか? アアルか? ドゥアトか? 根の国か? 黄泉の国か? ヴァルハラか? ヘルヘイムか? 影の国か? ゲヘナか? 

 この俺がだぞ、前世であらゆる冒涜を行った俺を神は罰さず、今生ではただの小娘だ」

 化粧屋は、笑っていた。

 誰もが恐れる死の果てを実際に経験したこの女は、嘲笑っていた。

 過去善良に生きていたつもりになっていた人々の全てを。

 

 

「──故に私は、生きた冒涜(アート)なのだ」

 

 ただ普通に生きる。

 たったそれだけがこれ以上ない皮肉なのだと、このおぞましい女は言う。

 

「その私が、秩序を維持する警察組織に手を貸すわけだ!! 

 前世は生きることなんて面白いと思ったことはなかったが、私な今生をこの上なく謳歌している!! 

 死の先に繋がった死体こそが真理へ続く芸術だと思っていた。だが!! 今は私の人生こそがアートなのだ!!」

 理解できなかった。この楽しそうにしている女の全てを、脳が理解を拒んでいた。

 妻鳥は助けを求める様に、同僚たちに視線を向けたが顔を逸らされた。

 

「単に性根が腐りきっているんですよ」

 そして魔術師が仮面を手で抑えて、ため息と共にそんな身も蓋も無いことを言うのだった。

 

 そんな感じで、その日の作業を終えた協力者二人は精神的に疲れた警察官たちを残して警視庁から帰っていくのだった。

 

 

 

 




警察組の二人目の人物登場です。
前からちょくちょく話題に出ていた、元超能力高校生の今の姿ですね。
警察って高卒なら18歳からもなれるんですねー。作者は学校の先生と同じくらいになって初めで現場に出れる者だと思ってました。

クソ妖精レプはこんな感じでこれから魔術師さんの付属品として付いて行き、好き勝手します。
化粧屋は常時平常運転です。警察組の苦労が目に浮かびます。

それでは、また次回!!
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