転生魔女さんの日常   作:やーなん

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先日活動報告でお伝えした通り、パソコンがぶっ壊れたのですが、ようやく代わりが届き、無事続きが書けるこの喜び!!
書きたいネタがある時に執筆できないもどかしさは筆舌しがたいです。
これからも新しい相棒とともに、この小説の続きを書いていきたいです!!
あと、私はあまり活動報告を書かないので、基本そちらには返信しません。悪しからず。


被虐について

 

「また、例の呪いか」

 警視庁の異能係にたむろしている化粧屋は、庁舎の休憩室にあるテレビでニュースを見ていた。

 

 テレビ画面には、リポーターが被害に遭った邸宅の前で状況を説明していた。

 邸宅は封鎖され防護服を着た警察官が出入りしている様子が見て取れる。

 

 被害現場の状況は見れないが、リポーターがスタジオにカメラを戻すと、同様の手口の呪術被害の影響に関する資料が映し出された。

 

 資料映像には、急速に腐敗して黒ずんだ場所が数例ほど提示された。

 そして更には被害者と思われる顔にモザイクが入った女性に浮かんだ痛々しい斑点や腫れの写真までもが画面に映し出されたのだ。

 

『警察によると、これらの呪術被害はツァーラアトと呼ばれる呪いであるとし、呪術の実行犯について捜査を進めるとの事です』

 と、ニュースキャスターが事件についてそう締めくくった。

 コメンテイターとして、偉い医者や歴史研究の教授などが症状や呪いの由来について解説していた。

 

 ここ2か月で、11件。

 化粧屋が関わった最初のツァーラアトの魔術事件を皮切りに、日本全国で同様の事件が散発するようになった。

 もはやツァーラアトは日本で周知される呪いになっていた。

 

 実行犯の検挙に、化粧屋も助言したりもしていた。

 その甲斐もあってか、今のところ呪術の実行犯は全て逮捕されている。

 

「私の協力で以前捕まえたこの間のツァーラアトの術者、結局犯行を認めなかったよな」

 異能係の事務室に戻ると、書類作成している伊藤刑事にそんな言葉を掛けた。

 

「そうだったな。だが、もうツァーラアトは周知された傷害の手段だ。

 犯人の見た目が変貌すると言う共通点がある以上、状況的に見て起訴に持っていける。

 あとは裁判所がどのような判決を下すかだが、それは俺たちのあずかり知ることじゃない」

 日本では前例のない判決に裁判官たちも頭を悩ませるだろうが、それは彼らの仕事であろう。

 こうして警察が異能犯罪に頭を悩ますのと同じように。

 

「ニュースでやってたぜ、一連の事件には首謀者が居る可能性があるって」

「……」

 伊藤刑事は、化粧屋に何も言わなかった。

 彼女はあくまで協力者であり、捜査状況の全てを伝えているわけではない。

 その辺りの線引きは彼女も理解していた。

 

「何者かが、それも私と同じ同業者が誰かしらの恨みを持つ人間に対してツァーラアトを教えている。

 伊藤ちゃんはどう思うよ?」

「化粧屋、お前がその首謀者の立場ならどうする?」

「そりゃあ保険を掛けるだろう。

 呪いを教える対価と同時に、余計な事をしゃべったら呪い殺すとかな」

「まあ、そう言うことだ」

「やっぱりな」

 呪いの実行犯たちは、誰一人として呪いを誰かに教わったかを供述しなかった。

 それだけは絶対に言えない、と実行犯の誰もが恐怖のままに語るのだ。

 実際に呪いと言う力を体験したからこそ、その恐怖はひとしおなのだろうと伊藤刑事は思った。

 

「これは個人的な見解だがな、たぶん実行犯の裏にいるのは専門家じゃない」

「……どういうことだ?」

 彼の興味を引けたことに、化粧屋はにやりと笑った。

 

「呪術の専門じゃないってことだ。

 ……うーん、例えるなら、この状況は野球の投手とバッターみたいなもんだ」

「まったく意味が分からんが」

「いやだから、ボールを投げて誰かに当てるのが呪術だとすると、投手はいつどんな球種の球を投げるかって予告して投げるようなもんなんだよ。

 まあここで一番ありえないのが、ゲームが成立していることなんだが」

 ここで一度、化粧屋は言葉を切って彼の反応を窺う。

 伊藤刑事は姿勢を彼女に向け、黙って言葉を促した。

 

「呪殺って何が怖いかっていうと、いつどこでどんな球が飛んでくるかわからないってことだろ? 

