転生魔女さんの日常   作:やーなん

43 / 74
先週気分が乗らずに更新できませんでした。
だからお気に入り1000件超えたことに言及できませんでした。
正直実感が湧きませんが、これもすべて皆様のご愛読の結果であります。
これからも、拙作をどうかよろしくお願いします。


籠絡について

「なあ、小池。お前、例のあの人と付き合ってるってマジか?」

 発端はその言葉だった。

 

 夏休み、時間を持て余した高校生男子というのは大抵の場合やることが限られる。

 小池少年と彼がつるんでいる男友達は、彼の家でゲーム機で遊ぶというポピュラーな選択をしていた。

 当然、宿題などそっちのけである。

 

「……えー、うん、まあ、そうなる、のかな?」

「なんだよ、歯切れが悪いな」

「いやだって、付き合ってるって実感が無いんだよ」

 と、小池は友人に己の本心を吐露した。

 

「いや、そんなもんじゃねぇの? 

 俺も中学の頃、試しに女子と付き合ってみたし。

 そん時は舞い上がってたけど、恋愛関係とはちょっと違かったし」

「そっちはさ、中学の頃の友達って今も遊んでる?」

「いいや、月に一度メールするぐらいか?」

「僕は連絡先も消したよ。所詮その程度の関係だったんだ。

 友人関係なんて、学校と言う孤立した社会で周囲に同調する迷彩服に過ぎないんだ」

「それは流石にひねた意見じゃないか?」

 そのように述べる小池に、彼の友人は心配そうに彼を見る。

 その言い分が正しければこの二人の友人関係も迷彩となる。

 少なくとも自分はそんなに薄情ではない、と思っていた。

 

「でも小学生よりも、大学で知り合った友人の方が付き合いが長くなるってどこかで聞いたことあるよ。

 全員がそうとは言わないけれど」

 小池は、夏休みまで遭遇率が高かった女子集団を思い出す。

 あの仲良し軍団の内数名は、幼少からの付き合いだと言う。

 

「あの子も、多分そんな感じだよ。

 君が今言った中学の頃のように、ファッションで付き合っているだけだって」

「例のあの人が、そう言ったのか?」

「……例のあの人って、どこぞの闇の皇帝じゃないんだから」

「いやぁ、似たようなもんじゃん」

 コントローラーを操作しながら友人を見向きもせずテレビ画面を見つめている小池に、彼もため息を吐いた。

 テレビ画面はゲームキャラが目まぐるしく敵と戦闘を繰り広げている。

 

「向こうがそういう感じなら、そっちも好きにすればいいじゃんか」

「そうは言ってもさ……」

「俺だって、初めて彼女が出来た時はもっと舞い上がってたぜ? 

 いやさ、相手が相手だってのはあるけど」

「なら、わかるでしょ」

「おッそうだ。なんなら、試してみればいいじゃん」

「はぁ?」

「試しにさ、今すぐ会いたいってあの人に言ってみろよ」

 友人がそう面白半分にそう提案した瞬間、小池少年は露骨に嫌そうな表情になった。

 こいつ、好き勝手言いやがって、とでも言いたげだった。

 

「お前さぁ、他人事だからって」

「これぐらいの無茶振り、普通だろ? 

 その反応を見て、相手の本気度を確かめてみるんだよ」

「……」

 小池が彼の言葉に即座に言い返せなかったのは、彼の胸中に少なからず疑念があったからだ。

 

 彼は名目上、健全な付き合いをしている。

 少なくともお互いにそう認識しているはずだ。

 

 だが、物心ついたときから引っ込み思案で、常に誰かの取り巻きAとして過ごしていた彼にとって、物語の主役に成れそうな濃い人物とある種の密接な関係になるなんて想像もしていないことだった。

 適当な時勢に眉目秀麗のイケメンでも連れて来られて、当て馬として捨てられるのがオチだと思っていた。

 だと言うのに、割と長い間疎遠になっていたのに、彼女の方はまだ付き合いが続いているということになっていたのである。

 

 もう訳がわからないとはこのことだった。

 思春期の男子高校生には、そんな彼女の乙女心や女心なんてものは少しも理解できないことだった。

 

「なあ、やってみろって」

 友人はかつて罰ゲームで彼を告白させた連中みたいに面白がってそんなことを言う。

 

「……一回だけだよ」

 結局、押し切られてしまう自分の主体性の無さに嫌になりながらも、小池はゲームプレイを一旦止めてスマホを手に取った。

 

「えーと、今から会えませんか、と」

「そこはメッセージじゃなくて電話にしとけよ」

 土壇場でヘタレる小池を見て、友人は呆れた。

 小池が何か言い返す前に、ぽろん、とスマホの着信音が鳴った。

 

「あ、もう来た。今どこに居るの? だって。

 今、家に居ますっと」

「おッ、普通に会ってくれそうじゃん」

 こう言う場合、相手が面倒だと感じたら適当な理由で断られると言うことをよく知っている彼の友人はそう言ったのだが。

 

「……今すぐ行くって」

「おおッ、じゃあお邪魔虫は今の内に退散しとこうかな?」

「お前なぁ!!」

 ここまで来て丸投げという姿勢に、小池は批難の視線を友人に向けようととして固まった。

 

「なあ、なんか変な臭いしないか? 