 本当の専門家は、呪いをちらつかせて脅したりなんてしないんだ。誰かを脅せる度胸があったら呪術師なんてやってない」

「お前のその体も遠隔操作されたモノらしいしな」

「そのことに触れないでくれない?」

 こほん、と露骨に化粧屋は咳払いした。

 

「対策本部じゃ目星はできてるのか?」

 ツァーラアトはその危険性から警視庁内でも対策本部が立てられるほどで、呪術の拡散をしている人物を検挙しようと躍起になっている。

 当然、その中に化粧屋は入れてもらえないが。

 

「……どのみち、お前抜きで会いに行くのは無謀か」

 伊藤刑事はそう言って、深く息を吐いた。

 

「渋谷の路上に時折姿を現すという呪術師が怪しい、ってことになっている」

「また渋谷か」

 渋谷といえば、この間のティフォンの件は化粧屋の記憶にも新しい。

 

 渋谷といえば元々占いの館など点在するオカルト、というよりスピリチュアルの激戦区である。

 異能者が現れ始めたここ十年でその数はもっと増えていると言っていいだろう。

 若者のデートスポットの一つに、占いの館がランクインするくらい昨今のオカルトブームの影響がこのあたりにも及んでいた。

 

「なんでも、ひと昔の路上の占い師みたいに客の話を聞いて、場合によっては相談相手の恨む相手に呪いを掛けるんだとか」

「ほーん、なんだか面白そうだな」

 その人物について化粧屋は興味を抱いたようだった。

 その様子を見て彼は少しホッとしたようだった。

 化粧屋は気まぐれで、そして第六感に優れている。

 

 この女が興味を持たないことには仕事は進まないし、彼女の不参加に限って狙ったように捜査は空振りに終わるのだ。

 だからこそ、伊藤刑事は予感がしていた。

 

 一連の事件が進展する予感が。

 

 

 

 

 §§§

 

 

 渋谷区のとある路上、先日ティフォンが暴れたスクランブル交差点からほど近い通りに占いの館は密集して存在していた。

 若者のファッションやトレンドを象徴するこの街において、それらが昨今のブームを象徴しているかのようであった。

 路上では怪しげな露天が胡散臭いパワーストーンを売っていたり、呼び子が占いの館のチラシを配ったりしていた。

 それらに紛れるように、観光客相手に食べ物の屋台なども点在しており、非常ににぎわいを見せていた。

 

 そんな中に、その女はぽつりと座っていた。

 

 小さな机を挟むように『あなたの恨みを晴らします』という立て看板を目の前に置いて、その陰鬱な女は人通りの多い通りの影のようにそこに目立たず存在していた。

 こんな場所にぽつんと存在していれば、多少誰かの興味を引こうものだが、彼女はまるで雑踏に溶け込んでいるかのように誰の視線も受けていなかった。

 

 だが時折、吸い寄せられるように思いつめた様子の客がその女の前に現れる。

 

「恨みのある相手を呪ってくれるって呪術師はあなたで合ってますか?」

「相談料は一回五千円だよ」

 相談者の問いに、若い女の声にしては深みのある声音が彼女に返した。

 一瞬、老婆のような年の離れた女性と話しているような気分になりながら、相談者は彼女の前に座った。

 

「誰を、どの程度、貶めたいんだい?」

 老婆のような雰囲気を持つその女は、相談者に問いかけた。

 

「そ、それは、どこまでやっていただけるってことですか?」

 不意に相談者の表情が歪み、目の前の奇妙な女に問い返す。

 その顔には罪悪感や目の前の存在に対する恐怖も入り混じっていた。

 

「どこまででも。あたしゃただのアンテナみたいなもんさ。

 お前さんの恨みが電波となってあたしが受信し、相手に呪いの電波に変換して発信するのさ」

 だから代償はお前が払うんだ、と意地悪く笑う。

 

「だ、代償って、どのくらいですか?」

「以前、なんかのスポーツの試合の最中に腕を再起不能の事故に遭わせられた依頼人は、自分をそうした相手に同じだけの痛みを与えたい、とあたしに頼んできた。

 これはほとんど金銭的な代償で済んだ。だが相手に及ぼす影響が大きければ大きいほど、残りの人生にどれだけ影響を与えるかで支払う代償も大きくなりがちだ」

「……」

 それを聞いて、相談者はうつむいてしまった。

 

「引き返すのなら、今だよ」

「……いえ、お願いします」

「なら、手を出してみな」

 相談者は、言われるままに彼女に手のひらを差し出した。

 彼女が相談者の手のひらを合わせるように、己の片手を置いた。

 

 その瞬間だった。相談者の全身にゾッとするような感覚が走り──。

 

 

「ああ、ああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 そんな感覚を忘れてしまいそうなほどの絶叫が、目の前で発せられた。

 

「ど、どうしたんですか!?」

 相談者は目の前で叫びだした呪術師に驚いたが、周囲の人間は誰も二人に意識を向けなかった。

 そして、がしっ、と彼女は相談者の右手を掴んだ。

 

「ひッ」

 その鬼気迫る恐ろし気な様子に、相談者は引きつったような声を上げたが。

 

「こッ、ここに、火傷の跡があるんだろうぅ?」

 呪術師は両目からだらだらと涙を流しながら、怒りと悲しみが入り混じりながらも労わるように精一杯の優しさを表現しようと無理やり笑っていた。

 

「そしてその背中にも、躾と称して何度も何度も、何度も何度も!!」

 言葉を重ねるたびに、目の前の女に恨み辛みが積み重なっていく。

 

「煙草の火を押し付けられたんだねぇ。可哀そうに。

 それも、実の母親が!! なんて、なんて度し難い!!」

 まだ相談の内容を言っていないにも関わらず、すべて見通すような呪術師の言葉に相談者は先ほどとはまた別種の恐ろしさに固まるほかなかった。

 

「ああ痛い、痛い痛い痛い!!」

 呪術師は真夏だというのに長袖を着ている相談者にあると察した火傷の跡がある場所を、まるで自分も怪我を負っているかのように振る舞い、悶え苦しんでいた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、安心しな」

 やがてそれも落ち着いたのか、彼女は相談者の手を両手で優しく握った。

 

「その痛みを、私が同じだけ与えてやろう」

「ち、違うんです、母はちゃんと虐待は止めてくれたんです。周りの人との協力もあって、ずっといい母親でいてくれました。

 で、でも、最近アルツハイマーに掛って、介護をするうちに昔の母にだんだんと戻って行って……。私もう、耐えられなくて」

「うんうん、わかるよ。親はどうあっても憎み切れないよねぇ」

 相談者は明らかに自分よりもかなり年下であるはずの呪術師におのれの心境を吐露し、慰められていた。

 

「これを使いな」

「えッ?」

 呪術師はそっと彼女の目の前に小瓶を置いた。

 その中身は、毒々しい液体で満たされていた。

 

「頭の中を真っ白にする薬さ。

 お前が母親の面倒をずっと見ると約束するなら、これをお前にやろう。

 ただし、一度使ったら二度と戻らないよ。どんなに嫌だろうと、もう二度と会話ができなくなる。それでもいいなら、これを持っていきな」

「ど、毒ですか?」

「科学的にはただの漢方薬と大差ないよ」

 呪術師の言葉に、相談者は意を決したようにその小瓶を手に取った。

 

「自分でやるんだね。私がやってやってもよかったんだが。まあその場合は別料金だったが」

「私の、お母さんのことですから」

「そうかい。じゃあ相談料は五千円だよ」

 相談者は財布を取り出すと五千円札を置いて、彼女に深々と頭を下げて去って行った。

 

 

「おいおい、いろいろとヤベェぞ、あいつ」

 そんな彼女の仕事の様子を、遠目から伊藤刑事と化粧屋は見ていた。

 

「誰かと思ったら、“被虐の”じゃねぇか」

「まさかと思うが知り合いか?」

「そのまさかだ。当てが外れたな。あいつは誰かに呪術を教えてやらせたりなんてしない」

 そう言って化粧屋はずけずけと歩き出す。

 おい、と呼び止める伊藤刑事の声も空しく、彼女は呪術師の前の椅子に座った。

 

「よう、被虐。私だ、化粧屋だよ」

 化粧屋がそう名乗ると、被虐と呼ばれた女は鼻を鳴らした。

 

「誰かと思ったら、商売敵じゃないか。

 こそこそこっちの様子を窺ってると思ったら、お前さんかい」

 彼女は不機嫌そうにそう吐き捨てた。

 