 なんだか草を煮詰めて発酵させたみたいな。

 ん? 小池、どうした……ッ!?」

 小池の友人は、彼が固まっているのに気付いてその視線を追うと、絶句することとなった。

 

「くすくす、酷いじゃない。

 あなた以外に人がいるなんて、聞いてないわよ」

 小池のベッドの上に、魔女が座っていたのである。

 彼のいつも使っている毛布を申し訳程度に身に纏っていて、その下は何も身に着けていないと想像するのは容易かった。

 

「ところで、小池君。シャワー貸してくれない?」

 小池は、彼女の要求に錆びたブリキのオモチャのようにゆっくりと頷いた。

 

 

 

 §§§

 

 

 小池の友人は、素っ裸の魔女が浴室に消えた後、逃げるように帰って行った。

 この薄情者め、という内心を押し殺しながら彼を玄関で見送ると、妹の部屋に向かった。

 

「なあ、ちょっといいか?」

「なーに、お兄ちゃん」

 ドア越しに、彼の妹の声が聞こえた。

 

「悪いけど、何も言わずに服を貸してくれない?」

「何言ってるの? 変態なの?」

「違うよ!! えーと、彼女が家に来てるんだ!! 

 途中で転んで水たまりにべちゃってなっちゃったんだって!!」

 咄嗟に妹にそんな言い訳を述べる小池だった。

 流石に素っ裸で現れたなんて、彼には言えなかった。

 

「お兄ちゃんに彼女!? 嘘だぁ……」

「じゃあ風呂場に行ってみろよ!! 

 それで判断すればいいだろ!!」

 少なくとも自分で妹の服を持っていくよりはいい案に思えた。

 ちなみに彼の母親の服はサイズが合わないと判断したのである。

 彼らの母親はそこそこ恰幅が良いのであった。

 

「えー、面倒だなぁ」

 と言いつつ、彼の妹は部屋から出て浴室の方へと向かって行った。

 小池少年は今のやり取りだけでドッと疲れた気がしたが。

 

 どたどたどた、と彼の妹がすぐに眼の色を変えて戻ってきた。

 

「お、おお、お兄ちゃん、なにあのキレイな人!!」

「だから彼女だって……一応」

「お、お母さんに知らせなきゃ!!」

「おい、ちゃんと服は持って行ってよ」

「分かってるって!!」

 姦しい妹に頭を悩ませながら、彼は部屋に戻ることにした。

 

 

「可愛らしい妹さんね」

 そしてしばらくして、妹のオシャレ着を身に纏った風呂上りの魔女が彼の部屋に戻ってきた。

 

「待たせちゃってごめんなさい。

 色々な服を持って来られちゃって」

「いえ、大丈夫です……」

 実際は心ここに有らずと言った心境だったが、彼は虚勢を張ってそう言った。

 

「あの、なんで裸だったんです?」

 不躾でデリカシーの無いことだと分かっていても、彼は聞かずには居られなかった。

 

「ふふッ、驚いた?」

 だが、彼女は艶やかに、妖しく微笑んだ。

 身に纏っているのが妹の服だと言うのに、風呂上がりのシャンプーの香りが漂って来て、小池の心をざわつかせる。

 

「こう言う術なの。遠くにすぐ移動できるけど、衣服を含めた所持品は持っていけないのよ。

 昔、この術で定期的にある山で連絡会をしていたら、全員が素っ裸のところを見られちゃってね。

 それがどうこじれたのか、あそこでは魔女が集まって悪魔と儀式をしてるだとか、春を祝う祭りしているだとか言われるようになったことがあってね。

 まあ、驚くのも無理はないわ」

「は、はぁ……」

 実はとんでもないことを聞かされているんじゃ、と思いながらも彼はその想像を頭の隅に追いやった。

 

「ねぇ、どうして急に会いたいなんて言い出したの?」

 そして当然のようにそれを尋ねられ、小池は気まずそうに白状することにした。

 

「ふーん、なるほど。そう言うことね」

 彼女は特に機嫌を損ねたという訳でもなく、申し訳なさそうにしている彼を見やる。

 

「あなたの友達付き合いに口を出すつもりはないけど、

 同調圧力に対して冗談だという空気に持って行って上手くかわすくらいはした方が良いと思うわ」

 耳が痛い言葉だった。

 だが、それが出来れば誰も苦労はしないのである。

 

「僕にはそんなの無理ですよ。分かってるでしょう?」

「なるほどねぇ、あの子とは同族嫌悪なのかもしれないわ」

 自己主張の強い方ではない彼を見て、そんなことを漏らす魔女だった。

 

「あなただって、急に呼び出したりして迷惑だったでしょう?」

「何で?」

「えッ、何で、って」

「私はこれでも少しは期待したのよ。

 あなたの方から私を誘ってくれたのだもの」

 小池は彼女の視線に耐えられず、顔を逸らした。

 

「それは、悪かったと思うけど」

「別にいいわ。私は気が長いもの。春美が一人前になる頃にはあなたにも意気地は身に付くでしょう」

「そ、それまで変わらなかったら……?」

「あら、あの子が一人前になるにはあと十年は掛かるわ。

 ふふふ、今のままであと十年、私と付き合っていられるつもりなのね」

「あッ、いや、それは、その」

 しどろもどろになる小池、それを見て魔女は面白そうに笑う。

 

「あなたがずっとそんな調子なのは、自信が無いからよ。

 ああそうだ、何なら手っ取り早く自信を付けさせてあげましょうか?」

「え? ッ!?」

 その直後だった、小池は自分のベットに突き飛ばされた。

 

「ちょ、なにを!?」

「どんな陰気な男でも、女の体を知り、睦言を囁けば竜にだって挑むものだわ。試してみましょうか?」

「豚は煽てられたって木に登れないよ!?」

「知らない慣用句だわ。でも、自分をブタだって卑下する必要は無いわよ」

 すぐに彼女が覆いかぶさり、小池は押し倒されるような格好になった。

 彼女の髪の毛がベッドに垂れ、その芳香が彼の理性を狂わせようとしていた。

 目の前にはシャワーを浴びて自分の部屋でベッドの上に居る彼女が。状況だけ見れば完全に事前だった。

 

「こ、こういうのは良くないって!? 家には母さんとか妹とか居るし!!」

「あら? いつもみたいに他人に流されないのかしら? 

 なあなあでも、成り行きでも、別にかまわないじゃない。至上の快楽を教えてあげるわよ」

 ああ、と耳元で囁かれる言葉を聞いて小池は思った。

 この人は、本当に、正真正銘の、男を破滅させる魔女なのだと。

 

「二人とも、入るわよー」

 が、寸前で彼の貞操の危機は回避された。

 

「あら? あらあらあら、お邪魔しちゃったかしら。

 それじゃあ、失礼するわねー」

 小池の母親がお盆に飲み物とお菓子を乗せて入って来たのである。

 そして息子のとんでもない状態を見やり、口に手を当ててそそくさと退散していったのだ。

 

「……」

 小池は上に覆いかぶさっている彼女をどかすと、部屋の隅に膝を抱えて沈み込んでしまった。

 

「ぷっくく、あはは、あはははは!!」

 それを見て彼女はベッドの上で笑い転げるのであった。

 

 

 

 §§§

 

 

「ごめんなさい、奥手な男の人って珍しくて。

 これが日本人のサガって奴なのかしら。それとも今時の言い方でいう草食系?」

 口では謝っていても、ちっとも悪びれていない様子の魔女に小池は膝を抱えたまま彼女を見やる。

 

「どうせ僕なんて、別の誰かを見つけるまでのつなぎなんでしょ」

 すっかりネガティブな感情に支配された彼はそんなことをのたまった。

 

「僕みたいな意気地の無い周りに流される人間なんて、あなたに全然釣り合わないし」

「それって、誰かに言われたの? あなたがそう思ってるだけじゃない」

「事実じゃないですか」

 そう言って、小池は膝に顔を埋めた。

 

「私も、ああ前世の話ね? 私の前世もそれはそれは数えきれないほど男性を籠絡したけど、お前があの人と釣り合ってない、なんて数えきれないほど言われたわ。

 どうせあいつは財産目当てだとか、あの下賤な売女だとか、陰口言われたりもね」

 まあ財産目当ては本当だったけれども、と冗談めかして彼女は笑う。

 

「私にとって、男とは貪るモノ。

 私の肌を知った男は誰もが私無しでは生きられなくなり、地位も財産も私に差し出して、最後には捨てられて狂って死んでいった。或いは私に唆されて無謀な戦いに身を投じていったわ。