「商売敵って、需要は被ってないだろ?」

「よく言う。前世じゃ気に入った相手の復讐をよく手伝ってたじゃないか」

「まあ、死者の周りなんて怨念が渦巻くもんだしな」

 と、知己である二人がそんな雑談をしていると。

 

「お前、知り合いの同業者から大体嫌われてるのな」

 伊藤刑事がそのやり取りを見てあきれたようにそう言った。

 

「そちらさんは?」

「ああ、俺は警視庁の異能係のもんだ」

 彼は警察手帳を見せて、そう名乗った。

 

「警察? 化粧屋、お前さん今度は何をやってるんだい?」

「今は警察に入り浸って手伝ってやってるんだ。存外に面白くてなこれが」

「お前のような奴が? 警察に? 馬鹿も休み休み言いなよ」

「一応、本当なんです」

 伊藤刑事がうなずくと、気持ちの悪いものを見る目で呪術師は化粧屋を見た。

 

「……それで、いったいなんの用さね」

「昨今、日本各地で起きているツァーラアト事件のことについてなんだが」

「ああ、あの三流が起こしてる事件だろう? 

 それがどうしたんだい」

 彼女はまさか自分が疑われているなどと思っていないのか、そんな風に返した。

 

「見たところ呪術の専門家のようなので、あなたから見て一連の事件についてわかることがあれば、と」

 そこは伊藤刑事も熟練の刑事だった。

 本当のことを言わずに情報を引き出そうと試みた。

 

「呪術の専門っていうなら、化粧屋だってそうじゃないか」

「こいつは庁内でも信用できないって感じなんで」

「おい」

「まあ、それは仕方ないか」

「おい!!」

 化粧屋の自己主張を無視しつつ、話を進める二人。

 

「この間のキマイラの一件といい、まあ、あの事件には迷惑しているのさ。

 話ぐらいならしてやってもいい」

 と、呪術師の了解を取れたので伊藤刑事は質問をすることにした。

 

「三流、とおっしゃいましたが、なぜそう思うのですか?」

「ははッ、呪術は暗殺じゃないんだよ。暗殺ってのは過程はともかく結果は表に出るだろう? 

 本来の呪殺はそうじゃない。呪殺と気づかれないように殺すから呪殺なんだ。

 呪殺とわかるような殺しや被害は三流も三流だね」

 呪術師は肩を竦めてそう語った。

 

「説明のわかりやすさは彼女のほうが上だな」

「うるせぇ」

「ではこういったことをする輩に心当たりはありますか?」

「あると思うのかい?」

 伊藤刑事の言葉に、彼女は皮肉気に返した。

 

「伊藤ちゃんはな、お前を疑ってたんだよ。こんなところで公然と呪術を請け負ってるからってな」

「おい」

 構ってもらえなくて不満なのか、化粧屋がそんなことを言い出すので伊藤刑事が咎めるように視線を向けるが。

 

「あッ、ははは!! 我らが偉大なるグロースムッターの名に懸けてあたしじゃないよ」

 疑われているというのに、呪術師は軽く笑い飛ばした。

 

「ニュースじゃ呪術を素人にやらせて、自分は高みの見物をしてるんだろう? 

 疑われたままじゃ座りも悪いし、興が乗ったしなんなら手伝ってあげようか?」

「え? よろしいんですか?」

「無実を証明してやろうってだけさ」

 そうして、二人は思わぬ協力者を得ることとなったのだった。

 

 

 

 

 




今回初登場の呪術師、通称“被虐”は当然ながらあの人の関係者です。
そのあたりも書きたいので登場させました。

というか、出したいキャラクターが多すぎてつらい。
新キャラを出して話を続けるマンガみたいになるのはいけないのですが、それでも個性あるキャラをどんどん出したいという欲が抑えられません!!

アンケートの結果は断トツで魔女さんの本名はいらないとのことでした。
これからは魔女さんの描写は工夫しようと思います。

ではまた、次回!!
彼女らの活躍をご期待ください。

次回は、ある伝説の剣が登場する予定です。

魔女さんの本名を本編で出した方が良いでしょうか?

  • やっぱり名前が有った方が良い。
  • 今まで通り、名前は呼ばれない方が良い。
  • 何かしらのあだ名で呼ぶようにする。
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