 だからという訳じゃないけど、そう言うのは前世でお腹いっぱいなのよ。

 顔がイイだとか、家柄が良いとか、すごい財産があるだとか」

 男を惑わし、籠絡し、狂わせる。

 そんなこと彼女にとって赤子の手を捻るのも同然なのだ。

 

「私はあなたの普通っぽいところが気に入っているのよ」

 それは慰めなのだろうか、と小池は思った。

 

「勿論、私に最初に付き合おうと言ってきたから、と言うのもあるけど」

「じゃあ、僕より先に誰かが告白したら付き合ってたんですか?」

「興味本位でそうしたでしょうね。あと、私に貞淑さとか期待しないでね。

 今のところこの身は処女だけど、春美にはもっと指導しないといけないから」

「うぇ!?」

 その生々しい言葉に、小池も思わず変な声で顔を上げた。

 

「じゃあ、春美さんがやたら僕を目の敵にしてるのって……」

「あの年頃じゃよくあることよ。近しい男性が居ないと、憧れの女性に擬似的な恋心を抱いたりするものだわ。

 私も前世で似たようなことが何度もあったし」

 思いもよらない理由が判明したことに、小池は絶句せざるを得なかった。

 ちなみに、春美が望海の弟子入りを酷く嫌がった理由でもあった。

 

「それでなくても、魔術とエロは密接な関係があるわ。

 そんな私が嫌なら、今すぐ縁を切っても構わないけど?」

 それは。

 それは……。

 それは……。

 

 

 それは、酷く不愉快だった。

 

 

「その言い方じゃ、やっぱり僕はついでだってことじゃないですか。

 僕に魅力が無いのは分かってます。でも実際に何かと比べられて、僕の方を切り捨てても仕方がないって思われるのは、とても不愉快です」

 確かに小池は自分に魅力が無いと分かっているし、意気地も無い。

 彼女と付き合っているのは偶然で、彼女が誰でもよかったからだ。

 だが、それでも、そうだとしても、あっさりと捨てられるのであれば男として産まれた意味が無い。

 

 ある種のマンガなどの作品のお約束として、男性を登場させてはいけないと言うものがある。

 女性同士の友情や青春の物語に男は不純物だからだ。場合によっては悪役として登場することもある。

 

 脇役でもなく、モブAでもなく、排除される為の不純物。

 それは今までのように息をひそめて惨めに生きるよりも最悪な、ゴミ同然の生だった。

 そんな、そんな人生は死んでも御免だった。

 

「やっぱり、あなたってあの子と似ているのね」

 その彼の表情を見て、彼女は笑っていた。

 

「期待しているわ。もっと私に期待させて。

 あなたは偶然だと言うけど、私はそうは思わない。運命は存在するのよ、私がこうして二度目の生を得たように」

 彼女は慈しむように、彼を見つめていた。

 

 この光景をカタリナが見ていたら、きっとこう言うのだろう。

 ああ、こうやってあなたは男を籠絡するんですね、と。

 

 

 ちなみに、この後彼女は小池少年が宿題をやっていないことを知ると、遊ぶことなく彼に勉強させることとなるのだった。

 貞淑さに期待するなとか言ってたのに、なんでこんなところは真面目なんだろうか、と思う小池だった。

 結局、彼は夜まで宿題を見てもらうことになり、一緒に夕飯を家族で食べて彼女は帰って行った。

 

 お兄ちゃんは今まで宿題を終わらせて新学期を迎えたことないのに、と妹は驚き、あの子は絶対に捕まえておくんだよ、と母親には激励され、お前の孫は見れないと思ってた、と父親にそんな酷いことを言われた。

 そんな感じの食卓で小池少年が引き攣った表情をしていたのを、魔女は眩しそうに見ていたのを彼は気付いていないのであった。

 

 

 




今回は魔女さんの話、に見せかけた小池君のお話。
彼の心境、本心についてです。
本当はもう少し踏み込んだ話をしようと思ったのですが、そこまでいかなかったので彼中心のお話になりました。
その辺りはそのうちデートでもさせながらでも良いでしょう。

次回はカタリナと、警察組を予定してます。

あと、ちょっとしたアンケートを取ります。
世界観を崩さない為に、これまで魔女さんの本名は未設定たったのですが、それだと色々と不便なので、ちょっと皆さんに意見を聞かせてほしいのです。
できればご協力くださると幸いです。

魔女さんの本名を本編で出した方が良いでしょうか?

  • やっぱり名前が有った方が良い。
  • 今まで通り、名前は呼ばれない方が良い。
  • 何かしらのあだ名で呼ぶようにする。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。